魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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 大変長らくお待たせいたしました。
 GOD編3話ブリーフィングというか、状況確認のための回です。



GOD編第3話 「Briefing of [Arthra]」

 

「フェイト、テスタロッサァァアアアァァァアアアアァァァッ!!!」

 

 慟哭が響く。

 

 ユーリ(U-D)が転移によって姿を消した上空は恐ろしいほどに静まり、先ほどまでの激闘の痕跡すらない。

 

 

 

 いや、痕跡はあった。自分と瓜二つの少女を抱きかかえるフェイトの腕の中に。

 

「いや、いやだよ……レヴィ……」

 

 フェイトはただ震えることしかできなかった。現実が直視できなかった。自分の最愛の家族が()()()()()でこのような姿になっているのだと信じたくなかった。

 

「フェイトォ! 離れろ! レヴィから離れろ!!」

 

 静かなはずの空に慟哭を上げるシュテル。意気消沈としているフェイトとは対照的に、彼女はいつもの様子からは想像もできないほどに怒り狂っていた。

 

「落ち着け! シュテル!」

 

 今にもフェイトに掴み掛りそうな勢いのシュテルをディアーチェが羽交い絞めで抑え込む。

 今のシュテルは抑え込まれている事にも目もくれず、怒りに我を忘れて暴れていた。

 

 

「なんやけったいな事になっとるな」

「ほらほら~、シュテルちゃんも落ち着いてね~」

 

 

 そんな状況に、離れた場所から戦闘を見守っていたはやてとキリエが駆けつける。

 

「小鴉! 貴様はまずレヴィの方を」

「わかっとる。リインがもう応急処置始めとるよ。アースラにも連絡入れたから、直ぐにでも跳べるで」

「背に腹は代えられんか。キリエ! シュテルを落とせ、一回頭を冷やさせる」

 

 はやての言葉にディアーチェは素直にうなづくとキリエに指示をだす。

 

「はいはーい」

 

 ディアーチェの指示を聞くと、即座にキリエは自分の武器の銃床でシュテルの後頭部を強く殴りつける。

 

「さて、うるさいのも黙ったし、レヴィもそちらに連れていかれた。早く貴様の拠点に連れて行ってもらおうか」

「なんや不気味なくらい素直やな」

 

 素直にうなづいたディアーチェにはやては怪訝な顔を浮かべながら、転移魔法の準備をする。

 

「こちらにも事情があるのだ。詳しいことは人を集めてから話す。何度も説明するのも手間だしな」

「まぁわかったわ。それじゃぁ跳ぶで」

 

 納得しきれていないが、重要参考人がついて来てくれるというのには文句も無く、はやてはディアーチェと気絶したシュテルを抱えたキリエを連れ、アースラへと転移した。

 

 

 

 

 ****

 

 

 ****

 

 

 

 

 アースラへと転移したディアーチェ達を待っていたのは当然、アースラ付き執務官であるクロノ・ハラオウンであった。

 

「さて、ロード・ディアーチェだったか。早速だが君たちについて、そして君たちが戦っていたあの少女について話してもらおうか」

 

 広々とした一室に人が集められディアーチェに対しての事情聴取が行われる。

 クロノとディアーチェの他に同席しているのは、同じく参考人であるキリエ。意識を失っているシュテル。記録官として執務官補佐のエイミィ。ディアーチェ達を連れてきたはやてとリインフォースとなっている。

 

 

「ふむ、まぁ長くなる故、こちらの話が終わるまで質問などは控えていただきたい」

 

 ディアーチェの言葉にクロノが頷くのを確認し、ディアーチェは語りだす。

 

 

 自分たちが闇の書に囚われていたエグザミアの構築体(マテリアル)であること。現在現れている、やたらダウナーな魔導師達は、自分たちの復活に合わせて現れた闇の書の蒐集データの残滓であること。自分たちが戦っていた少女、ユーリの事。エグザミアとはなんなのか。

 

 

 

 それらを一通り語り終えるとディアーチェは一息つく。

 

 

「んぅ」

 

 そのタイミングでちょうどよくシュテルが呻き、目を開く。

 

「おぉ、目が覚めたか、シュテル」

「王……ここは……っ! レヴィは!?」

 

 そういいながら勢いよく体を起こすシュテル。そのシュテルに対しはやてが声をかける。

 

