魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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第6話 雷神と星の輝き―3

 転移は上手くいき、結界の上空へ現れたフェイト達を襲うのは暴風とそれに巻き上げられた水滴だった。

 

「レヴィ、最初から全力で行くよ」

『りょーかい。最強モードだね』

 

 顔は見えないが、今のレヴィは不敵に笑っているのだろう。そして、今の自分も同じ顔をしているのだと、フェイトは無意識に感じていた。

 

「アルフは局員と、あの補助魔導師と連携して敵の動きを鈍らせて」

「あいよ。まかせな、ご主人様」

 

 簡潔な指示だが、それを全うするためにアルフは下へと降り、暴走体と戦っていた局員たちと合流する。

 

 アルフを見送ると、フェイトはレヴィの言う『最強モード』になる為に、意識を研ぎ澄ませた。

 目を瞑り、バルディッシュを目の前へ掲げ詠唱する。

 

「常に目指すのは最強の自分」

『あぁ、遂に来てしまった。この時が』

Everyone shakes Between the real and the ideal person(ヒトは誰もが理想と現実の狭間で揺れる)〉」

 

 フェイトとレヴィ、そしてバルディッシュで全く別のことを同時に喋る。しかし、それで良く、そうしなければならなかった。

 

「我が身が求めしは理想の体」

『なんと悲しいことか、世界はやはり誰にでも優しく、誰にも優しくない』

That's why, people would ask for ideal(だからこそ、ヒトは理想を求めるのだろう)

 

 最初はレヴィがおふざけで考え始めた詠唱だった。理由はカッコいいから。ただそれだけだった。

 

「体は二つ、心は三つ。だけど今だけは体は一つで、心も一つ」

『だけど、私だけは優しくあろうとそう決めた』

Not a bad thing it never(それは決して悪いことでは無く)

 

 だが、バルディッシュも含めてこの詠唱をすると、『最強モード』の成功率が格段に上がった。それもそのはずでフェイトは気づいていないがこの詠唱はレヴィの創り出した催眠魔法の発動のための詠唱であった。

 フェイトとレヴィの意識が混在し、二人が二人とも体を動かせ魔法の使える状態。通称50%の状態だが、弱点は一つの体を二つの意識が動かせてしまう点にある。

 

 フェイトが動かすのは全身だが、レヴィも右半身だけなら動かせてしまう。故にお互いの意思疎通ができていないと、右半身と左半身がバラバラに動いてしまうのだ。

 

 通常であればそれはレヴィが体を動かさないと言う事で疑似的に解決していた。しかしそれは40%以下の状態とほぼ何も変わらない状態となってしまった。

 

 そういった事を解消し、フルパフォーマンスを求めるためにレヴィが考案したのは、フェイトとレヴィの意識の一時的な融合。つまり、自分たちに催眠術を掛け、『フェイト』の意識は“一人”であると思いこませることだった。

 

 デメリットとして同時に別々の魔法を使えると言う事は無くなってしまったが、それはもともとマルチタスクを使いこなす魔導師には関係の無い話であり、そうした結果レヴィ曰く『最強モード』は完成した。

 

「その全てで、理想を追い求める事に決めた」

『その全てで、理想を追い求める事に決めた』

In all, it was decided to pursue the ideal(その全てで、理想を追い求める事に決めた)

 

 気づけばバラバラだった詠唱はすべて、同じ詠唱へと変わっていき、最後の一言は、たった一人から放たれた。

 

『だから私は、理想の自分(最強)なのだ』

 

 

 そうして目を開ける『フェイト』の瞳は紅と蒼のオッドアイへと変わり。

 その身から立ち上る魔力は倍以上に膨れ上がり、身にまとっていたバリアジャケットすら形を変えていた。

 

 黒いレオタードにスカート、肩にマントを羽織り、装甲部分は左腕と靴の部分だったそれは、右腕と左腕の前腕には銀色の籠手が装着され、胸部には黒色に金色の線が入った装甲が現れ、脚部は脛全てを覆うレガースとブーツに覆われていた。

