デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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前回はあるデジモンの視点で書くと言ったな……あれは嘘ですすいませんごめんなさい。
何か一人称で書いてたら口調とかにすごい違和感を感じたので、練習がてらに三人称視点で書きました。

実は一人称から三人称に視点を変えようかと思ってます。
理由は原作におけるヴァンデモン編の時期にあたる部分で登場するデジモンがかなり多くなる予定だからです。
割と書きやすかったのでもう次回からも三人称になるかもです、


第36話 水面下で変わる未来?

 サーバ大陸のとある場所……薄暗く不毛な岩山の合間を、漆黒の邪竜型デジモン、デビドラモンが灰色の空を駆けている。

 その背中には4匹のデジモン達を乗せ、その内の1体に使役されているデビドラモンは岩山の中心にある古城を目指している。

 デビドラモンを使役するデジモンはこの不毛な大地のある一点を見つめている。

 

「帰ってきた……」

 

 そのデジモン、テイルモンは遠くに見える古城を見つめながら、暗い表情で呟いた。

 テイルモンが憂鬱な表情で見つめるあの古城には、ヴァンデモンというデジモンが拠点にしている。

 現在テイルモンはそのヴァンデモンの配下として働いているが、テイルモンは自分の意思でヴァンデモンの配下になったわけではなかった。

 テイルモンがヴァンデモンと出会ってしまったのは、成長期のプロットモンの頃であった。

 ヴァンデモンは彼女を酷使しながら、さらに目が気に入らないというだけで度々暴力を振るった。

 テイルモンにとってヴァンデモンの下での生活は地獄に等しかった。

 最初の頃は反抗心を剥きだしていたが、度重なる暴力の前にテイルモンの心は徐々にすり減っていった。

 長く続いた虐待の日々のせいでテイルモンの心は固く閉ざされ、さらにはヴァンデモンと出会う前の記憶を思い出せなくなってしまっていた。

 理不尽な暴力にさらされたテイルモンはヴァンデモンとの圧倒的な力の差に絶望し、何時からか反抗することが馬鹿馬鹿しくなり、ヴァンデモンの忠実な部下として振る舞うようになった。

 

 そして今回も、テイルモンはヴァンデモンの忠実な部下として命令を受けていた。

 ヴァンデモンはデジタルワールドを闇に染めるという目的のために、近いうちに本格的な行動に打って出ようと考えている。

 行動を起こすには多くの配下が必要であり、テイルモンはその配下となるデジモンをスカウトするように命じられ、そのためにテイルモンは今まで各地を旅していた。

 厳しい環境に晒されることもあったが、彼女はヴァンデモンの暴力から逃れることができた方がありがたかった。

 だから城に帰還するテイルモンの表情は暗いのだ。

 

「……報告を終えたら、直ぐに出発しよう」

 

 テイルモンの呟きから分かる通り、実は彼女の使命はまだ終わってはいない。

 にもかかわらず戻ってきたのは、ある場所で気になる情報を入手したからだ。

 テイルモンの他にデビドラモンに乗っている3体のデジモンは、彼女の仕事の一環で連れてきたというだけではなく、その情報の証人でもあった。

 

 その内の1体が古城を見つめるテイルモンの背後に静かに忍び寄ってきた。

 そして一定の距離に達すると素早くテイルモンの背中に体を密着させ、両手でテイルモンの両目を覆い隠す。

 いわゆる、甘い雰囲気の恋人同士がやるような「だーれだ?」の形だ。

 

「テ~イ~ル~モーン! だ~れだ?」

 

「……何してるの? ブラックテイルモン」

 

「あったりー! アハハハハ!」

 

 テイルモンが不機嫌そうに答えたが、それに構わず目隠しをしていたデジモンはうれしそうに笑いながら飛び退いた。

 そのデジモンはテイルモンとほぼ同じ姿をしていているが、テイルモンの白い体表とは対極にある黒い体表を持ち、名前はその名の通り、ブラックテイルモンと言う。

 

