デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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第34話 謎のレディガンマン

 

「……はぁ~、なんとかうまく行ったか」

 

「ソノヨウデス」

 

 俺はギンカクモンのコックピットにノワールがいて、ノワールがキンカクモンのこめかみに銃を当てていることを確認すると、安堵の息を吐いた。

 どうやら俺の考えた作戦がうまくいってくれたようだ。

 

「攻撃がメカノリモンに集中したときは、作戦が読まれてるかと思って焦ったぞ……」

 

「てめぇの策か……」

 

「まぁな」

 

 コックピットの中で銃を突きつけられているキンカクモンが、ギンカクモンの腹まで降下してきたメカノリモンを睨んで言った。

 たしかにこれは俺の考えた策で、キンカクモンも目で教えろと言ってきた。

 説明は死亡フラグだからあんまりしたくないんだが……まぁ、いいか。

 

「ギンカクモンの弱点を突いたんだ」

 

「弱点? てめぇは結局、紅葫蘆を狙わなかったじゃねぇか」

 

 やっぱりあいつら背中の瓢箪を弱点と認識していたらしい……でも、本質の弱点はそこじゃない。

 

「逆に聞くけどさ、弱点をついてないなら、何で今ギンカクモンは止まってるんだ?」

 

「………!! そういうことかよクソッたれ!!」

 

 俺の質問を聞いた時にキンカクモンは暫く沈黙したが、ハッとした表情で何かに気づき、悔しさと不甲斐無さを合わせた表情をしながら吐き捨てた。

 

「ギンカクモンの弱点は手負いのキンカクモン、お前だよ」

 

 一見するとギンカクモンの弱点は、キンカクモンの言ったとおり可燃物の入った瓢箪を壊して火をつけることに見えるが、俺は大きなダメージは与えられるだろうがそれでもまだ動くと思っていた。

 ではギンカクモンの弱点は何かと言えば、あの弱ったキンカクモンが危険に晒されることだ。

 

 もし、ギンカクモンの背負っている瓢箪が壊されてしまえば、ギンカクモンはアルコール度数の高い酒を全身に被る。

 そこに火が付けば、ギンカクモンが火達磨となるはずだ。

 恐らくギンカクモンは耐えられるだろうが、弱ったキンカクモンはそうはいかないだろう。

 コックピット内に居ても、外の炎に熱せられてコックピット内の温度はどんどん上昇して蒸し焼きになってしまうだろう。

 さっきメカノリモンが炎であぶられ機内の室温が上昇し、それがきっかけでウィッチモンとの炎のレースをした時の事を思い出し、ギンカクモンもそうなるだろうと踏んだ。

 外に出ようにも、外は火の海となっているはずだから外に出られない。

 つまり、瓢箪を破壊して中身に火をつけた時点でキンカクモンは大きな危険に晒されることになる。

 

 こう考えると、ギンカクモンの最大の弱点はやっぱりあの背中の瓢箪に見える。

 あの姉弟もそう思っていただろうから、あれほど躍起になって背後を攻撃させないようにしていたのだと思う。

 しかし、そんな必死で守ろうとするところを狙わなくても、弱点がキンカクモンなら別の方法でキンカクモンを危険に晒させれば、ギンカクモンの動きは止まるはずだ。

 恐らくだが、俺達も躍起になって背後をとろうとしていたら、相手もそうはさせないと必死になって応戦し、今よりも長く戦っていたことになったかもしれない。

 

 だから俺はガードの強固な瓢箪を狙うことを諦めて、それを陽動に使ってキンカクモンを人質にとった方がいいと考えた。

 つまり、俺がとった作戦は、ギンカクモンの後ろの瓢箪を狙うと思わせて、何とかしてコックピットの中にいるキンカクモンを人質にとるというものだ。

 そして、その作戦は成功を収めた。

 

「……って言うわけで、背後をとるフリをしてどうにかコックピットに入るという作戦を考えた」

 

「……どうやってここに入った? この女はお前が突っ込んできたときに一緒にいたはずだ」

 

 俺がキンカクモンに作戦を立てた動機を語った後に、キンカクモンは具体的にどうやったかを聞いてきた。

 

「それを言う前に1つ、この作戦に参加したのはメカノリモンとノワールだけじゃない」

 

「他に一体誰が……」

 