「レヴィちゃんなら無事やで。今は医務室でよう眠っとる」

「……八神はやて……それにクロノ・ハラオウン。そうですか、ここはアースラですか」

 

 シュテルの視線を受けディアーチェが説明を始める。

 

「レヴィも緊急とは言えここに連れられ、貴様は錯乱していた。あの状態ではここに来ないのはむしろ悪手だった」

「……」

 

 ディアーチェの言葉で自分の醜態を思い出したのか、シュテルは苦虫を噛み潰したような表情をしながらディアーチェから視線を外す。まっすぐ見つめてくるディアーチェがまるで自分を責めているようで、直視できなかったのだ。

 もちろん、ディアーチェはシュテルを責めるつもりはない。

 

「この状況では仕方がない故、事情を話し協力を仰ぐつもりであった。今こちらの状況と事情。我々が何者なのかの説明を終えたところだ。貴様もわかっていよう。小鴉達の手を借りた方が余程事は上手く進むはずだと」

「ですがっ彼らは!」

「確かに、我等の事情に他者を巻き込むのは心苦しいが、もうそういう状況ではないのだ。想定外の事とはいえ、レヴィは現在戦闘不能になり、ユーリも見失った。それにまだ対抗プログラムも完成していない。このまま三つ巴を続けていれば最悪の状況になる可能性すらある。故に我々は現時点より時空管理局巡航艦アースラ乗組員、および嘱託魔導師に協力を要請する。まぁ、虫のいい話ではあるが、な」

 

 ディアーチェの言葉は合理的であり、確かに最初のシュテルの献策は非合理的であった。いくら事情があろうと、少なくともレヴィと交友のある現地の魔導師たちには話を通しておくべきであった。

 シュテルもそのことに気付いているがゆえに、ディアーチェから視線を外したまま、ディアーチェの言葉に頷く。

 

「わかり、ました。王の御言葉のままに」

「うむ。キリエも、それでよいな」

 

 シュテルの言葉に応用に頷くと、ディアーチェはキリエにも確認を取る。

 

「まー、しょうがないって感じよね~。あー、やだなー。アミタに怒られるんだろうなぁ……」

 

 自分を待ち受ける未来を思い浮かべ、キリエも肩をすくめながら大きくため息をつく。

 

「さて、こちらはそんな感じだ。話を中断させてすまなかったな」

「色々と聞きたいことがあるが、まず、こちらに協力を要請する、というのは」

「うむ。まぁはっきりと言えば我等、ユーリ、貴様等の三つ巴の状況になってしまえば、全てユーリに蹂躙されて世界が滅びるだけだ。そして我等紫天のマテリアルズを1基でも失えば、ユーリを止めるには存在する世界諸共虚数空間に吹き飛ばすしか方法はない。絶対に破壊できない闇の書の真なる闇。故にUnbreakable-Dark(砕けえぬ闇)

「つまり、僕達は君たちに協力するか、さもなければ彼女が地球にいる内にアルカンシェルを打ち込まないと行けない、ってことか」

 

 クロノのその言葉にディアーチェは意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「アルカンシェルでユーリが破壊できるなら、な」

 

 ディアーチェのその言葉にクロノはディアーチェを睨みつける。

 

 そうしてしばしにらみ合い続ける二人の間に、空気に耐えかねたのかはやてが割り込む。

 

「まぁまぁ! わたし達としても地球毎吹き飛ばされるのは止めて貰いたいし、一先ずなんとかできる手段があるなら手を取りあお? な?」

 

 はやての言葉にディアーチェは笑みをより深くし、対してクロノはあきらめたように大きく息を吐いた。

 

「はっはっ! 小鴉にしては大局が見えているではないか」

「まぁ仕方がないだろう。元からアルカンシェルは最終手段だ。使わないに越した事は無い」

 

 二人のその言葉にはやては明るい笑みを浮かべクロノとディアーチェの手を取り、重ねあう。

 

「ほなこれからは仲間ゆうことで、よろしくの握手!」

「よろしく頼むぞ、執務官殿」

「よろしく頼む。闇統べる王(ロード・ディアーチェ)

 

 はやての言葉で二人とも笑みを浮かべながら手を握り合う。

 

 

「さて、話も纏まった所で早速対策を、と言いたいがその前にレヴィに合わせてくれんか」

 

