デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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お久しぶりです。
がんばっていくとか言ってお待たせしてしまい、申し訳ありません。
さらに、4月から新生活が始まるので更新がまた空くかもしれないです。まぁタグに不定期更新とあるので、ご了承いただけると幸いです。
今回でやっと戦闘が終わって少しだけ話が進みます。


第42話 オオクワモンを迎撃せよ!

 ウィッチモンの戦いが終わった頃、ミケモンはまだオオクワモンと戦っていた。

 戦闘スタイルを変えた後からオオクワモンから何発か攻撃は食らっているものの、致命的なダメージには達しておらず、研究所にも指一本触れさせていなかった。

 

(注意は引いてる。でも、そのために当てた攻撃はほとんどダメージになっていない)

 

 頭部だけではなく他の部位にも攻撃してみたものの、オオクワモンはミケモンの攻撃をいくら食らっても平然と暴れていた。攻め手を欠いてはいるが、ウィッチモンが戻ってくれば突破口が開ける可能性があるので、圧倒的に不利というわけではなかった。

 

 暫くはミケモンが攻撃を躱して注意 を引くために打撃をうち、それをオオクワモンが振り払うという攻防が繰り返されていたが、オオクワモンが羽を広げて空中を飛びだったことで戦闘は新たな場面となった。ミケモンは当然飛べないので追撃に行くことはできず、オオクワモンの動向を地上から注視する。

 ある程度高度を取ったところでオオクワモンは一旦停止し、ミケモンに向かって頭からダイブした。

 攻撃がたまにではあるが当たるようになったことで若干頭が冷えたのか、オオクワモンはここにきて新しい攻撃パターンを組みこんできた。しかし、オオクワモンを注視して動向を観察していたミケモンは慌てずに横っ飛びをしてダイブ攻撃を回避する。

 ミケモンが回避したことでオオクワモンは砂漠へと頭から突っ込むことになるが、それに怯んだ様子はなく、そのまま砂の中へと潜って行った。

 

(今度は砂の中……こっちからは攻撃できないから、回避に専念するしかない)

 

 砂の中からの攻撃は察知しにくいように思えるが、戦闘開始時に砂中からの奇襲を避けて見せたミケモンにとってそれほど難しいことではなかった。その証拠に、ミケモンは周りを注視して砂の僅かな動きを見つけ、オオクワモンの位置におおよその見当をつけている。そして視界に捉えた不自然な砂の動きはミケモンへと真っ直ぐ向かい、次の瞬間にはミケモンの目の前の砂中から灰色の鋏が飛び出した。

 攻撃を察知していたミケモンは慌てることなく後ろに飛んでオオクワモンの攻撃を避けるが、獲物逃がしたと気付いたオオクワモンの鋏は砂の中に引っ込んでしまう。

 

 空中や砂中を移動するオオクワモンに対してミケモンからは攻撃のしようがない。しかし、ミケモンはそれでも問題はないと思っている。

 ミケモンにとって大事なのはオオクワモンの注意を引きつけることであり、撃破することまでは狙ってない。目的がそれに変わるのはウィッチモンが合流してからだ。

 対するオオクワモンはミケモンからの反撃が無いことをいいことに、そのまま砂の中から攻撃を続行することを決めたようだ。

 その後、オオクワモンは何度か砂の中から攻撃を仕掛けるが、ミケモンはそれを尽く躱す。そのままいたちごっこが始まるかに見えたが、今度は砂に動きは見られなくなってしまった。

 

(待ち伏せ? いや、ターゲットが変わった?)

 

 ミケモンは砂中で待ち伏せしてるのではないかと思ったが、よく考えれば砂中には信人やストライクドラモン達がいる研究所の地下がある。それがターゲットにされた可能性に思い至った瞬間、背筋が少し寒くなる。

 

(それはまずい!)

 

 地下室が頑丈だとはいえ、あの巨体で直接攻撃を加えられればどうなるかは分からない。なのでミケモンは何とかしてそれを阻止しなければならなくなった。

 もう一度ミケモンが辺りを見渡すが、やはり周りの砂の動きからはオオクワモンの動きは察知できない。このまま棒立ちしていても意味がないと判断したミケモンは、今の位置からは見えない場所を観察するために駆け出した。

 しかしその判断は今までの冷静な思考が下したものではなく、この状況を打開しなければという焦りから下した判断であった。そのため、踏み出した足元に生じた砂の変化に気付くのが遅れてしまう。オオクワモンはターゲットを地下室に変えたのではなく、待ち伏せをしていたのだ。

 

「……!?」

 