 

 フェイト本来の装甲を捨てた筈のバリアジャケットはそこには無く、必要最低限ではあるが、確かな安心感をもたらす“鎧”が装着されていた。

 

 

 

 

 

『最初から、全力で行くよ』

 

 誰に向かって言ったのか定かでは無いその声は、まるで二重音声のように響き、同じ声色、同じ言葉だと言うのに、重なって響く。

 

『アルカス・クルタス・エイギアス。怒れる天神、今怒涛の雷で撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル』

 

 そうして『フェイト』が唱えるのは現在使える最強の魔法。基礎を詰めに詰め、そしてあふれんばかりの魔力に任せた“暴力”が形成される。

 

殲滅轟雷電刃衝(フォトンランサー・ジェノサイドシフト)

 

 魔法名の宣言と共に、『フェイト』の横から大量のスフィアが展開される。その数約80。

 青と黄色を混ぜたようなマーブル色をしたスフィアは全て『フェイト』の目線と共に狙いを定める。

 

『打ち砕け……、ファイア』

 

 冷徹ともいえる程冷めた声色で宣言された攻撃は、まさに敵を打ち砕かんと襲い掛かった。

 

 

 

******

 

 

 

 時間はすこし巻戻り、フェイトが上空に現れた瞬間、それは当然ながらアースラに感知されていた。

 

『クロノくん! 結界上空に転移反応!』

「なんだって!?」

 

 それは当然ながらエイミィにより現場指揮官であるクロノにも報告されていた。

 

「こんな、忙しい、時に! 誰だ!」

 

 クロノは必至で暴走体からの攻撃を避けながら、動きを妨害するためのバインド設置や、少しでもダメージを与える為ブレイズカノンを放っていた。

 

『この反応は、フェイトちゃん達だよ!』

「なに!?」

 

 数日前に魔法には関わらないと、そう宣言した筈のフェイト達に出現。戦力的にはありがたいことこの上ないが、クロノの執務官としての責務が、プライドがそれを素直に喜ぶことをさせなかった。

 

――くそっ、なのはだけでは無く、フェイトまでこんな場所に駆り出してしまうだなんて!

 

 フェイトもなのはも自分の意志でこの戦場に立っているが、それでもクロノはそれを良しとは思えなかった。自分や武装隊局員とは違いその二人は一般人なのだ。確かに自分以上の魔力があり、戦闘技能もある。戦力としては十分だろう。

 

 同じ一般人であるはずのユーノは少々他二人とは理由が違い、彼は自分の後始末を付けたいと言う意地と責任感から戦場に立っている。それは、なのはを巻き込んでしまった事への罪悪感もあるのだろう。しかし、クロノにとってユーノの言い分は認めたくない執務官の部分と、同意してしまう“男”としての部分が混ざり合っていた。

 だからユーノにだけは特に何を言う事はせず、注意をし、遺書を書かせてからは好きにさせている。

 

 しかし、それでも任務で、義務で、責務で、なにより誇りでこの場に立っている自分たちとは違い、彼女たちは一般人なのだ。それはつまり、この場に立つ任務も、義務も、責務もない。それどころか自分たち管理局に保護を求めていい立場ですらある。

 

 そんな少女たちを危険な戦場に立たせてしまう。そんな自分の力の無さがクロノは恨めしかった。

 

 

――とりあえずそんな事は今はどうでも良い! 今は戦力が増えたことを素直に喜ぼう。

 

 

 そう、自分を落ち着かせ、頭の中を切り替える。

 

「エイミィ! とりあえず、なぜこんなとこに来たのかの質問と……」

「やぁやぁ、執務官さん。どーも」

 

 クロノがエイミィに指示を出そうとした時、上空から声がかけられた。クロノが上空を見上げると、そこには降りてくるオレンジ髪の女性がいた。よく見れば獣耳と尻尾も生えている。

