デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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お待たせしてしまいました。
先週は文化祭や体育祭の準備で忙しかったのであまり執筆作業が進みませんでした。

予想以上にこの作品を読んでいただけているようで驚きました。
一時期は日間一位になっていたようで、自分が見たときは吹き出しました。
期待に応えられるように精進いたします。
あと、感想は自分が答えたいものにだけ返信します。ご了承ください。

それとパートナーデジモンについてアナウンスをします。
パートナーデジモンの進化ルートは主にデジモン図鑑を参考にし、自分の独断と偏見と今後の展開によって決定しました。
なので、公式の説明や進化と違うといったこともあるかもしれませんが、そこはこういう進化もあるんだなと思って納得してください。

今回はちょっと長いです。


第6話 樹海の追跡!フライモンの森!

追跡を開始してから約30分がたった。

同年代の子よりは体力に自信はあったが、さすがに疲れてきた。

 

「あぁ……飛行機雲も見失ったし、館の方角もわからない……」

 

「元気出せよ。なんとかなるって。」

 

ベビドモンが励ましてくれるが、状況は深刻だ。

ワイズモンがいなくなったことに気付いたのはついさっきだ。

てっきりついてきてるもんだと思ってた。

ワイズモンのサポートもなく、しかも周りは樹海と来た。どこからデジモンが襲って来てもおかしくない。

まったく、俺やベビドモンが危険に晒されれば意味がないってのに……30分前の俺をぶん殴って止めてやりたい。

まぁ、くよくよしてても仕方ない。とにかく周りの状況を把握しよう。

 

「どれかの木に登って周りを見渡してみるか……」

 

「それじゃ、あの木がいいんじゃねえか?登りやすそうだし。」

 

ベビドモンが示した木を見ると、たしかに木の表面に凹凸があり、それなりに背も高い。

あの木ならこの辺り一帯を見渡せそうだ。

 

「よし……よいしょっと。」

 

俺は木に近づいて登れそうな場所を見つけて登り始めた。

ベビドモンはその小さな羽を慌しく羽ばたかせて上昇している。

羽はかなり忙しなく動いていて、はたから見ればかなりつらそうに見えるが、本人は涼しい顔でどんどん昇っていく。

 

「遅いよ信人!」

 

「お前が速すぎるんだって!」

 

文句を言いつつもベビドモンを待たせるのはまずいなと思い、上るペースを上げた。

 

「やっと上れた……」

 

少し息を整えてから周りを見渡す。

ミサイモンが出した飛行機雲は見つからなかったが、森の中で開けた場所があるのが見えた。

よく目を凝らしてみると、そこだけ風景が歪んでいる。恐らくあそこに館が隠してあるのだろう。

とりあえず一旦戻った方がいいかもしれない。手がかりもなしに、あの速度で移動するミサイモンがすぐに見つかるとは思えない。

 

「おい信人、これ!」

 

「うん?……これは……」

 

ベビドモンが何かを見つけたらしい。

ベビドモンが示した場所を見ると、木の幹に大きな穴が開いているのを見つけた。

大きさは俺の顔ぐらい。もしかするとこれはミサイモンが突っ込んだ跡なのかもしれない。

その穴の延長線上を見てみると、木の繁りに不自然な穴が開いており、さらにその奥にある木の幹にも穴が開いている。まるで何かが一直線に貫いたように……

 

「これ絶対ミサイモンの通った跡だって!」

 

「そうみたいだな。」

 

手がかりが見つかったはいいが、日没までに見つけて連れて帰ることはできるだろうか?

連れて帰ること自体はそんなに難しいことじゃない。

前にワイズモンに聞いたことだが、マシーン型デジモンは命令に忠実なのだという。

つまりミサイモンを見つけて「戻れ」と命令すれば戻ってくるはずなのだ。

問題は見つけられるかということだ。

ミサイモンは高速で飛行している。跡を見つけたからといって追いつくことができるだろうか?

帰るか?それとも追跡か?

 

「うーん……」

 

「おい信人。」

 

「なんだよベビドモン。」

 

「何かくるぜ。」

 

「!」

 

ベビドモンの忠告を聞いて俺は身を低くして周りを警戒する。

すると上空からハチの羽音が聞こえてきた。ハチとなるとフライモンだろうか?

