前回の投稿から3か月、大変お待たせしました。
理由は、主に熱意の消失です。ですが、この6話なんとか書き切りました。
いつもながら拙く、今回は特に厨二全開ですが、どうか見てやってください。
**8/19改訂**
感想にて指摘された、ユーノが一般人云々の部分を少々改訂。
少しは違和感が減っていると信じたい。
「それじゃぁ、次の章に入ろう」
次元航空戦艦アースラのある一室では魔法の授業が行われていた。
授業を行っているのはアースラに搭乗している中での最高戦力である、クロノ・ハラオウン。その授業を受けているのは、高町なのは。
管理局の手伝いを自ら申し出たなのはは、リンディと共に家族にアースラでなのはを預かると言う説明をした後、ずっとアースラで過ごしていた。
レイジングハートやユーノの監修の元とは言え、ほぼ独学で魔法を学んできたなのはに対して、キチンとした魔導理論や訓練をしてもらうため、出撃以外の時間はほぼクロノやエイミィを筆頭としたアースラ乗組員によって鍛えられていた。
ユーノやレイジングハートが教えなかった魔法や、そもそもの魔法の成り立ち。魔法を使うために必要な学問や、魔法を使う上での道徳など。やっている事はミッドチルダの魔法学校の小学科でも学ぶことだが、それを現役の執務官からワンツーマンで学べるという、一般人からしてみたら莫大な金を払ってでも受けたいと言われるような環境が出来上がっていた。
「さて、今日はここまでにしよう」
そう言って黒板代わりに使っていたディスプレイを閉じるとクロノは部屋から退出する。
「……ふにゃ~」
クロノが退出したことを確認するとなのはは力を抜き、ぐったりと机に倒れ込む。
〈お疲れ様です。マスター〉
そんななのはをレイジングハートが労うように声をかける。
「うん。ありがと、レイジングハート」
実際なのはは疲れると言う程の事はしていない。ただ、アースラに逗留してまですることが勉強と魔法の訓練が基本となっているだけなのだ。やりたい事である魔法に関わる事だけに、いつも通っている学校の授業よりは興味がもて、楽しい物だった。
だがしかし、なのはが思っていた程出動は多くなかった。ジュエルシード自体はなのは達の様に足で探す事などせずに、アースラによるサーチャーの大量導入での人海戦術。発見次第武装隊が転移し回収している。
発見が遅れ、ジュエルシードが起動してしまっていた場合はクロノとなのはが出動し、ジュエルシードを封印してきていた。
しかし、これまでアースラが確保したジュエルシードは15個。これはフェイトやなのはから受け取った物も含まれているが、この中でなのはが実際に出動したのは1回きりであった。
つまり、なのははそれ以外の時間は勉強と軽い訓練しかしていなかったのだが、その甲斐あって、レイジングハートの中には今まで無かった魔法も記憶されており、クロノから教わった戦術や、魔法の使い方なども合わさりかなり器用になったと言える。
「ねぇ、レイジングハート。今なら、フェイトちゃんに勝てるかな?」
〈えぇ。きっと〉
レイジングハートの答えを聞いたなのはは考える。
それはフェイトの事だった。なのはの頭の中は、出動時以外はほぼ常にフェイトの事でいっぱいだった。どうすればフェイトに勝てるのか、どうすればフェイトに攻撃を当てられるのか。
イメージトレーニングも合わせ、教わった事を組み合わせていき、いつしかフェイトと再戦することをずっと考えてきた。
その結果、創り出したオリジナル魔法もある。ディバインバスターなんて目にならないほどの魔法。撃てば一撃必殺。自身の全てを込める砲撃魔法。威力も、射程も、攻撃範囲も、全てが一級の魔法。
常に考えていた。暇な時間はずっと、フェイトとの模擬戦を想定していた。どのように動けばフェイトを誘導できるのか、どのように戦えばフェイトに勝てるのか。
