無色の加速能力者《バーストリンカー》   作:チャレンジャー

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Phase11

「おかえりなさい、お兄ちゃん!」

 

........誰だ?この女の子。

 

ワタクシ、桐嶋遊佑が加速世界に復帰してからおよそ3ヶ月。結構寒い時期である。まあ、目の前の可愛らしい赤毛の女子小学生には大して関係ないが。

 

「ずーっと待ってたんだよ。お兄ちゃん帰ってくるのが遅かったんだもん!」

 

「あ、ああ......」

 

思わず返事をしたが、今現在困ったような顔で俺の背中に腕を回して抱きつき、見上げてくる見た目10歳くらいの女の子に見覚えはない。

 

「あ、自己紹介がまだだったね。私、お兄ちゃんとはハトコ同士なんです。」

 

ああ、ハトコね。それなら納得だ。俺の親は海外で働いていて、ちょいちょい親戚の人が来たりするのだ。

 

「今、クッキー焼いてるの。お兄ちゃんに食べてほしくって!」

 

「..........」

 

可愛いな。たぶん喜んでもらおうと頑張ってもてなそうとしてる健気な小学生、っていうのはこういう子のことを言うんだろうな。

 

「どうしたの?お兄ちゃん?」

 

「ああ、いや何でもない。........えっと、ごめん。俺キミの名前知らないんだけど..........」

 

「あっ、ごめんなさい。私、サイトウ トモコ。小学五年です!」

 

その子はパアッと効果音が出そうなほどの笑顔で言った。

 

「俺は桐嶋遊佑。まあ、なんでも好きな呼び方でいいよ。」

 

「えーっと......じゃあユウスケお兄ちゃんって呼んでもいいですか!?」

 

「なっ......ええ!?」

 

いやいや、俺はそんな呼び方されたことはあんまり無いぞ!!

 

「ダメ......ですか......?」

 

涙目で見上げられた。ズルいぞ、それは。

 

「い、いいよ。呼んでも。」

 

「わあーい!ありがとうございます!!ユウスケお兄ちゃん!!」

 

今までで最大級の笑顔で、その子が言い終わるのと同時にオーブンレンジの音が響いた。

 

「あ!クッキー今できたみたい。ちょっと待っててね。」

 

さっきから『その子』などと言っているが、こっちもちゃんと『トモコちゃん』というのが筋だろう。

 

..........いささか恥ずかしいところもあるが。なんせ女子小学生相手と話すことなどほとんどないのだ。

 

「はい、めしあがれ。」

 

キツネ色に焼き上がり、香ばしい臭いを漂わせるクッキーが数十個大きめの白い皿に乗せられて運ばれてきた。

 

「い、いただきます。」

 

ぱくっ。心地よい食感と優しい甘さが口の中に広がる。

 

「どう?味は。」

 

「ああ、美味しいよ。ありがとう。」

 

「えへへ、こちら こそ。喜んでもらえて嬉しいなあ。」

 

可愛いなあ、3歳年下の妹か......ありだな。うん。

 

「そうだ!お兄ちゃん、中学校ってどんな感じなのかな?あたし知りたいな、ユウスケお兄ちゃんのこと。」

 

すると、トモコちゃんは椅子から下りて俺の膝の上に座った。

マジか──

俺は結構細身だけど、背も170後半なので結構身体は大きいほうである。すると、小学5年生の女子というのは本当に幼く感じられた。膝の上に座ってこっちを振り向いたまま上目遣いで見てくる。

 

ちなみに俺には現在交際中の女子がいる。黒雪姫、俺は『姫』と読んでいる。俺の、彼女の好きなところの1つに『嫉妬する』というのがある。言ってしまえば彼女は相当一途なのだ。

ゆえに、浮気は勿論のこと、俺が他の女子と行動を共にしたことに妬かれたこともあった(付き合ってから気付いたが)。

 

だけどまあ、ハトコですし。というかほぼ実妹的存在に見えてきた。これなら『妹を可愛がる良き兄』で通る。あの俺の恋人兼《親》も流石に身内の女子に嫉妬しないだろう。

 

などと事前に弁解の術を立てて、俺はトモコちゃんとの会話を楽しんだ。

 

 

 

「ふぅ」

 

それから、夕飯は彼女の用意してくれていた料理をいただいた。それからも話は続いたが、俺にはやはり拭い去れない不安、というか疑問があった。

 

