(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
十三章のスタート地点は森と草原の広がる一帯だ。
アリティアの王宮の回りは複数の島で構成されている。それぞれの島を橋でつないで、行き来ができるようにしているわけだ。
ゲームの枠の外で考えた場合、この地形でもっとも効果的なのは火攻めだ。
「敵の意図はこうだ。四騎一組で油を満タンにした樽を運び、落とす。これが第一陣。次に第二陣が飛んできて、火のついた松明を大量に落とす。これとは別に、北と東にそれぞれ一部隊を飛ばして、橋を落とす」
そう、あの樽の中に入っているのは、おそらく油だ。
橋を落としちまえば動きを封じられるし、草原と森だらけだから火を放てばよく燃える。包囲殲滅よりよほど楽だ。皇国の○護者やドリ○ターズを思いだす。
こいつは俺のミスだ。
そもそも、それだけの大軍を序盤から展開できる時点で、ゲームの枠を外れてると理解しておくべきだった。
ゲームだと、マップ上に出せる敵の数に上限がある。
次々に湧いて出る援軍を倒さずに適当に足止めしていると、あるタイミングで援軍が出てこなくなるんだ。そこから敵を倒すと、倒れた分だけ現れるようになるので、たぶん処理能力の限界に達したということなんだろう。
それを知っていたのに、俺はゲームの枠に捕らわれていた。
誰もが顔を真っ青にして、一言もない。絶望ムードだ。
「俺たちは南へ向かう」
地図を広げて、俺は全員を見回す。暗い気分を吹き飛ばすには指示を出すのが一番だ。
「南の橋の先にでかい建物があるだろう。あれは灯台だ。こいつを奪って、南回りに王宮を目指す」
村から得られた情報だと、こいつは牢屋ってことだったが、それにしては大きすぎると思っていた。詳しく聞いてみたら、灯台ってことだった。
灯台といっても、こいつは周辺の海域を巡回するための拠点も兼ねている。また、嵐のときなんかには船や、周辺住民の避難場所にもなっている。牢屋としても使えるわけだ。
他に、簡単な船の修理もできるらしいが、大型船は一隻残らずグルニアとマケドニアに持っていかれちまったとか。小さな舟なら残っているそうだが。
まあ、こっちとしては、とにかく火攻めを避けられればいい。
「ドラゴンナイトとペガサスナイトへの対処はどうする? すぐに追いつかれるぞ」
ミディアが緊張を隠せない顔で聞いてきた。
「アイルトンとカシム、あとバヌトゥに時間稼ぎをさせる。その間に灯台へ急げ」
「私たちはどうすればいい?」
ミネルバが俺を見る。俺は、この島と灯台をつなぐ橋を指さした。
「おまえはパオラとカチュア、それからシーダを連れて、この橋に向かってくれ。傷薬はいくらでも持っていっていいが、死守だ。何としてでも、やつらに橋を落とさせるな」
「承知した」
俺はシーマとミディア、マチスを見る。
「お前らはレナやリンダたちを守って南下しろ。ミディアとマチス、それから傭兵組は灯台に入ったら、そのまま南側へ抜けろ。南側の橋を確保して、やはり死守だ。南側の橋を確保できたら、北側は捨ててもいい」
「わかった。マケドニアは騎兵の国でもあるってところを見せてやる!」
マチスが宣誓するように言った。
そういやレナから聞いたんだが、パオラとカチュアがうちに加わったのが、マチスにはかなり刺激になったらしい。
マケドニアっていったら竜騎士団と天馬騎士団ってイメージだもんな。オレルアンを占領していたマケドニア軍は騎兵中心だったし、決して弱くはねえんだが。
ともかく、マチスの台詞でいくらか雰囲気は明るくなった。そうなることも狙っての台詞なんだろう。いい感じに成長している。
「私もアカネイアの騎士として、武勲を譲るつもりはない」