今、フェイトは魔法から、ジュエルシードから離れてしまっているが故に合えないが、ジュエルシードをすべて回収し終わったら、リンディに頼み込んでフェイトと一戦交えさせてもらうつもりですら居た。
そう考えて、ふとなのはは携帯を開き、友人から送ってもらったメールを見る。
その中には、自分の小学1年生からの友人である2人と、最近転校してきて仲よくなったらしい2人が移っている。
――フェイト、ちゃん。
その中には、アリサと肩を組んだアリシアと、隣のすずかに促されながら、恥ずかしそうにピースをしているフェイト。その4人が映し出されていた。
――フェイトちゃんの言ってた学校って、聖祥だったんだね……。
この画像を見るたびにすぐさま学校に行き、自分もフェイトと会いたいと言う思いが膨らむが、しかしそれを頭を振る事で諌める。
アリサとすずかのメールには学校に来れるようになったら、この2人を含めて5人で遊ぼうと書いてあったが、今はその時ではない。
もし今自分がフェイトと会ってしまえば、フェイトは自分を避けるためにアリサとすずかからも距離を置いてしまうだろう事は想像に難くない。
だから、まずは一つずつ終わらせなくてはならない。ジュエルシードの事を片付け、『魔導師である』フェイトとのしがらみを終わりにし、『普通の』フェイトとの付き合いを始めなくてはならない。
そのためには、自分の気持ちに一区切りをつけなくてはならない。魔導師であるフェイトへの未練を断ち切る為に。悔いが残らないように、最初で最後の戦いを、全力全開のぶつかり合いを。自身の全てをさらけ出して、ぶつけて、勝っても負けてもフェイトへの未練を終わらせなければならない。
――だから
「もっと頑張んなきゃね。レイジングハート」
〈はい。あなたならできます。マスター〉
そう言って思いを新たにした時、アースラに警報が鳴り響いた。
*
「どうしたんですか!?」
鳴り響く警報を聞き、なのはは急いでアースラの艦橋に飛び込んだ。その中ではアースラのオペレーター達が大騒ぎでキーボードを叩いている。
「あら、なのはちゃん。いらっしゃい。」
その中でも、艦長席に座ったリンディだけは落ち着いた様子で入ってきたなのはを迎える。
「あの、リンディさん。どうしたんですか?」
「えぇ。それがね、ジュエルシードが発動しちゃったのよ」
「だったら、私たちが行けば……」
「普通なら、それで良いんだけどね」
もったいぶるようなリンディの言葉を引き継ぐかのようにクロノが喋る。
「我々が発見できなかった残りのジュエルシードが、全て同時に発動したんだ」
「え!?」
その言葉になのはは声を荒げる。
「そんな! 街は!? どうなってるの?」
「幸い、発動したジュエルシードは全て海だ。街に直接の被害はないが、ジュエルシードが発動した影響で津波が起きてしまっている。海洋を航行していた船や沿岸は被害なし、と言うわけにはいかんだろう」
「そんな! 早く封印しに行かなきゃ!」
「今、ユーノに一足先に結界を張りに行って貰っている。僕や武装局員も、直ぐに現場に向かう事になる」
「だったら、早く行こうよ!」
焦るなのはに対してクロノは追いついた様子でなのはに話しかける。
「だが、その前に君には現状を詳しく説明しなくてはならない」
「そんなの良いから、直ぐ行かないと!」
「悪いんだけどなのはさん。あなたには聞いて貰わないといけないわ」
なのはを落ち着けるように優しく、しかし顔は真剣そのものの表情でリンディはなのはに告げる。
「現在、ジュエルシードを6個取り込んだ魚らしき暴走体が、海で暴れています。ユーノくんに結界を張って貰い、なんとか大きな被害は出ていませんが、結界の中は酷い状態です。モニターを、よく見てもらえるかしら?」
リンディにそう言われ、なのはは初めてブリッジに設置された巨大なモニターを見る。
