(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「悲しみの大地・グラ」5

 夜も更けた頃、居館の表の方で騒ぎが起こった。サムソンたちが動きだしたんだろう。

 

「行くぞ!」

 

 俺は叫んで先頭に立ち、居館の裏手に攻めかかる。手下どもが続いた。

 裏手には勇者部隊が見張りに立っていたが、アイルトンとカシムが矢を射かけ、リンダがサンダーを叩きつけ、さらに俺たちが斬りつけて、あっという間に殲滅する。馬や竜、天馬から下りたミディアやミネルバ、パオラたちが剣を手に突入した。

 

 ゲームではこの広間に誰もいなかったはずだが、今回はアーマーナイトが3ユニット控えていた。

 想定の範囲内だ。ミディアやミネルバにはアーマーキラーを持たせてある。剣劇の響きが広間を圧し、血飛沫で床を染めながら、次々にグラ兵が倒れた。

 

「ジオルを追い詰めろ! 無理に首は取らなくていい!」

 

 そう叫んだとき、表に通じる扉が勢いよく開かれた。勇者部隊と傭兵部隊が飛びこんでくる。扉の鍵ぐらいは持っていると思っていたが、やはりか。

 連中の先頭に立っているのは、青い髪をした精悍な顔つきの男だ。

 サムソンだ。

 雰囲気だけでわかった。実力のある戦士の風格に、俺は総毛立つ。アストリアと対峙したとき以上の緊張感が俺を包み込んだ。奴の握りしめた銀の剣が、壁に掛かっている松明の炎を反射してぎらりと光った。

 

 サムソンはまっすぐ俺に向かってきて、斬りつける。俺は銀の斧でその一撃を受けとめようとしたが、弾かれた。たたらを踏む。サムソンの剣が、俺の肩を浅く斬った。

 俺はよろめきながらもその場に踏みとどまった。斧を持った手が痺れている。銀の斧じゃなかったら、斧ごと腕を吹き飛ばされていたか、最悪の場合やられていた。

 

「背後から襲ってくるとは姑息な連中だな」

 

 サムソンの言葉に、俺はせせら笑った。

 

「お前の雇い主にも同じことを言ってやったのか?」

 

 二年前、ジオルはアリティア軍を裏切って背後から襲った。その敗北が、マルスたちをタリスに亡命させたんだ。

 サムソンは顔をしかめたが、何も言わずに銀の剣を振るう。俺は防戦に追いこまれた。剣というよりも、光が襲いかかってくるような速さだった。肩や傷に痛みが走り、傷がいくつも生まれる。

 

 こちらの反撃は避けられ、剣や盾に受けとめられる。たまに刃の先端がかすめるが、サムソンの動きは鈍らねえ。血も汗も、俺ばかりが大量に流している。

 ああ、やっぱり強えな、畜生。味方にしたかったぜ。

 サムソンが呼吸を整えるために、一旦離れる。その瞬間、俺は銀の斧を大きく振るって、大声を張りあげた。

 

「弓兵!」

 

 カシムとアイルトンが進みでて、一斉に矢を放つ。広間の天井を無数の矢が覆った。

 サムソンが率いていた勇者たち、傭兵たちが矢を受けてばたばたと倒れた。余裕ができてからあらためて見てみると、勇者1ユニット、傭兵1ユニットってとこか。残りの傭兵はエステベスたちに釣られたんだろう。

 サムソンの突破を阻んだことで、敵の勇者部隊は開かれた扉のそばに集まっている。しかも俺と手下どもに足止めされて前進できず、動きが止まっていた。

 弓兵からすれば、格好の的だ。

 おそらく敵の勇者と傭兵部隊の後ろには弓兵部隊がいるだろうが、味方に当てず、扉の奥にいる俺たちに矢を命中させるのは困難だろう。

 わざわざ裏手から突入したのは、このためだった。サムソンと斬り結びながら踏みとどまったのも。

 

「まとめてくたばりやがれ」

 

 遅れて、リンダがエルファイアーを放つ。パレスの戦いで敵から手に入れたものだ。

 数人の傭兵が魔法の直撃を受け、火だるまになって床を転がる。

 リンダの動きがアイルトンたちより遅いのは、まだ戦いに慣れていないせいだ。それに、ファイアーやサンダーで相手を黒焦げにするのは、剣や斧で斬るのとはまた違うむごさがあるからなあ。慣れるまで辛抱強く待つしかねえ。

 

 味方が一気に討ちとられるのを見て、サムソンの動きが止まった。俺はすかさず斬りかかる。

 銀の斧がサムソンの肩から胸を通り過ぎて、脇腹までを斬り裂いた。鮮血が飛び散った。サムソンの銀の剣が俺の左肩を貫き、えぐる。俺は短い悲鳴をあげた。

 だが、サムソンの反撃もそこまでだった。

 ぐらりとよろめき、サムソンは仰向けに倒れる。

 

