魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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生存報告を兼ねた更新


Epilogue

 

 闇の書事件。長い長いその事件最後の地となった海鳴市。

 

 その地で起こった闇の書事件の顛末について話す事にしよう。

 

 

 

 

 

「みなさん、ホントにっ。ホントにっ!」

 

 

 闇の書の呪いを打ち破りアースラへと戻ってきた面々を出迎えたのは、感無量と言うように涙を流すアースラの艦長、リンディ・ハラオウンであった。

 

 リンディ自身、夫が闇の書によって殉職してしまうという浅からぬ縁を持つ上に、今回の現場指揮は息子であるクロノが担当し、そしてついさっきまでは地球にアルカンシェルを打ち込まなくてはならないのかと考えてしまうほどの絶望とも呼ばれる状態だった。その状態からの奇跡的な大逆転。世界を驚かせる偉業。英雄誕生の瞬間。

 

 それらの大きな出来事をいっぺんに受けての涙だった。

 

 

「あぁっ。クロノ! 良かった。ホントにっ」

 

 クロノの側に駆け寄り抱きしめるその姿は、管理局の提督では無く、1人の母親だった。

 

 

 周りを見渡せばアースラの面々もある者は泣き、ある者は笑い、ある者は感激し。そうして生還を、世界を救った事を喜び合っていた。

 

 

「なのは! フェイト!」

「なのはちゃん! フェイトちゃん! はやてちゃん!」

「フェイトっ!!」

 

 

 そうして小さな英雄達に駆け寄ってくるのは小さな友達。アリサ、すずか、そしてアリシアの3人だった。

 

 

 結界に巻き込まれ、そして危うくスターライトブレイカーに巻き込まれそうになった3人は何とか防ぎ切ったなのはとフェイトに連れられ、アースラで顛末を見届けていた。

 

 

 そんな3人に囲まれ、なのは、フェイト、はやての3人も互いの無事を喜ぶ。

 

 

「レヴィ、レヴィ!」

 

 そんな中フェイトがレヴィを手招きし、6人の前に立たせる。

 

「アリシア、レヴィだよ!」

 

 輝くような笑顔でそう言うフェイト。

 

 

 なのは達4人は全く持って何のことかわからないが、アリシアにはそれだけで伝わったのか、柔らかく笑いながらレヴィの手を握る。

 

「握れる」

「うん」

「レヴィ、なんだよね」

「うん」

「ありがと」

「うん」

 

 レヴィの手を握る事で、目を見つめる事で。本当にレヴィに言いたかった。ずっとずっと言いたかったあらゆる事が頭を埋め尽くす。

 

 母を救ってくれてありがとう。妹と一緒にいてくれてありがとう。自分を助けてくれてありがとう。

 

 全部全部、フェイトには恥ずかしくて、それでもずっとレヴィに言いたかった全部が、溢れてくる。

 

「おかえり、レヴィ」

「……ただいま。アリシア」

 

 

 

「初めまして。それとも久しぶり、かしら?」

 

 アリシアと手を握り合うレヴィに向かってそう声を掛けるのはアリサ。天才少女と名高い彼女はその聡明な頭脳、そして観察眼からレヴィの事を見破ったようだった。

 

「はじめまして。それと、久しぶり。アリサ」

 

 レヴィが笑いながらアリサの手を握る。それに続くかのようにすずかも自分の右手を差出して言う。

 

「はじめまして。それから久しぶり、レヴィちゃん」

 

 そう言ってレヴィと手を握るすずか。その空気に乗り遅れないようにか慌ててなのはも手を差し出す。

 

「初めまして! って、言うのも変だね」

 

 にゃはは、と笑いながら頬を掻くなのはに、笑いながらレヴィはその手を強く握る。

 

「初めまして。なのは」

「いやー、久しぶりやな! レヴィちゃん!」

「それは違うよ!」

 

 急に自己主張を始めたはやてに即座に突っ込むレヴィ。そのテンポが気に入ったのか、試すような笑みから喜びの笑みへと表情を変えはやては手を差し出す。

 

「うちはホンマに初めましてやな。八神はやていいます。よろしく、レヴィちゃん」

「うん。ボクはレヴィ。よろしく、はやて」

 

 こうして遂に3人目の魔法少女とレヴィは出会う事ができた。レヴィ自身にとっては想定外であった邂逅。それは幸福なのか、不幸なのか。それでも、今こうして“自分の身体”で他人に触れると言う現実は素直にうれしかった。

 

 

 そうしてその日は各々が自分の家に帰る事になった。夜も遅く、戦闘に参加した者は皆疲れ切っていたためである。後日事情聴取や検査などに付き合ってくれれば良いと、そう言いつけてリンディはその場を解散させた。

