魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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ーー未来への繋がりを、ちょっとだけ語って終わるとしよう。


L×F=
epilogue 「レヴィ×フェイト=それは  」


 

―――――――――――――――――――

 

 

 愛しい君へ――。

 

 

 あれから、今日で3年以上の月日が流れました。

 

 君は今なにをやっているのかな?

 そんなことをしょっちゅう考えているのは、この手紙代わりの日記を読めばわかっちゃうけど、それでも書かずにはいられません。

 

 

 あれからもう3年以上、こちらでは今日から新年度が始まろうとしています。

 結局、君が入る予定だった聖祥付属小学校は、君が居ないまま恙なく卒業して、新年度となった今日私はなのは達と一緒に聖祥付属中学校に進学することになりました。

 

 そうです、花のJCです。今日はなんと入学式なのです。

 聖祥中の制服はブレザーで、なかなか新鮮な気分だし大変かわいらしいと思います。

 どうせ母さんが写真はいっぱい撮ると思うけど、それでもやっぱり記念すべき日の新たな装いを一番最初に見るのは君であって欲しかったと思わざるを得ません。

 

 まだまだ色々書きたいことはあるけど、そろそろ準備しないとなのは達との待ち合わせに間に合わないので、朝は一旦ここまでにしておきます。

 

 

 ――――君の愛しのフェイトより。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「フェイト~そろそろ行くよ~」

「はーい!」

 

 

 海鳴市のとある高層マンションの一室にそんな声が響く。

 

 その一室だけではなく、海鳴市の――いや、日本中のいたるところで同様の会話が行われているだろう。

 

 なぜなら今日は新年度。あらたな門出の日であるのでから。

 

 

「フェイト」

「母さん」

 

 

 それはこの一幕のテスタロッサ家でも同じ。

 今日は3人娘の二人、長女のアリシアと妹のフェイトが中学校へ入学する式典があるのだ。

 

 

「どうかな、変なところないかな」

「ええ。大変似合ってるわ」

「そっか!」

 

 フェイトはプレシアの目の前でくるりと回ってみせると、チェック結果を聞く。

 

「行ってきまーす!」

「それじゃぁ行ってきます!」

「行ってらっしゃい。アリシア、フェイト」

 

 

 母に見送られ二人は仲良くマンションを降りる。

 

 

 そうしてしばらく歩くと待ち合わせの場所へとたどり着く。

 

 

 待ち合わせ場所には燃えるような輝く金髪のお嬢様と、しっとりとした烏の濡れ羽色をした黒髪のお嬢様の二人の姿。

 

「アリサ! すずか! おはよう!」

 

 その二人の姿を見つけるとアリシアが駆け寄りながら元気よく挨拶する。

 

「あら。アリシア、フェイトも、おはよう!」

「アリシアちゃん、フェイトちゃん。おはよう」

「二人とも、おはよう」

 

 アリシアの声でフェイト達の接近に気づくいた二人と朝の挨拶を交わす。

 

 小学生の頃からの習慣であった。

 

 

 そうしているともう一人近づいてくる人影が。

 

 

「おぉ~集まっとるなぁ。おはよう」

『はやて(ちゃん)。おはよう』

 

 

 八神はやて。小学4年生の頃から、こうして同じように通学を始め、これからもまた同じ場所へと通う。

 4年生のころからこうして6人は、仲良く一緒に学生生活を送っていた。

 

 

「あら、なのはちゃん来とらんのな」

 

 

 その最後の一人、高町なのははまだ姿を現さない。

 いつもはフェイトたちとほぼ同タイミングで集合するなのはだが、今日に限って来ておらず4人の視線はフェイトへと向く。

 

「うーん。今日は大事な日だから、って母さんに朝練を禁止させられたから。私もわかんないかな」

 

 いつもはフェイトとなのはは朝の調練を共に行っている関係で、だいたい同じ時間に集合していたのだが、本日は勝手が違ったらしい。

 

 

「うーん、どうする? そろそろバス来ちゃうよ?」

 

 

 少々困った様子ですずかがその場の全員に尋ねる。

 