ミディアが対抗するように胸を張る。
あ、こいつら、カダインでは全然出番がなかったから戦意が溜まってるのか。二人とも、同盟軍の中じゃ唯一のマケドニア騎士と、アカネイア騎士だからな。
「グルニア軍の数は少なくねえ。無茶はするなよ」
二人にそう言ってから、俺はシーマを見た。こいつはさっきから黙ってるが、びびってるんだろうか。
「調子はどうだ?」
「問題ない。私の初陣の相手は、あなたたちだったからな。それに比べれば、数が多かろうと怖くはない」
言うねえ。いい度胸だ。何人かが好意的なふうに笑った。
雰囲気がよくなったところで、俺は全員を見回す。
「おっぱじめるぞ」
俺たちが行動を開始すると、それを待っていたかのように海の向こうのペガサスナイトたちがいっせいに飛び立った。
空が、ペガサスたちで白く染まる。
攻められてるんでなきゃ壮観な眺めだろうが、悪夢としか思えねえ。羽ばたきがここまで聞こえてきそうだ。
俺は海岸近くにいる。そばにいるのはアイルトンとカシムのハンターユニット。それからバヌトゥのジジイ。
そして、俺たちのまわりには一メートルの高さの台がいくつも置かれ、その上に薪が積んであった。
樽をぶら下げたペガサスナイトの軍勢がこちらへ向かってくる。やつらが十分に近づいてきたところで、俺は命じた。
「やれ」
ハンターたちが台の上の薪に次々と火をつける。大量の煙がたちのぼった。
煙の壁が、やつらの視界を遮る。ハンターたちがいっせいに矢を放った。
煙と煙のわずかな隙間から、次々にペガサスナイトたちが海へ落ちていくのが見える。
「ざまあみやがれ」
ミネルバたちが驚いていたからもしかしてと思ったが、この火攻めはマケドニアにとっても新戦術なんだろう。だから、せいぜい十数本の煙ぐらいで立ち往生する。動きが鈍る。
煙で視界を遮られているのはこっちも同じだが、なんといっても数が違う。
こっちは矢を射かけさえすれば当たる。しかも、四騎一組で運ぶ重量ってことは、二騎もやられたらバランスを維持できねえってことだ。
「どんどん射ろ! 射かけまくれ! 海をペガサスの死体で覆ってやれ!」
だが、ハンターが2ユニットしかいない悲しさ、やつらが立ち直るまでに倒せたのは、全体の二割未満ってところだった。数だけ考えれば大戦果なんだがな。
ペガサスナイトたちが、煙を迂回して左右から回りこんでくる。
「出番だ」
俺の言葉に、バヌトゥが火竜石から力を引きだして、火竜に変身する。
バヌトゥの咆哮が空に響きわたった。
驚く連中に、バヌトゥが炎を吐きかける。
ペガサスナイトたちは人馬もろとも炎に包まれて、一瞬で火だるまと化した。四騎一組で樽を吊り下げてるから、逃げようにも上手く逃げられねえらしい。ペガサスナイトたちは文字通り火の玉になって、次々に海上へと落下していった。
その間も、アイルトンとカシムは一斉射撃を続ける。ペガサスナイトの数はかなり減って、動きも鈍くなってきた。予想外の反撃に、どう動くべきか迷っているってとこだろう。
このへんが潮時か。バヌトゥの火竜石もそろそろやばい。
俺はアイルトンたちに合図を送る。海岸に沿って南へ駆けだした。
ほぼ同時に、ペガサスナイトたちが俺たちの上空で散開する。次々に樽と、それから松明を落としはじめた。あっちこっちから火の手があがる。
振り返れば、俺たちがさっきまでいた場所はもう火の海だった。そこだけじゃねえ、北からも東からも火の手があがってる。ハ○ウッドの撮影現場かよ。運悪く直撃したら一発でおだぶつだぞ、これ。
「急げ! ちんたらしてっと焼け死ぬぞ!」
とにかくアイルトンたちとカシムたちを急がせる。焦る。他の連中は無事か。
遠くを見れば、森がまるごと燃えてやがる。
「てめえの領土じゃないから、これだけ派手に燃やせるってわけか」
