(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
「お察しの通り、お前の考えには賛同できねえ。面白い話ではあったがな」
「……なぜ、賛同できない?」
俺は笑って答えた。理由はいくつかあるが、こいつへの答えとしては、これがいい。
「俺は勝ち馬にしか乗らねえ主義だからだ」
「残念だ」
ガーネフの全身から、黒と紫の瘴気があふれ出た。
「封印されし暗黒魔法マフーの恐ろしさを見せてくれよう」
ガーネフの手の先から、無数の悪霊の群れが放たれる。俺は奴に斬りかかろうと踏みだしかけたが、金縛りにかけられたように体が動かなかった。悪霊の群れが俺にまとわりつく。
寒気。そして、身体中から力が急激に抜けていく感覚。
足に力がまったく入らず、すとんと、俺は地面に両膝をついた。全身から汗が噴きでる。舌が痺れて声が出ねえ。
これが……。これがマフーか。
「上等じゃねえか」
歯を食いしばる。それだけをするのにも力が必要だった。
立ち上がり、斧を握りしめて、ガーネフを睨みつける。ガーネフは余裕たっぷりに笑った。
「立ちあがったか。たいしたものだ。それ、もう一度耐えてみるがよい」
俺は立ちすくんで何もできないまま、二撃目をくらう。
悪霊の群れがまとわりつく。耳に、くぐもった呻き声と冷たい息が吹きかけられる。
痛みは一切ない。だが、立ちくらみに襲われたように、俺はよろめいた。生命力を吸いとられるというのは、こんな感じなんだろう。体力にはかなりの自信があるのに、立っているだけでもつらい。
何が恐ろしいって、ガーネフの手から悪霊の群れが放たれた瞬間から、一切の身動きが取れなくなることだ。迫ってくる悪霊の群れを、ただ見ていることしかできねえ。
「もう見てられないわ!」
その時、リンダが前に飛びでた。おい、勝手な行動とるな。
頭に巻いていた布を取り去って、リンダはオーラの魔道書を握りしめる。その手に白い光が集まった。
「ほう。オーラということは、ミロアの娘か」
だが、オーラは発動しなかった。リンダは動きを封じられ、てのひらに集まっていた白い光も消滅した。そして、ガーネフの手から放たれた悪霊の群れがリンダに襲いかかる。
悲鳴もあげずにリンダが倒れた。死んではいねえようだが、どう見ても戦闘不能だ。この馬鹿。
「さて、どうしてくれようか。ここでミロアの娘をいたぶるのもよし、砂漠をかけまわって同盟軍の兵どもを一人一人潰していくのもよし……」
話が違うじゃねえか、おい。いつまでもお前の相手をしておれぬとか昔のチンピラみたいなこと言ってテーベに行くんだろ。さっさと行け。
ガーネフのてのひらに悪霊たちが集まっている。俺はよろよろと動いて、リンダをかばうように立った。もう一発耐えられるかな。
マフーが襲いかかってくる。意識がもうろうとして、気がついたら倒れていた。
だが、幸いまだ意識はある。ガーネフがこちらに近づいてくるのが見える。
「……ありがとうよ」
震える声で、俺はガーネフに笑いかける。よかった、声が出た。
「おかげで、時間は、たっぷり、稼げた」
「時間だと?」
ガーネフが足を止める。顔をしかめた。
「俺が足止め。その間に、奴が……」
いかにも思わせぶりなことを言うと、ガーネフは目をかっと見開いた。怖い。
「まさか、ガトーが!? いや……」
思った通りだ。何だかんだ言いながら、ガトーを警戒してやがる。
ガーネフは慌てたが、土壇場で冷静さを取り戻し、俺を睨みつけた。
「貴様はたしかに興味深い男だが……。ガトーが貴様のような男と手を組むとは思えん」
そうだよねー。俺もそう思うよ。
俺はにやりと笑って言った。
「お前、ガトーが、竜族だってこと、知ってるか?」
次の瞬間、ガーネフは青白い魔法の光に包まれる。そして、その場から消え去った。
三十秒ぐらいたって、戻ってこないことを確信すると、俺はため息をついた。
やっと行ってくれたか……。正直焦った。
しかし、体が全然動かねえ。鼻くそをほじる力も残っちゃねえや、ってやつだ。シーダかレナが来てくれるのを待つしかねえな。
しかし、もったいねえな。ガーネフの、あの構想。
俺があれに魅力を感じたのは、転生者だからだろう。数千年分の歴史をおおまかに知ってるからだ。だからこそ、行き着く先も予想できちまったんだが……。
リンダが想像もつかないと言ったが、その反応がこの世界の人間の標準と考えた方がいい。
ガーネフのやり過ぎをおさえることのできるやつが、ガーネフのそばにいれば、話は違ってくるんだろう。そういう人間がいなかったのが、あの魔王の不幸かもしれない。
「どうして……」