 

 

***

 

 

 そうしてレヴィはフェイト、アリシアと共にプレシアが地球の住まいとして買ったマンションへと来ていた。

 

「ほらー、早くー」

「で、でも」

 

 なぜか入る事を渋るレヴィの背中を押すアリシアとフェイト。二人がかりですらレヴィを動かす事は構わず、玄関の前でかれこれ数分は押しあってしまっている。

 

 

『フェイト! アリシア!』

 

 そんな騒ぎを聞きつけたのか扉が空き出てきたのはリニスとアルフであった。

 

 レヴィは知らない事だが、魔力蒐集されたプレシアの看病をここ一週間程していたのは彼女達であったのだ。

 

「あなたは……」

 

 リニスは一瞬戸惑う。見知らぬ水色の少女がアリシアとフェイトに背中を押されているのだから。だが、水色の少女の姿はフェイトに瓜二つであった。体格、髪型、顔立ち、バリアジャケットと思われる服装まで。違う部分は、髪の毛の色と瞳の色、そしてバリアジャケットの色合い位であった。

 

 そんな知っているようで知らないような、知らないようで知っているような、そんな少女をリニスはじっと見つめる。

 

 

「……あ、あの……」

 

 その視線に耐えられなかったのか、水色の少女は顔をひきつらせ視線を逸らす。その仕草もまた、リニスに既視感を呼び起こさせるものだった。

 

 

「あぁ」

 

 

 だからリニスは思いついた。もうそろそろ一月になろうかという長い間見ていなかった、側に居なかった少女だと。

 

「おかえりなさい。レヴィ」

 

 だからリニスはとても優しく、とても柔らかく微笑み声を掛けた。

 その言葉に驚いたのか、レヴィは目を見開きリニスを見つめる。

 

「ボクの事、わかるの?」

 

 その問いはそうであって欲しくないかのような。そんな問いかけ。

 

「もちろんです。何年一緒に居たと思っているのですか。こんなに長い間居なくなるなんて、まったく」

 

 叱るようにそう言いながらリニスはレヴィを抱きしめる。

 

「おかえりなさい、レヴィ」

「……うん。ただいま、リニス」

 

 そう応えたレヴィの声は震えていた。

 

「やっと帰ってきたのかい、全く」

 

 大人モードのアルフもリニスが離れた後にレヴィを抱きしめる。

 

「ん、くすぐったいよ、アルフ」

「あんたの臭い、覚えとかなきゃ、またどこか行くかもしれないからね」

 

 そう言いながらアルフはレヴィの臭いをかぐ。

 

 

 その光景を見て満面の笑みを浮かべるフェイトとアリシア。

 

「さ! それじゃぁ早くママに会おうよ!」

「えぇ、そうですね」

 

 アルフはアリシアのその言葉でレヴィを解放し、リニスと共に中に招き入れる。

 

「プレシアは……」

 

 廊下を歩きながらのレヴィの質問に、リニスは笑みを浮かべたまま答える。

 

「大丈夫ですよ。まだ体力は戻っていませんが、自由に動ける程には回復しています。今も、あなた達が帰ってくるのを今か今かと待っていますよ」

「……そっか」

 

 レヴィはプレシアの容態を心配したわけではない、別に良いか。そう思ってそれ以上口を開かなかった。

 

「プレシア! アリシア達が帰ってきましたよ!」

「ママ! ただいま!!」

「ただいま、母さん」

 

 そう言いながらリビングに入ると、そこには椅子に座りこちらを見つめる少々やつれたプレシアの姿があった。

 

「フェイト! アリシア!」

 

 プレシアは椅子から立ち上がりフェイト達に駆け寄ると二人を抱きしめる。

 

「よかった。良かったわ、ホントに」

 

 まるで泣いているのではないかと言うほどに弱弱しいプレシアを見て、レヴィは驚いていた。レヴィの中でプレシアと言う存在は、何でもできて、何事にも動じない。そんなイメージが作られていたからだ。

 

 しかしプレシアの本質は愛深き女である。最愛の娘を失い、暴走する程にその愛は強く。三人の娘の為であれば、手を汚す事に躊躇いは無い。そんなプレシアが、世界の存亡にかかわる決戦の地に娘を行かせることは並大抵の心労では無かったはずだ。

 さらに、三人目の娘がここ一月ほど行方不明ですらあったのだから。

 

 そんな弱さをさらけ出すプレシアの腕の中で、アリシアとフェイトは視線を交わし、同時にプレシアから脱出する。

 

「へへー」

 

 アリシアはいたずらっ子の様に笑い。

 