 テイルモンとブラックテイルモンの出会いは一週間程度前にまでさかのぼる。

 テイルモンはヴァンデモンの配下となるデジモンを探す旅の途中、海にいるデジモンを探すため大洋を飛んでいる最中に小さな島を発見し、休息がてらにその島に立ち寄った。

 その島こそ、選ばれし子供達が最初に冒険したファイル島である。

 テイルモンはファイル島でもデジモン探しをしたが、ファイル島に生息しているデジモンはサーバ大陸にいたデジモンに比べると力不足に感じた。

 テイルモンが休息以外に用はなさそうだと感じた時に、クワガーモンに執拗に追われているブラックテイルモンを森で見つけた。

 そしてテイルモンは自分に姿が似ていたブラックテイルモンを放って置けずに助けたことが、2体の最初の出会いとなった。

 

 実はこのブラックテイルモン、信人がデジタルワールド漂着初日の夜に撃退したブラックテイルモンである。

 信人はその時、同時に襲ってきたクワガーモンのターゲットを自分からブラックテイルモンに移し替えることで難を逃れたが、ブラックテイルモンからすればたまったものではなかった。

 度々標的を逃がしていたクワガーモンは完全に頭に血を登らせており、その日を境にこれでもかと言うほどブラックテイルモンを追いかけはじめ、テイルモンに助けられるまで追われ続けていた。

 そのせいでブラックテイルモンの生活は滅茶苦茶になって辟易していたころにテイルモンが颯爽と現れ、クワガーモンを追い払ってくれたのだ。

 その姿にブラックテイルモンは憧れ、クワガーモンがいるせいでファイル島に居づらくなったこともあり、テイルモンに自分を連れて行ってほしいと懇願した。

 当初、テイルモンは力不足だと言ってその願いを断っていたが、あまりにもしつこく頼み込んでくるものだから、テイルモンによる修行を受けることを条件に仕方なく連れて行くことにした。

 

 テイルモンの修行は中々厳しいものだった。

 弱いデジモンを連れて行けばヴァンデモンに罰を受ける可能性が出て来るからだ。

 しかしブラックテイルモンはここに来るまでの鍛錬に根を上げることなく、またテイルモンに出会った時以上に懐いていた。

 もっともテイルモンの方は、厳しい訓練を課したはずなのに懐いてくるブラックテイルモンの心情がよく分からず、さらにそのいたずら好きな性格が許容できず鬱陶しいと感じているが……

 テイルモンは常々何とか離れたいと思っているが、ブラックテイルモンは情報の証人でもあるため放り出すことができなかった。

 

「それより、ほんとなんでしょうね? 人間の子供を見たって話は」

 

「そう! ひどいんだよ~、僕みたいなレディの顔面に木の棒を思いっきり叩き付けたんだよ! それでその後……」

 

「その日からクワガーモンに追い回され始めたのでしょう? ここに来るまでに聞き飽きたわ」

 

「あれ、そうだったっけ?」

 

 これこそがヴァンデモンに伝えるべき情報だった。

 テイルモンがブラックテイルモンに追い回される経緯を聞いた時、ブラックテイルモンは変な格好のデジモンを襲ったと説明した。

 テイルモンはそれが引っ掛かり、詳しく聞いてるとその姿はヴァンデモンが漏らしていた選ばれし子供という者に近いということに気が付いた。

 その情報を元にファイル島で聞き込みをしてみると、選ばれし子供たちがファイル島の闇を取り払い、新たな敵を倒すためにサーバ大陸に向かったという情報を掴んだ。

 テイルモンはその者たちがなんなのかは詳しく知らないが、ヴァンデモンが見つけ次第倒す必要があるとこぼしていたのを覚えており、これは重要な情報だと判断した。

 しかし、テイルモンは選ばれし子供達をヴァンデモンが脅威に思っていることを疑問に思っている。

 話を聞く限りでは、選ばれし子供達はデビモンに窮地に追い込まれており、テイルモンから見れば力が増大したとはいえ成熟期のデジモンに圧倒されているようではヴァンデモンに敵うはずがないと断言できた。

 情報を掴んだ時は、選ばれし子供達がヴァンデモンを倒すと期待したテイルモンだったが、選ばれし子供達の実力に落胆する形でその希望はたやすく壊れた。

 

「(やはり、ヴァンデモンは倒せない……)」

 

「ねぇねぇ! あそこについたらまた遊んでくれる?」

 

「…………」

 