失礼かもしれないが、俺の全く見覚えのない女子小学生が突然家にやってきてお兄ちゃん呼びで親しげに接してきた、か。

いや、これは杞憂だろう。彼女を覚えていないのは俺の記憶力が悪いのか、あるいは外見がガラッと変わったのかで、お兄ちゃん呼びなのは彼女が俺と親しくなろうという気持ちの表れかもしれない。簡単に人を疑うものじゃないな。

 

俺は風呂に15分くらいサッサと入って自室に戻った。暇なので、ニューロリンカーで動画を見ていたが、そこでふと思い出した。

 

確か俺の部屋には彼女の、もとい親戚で集まって取った紙の写真が本棚のアルバムにあるのだ。レトロなカメラで撮るのもいいじゃないかみたいなノリで撮っていたのだ。

俺はベッドで仰向けになっていた身体を起こして本棚のアルバムを取り、ページをめくる。

 

えーっと、サイトウ、サイトウ.........

あ、このページからか。

その時──俺がサイトウ家の家族写真を見ようとした時、

 

ガチャッ

 

「お兄ちゃん、起きてる?」

 

「!?」

 

ドアが開いて誰かが入ってきた。トモコちゃんだ。というか、風呂上がりなのだろうか?髪を下ろしてそれが若干塗れている。しかも、驚くべきはその格好だ。前にいくつかのボタンがついたワンピースみたいなパジャマを着ていた。

え?それ一枚?オンリーワン?いくらお兄ちゃんでも見せていい服と悪い服があるのだよ。けしからんですねえ。

 

「ああ、どうしたの?」

 

するとトモコちゃんはモジモジしながら言ってのけた。

 

「お兄ちゃん、一緒に寝てもいいかな?」

 

「んなあ!!」

 

と叫びたくなったが、止めた。

いやいやいや、どこのギャルゲーの主人公だ。もしくはハーレム系主人公。

 

トモコちゃんよ。そういう言葉は将来──あと10年後くらいまでに取っておきなさい。誰も盗らないから。ここは兄として優しく諭して教え導くのが義務だろうな。そうしよう。

 

「トモコちゃん、そういう言葉は....」

 

と、そこで止まった。なぜなら俺がドギマギしているうちに、サイトウ家のアルバムのサイトウトモコなる女の子の顔を見たからだ。目の位置を変えずに、写真のサイトウトモコと目の前のサイトウトモコを名乗る女の子を見比べる。

 

「あの、ええとさ。キミ、本当にトモコちゃん?」

 

「?..........どーゆう意味?」

 

可愛らしく小首を傾げて聞いてきたが、..........俺には大して効かないのだ。

たぶん。

 

「これ。さすがに、5年前っていってもこの子とキミは全然似てない。」

 

そう言って俺はアルバムを見せる。当然の如く、そこには目の前の少女とはかけ離れた《サイトウトモコ》なる人物の写真があった。今時紙の写真など珍しいが。

 

「まさか、バーストリンカー..........か?」

 

「..........」

 

しばしの沈黙。

 

「チッ、この家の写真はちゃんと偽装したってのによ。まさか紙の写真まで漁りやがるとは、見かけによらず慎重なんだな。アンタ。」

 

さっきとは全く違う。めっちゃ上から目線の口調だ。おお、怖い怖い。

 

「そりゃあ、ご苦労なこったな。無駄だったけど。」

 

そういえばリアルで攻撃とか、久しぶりだな。いつもならボコボコにしてやるところだが、さすがに女子小学生にそれはできない。

 

「まあ、その様子だと俺のアバターネームも押さえてあるんだろうな。でも、これくらいで俺の《親》──純色の七王の1人を引っかけようとするとか、驚きを通り越して呆れるな。

確かに、マトモに戦って適わないならリアルでってのはありがちなことだけど、ハッキリ言って詰めが甘いぜ。」

 

「おい。」

 

急に凄い剣幕で睨んできた。俺はさっきから胡座をかいて座っているので、その子は俺をようやく見下ろせるくらいだが。

 

「まさかアンタ、あたしが黒の王にマトモにやりあっても勝てないからコソコソこんなことしてると思ってんのか!?」

 

「は?違うの?」

 

「あったりめーだ!ボケ!いいぜ!この《スカーレット・レイン》の力を見せてやるよ!」

 

すると、その子は懐からニューロリンカーを取り出し首に装着。電源を入れた。

 

「バースト・リンク!!」




久々に書いたら結構時間かかりますね。にしても本当に亀更新ですいません。

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