前方に樽と松明が大量に落ちた。炎の壁が噴きあがって、俺たちの前にたちふさがる。
バヌトゥが猛然と突進して炎の壁を蹴散らした。
「でかした!」
だが、そこで火竜石の効果が切れた。バヌトゥはただのジジイに戻る。俺はやむなくバヌトゥを背負った。しばらく休ませたあと、また火竜になってもらわないといけねえ。
火竜が消えたからだろう、ペガサスナイトたちが急降下して襲いかかってきた。俺は鋼の斧を振りまわして迎撃する。
バヌトゥを守る。アイルトンたちも守る。「両方」やらなくっちゃあならないってのが「親分」のつらいところだな。覚悟? うん、それどころじゃねえ。
「親分!」
アイルトンが俺の横に並んだ。顔を汗まみれにしながら、アイルトンは叫ぶように言った。
「親分はすげえよ! 誰にだって自慢できる最高の親分だ!」
「当然だろうが!」
火と煙の中を突破する。マチスたちの姿が見えた。向こうもこちらに気づいて合流する。
「状況は?」
「ワイアットがやられた!」
顔を煤だらけにしたマチスが答える。俺は愕然とした。
「樽がすぐそばに落ちたんだ。油まみれになったと思ったら、すぐに火がついて……黒焦げになった」
「くそっ」
吐き捨てた。ベテランの傭兵で、気の利くやつだった。初仕事はパレスに来たワーレンの商人たちを脅すってものだったが、しっかりこなしてくれた。ここでもこの先でも期待していたんだが……。
灯台と橋、その手前の小さな砦が見えてきた。
ミネルバたちが天馬騎士団や竜騎士団と戦っている。なるほど、ドラゴンナイトはここに突っこませてきたか。ミネルバたちはよく耐え、ペガサスナイトを何騎か倒してすらいたが、満身創痍だった。
「威嚇しろ。当てなくていい」
俺はアイルトンとカシムにそう命じる。ここで誤射だけは勘弁だ。
天馬騎士団と竜騎士団の一部が、俺たちに向かってきた。樽は吊り下げてない。正面からやりあおうって腹らしい。
「魔道士隊!」
俺の叫びに答えて、リンダとエステベスがそれぞれ魔法をぶっ放す。オーラの光がペガサスナイトを消し飛ばし、サンダーがドラゴンナイトを痛めつけた。
そうしてわずかな時間を稼ぎながら、マチスとミディア、シーマ、それに傭兵たちが壁を作る。そうして、アイルトンとカシムが今度は確実に射落とす気で矢を放った。ドラゴンナイトが次々に墜落する。
「回復を忘れるな! 灯台を占領するまでもう少し持ちこたえろ!」
俺はマリアにM・シールドを使わせると、背負っていたバヌトゥを押しつけた。
銀の斧は……まだ何回かはもつな、うん。
リカードと、肩で息をしているリンダを引きずるようにして、俺は灯台に向かった。リンダは自分に聖水を使いながら必死についてくる。頑張ってくれるじゃねえか。
「もう一踏ん張りだ。いけるな?」
「当然よ。この程度でへばってられないわ」
「いい返事だ。夜に褒美を弾んでやる」
リカードが扉を開ける。待ちかまえていた勇者部隊に、俺は手下どもを引き連れて飛びこんだ。灯台の奥に控えていたもう一つの勇者部隊も、急いでこっちへ走ってくる。
俺が銀の斧を振るい、リンダがオーラを叩きこむ。サンダーソードでの反撃がきたが、M・シールドで耐える。うわははは、その程度の稲妻で俺を倒そうとか百年早いわ! おかしなテンションになってるが、そうでもないとやってられねえ。
上から白い羽根が無数に舞い落ちてきた。まるで俺たちの勝利を祝っているふうだが、ペガサスナイトやドラゴンナイトまでどさどさ落ちてくるから気が気じゃねえ。
遠くを見れば、樽と松明を持った火攻め部隊がこちらに迫ってきている。
俺は急いで全員を灯台に駆けこませた。最後にミネルバたちが入り、リカードが内側から鍵をかける。とりあえず、こっち側はこれでいい。