(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「悲しみの大地・グラ」4

 村を出た俺たちは、グラ城の前まで戻った。

 城の正面を守っていた敵兵の姿はない。マチスたちが首尾よく片付けたようだ。跳ね橋の前にはいくつものテントが張られていて、後方待機中のリカードたちがいた。

 真っ先に俺たちに気づいたのはララベルだ。手を振って、笑顔で駆けてきた。

 

「お帰りなさいませ、ガザック様!」

 

 目をキラキラさせて、ララベルは俺の手を握ってくる。俺も笑顔でララベルの手を握り返した。勢いに任せて抱きついてきそうな雰囲気がちょっと怖い。

 

「ご無事で何よりですわ」

 

「おう、お前らもな。ところで突然で悪いが、トロンって調達できるか?」

 

「トロンといいますと、魔道書のことでしょうか? 手に入らないわけではありませんが、あれは大変希少なものなので値が張りますし、時間もかかります」

 

「そうか。いや、やっぱいいわ……」

 

 すらすら答えるララベルに、俺はため息をついた。ゲームでも、第一部じゃここでしか手に入らねえもんなあ。くそっ、カミュの奴に、腹を壊して丸一日トイレから出られなくなる呪いとかかけられねえかな。

 

 俺たちが帰ってきたことに他の連中も気づいて、リカードやマリア、バヌトゥたちが姿を見せる。俺はリカードに状況を聞いた。

 

「あまり進めてないっすよ。城に入って少し進んだら合流できるんじゃないかなあ。あと、負傷者が出たってんで、レナさんとウェンデル先生、それからカチュアさんが向かってます」

 

 跳ね橋の向こうにそびえる城を見ながら、リカードは答えた。

 膠着状態か。分からんでもない。勇者、傭兵部隊なんてのがいるし、天馬騎士団の援軍も到着してるだろうからな。

 

「ミネルバとパオラから何か連絡はあったか?」

 

 マリアが首を横に振った。心配そうな顔をしているマリアの頭を、俺は軽く撫でる。

 

「便りがないのは無事な証拠ってな。お前の姉貴は、戦場じゃものの道理がよく分かってる」

 

 これ以上の情報は、現場に向かわねえと手に入らねえか。

 

「テントをたため。先発隊と合流するぞ」

 

 

 

 跳ね橋を越えて城に入り、広い回廊を進んでいくと、すぐに同盟軍の姿が見えた。本当にたいして進んでねえな……。無理攻めして犠牲出されるよりははるかにマシだが。

 俺たちは無事に合流を果たす。アイルトン、マチス、エステベスの三人がやってきた。

 

「親分! ご無事でしたか!」

 

 アイルトンがほっとした顔で言った。

 

「たいした用事じゃなかったからな。そっちはどうだ? 苦戦しているみたいだが」

 

「すまない。敵の傭兵部隊が手強くて、先に進めていない」

 

 マチスが疲労を漂わせた顔で謝罪する。俺は首を傾げた。

 

「そんなに強いのか?」

 

「強すぎるってことはないと思う。一部隊だけ誘いだすことに成功して、俺とカシム、エステベスの部隊で蹴散らすことができたんだ。だが、それで警戒されたのか、こちらがどれだけ挑発しても動こうとしない。一度なんて、こっちが前に出すぎてやられかけた」

 

 続いて、エステベスが言った。

 

「傭兵部隊の指揮官はサムソンってやつでな。昔は剣闘士だったんだが、その頃からかなりの強さで傭兵仲間の間じゃ有名だった。一筋縄じゃいかないだろう」

 

 えっ。

 サムソン? あいつがグラを守るのは第二部でしょ? 二年後でしょ? ジオルみたいなおっさんのためじゃなくて、シーマのためでしょ? なんで今いるんだよ、おい。

 じゃあ、あれか。アリティアの東側の村はパワーリング持って待ってるのか。いや、もう村を閉ざしている可能性の方が高いかもしれん……。

 

「よく分かった。無理攻めしなくて正解だ」

 

 俺はマチスを褒めた。サムソンと正面からやりあって勝てる奴って、うちにいねえぞ。あいつの初期値ってアストリア以上だかんな。守備に徹してくれて助かった。

 俺はエステベスに聞いた。

 

「ワインバーグやワイアットは何か言ってたか?」

 

 パレスを発つ際に雇った傭兵たちだ。エステベスは肩をすくめた。

 

「サムソンとやるなら給金を五倍にしてくれとさ。サムソンも厄介だが、奴の回りを固めてる傭兵部隊も面倒だからな」

 

 そこまで聞いて、俺は違和感を抱いた。

 

「傭兵たち以外の、敵の動きはどうだ?」

 

「塔に居座っている弓兵隊には、特に動きはないな。だが、俺たちが傭兵部隊を攻めたら、間違いなく攻撃してくるだろう」

 

 マチスが西にそびえる塔を見ながら言った。エステベスも同意する。

 

「サムソンも、そのつもりであの場所から動かないんだろうな。あそこを突破しようっていうならかなりの損害を覚悟しなきゃならないぜ」

 

 うん? 二人の言葉に俺は顔をしかめた。

 

「敵の援軍は来てねえのか? ええと、なんだ、たとえばマケドニアの天馬騎士団とか……」

 

 そう言った俺を、二人は不思議そうな顔で見た。

 

「天馬騎士団? 全然見ちゃいないが……。そんな報告でもあったのか? シーダ姫がどこかで発見したとか」

 

「そういうわけじゃねえんだが……。考えすぎか。王のいる居館が攻められてんだから、マケドニアあたりに援軍の要請をしたものだとばかり思っててな」

 

「見捨てられたんじゃないか」

 

 エステベスが言った。マチスも頷く。

 どういうことだ?