 手を放すとディアーチェは立ち上がり、体を伸ばしながら言う。その言葉にクロノは少々乗り気ではない口調で答える。

 

「それは別にいいが、なるべく早く方針や作戦を詰めたいのだが……」

「そう急くな執務官どの。しばらくは転移したユーリの捜索と闇の書の欠片の処理に追われることになる。その間にユーリをどうにかする手段を用意する必要がある」

「王、そちらは私にお任せを。想定外の乱入によりデータは少々足りませんが、それは時間、もしくはアースラのスタッフを借りれば十分挽回が効きます」

 

 ベッドから立ち上がりながらそう言うシュテルの瞳には理知の光が灯っており、気絶させられる直前の狂乱はかけらも見当たらない。

 

「よし。シュテルも調子を取り戻したようだし、ユーリをなんとかする手段はこちらで用意できよう。しかしそれもレヴィがいてこそ、だ。ゆえにまずはレヴィを起こすぞ」

 

 ディアーチェは一方的にそう言い放つとクロノたちを置いて、部屋を後にする。

 

「おい! 勝手に話を進めるな!」

 

 立ち去るディアーチェの背中に向けてクロノが声を荒げるが、その隣を通り過ぎるように人影が移動する。

 

「それでは私も先に失礼させていただきます、ハラオウン執務官」

「わたしも先にいっとるよ~」

「すまないな、執務官殿。先へ行っている」

「若いころからそんなプリプリしてると苦労するわよ~。じゃぁね~」

 

 順にシュテル、はやてと車いすを押すリインフォース、そしてキリエが、各々クロノに一声かけるとディアーチェの後を追うように、部屋を後にする。

 

「くそっレヴィに関わることは碌なことがない!」

 

 そんな本来ホームのはずのアースラで不当にぞんざいな扱いを受け、クロノは悪態をつきながらも先に歩いて行った少女らを追い、速足で医務室へと向かうことにした。

 

 

 

 ***

 

 

 ***

 

 

 

 ディアーチェを先頭にした一行が医務室へ赴くと、中からはかすかに人の話し声が聞こえてきた。

 それに構わず、ディアーチェが扉を開けると、そこには眠っているレヴィを挟みながらも、明るく話すアミティエ・フローリアン――アミタと、フェイトの姿であった。

 

「……」

 

 その光景を前に無表情であるシュテルの顔が少し歪む。それはディアーチェぐらいでしか感じ取れないわずかな変化だったが、不機嫌になったシュテルが醸し出す雰囲気がガラリと変わった。

 それに気づいたからか、はたまたディアーチェが開けた扉の音に気付いただけか、扉に背を向けていたフェイトが振り向くと同時に、表情を暗くさせた。

 シュテルを見慣れていないフェイトですら感じれるほどに、今のシュテルからは不機嫌なオーラが漏れ出ていた。

 

「あ、えっと」

「なにか」

 

 口を開こうとしたフェイトに対してシュテルが強い語気で応える。その対応にフェイトはシュテルから顔をそらしうつむいてしまった。

 ――のは一瞬で、すぐさま顔を上げると、先ほどまでとはうって変わって困ったような苦笑を浮かべながらフェイトが口を開く。

 

「まぁそう怒んないで上げてよ、フェイトも反省してるしさ」

 

 その瞳は本来のフェイトの紅色の瞳ではなく、澄み切った快晴の空のように鮮やかな青色になっている。

 

「ほら、レヴィこう言っているのだ。そう目の敵にしてやるな」

 

 そう。フェイトではなく、レヴィがシュテルに言葉をかけるのに乗じて、ディアーチェもまたシュテルに声をかける。

 

「えぇ。わかっています。これから協力体制をとる中で不和は起こさない方がよいと理性では理解しています。ですが、度し難いですね。私はこれほど自分の感情が手に余るとは思ってもいませんでした」

 

 ディアーチェにも散々言われ、被害を受けた当人であるレヴィですら許しているのに、自分だけがフェイトを許せないでいる。そんな本来人として当然であるはずの反応が、人ではない、マテリアルであるシュテルにとっては理解に苦しむ反応であった。

 

「ホントに、ごめんなさい!」

 

 目の前の金髪の少女が大声をあげて頭を下げる。

 頭を下げているが故に瞳の色はうかがえないが、雰囲気から察せる。いまの謝罪はフェイト本人のものである、と。

 