目の前に、リンダの顔が現れた。こいつは起きあがる気力が残ってたらしい。それとも、俺がぼうっとしている間に時間が過ぎたか。
「どうして、私をかばったのよ」
「言っただろ。お前にゃガーネフを倒してもらわねえといけねえんだよ」
マフーの威力はよくわかった。俺には無理だ。死角から隙を突いても、おそらく魔法が自動的に反応する。スターライトじゃないと太刀打ちできねえ。
「私じゃ無理よ……」
リンダは途方に暮れたように横を向いた。その目には涙が光っている。
「私、全然動けなかった。オーラを使いこなしていると思ったのに。体がすくんじゃったみたいに、動けなくなって……」
「勘違いしてねえか、お前。ありゃ、そういう魔法だ」
泣きだしたリンダに、俺は言った。
「……どういうこと?」
涙で顔を濡らしたまま、リンダは俺を見る。マフーについて、俺は簡単に説明した。リンダは目を丸くする。
「そんな……それじゃ、どうすればいいの?」
「対抗できる魔法はある。それを手に入れてやるから、それまで鍛えてろ」
そう言うと、リンダは疑わしげな目を俺に向けた。
「……あんた、どうしてそんなに色々と知ってるのよ」
「そんなことより覚悟してろよ。今日……は無理だが、近いうちにその体にたっぷりお仕置きしてやるからな」
俺がいやらしい笑みを浮かべて言うと、リンダは一瞬怯んだが、強気な表情で見返してきた。
「あんたって、ほんとそればっかりよね」
俺が露骨に話題を変えたことでリンダは察したらしい。さっきの疑問を蒸し返してはこなかった。聞いてきたのは別のことだ。
「あのさ、ガトー様が竜族って……」
「事実だ。だが、誰にも言うなよ」
「言わないわよ。私の方が変に思われるもの」
それから、リンダは手を伸ばして俺の手を握ってきた。
「かばってくれたこと、礼は言っておくわ。……ありがと」
シーダとレナがそろって来たのは、それからだいぶ後のことだった。
俺がガーネフとやりあっている間に、ミネルバたちは敵の魔道士や司祭をすべてかたづけて学院まで制圧していた。いやー、カダインマージたちは強敵でしたね。
パオラとカチュアが手に入れた魔除けは、リンダにやった。秘伝の書は俺が使う。
そういやパレスで手に入れたブーツだが、こいつは総指揮官特権で俺が使った。ソシアルナイトと並んで走れる海賊の誕生である。字面だけ見ると滅茶苦茶もったいねえな。
さて、俺たち同盟軍が乗りこむと、学院は騒然となった。シスターは逃げ惑い、魔道士たちはバリケードを作って抵抗のかまえを見せる。
ところが、ウェンデルが顔を見せると魔道士たちは一気におとなしくなった。
「やめなさい、お前たち。これ以上血を流してはならん」
俺が思っていた以上にウェンデルは慕われていたらしい。
こうして学院は完全に俺たちの支配下に置かれた。
「よし、家捜しだ」
学院長室を拠点として、俺たちはガーネフの部屋と、奴の手下のダークマージどもの部屋を徹底的に漁った。
だが、俺の期待したようなものは出てこなかった。
闇のオーブやマフーの現物はさすがに肌身離さず持ち歩いているだろうが、それに関係する記録や、せめてメモ書きの一枚でも見つかればと思っていたんだが、まったくなし。
ガトーの名前を出して脅したのがまずかったか……。
でも、あの状況でああ言わなかったら全滅待ったなしだったもんなあ。ゲームでも、制圧後にガトーがマルスに呼びかけてきたあたり、急にガーネフが姿を消したのはあのジジイの気配を察知したんだと思うし。
「やっぱりテーベか……」
実のところ、俺はガーネフこそが最後の敵だと考えている。
闇のオーブが手に入れば、ララベルに何としてでも命のオーブを見つけさせて、封印の盾を完成させることができるからだ。そうすりゃ地竜モードのメディウスは即座に地の底だ。ファルシオン云々以前に戦う必要すらねえ。
まあ、オーブはその時まで待とう。まだラーマン寺院にも行ってねえし。
ダークマージの部屋からもめぼしいものは出てこなかったが、ウォームの書が見つかった。しかし、ウェンデルに没収されてしまった。まあリンダもエステベスも禁呪ってことで難色を示したし、仕方ねえか。貴重な遠距離攻撃魔法なんだが。
俺はさらに家捜しを指示した。表向きはガーネフ打倒の手がかりを、ってことだが、本当の理由は別にある。魔道士やシスターたちの部屋まで荒らしてさがした。ブーイングの嵐はウェンデルに押さえ込ませた。
そして、ようやく俺のもとに報告が届いた。
「十歳ぐらいの子供が二人見つかりました。ずいぶん衰弱しています」
やっと見つけた。ユベロとユミナ、グルニアの王子と王女だ。
俺は院長室にニーナとウェンデルを呼び、ユベロたちのことを説明した。