 ゲームでは、天馬騎士団はかなり早い段階で登場していた。俺たちが村に寄っている間に出てきてもおかしくねえはずなんだが……。

 俺はカチュアを呼んだ。ここにミネルバとパオラがいないせいか、カチュアは緊張している。マリアを同伴させりゃよかったか。

 

「最近、マケドニアで何かあったか? ミシェイルが階段から落ちて寝こんだとか、悪いもん食って寝こんだとか、女にふられて寝こんだとか」

 

 カチュアはまじまじと俺を見つめた後、笑いを堪えるような顔で「いえ」と、首を横に振る。

 

「私たちが脱出するまでは、マケドニアは安定して揺るぎない様子を見せておりました」

 

 俺は唸った。到着が遅れてるのか、それとも……。

 嫌な予感がする。ミシェイルの奴、もしかして援軍派遣をやめたのか?

 それはそれで困るぞ。ここに援軍として来るのって、たしかペガサスナイト20ユニット分だろ。それが別の戦場で出てくるってことじゃねえか。

 いや、落ち着け。そうと決まったわけじゃねえ。

 ゲームに振りまわされるな。目の前の勇者部隊のことを考えろ。

 俺はカチュアを下がらせて、リカードを呼んだ。

 

「お前の出番だ。ちょっと一働きしてもらうぞ」

 

 その日は睨み合いで終わった。

 

 

 二日後の夜、俺たちは居館の裏手に集まっていた。宝物庫に通じる方の、マップ的な説明でいえば右側の回廊を通って、ここまで来たんだ。ミネルバとパオラとも合流した。

 俺は主だった連中を呼んで説明する。

 

「今、敵の勇者部隊の前に、うちの傭兵どもを待機させている。こいつらをシーダとカチュア、マチスが襲う。正確には襲うふりをする」

 

 二日前、俺はリカードを敵の勇者部隊に潜りこませた。そして、次のように書いた手紙を置いてこさせた。

 

「我々はミシェイル王子の命令によって派遣されたマケドニア軍です。二日後の夜、アカネイア軍に背後から奇襲をかけます。あなたがたが我々に呼応してアカネイア軍に攻撃をかけてくれれば、挟み撃ちにできます。なにとぞ、よろしくお頼み申しあげます」

 

 できればジオルのいる居館に置きたかったんだが、リカードの技術では危険という結論が出て、そちらの案はなしになった。オンリーワンの盗賊だからな、あまりやばい橋は渡らせられねえ。

 ちなみにこの文章を書いたのはマチスだ。最初はレナに書かせてみたんだが、字が丁寧すぎる割に、いやいや書いているのが文面からにじみ出てなあ。やはり陰謀奸計は駄目らしい。向き不向きは仕方ねえ。

 その後、俺は軍を二つに分けた。

 エステベス、ワイアット、ワインバーグたち傭兵部隊を、サムソンたちから離れたところに待機させた。いかにも持久戦開始ってふうに。

 エステベスたちに隠れるように、シーダとカチュア、マチスの部隊も待機させる。ニーナとララベル、バヌトゥ、ウェンデルは後方だ。

 そして、それ以外の全員を、居館の裏手まで連れてきた。

 

「傭兵たちを使って敵の勇者部隊を居館から引き離し、その隙に裏手から攻めこむわけだな」

 

 俺の話を真っ先に理解して頷いたのはミネルバだった。楽しそうだな、こいつ。

 

「意外だな。お前は正面からの戦いにこだわるもんだと思ったが」

 

 俺が言うと、ミネルバは笑って答えた。

 

「手元に十分な兵力があれば、そう主張したかもしれないな。だが、軍の現状は私なりに理解している。敵に厄介な弓兵部隊がいるとなれば尚更だ」

 

 そうしてミネルバが賛同すると、反対意見は出なかった。

 ただ、ミディアが疑問をぶつけてきた。

 

「反対するつもりはない。だが、敵は乗ってくるだろうか?」

 

「乗ってくる」

 

 俺は自信たっぷりに答えた。

 

「グラの視点で考えてみろ。奴らは、どうすれば俺たちに勝てる?」

 

「そうだな……。我々の食料を潰して戦えないようにするか。あるいは決戦を挑んで、指揮官を討ちとるか、兵に大損害を与えるか。だが、決戦を挑むには兵力に不安があるはず……」

 

 そこまで言って、ミディアは気づいたようだった。目を丸くする。

 

「そういうこった。奴らは俺たちの食料に手を出してこなかった」

 

 もしも後方を襲おうとしたら、リカードが気づいただろうし、バヌトゥが火竜になって焼き払っただろうがな。

 

「奴らは手足を引っ込めた亀のように、じっと守りを固めている。グルニアかマケドニアからの援軍を待っているんだ。そこに援軍の知らせが来れば、間違いなく飛びつく」

 

 ミディアは大きく息を吐きだして、俺に従うというふうに頭を下げる。

 その隣で、ミネルバは満足そうに頷いていた。キラキラした目で見つめてくるのやめて。つらい。


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