「ちっ……これまでか」

 

 俺はサムソンの右手を乱暴に蹴って銀の剣をはね飛ばし、間髪を入れずに銀の斧を振りおろした。

 サムソンは死んだ。

 

 

 サムソンたちが飛びこんできた正面の扉を閉めて、閂を下ろす。これで他の傭兵やら、塔の弓兵やらの突入を遅らせることができる。

 俺がサムソンと戦っている間に、グラ兵はミディアやミネルバが片付けていた。俺たちは玉座の間に突き進む。

 

 玉座の間には、ジオルの他に、アーマーナイトが一人いるだけだった。1ユニットじゃねえ、文字通りの一人だ。ジオルはごつい鎧をまとって、槍を持っている。

 ミネルバやミディアが剣をかまえて、遠巻きに包囲の輪を作っていた。

 俺はジオルの前まで進みでた。

 

「確認するまでもねえが、ジオル王だな?」

 

「下賤の者ときく口はもたぬ」

 

「あいにく、俺は同盟軍の総指揮官だ。神々の恩寵を受け、太陽と月と星に守護され、高潔な精神と崇高な理念を抱き、天と地の間に並ぶ者なき偉大なる同盟軍総指揮官ガザックとは俺様のことだ」

 

 ジオルは呆気にとられた顔になる。ミネルバに無言で助けを求めた。旧知なのか。少し前までは味方同士だし、王族同士だし、顔を合わせたこともあるわな。

 

「ジオル王。ガザック殿はニーナ姫の信任を受けた、同盟軍の総指揮官だ」

 

 ミネルバは俺を呆れた顔で見ながら言った。ジオルは半信半疑の顔で俺を見る。

 

「……わかった。ニーナ王女を呼んでくれ。降伏しよう」

 

「どうしてニーナを呼ぶ必要がある?」

 

 俺が聞くと、ジオルは苛立たしそうに顔をしかめた。

 

「降伏すると言っているのだぞ。王たるわしが」

 

「こっちは、今ここでお前の首を斬り落として勝利宣言をしてもかまわねえんだがな。ああ、勘違いしているのかもしれねえが、マケドニアの援軍は来てねえぞ。あれは、俺たちのでっちあげだ」

 

 ジオルは目を見開いた。やっぱり時間稼ぎをする腹だったか。

 

「馬鹿な……。ミシェイルは天馬騎士団を送ってくると……」

 

「無駄死にになると判断したんだろ」

 

 グラって、言っちゃなんだがドルーア連合の中で一番格下だからなあ。

カダイン「グラがやられたようだな……」

グルニア「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」

マケドニア「同盟軍ごときに負けるとはドルーア連合の面汚しよ……」

 こんな扱いだろ。

 希望を断たれて、ジオルはへなへなと崩れ落ちた。アーマーナイトがジオルを支える。

 

「で、どうする? 戦って死ぬか、降伏して死ぬか」

 

「な、何だと……!?」

 

 ジオルは勢いよく顔を上げて叫んだ。

 

「ふざけるな! どちらにせよ、わしを殺すつもりではないか!」

 

「お前、自分の置かれた状況を分かってねえのか」

 

 俺は呆れた顔でジオルを見た。

 

「お前はアリティアを、ひいてはアカネイアを裏切ったんだ。裏切り者を生かしておく道理がどこにある? アカネイアのラングだって死んだぞ」

 

「だが……!」

 

 ジオルはミネルバを見た。

 

「お前たちは、ミネルバ王女を許して迎えいれたではないか!」

 

 俺は腰に下げていた手斧を投げつけた。ジオルが「ひっ」と悲鳴をあげる。手斧はジオルの頭上を通過して玉座の背もたれに突き刺さった。

 

「ミネルバは味方づらしてグルニア軍を背後から襲わなかったぞ」

 

 ジオルは膝をついてうなだれた。俺は淡々と言った。

 

「ニーナは、オレルアンでお前に降伏するよう手紙を送った。お前はそれに答えなかった。俺たちが勝ち進んでも、パレスを取り戻しても、このグラ領内を進軍している間さえも、何もしなかった。使者の一人もよこさなかった」

 

「できるわけがなかろう……」

 

 ジオルは呻くように言った。

 

「アリティアにはグルニア軍が駐屯し、カダインにもガーネフの子飼いの魔道士どもがいる。常に見張られているのだ。わしに何ができる……」

 

「それこそ、ふざけるな、だ」

 

 俺は冷たく言い放った。

 

「傭兵を雇う。守りを固める。援軍を要請する。全力で戦う気じゃねえか。アリティア軍を騙し討ちしたお前が、腹芸の一つもできませんなんて通用するわけねえだろう。お前は、俺たちを舐めていた。勝てると思っていた。だが、お前は外したんだよ、博打を」