あの二人は、ガーネフを恐れたグルニア王がカダインに送ってきた人質だ。扱いが雑なのは、ガーネフが人質を大事に思っていなかったからだろう。
「ずいぶんやつれていました。急いで手当てをさせ、綿に水を含ませて、水分をとらせています。グルニア王はむごいことをする……」
ウェンデルは肩を落とした。ニーナが俺に聞いた。
「あの子たちをどうするつもりですか?」
「使い道を考えるのは二人が元気になってからだが、とりあえずはウェンデルに任せる」
俺はウェンデルを見た。
「派手に焼くぞ」
ウェンデルは悲壮な表情でうなずいた。
その日の夕方、ガーネフの部屋とダークマージの部屋がある一角を、俺は燃やした。
それだけだとあからさまなので、計画的に延焼させて学院の端も焼く。
焼くだけなのも何だから、シスターや女の魔道士を何人か抱かせろと言ってみたところ、シーダとレナとニーナのトライアングルアタックで叱られたので仕方なくやめた。
この三人、「じゃあお前が代わりに体を差しだすのかよ」っていう脅しが通じないからめんどくさい。夜に言葉攻めで可愛がってやるから楽しみにしているといい、ぐふふふ。
他に、俺はウェンデルに子供の死体を二つ用意するよう言った。ユベロとユミナが死んだと思わせるためだ。小細工だが、やらないよりはましだろう。学院に火を放ったことと合わせれば、効果は期待できる。
俺とウェンデルとニーナは、燃えあがる一棟を見つめていた。
「そういや、爺さんに聞きたいんだが」
俺はあることを思いだして、ウェンデルに聞いた。
「ここに戻ってから、ガトーの声っていうか、何かそんなようなものを聞いてねえか?」
「ガトーというと、大賢者ガトー様か?」
ウェンデルは呆れたように首を横に振った。
「私ごときに、ガトー様がお声を届けられるはずがない」
俺はニーナを見た。ニーナも首を横に振った。
あのクソジジイ……っ!
俺だってガーネフ相手に滅茶苦茶苦労しているだろうが! 可哀想に思って魔道で話しかけてこいよ! そもそもてめえのまいた種じゃねえか!
しかし、俺というか、同盟軍を相手にしねえってことは、あれか。マケドニアを使う気か。
ガトーの野郎、あきらかにマルスだけじゃなくてミシェイルまで打倒ガーネフに使うつもりだったしな。
第二部でミシェイルがガーネフからスターライト手に入れてたけどさ、寝たきりでマリアの看病受けてたはずのミシェイルが、誰からその知識を聞いたのかって考えるとなあ……。
覚えてろよ。チキを助けたらてめえの悪口吹きこみまくってやる。チキを抱くかどうかは……マリアのこともあるし、実際に見てからだな。
俺は気を取り直して、ウェンデルに言った。
「ユベロとユミナのことだが、ここじゃ危ねえからグラにでも隠れてくれ」
「わかった。あの二人は必ず私が守る」
ウェンデルは強い決意に満ちた顔で答えた。俺は、燃える建物に視線を戻す。
「カダインを取り戻すのは、もう少し待ってくれ」
ガーネフがいつ戻ってくるか、分かったものじゃねえ。
ガトーを警戒してテーベに引きこもってくれりゃいいんだが。
俺たちは数日カダインに滞在した。
ウェンデルが最低限の再編をすませ、弟子のエルレーンに学院を任せると、カダインを発った。ついにガトーは接触してこなかった。
変わったことといえば、リンダと以前よりも打ち解けたぐらいか。こいつはガーネフの構想に興味を持ったらしく、合間合間に聞いてきた。
度を過ぎなければ、悪い案じゃねえと思う。もっとも、ガーネフは度を過ぎるどころか突き抜けるつもりでいるようだったが。
それからレナが教えてくれたんだが、アイルトンたちがどうも疲れ気味らしい。精彩を欠くというか、悩み事を抱えているというか。
俺に対してはいつも通りだと思ったが、強がってるってことだろうか。まあ砂漠に海賊は似合わねえわな。今回、奴らの出番はなかったが、それで正解だったようだ。
「あなたは大丈夫ですか? ここまで来て」
行軍の休憩中、そう報告してくれたレナは、心配そうな顔で俺を見つめた。俺がレナを抱きしめて尻を撫でまわしてやると、レナは頬を赤らめて恥ずかしそうに顔を伏せた。
「ずいぶんと長い旅だから、全然くたびれてねえとは言わねえがな。俺は平気だ。悪いが、アイルトンたちのことを見てやってくれ」
アリティアで、どう戦うか。
できれば、いつもより時間を使って考えたい。
俺の知っているアリティア戦になるかどうか、わからねえからだ。
グラに戻った俺たちはウェンデルと別れ、シーマと再会して、アリティアに向かった。
ガザック軍編成
ガザック シーダ アイルトン
海賊 カシム レナ
マチス ニーナ リカード
バヌトゥ エステベス マリア
ミネルバ リンダ ララベル
ワイアット ミディア ワインバーグ
パオラ カチュア シーマ