 そんなテイルモンの気持ちなど露知らず、ブラックテイルモンは無邪気にテイルモンへと話しかける。

 またその内容もまずかった。

 テイルモンはブラックテイルモンは訓練を遊びに思っていると感じ、暗に自分の訓練が甘いと言われているような気がして少しカチンときた。

 

「えぇ、楽しすぎて泣くくらいのものを考えとくわ」

 

「わーい、やった~! ……でも背筋が冷たくなったのはなんで?」

 

 テイルモンがどうしごいてやろうかと考えていると、視界の端に2体のデジモンを捉えた。

 

「着いただ~?」

「そうみたいだぞ~」

 

 小躍りしたり冷や汗をかいたりと忙しいブラックテイルモンの後ろで、今まで眠っていた2体のバケモンが目を覚ましていた。

 このバケモン達は、テイルモンが情報収集の途中に立ち寄ったオーバーデル墓地から連れてきたバケモンだ。

 連れて行ってほしいと言い出したのはこのバケモン達が言いだした事であり、理由はサーバー大陸へと渡った選ばれし子供達に憧れ、自分達も新天地を見てみたかったから。

 テイルモンは2体の実力にはまったく期待していなかったが、バケモン達は下働きとしては何体居ても困らないので、ブラックテイルモンの時と比べると随分あっさりと同行を許可した。

 実はこのバケモン達は信人に協力した二匹だったが、まさか頼み込んだ相手が信人の協力する選ばれし子供達と敵対することになるとは露知らず、今は周りの岩山をのんきに眺めている。

 テイルモンはバケモン達が選ばれし子供達に助けられたことを知っていたが、せっかくの労働力を手放すことになるかもしれないので、ヴァンデモンの詳細については伏せていた。

 

「お~、何かいい雰囲気の城が見えてるだ~」

「悪の親玉でも出そうだぞ~」

「馬鹿言うな~、テイルモンはワクチンだぞ~。悪のデジモンに仕えてるわけないだー」

「そうだな~」

 

「…………」

 

 謎の罪悪感を感じてテイルモンは目を背ける。

 その拍子に城を視界に収め、随分近づいてきていることに気付く。

 

「私は城についたらヴァンデモンに報告に行く。バケモン達は働いているバケモンの案内に従ってファントモンのところに行きなさい」

 

「わかっただ~」

「了解だぞ~」

 

「テイルモン、僕は~?」

 

「あんたはウィザーモンの案内に従いなさい。部屋が用意してあるはずよ」

 

「は~い」

 

 ヴァンデモンの城はもう目と鼻の先であった。

 

……………

………

……

 

 テイルモンは薄暗く入り組んだ通路を抜けて、ヴァンデモンの居る書斎の前まで来ていた。

 扉の前に立つと、テイルモンの優秀な聴覚が中から漏れる話し声を聞いた。

 どうやら先に誰かがヴァンデモンと会話をしているようだ。

 内心ヴァンデモンと顔を合わせたくないと思いながら、いつものようにドアをノックして返事を待つ。

 

「入れ」

 

 すぐに扉越しにヴァンデモンの返事が聞こえ、テイルモンは扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れた。

 部屋のすぐ正面の机に座っていたのは、軍服のような貴族服を身にまとい、世間一般が持つドラキュラの姿をぴったりとあてはめた姿をしたデジモン、ヴァンデモンだった。

 その目の前には丸い体と蝙蝠の羽を持つデジモンが平伏していて、そのデジモンの名前はピコデビモン、ヴァンデモンに忠実を誓っているデジモンだ。

 ヴァンデモンは命令の遂行に注力しているはずのテイルモンが来たことに怪訝な顔を浮かべ、ピコデビモンはテイルモンに向かって露骨に嫌そうな表情を向ける。

 

「テイルモン。お前兵隊を探しに行ったんじゃないのか? ひょっとして命令違反か?」

 

「……どうなのだ、テイルモン」

 

「旅の途中に重要な情報を入手したため、スカウトしたデジモンを連れて帰るついでに、その情報を伝えに参りました」

 

「重要な情報? ククッ、残念だったな! それならたった今このピコデビモンがヴァンデモン様に伝えたところだ」

 

