魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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副題
『事件の後始末―テスタロッサ家編』


無印編最終話 本当の私の全力全開―3

 

 アースラでなのはと決闘の約束をした後、フェイト達も当然ながら家に帰っていた。

 

 アルフの転移で家に帰ると、そこにはプレシアとリニスが二人、いや三人の帰りを待っているところだった。

 

「フェイト! 良かった」

「フェイト、レヴィ、それにアルフも。お帰りなさい」

 

 

 フェイトの無事な姿を見てリニスは胸をなでおろし、プレシアは帰ってきた三人に微笑む。

 

「ただいま母さん、リニス。……アリシア、は?」

 

 フェイトは帰宅の挨拶を済ませると、自分が出撃する理由となったアリシアの容態を訪ねた。

 

「アリシアならもう大丈夫よ。今は静かに寝てるわ」

「ん、そっか」

 

 プレシアのその言葉を聞き、フェイトはようやく安心し、表情をほころばせる。

 

 

「ねぇ、母さん。話があるんだ」

「どうしたの?」

「あのね」

 

 そう言ってフェイトはプレシアに話し出す。

 

 

 『最強モード』を初めて実戦で投入した事。紆余曲折あり、暴走体はなのはが止めを刺したこと。

 その事のお礼としてリンディに何か要求できる事。その要求でなのはがフェイトに決闘を申し込んだこと。そして、その決闘を受けた事。

 

「そう。それは、フェイトが決めたの?」

「……うん。確かにレヴィに言われて、って事はあるかもしれないけど。私もあの子とは、決着を付けなきゃいけないと思ってたから」

「なら、良いのよ。頑張りなさい、フェイト」

「うん」

 

 フェイトの話を聞き、ある程度の事情を察したプレシアは優しくフェイトの頭を撫で、そう言うだけに収めた。

 

「それと、管理局からのお礼なんだけど……、私達じゃ考えても特に何も思いつかなかったから、だから母さんにまた頼んで良いかな?」

「えぇ、わかったわ。お母さんに全部任せなさい」

「うん」

「それじゃぁ、今日は疲れたでしょう? もう寝なさい」

「うん。お休み、母さん、リニス。いこアルフ」

「あいよ~」

 

 そう言ってフェイトはアルフを引き連れ自室へ行く。

 

 

 その後ろ姿を見送るとリニスに声をかける。

 

「リニス、悪いんだけど通信機を持ってきてもらえるかしら?」

「わかりました」

 

 リニスに指示をだすと、背もたれに体を預け、リニスが煎れてくれたお茶を飲む。

 

 

 そうして少し寛いでいると、リニスが通信機を持ち戻ってくる。

 

 

「相手は管理局、と言うよりアースラのリンディ艦長でよろしいですね?」

「ええ」

 

 リニスは一応の確認をすると、通信機を操作し準備を終えるとプレシアに差し出す。

 

 

 そうして、暫く待つと通信機からホロウィンドウが現れ、そこに一人の女性が映る。

 

 

「……お久しぶりですね、テスタロッサさん」

「えぇ、お久しぶり、ハラオウン提督」

 

 そこに映されたのは、艦長室で仕事をしていたと思われるリンディだった。

 

 

「まさか、このような形で連絡をしてくるとは欠片も思っていませんでした。待っていれば、明日こちらから連絡をしたのですが……」

「えぇ、そうでしょうね。ただ先手を打っておきたかっただけよ」

「ただそれだけで、“この回線”を使ってくるだなんて、あなたは随分と剛毅な人ですね」

 

 リンディはそう言うと、目つきを鋭い物へと変えプレシアを睨む。しかし、睨まれた本人はどこ行く風と言った風に、その視線を受け流す。

 

「ま、脅しだと素直に受け取って頂戴」

「わかりました。さすがの私も、“この回線”に接続できる『個人』と事を荒げたいとは思いませから」

 

 先ほどからリンディの言う“この回線”と言うのは、それは当然、アースラ、それも艦長室へとつながるホットラインの事である。通常であれば、よほどの緊急指令が無い限りは使用されないそれを通じてプレシアがコンタクトを取ってきた事にリンディは衝撃を受けていた。

 しかし、提督の位を戴き、艦長の任に付いているリンディの経験とプライドが、外見上の平静を取り繕っていた。

 