 彼女たちはいつもバス停の少し前で集合し、そこから皆でバス停まで移動するようにしていたため、そろそろ移動を開始しないとバスの時間に間に合わないのである。

 

「うーん、流石に士郎さんが寝坊を許すとは思えないんだけど……」

 

 なのはの道場で稽古をつけて貰っているフェイトとしては、あの高町士郎がなのはの寝坊を許すとは到底思えず、首をかしげると遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

 

「みんな~~~~」

 

 

 

 女子中学生にしてはかなりの速度で走ってくるその姿。

 

 栗色の長髪を頭部の横でまとめるサイドポニーテールの形で結びんだ少女。

 

 

「ふぅ。おはよ~~~」

『おはよう。なのは(ちゃん)』

 

 走って近づいてくると、息を整えたのちに挨拶をするなのはにたいして、5人が一斉に挨拶を返す。

 

 

 こうして聖祥6大美少女が揃って和気藹々とバス停へと足を運んだ。

 

 

 

 *****

 

 *****

 

 

 

『これより、聖祥付属中学校の入学式を開始いたします』

 

 そうして6人が登校してから少しすると入学式が始まる。

 

 フェイトにとっては人生で2回目の大規模な式であり、人一倍式に集中しているが、そもそも私立中学校である聖祥付属中学校は近辺ではお嬢様校であると認識されており、それにふさわしい教育環境が整っている。

 

 そのため、新入生・在校生ふくめ、一般の入学式を想像するような気もそぞろな生徒は居らず、式は恙なく進行していった。

 

 

『続きまして、新入生代表挨拶』

 

 

 そして式は新入生代表挨拶へと進む。

 新入生の中で最も優秀である学生が代表となる新入生代表挨拶であるが、フェイト達の学年で最も優秀であり卒業生代表もつとめたアリサは今回登壇しない。

 

 これは聖祥の伝統であり、入学式の代表は途中入学者からのみ選出され、入学試験の成績のみが選考対象となる。

 

 そのような理由により、今回登壇する人物は学生達にとっては知らない人物である事が多い。

 

 

『新入生代表、ディアーチェ・(キングス)・クローディア』

「はい」

 

 

 そんな中登壇した人物に見覚えがある者は新入生の中で多く、これまで静かに進行していた入学式が始めてざわつき静寂を破る。

 

 しかし教育の行き届いた生徒達は注意されるまでもなくざわつきは鳴りを納める。

 

 

 新入生をざわつかせた人物は、まず美しかった。

 

 中学生にしては高めの身長、毛先が黒へと変わる不思議なグラデーションのある銀髪。

 

 理知的で、勝ち気な印象を与える切れ長の目。

 

 そして登壇するまで、そして壇上に立ち会場を見渡す堂々たる姿。

 

 まるでこのような場は慣れていると言わんばかりの風貌には一種のカリスマ性すら感じる。

 

 

 

 しかしその程度でここまで明確なざわつきは起きない。

 

 確かに名前や風貌から外人であることが伺えるため、普通の学校で登壇したらざわつきも起きるだろう。

 

 しかし聖祥付属小には卒業生代表もつとめたアリサ・バニングスがおり、新入生の9割を占めるエスカレーター組に彼女を知らぬ者は居らず、外人にも慣れている。

 

 しかし今回のざわつきは、新入生の過半数以上、エスカレーター組が驚きのあまり漏らした言葉が集まりざわつきとなったモノ。

 

 

 そう。あまりにも、あまりにもディアーチェ・K・クローディアは()()()()()に顔立ちが似すぎていた。

 

 外人のような風貌だがその顔はあまりにも、日本人的であり、そして新入生の中での有名人に似すぎていた。

 

 

「(なのは! はやて! あれって……)」

 

 

 そんな驚きをフェイトは念話で友人、なのはとはやてへ伝える。

 魔法少女の職権乱用であった。

 

 

「(うん。私も驚いちゃった。ううん思い出した)」

「(私もや。今頭がスッキリしたで、あれ()()や)」

 

 そうした三人の脳内会議は満場一致で結論を下す。

 

「(この世には三人同じ顔がおるらしいとは言え、流石にディアーチェって名前で私に似てる人間が二人もおるなんて考えられへん)」

 

