第5話はやっときました日常回となります。
今回から5000前後、長くても1万字行かない程度に区切って投稿することにします。
もし区切る場合は「―(数字)」となるようにし、連日投稿します。
ですので5話―2は明日の投稿となります。
それでは
「それでは、今日は皆さんに新しいお友達を紹介しま~す」
フェイト達がアースラで事情聴取を受けてから数日後の平日。私立聖祥大学付属小学校のある教室では、いつも通り始まるかと思われていた朝は、担任のその言葉からいつもとは違う一日を刻み始めていた。
「それじゃぁ二人とも、入ってきて良いですよ~」
担任のその言葉の後教室に入ってきたのは、瓜二つの二人の少女だった。
二人とも金髪に赤い目、顔立ちも似ているどころかほぼ同じ、違う事は髪を結んでいるリボンの色と髪型、そして背丈位であった。
先に入ってきた背丈が小さい方はツインテールであるのだが、全ての髪を纏めている訳では無く後ろ髪の大体は流している。
顔立ちからは不安よりこれからの事への期待がありありと見え、その様子から明るそうな娘なのだと予想できる。
彼女は担任に促され、明るい声で自己紹介した。
「アリシア・テスタロッサです! 皆よりちょっと年上だけど、いろんな事情により妹のフェイトと同じ学年に通う事になりました! よろしくお願いします!」
そう言うと一礼して一歩下がるアリシア。聞き取りやすく明るいその声は男子女子問わず、好印象を与えた。
そうしてクラス中の視線はもう1人の転校生に移る。
もう1人はアリシアより少しだけ背が高く、髪型は完全なツインテール。アリシアとは対照的にその様子は不安気であり、気が弱いのか恥ずかしがり屋なのか、クラス中の視線に耐えきれず、肩を竦め、顔をうつむかせてしまっている。
それでも、後ろのアリシアが小声でエールを送ると、意を決したのか顔を上げ自己紹介した。
「フ、フェイト・テスタロッサです。えっと、その、よろしくお願いします」
最後の方は声が小さくなってしまったが、なんとかそれだけ言い切り頭を下げる。
その小動物的可愛らしさや守ってやりたくなる雰囲気にクラス、特に男子は湧いた。
「は~い。静かに、テスタロッサさん達の席は一番後ろの空いてる席二つで、おねがいします」
担任に言われその通りに新たに設置されたと思われる飛び出た席に並んで座る。
「はい、それじゃぁ今朝のHRでは特に喋ることは無いので、このままアリシアさんやフェイトさんへの挨拶の時間とします。あまり騒がず、1時間目に遅れないよう気を付けてくださいね~」
アリシア達が座った事を確認すると担任はそう言って教室から出て行ってしまった。
*
担任が出て行くのを確認すると教室中はアリシア達の周りに群がり、質問攻めを始めた。
「あ、あわわわわ……」
「え、えっとね、その」
多数の人からの質問攻めにフェイトは誰にどう応えていいかわからず、ただただ慌てるだけになってしまい、アリシアの方は何人かに応えようとしているが、それでも間に合っていない。
「Be quiet!」
そんな騒然とした教室に決して大きくは無いが教室中に通る声が発せられた。
その声を発したのは一人の少女、フェイト達程の煌びやかな金髪ではないが、彼女も金髪であり、綺麗な碧眼の目は釣りあがり、腕を組んで仁王立ちするその姿からは威圧感すら感じる程。
「そんないっぺんに質問攻めにして! 二人とも困っているじゃない!」
その威圧感に押され静かになるクラスメイトたちを見て怒鳴った少女、アリサ・バニングスはさっそく指示を出し始めた。
「ほら、どっちに質問したいのか決めたら2列に並びなさい! それから自分の名前を言った後に質問する!」
アリサがそう指示を出すとクラスメイト達は自然と1人、また1人と列をなし、並び始めた。
それを見て満足したのかアリサは一つ頷くとアリシア達の方に向かい頭を下げた。
「ごめんなさいね二人とも。転校生は珍しいから皆テンションが上がっちゃって」
「アリサ? アリサじゃない!?」