 テイルモンが要件を放すと、ピコデビモンが勝ち誇った笑みを浮かべてテイルモンを嘲笑する。

 テイルモンにとってピコデビモンに嘲笑されることは痛くも痒くもないが、ピコデビモンの伝えた情報とテイルモンの情報が被ってしまえば、ヴァンデモンから罰を受けるかもしれない。

 当然、テイルモンはできればそれは遠慮願いたいと思う。

 何はともあれ、その情報を聞いてからだ。

 

「へぇ……その情報、私にも聞かせてもらえるかしら?」

 

「またまた強がって~、エテモンが誰かに倒されたって話を伝えに来たんだろ?」

 

「エテモンが……」

 

 ピコデビモンの持っていた情報が自分のものと異なったことに僅かに安堵した後、テイルモンはその情報にかなり驚いた。

 

「(エテモン……ヴァンデモンとは違って今まで派手に動いていたデジモンだったわね。ヴァンデモンもある程度実力を認めていたデジモンだったはずだけど……そいつが倒された)」

 

 エテモンはサーバ大陸の広い範囲を支配下に置き、水面下で動いていたヴァンデモンとは違って大暴れしていたので、もちろんヴァンデモンはエテモンのことを知っていた。

 ヴァンデモンは戦闘力においてはエテモンが劣ると判断していたが、何より警戒したのはエテモンの持つダークネットワークであり、ヴァンデモンはできれば無傷で手に入れたいと考えるほどのものだった。

 あれが張り巡らされた範囲はこちらの行動が瞬時に察知されるため、排除のために襲撃を仕掛けるには厄介極まりない。

 警戒したりほしいと思うのは当然の事だ。

 

 それほどのものを持っているデジモンが倒されたことにテイルモンは疑問を覚える。

 

「(ヴァンデモンに劣るといってもエテモンは完全体……そう簡単には倒せないはず。一体誰が……まさか!)」

 

 内心でテイルモンはまさかと思う。

 それを成すことができるかもしれない存在を、テイルモンは知っていた。

 

「どうしたんだ~? 先を越されたのが悔しくて黙っちゃたか~?」

 

「ヴァンデモン様、私の知っていることはピコデビモンとは別のものです」

 

「何!?」

「ほう……言ってみろ」

 

「私が立ち寄った小さな島で、選ばれし子供たちという者が現れたという情報です」

 

「何、選ばれし子供たちだと!? 詳しく話せ!」

 

 ヴァンデモンが椅子から勢いよく立ち上がり、目を見開いて驚愕の表情でテイルモンを見た。

 また、テイルモンもそのヴァンデモンの反応を見て密かに驚いた。

 

「(ヴァンデモンがこれほど反応する者達……選ばれし子供達とは、一体何者なんだ?)」

 

 そう疑問に思いながら、テイルモンはヴァンデモンにファイル島で手に入れた情報を伝えた。

 

……………

………

……

 

 テイルモンがファイル島で聞いたことを伝え終わる頃には、ヴァンデモンは冷静さを取り戻していたが、その表情は未だに険しかった。

 

「なるほど、選ばれし子供たちがファイル島に訪れた暗黒の力を打ち払ったか……伝承の通りだな」

 

「ヴァ、ヴァンデモン様? 選ばれし子供たちとは一体何なのですか?」

 

「古代の伝承に出てくる言葉だ。伝承によれば、世界が闇に覆われるとき、聖なるデバイス、デジヴァイスと紋章を持ち、1匹のパートナーデジモンを従えた8人の選ばれし子供たちが、その闇を打ち払うだろうと記述されている」

 

「闇を打ち払う……もしやエテモンは!」

 

「選ばれし子供たちに撃破された可能性が高いな……」

 

「(もしそれが事実でなら、短期間でサーバ大陸を渡って、完全体のデジモンを打倒するにまで成長したことになるわ。ヴァンデモンが脅威に感じるのは、この成長の早さなの?)」

 

 テイルモンは選ばれし子供達が、もしかすると本当にヴァンデモンにとって脅威になりうるかもしれないと思い始めた。

 

「だが伝承と食い違っている部分もある。そのうちの1人はパートナーを2体従え、デジヴァイスを持っていなかったと言ったな?」

 

「はい。かなり身近に接触していたデジモンの証言なので、間違いないかと」

 