 三人が念話で会議を続ける中新入生代表挨拶は、目立ったこともなく定型文を並べた言葉により恙なく進んでいく。

 

「(ただ思い出した王様とギャップがあるというか、ちょっと大人しいと言うか……。大人になったんかな)」

 

 ついそんな雑談を念話してしまう程に目の前のディアーチェははやて達の印象とはかけ離れていた。

 

 ぶっちゃけはやて達にとって、特にはやてにとってディアーチェの印象は初見の印象が強く、登壇した後高笑いと共に学園征服の宣言でもしてもおかしくないという印象しかなかった。

 しかし、目の前のディアーチェは高笑いもしなければ変な発言もせず、大人しくなったと感じられる。そして何より、明らかにはやてより()()()()()()

 どことは明言しないが、色々と。

 

『――以上。新入生代表、ディアーチェ・K・クローディア』

 

 

 そして新入生代表挨拶が終わりディアーチェは降壇する。

 

 はやてやなのははその姿や言葉に変な部分がないか集中していたが、フェイトは集中していなかった。

 それどころかその後の式にすら集中していなかった。

 

 魔導師として鍛えられたマルチタスクによって、端から見ただけではそのように見えないがフェイトの頭はあることでいっぱいであった。

 

――ディアーチェが()()()()()のなら……、だったらあの子も!

 

 今まで()()()と別れた正確な理由は、頭に霧がかかったように思い出す事ができなかった。

 ただフェイトはこの3年と少し、()()()との約束だけを信じて待ち続けていた。

 

 どこへ行ったのか、誰と行ったのかすら思い出す事ができなかったが、『絶対に帰ってくる』という言葉を、絶対に守ってくれるという確信だけで、これまで過ごしてきた。

 再開したとき、誇れる自分であるように、と。

 

 

 

 

――レヴィが、帰ってきた!

 

 

 

 早く会いたかった。

 

 式の時間も、退場の時間も、自分のクラスでの担任との顔合わせも、何もかもが焦れったくて、終わる時間が待ち遠しくかった。

 

 

 

 だからHRが終わり解散となった瞬間に駆け出した。

 

 自分のクラスに見覚えのある鮮やかな水色は無かったから。

 

 

 荷物も、同じクラスになったなのはとアリサも置いて、一目散に駆け出した。

 

 

 聖祥付属中学校は小学校と違い男女別棟での教育環境となっており、実質女子校である。

 そのため、途中入学を受け付けても一学年のクラス数は多くない。

 

 今年の新一年生のクラス数は全部で4クラス。

 

 そして聖祥6大美少女は3人ずつの別クラスに別れ、自分と姉は別クラス。

 

 混同を避けるため双子等はクラスを別々にする事が多いらしく、そのようにクラスを決められて居るならば残りは2クラス。

 

 

 あの子がレヴィであるなら。

 

 レヴィ・()()()()()()であるならば、自分とも姉とも別のクラスであるとの予想。

 

 

 

 

 一つ目のクラス。

 

 

 勢いよく放たれた扉の音に中にいた全員の動きが止まる。

 しかもやってきたのは小学校時代の有名人の一人。全員の視線が集まるが、フェイトは集まる視線に頓着せずクラス内を一瞥する。

 

――いない!

 

 

 そう判断するや否や全速で次のクラスへと向かう。

 

 勢いよくやってきたと思ったら全力疾走で消えるフェイトに、覗かれたクラスにいた少女達は訳も分からず困惑するばかり。

 

 

 同じことがもう一つのクラスでも行われる。

 

 

――ここにもいない!? なら、どこに……!