そう言って頭を下げたアリサの事をアリシアは思い出したのか驚いたように声を上げる。そんなアリシアに快活な笑みを浮かべるとアリサはそのまま側のフェイトに向き直り、あいさつした。
「えぇ。久しぶりねアリシア。それから、フェイトだったわね。私はアリサ。アリサ・バニングスよ。アリサで良いわ。これからよろしくね」
「う、うん。フェイト・テスタロッサです。その、よろしく」
「えぇ! よろしく!」
そう言ってアリサは右手を差し出す。
「?」
その手を不思議そうに見つめるフェイト。
「握手よ、握手。これからよろしくって意味。親愛の証よ!」
「そ、そうなんだ……。じゃぁ」
アリサにそう言われ、おずおずとその手を握るフェイト。
「よろしく、アリサ」
そう言ってアリサとフェイトは二人して笑いあった。
「それじゃ、時間も少ないしさっさと自己紹介と質問をする!」
そんなクラスを取り締まるアリサの言葉と共に、まるでアイドルの握手会の様に質問と自己紹介が始まり、それは1時間目の授業が開始しかけるまで続いた。
*
「へー。それでここにねぇ」
動物園のパンダのような扱いを都合4回程受け、やっと来た昼休み。アリシアとフェイトの二人はアリサとすずかに引き連れられ、屋上で一緒に弁当を食べていた。
「うん。今まではリニス、……家政婦の人に教わってたんだけど、私も元気になったからってお母さんが学校に行こうって言いだしてね」
そうしてアリシアはなぜ海鳴に来たのかの事情を話していた。勿論、魔法や異世界の事などは抜き、ある程度の嘘と真実を織り交ぜたカバーストーリーであるが。
「わぁ、フェイトちゃん達のお弁当綺麗だねぇ」
「うん、リニスが作ってくれたんだ。それにすずかのも凄いよ」
「えへへ、私のも家のメイドさんが作ってくれてるんだ~」
フェイトは同じ大人し目の性格であるすずかと意気投合したのか、お互いの弁当の内容で盛り上がっている。
「それで、温泉に一緒に来てたあの子は? どうしたのよ?」
「あ、それ私も気になってた!」
そうして盛り上がっていると、アリサの放った疑問にすずかがのり、話題はアリシアと一緒に温泉に入っており、フェイトによく似た少女、レヴィの話題になっていた。
「えっと、レヴィはね」
「レヴィは姉妹じゃなくて従妹なんだ。あの時は一緒に旅行に来てたけど、レヴィはもう向うに帰っちゃったから」
「あぁ、だからレヴィは『姉妹は居ないなんて言ったのね』」
「う、うん」
アリサの質問に答えたのはレヴィがもしもの時の為に考えたカバーストーリー。先ほどとは違い嘘に塗れた言い訳。しかし、フェイト達の事情を知らないアリサ達は疑う事もなく、その話を真実として受け止める。
「あ、そ、そうだ! アリサの方は? もう1人いたよね?」
とりあえず、話題をそらそうとアリシアは今この場に居ないもう1人、高町なのはの話題を出す。
「あぁ、なのはの事?」
「うん」
「フェイトちゃんは会った事無いよね、もう1人私達と仲の良い友達に高町なのはって子が居るんだけどね」
すずかたちとは初対面(という事になっている)フェイトの為にすずかがフォローしてなのはの事を知らせる。
「まぁ、なんか一昨日から家庭の事情? だかなんだかで、学校に来れなくなっちゃったみたいなのよ」
「そ、そうなの?」
「あ、別に病気とかじゃないみたいなんだけど、ただ忙しくてしばらく学校に来れないから、って」
アリサの言葉にすずかが補足をする。
その言葉を聞き、事情を知っているフェイトは顔をうつむかせてしまう。
「まぁ、なのはの事だからいつかひょっこり帰ってくるわよ」
「なのはちゃんが学校来たら紹介するね。きっとフェイトちゃん達も仲良くなれると思うし」
「え、う、うん」
なのはと決別し“日常”を選んだ筈なのに、なんの縁かここでもなのはの影がフェイトの前にちらつく。
ぶつかり合っていた頃より一層、なのはが“日常”を捨てたのだと感じさせる程強く。その影はフェイトに何とも言えない苛立ちすら感じさせていた。