 そうして頭を下げ続けるフェイトの頭をシュテルは一睨みすると、大きく息を吐きだして肩の力を抜く。

 

「わかりました。今は個人の感情より全体の利をとりましょう」

 

 その言葉に反応し顔を上げるフェイト、その表情はすこし明るい。

 

「しかし! あなたの蛮行のせいで我々の計画は頓挫し、ひいてはレヴィを失ってしまった可能性すらあるのです! それは努々忘れないようにしてください!」

「うん。それに関しては本当にごめんなさい。本当に、周りが見えてなかったから。もう2度と起こさない」

 

 その言葉を放ったフェイトの瞳には理知の光が宿り、凛とした雰囲気を感じる。

 

「なら良いです。申し訳ありません、王。それに執務官殿も。個人の事情に突き合わせてしまいました」

 

 自分とフェイトとの確執のせいで、短くない時間クロノやはやて達を入口で立呆けさせてしまったことにシュテルが謝る。

 

「いや、構わない。後々の懸念を解消しておくのは大事なことだ」

「せやせや。みんな仲良くが一番やしな」

 

 謝ったシュテルに快く答えながら、クロノとはやても医務室へと入室する。

 

 

 そうして、全員が眠っているレヴィ(の体)の周りに椅子を持ち出し集まることとなる。

 

 隣のベッドにアミタ。

 そのそばにキリエ。そしてそれからレヴィを囲むようにディアーチェ、シュテル、はやてにリインフォース、クロノにフェイトと、騒然たるメンバーが医務室にあつまっていた。

 

「正直手狭だな……」

「ま、まぁあれだしょうがなかろう! まだアミタも復調しておらぬしな!」

 

 クロノがつぶやいた言葉に各々が心の中でうなづきつつ、医務室へ誘導したディアーチェは少々焦ったように言い訳をする。

 しかしその言葉に誰もが反応しなかったのを感じ、おおきく咳払いをし無理やり空気を変えた。

 

「さて、まずは今後の方針の前に、我らの計画を話しておこう。ユーリ・エーベルヴァインを正常に戻し、我らが無限連環結晶エグザミアを完成させる計画を……」

 

 空気をなんとか変えたディアーチェは語る。自分たちマテリアルズの目的とそれを達成するための方法を。

 

 

 1、U-D復活に合わせて準備を進めてきた解析をかけている間、レヴィがU-Dの足止めおよび戦闘方法の確立を行う。

 2、U-Dの防御プログラムの解析が終了したら、ディアーチェとシュテルは即座に戦線を離脱。レヴィが足止めを行い、機を見てレヴィも離脱。

 3、U-Dからつかず離れずの位置にて、解析した防御プログラムを弱体化させるウィルス、および突破するための強化プログラムを作成し、3人にインストールを行う。

 4、万全の状態を整え、ウィルスプログラムを打ち込んでから、全力をもって即座にU-Dを鎮圧。ディアーチェが紫天の書に保管されているエグザミアの制御プログラムを打ち込み、ユーリ・エーベルヴァインを紫天の盟主として再登録し、正気を取り戻させる。

 

 

「以上が我らの計画の概要だ。最大の障害は最終段階の即座にU-Dを鎮圧、という箇所だったが。この状況では上手く進むことができればそれも改善できよう」

 

 そこまで言うとディアーチェは少し息を吐き一心地つく。

 

「なるほど、つまり僕らに求めているのはその最終段階での戦力というわけか」

「えぇそうです。このアースラに我らが解析した防御プログラムのデータを貸与すれば、強化プログラムを我らの数以上に量産することも可能かと思います」

 

 ディアーチェの話を聞き、即座にアースラが求められていることを導き出したクロノの言葉をシュテルが肯定する。

 そして、戦闘力だけではなくアースラという『拠点』としての力も、利用できるはずだと添えて。

 

 しかし

 

「だが」

 

 そこで、ディアーチェが再度口を開く。

 

 

「そもそもとしてまずはレヴィの躯体を万全にする必要がある」

 

 つよく言い放ったディアーチェの言葉にはやてが疑問を挟む。

 

「言わせてもらうけど、レヴィちゃんはかなりの重傷やで? 特異能力で今はフェイトちゃんに意識を移動させとるみたいやけど、体の方はそんな簡単に治るもんとちゃうで?」

「主はやて、お言葉ですが彼女たちならば可能かと」

 

