(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「アリティアの戦い」4

 橋が燃え落ちたことで、こちら側に渡っていた敵兵は孤立した。ミネルバたちが奴らを取り囲んで追い詰めているのが見える。

 俺たちは泳いで海岸にたどりつくと、ずぶ濡れのまま、大の字になって地面に寝転がった。手下たちも同じだ。さすがに舟を運んで、漕いで、さらに泳いで、ってのはきつい。

 

 東だけじゃなく、空全体が徐々に明るくなってくる。太陽をぼんやり眺めていると、足音がしてミネルバが現れた。パオラとカチュアも控えている。

 

「ガザック殿」

 

 ミネルバは笑顔で俺のそばに膝をついた。あっ、この目はスイッチが入った目だ。

 

「やはり、あなたはすばらしい指揮官だ。あらためて感服した」

 

 俺はむずがゆくなって、パオラとカチュアに視線で助けを求める。二人は複雑というか微妙な表情をしていたが、ミネルバを止める気配はない。

 仕方がないので、ミネルバの太腿に手を伸ばした。ところが、触ったところでやんわりと手を押さえられる。ささやくように、ミネルバは頬を赤くしながら俺をたしなめた。

 

「部下の前だ。嫌ではないが、今は慎んでくれ」

 

 おっ、可愛い。堂々とした態度を崩さないでいようとしているところが特に。

 もうちょっとからかってやりたかったが、まだ戦いは終わってねえ。動ける程度には持ち直したしな。

 俺は立ちあがった。手下たちにも号令をかける。

 対岸から鬨の声が聞こえたのは、その時だった。何だ、まだ何かあるのか?

 

「パオラ! カチュア!」

 

 ミネルバが緊張した表情で二人に指示を出す。三姉妹の長女と次女はすぐに頷いて、駆けていった。

 

「ペガサスで上空から様子を見てもらうのか」

 

「明るくなってきたからな。弓矢の届かないところからでも、見えるものはあるだろう」

 

 ミネルバは答えた。俺たちは急いで舟橋をかけられていた場所まで走る。

 対岸を見ると、戦いが繰り広げられていた。グルニア軍と、どこかよその軍がぶつかりあっている。

 

「もしかしたら、アリティアの人間ではないか」

 

 ミネルバが考え深げに言った。

 そういえば、アリティアの民をまとめているリーダーがいるはず、とニーナが言ってたな。

 村を閉ざしていたのも、ただ俺たちに非協力的ってだけじゃなく、そういう態度をとることでグルニアを油断させていた、と考えることもできる。

 パオラとカチュアが俺たちの前に降りてきた。

 

「どこの所属かはわかりませんが、民兵の集団がグルニア軍と戦っています」

 

 パオラが慎重な口調で言った。ミネルバは納得したように頷く。

 

「民兵ということは、やはりアリティアの人間か」

 

「はい。それから、民兵たちの中にとても強いパラディンが一人いて、グルニア兵を次々に打ち倒しています」

 

 カチュアが報告する。

 へえ。ここでパラディンっていったら、あいつしかいねえな。

 

「あの二つ並んだ村の中に潜んで、チャンスをうかがっていたってわけか。で、グルニア軍が劣勢になったのを見て攻撃を仕掛けたと」

 

「そうだろうな。ガザック殿、どうする?」

 

 ミネルバに聞かれて、俺は笑った。

 

「お前たちは、いつでも飛び立てるようにしておいてくれ。敵のホースメンが一騎残らず倒れたら、助けに行ってもいい。それまでは高みの見物だ」

 

 それからまもなく決着はついた。民兵の集団がグルニア兵を蹴散らしたんだ。

 そして、向こう岸から一艘の舟がこちらへ向かってくる。その舟には漕ぎ手を含めて四、五人の男がいたが、先頭に立っているのは、長い金髪の、遠目にも顔色の悪い男だった。

 うん、アランだ。まとってる鎧には返り血がこびりついている。

 

 やがて、アランたちはこっちの岸にたどり着いた。アランひとりだけが俺の前まで歩いてくる。腰には剣を差しているが、抜く気配はない。

 ミネルバたちを警戒するように見たあと、アランは俺に言った。

 

「私はアラン。アリティア解放同盟のリーダーを務めています」

 

 解放同盟? 何だそりゃ。

 

「俺はガザック。アカネイア同盟軍の指揮官だ」

 

 ミネルバに代わりに名のらせようと思ったが、こいつだけならいきなり斬りつけてくることもないだろうと考えて、俺は名のった。

 アランは険しい顔つきで俺を睨みつける。

 

「あなた、いや、貴様が……マルス王子を殺害したという、あのガザックか。破壊と暴虐と残忍さの象徴と呼ばれる……」

 