「信人君! うまくいきましたね!」

 

 キンカクモンの疑問を弾んだ声が遮り、その声の持ち主がギンカクモンの足元から砂煙に紛れて人影が小走りで近づいて来た。

 

「あぁ。ブランがしっかり陽動してくれたおかげだ」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「てめぇ……通路にいた妹の方か!」

 

 ギンカクモンの足元の砂煙から姿を現したのは、少し埃をかぶったブランだった。

 ブランは作戦がうまく行ったことがうれしいのか、被り物の白ウサギと一緒に良い笑顔を浮かべていた。

 

「お前の足元にいたのはノワールじゃなくて、このブランだ」

 

「何時の間に……」

 

「砂煙でこの部屋の視界が悪くなったときですよ」

 

 あの時にブランとノワールは入れ替わり、ノワールは合図が来るまでギンカクモンの攻撃が届かない距離を維持して待機し、ブランはノワールに変わって背後をとろうとする攻勢を仕掛ける。

 その後、オーバーヒート寸前のブースターがある程度落ち着くのを待ち、ブースターが回復して速度を出せるようになったメカノリモンで低空飛行し、砂煙に隠れながらノワールを操縦席に回収した。

 ここまで説明したとき、キンカクモンが待ったをかけた。

 

「ちょっと待て。その時はたしかに足元からの銃撃は続いてた」

 

「そんなの簡単よ。私の銃を貸してあげたの」

 

 俺に変わってコックピットのノワールが質問に答えた。

 陽動するときに下からは銃声がしていないと不審に思われる危険があったので、ノワールの片方の銃をブランに渡し、ブランはそれを使ってノワールに成りすましていた。

 なので、今のブランは本来の得物であるトライデントを背負い、ノワールの銃を両手で構えた状態だ。

 

 ノワールを回収した後、メカノリモンでギンカクモンに一気に近づいてから急上昇し、一旦注意を引いてこっちが陽動のように見せかける。

 そしてあいつらが俺達を陽動だと思い、注意を俺達から足元に戻した瞬間にノワールが操縦席から出て、ギンカクモンが足元のブランを迎撃しようと≪逆撃炎弾≫を放つために大口を開けた時、ノワールがメカノリモンから飛び降りてギンカクモンの口に侵入し、コックピットに入ってキンカクモンを人質にとる。

 ……っというのが、今回俺達が成功させた作戦の内容だった。

 

「作戦の全容はこんなとこだ。俺が焦ったのは、お前が作戦の途中で俺に攻撃を集中させたからだ。何せ、こっちは作戦の中核を背負って飛んでたんだからな」

 

「……すまない、姉者」

 

「ギンカクは悪くねぇ……悪いのはあたしの方だ」

 

 ギンカクモンの謝罪を聞いたキンカクモンは表情を歪め、さらに自分のことを責めている様子だった。

 

「そりゃ悔しいわよねー、お姉さんが弟さんの足を引っ張ったんだったから」

 

「ぐぅ……!!」

 

 ノワールがキンカクモンを挑発すると、キンカクモンは憤怒の表情でノワールを睨み付けた。

 上げている両手が怒りでピクピクと動いており、少しでも隙を見せれば大暴れされそうだ。

 

「てめぇこそ……妹を囮に使って恥ずかしくねぇのか?」

 

「……………」

 

 キンカクモンもこのまま言われっぱなしは気が済まなかったのか、ノワールに向かってブランを囮にしたことを非難した。

 その言葉を聞いたノワールの銃はピクリと反応し、その後寂しげな笑顔を浮かべた。

 

「……?」

 

「……あたしだってあんな手段はとりたくなかったけど、あの作戦は悪くなかったし、本人がやりたいって言いだすし……まったく、何時の間にあんなにたくましくなったんだか」

 

「お姉ちゃんがピンチの時に黙って見てられない。私だってガンクゥウモン様に修行をつけてもらってるんだから、お姉ちゃんと一緒に戦えるよ!」

 

 俺が作戦を伝えた時、ノワールはブランに戦えるか? という意味のアイコンタクトを送っていた。

 その問いに対してブランは闘志を秘めた目でノワールを見返し、その心意気に折れたノワールは作戦を了承した。

 