 

 

 鬼気迫る雰囲気のフェイトに出入り口に立たれ、困惑する少女達を尻目に、フェイトは考える。

 

 もはやディアーチェが別人であるという可能性も、レヴィが帰ってきていないという可能性もフェイトの頭の中には無い。

 

「あ、あのフェイトさん……」

「あっ!!」

 

 偶然6年生の時に同じクラスであり、顔見知り程度の仲の少女が人柱とされフェイトに声をかけたその瞬間、フェイトに電撃が走る。

 

 そしてその直感に導かれるまま後ろへ振り返り、()()()()()()()()()()()

 

「えぇ……」

 

 意を決して話しかけたら大声を上げ、そのまま()()3()()から身を投げたフェイトの姿。

 そんな状況を、声をかけた少女の脳味噌は処理しきれず眠るように倒れる。

 

 

 入学初日の身投げと意識不明者の発生に騒然となる校舎。

 

 

 

 

 そんな大事件を起こしていると気付かず、意にも止めず、フェイトは空を駆ける。

 

 

 

 魔法の隠匿など知らぬ。

 

 魔法の規定区域外での無断使用など知らぬ。

 

 

 

 

 フェイトにとってレヴィより大事な事など、もう有りはしないのだから。

 

 

 なのはやはやてから送られる念話も気にもとめず。

 

 姉からの電話で鳴り響く携帯にも気付かず。

 

 

 まさに一心不乱。

 

 

 フェイトは真っ直ぐ、空という直線にして最短距離を最速で移動する。

 

 直感に従い、海の方へと突き進む。

 

 

 

 その日、快晴であった海鳴市で、雷の音を聞いた人が続出した。

 

 一部では真横に迸る稲妻を見たと証言する者までいた。

 

 

 

 そんな一歩間違えれば都市伝説や異常気象などの騒ぎになっていることなど露知らず、フェイトは目的の場所へと降り立つ。

 

 ――――その日、快晴であるにも関わらず海鳴臨海公園に雷が落ちた――――。

 

 

 降り立ったフェイトは走る。

 

 確信があった。

 

 

 なぜなら、ここは自分にとって特別な場所だから。

 

 

 数々の別れを経験してきた場所だから。

 

 

 

 

 だから、彼女ならここにいると確信していた。

 

 

 

 鮮やかな青が見える。

 

 

 雲一つ無い澄み渡る空の青。

 

 波一つ無い透き通る海の蒼。

 

 

 

 それらよりも明るく、爽やかで、透き通った――水色。

 

 

 

――知っている色、しかしその髪型は知らない。

 

 

 

「ここからの景色に、あまり良い思い出は無い」

 

 

 

 その人物は誰に話しかけるわけでもなく、しかし近づくフェイトに聞こえるように喋り出す。

 

 

――聞き覚えはある、しかし記憶にはない声。

 

 

「ここはずっと、別れの場所だったから」

 

 

――見覚えのある、しかし見たことはない背中。

 

 

()()にとってはそんな場所」

 

 

――良く知った一人称。

 

 

 

 

 声は、自分とよく似ていた。

 

 少しハスキーだが、自分と良く似た声質。

 

 

 

 後ろ姿はとても大きかった。

 

 今の自分より頭半分以上、一つまでとは言わずともそれほどには大きい、女性にしては高身長な背丈。広い背中。

 

 

 

 フェイトは男子以外でその一人称を使う女性を知らない。

 でも、生まれたその時から3年以上もの間、ずっと一緒だった大切な人の、一人称だった。

 

 

 

「キミにとっても、それは変わらない」

 

 

 

 初めて目の前の彼女は明確に誰かへと、見えていないはずのフェイトへと語りかける。

 

 その女性の言うとおり、フェイトにとっても、この場所は良い思い出があるとは言い難い。

 

 ずっと、別ればかりを繰り返してきた場所だから。

 

 

 ――だから

「だから」

 

 フェイトの思考と、女性の言葉が被る。

 

 

 その言葉の続きを言うのはフェイト――。

 

 

「だから、君はここにいる」

 

 フェイトの言葉の続きを言うのは女性――。

 

「良い思い出を、別れじゃない、出会いの思い出をキミに上げたかった」

 

 

 わかっていた。

 だからフェイトはここに来た。

 

 

 彼女なら、あの子なら、愛しい君ならそうすると、そうしてくれると思ったから。

 

 

 

「レヴィ」

「フェイト」

 

 

 

 目の前の女性が振り返る。

 

 切れ長で凛々しい目つき。

 

 スラッとしながら、メリハリのついた身体。

 

 爽やかな水色の髪を、うなじの部分でひとまとめに結んだ長髪。

 