そこに映し出された映像は酷いありさまだった。
6本の竜巻が相当広いはずの結界内を所狭しと暴れまわり、その影響か海面は大荒れ、大きな津波すらできそうな程。
そして一際目を引くのは、その中で悠々と泳ぐ、巨大な影だった。
鯨のようなその影は、まるでこちらに自身の強大さを見せつけるかのように、たまに水面から飛び出ては海中へと帰っていく。
その体長は少なくとも10m以上はありそうな。まさに鯨のような巨体。その巨体を覆うのは、大きく、とげとげしく、まるで触ったら手がズタボロになってしまう事を容易に想像させるかのような鋭利な鱗。
頭部からは3本の角が生え、一瞬見えた口にはサメのような牙がたくさん生えている。
ヒレも凶悪さを増し、通り過ぎるだけで人を両断できてしまいそうな、ギロチンのような物が胸、背、尾、腹全ての箇所についていた。
その姿はまるで、黙示録に記された世界で最も巨大な海の獣のような、見た者に絶望を与える姿だった。
「見て分かる通り、結界の中はあの様子だ。悪いが、僕達は君の安全を保障できない」
その映像を見て驚くなのはに、なるべく優しく聞こえるよう声色を落してクロノが告げる。
「だから、君は今回出撃する必要は無い。それどころか、僕としてはこのままここで大人しくしていて欲しいとすら思っている」
クロノが告げるその言葉に、なのはは寂しさと、言葉にできない怒りを感じた。
「クロノくんは、大丈夫なの?」
その怒りを抑え、一言質問する。
「大丈夫じゃないだろう。あそこまでの生物と戦った事が無い訳じゃないが、僕の専門は犯罪者、人間だ。それに今回はジュエルシード6個分の魔力を持った生命体。ハッキリ言ってしまえば、第6世界の竜神にも迫るんじゃないかとすら思っている」
「だったら! 私も一緒の方が!」
「あぁ、そうだ。戦力的に見てなのは、君はとても魅力的だ。現在のアースラではボクに次ぐ実力を持っていると言っても過言じゃない。戦術などを気にしないジュエルシードの暴走体に対してなら、魔力量の多い君の方が、僕より有用だろう」
「それじゃぁ……」
「だが、君は一般人で僕は管理局員だ。僕は一般人である君を守る義務がある。そして、あの場所で僕は君の生命を保証できない。だから、付いてきてくれなんて、言えない」
クロノの冷静で、言い返しようのない正論になのはは口を紡ぐが、すぐさまその頭の回転を生かし反論する。
「じゃぁ、ユーノくんはどうして現場に居るの!? ユーノくん局員じゃないでしょ!」
「彼は、ジュエルシードをこの世界にもたらしてしまった責任を重く感じて、今あの場所に立っている。善意で手助けしているだけの君とは違うんだ」
なのはの反論を冷静に受け止め、それでもなのはの言い分を認めないクロノ。しかし、聞き分けのないなのはにだんだんとクロノの頭にも熱が昇ってきてしまう。
「じゃぁ、どうしたら付いて行っても良いって言ってくれるの?」
「なのは! 僕は付いて来るなと言っているんだ!」
「だけど! クロノくんでも大丈夫かどうかわからないんでしょ!? だったら一人でも戦力は多い方が良いじゃない!」
クロノとなのはが言い争いを始めたその瞬間、ブリッジに現場のユーノから通信が入った。
『クロノ! 悪いんだけど直ぐ来てくれ! 中で暴れられてると、結界が安定させられない!』
ユーノはそれだけ言うと、通信に意識を割く余裕もないのか、すぐさま通信を閉じた。
「っ! エイミィ! 直ぐに武装局員を現場に派遣してくれ!」
「了解!」
クロノの指示を聞き、エイミィはすぐさま別所で待機していた武装局員に指示を出し始める。
「悪いがなのは、君に構っていられる時間は無いようだ。僕も行かなくちゃならない。君は大人しく、部屋で待っていてくれ」
「待ってよ! 私も行くから!」
「ダメだと言っているのがわからないのか!?」