 

「君は……」

「初めましてじゃないけど、この姿じゃ初めてかもね。私はアルフ。あそこにいるフェイトの使い魔さ」

「そうか、君が」

 

 クロノは知り合いに使い魔の姉妹がいるので別段驚きはせず、簡潔に要件を済ませる為話し始めた。

 

「長話している暇はない。君たちはなぜここに来た」

「私達は私達で早くアイツの暴走が止まってくれなきゃ困るんだ。だから手を貸す」

「……わかった。ならば僕の言う事は聞いて貰うぞ」

「わかったよ」

 

 短くそれだけをお互いに伝え合うと、アルフはさっそく暴走体に向かってバインドを仕掛け始める。

 

「総員に通達。先日のフェイト・テスタロッサとその使い魔が増援に来てくれた。これから彼女たちも含めて事に当たる。それから前線部隊で魔力がもう持たない者は後退し、余力があれば結界の強化を手伝ってくれ!」

 

 

 クロノが通信でこの場に居る全員に声をかけると、いたるところから返事が聞こえる。幸い、ユーノとなのはの活躍もあり、武装局員で未だ墜落した者は出ていない。

 

 

 それを確認して、クロノも前線に戻ろうかと思った瞬間、アルフが大声で叫んだ。

 

 

「全員アイツからできる限り離れな! 私のご主人様のデカいのが来るよ!!」

 

 そう言ったアルフは、高速で離れると、チェーンバインドを何本も放ち、暴走体本体や暴走体が生み出している竜巻を拘束しだす。

 

 それを見たクロノはすぐさま指示を出す。

 

「総員後退!」

 

 それに合わせてなのはやユーノも含めた前線に居た戦闘員が全て暴走体から離れる。

 ユーノはアルフの様にチェーンバインドを使い、暴走体の動きを止めていた。

 

――デバイスもないのに、よくあそこまでやる。

 

 そんなユーノの動きを見てクロノは感心していた。

 

 

 その瞬間、目の前が閃光に包まれた。

 

 

******

 

 

 局員たちが離れたのを確認した瞬間、上空の『フェイト』は展開していた魔法を放った。

 

 

 自身の両翼に展開された計80基のスフィアから繰り出される電刃衝(フォトンランサー)。それは秒間7発、約4秒間に渡って、計2240発の電刃衝(フォトンランサー)を雨霰のように打ち出す。

 

 その光景はまさしく雷光による豪雨の様であり、暴走体を打ち付けるその勢いは滝の様でもあり、遠くから見たら光の柱の様にも見えた。

 

 

 その光景を間近で見たクロノ達は、たった4秒間をまるで永遠の様にも思える長さで味わっていた。

 

 

 一本一本の威力は単なる直射魔法だが、それでも数は暴力とは言ったもので、その光景はまさに暴力だった。

 

 電刃衝(フォトンランサー)が当たった鱗は砕け、そこにまた次の電刃衝(フォトンランサー)が当たる。そしてまた次、次、次……。

 

 同じスフィアから放たれた電刃衝(フォトンランサー)はほぼ狂わず、同じ場所に当たる。それが1秒間に7発、絶え間ない勢いで暴走体の硬い鱗を、外皮を貫いて行った。

 

 魔法とは言え現実に存在する現象である以上、物理法則の影響は免れない。鉄の塊などよりも影響が低いとはいえ受けてしまうのだ。

 

 それはつまり、低空から上空に射撃魔法を使うのと、上空から低空に射撃魔法を使うのでは、後者の方が当然威力が上がると言う事であり、『フェイト』によって打ち出された電刃衝(フォトンランサー)もまさにそうだった。

 2240発の電刃衝(フォトンランサー)は全て漏らさず物理法則の恩恵を受け、通常より威力が増す。その結果、一発一発はなのはのディバインバスターに劣るダメージであろうと、総合ダメージは当然のように上回る。

 

 