 足元の砂が盛り上がるを少し遅れて確認したミケモンは、恐らく砂中から飛び出すであろう鋏による一撃を避けるためにその場から飛び退いた。しかし、その軌跡を追って砂の中から飛び出してきたのは鋏ではなく剛腕であった。

 

「ぐぅ!?」

 

 鋏による攻撃を予想していたミケモンこれを避けられず、オオクワモンの剛腕はミケモンの小さな体を捉えて空中へと弾き飛ばした。何とかガードはぎりぎり間に合ったものの、打撃を受けた衝撃と空中に投げ出されたことが災いし、回避行動がとれなくなってしまった。

 オオクワモンはそのミケモン目掛け、今度は本命である鋏を突き出してきた。完全体デジモンによる必殺技がクリーンヒットしてしまえば、成熟期であるミケモンの体は耐えられない。もしこのまま攻撃を許せばミケモンはデータの粒子へと還ってしまう。

 

(ま、ずい……!)

 

 頭では分かっているものの体が動かず、迫るオオクワモンの鋏を睨み付けるのが精一杯だ。それでもミケモンは諦めず、何かできないかと視線を辺りへと走らせると、視界の端に何かがオオクワモンに飛んでいくのを捉えた。

 飛来した物体がオオクワモンに当たるとガシャン!という音を立てると同時に、オオクワモンの頭部が炎に包まれた。

 

「コアアアアアア!?」

 

 頭部が炎に包まれたオオクワモンは攻撃を中断してしまい、砂から体を半分出した状態で頭を振って何とか火を消そうとするが、火の勢いは衰えることがない。

 ミケモンは何が起こったのかよく把握できないまま重力に引っ張られて落ちていくが、その体を空中でを誰かが受け止めた。

 

「危なかったわね。遅くなってごめんなさい」

 

「……ウィッチモン」

 

 ミケモンの体を受け止めたのはクワガーモン達を退けて戻ってきたウィッチモンだった。先ほどオオクワモンの頭部に当たったのは、ウィッチモンが選ばれし子供達と戦闘したときに使っていた爆発するフラスコだ。

 

「間に合ってよかったわ。やっぱり苦戦していたみただけど……」

 

「こちらからの有効打がなかった。でも、あなたが来たから攻勢に出れる」

 

「なるほどね……でも、ちゃんと考えて戦わないと期待に応えられないわ」

 

「……なぜ?」

 

「さっきの戦いでちょっと力を使いすぎちゃったみたい……魔力が少ないってやつね。元々精神的にも疲れてたし、そう何度も技が撃てないのよ」

 

「……分かった。それと、あいつの体表はかなり固い。貫通できる技はある?」

 

「できるとしたら、≪アクエリープレッシャー≫ね。あいつはでかい図体してるけど、当てずらい技だし撃てる回数も少ないから動きをしっかりと止める必要があるわね」

 

「……それは、少し難しい」

 

 ミケモンが囮になって注意をひきつけることはできるが、動きを完全に拘束することが出来ないうえ、砂の中や空中に逃げられると囮の役割すら果たせるとは言いづらい。

 それを察したウィッチモンはミケモンを左手で抱えるようにして支え、右の手のひらを未だに砂の中に体を半分埋めたまま暴れているオオクワモンへと向けた。狙いは比較的動きが少ない胴体だ。

 

「だったら、今がチャンスってことね! ≪アクエリープレッシャー≫!」

 

 ウィッチモンから放たれた高圧水流はオオクワモンの胸部を捉えたが、オオクワモンの甲殻をすぐに貫くことはできない。それでも甲殻は音を立てて削れ始めており、このまま技を当て続ければ胸部甲殻を貫通させることができる。

 

「コアアアアア!?」

 

 しかし、頭に炎がついたうえに自分の甲殻が削られていることに気付いたオオクワモンは大慌てで砂の中へと潜ってしまう。

 

「あぁ、惜しい! あとちょっとでいけそうだったのに」

 

「……多分、警戒されたと思う。ターゲットはあなたに移ったはず」

 

「それはまずいわね……私があのデカブツの一撃をまともに受けたら、立て直せそうにないわよ」

 

 ウィッチモンは箒に乗って機動力を生かす回避重点の戦いをするが、それは自分の打たれ弱さをカバーするためのものでもある。そうする必要があるウィッチモンがオオクワモン巨体による攻撃を食らえばどうなるかは明白だ。

 

「そのかわり、かなり注意を引いたはずだから研究所に攻撃することはなくなったと思う」

 