原作ではたしか針に猛毒が仕込んであるって説明を聞いたような気がする。

それにあいつは成熟期デジモン。ベビドモンで戦えば勝ち目はないだろう。

来るかもしれない襲撃に備えて音の聞こえる方に体を向けて身構える。

 

「……?」

 

木の葉の隙間から相手のデジモンの姿が見えてきたけど、予想していたよりはるかに小さい。

あれほんとにフライモンか?

 

「おう!こんなとこで何してんだ?」

 

「え!?」

 

まさか警戒していた相手から陽気に声をかけられるなんて思ってなかったから思わず声を出してしまった。

木の葉を割って入ってきたのは、デフォルメされたハチの姿をしたデジモンだった。フライモンのように刺々しくて獰猛な印象はなく、むしろおとなしそうな雰囲気を持っている。

 

「えっと……お前は?」

 

「俺はファンビーモンっていうんだ。そっちはベビドモンと……お前何モンだ?」

 

「いや、俺はデジモンじゃなくて人間なんだ。名前は高倉信人だ。」

 

「人間?高倉?」

 

「呼びづらかったら信人って呼んでくれればそれでいい。」

 

「おう!わかったぜ信人!」

 

話してみるとずいぶんと陽気な口調でファンビーモンは自己紹介をしてきた。

 

「なんでファンビーモンは俺たちがいることがわかって話しかけてきたんだ?」

 

「そんな妙な格好でこの森の中にいればどんなデジモンでも気づくって。お前に話しかけたのはその妙な姿が気になって、何してるんだろうなって思ってさ。」

 

やっぱり人間の服は目立つのか……

いままで野生のデジモンに目を付けられたのはそのせいかもしれないな。

 

「で?お前はその妙な格好で何してんだ?」

 

「俺たちはミサイモンってデジモンを探してるんだ。この辺りを飛び回ってたはずなんだけど……」

 

「ふーん、デジモン探しか。だが悪いことはいわねぇからもう帰った方がいいぜ。もう少し時間が経てばこの森の昆虫デジモン達が活発に動き出す時間だからな。」

 

「そうはいかない。ミサイモンは俺の大切なパートナーデジモンだから、危険に晒される前に何とか連れて帰りたいんだ!なぁ、なにか知ってたら教えてくれないか?」

 

ここのデジモンが活発になるってことはミサイモンも危ないということになる。早くミサイモンを見つけないとまずい!

ここで情報が得られればミサイモンが見つかる可能性が上がるかもしれない。

そう思って俺はファンビーモンに詰め寄って情報を聞き出そうとした。

 

「そのミサイモンって奴、お前の大切な仲間なんだな……気に入ったぜ!帰れなんて野暮なこと言わねぇ。俺も協力してやるよ!」

 

「本当か!?」

 

「あぁ!ちょっと待ってろ。≪88コール≫!」

 

ファンビーモンは触覚を青から赤に変色させ、そのまま上昇していった。

しばらくファンビーモンは上空を飛び回っていたが、少しすると複数の羽音が聞こえてきた。

周りを見渡すとファンビーモンたちがどんどんこの木の上空に集まってくるのが見えた。

その数は10匹以上。そして最初に俺と話したファンビーモンを中心にして何やら会話をしているみたいだ。

さらに待っていると話し合いが終わったらしくファンビーモンたちは散り散りになり、一匹だけこちらに向かってきた。たぶんあれが俺たちに話かけた奴だろう。

 

「すまねぇ。待たせちまったな。俺の仲間たちはこの島の森で花や木のデータを集めて回っているんだ。その仲間たちに聞いてみたら、この森の近くでミサイモンを目撃した奴がかなりいた。」

 

やっぱりミサイモンはこの辺りを飛び回っていたらしい。

 

「聞いた話をまとめるとだな、最初は不安定な飛行をしていたみたいだが時間が経つにつれて安定してきたらしい。自分から木に突っ込んだところ見たって奴もいたぜ。」

 

「つまりミサイモンはこの辺りで飛行の練習をしてたってことか?」

 