 まさに、『数の暴力』を体現した魔法だった。

 

 

 

「GYUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 戦闘が始まってから初めて暴走体があげた苦痛の叫び。それは、本当に倒せるのかと不安に思えてきた武装隊やクロノ達に希望を与える福音となった。

 

 

 あまりにも長く、しかし過ぎたのはたったの4秒間。その4秒間は上空から響いた声で終わりを告げた。

 

 

『轟雷昇滅……』

 

 その言葉と共に『フェイト』は両翼に展開していたスフィアを自身の掌に回収、収束させ、巨大な剣を作り出した。

 

 それが完成するや否や、『フェイト』はその剣をフォトンランサーの雨を浴びせられ弱っている暴走体に向けて投げつける。

 

 

 それはその巨体ゆえゆっくりと見えるが、しかし実際の速度はフォトンランサーと変わらぬ速度で落ちてゆき暴走体を貫く。

 

 剣が暴走体を貫いたのを確認すると『フェイト』は、放って目の前に付きだした手を握りながら『最後の魔法』を唱える。

 

天覇封殺雷神剣(スパークエンド・サンダーブレード)

 

 その言葉と共に、生み出された剣は、中に内包していた魔力を雷として暴走体の内部(・・)へと解放、爆発した。

 

 

 迸る閃光。直近で雷が落ちた事より酷い光と轟音が戦場を支配する。

 

 

『フェイト』より近くに居たクロノ達は、直前のアルフの助言により目と耳を塞ぎ、手で防御することができたが、もしそれが無かったら失明や失聴していたのではないかと言う位の光と音だった。

 

 

『……っぅ』

 

 

 そこまでを確認し『フェイト』は一息つく。さすがの魔力ランクSSSとは言え、魔法ランクS以上の大魔法を立て続けに2発も放てば疲労する。

 

 

 しかし『フェイト』は少し息をつきはしたが、その顔にはそこまでの疲労は見れなかった。それもすべては『最強モード』であるが故。

 これはフェイトとレヴィの意識が混ざる事で、50%の状態でかつレヴィが神より貰った特典が発動すると言うまさに『最強』に相応しい状態なのである。故にここまでの大魔法を立て続けに使っても軽い倦怠感程度で済んでいた。

 

 

 『フェイト』は少し息を整えるとアルフ達と合流するため下に降りる。

 

 

 自身の最大魔法を2発も放ったのだから、これで決着していて欲しいと願いながらなのはの側に降りる。

 

 

「フェイト、ちゃん」

 

 

 『フェイト』が側に降りてきた事を確認しなのははフェイトの名を呼ぶ。それは嬉しさと、不甲斐無さが入り混じった複雑な声でもあった。

 

 

 『フェイト』がその言葉に応えようとした瞬間、穏やかになっていた筈の海面が急に膨張し、破裂した。

 

 

「GGGGGGGGRRRRRUUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 雄叫びと共に現れたのは見るも無残な姿となった暴走体。

 角は折れ3本の内1本だけがなんとか残り、鱗は剥がれヒレには穴が開き、そしてその巨体は剣が突き刺さった中ごろには大きな穴が開き、『昇滅』していた。

 

 今まで暴威を振るっていたとは思えないほど痛々しい姿がそこにあった。

 

 

「な、まだ動けるのか……」

「化け物めっ」

 

 それを見ていた局員からはそんな声が漏れる。

 

 それを見ていた『フェイト』はなのはに声をかける。

 

『なのは、ディバインバスターより大きな魔法、使える?』

「え? う、うん」

『魔力は?』

「あまり、残って無いけど……」

『そう』

 

 そう言うと『フェイト』はバルディッシュをレイジングハートの側に寄せる。

 

〈Magical Transfer〉

 

『フェイト』は何も言わずともバルディッシュは自身を通じてレイジングハートに魔力を渡す。

 

〈Charge Complete〉

 

 レイジングハートもそれを素直に受け取り、自身を介しなのはへと供給する。

 

