(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「ノルダの奴隷市場」3

 次の日、俺は城下町の、北ノルダと呼ばれている区画へ向かった。ジョルジュを仲間にするためだ。

 

 初プレイだと、かなり魅力的に見えるんだよな、あいつ。スナイパーだし。銀の弓持ってるし。

 慣れている奴だと、だいたいの場合ゴードンを真面目に育てているんで、ジョルジュはその成長率の低さもあって予備扱いになる。

 だが、今回の場合、弓使いがカシムとアイルトンしかいないんで、ジョルジュは大変貴重な戦力だ。初期値だけなら悪くないしな。

 そんなことを考えながら、俺は北ノルダに足を踏みいれた。

 その瞬間、風を唸らせて、何かが俺に向かって恐ろしい速度で飛んできた。

 矢だ。それが分かったときには、その矢は俺の胸に突き立っていた。

 えっ? 何だこれ。

 余りに突然のことで、声が出ない。町の中だぜ? なんでこんな……。

 矢がもう一本飛んできた。それも俺の胸に突き刺さる。

 俺は仰向けに倒れた。

 体に力が入らない。

 痛みというよりも熱を感じながら、俺の意識は遠ざかっていった。

 

 

 目覚めた時、俺はテントの中に寝かされていた。シーダとレナが疲労困憊って顔で俺を見つめている。俺が意識を取り戻したことに気づいたシーダが、喜びの声をあげた。

 

「ガザック様、大丈夫ですか」

 

「傷は痛みますか? まだ横になっていてください。無理はいけません」

 

 シーダとレナは口々に言って、体を起こそうとした俺を寝かせる。意識がはっきりすると、胸のあたりが強く痛んで俺はおもわず呻いた。

 喉がからからに渇いている。だるい。体が重い。

 

「何があった?」

 

 シーダに水を飲ませてもらいながら、俺は聞いた。

 

「二日前のことです。買い物に出かけていた兄が、倒れているガザック様を見つけてここまで運んできました。ガザック様は意識がなく、胸には二本の矢が突き刺さっていて……」

 

 レナが答える。待て、二日前だと?

 

「じゃあ、俺は二日間も寝ていたっていうのか?」

 

「はい。この二日間ずうっと目を覚まさず……」

 

 シーダが俺の手を握ってほっとした顔をする。

 だが、俺はそれどころじゃなかった。

 あの区画で矢とくれば、もう犯人は一人しかいねえ。

 しかも、矢は二本刺さった。一本だけなら何かの間違いということも考えられるが、二本ということは確実に仕留める気だったということだ。

 

 お前もか。お前もなのか。

 

「私、皆さんに知らせてきます」

 

 シーダが立ちあがってテントから出ていく。

 それから少しして、ニーナやミネルバ、マリア、リンダ、それにアイルトンやヴィクター、カシムやマチス、リカードらが次々に会いに来た。

 予定では、城下町を歩きまわって王女の帰還を大々的に宣伝することになっていたんだが、今度はニーナが狙われたらやばいってことで取りやめになった。

 で、ニーナはといえば俺が倒れたことを隠し、軍をまとめることに専念していたらしい。

 おお、成長してるじゃねえか。そう喜んだのも束の間、俺はニーナの口からとんでもないことを聞かされた。

 

「今朝、エイブラハムが部隊ごと軍を抜けました」

 

 うえっ!?

 いやいやいや、待て待て待て。あいつとは、一戦ごとに給料を払ってやるって契約だぜ。

 今の契約はパレス奪還までで、まだ有効のはずだ。

 

「どういうことだ……?」

 

「それが、ガザック様が目覚めないということは死んだということだ、それならもう契約は破棄だ、の一点張りで……」

 

 俺はショックがでかすぎて、すぐに言葉が出てこなかった。

 何だよ、そりゃ。

 いや、傭兵らしいっちゃ傭兵らしいけどよ……。クラスはアーマーナイトだけど。

 ステータスが低そうとか、成長率も悪そうとか、そういうの全部呑みこんで、大枚はたいて雇ったのに。

 

「エイブラハムのことは私の力不足です。申し訳ありません。でも、いまは傷が癒えるまで休んでいてください。その間は私が何とかしますから」

 

「……わかった。任せる」

 

 できてねえじゃねえかと八つ当たりしそうになったが、エイブラハムをスカウトしてきたのは俺であって、完全に俺のミスだ。

 ワーレン、ディール、そしてここまで順調すぎるほど順調だったんで、油断した。調子に乗った。

 部屋を出ていこうとしたニーナを呼びとめて、俺は言った。

 

「エイブラハムのことは、やつがそういう人間だと見抜けなかった俺の失敗だ。おまえが責任を感じる必要はねえ」

 