「たぶんそうだろうな。こっちに向かっている途中に見たって仲間もいたから、そんなに遠くにはいないはずだぜ。ここで待ってりゃ会えると思うぜ。」

 

良かった。思ったよりは遠くには行っていないみたいだ。あのスピードで飛び回ってるとしたら、合流にそこまで時間はかからなそうだ。ここで待っていよう。

 

「ありがとうなファンビーモン……どうしたんだ?それにベビドモンも。」

 

二匹とも顔がこわばっていて何かを警戒しているみたいだ。周りを見てみると、なにか森の雰囲気がさっきとは違って見える。

 

「森がざわついている……」

 

「やべぇ、森の昆虫デジモンが本格的に動き始めやがった。まだ時間には余裕があるはずなのに……すまねぇが俺はここらで失礼するぜ!」

 

「あ、あぁ!いろいろありがとなー!」

 

ファンビーモンにとって昆虫デジモンの活発化は予想外だったらしく、俺たちの前から慌てて飛び出していった。

さて、これからが大変だ。どうやって昆虫デジモンに見つからないようにするか……

 

「おい信人、あれ見ろよ。へへ、腕が鳴るぜ。」

 

「……嘘だろ?」

 

先ほどのファンビーモンとは違う荒々しいハチの羽音が聞こえてくる。

ベビドモンに促されてそちらの方向に顔を向けると、紫色の羽を持った毒々しい色合いの大きなハチの姿をしたデジモン、フライモンがこちらに向かってきていた。

あぁ、今日もまた一つ死線を潜り抜けることになりそうだ……。

あいつの針にはたしか毒があったはずっだから、かすり傷でも致命傷になりかねない。

ここは何とか逃げるしかない!

 

「よっしゃ!やるぜ!」

 

「馬鹿!あんな奴に勝てるわけないだろう!」

 

「なんだと!あんな虫くらい楽勝だ!」

 

俺はベビドモンが飛び出すのを必死に止める。

ベビドモンは粋がっているが、竜型とは言ってもまだ幼年期のデジモン。

成熟期のデジモンに勝てるわけがない。

 

「もういい!離せ!」

 

「痛っ!こら待て!」

 

ベビドモンは俺の必死の静止を振り切って飛び出していった。

小学二年の体じゃ竜の子供を抑えておくには力不足だった。

そのままベビドモンは一直線にフライモンに向かって突撃する。フライモンはこれをチャンスと見たのか、足についている鋭いかぎ爪を振りかぶりベビドモンと同様に突進する。

このままではベビドモンが死んでしまう!だが俺にはどうすることもできない。

俺は無力感にさいなまれながら結果が明確な勝負を見守ることしかできなかった。

だが、次の瞬間に信じられない光景が目に飛び込んできた。

 

両者が交錯する瞬間、フライモンはそのかぎ爪をベビドモンに向かって振り下ろした。

しかしベビドモンはそれと同時に翼を力強く羽ばたかせ、振り下ろされるかぎ爪を避けながら

前のめりになったフライモンの真上に躍り出た。

 

「≪ホットガス≫!」

 

そしてベビドモンはフライモンの羽の付け根に向けて赤い息を吹きかけた。

技がまともに通ったように見えた俺は、一瞬これならいけるかも!と思ったが、その息は若干滞空した後にフライモンの羽の羽ばたきによって霧散させられてしまう。やはり成熟期と幼年期の差は大きい。

これのままではすぐにベビドモンは反撃さらされてしまう。それにもしかしたら俺に向かってくるかもしれないから、これ以上木の上にいるのは危険だ。

俺はフライモンの動向に注意しながら急いで木を下り始めた。

しかし、木を下りながらフライモンを観察しているとおかしなことに気付いた。

フライモンは旋回し再びベビドモンの方に向かおうとしていたが、明らかに飛行速度が落ちているのがわかる。それに飛行姿勢も不安定だ。

どうも先ほどの攻撃が羽にダメージを与えていたようだ。

そんな状態のフライモンに向かってベビドモンは突進していく。

 

「落ちろ!≪ホットガス≫!」

 

今度は羽ではなくフライモンの顔面であろう部分に息が直撃した。

 

「キーッ!」

 

フライモンは悲鳴のような鳴き声をあげて飛行姿勢を著しく崩した。

先ほどまでまっすぐ飛んでいたフライモンだが、ベビドモンの攻撃を受けた後は右往左往している。

もしかして目が見えていないのか?