「なるほど……それじゃあ、気合い入れて避けないと駄目ね」

 

「私が下に降りて砂の動きを見る」

 

 ミケモンはウィッチモンの腕からすり抜けて地上へと降り立ち、足元の砂を素早く観察し、そして妙な砂の動きをすぐさま見つけ出した。

 

「ウィッチモン! 真下!」

 

 ミケモンが注意を促した直後、ウィッチモンの真下の砂が爆発するように盛り上がり、灰色の巨体が飛び出した。

 だが直前にミケモンから注意を受けたウィッチモンはオオクワモンの突進を難なく躱す。

 

「姿は見えたけど、思ったよりスピードがあるわね。だからと言って無闇に近づけないし……」

 

 オオクワモンはそのまま空中を飛び回るが、そのオオクワモンに近づいて技を当てようにも、1回でも攻撃が当たれば致命傷になりかねないウィッチモンとしては、迂闊に近寄るわけにはいかない。

 かといって距離を取りながら技を放つにしても、それだと空中を飛び回るオオクワモンに躱されてしまう可能性が高い。余力の関係で技が無駄撃ちできない今の状況では、技を回避されてしまうのは何とかして避けたい。

 そこまで状況を把握したミケモンは苦々しい表情となった。

 

(結局また膠着した……研究所に攻撃が加えられる可能性が減ったのは確かだけど)

 

 ミケモンが体を張って注意を引きつけたおかげで、オオクワモンの攻撃が研究所に向けられることはなく、研究所は無傷のままだ。

 

(……? 研究所から、誰か出てくる)

 

 研究所の無事を改めて確認しようとミケモンが視線を入口へと向けた時、その入り口の扉の向こう側に何者かの気配を感じた。

 一体誰が?というミケモンの疑問に答えるように研究所の扉がゆっくりと開いた。

 

「……なるほどな、上が騒がしいわけだ」

 

 研究所の入り口から姿を現したのは、先ほど施術が終了したばかりでまだ眠っているはずのストライクドラモンだった。

 

……………

………

……

 

 ストライクドラモンは不意に闇の中から自分の意識が浮上するのを感じた。

 

(ん? 終わったのか?)

 

 ストライクドラモンは施術が終わって目が覚めたのかと思い体を動かそうとしたが、何故か動かすべき体の感覚がない。視界も真っ暗なままで、まるで暗闇の中に精神だけが存在するような状態だ。

 

(何だこりゃ……?)

 

『……起きたみてぇだな』

 

 その状態のストライクドラモンにどこからともなく声が聞こえて来た。その声は若干ドスのきいた低い男の声だったが、ストライクドラモンはその声に思い当たる節がないので警戒する。

 

(てめぇ、誰だ?)

 

『大体あたりがつくだろう? お前が寝る前になかったものが体の中にあるじゃねぇか』

 

 ストライクドラモンに施された施術は、ウイルスデジモンに対する攻撃性を減衰させることを目的とし、その原因となる体内のワクチンデータを中和するために強力なウイルスデータを徐々に注入するというものだった。メカノリモンとの体内データの交換もしたが、メインは前述したものだ。

 そして注入したウイルスデータは、七大魔王デジモンベルゼブモンが扱う銃の弾丸から採取したものになっており、ストライクドラモンもそれを今しがた思い出した。自分の聞いたことのない謎の声、さらに謎の声が言ったことを考えると、声の主の正体に見当がついた。

 

(……たしか大昔の魔王だったか。俺に何の用だ?)

 

『そう警戒すんな。今の俺はただの残りカスみたいなもんだ。別にお前をどうにかしようって考えも、今後もお前の意思にしゃしゃりでるつもりはねぇよ。ただまぁ、一応居候って形になるだろうから、挨拶だけでもしとくかって気まぐれを起こしただけだ』

 

 聞こえて来た言葉に悪意や敵意はかけらほども感じられない。それを感じ取ったストライクドラモンは僅かに警戒を緩めた。

 

『しかし、お前中々強いな。今後の成長次第じゃ、かなりのデジモンになると思うぜ』

 

(へぇ……魔王と呼ばれたデジモンにそう言われると、流石に調子に乗りそうになるな)

 

『……それで1つ聞きたいんだが、何であんな奴に従ってるんだ?』

 

(あんな奴……それ、信人の事か?)