 アランは息を詰まらせて、胸のあたりをおさえた。怒りをおさえてるんじゃなくて痛みをこらえてるんじゃねえか、これ。

 

「マルス王子を殺したのはたしかに俺だ。それは否定しねえ。だが、武器を持たない王子を一方的になぶったわけじゃねえぞ。戦場で、やるか、やられるかだった。おとなしく王子に殺されなかったのが悪いというなら、お前らと話すことは何もねえ」

 

 突き放すように、俺は言った。だが、かつて騎士団の隊長だったこともあるというアランなら、理解できるかもという期待はあった。

 

「……だから、納得しろと?」

 

「好きにしろ。ただ、お前らの要求が何なのかは知らねえが、その怒りを我慢して交渉したいというなら、聞くだけ聞いてやる」

 

 正直、相手をするのは面倒くせえ。そもそも、これってニーナの担当だろ。けど、あいつ今灯台の中にいるからなあ。呼びに行くの面倒だし。

 

 アランは十秒近く迷っていたが、割り切ったらしい。俺でさえ心配してしまうほどの咳をときどきしながら、説明した。

 

「コーネリアス王とリーザ王妃が非命に倒れ、この地をドルーアの者どもに支配されてから、私たちは圧政に苦しんでいました……」

 

 そういや王宮の玉座でふんぞり返ってる魔竜モーゼスって、罪のない多くの人々を殺した残虐な男って説明されてたっけか。

 で、元騎士団長のアランは有志を集めてレジスタンス「アリティア解放同盟」を結成し、反撃の機会をうかがっていた。

 なるほど、占領下のアカネイアでジョルジュがやっていたことを、ここではアランがやっていたわけか。

 マルスの死を知らされても、コーネリアスとマルスの遺志を継いで圧政者を倒せ、という感じで、アラン達は何とか今までやっていた。

 そこへ俺たちがやってきて、マケドニア軍とグルニア軍を蹴散らした。

 今がチャンスとばかりに、アラン達はグルニア軍を叩き潰し、アリティアの独立のために接触を図ってきたというわけだ。

 

「王宮には、まだドルーアの者たちが残っているのでしょう。私たちも戦いに加えてくれませんか」

 

 真っ青から真っ白になった顔で、アランが言った。意気込みは買うし、パラディンの加入はありがたいんだが、こいつ戦ってる途中で吐血しそう。英雄戦争後に病死したしな……。

 ミネルバが「どうする?」と小声で聞いてきた。

 

「罠の可能性も考えられるが」

 

「……考えている時間はねえ。こいつだけ連れていく」

 

 俺はそう答えると、アランを見た。

 

「俺たちはこれから王宮に突入する。一刻を争う事態だってのはわかるな? お前だけ来い。それで、ひとまずお前らの顔を立ててやる。詳しい話は王宮を取り戻したあと、ニーナ王女とやってくれ」

 

 アランは頷いた。そこでまた咳きこむ。額に汗が浮かんでいた。

 本当に大丈夫か、こいつ。この戦争中にぽっくりいくんじゃないだろうな。

 王宮を奪還するまでつきあわせて、連れていくのはやめるか。アリティアをまとめるやつは必要だし、うん、そうしよう。

 

 

 ミネルバたちに砦を任せ、俺は手下たちを連れて南の島に渡った。

 海岸近くに、マチスの姿が見えた。馬に乗って、こちらを見ている。

 どうやら、ここにいるグルニア軍はかたづけたらしい。

 俺は軽く手を振って、マチスのもとへ歩いていった。

 

「おう、ご苦労さん」

 

 俺は笑いながら言った。

 

「おたがいひでえ格好だなあ。こっちはだいたいかたづいた。あとは城門を守るジェネラルを討ったら城内に突入だ。今度は馬から下りたマケドニア騎士の戦いぶりを見せてもらうぜ」

 

 マチスは俺を見ていない。

 その顔は前を向いたまま、微動だにしなかった。

 

「王宮を取り返したら、褒美を弾んでやるよ。カシムやリカードとつるんで飲み明かすのもいいが、レナに何か買ってやったらどうだ。なあ、おい、何か言えよ……」

 

 マチスは死んでいた。

 顔も体も血まみれで、手に槍を持ち、馬に乗ったまま。マケドニア騎士の意地を見せつけるように。

 戦いで乱れた赤い髪だけが、風を受けてそよいでいる。

 

「無茶はするなと言っただろうが……」

 

 震える俺の声は、海岸を吹き抜ける風にかき消された。

 成長率も低ければ、支援効果もない、通常なら二軍のバカ兄貴。

 だが、オレルアンで味方にしてから、こいつは間違いなく主力だった。

 他にソシアルナイトがいなかったから、騎兵が必要な状況ではこいつを使い続けた。そして、こいつはこいつなりに何度か死にかけながらも、役目を果たしてきた。

 

 マケドニアで貴族としていいかげんな日々を過ごすはずだっただろう? お前なりにレナを心配して、守るつもりだっただろう?