どうもあの攻撃には視界を奪う効果があるようだ。あと技名からしてそれなりに高温なようだ。

フライモンの飛行速度が落ちた原因はおそらくベビドモンの第一撃で羽にやけどを負ったのだろう。羽の付け根を狙ったのは息がすぐに霧散されるのを防ぐためかもしれない。

 

木を下りながら考察をし、さらにフライモンの行方を観察していると、ついにフライモンは森の木に激突して墜落してしまった。

幼年期デジモンが成熟期デジモンを圧倒するという光景に呆気にとられながらを木を下りていった。

そして俺がちょうど木から降りた時にベビドモンが戻ってきた。

 

「どうだ!あんな虫楽勝だぜ!」

 

ベビドモンは得意顔で言ってくるが、俺は素直に喜べない。

一歩間違えたら大切なパートナーデジモンを失うところだったんだから当たり前だ。

 

「あぁ、お前がすごいのはわかったから、もうあんなことしないでくれ。滅茶苦茶心配したんだからな。それよりここから早く離れるぞ。」

 

「何言ってんだ。まだ羽の付け根にダメージを与えて視界を奪っただけで、まだ決着はついてねぇ。これから止めを刺しに行くんだよ。視界を奪ったから大して動けないはずだし、そんなにビビることはねぇよ。」

 

「あ、おい!」

 

そういってベビドモンはフライモンが墜落した方に行ってしまう。

どうも進化してから獰猛な性格に変わってしまったようだ。

俺はベビドモンを止めようとするが、俺より若干速い速度で移動してるから追いつけない。

あぁ、短い間だったけどチコモンの頃はあんなに俺になついていて言うこともよく聞いてくれていたのに……

これが反抗期を迎えた子供を持つ親の心というものだろうか?

そんなことを考えながら必死にベビドモンを追いかける。

しばらくするとフライモンの弱弱しい鳴き声と散発的な羽音が聞こえてくる。もう少しで接敵するようだ。

そしてついにフライモンのところにたどり着いた。

フライモンは頭をしきりに動かしながら必死に羽を羽ばたかせて飛ぼうとしているが、予想以上に羽に負ったダメージがでかいのか、まったく飛び上がる気配がない。

 

「キッー!キッー!」

 

「うるせえなぁ。さっさと倒しちまうか。」

 

ベビドモンがフライモンにゆっくりと近づいていく。どうやらもう勝った気でいるようだ。

幼竜とはいえ、幼年期デジモンが成熟期デジモンを圧倒する光景は何とも違和感がある。

本来なら狩る側にいるはずのフライモンがあんなに鳴いちゃって、まるで助けを……!

 

「危ないベビドモン!!」

 

「うわ!?」

 

フライモンの頭上の木が不自然にざわついたのを見て、俺は慌ててベビドモンを突き飛ばした。さらに俺も突き飛ばされたベビドモンの後を追うように茂みに入った。

そして次の瞬間、ベビドモンのいた場所に大量の白い雷が降り注いだ。

バチバチと音を立てて稲妻のように発光しているが、よく見ると糸のようだ。

いつの間に集まったのやら、木の上には黄色い体表にイナズマの模様を持つイモムシ型のデジモンが5匹ほどいた。

たしかあれはクネモンだったか?

どう見てもあのフライモンのピンチに駆けつけった感じだよな。

 

「逃げるぞベビドモン。あのフライモンは恐怖を感じて鳴いていたんじゃない。仲間を呼ぶために鳴いていたんだ!必死で羽ばたかせていた羽も仲間を呼ぶサインに違いない!」

 

「あのイモムシ程度なら俺だけで……」

 

「あいつらだけじゃないはずだ。成虫のフライモンもうすぐやってくる!」

 

そう言っている内に頭上から聞きたくない羽音が聞こえてきた。

間違いなくフライモンの羽音、しかも複数。

 

「逃げるぞ。いいな!」

 

「……くっそぉ!」

 

ベビドモンは悪態をつきながらも館の方向に向かって飛び始めた。俺もベビドモンの後追って走り出す。

 