「それで、用件は何でしょう。テスタロッサさん」

「えぇ。今日家の娘に、フェイトに『何か望みがあれば可能な限り応える』と言ったそうね」

「……はい」

「それの要望は母親である私に一任する、とも」

「はい。そう伺っています」

「その件なのだけど、『私達の事を上に報告しない』で欲しいのよ」

「……それは一体なぜなのか、理由を聞いても?」

 

 プレシアの要望に怪訝な思いを感じながらも、それを悟られないようあたかも“一応”と言う体を崩さないリンディ。

 

「いえ、ただどうせ戦闘の光景は録画してあるんでしょうけど、それを見てたらわかるでしょ? 家の娘の特殊さを」

「……」

 

 プレシアの言葉に返答しない、いやできないリンディ。それはリンディ自身がプレシアの言葉を肯定してしまう事なのだが、リンディには沈黙以外の返答ができなかった。

 

「今はまだ、世間に出ていい子じゃないのよ。あの子は」

「……それは、過保護に過ぎるのでは?」

「別に、あなたには関係ないでしょう」

 

 リンディの皮肉を、そのまま受け止め言うプレシア。

 

「まぁ、とにかく映像を破棄、それか家の子の場面だけ編集でも良いけど、してちょうだい。一般人を2人、ではなく3人もあの激戦に向かわせたなんてあなたも人聞きが悪いでしょう?」

「2人も3人も変わりない、とも言えますが」

「えぇ。普通なら、そうでしょうね。最初の1人も2人も変わらないでしょう。ただ、3人目は違うのではなくて?」

 

 プレシアの言った言葉の意味を分かってしまうが故に、リンディは苦虫をかみつぶした思いをしていた。どうにか、表情には出さなかったが。

 

「どうせ、あの2人にはなにか契約書か遺書でも書かせてるのでしょう? 別にそれ自体を悪いとは言わないわ、規則ですもの。ただ、うちの子は、書いてないけど」

「……」

「どうする? 別に私はあなたが仕事しないから家の子が『正義感』に駆られて戦闘に介入した、と声を荒げても構わないのよ」

 

 プレシアからリンディに、止めの言葉が放たれる。途中から劣勢だったが、最後の一言でリンディの敗北は決定したような物だ。

 

 つまり、プレシアはこう言っているのだ「こちらの要求を飲まなかったらお前ら全員職を失うぞ、と」

 そして、その意味を強めるために、わざわざホットチャンネルにアクセスしてまで先手を打ったのだ。

 

――それができる技術と、伝手がこちらにはあるのだ――と脅すために。

 

 プレシアの言った事をそのままされてしまうと、それは管理局の正義を疑う民衆が出てきてしまう可能性がある。それは、リンディはともかく、もっと上にとってはまずいことこの上ない。であれば上の判断として、プレシアに示談を持ちかけるか、もしくはプレシアを断罪するかしかないが、管理局はあくまで『次元世界の平和を維持する組織』であり、独裁者では無い。もし、後者の行為を行ってしまたら、それこそ『管理局の正義』を損なう危険性がある。

 

 ならば、前者しかないのだが、プレシアはそれをわかってこちらに要求しているのだ。

 

――リンディも、他のアースラ乗組員も安全に平和に事を済ますか、お互いに損害を出しあうか――

 

 損害を出し合う行為はまさに百害あって一利なしとしか言えない。ならば、当然リンディは受けざるを得ない。

 

 その事を理解しているがために、リンディは今まさにその表情を初めて崩す。

 

「わかりました。そちらの要求をのみます」

「よかった。私も世話になるあなた達に悪い事はしたくは無いのよ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情のリンディと打って変わり、プレシアのその表情はとても晴れやかに、黒い笑みが浮かんでいる。

 

「それじゃぁ、こっちからの用件は以上よ。お互いに満足のいく結果になって嬉しいわ」

 

 そう言って席を立つプレシアの顔には完全勝利した勝者の笑みが浮かんでいる。

 

「……少々待っていただいても、かまいませんか?」

 

 そうして、通信を切ろうとするプレシアをリンディが止める。

 

「……なにかしら?」

「先程とは別の用件で、そちらの御嬢さん。フェイトさんに、言いたい事がありまして」

「なにを言いたいのかしら?」

 

 リンディの言葉を聞いて、目を細めるプレシア。その視線からは、リンディを警戒する意思が読み取れる。

 