 

『そうだ。こうなった以上、お前の記憶も見えるからいろいろ知ってる。今のお前じゃあ、あいつの指示なしでも十分やっていけると思うぜ。お前が単純に強さを求めるんだったら、あいつに付いていくことはもう必要ねぇだろ』

 

 この施術の前のストライクドラモンであったなら、格上のウイルスデジモンに対して無謀な挑戦をして倒れる可能性もあったが、施術が成功した今はその場面になってもしっかりとした状況判断ができるだろう。

 

『俺からすれば、弱い奴に従うってのが理解できねぇ。力がすべての世界でやってきたからな。で、どうなんだ? あいつのところから離れるとか、考えたことはねぇのか?』

 

(ねぇな)

 

 ストライクドラモンはベルゼブモンの疑問に間髪いれずに答えた。今の状態でベルゼブモンの表情などは窺えないが、何となく驚いている様子がストライクドラモンには分かった。

 

『即答か……ドラコモンの時にした約束を気にしてんのか? だったら今の俺よりも強いか確かめたいとか何とか言って、もう一回戦えばいいじゃねぇか。メカノリモンと戦うんだったか? たしかに飛べないのは不利だが、立ち回り次第じゃ勝てると思うぜ』

 

(やらねぇって……お前、俺の記憶を知ってるなら信人がどんな状態でこの施術をやってたか知ってるだろう?)

 

『集中するとぶっ倒れるんだったか。あの知識を使ったりすることが条件とも取れるが……』

 

(それでも、信人は俺のためにこの施術をやってくれた。それなのに、もう必要ないから出て行くって? そんな恩知らずで、恰好が悪い事なんざ死んでもできねぇ)

 

 ストライクドラモンはベルゼブモンの誘惑とも取れる言葉を固い意志で突っぱねる。

 

(あと、言っておくことが2つある。信人は弱くなんかない。お前の言った通り腕っぷしはないけど、あいつは心が強い。自分が自分じゃなくなるかもしれないって時に、他人を心配できるほどくらにはな……)

 

『……もう1つは何だ?』

 

(俺が強くなるには、まだまだ信人が必要だ。その心の強さから来る判断力に、まだまだ教えられることがあるからな)

 

 そこでベルゼブモンからの声はしばらく途絶える。それはストライクドラモンから見れば、理解できないことを考えているような沈黙に感じられた。

 

『…………分からねぇな。俺にとって他者はすべて敵だったし、強さを極めるにはその向かってくる敵だけで十分だったしな』

 

 暫く自分の頭の中でストライクドラモンの言葉を整理したベルゼブモンであったが、自分の生き方になかった考えを納得することができずに匙を投げた。

 

『……もう1つ聞く。俺は1人で七大魔王に到達できたが、お前はあいつと一緒ならどこまでいけると思ってるんだ?』

 

(ん? そうだな……)

 

 今度はストライクドラモンが黙考し、暫くして不敵な様子で言葉を紡いだ。

 

(とりあえず、このデジタルワールドくらいは救って見せるさ。今は離れてるけど、選ばれし子供達と行動してることだしな)

 

 世界を救う……ストライクドラモンの口からたしかな自信とともにその言葉が飛び出した。

 ベルゼブモンはそれを聞いて面を食らったらしくすぐに反応がなかったが、すぐに弾けるように大笑いした。

 

『……ク、ハハハハハ!! なるほど、デジタルワールドを救うか! 下手な称号で呼ばれるよりずっといい。それができるって思ってんなら、そりゃあ付いていくだろうな。ハハハハハ!』

 

 ベルゼブモンはそれから暫く愉快そうに笑い続けるが、その笑いはさっきの言葉を馬鹿にするようなものではなかった。

 

『ククク、いい答えだった。こりゃあ、お前の生き方を見るのが楽しみになってきたぜ』

 

(あぁ、期待して見てろよ。それで、お前はこれからどうするんだ?)

 

『どうもしねぇさ。俺はただ見てるだけだ。そもそも俺が力になれることなんて、銃の使い方とこれまでの記憶しかねぇ。その記憶も太古のものだから、役に立たねぇよ……ただ、忠告がある』

 

 ベルゼブモンの声から愉快さが消え、今までにない真剣なものとなった。それを敏感に感じ取ったストライクドラモンも気を少し引き締める。

 

『お前達の戦うことになる闇の勢力ってのは、一筋縄じゃいかねぇ。選ばれし子供達や紋章の力がどれほどのものかは知らねぇが、簡単にいくと思うなよ?』

 

(……わかった)

 

『忘れんなよ……さて、なんか外が騒がしくなってきたぜ』

 

(?)

 

『じゃあな。お前の生き様、楽しみにしてるぜ』

 

(あ、おい!)