 

 アリティアを裏切ったところまでは、よかった。あのままアリティアの味方をしていたら、グルニアとマケドニアに潰されてた可能性が高いからな。

 だが、せめて俺たちがパレスを取り戻したころには、どんな方法を使ってでも接触してくるべきだった。それがこいつのミスだ。

 

「まあ、俺も極悪人じゃねえ(何人かがえっ、てな顔で見てきたが無視した)。お前が腹を切って降伏するってんなら、お前の死に多少は意味を持たせてやる」

 

「意味……?」

 

「グラの自治を認めてやる。お前の死んだ後の統治者も、今の内に選ばせてやる。たしか第二夫人に娘がいたはずだな?」

 

 アーマーナイトががしゃっと肩を震わせた。兜のせいで顔が分からなかったが、こいつがシーマか。よく見ると、鎧もピンクとはいわねえが、ちと赤みがかっている。ジェネラルじゃないのは、第二部じゃないからか。

 ジオルはすぐに言葉を返さなかった。肩を震わせ、恐怖に歯をガチガチ鳴らしている。顔は汗と涙でびっしょりだ。俺はさらに言った。

 

「そんなに死にたくねえのか? 何なら、条件付きで生かしてやってもいいぞ」

 

「何だと……?」

 

 ジオルが驚きと希望に満ちた顔で俺を見た。

 

「お前には、死ぬまで食うに困らねえだけの金を用意してやる。その上で、グラから永久に追放する。そして」

 

 俺は邪悪な笑みを浮かべた。

 

「俺たちはこの国からあらゆるものを奪う。金も、食料も、何もかも。王家を思い起こさせる財宝類はすべて潰して延べ棒にする。記録もすべて焼き払う。王族、貴族に連なる連中は串刺しにして街道沿いに並べる。若い人間は男女まとめて奴隷商人に売りとばし、老人と子供には槍だけを持たせて、今後の戦の露払いに使う。死んだらほったらかしで、獣の餌だ」

 

 何人かが息を呑んだ。

 ジオルは顔を真っ青にして、震える声で言った。

 

「そ、それでは、グラから人間がいなくなってしまう……!」

 

「なに、無人になったら適当にアカネイアの民を移して住まわせるさ。アカネイア領グラの誕生ってわけだ。お前はすべてを忘れて余生を気楽に過ごしゃいい」

 

 ジオルは汗を拭いもせず、必死に強張った笑みを浮かべる。

 

「ま、まさか、本気で言って……」

 

「お前は俺を知らねえようだが、アカネイアの北ノルダが焼かれたことや、ラングが処刑されたことは知ってるだろう? やったのは、俺だ」

 

 ジオルはぎゅっと目をつぶって、うなだれる。ぽたぽたと雫が床を濡らし、嗚咽が漏れ聞こえた。

 一国の王が、絶望して恥も外聞もなく泣きじゃくっていた。

 俺は黙ってジオルの答えを待つ。

 グラを助けるなら、最低限こいつの首をとる必要がある。そうでないと、裏切りに対する示しがつかない。後々、グルニアやマケドニアに対しても処置がゆるくなっちまう。

 ゲームにおいて同盟軍と戦ったマケドニア、グルニア、グラの三国は、以下のような結末を迎えている。

 

 マケドニア。ミネルバが統治。

 グルニア。ロレンスがユベロをたてて自治を任される。ただし上役はラング。

 グラ。滅亡。アリティアに併合される。後にハーディンがグラを取りあげ、シーマをさがしだしてきて復興。

 

 この違いは、同盟軍に協力的だった奴がどれだけいたかってことだろう。マケドニアはミネルバ、マリア、パオラ、カチュア、エスト。レナとマチスを加えてもいいかもしれない。

 グルニアはロレンスだけだが、タリスの口添えがあったと俺は考えている。シーダとオグマが擁護すれば、無視できる奴はいないだろう。

 グラ。なし。それどころかアリティアを裏切った経緯から大幅マイナス。

 そりゃあグラも滅びるってもんである。情状酌量の余地がねえ。

 ただ、俺たちの場合、アリティアに縁のある奴がせいぜいシーダぐらいしかいない。

 ジオルの態度次第では、違う結末になることだって、あるだろう。

 

「……わかった」

 

 どれぐらい時間がたっただろうか。ジオルは槍を床に置いて立ちあがった。

 

「娘よ、シーマよ……」

 

 ジオルは隣に立つアーマーナイトに呼びかける。アーマーナイトは兜を脱いだ。現れたのは、若い黒髪の娘の顔だ。シーマは複雑な表情で父親を見つめている。

 ジオルは俺に向き直った。

 

「私の娘だ。この子を、次の統治者にしたい」

 

 戦いは終わった。


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