これが私からのクリスマスプレゼントです。
なんて冗談はさておき、遂にアリシア復活です。
今回はそれはもうテキトーなご都合主義な話なのですが、それでもよろしければどうぞ。
フェイトがプレシアに言いたい事を言い終わった後プレシアは泣き崩れていた。それはまるで、この20数年の月日に貯めた全ての涙を出し尽くす勢いだった。
そんなプレシアをフェイトは黙って抱きしめ続けていた。何も言わず、ただただプレシアと抱き合っていた。
そうしてしばらくたった後、プレシアは泣きやみフェイトから離れ目元をぬぐう。その後、フェイトをしっかりと見つめた。
その瞳は、初めてであった幽鬼のような瞳でも、会話中の憎しみのこもった瞳でもなく、この地に足を付けている人間の目だった。
「フェイト」
「はい」
プレシアが声をかけるが、その先が出てこないのか暫く黙る。それでも決心したように一つ深呼吸してフェイトの目を見据えて喋り出した。
「私はあなたの母親では無かったわ」
「……はい」
「少なくとも今まではそうだった。それでも、そんな私でもあなたは私を母と呼ぶの?」
プレシアの質問は最もだろう。育児放棄は立派な虐待であり、虐待している者を親と思うか、と聞かれたらNOと答えたくなる。
「はい。あなたは、プレシア・テスタロッサは私、フェイト・テスタロッサの母親です。世界でたった一人の、大切な」
それでも、小さな子には、フェイトには関係ない。
親と子は切っても切れない関係にあるのだ。
「……わかったわ。あなたがそこまで言うなら私はあなたの母親になりましょう」
プレシアのその言葉を聞いた瞬間にフェイトの顔が輝く。
「いえ、違うわね」
しかし、プレシアはそう呟くとフェイトに向かって頭を下げた。
「フェイト、私を許さなくていいわ。それでも私を、あなたの母親にしてください。すぐは無理かもしれない。しばらくはぎこちないかもしれない。それでも必ずあなたの事を愛するから。必ず良い母親になるから。だから、私と家族になってください」
それはみっともない姿だったかもしれない。50も過ぎた女性が6歳程度の少女に頭を下げているのだから。
それでも、その行為はプレシアには必要な儀式なのだ。娘が乞い、母が認め。母が願い、娘が認める。そんな荒唐無稽な儀式を終えなければ、この二人は前に進めないのだ。
「はい。はいっ!」
感無量。その言葉が似合うようにフェイトは笑いながら泣いていた。それは顔を上げたプレシアも同じで、二人は自然と抱き合っていた。
それはまるで親子の様で。自然と、母と娘は抱き合い、お互いに家族ができた喜びに涙を流した。
*
「フェイト、悪いのだけれどレヴィに変わってもらえるかしら?」
しばらくフェイトと抱き合って居た後、プレシアがそう切り上げた。
その言葉にフェイトは無言でうなずくと目を閉じる。
(レヴィ)
『フェイト、よかったね』
(うん!)
入れ替わる刹那のほんの短いやり取り。だが、そのやり取りだけで良かった。ボクとフェイトの一つ目の目標は達成されたのだから。
静かに目を開ける。
目の前にはまるで憑き者が落ちたかのように和やかな顔をしたプレシアが立っていた。
目元は赤くはれているし、隈もある。しかしそれでも、清々しい顔だった。
「レヴィ。だったわね」
「うん」
「あなたにも迷惑をかけたみたいね」
「良いんだ。ボクはフェイトが幸せならそれで」
自然と会話が繋がる。ボクとプレシアは親子では無い。フェイトを娘と認めてもボクを娘と認めたことにはならない。ボクとフェイトは別人なのだから。
だからプレシアもボクもお互いの距離を測りかねていた。でも今はまだそれで良い。今はまだビジネスライクな関係で良いのだ。
「プレシア」
「なにかしら」
「ボクの目的はフェイトが幸せになる事だ。それは今、達成したともいえる」
ボクの言い分を静かに聞いてくれるプレシア。
「それでも、人間は常に上を目指す生物だ。人間の欲望は尽きることは無い。それはボクも同じ」
遠回しになるけど、伝えたい事は言う。言いたい事は言う。
「だから、フェイトにはもっと幸せになって貰いたい。もちろん、あなたにも」
「それはつまり」
先ほどまでも言っていたのだ。再度言わなくても伝わるだろう。
しかし言わなくてはならない。ボクとフェイトの覚悟は完了している。ならば、プレシアにも覚悟を決めてもらわなくてはならない。
「うん。アリシアを蘇生する。そして、プレシアの病気を取り除き、若返ってもらう。アリシアとフェイトを残して早々に死ぬなんて許さない。そんなことは天が、フェイトが許してもボクが許さない。あなたには、これからも色々押し付ける事になる。その最初がこれだ。あなたには、若返ってもらう」
「……」
伝えた。先ほどから言っていた事だが、それに加えてプレシアの若返りも含めている。
相対しているプレシアもそんなことが言われるとは思っていなかったのか目を見開いて驚いている。しかし、それは数秒の事。すぐさま処理したのか、落ち着いた様子になった。
「わかったわ。どうするのかは、教えてくれないのかしら?」
「ごめん、説明しにくいことでさ、ちょっと教えられないかな」
「わかったわ。それで、それは直ぐできるのかしら?」
ごまかすように笑う僕につられたのか、プレシアも苦笑をもらしながら言った。
「うん。すぐにできる。少しだけまって」
そう言ってボクは目を閉じて祈りをささげるように手を組む
(神様! 神様!)