 パンツスーツに薄手のコートを纏うその姿は、フェイトよりも高い身長もあり大変大人びて見える。

 

 

 それでも、間違えようがなかった。

 

 待ちわびた人だった。

 

 

「レヴィ!」

 

 フェイトが駆け出す。

 

 

 万感の思いを弾けさせる。

 

 

「フェイト」

 

 レヴィが、駆け出すフェイトを優しく待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり! レヴィ!」

 

 

 

 

 

 二人の影が重なり――――

 

 

 

 

 

「ただいま。フェイト」

 

 

 

 

 ――――――わかれてた二つが、ふたたび一つになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

――新暦XX年。

 

 

 

 

――――次元宇宙のどこか、某管理外世界。

 

 

 

 そこに作られた拠点内にアナウンスが響き渡る。

 

『それではこれより作戦『L-A』を開始します。職員は所定の位置に着いてください」

 

 その言葉により整然としていた内部の人影は慌ただしく動き出す。

 

 ある者は戦闘準備をはじめ。

 

 

 あるものは機器に不備が無いかの最終確認をする。

 

 

 

 そんなある者に、声をかける者もいる。

 

 

 

「執務官殿」

「――提督」

 

 

 声をかけたのは整った顔立ちの美丈夫。その顔に似合わず、声は低く厳かにも聞こえる。

 

 そんな()()に声をかけられたのは、これまた顔立ちの整った美女。

 

 いつもは優しくおっとりたした雰囲気を纏う女性だが、これから戦場へと征くその雰囲気は凛々しく、荒々しい。

 

 

「すまないな、予定より大分長引いてしまって」

「あー、そうですね。まぁしょうがない、ですから」

 

 

 提督と呼ばれた男性の言葉に、執務官殿と呼ばれた女性は複雑な表情を浮かべる。

 

 確かに予定以上の任務――つまるところ残業に付き合わされている訳だが、予定外だからといって拒むこともできない。

 なぜならここは管理外世界にして、魔導テロリストの本拠地なのだから。

 

 

 そのテロリストの一斉検挙に向けての任務、出張である。予定が長引くことなどよくあることであった。

 

 

 しかし、それでも黒髪の提督は、何房か白のメッシュの入った金髪の執務官へと申し訳なく思っていた。

 

 

「しかし、もうすぐだろう。君の娘――ヴィヴィオの誕生日は」

 

 

 そう、クロノ・ハラオウン()()にも子供がいるために、フェイト・テスタロッサ()()()の娘の誕生日に間に合わないかもしれないスケジュールになってしまったことを、大変悔やんでいた。

 

 

「あー、まぁそうですけど。今日の昼までに全員一人残さず逮捕して、今日中に証拠押さえられれば、ギリギリ当日中には間に合いますから」

 

 

 そういうフェイトだが、クロノにはそれは不可能であることは百も承知であった。

 

 相手もバカではなく管理局が乗り込んでくることは予想されているだろうし、抵抗も激しいだろう。

 

 なぜなら相手は魔導テロリスト。つまるところ、魔導師なのだから。

 

 

「しかし、それは――」

「だから」

 

 

 だからクロノが無理であると、そう言おうとした瞬間、フェイトの側に光の渦が表れる。

 

 

 その渦は徐々に収束していき人影を形作る。

 

 

「申し訳ないんですけど、助っ人を呼びました」

 

 

 

 その人影はフェイトとほぼ同じ背格好の女性であった。

 

 

 背丈はフェイトより数センチほど大きいか。

 

 スタイルはフェイト同様整っており、すらりと長い手足の印象もあり大変凛々しく見える。

 

 

「君は――」

「や、久しぶり。クロノ」

 

 

 毛先が濃紺へと変わるグラデーションをした爽やかな水色の長髪を、うなじの部分で一纏めにして流しただけの髪型。

 パンツスーツ紺色のコートを纏うその顔は、まさにフェイトとうり二つであり、男装の麗人といっても過言ではない。

 

 

「レヴィ」

 

 

 その予想外の人物の登場にクロノもさすがに驚く。

 