 この時、ほんとはブランに作戦をどうやって伝えるかを考えようとしていた。

 作戦開始前にブランが通路から出てキンカクモン達に見つかるとこの作戦は成立しないので、あいつらに見つからずにブランに作戦を伝える必要があった。

 しかし、その時にノワールは、

 

『心配無用よ。あんたは好きなタイミングで突っ込んできてくれればいいから』

 

 と言って突っ込んで行ってしまった。

 

「ノワール、結局ブランにはどうやって作戦を伝えたんだ?」

 

「説明はしてないわ。ただ見つからないようにこっち来なさいってサインを送った後、砂煙の中で銃を渡してあたしは離脱しただけよ」

 

「うん。あたしとお姉ちゃんなら、それだけで十分」

 

 ということは、ブランとノワールの入れ替わりは極短時間に行われたという事になる。

 なるほど、だからほとんで銃撃を止めることなく入れ替われたのか……まさに阿吽の呼吸と言えるコンビネーションだ。

 姉妹の絆がそれだけ深いという事だろう。

 

 キンカクモンもブランとノワールの間に深い絆があり、ノワールが決して軽く考えて妹のブランを戦いに参加させたのではないと悟ったのか、この件についてこれ以上の追求はしてこなかった。

 暫くの沈黙の後、キンカクモンは口を開いた。

 

「…………なんであたしを生かす? 今ならあたしを倒して、中からギンカクモンにダメージを与えられるはずだ」

 

 未だ険しい表情のキンカクモンが零した疑問はもっともだ。

 たしかに、今ここで両者とも始末してしまえば脱出するときの憂いが1つ減るが、キンカクモン達には少し聞きたいことがあった。

 なので、俺としてはこのままの状態で話しながら外に行きたい。

 

「少し聞きたいことがある。このまま一緒に外に出て、話してくれれば危害は加えないって約束する」

 

「誰がピエロの鼠の言う事なんか……」

 

「………姉者」

 

「…………チィ、分かったよ」

 

 はじめはこちらの要求を突っぱねようとしたキンカクモンだったが、ギンカクモンに諭されて渋々と言った様子でこちらの要求を飲んだ。

 恐らく、時間を稼いで状況を打破するチャンスを窺うつもりだと思うが、話を聞いてくれるようになればそれでいい。

 出口の炎は戦闘中に砂煙のおかげでほぼ鎮火しており、普通に通ることができるようになっていた。

 

「まず言っておきたいのが、俺達はお前が言うピエロって奴の部下じゃない。 ……ついでに言うと、恋のライバルでもない」

 

「信用できねぇな」

 

「そんなこと言われても……こっちは本当にそのピエロって奴がどんなデジモンかも知らないんだ。だからそいつの事についてちょっと聞きたい」

 

 まぁ、心当たりはあるんだけど……

 

「信用どうのは問題じゃないわ。あんたはただ質問に答えてくれればいいの」

 

「……まぁいい。あたし達が言うピエロってのは……ピエモンっていうデジモンの事だ」

 

 キンカクモンは少し俯いて絞り出すようにその名前を口に出した。

 まさかこの時にその名前を聞くことになるとは……

 

 ピエモン……デジタルワールドを侵略する組織、ダークマスターズを統べる究極体デジモンであり、物語終盤に選ばれし子供達の前に立ちはだかった強敵だ。

 究極体デジモンを2体を相手にしても圧倒的な立ち回りを見せたり、デジタルワールドのほぼすべての地上をスパイラルマウンテンに組みこんだりと、作中では間違いなく最強クラスのデジモンだ。

 

「数年前、あいつはダークエリアで爆発的に勢力を広げてきた。アスタモン様も大きな勢力だったが、ピエモンに騙し討ちされちまって……」

 

「……ボスの手下、ほぼ全滅」

 

「じゃあ、ここら一帯の新しいボスってのは……」

 

「ピエモンだ」

 

 この時期からピエモンはダークエリアでデジタルワールドの侵略を進めてきたわけか。

 しかも、さらに兵隊を募って勢力を拡大させようとしている……原作で見た時よりも、ダークマスターズは遥かに大きな勢力になるかもしれない。

 

「なるほど……まぁ、詳しいことは外に出ながら聞こう」

 

「……分かった」

 