「木の上に気を付けろ!クネモンが待ち伏せしているかもしれない!」

 

「んなことわかってるよ!」

 

俺の警告にベビドモンが怒鳴り返すように返事をする。

俺の予想通り、進路上の木の上から俺たちに向けて電気糸が降ってきた。そして、すぐ後ろではガシュ!ガシュ!という何かが突き刺さる音が聞こえる。

恐らくフライモンが毒針をガンガン飛ばしているんだろう。

前方からは電気糸、後方からは猛毒針。

 

「嘘だろおおおおおお!!」

 

そう叫ばずにはいられないほどの理不尽で危機的な状況だ。

このまま館までこの猛攻を躱し切れるかどうか非常に怪しい。

 

しばらくは奇跡的に被弾0(とは言ったものの被弾すれば即死亡)で逃げ続けていたが、俺の体ではこの悪路を走り続けるのはきつすぎる。

疲れが出始めててスピードが落ち始めてくる。

 

「おいしっかりしろ!」

 

ベビドモンが俺を叱咤するが、俺の体は小学二年生のものだ。

他の子どもよりは体力に自信があるが、限界はたかが知れている。

しかも上空の羽音がさらに増えた。これはいよいよダメかもしれない……

 

「信人!前!」

 

羽音に気を取られ空に目を向けていた俺はベビドモンの声を聞いて慌てて前を向く。

そこにはクネモン5匹が横一列に整列していて、俺たちの進路を塞いでいた。

この場合は咄嗟に横に逃げなければならないが、俺はこれまでにたまった疲れのためか、判断が遅れてしまいその場で立ち止まってしまった。

 

「馬鹿!何やってんだ!」

 

すでに回避行動を終えたベビドモンが慌ててこちらに戻ってくるのが視界の端に見える。

たが、クネモン達はすでに発射体制に入っていてベビドモンの助けは間に合わないだろう。

俺はこのまま集中砲火を食らうと思い、目を閉じて腕を顔の前で交差させて精一杯のガードをした。

しかし……

 

「「「「≪ギアスティンガー≫!」」」」」

 

いきなり大勢のデジモンの声が聞こえたかと思うと、ガガガガガッ!というすさまじい音があたりに響いた。

恐る恐る目を開けてみると、クネモン達のいる場所にギザギザした針が数十本も刺さっていた。もちろん針はクネモン達にも刺さっていて、クネモン達は鳴くこともせずに地面に横たわり、粒子となって消滅した。

 

「……助かったのか?」

 

「おーい!無事か!」

 

声のする方に顔を向けると、先ほど撤収したはずのファンビーモン達が数匹飛んでいた。

そして一匹がこちらに向かってくる。たぶん俺たちと会話をしたやつだ。

 

「助かった!もうだめかと思ったよ。」

 

「ほんとだよ。まったく焦らせやがって。」

 

「間に合ってほんとによかった!間に合わなかったら一生後悔することになってたぜ……」

 

ベビドモンには心配かけちゃったな。ファンビーモンが来てくれなかったらどうなってたことか……。

 

「でもなんで戻ってきたんだ?」

 

「それがよう、帰る途中に昆虫デジモンが騒ぎ出した原因を考えてたんだ。それで、もしかしたら俺が不用意に仲間を呼んじまったのが原因じゃないかと思ってな。」

 

「仲間を呼ぶとなにかまずいのか?」

 

「自分たちの縄張りに急に他所のデジモンが集まりだしたら、どんな奴だって警戒するはずだろう?」

 

「あぁ、そうか。」

 

たしかに自分たちの縄張りに他のデジモンが集まりだせば何事かと思うよな。

 

「だからこうやって仲間を連れてきて戻ってきたわけだが……やっぱり俺のせいで危険な目に合わせちまったみたいだな。ほんとにすまねぇ!」

 

どうやらあの時増えた羽音はファンビーモン達のものだったらしい。

たしかに原因はファンビーモンかもしれないけど、あの時してくれたことはうれしいと思ったし、今回もこうやって助けに来てくれた。

それにフライモンを深追いした俺たちも悪いから、文句言うことなんてないよな。

 