 なんで、こんなところで倒れやがった。

 なんで、俺はこんなに悲しんでいる。

 分かってる。こいつが戦友だったからだ。オレルアンから今日まで、同じ戦場を駆け続けてきたからだ。こいつの目の前でレナをからかって怒らせたことだって何度もあった。

 こんなところで逝っちまうのか。

 そのとき、マチスが乗っている馬がぶるるると鼻を鳴らした。

 我に返った俺は、その馬を見つめる。こいつもぼろぼろだった。

 

「ああ……。ご主人様と一緒に埋めてやる」

 

 俺は吐き捨てるように言った。

 

 

 この南の島にいたグルニア軍はパラディンが1ユニット、ソシアルナイトが6ユニット、ホースメンが3ユニットだったんだが、マチスはそのパラディンと戦って、半ば相打ちになったのだそうだ。

 それまでにマチスはナイトキラーを振るってソシアルナイトをかたづけていたんだが、火竜状態のバヌトゥが敵のパラディンから予想外のダメージをくらって怯んだのを見て、飛びこんでいったらしい。

 ミディアやシーマ、傭兵組はホースメンやソシアルナイトの相手に手一杯で、マチスの援護にまで手が回らなかった。

「すまない」と謝ってきたミディアたちに、俺は手を振った。

 

「マチスが死んだのはお前らのせいじゃねえ」

 

 俺のせいか、でなけりゃマチス自身のせいだ。戦争は好きじゃない、って、オレルアンでレナと再会したときに言ってたじゃねえか。

 

 マチスの死体をララベルに任せると、俺はレナを呼んだ。

 兄の死を告げられたレナは驚いたように目を丸くして、しばらくの間一言も発しなかった。やがてうつむいて「そうですか……」とだけ言った。

 

「お前にゃ悪いが、埋葬は後だ」

 

 俺はそっけなく告げた。まだ王宮の中に敵が残っている。そして、レナを外したらマリア一人が回復治療に奔走することになる。傷薬も聖水もあるが、それでも不安は残る。

 

「……いえ、大丈夫です」

 

 顔を上げて、毅然とした態度でレナは言った。

 

「みんなの傷を癒やすことが、何より兄さんへの手向けになりますから。マチス兄さんは、本当に、この軍を、みんなを、大切に思って……思って……」

 

 最後の方は、ほとんど声になっていなかった。

 俺はレナを抱き寄せる。身じろぎするレナの耳元にささやいた。

 

「俺がお前をこうするのなんて、いつものことだろうが」

 

 不思議に思うやつなんていやしねえ。

 レナは最初、耐えようとしていたみたいだったが、それもごく短い間だった。やがて、俺の胸の中ですすり泣く声が聞こえはじめた。

 

 

 レナをマリアに連れていかせると、俺はニーナと会って状況を確認する。ミディアからも聞いてはいたが、ここの敵は一掃したということだった。

 

「王宮に向かうとして、橋をどうしましょうか」

 

「漁師が使う舟をかき集めろ」

 

 グルニア軍が使った手を、さっそく使わせてもらうことにする。敵に、海賊と同じ精度で海流を読めるやつがいるとは思えねえしな。

 灯台に残っていた舟をかき集め、縄や鎖でつないで、火竜状態のバヌトゥにまとめて運ばせる。こいつは楽でいい。

 そうして俺たちは舟橋をつくり、王宮のある島に渡った。

 

「アカネイアの敗残兵ども、よく生き残っていたものだな。だが、このわしがいる限り、城には入らせぬぞ!」

 

 王宮を囲む城壁の上に立って、ホルスタットは勢いよく叫ぶ。

 俺はやつの口上を鼻で笑い、リンダとエステベス、それからカシムを呼んで攻撃を命じた。ホルスタットはキラーランス持ちだからな。接近戦は避けたい。

 リンダとエステベスがエルファイアーとサンダーを叩きこむ。そうしてホルスタットの体勢を崩したところに、銀の弓を持ったカシムが矢を射放ち、ホルスタットの顔を貫いた。

 

「カミュ将軍、あとは頼んだぞ……」

 

 そんな言葉を残して、ホルスタットは城壁から落ちた。

 

「突入する!」

 

 俺の叫び声に、兵たちが武器を突きあげて応えた。




ガザック軍編成
ガザック    シーダ    アイルトン
海賊      カシム    レナ
ニーナ     リカード   バヌトゥ
エステベス   マリア    ミネルバ
リンダ     ララベル   ミディア
ワインバーグ  パオラ    カチュア
シーマ     チェイニー

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