2人がまた口喧嘩をしようと仕掛けた時、リンディが大きく手を叩いて場を諌めた。
「クロノ執務官。直ぐに現場に向かってください」
「……わかりました」
艦長としてのリンディの指示にクロノは直ぐに従い、ブリッジを後にする。
「なのはさん。どうしても、行きたいですか?」
「はい」
まるで子供を諭すかのような声色のリンディの問いに、なのはは直ぐに答える。
「私たちは現場であなたを守る事を確証できません。それでも、行きますか?」
「はい」
またしても直ぐに返答するなのは。その強いまなざしを見て、リンディは一つため息を吐いた。
「わかりました。でしたら、今この場で遺書を書いてください」
「い、遺書……」
「はい。ズルいかもしれませんが、なのはさん、あなたが我々の忠告を聞かず、死を覚悟して現場に行く事。もし死んだとき、なにか家族や友人に伝えたい事等。紙と書く物をあげますので、この場で書いてください」
そう言ってリンディはなのはに、紙とペンを渡す。
「……確かに、ズルいですね」
なのははそう言うと、躊躇せずリンディから紙とペンを渡し、その場で遺書を書き始める。
急いでいたため、簡潔で字もお世辞にも綺麗とは言えないモノになってしまったが、読めるので大丈夫だろうと思い、完成したそれをリンディに手渡す。
「確かに、受け取りました。なのはさん、ズルい大人である私を許さなくていいです。ですが、どうか、無事に帰ってきてください」
そう言ったリンディの言葉からは、子供を危険な場所に向かわせることになってしまった自身へのふがいなさが汲み取れた。
なのはが協力を申し出た時も、実際に出撃するときも、どんな時も優しいそうな大人の仮面を外さなかったリンディが、初めてなのはの前で見せた弱い姿だった。
「はい!」
そんなリンディに心配させまいと、なのはは一際大きな声で返事をする。
モニターの中ではすでにクロノとユーノ、武装局員の半数が結界内にて暴走体と戦い始めている。
「エイミィさん、お願いします!」
「なのはちゃん。デバイスをセットアップして、バリアジャケットは纏った?」
「はい! 準備完了です!」
「それじゃぁ、頑張って。絶対、無茶しちゃダメだよ!」
「はい! 高町なのは、出撃します!!」
なのはのその掛け声と共に、なのはは転移の光に包まれた。
光が収まり目を開くと、そこは結界内の上空だった。
〈Flier Fin〉
即座にレイジングハートが飛行魔法を発動する。
頬には竜巻の影響か飛び散った雨が当たり、バリアジャケットを纏っていなかったら痛さすら感じる程だっただろう。
下を見れば暴走体は竜巻を操り、自身は火を噴き、波を起し、クロノやユーノ達を翻弄している。
武装局員とユーノでクロノに行く攻撃を捌いたり、暴走体にバインドを掛け動きを止めたりとしているが、クロノ自体が大火力を放つような魔導師ではないため、攻撃力に欠けている印象を受ける。
「レイジングハート、最初から大きい一発、行くよ!」
〈Yes,Master. Divine Buster, Full Power〉
「みなさん! 直ぐに暴走体から離れてください!」
ディバインバスターのチャージを始めると同時に、通信で戦場に居る全員に避難を促す。
『なのは、やっぱり来たんだね』
『……来たからには何も言うことは無い』
すぐさまユーノとクロノから通信が帰ってくるが、二人はまるでなのはが来ることなどお見通していたようだ。
『退避完了!』
局員の声が響くと同時にユーノが遠くからチェーンバインドを放ち、暴走体に魔法を当てやすくする。
『なのは! やっちゃえぇ!!』
その声を聞くのと同時に、なのはは引き金を引いた。
「ディバイイイィィイイイィィンッ、バスッタアアアァッァッァァァアアァァッァッァアァァァアアアァァァッァッ!!!!!!」
その光はまるで神の威光の様に、戦場を貫いた。