「いえ、特に何をしようと言うわけでは無いのです。ただ、直接会って、謝罪とお礼を、と思いまして」

「……そう、ならせめて明後日以降にしてもらえるかしら?」

「……なにか、理由が?」

「別に、ただ明日一日くらいはあの子たちを休ませてあげたいだけよ」

「そうですか、わかりました。では明後日の昼過ぎ、そうですねおやつ時位でしょうか、そちらに伺いたいと思います」

「えぇ。わかったわ」

「それでわは」

 

 

 そう、お互いに挨拶して本当に通信を終える。

 

 

「お疲れ様です」

 

 その頃合いを見計らい、リニスがプレシアに新しいお茶を入れたカップを差し出す。

 

「ありがと」

「どうですか?」

 

 少ない言葉だがそれでもお互いに何が聞きたいのかはわかる。曲がりなりにも使い魔とその主なのだから。

 

「まぁ、こちらの思った通り、と言うところかしら」

「あちらは、信用できるのでしょうか?」

 

 リニスの言いたい事は至極その通りであり、あちらが言いだしたこととはいえあちらは要求をのまなくても良いのだ。特に、今回は報告をどうごまかすのか等については一切話し合っても居なければ、確認を取る事もしてないのだから。

 

「あなたの言ってることもその通りだけど、あの人は信用できるわよ」

「……それは、レヴィがそう言っていたから、ですか?」

「それもあるけど、私が直接会って、話し、感じた素直な思いよ。それに提督とか言うそこそこの地位についてる局員にしては随分まともそうじゃない。パトロールなんて任務に就くくらいだしね」

「だったら」

「えぇ。“次”も厄介になるのだし、ここはあちらを信用しとかないと」

「……それにしては、随分と虐めていたようですが」

「あら、いじめだなって心外ね。格の違いを教えてあげたのよ」

 

 リニスの言葉に不敵に笑うと、貰ったお茶を飲み干し、リニスに渡す。

 

「ありがとう、美味しかったわ。私も今日は寝るから、あなたも休みなさい」

「はい。それでは、おやすみなさい。プレシア」

「お休み、リニス」

 

 

 そうお互いに言うと、プレシアも自室へと戻りテスタロッサ家も静かになった。

 

 

 

****

 

 

 

 翌日、しっかりと眠り、完全復活したアリシアは、自室で隣に寝ているフェイトの心配をしていた。

 

 

「大丈夫~? フェイト~?」

「だ、だいじょ、ぶ。だよ」

 

 アリシアの言葉に、微かな声で返事をするフェイト。しかし、言葉の内容とは裏腹に、その様子は全然大丈夫には見えない。

 

 

「ほんと~? えいっ」

 

 怪訝そうに首を傾げるとアリシアはフェイトの体をつつく。

 

 

「――――――――――っ~~~~~~~~~ぁっ………………」

 

 その瞬間、フェイトの口から声にならない叫びが出る。

 

「っ――――ぅうっ」

 

 しかし、その叫びすら自身の体を痛めつけるのか、さらに声を出さぬよう悲鳴を押し殺すフェイト。

 

「やっぱりダメっぽいねぇ。レヴィは~?」

『ボ、ボクも、ダメみたい。体今無いはずなのに、痛い、痛すぎる……』

 

 フェイトが、いやフェイトとレヴィの2人が味わっている痛みは、端的に言ってしまえば『筋肉痛』であった。

 なぜ、フェイト達が筋肉痛になっているのかと言うと、それは前日の戦闘。ひいては、『最強モード』の所為である。

 

 本来、適応されないレヴィの転生特典である、『身体能力の強化』これが少なからず適応されているとはいえ、本来フェイトの体では出せない身体能力をだし、なおかつ魔法ランクSか少し下に分類される魔法を立て続けに使用した反動が出ているのである。

 

 なぜレヴィまで痛がっているのか、と言うとこれは『最強モード』になる為の催眠魔法の弊害が残っているからであり、レヴィが感じている痛みはフェイトの感じている痛みとほぼ同じなのであった。

 

 故にフェイトとレヴィの主導権を変えた所で、表にでるのが変わるだけで、痛みが緩和されたり、無くなったりはしない。

 

 

「はぁ~~~~~」

 

 そんな、痛みでのた打ち回りたいが、痛すぎて動けない妹を見ながら、アリシアは大きくため息を吐いた。

 

 

 





怖い大人たちの会話でした。

プレシアは『管理局の悪』を知っているので、このような要求をしました。


次回は明日の0:00です。

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