そう念じるとすぐさま返信が来た。
『おー、やっと出番か。まちくたびれたぞい!』
なんか神様のテンションが高い。
(神様、お願いの事なんですが)
『わかっておるぞぉ! プレシア・テスタロッサの若返りにアリシアの蘇生じゃな?』
(はい)
『任せなさい! では、まずプレシアから行くぞおっ』
神様がそう言った瞬間。プレシアの体が光に包まれた。数秒たち光が収まると、そこには変わらずプレシアが立っていた。
しかし、良く観察すると違う部分が見える。顔色は良く、目尻などにもしわは見えない。
『どおじゃ? だいたい30歳前半位まで若返らせたぞ』
(ありがとうございます!)
『よーし、次はアリシアじゃなっ!』
(あ、すこし待って貰えますか?)
気合を入れて、アリシアの蘇生をしようとした神様を止める。
今蘇生されてしまったらアリシアが培養漕の中でおぼれてしまう。
それに、周りで驚いている人たちの処理もしなくてはならない。
「プレシア、どう? 調子は」
「……えぇ。驚いたけど体の調子も良いわ。確認できないけど、きっと若返っても居るのでしょうね」
確認もかねてプレシアに尋ねると、色よい返事が返ってきた。
「それじゃぁ、この勢いでアリシアの蘇生も済ませちゃおう」
「わかったわ。こっちよ、ついてらっしゃい」
そうプレシアに言われ、ついていく。行先は玉座の間の奥に安置されているアリシアの遺体。
玉座の奥の扉に進むとそこには、フェイトとうり二つの少女が培養漕の中で膝を抱えている。それはまるで眠っているかのようだった。
「アリシアよ。私の最初の娘。綺麗でしょう? これでも死んでいるのよ。体が朽ちないように中は特殊な薬品で満たしているの」
そう言いながら、培養漕から液体を抜き始めるプレシア。全ての液体が抜けきる前に、アリシアを抱きかかえ地面に下ろす。
「フェイト、あなたのお姉さんよ」
『これが、アリシア』
フェイトの言葉はプレシアには聞こえていないだろう。それでもプレシアはうなずき、こちらに向かって頭を下げた。
「レヴィ。よろしくお願い」
『レヴィ。お願い』
プレシアとフェイトの両方から頼まれる。別にボクが頑張る訳ではない
それでも、こういうのは気合いが大事なのだ。
「まかせて!」
力強く宣言する。
(神様!)
『委細承知!!』
どこのルシフェリオンだろうか。神様が堕天使の名前を関するデバイスのセリフって縁起悪くないか?
閑話休題
神様の掛け声とともにアリシアもプレシア同様光に包まれた。数秒たち、光が収まっても依然アリシアは横たわっている。不安になったのかプレシアが駆け寄り、優しく抱きかかえる。ボク達もフェイトに身体の主導権を渡し、近寄る。しかしアリシアは目を覚まさない。
「アリシア。アリシア」
不安に駆られているのか、プレシアがか細い声でアリシアの名前を呼ぶ。
「ん、んぅ」
すると、か細い声だが、アリシアから声が漏れる。
「アリシア!?」
「アリシア!」
プレシアとフェイトが声をかける。リニスとアルフは遠巻きに心配そうに眺めている。そんな中で、アリシアの目がゆっくりと開かれる。
「あ、ママ」
「アリシア! アリシ、ア。ア、リシ、アァ」
プレシアがアリシアを抱きしめ泣き崩れる。
そんな二人を抱きしめフェイトも泣く。
「どう、したの? ママ。泣かな、いで。アリシア、だいじょう、ぶ、だよ」
自分の周りに母と、見知らぬ人が3人。しかもそれらが全員泣いていると言うわけのわからない状況にあって混乱しているだろうに泣いている母を心配するアリシア。
プレシアとアリシア、その妹にフェイト。ペットのアルフに家政婦のリニス。やっとテスタロッケが揃った、感動的な場面が目の前にはあった。
(ありが、とう。かみさま)
『当然の事をしたまでじゃ。それに、おぬし……、いやよい。またなにかあったら呼ぶのと良い』
(……は、い)
こうしてテスタロッサ家は皆で本当の一歩を踏み出した。
というわけでアリシアちゃん完☆全☆復☆活
後1話、エピローグを今年中に何とか更新したいと思います。
それではまた次回