 いつまでもここでだらだらと話を聞くわけにはいかないので、俺達はギンカクモンと一緒に部屋の出口へ向かって歩き始めた。

 ギンカクモンが歩くたびに地響きがなり、大部屋の天井からパラパラと小さな破片が落ちてくる。

 部屋のほぼすべての柱はへし折られてるし、もしかしたらここは崩れてしまうかもしれない。

 そうなる前に早く脱出しないと……

 

「…………待ちな」

 

「「「!?」」」

 

 ……今、一番聞きたくなかった声が入り口に向かい始めた俺達の後ろから聞こえて来た。

 俺とブランは直ぐに振り返って声の主を確認し、ギンカクモンもゆっくりとそちらを振り返った。

 

「戦いがやけに長引いてるなと思って様子を見に来たが、まさかこんな状況になってるとはな……」

 

 粉々に破壊された大扉の前に、アスタモンが少し驚いた表情で立っていた。

 絶対に会いたくない人物を前にして、俺とノワール達の顔は強張り、逆にキンカクモンは険しい表情を和らげてうっとりとした表情でアスタモンを見た。

 

「アスタモン様♡! あぁ、申し訳ないですアスタモン様、命令を完遂できなくて……このキンカクモンはどんな罰でも……えへへ♡」

 

「ハァ……キンカクモン、少し黙ってろ」

 

「はぁい」

 

 アスタモンは恋愛モードに入ったキンカクモンを見て、疲れたように溜息を吐いたが、気を取り直して俺達の方を険しい表情で見つめた。

 俺達もアスタモンの動きを警戒するため、全員の意識がアスタモンに集中していた。

 

「人質とは舐めたマネしてくれるな……何を要求するつもりだ?」

 

「別に要求を通すために人質をとったわけじゃないけど……あ、話を聞きたいって思惑があるか」

 

「……………」

 

「と、とにかく危害を加えるつもりはないし、俺達はピエモンの部下じゃない。ここには宝探しに来ただけで、お前たちがここにいるなんて知らんかったんだ」

 

 アスタモンは俺の言葉には耳を傾けているようだが、未だに表情は険しく、俺の言っていることを疑っているようだ。

 初めてアスタモンに会った時の反応から、アスタモンは俺達の事をピエモンの部下だと思っているはずだから、あの反応は当然か。

 俺達とアスタモンの間に重い沈黙が流れる。

 しかし、これは少々まずいことになったな。

 ノワールがギンカクモンの中にいるので、隙をついて一斉に逃げるという事ができず、全員でここから逃げるにはアスタモンが俺達を逃がすことを約束してくれなければならない。

 そのためにはどうやって信用を得るかだけど……

 

 ―――――コツコツコツ……

 

「……?」

 

「……誰だ?」

 

 重苦しい沈黙を破ったのは、出口の方から聞こえてくる足音だった。

 少なくとも、この足音の持ち主はダークエリアにいて1日も経っていない俺達の知り合いではないはずだ。

 となると、アスタモンの仲間かもしれない。

 しかしアスタモンの様子を見ると、アスタモンもこの足音の持ち主に見当がつかないらしく、ゆっくりと銃を構えてその方向を見据えている。

 視線が若干外れているとはいえ、あれほどのデジモンがこちらにまったく注意を払わないとは思えないので、下手な動きはしない。

 アスタモンの警戒心を煽らないように、メカノリモンとブランはゆっくりと後ろを振り返った。

 

「……何だこの有様は」

 

「あ……町でつけて来てたデジモン」

 

「ほんとか?」

 

「はい、あのマントとフードは間違いないです」

 

 出口に積み重なる瓦礫を登ってきたのは、灰色のマントで体と顔を隠した人型のデジモンだった。

 しかもブランが言うには、ヌルの町で俺達をつけて来ていたのはあいつらしい。

 そうなると、味方である可能性は低い。

 謎のデジモンは部屋を見渡していて、表情は見えないがどこか呆然とした様子に見える。

 そして一通り視線を巡らせた後、謎のデジモンは俺達の方に顔を向けた。

 

「……貴様、ここがどのような場所か分かっているのか!? ここは孤高と己の信念を貫いたガンマンの眠る場所……断じて、無法者が調子づいて暴れる場所ではない!!」

 

 そして凛とした女性の声で俺達を一喝し、暗いフードから鋭い眼光を覗かせて俺達を睨み付けた。

 その凄まじい剣幕に俺は僅かにビクリと体を震わせ、ブランに至っては咄嗟に岩陰へと隠れてしまった。

 なんというか、言葉では言い表しがたい威圧感があのデジモンからは出ているような気がする。

 声からして女性型だと思うが、あのデジモンはいったい何者だなんだ?