 ニーナは一礼して部屋を出て行った。俺とシーダ、レナの三人になる。

 

「酒」

 

 俺はシーダに言った。飲まねえとやってられねえよ、これ。俺の怒りが有頂天。

 シーダは心配するような目で俺を見た。

 

「いまお酒を飲むと傷に障ります」

 

「飲まなかったら怒りと憎しみと頭痛で傷に障るわい。いいから持ってこい」

 

 シーダはレナと顔を見合わせる。レナが諦めたように首を縦に振った。

 シーダが持ってきた葡萄酒を、俺はラッパ飲みする。ただし、同じだけの水も飲まされた。ついでに尿意も催したので、しびんだけは勘弁してもらって、二人に支えられて便所にも行った。

 ああ、畜生。ここの闘技場でも勧誘しようと思ってたけど、どうすっかなあ。一気に萎えたぞ、俺。まさか、そんなリスクを背負わないといけないなんて。ここは見合わせておくか……?

 そうして酒瓶を空にすると、俺は再び横になった。傷が痛む。酒を飲んで血行がよくなったせいか。

 ベッドのそばに控えているシーダに言った。

 

「ヴィクターとリカードを呼べ」

 

 二人はすぐに来た。どうも俺が倒れてるせいで先に進めないから手持ちぶさたらしい。

 俺は凶悪な笑みを浮かべてヴィクターたちに言った。

 

「北ノルダっていったか。俺がやられたあの区画一帯を襲え」

 

 シーダとレナがはっきり顔色を変えた。ヴィクターは平然としているが、念のためというふうに聞いてきた。

 

「……いいんですかい」

 

「容赦なくやれ。奪えるものは何でも奪え。抵抗するやつは誰だろうとかまわず殺せ。ただし、抵抗しないやつは逃がしてやれ。略奪は明日から二日間。そして、三日目の朝に火を放って一切合切焼き払う。誰が残っていようともだ。おまえたちの部下が残っていても待たねえ」

 

 俺の言葉に、ヴィクターたちもさすがに息を呑んだ。リカードがおそるおそる言った。

 

「その、略奪をしながらそのことを教えても……?」

 

「好きにしろ」

 

 俺は手を振って、退出を命じた。二人がいなくなるのを待って、シーダとレナがそろって俺に詰め寄る。

 

「いまの命令を撤回してください」

 

「もう決めたことだ」

 

「たしかにあの区画は危険です。ドルーアの兵が潜んでいるのかもしれません。アカネイアの義勇兵を自称するならず者がいるという噂も聞いています。ですが、民衆を巻きこむことだけはやってはなりません」

 

 レナの言葉に、俺は笑いそうになった。義勇兵の騙り。そんなやつがいるのか。アカネイア戦記でも自称マケドニア軍の盗賊がいたし、あってもおかしくねえ話だ。

 

「巻きこまれたくねえなら、逃げればいい。言っただろう。抵抗しなければ殺さねえと」

 

「奪い、焼くと言ったではありませんか。一度命令を撤回し、体を休めて落ち着いてください」

 

 俺が怒りで命令したと思っているんだろう。好都合だ。

 俺は首を横に振った。

 

「撤回はできねえ。こいつはオレルアンの時と同じだ」

 

 そういうことにさせておく。

 あの野郎は、ここで確実に仕留める。そのために手は抜けない。悪名なんぞなんぼのもんじゃい。

 

 

 それから二日間、俺は寝て過ごしながらヴィクターから報告だけを受けとった。ニーナは案の定激怒して、リンダを連れて怒鳴り込んできたが「うるせえ」の一言で追い返した。

 

 ミネルバもマリアとともに抗議しに来たが「お前は北に向かえ」と命令を出して追い払った。

 今更気づいたんだが、ミネルバって最近までドルーア勢だったんだし、この城下町に置いておくのは危険すぎる。あの弓で狙われたら蚊とんぼのように落とされるぞ、こいつ。やっぱり気が抜けてたわ、俺。

 そして三日目の朝、俺は予定通り火を放った。

 

 

 いくつもの建物が業火に包まれ、でっかい黒煙が噴きあがる。延焼の心配はない。ヴィクターたちに命じて、略奪ついでに一部の建物を破壊するように言っておいたからだ。

 夕方近くになって、火は消えた。

 俺は銀の斧を引っさげて焼け落ちた区画に踏みこむ。焦げ臭い匂いが充満していた。

 区画の真ん中あたりに来たときだ。離れたところで何かが動いた。

 ああ、そうさ。ここまで来たんだから、なんだかんだで俺も海賊としてかなりのレベルだ。油断してなきゃ見逃さねえ。

 瓦礫の一部をはねのけて、一人の男が姿を見せる。両手でかまえた銀の弓。煤で汚れた金髪美形。予想通り大陸一()だ。

 放たれた矢を、俺は間一髪のところでかわす。

 