 

「コアアアアアア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

 ストライクドラモンが呼びとめようと声を掛けたが、それは直後に聞こえて来た大音量の咆哮によって掻き消えた。それと同時に先ほどよりも意識が鮮明となり、目を開けて周りの様子を伺うことが出来るようになった。

 

「ここは……手術台の上か?」

 

 視界に映ったのは見覚えのある手術部屋で、周りにあるロボットアームは停止しており、手術台のすぐ横には停止中のメカノリモンがいた。メカノリモンの方はストライクドラモンと違い、まだ目を覚ましてはいないようだ。

 

「終わったのか……おい、信人! いるのか?」

 

 手術室からガラス挟んた向こう側にある機器の操作室にいるであろう信人に声を掛けたが、返事はなかった。それどころか姿すら見えず、信人の手伝いをしていたはずのウィッチモン達の姿もなかった。

 当然それを不審に思ったストライクドラモンはガラスに近寄って操作室を覗きこむ。

 

「……! 信人!」

 

 ガラスから離れた部屋の奥に、ぐったりとした様子で椅子に座っている信人の姿をストライクドラモンは目にした。こういう場合はウィッチモンかミケモンが看病している手はずだったので、何か異常事態が起きたのだとストライクドラモンは察する。

 先ほど聞こえて来た咆哮も気になり、いてもたってもいられなくなったストライクドラモンは拳を振り上げ、目の前のガラスに鋭い爪を振り抜いた。もちろん、信人にガラスの破片がかからないように注意した上でだ。

 この一撃に耐えられなかったガラスはあっけなく粉砕され、ストライクドラモンはすぐに信人の側へと駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 呼びかけてみたものの信人からの返事はなく、汗をかいて荒い息をするだけで、すぐに起きそうな気配はない。

 だが、ストライクドラモンが前に見た時よりも症状が軽く見えたので、手術後に適切な処置はされたのだと分かった。それに少し安心したとき、天井から地鳴りのような音が聞こえているのに気付いた。そこでストライクドラモンはこの研究所に何らかの敵がいて、ミケモン達が迎撃に出ているのだと確信した。

 

「何か来ている……でも、暫く様子を見るか。信人を放って置くわけにはいかねぇし、あいつらならうまくやるだろう」

 

 何かしらの敵がいることはわかったが、ミケモン達がそう簡単にはやられはしないと判断したストライクドラモンは暫く様子を見る事を選択した。

 ミケモン達は今は眠っているはずの自分をあてにしてはいないだろうし、動けない信人を放って置くことができなかったことからその選択がされた。ただ、戦いが長引くようなら加勢しようとは考えている。

 

「うぅ……」

 

 ストライクドラモンが待機という選択をした時、眼下にいる信人が少し苦しそうに唸った。

 

「……ったく。こんなんなるまで頑張りやがって……ありがとな」

 

 その言葉が出た時、信人の顔は少し柔らかくなったかのように見えた。

 

……………

………

……

 

 そのまま地下で暫く待機していたストライクドラモンだったが、一向に地鳴りが収まる気配がなかったのでミケモン達が手こずっていると判断し、加勢すべく地上へと出てきたのだ。その際に信人はまだ動かないメカノリモンの操縦席の中へと避難させてある。

 入り口から姿を現したストライクドラモンの下へ、少し驚いた様子のミケモンが走り寄って声を掛けた。

 

「どうしてあなたが? まだ寝ているはず」

 

「色々あって目が覚めたんだ。その後は暫く様子を伺ってたが、どうにも騒ぎが収まる気配がないから、こうして出て来たってわけだ」

 

「……ごめんなさい。動ける私達だけで始末しなければならなかったのに……」

 

「別に責めてねぇよ。あのデカブツじゃあ、骨が折れるだろ」

 

 ストライクドラモンが顔を上に向けると、オオクワモンとウィッチモンが空中で鬼ごっこをしているのが見えた。単純な鬼ごっこならウィッチモンが難なく制すだろうが、攻撃の隙を見出すためにウィッチモンはオオクワモンの周囲を旋回している。

 ミケモンもそれを見ていたが、あることに気付いてはっとした表情でストライクドモンを見た。

 

「大丈夫? あいつはウイルスデジモンだけど……」

 

「何言ってんだ。とっくに手術は終わっただろ?」

 

 ストライクドラモンに以前のようなウイルスデジモンに対する敵対行動は微塵も見られず、今はミケモンの心配に笑いながら答える余裕もある。その姿を見たミケモンは微笑みを浮かべた。

 

「……だったら、今のあなたの戦い方が見たい。やってくれる?」

 

「当然だ。おい、ウィッチモン!」

 