 オーバーデル墓地から連れてきたあの2匹のバケモン達は選ばれし子供達に協力しており、また恩を感じていたため、あの時の事やその姿を克明に覚えている。

 また、その事を語るの恩人の武勇を語ることになるので、それを聞かれたバケモン達は嬉々として話してしまっていた。

 その話の中に出てきた信人は、ヴァンデモンにとって僅かに警戒すべき対象だった。

 ヴァンデモンはぴったり当てはまっていたはずの伝承を微妙食い違いさせる存在に引っ掛かりを覚える。

 

「ふむ。そいつが何者か、詳しく調べる必要が出てきたな……ピコデビモン!」

 

「は、はい!」

 

「お前はこの大陸にいるはずの選ばれし子供たちを探しだせ。奴らは紋章というものを持っているはずだ。見つけ次第それを奪うか、覚醒させないように工作しろ」

 

「は! それで、その例外の子供はどういたしますか?」

 

「観察に徹し、情報を私に逐次伝えろ。そいつが何者か、私自ら見定める」

 

「ははぁ! ……くそ、覚えてろよ」

 

 ピコデビモンがヴァンデモンの指示を受け、テイルモンとのすれ違いざまに負け惜しみを言いながら部屋を出て行った。

 しかし、テイルモンは勝手に悔しがって部屋を出ていったピコデビモンのことよりも、選ばれし子供達のことで頭がいっぱいであった。

 

「(選ばれし子供たちか……もし、このまま成長していけば、もしかするとヴァンデモンを倒せるように……)」

 

 テイルモンの固く閉ざされた心の中に、絶望の日々の中では決して差し込むことがなかった、小さな希望の光が見えた気がした。

 しかし、それがまずかった。

 

「……では、私も仕事に戻ります」

 

「……待て、テイルモン」

 

 テイルモンが部屋を出ようとしたところ、ヴァンデモンに呼び止められ、もちろんテイルモンはそれに従う。

 

「? まだ何か……「≪ブラッディストリーム≫!」 ぐあ!」

 

 テイルモンが振り向いた瞬間、ヴァンデモンの手のひらから伸びた赤い鞭がテイルモンの頬を打った。

 テイルモンにとっては完全な不意打ちとなり、小さな体は宙を舞って床へと叩きつけられた。

 

「今、選ばれし子供たちに期待したな?」

 

「そ、そのようなことは……」

 

「目を見ればわかる。選ばれし子供たちの話を聞き、希望を宿したその目を見ればな!」

 

「ぐぅ!?」

 

 再びヴァンデモンの鞭がテイルモンの体を打ち据え、テイルモンは部屋から転がり出て冷たい石の廊下に叩き出されてしまう。

 今度はある程度身構えていたものの、それにも関わらずテイルモンは大きなダメージを受けた。

 鍛えた体でも相当なダメージを受けたことで、テイルモンはヴァンデモンの強さを再認識させられてしまう。

 

「(やっぱり、ヴァンデモンは強い! 誰も、敵わない……)」

 

 テイルモンは僅かに見えた光明がどんどん小さくなっていったような気がした。

 ヴァンデモンは廊下にうずくまるテイルモンを見下し、口を開く。

 

「呆れたものだ、そんなに小さな希望に縋るようになるとはな……人間の子供程度が、本気で私を打倒できると考えていたのか? 私が恐れているのは、この紋章の力だけだ」

 

 ヴァンデモンは懐から取り出したのは、本来選ばれし子供が持つはずの紋章であった。

 輝く聖なる光をモチーフにしたような紋章をヴァンデモンは忌々しげに見つめると、書斎の扉に手をかける。

 

「これが覚醒しなければ、選ばれし子供たちとそのデジモンなど、我が野望の障害ではない。情報を手に入れた功績は評価するぞテイルモン。今日はこのくらいにしておいてやろう」

 

 ヴァンデモンが書斎の扉をぴしゃりと閉め、残されたのは冷たい廊下で横たわるテイルモンだけであった。

 悔しさはあった。 しかし、それは直ぐに諦めの感情に押し流される。

 テイルモンはとにかくこの場から離れようと考え、痛みを伴う体を引きずって冷たい廊下を進んでいった。

 心に差し込んだはずの希望の光は、遠い彼方へと消えてしまっていた。

 