 レヴィの戦闘力は承知であるため、たしかに強力な助っ人ではあるが、彼女は管理局員では()()。さすがに依頼もしていない局員外の魔導師を任務に参加させるわけにはいかなかった。

 

 

「まぁまぁ。大丈夫です。レヴィは戦いませんから」

 

 クロノがそういうであろうと予想しているかのように、クロノが声を上げる前にフェイトが先手を打つ。

 

 

「ボクだけの特殊技術(レアスキル)で、ボクはフェイトとユニゾンするから。実際にはフェイトだけが戦うことになるよ」

 

 そもそもが、この場に転移してきたのだってレヴィの用いる()()()()()()()によって、魔力反応を検知させない転移を行い現れたのである。これでフェイトとユニゾンしてしまえば、公式には()()()()()()()()()()()()()()()という扱いも難しくはない。

 

 

 それはわかる。理屈上は理解はできる。

 

 

 理解できることと、納得できる事は全くもって関係ないのだが。

 

 

 

「―――っ。……わかった」

 

 

 

 クロノは無理やり自分を納得させた。

 

 もともとフェイトの貴重な有給取得のタイミング――本来であればフェイトはすでに有給を用い自宅に居るはずだった――を失くしてしまった負い目もある。

 

 

 だから、クロノは無理やり自分を納得させた。

 

 

「あぁ、君が関わるといつも僕の腹痛は酷くなる……」

 

 

 そう愚痴をこぼすと「あとは任せておけ」と言ってクロノは足早にその場を離れる。

 

 よほどレヴィと長時間顔を合わせるのがキツイのか、それとも最近手元を離れていた胃薬を取りに行ったのか。

 

 

「あはは、クロノには悪かったかな」

「いいよ。クロノがもっとしっかりしてればこんな()()()で任務をすることも無かったんだし。自業自得」

 

 

 昔からクロノ迷惑をかけていたことを思い出し、申し訳なさを感じるレヴィと、自分の予定を狂わされた腹いせができてご満悦のフェイト。

 

 

 姿は似ている二人だったが、その中身は似ても似つかない。

 

 

 

 だから、二人は支えあう。

 

 

 

『テスタロッサ()()()()()。そろそろ出撃時間が迫っています』

「ごめん。すぐ向かうね」

 

 

 執務官補佐からの催促に謝り通信を切ると、フェイトはレヴィの手をとる。

 

 

「行こう、レヴィ」

「うん。行こう、フェイト」

 

 

 

 

 二人は両手を握りあい、額をくっつけあう。

 

 

 

「エンゲージスタート」

 

 

 

 そして改良に改良を重ねた祝詞を唱える。

 

 

 

「コネクティング→『フェイト』」

 

 

 分かたれた二人が一つになる、魔法の力。

 

 

「コネクト『レヴィ』アクセプト。リターンコネクティング→『レヴィ』」

 

「コネクト『フェイト』アクセプト」

 

 

 

 たとえ物語(うんめい)が二人を分割(わか)つとも

 

 

 

 

 

『システム《リンクド・フェイト》ドライブイグニッション』

 

 

 

 運命(フェイト)は二人の絆をまた結ぶ。

 

 

 

 

 ***********

 

 

 

 

『おまたせ」

 

 出撃エリアに『フェイト』が表れる。

 

「――あ、テストロッサ……執務官?」

 

 出撃要因の最後の一人を見て、武装局員の一人は困惑の表情を浮かべる。

 

 

 彼が見たことのない姿だったから。

 

 

 

 白いメッシュがあった部分は今は水色のメッシュへと変わり、その瞳は鮮やかな紅と蒼の虹彩異色へと変わっている。

 

 

 

 そして、うっすらと身体に纏う()()()

 

 

 ここ数日同じ艦で過ごし、ドキュメンタリー番組などでも何度も見る憧れの人の、初めて見る姿だった。

 

 

『準備はできてる?』

「あ、はい! 皆準備完了しています!」

 

 

 側にいた局員は、フェイトの見慣れぬ姿に見惚れていると、当の本人から声をかけられ、慌てて返答を返す。

 

 