「てめえ、ジョルジュだな?」

 

 俺が聞くと、ジョルジュは警戒するように目を細めた。

 

「貴様はガザックだな」

 

「おう。この前はよくもやってくれたなあ」

 

 俺は笑って距離を詰めていく。聞いた。

 

「てめえ、どうして俺を撃った? 俺がアカネイア同盟軍の総指揮官だってことぐらいは知ってんだろう?」

 

「貴様のような下種が軽々しくアカネイアの名を口にするな」

 

 ジョルジュの声に、はっきりと怒りが感じられる。

 

「同盟軍が来ると知って、俺は貴様のことを調べた。タリスを焼き、オレルアンを焼き、民を苦しめる極悪非道の海賊。オレルアンでは王を恫喝して玉座を奪ったとも聞いている。ニーナ姫をいいように利用してアカネイアまで食い散らかすつもりだろうが、そうはさせん」

 

 なるほど、そういうことか。事実なだけに何一つ反論できねえ。

 だが、殺されてやる気は毛頭ねえ。

 

「ずいぶんアカネイアを誇りに思っているみてえだな」

 

 俺はさらに距離を詰める。ちなみに今回の俺は鉄製の胸当てをつけている。左胸だけを覆う形状の、何つうかあれだ、超初期のペガ○スの聖衣みたいなの。急ごしらえなんで、こいつの矢なんて防げないだろうが、それでもいい。

 

「だが、そのアカネイアの貴族や騎士の中には、ドルーアに取り入って私腹を肥やしている奴もいるだろう。俺でも知っているアドリア侯ラングとかよ」

 

 ジョルジュは答えない。だが、その眉がわずかに動いたのを俺は見逃さなかった。効いてる効いてる。

 

「喜べ、その仲間入りをさせてやる。てめえはアカネイアのため、祖国解放のために力を尽くして死ぬんじゃねえ。ドルーアにケツを差しだして、お得意の弓でニーナを狙い、失敗した下種として……みじめに死ぬんだよ!」

 

 俺は突進した。全身の血が熱くなる。こいつは賭けだ。失敗したら死ぬ。そのことが、余計に俺を奮いたたせているのかもしれなかった。

 

 ジョルジュが弓弦を引き絞って矢を撃つ。俺はその動作を見たと同時に、顔を守るように銀の斧をかざした。斧に軽い衝撃が伝わって、何かがはね返った。

 俺は猛然と速度を上げる。ジョルジュは逃げようとしたが、間に合わないと悟ると踏みとどまって俺を睨みつけた。寸前でかわすつもりだ。

 斧の間合いに入った。俺は銀の斧を振りあげ、ジョルジュの頭めがけて振りおろした。

 ジョルジュが体をひねった。だが、銀の斧はやつの肩当てを叩き割る。大量の血が噴き出して俺の体の半分を赤く染めた。やつの金髪と、銀の弓も。

 ジョルジュは激痛によろめきながらも、俺に体当たりを仕掛ける。俺はたたらを踏んだ。ジョルジュは後退して、服の中に隠し持っていたらしい新たな矢を取りだす。

 だが、そこで愕然として、ジョルジュは自分の左腕を見つめる。銀の弓を握りしめたやつの左腕が、上がらないようだった。

 それでもジョルジュは大きく身をよじって、持ち上がらない左腕を俺に向けて、矢をつがえる。恐ろしい執念だった。

 だが、無理に姿勢を変えたことは、そのために一秒以上の時間を浪費したことは、命取りだった。その間に俺は体勢を立て直してジョルジュに接近していたんだから。

 振りあげた銀の斧が、ジョルジュの左胸に叩きつけられる。新たに血が噴き出す。ジョルジュは倒れながら矢を撃ち、それは俺の左肩に突き刺さったが、浅かった。

 倒れたジョルジュの手から、血まみれの弓が離れて転がる。

 

「ニーナ様……お許しください……」

 

 かすかな囁きが、俺の耳に届いた。

 俺は無言でジョルジュを見下ろした。

 俺が胸当てをつけたのは、頭部を狙わせるためだった。

 こいつは一度、俺を仕留め損ねている。そのことを考えれば、胸当てをつければ確実に仕留めるために頭を狙ってくると思った。

 腕や脚を狙ってくる可能性ももちろんあるから、俺を一撃で仕留めたくなるように、怒りを煽った。この区画を焼いた理由も、それだ。

 

 それにしても、恐ろしい奴だった。文字通り死にかけたんだからな。

 俺はジョルジュにとどめの一撃を振りおろした。


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