……………

………

……

 

 ヴァンデモンに受けた罰の痛みがようやく引き、テイルモンが痕は暫く残るだろうが十分動けると判断したときであった。

 

「あ! やっと見つけた~!」

 

「おい、待て!」

 

 廊下の向こう側から、テイルモンにとってあまり聞きたくない声が聞こえてきた。

 薄暗いから見つけづらいが、テイルモンの目はしっかりとこちらに向けて全速力でかけてくる影を見つけた。

 どうやらこのまま突っ込んでくるようだ。

 しかし、現在気が立っているテイルモンは恐らくスキンシップであろうその行動に対して、心の余裕を持って対処ができない。

 テイルモンはその影を待ち構え……

 

「ダーイブ!」

 

「≪ネコパンチ≫!」

 

 影に向かって行拳を振り抜いた。

 テイルモンのパンチはきれいにその影の顔面へと吸い込まる。

 テイルモンに殴られたのは、案の定ブラックテイルモンであった。

 

「ギニャ!?」

 

 もろにパンチを受けたブラックテイルモンは弾き飛ばされ、後ろから走ってきた魔術師の風貌をしたデジモンの足元に転がった。

 

「ウィザーモン、こいつをしっかり見張っていろ。こんな風に、何をしでかすかわからない」

 

「あ、あぁ。すまない」

 

 目の前で出来事に呆気にとられたこのデジモンはウィザーモンと言い、テイルモンにスカウトされたデジモンの1体であった。

 ウィザーモンはテイルモンに行き倒れているところを助けてもらった恩があり、ヴァンデモンよりもテイルモンの力になりたいと考えているデジモンである。

 そのテイルモンから頼みごとという事でブラックテイルモンの案内をよろこんで引き受けたのはよかったが、ブラックテイルモンが探検だと騒ぎ出してそこらじゅうを駆け巡り、仕方なくその後を追った末、今に至っている。

 

「ニャ~、レディの顔が~」

 

「レディだというなら、言葉使いから直したらどう? 女のくせに「僕」と言うところとか」

 

「あれは僕のアイデンティティとジュヨウってやつだよ~」

 

「あー、そう……」

 

 顔面を抑えてよく分からないことを口走るブラックテイルモンを尻目に、テイルモンは内心で少し驚いていた。

 今回は手加減していたとはいえ、最初の訓練で一撃で気絶していたころと比べるといい成長をしていると思ったからだ。

 ……が、こういう風にふざけて転がっている様子を見ると馬鹿にされた気がして、もう少し……いや、思いっきり殴っておけばよかったと思うテイルモンであった。

 

「ひ~ど~い~よ~、せっかく探し回ってやっと……どうしたのその傷!?」

 

「……また、ヴァンデモンにやられたのですか?」

 

 復活したブラックテイルモンとウィザーモンが、テイルモンの体についた傷に気が付いた。

 ブラックテイルモンは驚きで目を丸くし、テイルモンに特別な想いを寄せているウィザーモンは大して驚かなかったものの、静かに拳を握った。

 

「心配はいらない、今日は軽いものだったわ。暫くすれば痕も消える」

 

「今日はって、ヴァンデモンって奴に何時もこんなことされているの? 何それ、おもしろくない!」

 

 ブラックテイルモンは地団駄を踏んで怒りを露わにする。

 しかし、テイルモンにとってはそれが理解できなかった。

 出会ってからそれなりの付き合いのあるウィザーモンはともかく、ブラックテイルモンとはそこまで自分のためにここまで怒ってくれるような関係ではないとテイルモンは思っていた。

 テイルモンが自分が何か特別なことをしただろうかと思い返そうとした時、ウィザーモンが口を開く。

 

「まだ仕事は終わってないのでしょう? 直ぐに手当てをして……」

 

「いらない。直ぐに出発する……ここにはあまり居たくないから」

 

 テイルモンはウィザーモンの提案を断り、廊下を歩きだしてしまう。

 最後に呟いた言葉をウィザーモンはしっかりと聞いていて、その心中を察して素直に引き下がることを決めた。

 

「……分かった。部屋に戻るぞ、ブラックテイルモン」

 

「~~! やだ! 僕だってこんなとこ居たくない! テイルモンと一緒に行く!」

 