 そんなはやての疑問にリインフォースが答える。

 

「彼女たち――マテリアルズはいわば守護騎士プログラムと同じ仕組みなはずです。いわばプログラム生命体。であれば一度躯体のデータを破棄し、再構築しなおせば守護騎士達のように万全の状態での復活を果たすことができる……そういうことだろう?」

 

 最後の言葉はマテリアルズの3人への問いかけであったが、リインフォースの言う通りであった。

 

「親ガラスの言う通り、我とシュテルがバックアップをしつつレヴィの躯体を再構築しなおす」

「幸い、と言っていいかわかりませんが、レヴィ、マテリアル―Sは我らマテリアルズの中で最も単純な機構です。私や王であったら、他2人のサポートがあっても再構築に2日ぐらいはかかるところでしたが、マテリアル―Lの躯体であれば1日もあれば再構築できることでしょう」

 

 シュテルは補足説明を終えて、質問者であるはやてへと視線を向ける。

 

「りょーかい。大丈夫ならええです」

 

 その視線を受け、はやてはうなづきながら言った。

 

「よし、ではまずはレヴィよ、現在の躯体を完全廃棄しろ。物理分解だけでなく完全分解でだ。一度根本から再構築する」

『おっけー。んじゃぁやっちゃうよ』

 

 自分の体を廃棄しろという傍から聞けばあんまりなディアーチェの命令に対して、レヴィは軽々しく応えると即座にレヴィの身体がベッドの上から消える。

 

「え!?」

「はやっ!」

 

 これにはマテリアルズ以外の周囲にいた一同は騒然とする。あまりにもあっさりと、まるで気軽にレヴィの身体が消えてしまったためだ。

 そうして驚いている面々と驚いていないマテリアルズの二人に、呑気な口調でレヴィの念話が届く。

 

『まだ物理的構築を分解しただけだから、完全廃棄にはもう少しかかるよ~。あ、あとしばらくフェイトの中にお邪魔するね』

「え、う。うん。それは良いけど」

「さて、レヴィの躯体廃棄が完了する前に、もう少し詳しい話を詰めるとしよう」

 

 ディアーチェのその言葉にもう一度話し込む姿勢になった面々に、アミタが片手をあげながら申し訳なさそうに切り出す。

 

「あの、私は概略はわかりましたし、難しい話とかされても少々あれですので……ここでは手狭ですし、レヴィちゃんの身体ももうここにはないみたいですし……。

 私のことは気にせずお広い部屋に移動していただいてもかまいませんよ?」

「そうか? それは少々ありがたい。詳細な話となると僕も補佐官を呼びたいところだったんだ」

「そうか、ではアミタの言葉に甘えるとしよう」

 

 アミタの言葉にクロノとディアーチェが返すと、軽く礼をしながら立ち上がる。

 

「ゆくぞシュテル。執務官殿、会議室までの案内頼むぞ」

「かしこまりました、わが王」

「なぜ君は一々そう偉そうなんだ……。他はどうする? 無理に付き合う必要はない。どうせ後で詳細が決まり次第共有はすることになる」

 

 立ち上がと同時にシュテルをつれ入口へ向かうディアーチェ。そんなディアーチェの言葉にため息をつきながらもクロノは現在医務室にいる他の面々に確認をとる。

 

「ん~、私は遠慮しとこうかな、もう夜も遅いし、ここにいないなのはちゃんに連絡だけでもしときたいしな」

「私は主の意に従うまでだ」

 

 はやてとリインフォースはそう言って欠席の意を示す。

 

「じゃぁ私もご遠慮ねがっちゃおっかなぁ~」

 

 はやてたちに便乗して何事もないように部屋から出ていこうとするキリエを、アミタが止める。

 

 

キ リ エ ?

 

「……はい」

あなたは出ますよね?

「い、いや~私も~そういう話は苦手かな~って――――」

で ま す よ ね ?

 

 なんとかやり過ごそうとしたキリエに対し、アミタが威圧的な笑みを浮かべながらいう。

 そんなアミタの威圧感を受けてかどんどんと体が縮こまっていくキリエ。

 

「私たちのできることやスペックをお話ししなくては、私たちも手伝うに作戦を立てづらいでしょうし、私が説明をしてもよいのですが、そうすると結局会議場所がここになってしまいます。なにせ私は動けませんから? どこぞの妹のせいで? お姉ちゃん寝込んじゃってますから? どこぞの妹のせ い で

「う、うぅ……」

「ですので、案や意見は出さずとも私たちのことについて質問されたらキチンと答えること。いいですね?」

「……」

 

 

い い で す ね ?