「もういいよ。こうやって助けに来てくれたし、あのときだって俺たちのことを思ってやってくれたんだろう?お礼を言うことはあっても、お前を責めるようなことはしないよ。ありがとうな、ファンビーモン。」

 

「うぅ……信人っていいやつだな……無事でほんとによかったぁ……」

 

俺のお礼を聞いたファンビーモンは感極まって泣き出してしまった。

 

「泣くなよ、それより周りの状況を教えてくれよ。」

 

「ぐすっ……今は俺の仲間たちがクネモンとフライモンを抑えてる。今のうちに早く逃げた方がいい。」

 

「お前たちの仲間は大丈夫なのか?」

 

ファンビーモンの体はそこまで大きくない。恐らく成長期デジモンだろう。

なんども言うがフライモンは成熟期のデジモンだから、ファンビーモンが相手をするにはちょっと荷が重いのではないかだろうか?

 

「心配すんな。今回は特別にあいつらに来てもらったから。」

 

ファンビーモンの示す先を見ると、ハチ特有のストライプ模様の金属ボディを持つサイボーグ型デジモンがいた。

姿はハチに似ているが、上半身は人に近い姿をしている。

本来針を出す尻尾の部分は球になっていて、針はレーザー砲台のように見える。

羽で飛ぶのではなく、肩についた推進器と背中のスタビライザーを使って飛んでいるようだ。

 

「あいつらはワスプモン。滅多に持ち場をはなれないんだが、今回は無理を言ってここまで来てもらった。あいつにかかればフライモンなんて敵じゃねぇ。」

 

俺たちが見ているワスプモンはフライモンとの空中戦の真っ最中だった。

フライモンは自慢の毒針をワスプモンに向けて連射するが、ワスプモンは上下左右に急速に移動し毒針を難なく避けている。

もっとも当たったとしても金属のボディに毒をはじかれると思うが……

焦れたフライモンはかぎ爪を使って攻撃しようとしたが、フライモンの突撃は直線的なもの、空中を縦横無尽に動けるワスプモンを捉えられるはずがない。

案の定ワスプモンはフライモンの突撃をひらりとかわし、フライモンの後ろにつく。

ワスプモンはすぐにレーザー砲の照準をフライモンに合わせ、レーザーを発射した。

レーザーはフライモンを直撃、そのままフライモンは森の中に落ちていった。

 

「あれなら心配なさそうだな。」

 

「あぁ、だから早くこの森から……なんの音だ?」

 

俺たちが安堵して逃げようとしたときに、辺りに大音量の羽音が響いた。

最初はフライモンの大群がやってきたのかと思ったが、これは複数匹の羽音じゃない。

音の正体を確かめるため上空に目をやった。

 

「なんだありゃ!?」

 

ファンビーモンが驚きの声を上げる。

視線の先にいるのはフライモンだが、その大きさが尋常じゃない。

通常のフライモンの3倍以上はあるであろう体躯が空を飛んでいる。もしかするとこの辺りを支配するボスなのかもしれない。

ワスプモン数匹が慌てて迎撃に向かう。

でかいとは言っても多勢に無勢、すぐに脅威は排除されるかと思ったが……。

 

「な!?早い!」

 

巨大フライモンは予想外に素早く、ワスプモンのレーザー攻撃を難なく躱してしまった。

そして巨大フライモンはすぐに反撃に転じる。

なにか技を出すということはなく、ただのスピードがある体当たりだったが、そのスピードが脅威だった。

ワスプモン達は速すぎる体当たりをよけきることができず、攻撃を食らって弾き飛ばされてしまう。

あれだけではやられないだろうが、それでもこの状況はまずい。

巨大フライモンだけではなく、普通のフライモンもまだいるのだ。ワスプモンだけで両方に対処するのはきついだろう。

 

「おい!こっちに向かってくるぞ!」

 

ベビドモンが慌てたように言う。ワスプモンを一時的に退けた巨大フライモンは、今度はこちらを目標に定めたらしい。

もちろんこちらに対抗手段はない。逃げようにもあいつの速度から逃げ切れるとは思えない。

万事休すかな……

そう思った時、どこかで聞いたジェット音が聞こえてきた。

巨大フライモンもその音の正体を確かめるため、その場にとどまり辺りを見渡している。

この辺りでジェット音といったあいつしかいない。

そしてすぐに音の正体は現れた。

 