「母さん」

 

 フェイトもとても嬉しそうに、あらゆる不安が取り除かれたかのように笑っている。

 

 そうして二人は横に避けると、二人を抱きしめる為にしゃがんでいたプレシアの目の前に、水色が映る。

 

「あ」

 

 その少女はプレシアの視線を感じると、とっさにその視線を逸らす。

 

 まるでこれから叱られる子供の様に。

 

 

「あなたは……」

 

 その少女を見てプレシアは困惑する。先ほどのリニスと同じような、懐かしさに、既視感に襲われていたからだ。

 

 

「この娘はだれでしょう!」

 

 まるでクイズの司会者の様なテンションでレヴィを指すアリシア。

 

「母さん、わかる?」

 

 対するフェイトは落ち着きながらも、プレシアの言葉を今か今かと待ちわびている様子であった。

 

 

「……えぇ。えぇ、わかるわ」

 

 そう言うとプレシアは立ち上がりレヴィの前に立ち、レヴィを抱きしめる。

 

「レヴィ」

 

 そうしてその名を呼んだ。

 

「……」

 

 対するレヴィは俯いたまま何もしゃべらない。そんな事も気にせずプレシアは言う。行方不明だった娘に向かって。

 

「おかえりなさい」

「……どうして」

 

 そんなプレシアにレヴィは疑問の言葉を投げかけた。

 

「どうして、皆……」

 

――ボクの事がわかるの?

 

 その言葉は口から出なかった。その代り、目から涙が、大量の涙があふれていた。

 

 

「あたり前じゃない。あなたは私の娘なのだから」

 

 プレシアはそう言い。

 

「そうですよ。私の立った二人の教え子なんですから。わからない訳ないじゃないですか」

 

 リニスもそう言う。

 

「ご主人様はフェイトだから、私はフェイトの事ほどはレヴィの事はわからない。でもね、なんだろうね、野生の勘、って奴かね? 一目見た時わかったよ。レヴィの事」

 

 アルフはそう言って朗らかに笑う。

 

 

「……」

 

 

 その言葉にレヴィの涙はその勢いを増す。

 

「ただ、ボクは、ボクは」

 

 もう自分が何を言いたいのかすらわからなかった。ただただ涙が出てきて、ただただ何かを伝えたかった。

 

「あなたはあの時から、フェイトと同じように私の娘なの。フェイトの別人格でも、幽霊でも、何でも構わなかったわ。あなたがたとえ人間でない何か別の存在でも、それでも、あなたは私の娘なの。あの時、あなたと話したあの日、私がそう決めたのよ」

 

 プレシアはレヴィの顔を見つめながら、力強くそう言う。

 

 

「……ボクは……」

「あなたは、私の娘よ」

 

 念を押すように再度言う。

 

 

「ぅうっ。ぐすっ」

 

 ただひたすらに泣くレヴィ。そんなレヴィに向かって優しく笑いながらプレシアは言う。

 

「そしてここはあなたの家。おかえりなさい、レヴィ」

「……た、ただいま」

 

 そう言ったレヴィの顔は、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、綺麗な笑顔だった。

 

 

 

***

 

***

 

 

 

 どこでもないどこか、しかし実際に有るどこか。そんな何もない、闇の中に音が響く。

 

 

『う、うぅっ、ずびぃ』

『泣きすぎです。王』

『阿呆! 泣いてなんておらんわ! ずずびびぃ』

 

 その闇の中では紫色の光、マテリアル―D『闇統べる王(ロード・ディアーチェ)』が、なぜか泣いていた。躯体構築すら完了していない、未だ自分を構成するのがリンカーコアと意識だけという、フェイトの中に居た頃のレヴィと同じような状態であるはずの彼女が、だ。

 

『な、泣いている、じゃありませんか』

 

 ディアーチェをからかうつもりが自分の声もどこか震えてしまっているのは、緋色の光でリンカーコアを構築している『星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)』。

 

『なんだ! お主も泣いておるのではないか!!』

 

 それ見た事かと自分を棚に上げてこちらをからかってきたシュテルを攻めるディアーチェ。

 

『違います。これはアレです、花粉症です』

『馬鹿を言うな、こんな場所に花粉がある訳なかろうが』

 

 

 そんな二人きりで漫才を繰り広げるマテリアルズが、なぜ泣いて(?)いるのかと言うと、彼女達の前に映る、映像の所為であった。

 

 画面には、大泣きするレヴィをプレシアが宥め、その光景をフェイト達4人が微笑ましく見守っているという、そういう光景だった。

 

 

『う、うぅっ。家族ものは卑怯だぞ。泣いてしまうでは無いか』

 