『ん、ならサクッと行こう。(ボク)が容疑者を無力化するから。皆は捕縛。できるね?』

『了解!』

 

 

 

 

 

『それじゃぁ、行こう』

 

 

 

 

『フェイト』がそう宣言し、突入が開始する。

 

 

 

 

 しかしそれは『フェイト』以外のすべての局員の予想を上回りあっさりしたものだった。

 

 

 

『フェイト』魔法陣を展開し、容疑者の拠点へとデバイスを向けると――

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 機械は動作を停止し、魔法は効力を発揮せず。

 

 

 そうしてあらゆる防護手段がなくなった施設の中へ、『フェイト』は当然のように歩き出す。

 

 

 

 その歩みは何物にも阻まれない。

 

 

 隔壁は下りず。

 

 

 自動迎撃装置は起動せず。

 

 

『フェイト』の前に立つ者は魔法が使えず。

 

 実弾兵器は『フェイト』へ向けた瞬間にバラバラに()()し。

 

 

 『フェイト』へと突き立てた刃は、その嫋やかな指に掴まれると、()()する。

 

 

 そうして無防備になったテロリスト達は順番に局員に捕縛されていく。

 

 

 そんな中でも局員たちは魔法が使えた。道具が使えた。

 

 

 

『フェイト』に敵対する者のみ、何もすることを許されず。

 

『フェイト』に味方する者は、何も阻害されない。

 

 

 一方的な場面だった。

 

 ここまで一方的な戦闘はない。もはや戦闘ではない。

 

 

 

『フェイト』は歩く。施設の最奥へと向かって。

 

 

 そこには、隠し扉があったのであろう場所を何度も叩き、動作しないことに悪態をつく、羽振りのよさそうな男性がいた。

 

 

『あなたを、次元法第――条、テロ禁止法に基づき逮捕します』

 

 

 その男性に向けて、『フェイト』は淡々と言葉を放つ。

 

 

 事務的に、なんの感慨もなく。

 

 当然のように。

 

 

 

 

 ***********

 

 

 

「ヴィヴィオー! ただいまー!!」

「フェイトママー!」

 

 ある家庭に和やかな言葉が響き渡る。

 

 娘がつい最近まで出張していた母を出迎える温かい光景が広げられる。

 

 

「ヴィヴィオ、ただいま」

「レヴィパパもおかえりなさい!」

「おつかれ、フェイトちゃん。大変だったね」

「ありがと、なのは。でもレヴィのお陰でちゃんと帰ってこれたから」

「そうだね。レヴィちゃんと一緒だもんね」

「フェイトママを連れ帰って来てくれてありがとう! パパ!」

「ん? うん、やっぱり誕生日は当日に祝いたいからね。心配かけちゃったかな」

「ううん。パパと一緒のフェイトママは凄いから、心配してないよ」

「うん、レヴィと一緒なら『最強』だからね」

「あー、それは聞き捨てなら無いなぁ。今んとこフェイトちゃんには47勝45敗54引き分けで私の勝ち越しなんだけどなぁ」

「むー。レヴィと一緒ならなのはなんかに負けないもん」

「うーん、それはズルだと思うからなのはとの一騎打ちにはボクは手を貸さないからね?」

「フェイトママずるっこー」

「えぇ~~。レヴィもヴィヴィオもひどいよ~」

 

 

 

 

 

 そんな、温かい団欒の光景が、繰り広げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レヴィ×フェイト=

 

 

 

 

それは運命と絆の物語

 

 

 

 

 





これにて本当の本当に完結。


フェイトを幸せにしたかった少女レヴィと、レヴィに幸せにされた少女フェイトのお話は終わり。


どんな艱難辛苦が待ち受けていても、二人の絆を分割つことはできず。



どんな時でも二人が一緒なら。

絶対に二人は幸せである。




そんな世界が、続いていくことでしょう。



作者の後語りは、本日のお昼ごろに最新話としてUPします。

チラ裏的な裏設定、未来設定とかそういうのがメインの雑記の予定ですので興味がある方見てやってください。

それでは最後に感謝の言葉で本編は締めさせてはいただきます。

「魔法少女リリカルなのはL×F=」をここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


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