 

「え?」

(ボク)の魔力、少し分けたから。(ボク)達が時間を稼ぐから、その間によろしく』

「えっと、う……うん」

 

 なのはが頷いたのを確認すると、『フェイト』はアルフ達に声をかける。

 

『アルフ! ユーノ! それにクロノ達も! なのはが仕留めてくれるから、それまで時間を稼いで! 攻撃しなくていい、攻撃を避ける事と、(ボク)の合図で一斉にバインドを掛けられる準備だけして!』

「あいよ!」

「わ、わかった!」

「なぜ、君が指示を……、いや今は良い!」

 

 『フェイト』の言葉でその場にいた全員が動き出す。

 

〈マスター。私達も〉

「……うん!」

 

 なのはも覚悟を決め、上空まで上がり魔法の準備に入る。

 

 

 それを見届けるとフェイトはクロノに声をかけた。

 

『クロノ』

「なんだ」

『エイミィでも誰でも良い、(ボク)が合図して一斉にバインドを仕掛けたら、すぐになのは以外の全員を結界の外まで転移させられない?』

「……バインドを掛けた時に外に転移できれば良いんだな?」

『うん』

「わかった。そう指示を出しておく」

『よろしく』

 

 クロノに簡潔に告げると、『フェイト』はバインドを仕掛ける準備をするために動き始める。

 

「まったく、なぜ僕が……」

 

 そんな『フェイト』を見ながら、ため息をつき、局員へと指示を出す。

 

 

「結界内に居る総員、フェイトが指示を出したら一斉に相手に向かってバインドを掛ける。その時できるだけ僕の側に寄ってくれ。バインドを掛け終わったのと同時に結界外へ転移する」

 

 そう指示を出すと、局員は何も聞かず「了解!」とだけ返事をする。

 

――まったく、聞き分けの良い部下で助かる。

 

 

 そう思いながら、クロノも作戦の準備を始める。

 

 

――頼んだぞ、なのは……。

 

 

 

 上空に居るなのはに願いを託して。

 

 

***

 

 

 その頃のなのはは魔法の準備に入っていた。

 

 『フェイト』に言われた「ディバインバスター以上の大魔法」。その言葉で思いついた魔法はただ一つだった。

 

「レイジングハート、いけるよね」

〈はい。私とマスターならば必ずできます〉

「うん、じゃぁ、行くよ」

 

 その言葉と共に、レイジングハートを天へと掲げ魔法の準備に入る。

 

 足元には射出を安定させるための足場であり、発動補助のための魔法陣を展開。

 

 それは、今までディバインバスターを打つために使っていた魔法陣とは比べ物にならない程の大きさだった。

 

 

――今まで、使い切ってあげられなかった魔力をもう一度かき集める。

 

 

 そう思って、魔力の集束を始める。なのはの目の前には、小さな魔力殻(シェル)ができていた。

 

 そこに、戦場全て(・・・・)からかき集めた魔力を込めていく。

 

 

――本当は、フェイトちゃんとの戦いの為に開発した魔法だった。

 

 だが、となのはは思う。

 

――フェイトちゃんが放ったあそこまでの魔法でも倒せなかった暴走体。フェイトちゃんの魔法と同レベルの威力を出せるのは、もうこれしかない。

 

 だから、となのはは念じる。

 

――私の、知恵と戦術、その全てでたどり着いた一つの答え。

 

 

 なのはの想いと共に、シェルはどんどん大きさを増していく。それはなのはの身長を超え、なのはの2倍、3倍、と加速度的に大きくなっていく。

 

――もっと、もっとっ!

 

 なのはがそう念じると、シェルの周りを一回り大きいリングが多い始める。それは魔力を集め、収束の補助をする帯状魔法陣だった。それが1本、2本と数を増してシェルの周りを回転し始める。

 

 

――もっと、ここにはもっと魔力が有る筈! 私が、ユーノくんが、クロノくんが、局員の皆が使い切れなった、無駄にしちゃった魔力を、もっと!