「ミサイモン!」

 

空の彼方から現れたのは俺たちが探し求めていたデジモン、ミサイモンだった。

ミサイモンは俺たちを襲おうとしている巨大フライモンを敵と認識し、フライモンに向かって突撃攻撃を試みる。

幼年期デジモンの攻撃など本来は取るに足らないもののはずだが、ミサイモンの突撃は相手が成熟期デジモンでも致命傷を与えることができるはずだ。

俺はこのまま当たれば勝てると思ったが、巨大フライモンは本能でこの攻撃の危険性を察知したのか、回避行動をとってミサイモンの突撃を間一髪のところで躱してしまった。

ミサイモンは突撃が回避されると、勢いそのままに巨大フライモンの後ろに生えていた巨木の幹に突っ込んでしまった。

しかしミサイモンの突撃はその幹を難なく貫通し、反転して巨大ミサイモンに向かってもう一度突撃を行う。

だが巨大フライモンはそれを見てミサイモンの突撃が脅威だと確信し、もっと余裕をもって回避するようになってしまった。これでは突撃を当てるのは至難の技だ。

なんとか援護したいが、ワスプモンは戻ってくる途中に普通のフライモンと接敵してしまい、そちらの対処に追われている。

ベビドモンやファンビーモン達の攻撃じゃあの巨大フライモンにダメージを与えることはできないだろう。

何かないかと周りを見渡すと、散発的に空に向かって電気糸が放たれているのに気付いた。

どうやらクネモンがまだ木の上に残っていて、ミサイモンに向かって糸を放っているらしい。

しかしクネモン達はミサイモンを直接狙っているらしく、糸はすべてミサイモンの後方に無意味に放たれている。

あんなスピードを出している奴を直接狙って当たるわけがない。当てるなら軌道を予測して目標の未来位置に攻撃しないとだめだ。

だがクネモンにそこまでの知能はないらしく、さっきからずっとミサイモンを直接狙って糸を放っている。

これは使えるかもしれない……

 

「ミサイモン!スピードを落としてフライモンを後ろにつけろ!糸には十分に注意しろ!」

 

俺の指示を聞いたミサイモンはスピードを落とし、巨大フライモンの周りを挑発するように飛び始めた。

しばらく巨大フライモンは様子を見ていたが、これを好機と判断したのかミサイモンを猛然と追い始めた。

そして俺の描いた通りのことが起き始めた。

ミサイモンを狙って放たれた糸が猛追する巨大フライモンにあたったのだ。

クネモンはミサイモンを狙って放っているつもりだろうが、ミサイモンが飛んでいる位置は巨大フライモンの未来位置にあたる場所だ。ミサイモンを直接狙って糸を放てば後ろの巨大フライモンにあたるのは当然だ。

だが巨大フライモンはクネモンの糸を引っ付けたまま追ってくる。電気糸の先には哀れにも糸を切り離し損ねたクネモンがぶら下がっている。

たかが成長期デジモンの攻撃で落ちるとは思っていない。

しかし塵も積もれば山となれ、だ。

ミサイモンと巨大フライモンが追いかけっこをしている最中にどんどん糸が放たれていく。

巨大フライモンはその体の大きさが災いし、電気糸を残さず回収していった。

 

30匹ほどのクネモンをぶら下げたところで巨大フライモンのスピードが落ち始めた。

あれだけ電気を帯びた糸をくっつけていればそろそろ体がしびれてきてもおかしくはない。

そしてそれはまたとないチャンスだ!