 声を掛けられたウィッチモンが地上に目を向けると、ミケモンの側に立っているストライクドラモンが視界に入った。それに少し驚いたものの、ストライクドラモンが研究所から離れて行くのを見て、自分が何をすべきかをウィッチモンは察した。

 ウィッチモンはオオクワモンに気付かれないように少しづつ高度を下げ始める。ただ単に高度を下げるのではなく、ストライクドラモンがオオクワモンの背後を取れるように誘導しながらだ。

 オオクワモンはウィッチモンの動きを疑う事はせず、そのまま高度を下げ続ける。そして研究所から十分に離れ、かつストライクドラモンに背後を取られる絶好の位置までオオクワモンは誘い込まれた。

 

「ここなら届く! ≪ストライクファング≫!」

 

 ストライクドラモンの各部に身に着けているメタルプレートが白熱し、そこから燃え上がった炎が体全体を包み込んだ。炎の塊となったストライクドラモンは大きく跳躍し、オオクワモンの羽に向けて突っ込んでいく。

 オオクワモンは背中から熱気を感じたことで別の敵が来たことにようやく気付いたが、もはや手遅れだった。

 

「食らえ!!」

 

「コアアァァ!?」

 

 羽の付け根にストライクドラモンの炎の体当たりが決まり、完全に不意を突かれたオオクワモンは飛行体勢を大きく崩して墜落した。しかも攻撃を受けた羽にはストライクドラモンの纏っていた炎が燃え移っていて、とても空を飛べるとは思えないほど傷ついていた。

 

「よし、これならこっちのもんだ」

 

「まだよ! そいつは砂に潜るわ!」

 

「何?」

 

 ウィッチモンが注意するよりも早く、オオクワモンは足から砂の中へと姿を消しつつあった。その際にオオクワモンはストライクドラモンに向き直り、鋏を振りかざして威嚇する。ウィッチモンに対しては背を向けているが、ウィッチモンの≪アクエリープレッシャー≫では無傷の甲殻を貫通するまでに時間がかかり、その間にオオクワモンは砂の中に潜ってしまうだろう。

 

「胸に傷があるわ! そこが脆くなっているはずよ!」

 

「胸……なるほど、あそこか!」

 

 ストライクドラモンはオオクワモンの胸部にある傷に追撃を加えるため、オオクワモンの懐に入るために姿勢を低くして突っ込んでいく。

 オオクワモンは砂に潜る時間を稼ぐため、腕を振り回したり鋏を振ってストライクドラモンを牽制する。ストライクドラモンはそれをしっかりと見極め、無理に突っ込むことはせず、攻撃を躱しつつ少しずつ近づいていく。

 

(焦らなくてもいいな。この調子なら潜る前に懐に潜りこめる)

 

 ウイルスデジモンであるオオクワモンと戦うストライクドラモンだが、以前エテモンと戦った時とは比べ物にならないほど冷静に戦っている。この光景を見れば手術が成功しているという事は明らかだった。

 

「よし、もう少し……!!」

 

「コアアアァァ!」

 

 オオクワモンまであと少しというところで、ストライクドラモンは足元の砂の下から何かが動くのを感じてその場から飛び退いた。その直後に砂の中から飛び出したのは、先に砂の中に埋まっていたはずのオオクワモンの前足であった。

 それはストライクドラモンの接近に焦ったオオクワモンが苦し紛れに放った奇襲であったが、事前に察知したストライクドラモンは危なげなく回避してしまう。さらに、後ろ脚を砂に埋もれさせたままその攻撃を行ってしまったため、オオクワモンは体勢を崩してひっくり返り、砂の上に仰向けで倒れてしまった。

 

「今よ!」

 

「分かってる!」

 

 ストライクドラモンは飛び退いた後に素早く体勢を立て直し、オオクワモンに再び接近していく。自分がどのようになったか暫く理解できず動きを止めてしまっていたオオクワモンだったが、敵の接近を感じて腕や足を振り回して何とか抵抗する。

 しかし、ミケモンの拳を相手に訓練を積んできたストライクドラモンに対して、オオクワモンの苦し紛れ攻撃が当たるはずもなかった。

 

「≪ストライクファング≫!」

 

 無茶苦茶に振るわれるオオクワモンの剛腕を掻い潜り、ストライクドラモンがオオクワモンの体へと取りつき、体に炎を纏い始めた。

 

「これで終わりだあああああ!!」

 

「!!?」

 