 

 

 いつしかシェルの大きさは、なのはの身長の数倍では効かない大きさになっていた。その大きさは直径何十メートルなのかと思われる勢い。

 

 そしてそこまで圧縮と膨張を繰り返した高純度の魔力の塊は、自然と光を放っていた。

 

 

 その光に、局員の一人が気づき声を上げる。

 

「お、おい、アレ……」

 

 その言葉に、誰もが少しだけ上を向いてしまった。

 

「な!」

「アレは?」

「アレは、まさか」

 

 だれもがその光を、その光を放つ球体を目にして声を上げた。

 

 

――まるで、星の光のようだ、と――

 

 

「あれは、集束……砲撃魔法……」

 

 一人クロノはその異常さに声を失う。10にも満たない少女が、あの小さな体であそこまで大きな集束魔法を放とうとしている。その光景に、心を奪われていた。

 

 

『全員、回避』

 

 

 突如として響く『フェイト』の声に、クロノも局員もとっさにその場から離脱する。

 

 あまりの光景に一瞬忘れていたが、今は戦闘中なのだ。我々が攻撃しなくても相手が攻撃しない理由は無い。

 

 しかし、とクロノは思う。

 

――まさかなのはは、アレを放とうって言うのか!?

 

 

 クロノはたどり着いてしまった。『フェイト』の謎の指示。その意味に。

 

 

――確かに、あそこまでの集束砲撃魔法が放たれたら暴走体はおろか、側に居る僕達も危ないじゃないか!

 

 

 だから『フェイト』は言ったのだ。全員でバインドを放ったら即座に転移する、と。

 

 

 そのギリギリの危うさに気づき、局員に指示を飛ばそうとした瞬間、クロノに、戦場に居る全員に声が響く。

 

 

 それは終戦を告げる天使の言葉であり、破滅を齎す悪魔の言葉だった。

 

「チャージ完了しました! いつでも行けます!」

 

 なのはから通信越しに放たれたその言葉は、集束砲撃の威力を理解している者にとっては断罪の言葉に聞こえ、それを知らない者にとっては祝福の言葉に聞こえた。

 

 

『全員、(ボク)かクロノ執務官の側に近寄って』

 

 その言葉と共にクロノと『フェイト』の側に局員たちが集まる。

 

「フェイトこっちは良いぞ!」

『全員、バインド放て』

 

 『フェイト』の指示に従い、放たれるバインド。それは一つ一つは弱くとも、『フェイト』の魔法を受け、弱っていた暴走体の動きを止めるのになんら支障は無かった。

 

『アルフ! クロノ!』

 

『フェイト』の叫びによって、バインドを放たず転移の準備をしていたアルフとクロノは即座に転移で側に居る者ごと転移を始める。

 

 

 そして転移が終了する直前に、『フェイト』は叫ぶ。最もフェイトの心を掻き見出し、だが最も頼りになる、白い少女へ。

 

『なのはああああああああっ!!』

 

 

 その言葉を聞き、なのはは天高く掲げたレイジングハートを、バインドで雁字搦めになっている暴走体へむけてゆっくりと下ろす。

 

 

「スターライトォッ……」

〈Starlight Breaker〉

 

「ブレイッカアァアァァァアアアアアァァッァァアアアアアァァッッ!!!!!」

 

 

 渾身の叫びと共に滅びの光が、全てを押しつぶす星の輝きが、振り落とされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が走った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音の無い光が奔った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはの魔力によって破裂しそうなほどに魔力を貯め込み、脈動していたシェルは破壊され、その内部にため込んでいた魔力をすべて解き放った。

 

 その様はまるで、星が最後の輝きに強く光るように、膨れ上がった自身を全て曝け出すかのように、貯め込まれた魔力は迸った。

 

 

 

 