 

「……はぃ……」

 

 アミタのあまりの威圧感に屈したのか、キリエは両肩を見てわかるほどに落とし、項垂れ了承の返事を返す。

 

 そんなキリエの姿に苦笑を漏らしながらクロノは最後の一人――二人へと声をかける。

 

「それで? フェイトとレヴィはどうする?」

『あー、フェイトに任せるよ~。どうなっても今は躯体放棄と再構築にリソース割いちゃっててまともにレスポンス返せそうにないし』

「それじゃぁ、申し訳ないけど今日はもう帰らせてもらおうかな。レヴィが急にいなくなって母さんたちも心配してたから」

『ぐぅ……』

 

 申し訳なさそうに出席を辞退するフェイトの言い分に、レヴィは呻き声を上げる。

 その様子を見てシュテルはばつが悪そうにフェイトから視線をそらし、ディアーチェは困った表情を浮かべる。

 

「レヴィに何も知らせるなといったのは我らなのだ。しばらくはアースラとの会議があるゆえ時間が取れるかわからぬが、協力者の保護者にも説明が必要であろう。その時に、レヴィを唆した事について謝罪させてくれと、プレシア女史に伝えておいてはくれぬか」

 

困ったような表情のままディアーチェはフェイトに伝言を頼む。

 

「うん、わかった。母さんには伝えておくね」

「すまぬな」

「ううん、良いんだ。結局取り乱しちゃった私も、レヴィにも、あなた達にも悪いことしちゃったから」

 

そうしてお互いに謝りあう二人に、クロノが声をかける。

 

「それじゃぁディアーチェ達は僕について来てくれ。艦長と一度会ってもらおう」

「わかった。それではな、フェイト、小鴉。レヴィは躯体の放棄が終了したら一度連絡を寄越せ。よいな」

『はーい。オッケー』

「なんでフェイトちゃんは名前呼びで私は小鴉のまんまなん。は や て、はやてって名前で呼んでな」

「はん! 貴様なんぞ小鴉で十分よ! 我に認めてほしければそれ相応の働きを見せることだな!」

「あ、あはは。とりあえずまたね、ディアーチェ、シュテルも」

 

はやてにだけやたらと突っかかるディアーチェに苦笑いを浮かべつつも、フェイトもディアーチェとシュテルに別れのあいさつを行う。

 

「……えぇ、それでは」

 

シュテルはフェイトにそれだけ言うと、一人さっさと部屋から出て行ってしまった。

 

「奴もあれはあれで自分が制御しきれておらんようなのだ。特にレヴィに関することにはな、だから気を長くして付き合ってやってくれ」

「うん。大丈夫、私もちょっとはわかるから」

「そうか。ではまたな」

 

シュテルへのフォローを行ったディアーチェもそう言うと部屋から出て行きシュテルを追う。

そうして部屋を出て行ったディアーチェを見送ると、はやてとフェイトも部屋から出てアースラの転移室へと向かう。

 

「それじゃ、私たちも帰ろうか。母さんも心配してるだろうし」

『はーい!』

「レヴィちゃん随分元気やけど、お母さんに怒られんのは覚悟しといた方がええよ?」

『ぐっ……』

「あはは、まぁそうだね。母さんも、心配してたから」

『フェイトぉ、プレシアへの弁明手伝って~』

「往生際が悪いなレヴィ。親に心配をかけさせたのだ、甘んじて受けた方がいい」

 

廊下を歩きながらそんな会話を繰り広げながらレヴィ達4人は家へと向かっていくのだった。

その様子は、この後に待つ奇妙な出会いと、激戦を予想させない、嵐の前の静けさのような穏やかさだった。

 

 




このあと滅茶苦茶説教された。


 というわけでアースラ&現地魔導師組とマテリアルズが合流する話でした。
 説教されるシーンは書いてもまた時間がかかるだけなので端折ります。

 今後もこんなペースでしか投稿できませんが、連載自体は辞めるつもりはありませんので、どうかよろしくお願いいたします。


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