 そしてブラックテイルモンにも帰るように声をかけたが、ブラックテイルモンは駄々をこねながらウィザーモンの言葉を一蹴する。

 怒ったかと思えば駄々をこね始めたブラックテイルモンを見て、テイルモンは本気で殴って気絶させようかとも思い始める。

 

「あんたのわがままに付き合ってる暇は……」

 

「僕役に立つよ! 仲間をスカウトするとき、それが邪魔だったことない?」

 

 テイルモンがいい加減にしてくれと叱り飛ばそうとしたところで、ブラックテイルモンはテイルモンの尻尾にあるホーリーリングを指さした。

 苦し紛れに放った言葉に聞こえるが、実は結構痛いところをつく言葉だった。

 なぜなら、テイルモンがデジモンをスカウトする際にホーリーリングが障害となることがあったからだ。

 ヴァンデモンの配下となりそうな悪のデジモンはその大半ウイルス系デジモンである。

 しかし、テイルモンの付けているホーリーリングはそのデジモン達が嫌う聖なる力をもっている。

 そのためテイルモンのホーリーリングを警戒し、全く話を聞かなかったデジモンもいたことは事実であり、ブラックテイルモンの言っていることは的を射ている。

 

「それに、テイルモンは僕とあそ……鍛えてくれるっていったじゃん! その約束を破るの?」

 

 また断りづらいことを引き合いに出してきたブラックテイルモン。

 たしかにテイルモンは鍛えるという約束をしてしまった。

 それから少しは強くなったものの、テイルモンから見ればまだまだという段階だった。

 今ここで放り出せば、中途半端になってしまう可能性が出てきてしまい、それは少し身勝手なのかもしれないとテイルモンは考え始める。

 

 そしてじっくり悩んだ末……結論を出した。

 

「……はぁ、分かった。直ぐに支度しなさい」

 

「!! やったぁー!! じゃあ、包帯とって来るねー!」

 

「ちょっと待ちなさい! なんで包帯を……それに、あんたにまだ出発する場所を伝えて……」

 

 同行許可の返事をもらったブラックテイルモンは、テイルモンの話を聞かずに光の速さで通路の向こう側へと消えてしまった。

 しかも、何故か包帯を探してくると言い放っている。

 用途は予想がつくが、包帯がある場所と集合場所を聞かなかったブラックテイルモンの間抜けぶりを見て、テイルモンは傷を心配してくれてうれしいとは微塵も思えなかった。

 

「行ってしまいましたね」

 

「はぁ……ウィザーモン、悪いけどあいつに出発する場所を伝えといてほしい」

 

「了解した。……随分懐かれましたね」

 

「たまったもんじゃないわ。まったくあいつは……」

 

「内心、あそこまで慕われたら悪くないと思っているのでは?」

 

「無駄口叩いてないで、さっさと行け!」

 

「ハハ、分かりましたよ」

 

 テイルモンに怒鳴られたウィザーモンは苦笑を交えながら、ブラックテイルモンの後を追って飛んで行った。

 ウィザーモンまで何を言い出すのかと思ったところで、その原因となったブラックテイルモンの事をテイルモンは考え始めた。

 ブラックテイルモンの怒った様子を見ると、ヴァンデモンを快く思っていないのは明白だ。

 しかし、この城でヴァンデモンに反抗的な態度を取るとただではすまない事をテイルモンは重々承知している。

 そうなると、罰則を受ける可能性がある城に置いておくよりも、連れて行った方がよかったのかもしれないとテイルモンは思い始めた。

 

「ヴァンデモンの恐ろしさを分かっていないあいつは、城に置いておくより連れて行った方がいいのかもしれないわ……何で私があいつの事まで気にかけなければならないのよ」

 

 その答えはパッと思いつかず、テイルモンはこれ以上の推測は不要と判断し、もう決まったことだという諦めによって心の整理をつけ、出発場所へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回はテイルモンの行動を書いてみました。
正直、ブラックテイルモンは初登場時は男のつもりで書いてたんですけどね~
やっぱあのデジモンへの進化ルートを残しておきたいので女にすることにしました。
口調はまだぎりぎり女性として誤魔化せるレベルだったので……

感想批評お待ちしております。

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