 

「ぶち抜けミサイモン!」

 

ミサイモンは俺の声を聞くと、ループ軌道をとって巨大フライモンの背中に逆落としで突っ込む。

巨大フライモンの動きは鈍く、回避行動はとれない。

そして次の瞬間、ミサイモンは巨大フライモンの体の中央部に突撃。

そしてそのままフライモンの体を貫通した。

腹に風穴があけば誰がどう見ても致命傷だ。

巨大フライモンの羽ばたきは次第に弱くなり、高度を徐々に下げていく。

 

「ギイィィ......ィィイイイイイイイイイ!!!!」

 

いよいよ飛行姿勢を維持できなくなり、甲高い断末魔を上げながら墜落した。

その後データの粒子となって巨大フライモンは消滅した。

 

………………

……………

………

……

 

ボスを失ったフライモンやクネモンたちは戦意を喪失し、散り散りになって逃げてしまった。

縄張りを失ったこいつらのことを考えると少々後ろめたさを感じる。

 

「なんだか悪いことしちゃったかな?」

 

「気にすんな。デジタルワールドじゃ縄張りの取り合いなんて日常茶飯事だ。じゃあ俺たちはそろそろ行くけど、ここでいいんだよな?」

 

戦闘が終わった後、ファンビーモン達は安全な場所まで俺たちを送ると言ってきたので、もうクタクタだった俺はその言葉に甘えさせてもらった。

そして俺たちにしか見えないはずの館の前まで来ている。

 

「あぁ。悪いな、ここまで送ってもらって。」

 

「礼なんていらねぇよ。この森の中で幼年期デジモン2匹を放っておくほうがどうかしてるぜ。」

 

幼年期とは言ってもこいつら規格外だけどな。

成熟期デジモンを倒しちゃうし。

 

「よし、ここらで俺たちは帰るぜ。またな信人!」

 

「あぁ!また会おうなファンビーモン!」

 

ファンビーモンとワスプモン達は一斉に飛び立ち、空の彼方へ飛んで行った。

俺はあいつらが見えなくなるまで精一杯手を振った。

 

「ふぅ~なんとか帰ってこれた~」

 

俺は安堵の息を吐いた。ここまで来ればとりあえずは安心だが、まだ悩み事が二つある。

1つはミサイモンをどうやって中に入れるかということ。もう1つは帰り道でベビドモンが一切口をきいてくれなかったことだ。

何を話しかけても無視だったり生返事だった。何か考え事だろうか?それとも俺が何か悪いことをしただろうか?

考えても思いつかないのでとりあえずミサイモンの問題を何とかしようと思い、上空に目をやる。

 

「え!?」

 

ミサイモンを見た瞬間俺は思わず声を上げた。ミサイモンの体が白い光に包まれている。

あれは今日見たのと同じ……

 

「進化するようですね。」

 

「!、いたのかワイズモン。」

 

「はい。それとあなたの行動は記録でまた見させてもらいました。ほんとに心配したんですよ。私は戦闘を禁じられてるから助けに行くことができませんし……」

 

「いやすまない。てっきり付いて来てるもんだと思ってて……」

 

「まぁこうやって無事で帰ってきてくれたのでいいですよ。あなたのデジモン達は他のデジモンと戦闘したことによって急激に成長したようです。ベビドモンも進化するようですよ。」

 

ワイズモンに言われてベビドモンの方に顔を向けると、ベビドモンも今朝のように体が白い光に包まれていた。

ミサイモンも進化の準備のためか、緩やかに高度を下げてベビドモンの隣に下りてきた。

そして……

 

「ミサイモン進化!……ハグルモン!」

「ベビドモン進化!……ドラコモン!」

 

二匹はついに進化を果たした。

ミサイモンは三つの歯車で構成された体を持つマシーン型デジモン、ハグルモンに進化し、ベビドモンは青い体表の姿の小さなドラゴンの姿のデジモン、ドラコモンに進化した。

 

「ギギ……マスター、ヨロシク。」

「………」

 

ハグルモンはしゃべるのに慣れていないのか、たどたどしく挨拶をしてくる。

しかし、ドラコモンは黙ったままだった。

どこか悪いのかなと思ってドラコモンに近づくと、近づいてきた俺に向かってドラコモンは睨みつけて威嚇した。

それに戸惑って俺が足を止めると、ワイズモンが耳打ちをしてくる。

 

「ドラコモンの性格は非常に獰猛です。気を付けてください。」

 

気を付けろって言われてもどうすればいいのか……

俺がさらに困惑していると、ドラコモンが口を開いた。

 

「信人!俺と決闘だ!」

 

ドラコモンは俺を睨みつけながらそう言った。

 




成長期はハグルモンとドラコモンです。
しばらくはこのままでストーリーが進みます。

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