――こんな、“友達”がいてくれるのに……。
なにが不満なのか、フェイトには理解できなかった。
「あ、あぁ! そうそう、二人とも今日の放課後暇?」
なのはの話題を出した途端に、暗くなってしまったフェイトに気付いた三人、特にアリサは持ち前の面倒見の良さから話題を変えるために少し大きな音で手を鳴らし喋る。
「え、あ、うん。特に何も用事は無いけど。ね? フェイト」
それに合わせアリシアも考え込んでしまっているフェイトに話を振る。
「え? うん」
「そう! それなら私の家に遊びに来ない? こっちのゲームとかもいっぱいあるし、お茶するだけでも良いし!」
「あ~、良いね、それ。二人の歓迎会?」
「そうね! ちょっと小規模だけど私達だけでも早めにやっちゃいましょ!」
アリサの提案にすずかは手のひらを合わせ、にこやかに賛同する。
「どう?」
「え、っと」
アリサの提案にアリシアとフェイトは困惑してしまい、どう返答していいかわからなくなってしまう。
当然ながら二人とも“友達”と言える他人は初めてであり、友達の家に遊びに行くなんてイベントは初めてどころか、予想すらしていなかった。
「えっと、お母さんに聞いてみないと、その、わかんない」
結局アリシアがそう答える。
「そう! じゃぁ、携帯は持ってる? 持ってないなら一度家に帰った後、大丈夫そうなら連絡してくれれば、迎えに行くけど」
その答えにアリサは頷きながら提案を出し続ける。その、少し強行な態度にフェイトはどう対応すればいいかわからず慌ててしまい、漫画やアニメだったら目が渦巻のようになって回っていたかもしれない。
「ほら、アリサちゃん、二人とも困ってるから少し落ち着いて~」
そんなフェイト達の様子に気づき、テンションの上がっているアリサをすずかが窘める。
「あぁ、そうね。ごめんなさい」
「え、うん。えっと携帯、だったよね」
すずかに窘められ落ち着いたのか、浮いてしまっていた腰を落ち着かせると謝るアリサに、困惑しながらも、言われた事を確認するアリシア。
「えぇ。持ってる?」
「うん、えっと、コレでしょ?」
そう言って制服のポケットからごく一般的な携帯を取り出すアリシア。フェイト達には必要ないが、アリシアは自分から念話を送る事が出来ない為、地球に来て早々にアリシア用と、それと連絡を取るためプレシア用に買っておいた物の片方だった。
因みにアリシアのは一般的な形であるが、電話しかできない、所謂子供携帯である。
「んじゃぁ、今から家に連絡するね」
そう言ってアリシアは席を立ち、少し離れた場所で家に電話をかける。
『もしもし、テスタロッサです』
数コールの後、電話に出たのは澄んだ声の若い女性。リニスだった。
「あ、リニス? ママ居る?」
『アリシアですか。今プレシアは向うで研究中なんですが、呼びましょうか?』
「あぁ、ならリニスから伝えてくれれば」
『そうですか、わかりました。それで? どうしましたか?』
「えっと、今日帰るの遅くなるけど良いかなぁ、って。友達が家に誘ってくれてね。それで遊びに行きたいんだけど……」
『まぁ! それはそれは。わかりました、プレシアには私の方から言っておくので気にせず遊んできてください。でも夕食までには帰ってきてくださいね』
「うん! 大丈夫!」
『それじゃぁ頑張ってください』
「は~い。じゃぁね~」
「良いって!」
通話が終わり、戻ってくるなり興奮した様子で許可を得れた事を報告するアリシア。
「そう! じゃぁ車を迎えに来させるから、学校終わってから少し待ってもらうかもしれないけど、よろしくね!」
「うん!」
「わかった」
アリシアの報告を聞き、朗らかに笑うアリサに釣られ、アリシアも笑顔を浮かべ、フェイトも少しだけ微笑んだ。
「ほら、三人とも~。そろそろ昼休み終わっちゃうよ~」
いつの間に片付け終えたのか、そんな三人に屋上の入り口から声をかけるすずか。彼女の隙を突いた行動に目をはためかせながらも、三人は慌てて弁当を片付け先行くすずかに追いつかんと、早足で追いかけ始めた。