 ストライクドラモンの雄たけびと共に白熱する爪がオオクワモンの削れた胸部甲殻に突き刺さった。僅かに拮抗したものの、ウィッチモンの攻撃で脆くなった甲殻は砕け散り、ストライクドラモンの炎を纏う爪がオオクワモンの体に深々と突き刺さった。

 

「コ、コアアアアアア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

 オオクワモンは自身を襲った痛みに苦しみに満ちた咆哮を上げ、また腕や足をじたばたさせる。それに巻き込まれないようにストライクドラモンとウィッチモンは素早くオオクワモンから離れていた。

 

「コ、コアアァアアァァ…………」

 

 暫くは今までにないほど暴れていたオオクワモンであったが、次第に動きも声も弱弱しくなっていく。そして最後に振り上げた腕が力なく砂の上に叩きつけられた瞬間、オオクワモンの体はデータの粒子へと還った。

 

「……終わったな」

 

「はぁ~~~~、疲れたわぁ……」

 

 ウィッチモンは疲労の色の濃いため息をつきながら、砂の上にも関わらずその場に崩れるようにして腰を下ろした。

 

「何だよ、だらしねぇな。あいつ1体にそんなに疲れるか?」

 

「1体じゃないわよ! あいつの他にクワガーモンが5体も来たのよ! しかも私はあなたのご主人に協力して、何時間もデータと睨めっこしてたのよ! 疲れない方がおかしいじゃない! なのにその言いぐさは何よ!」

 

「そんなにいたのかよ!? ……悪かった、知らなかったんだ」

 

「……はぁ、謝ってくれるならもういいわよ」

 

 ウィッチモンは本当に疲れているらしく、以前のようにストライクドモンと喧嘩するようなことはしなかった。そこへ研究所の前にいたミケモンが駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様。よくやったわね……あなたも、良い戦いだった」

 

「当たり前だ。あんなに信人に手間かけてもらったのに、前と同じでしたじゃあ笑えねぇよ」

 

「あら、そうえば暴走してなかったわね。まぁ、私が協力したんだから当然よね」

 

 今回の戦闘で、ストライクドラモンのウイルスデジモンに対する破壊衝動が克服されたことが証明されたので、疲労しているがミケモン達の表情は明るかった。

 

「……それにしても、何であいつらここを襲ってきたのよ」

 

「そうだな……クワガーモン達ってこの近くに住んでるのか?」

 

「生息地自体は近くにある。でも、あれほどの数が出てくるのは滅多にないし、恐らくボスであるオオクワモンが自分から出てくるのはおかしい。私は誰かにおびき寄せられたと思ってる」

 

「……昨日の奴か?」

 

「たぶん、そう……でもとりあえず、今日は休むべき。話は全員が揃ってから」

 

「それがいいわ~……ねぇ、肩かして頂戴。歩くのもだるいのよ」

 

「……仕方ねぇな」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 クワガーモン達の襲撃を何とか撃退した3体は、互いにねぎらいの言葉をかけ合いながら研究所の中へと戻って行った。

 

……………

………

……

 

「…………報告は以上です」

 

「ふむ……」

 

 ヴァンデモンは薄暗い書斎の中でピコデビモンの報告を聞いていた。ピコデビモンからの報告は遠くに居ても会話ができる鏡を通して行われており、報告の内容は発見した選ばれし子供達と、研究所での戦闘についてだった。

 

「なるほど……3対1とはいえ、完全体デジモンを退けたか。もっとも、2体は関係のない輩のようだが……」

 

「も、申し訳ありません。もう1体のパートナーデジモンの確認は今暫しお待ちを……」

 

「まぁいい……報告ご苦労。ただ1つ確認するが、お前が目撃した子供達は6人だったな?」

 

「はい。それは間違いありません」

 

「そうか……お前は選ばれし子供達を始末しろ」

 

「はは! しかし、例外の監視はどういたしますか?」

 

「それはこちらで派遣したデジモンで行う。行け!」

 

「ははぁ!」

 

 ヴァンデモンの指示を受けたピコデビモンはすぐさま行動をはじめたらしく、通信が切れて鏡は暗くなった。それを見届けたヴァンデモンは椅子から立ち上がって本棚に向かい、数ある本の中から1冊を手に取った。その本にはデジタルワールド各地にある古代の伝承がまとめられており、ヴァンデモンが選ばれし子供達の存在を知ったのもこの本のおかげだった。

 

「……やはり数が合わない。選ばれし子供達は8人のはず……しかし例外を除けば7人」

 

 ピコデビモンが目撃した選ばれし子供達は6人、そしてその時に話題に出た行方不明になった子供が1人、例外を除けば7人しか子供達はいない。ただその例外を含めれば合計8人なので、ヴァンデモンはその子供も選ばれし子供なのではないかと思えてきた。