 放たれた魔力の奔流はまず、暴走体に当たると暴走体を雁字搦めにしていたバインドを破壊した。力任せに、押しつぶした。

 

 

 次に、暴走体を飲み込んだ。暴走体の全長10mと言う巨体を大きく上回る範囲で、飲み込んだ。その光の柱に吸収した。

 

 

 次に、押しつぶした。海を押しのけ、水を溢れさせ、その魔力で暴走体を大地へと押しつぶした。

 

 

 次に、消滅させた。ジュエルシードの魔力でその巨体を保っていた暴走体の体を、体を構築していた魔力ごと消し飛ばした。

 

 

 しかし、そこまでやってなお、なのはの貯め込んだ魔力は尽きなかった。終わりを見せなかった。

 

 

 次に、光は弾けた、暴走体が受け止めきれなかった魔力の奔流が、大地に炸裂し、弾け、結界内の辺り一面に飛び火した。

 

 

 

 そこから先は、世界終末の映像を見せられているのかと錯覚するほどの映像だった。

 

 

 

 弾けた魔力は海面に着弾し、その場所の海を押しのけ、消し飛ばした。

 

 結界に当たった魔力は、その勢いをせき止められ、結界を壊す勢いでぶつかり合い、さらに細かく弾けた。

 

 

 そうして、いろんな場所で弾け、海を押しのけ、消し飛ばした魔力は、なのはの周囲以外に終末と滅びを与えると、消え去った。

 

 

 『フェイト』達は結界の外に転移した後、残った余力を振り絞り全員で結界を強化していた、結界に魔力を供給し続けた。

 

 もしそうしなければ、なのはのスターライトブレイカーは結界を破壊し、なのは以外の全員を吹き飛ばし、近隣の港を消滅させていたかもしれない。

 

 

 

 

「……はぁっ。……っぁあ」

 

 

 そんな事を露とも知らず、なのはは大きく深呼吸していた。まさに大魔法を放ったのだ。その体には、今までの戦闘の疲労もすべてが一気に襲い掛かってきたかのような倦怠感に襲われていた。

 

 

〈ジュエルシード、封印完了です〉

 

 そう言うレイジングハートの目の前には、まるでなのはに降伏するように、全てを諦めて五体投地をしたかのようにジュエルシードが浮かんでいた。

 

 

「……はぁっ。レイジングハート」

 

 なのはがそう言うと、レイジングハートは6個のジュエルシードをすべて収納し、言った。

 

〈お疲れ様です、マスター〉

 

 レイジングハートの労いの言葉に、なのはは顔を輝かせると強く頷き、言った。

 

「ジュエルシード6個! 封印、完了しました!」

 

 

 そんなやり遂げた少女の輝かしい宣言は、誰の耳にも入ることは無かった。

 

 

「あれ? あれれ? みんなあああああああああああ、どこ行ったのぉおおぉおおおっ!?」

 

 

 なのはの、そんなむなしい声だけが、落ち着いた海に響いた。

 

 




これにて、ジュエルシード事件、解決となります。

それではなんとなく書いた次回予告を
できれば、1周年までには無印編を終わらせたいですね。



――――――――――――――――――――――――――――――

 これにて、第97管理外世界『地球』の海鳴市で起きた、ジュエルシードを発端とした事件は終わりを告げる。


 しかし、ジュエルシード事件は終わっても、少女たちの物語は終わらない。


「私と、勝負してください」
「最初で最後の全力の勝負!」
「私は、私だけで……、私の全力で、あなたに勝つ!」
「私と、友達になってください」


魔法少女リリカルなのはL×F= 無印編
最終話「本当の私の全力全開」

雷光のその向こうへ――


―――――――

ってな訳で次回最終回と言うか、無印編の清算の回となります。
投稿日時は不明ですが、できれば1周年の9月28日までには投稿したいです。


PS.レヴィ曰く『最強モード』私は『雷神フェイト』と呼んでいる姿の参考絵を描いたのでここに載せます。


【挿絵表示】

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