 なぜ、彼女たちがこんなことをしているのかと言うと、躯体構築をしながらレヴィの周囲を見る事で外界の情報収集の為であった。

 

 ディアーチェに言わせれば『支配するに足る世界かどうか』を見極めるための行為であるらしい。

 

 シュテルに言わせれば、レヴィが周りと馴染むか不安だっただけである。実際、アリサ達と握手を交わしていた時ですでにディアーチェは泣いていた。

 

 涙は流れずとも、魂は泣くのである。そう言う事にしておいてくれ。

 

 

 そんな号泣しているディアーチェの隣で、シュテルもうるっと来てしまっているのだが、しかしシュテルの心を満たすのは苛立ちであった。それはシュテルには苛立ちであると判断できず、理解できない感情としてシュテルは処理していた。

 

 

――理解不能、なぜこうも、落ち着いていられないのでしょうか。

 

 

 体があれば、爪を噛み、貧乏ゆすりをしていたであろう程に苛立ちを募らせてしまっているシュテル。

 そんなシュテルの心境を察してか、ディアーチェは映像を消し、シュテルに話しかける。

 

『して、シュテルよ、我が頭脳、理のマテリアルよ。今後、我らはどう動く』

『……はい。そうですね、幸運にも我々はこうしてお互いを認識できます』

『うむ』

 

 本来であれば各々躯体を構築し、バラバラに外界へと現れる筈だったマテリアルズだが、レヴィのおかげでこうして一堂に会することができている。

 そして、レヴィの知識のおかげで自分たちがしなくてはならない事も分かっている。

 

 

『まずは、既に構築が完成しているマテリアル―L、レヴィに我々の躯体構築を手伝って貰いながら行動する事になると思いますが』

『うむ。そうだな』

『その時に弊害となり得るのは、レヴィのか……周囲に居る存在です』

 

 あえて家族と言わず言い直すシュテル。その奇怪な言動にディアーチェは気づいていながらも、あえて放っておくことにした。

 

『なにが、問題だと?』

『王も分かっているでしょうが、プレシア・テスタロッサは脅威です。上手く味方に引き込めば心強いでしょうが、ですが……』

『もう、これ以上は、な』

『えぇ』

 

 二人ともレヴィの記憶を全て除いたため、プレシアのこれまでの波乱万丈な人生も知っている。知ってしまえばもう平和な世界で暮らさせてやりたいと、そうも思ってしまっていた。

 

『それに、我々の事は我々で片を付けるべきです。幸いにも我々は全てを知っている。砕けえぬ闇―システムUDがなんなのか、エグザミアがどういう物かも』

『そうであるな。であれば、我々だけでもどうにかなる、と』

『はい。残念ながらUDの防壁を突破するプログラムの中身がわからないので、これは実戦で一度戦い、その時に情報を収集するしかありませんが』

『それさえできれば戦力的には我々で十分、であるな』

『そう、判断できます』

 

 

 シュテルの献策を聞き、ディアーチェはふむ、と考える。

 

 シュテルの戦力分析も最もだし、周りを巻き込みたくないと言うのも分からなくはない。こちらとしては態々事を大きくする必要は無いのだから。全てを知ってしまった今、砕けえぬ闇―システムUDが、ユーリ・エーベルヴァインがどのような少女なのか知ってしまった今、ディアーチェが思うことは迅速にユーリを助けだし、その後を安らかに暮らす。それだけだった。

 

 

『よし。ならばシュテルよ。お主の言い分を聞き、レヴィにも言っておくとしよう』

『私たちの事を周りに話さない、そして自分の力に慣れておく事。ですね』

『そうだ。幸い奴はマテリアル―Lだけの時より思慮深くなっている。キチンと説明せずとも理解するだろう』

『では、今夜にでもレヴィが就寝したらこちらに呼び出すことにしましょう』

『うむ、それで行く』

 

 

 二人だけの作戦会議は終わりを告げる。

 

 彼女たちが外に出るのは遅くても3か月後となる。その時、また海鳴市に災厄が降りかかるのか、それともディアーチェ達の思惑通り、誰にも気づかれず秘密裏に終わるのか。

 

 

 結果は、事が起こってからでは無いとわからない。

 

 

 





無事内定を貰えたので、ちょっとずつ書き始めました。

それからこの小説のお気に入りが1000人を突破しました。大変ありがたく、こんなにたくさんの人が続きを読みたいと、読んでも良いと思って頂けている事に恐縮な想いです。


次回はインターバル、空白期編となる予定です。
皆さまの期待に応え、なるべく早く更新したいと思っていますが、どうなるかわかりません。どうか気長にお待ちください。

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