 

「例外も選ばれし子供なのか? もう少し情報を集めなければないないな……誰かいないか!」

 

「……はっ、ここに」

 

 ヴァンデモンの呼び声に反応して何もない空間から姿を現したのは、赤いマントを纏い、その下に灰色のローブを着こんだゴーストデジモン、ファントモンだった。

 

「テイルモンの集めた兵隊の中から適当なデジモンを選び、砂漠の研究所に向かわせろ。そこに住んでいる者どもを監視させて情報を集めるのだ」

 

「御意。では、失礼致します」

 

 命令を受けたファントモンは現れた時のように音もなく消え去り、それを見届けたヴァンデモンは手元の本に再び目を落とす。

 

「選ばれし子供達、人間の世界よりきたる、か……なるほど、そもそもこちらの世界に来てない可能性もある。もしそうであるなら……」

 

 ヴァンデモンが再びページをめくり、あるページを開いた。

 そのページにはこの城の地下深くにある異界へ繋がると言われるゲートについて記述されており、ヴァンデモンの書いたと思われるメモがいくつか挟んであった。ヴァンデモンはそのメモの1つを取り上げて呟いた。

 

「……この計画が前倒しになる可能性があるな」

 

……………

………

……

 

 ヴァンデモンの書斎から姿を消したファントモンは命令を全うするため、薄暗い城内を彷徨っていた。

 

「さて、どのデジモンにまかせたものか……」

 

「ファ、ファントモン様~」

 

 悩むファントモンの目の前に、少し慌てた様子のバケモン達が姿を現した。バケモン達はほとほと困った様子で、何故かしきりに後方を気にしていた。

 

「何だ、騒々しい。こっちは忙しいんだ」

 

「も、申し訳ありません。ですがあいつら私達にちょっかいかけて来て、仕事ができないんです~」

 

「あいつら?」

 

 ファントモンがバケモン達の後方に目をやると、通路の奥から朗らかな笑い声と共に2体のデジモンが姿を現した。1体はがぼちゃ頭のパペット型デジモン、そしてもう1体は石で体が構成された鉱石型デジモンだった。

 

「おーい、俺達と遊んでくれよ~!」

 

「遊んでくれよ~」

 

「何だ、貴様ら!」

 

「俺達? 俺パンプモン!」

 

「俺、ゴツモン!」

 

「「2人合わせて、パンプとゴツでーす! アハハハハ!」」

 

 名乗った2体のデジモン、パンプモンとゴツモンはファントモンの前でも物怖じせず、相変わらず朗らかに笑いあっている。対するファントモンは2体のノリについていけずに呆れている。

 

「……お前ら、テイルモンに集められたデジモンか?」

 

「うん、そうだよ~。なぁパンプモン」

 

「おう。なんだか楽しそうだったからついて来た!」

 

「でもここに来てからな~んも面白いことないから、遊び相手探してたんだ~」

 

「……ほう、退屈ということか?」

 

「そうそう! 何かやることないの?」

 

 最初は呆れた様子のファントモンだったが、何かを思いついたのかパンプモン達に聞こえないように小さく笑った。

 

「そうか……ならばお前達に極秘任務を与える」

 

「極秘任務だって!?」

 

「何それかっこいい! しかも面白そう!」

 

「お前達には砂漠の研究所に行ってもらい、そこを監視してもらう。詳細は後で伝えるので、先に準備して待機しろ」

 

「「はーい!」」

 

 元気よく返事したパンプモン達は踵を返し、急いで来た道を戻って行った。

 

「……よろしいのですか? あいつらに極秘任務なんか任せて」

 

「テイルモンの集めた奴らだ。見た目はああでも使えるはず。それに、この指令はヴァンデモン様直々のものだ。それを後で伝えれば、嫌でも真面目にやるだろう」

 

「はぁ、そうだといいですが……」

 

「さて、問題は片付いた。お前達も仕事に戻れ」

 

「了解しました~」

 

 ファントモンの言葉に追い掛け回されていたバケモン達は仕事場へと戻って行き、ファントモンも別の仕事をするために来た道を戻って行った。

 ……後に残されたのは、通路の奥から聞こえてくる2体のデジモンの楽しげな笑い声だけだった。

 




時が経つのも早いもので、もう春ですね。新デジアドがはじまるまでには物語の半分くらい書きたかったのですが、ままならないですねぇ。ただ何とか完結はさせようと思ってますので、応援していただけると幸いです。

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