 

「何だてめぇは?」

 

 謎のデジモンの一喝に怯む俺達を尻目に、アスタモンは怯むことなく謎のデジモンに銃を向け、威圧するような低い声で問いかけた。

 

「……見たところ、格下のデジモンに対してだいぶムキになっているようだが、そのような器の小さい者に名乗る気はない」

 

「何だと……!」

 

 しかし、謎のデジモンはアスタモンの高圧的な言葉に怯んだ様子はまったくなく、逆に挑発してしまった。

 究極体とも渡り合えるはずのアスタモンにあそこまで毅然とした態度をとるとは……ほんとにあのデジモンは何者なんだ?

 

「……味方じゃねぇなら、殺しても問題ねぇな」

 

「やめておけ。それなりの実力はあるようだが、銃で私に勝とうとするのは無謀だ」

 

「ほざけ……!」

 

「ボ、ボスー!!」

 

 両者の間に緊張感が一気に高まり、今まさに戦いが始まると言った瞬間に、アスタモンの部下と思われるガジモンが大扉の向こうから入って来た。

 アスタモンはそれに気をとられ、引き金から指を放す。

 

「何の騒ぎだ!」

 

「俺達が戻ってくる途中、急に通路が崩れ始めたんです! もしかしたらここも……あ!」

 

 そう言った矢先のこと、天上から落ちてくる破片が急激に増え、さらには地響きのような音が大部屋に響き始めた。

 

「……ここでの破壊がパレス全体に響いたのだろう。丈夫に作られていたはずだが、このパレスもだいぶ古くなっている。恐らく、この大部屋と部屋に隣接する通路は崩れる」

 

 謎のデジモン言ったことが本当なら、急いで脱出しなければ俺達全員瓦礫の中に埋もれてしまう。

 音はどんどん大きくなっていき、こぶし大の瓦礫も降るようになってきた。

 

「ひ、ひええぇ!!」

 

「チィ! ≪ヘルファイア≫!」

 

 そしてついに天井の一角が大きく崩れ、この部屋の崩壊が本格的になってきた。

 アスタモンの側にいたガジモンが瓦礫の下敷きになりかけたが、アスタモンの放った銃弾がそれを粉々に砕いた。

 しかしアスタモンの部下はガジモンだけではなく、大扉の向こうから逃げてきた十数匹の部下までいて、アスタモンはそのデジモンを守るために瓦礫を砕いていく。

 

「ほんとに崩れてきやがった……このどさくさに紛れて逃げるか」

 

「お姉ちゃん逃げよう!」

 

「分かったわ!」

 

 声をかけられたノワールはギンカクモンの内部にあった梯子を駆けあがり、ものの数秒でギンカクモンの口から飛び出してきた。

 

「よし、ギンカク!」

 

「……承知!」

 

 ギンカクモンもそれを邪魔する事はせず、人質を解放されて動けるようになったギンカクモンはアスタモンの部下達の元へと駆け寄った。

 どうやら体を張って部下達を守るようだ。

 

「メカノリモンの中に入れ!」

 

「は、はい!」

 

「ちゃんと入れるの?」

 

「たぶんギリギリだけど、瓦礫から身を守るにはそれがベストだ!」

 

 いくらブランとノワールが素早いからと言って、この降り注ぐ瓦礫をすべて躱すのは至難の技だ。

 ならメカノリモンの中にいた方が安全なのだが……

 

「ちょっと、ほんとにギリギリじゃない!」

 

「せ、狭い……」

 

「あんまり暴れんな! 操縦が狂う!」

 

 さすがに二人と俺を乗せると操縦席はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。

 物理的に押されて操縦を誤りそうになるし、顔にかかる吐息とか後頭部に感じる柔らかさで集中力が……

 それらに負けずにメカノリモンを操縦し、何とか機首を出口の方に向けて脱出を図った。

 

「やめておけ! ここから先はすでに崩れている!」

 

「え、嘘だろ!?」

 

「イエ、本当デス。レーダーデ確認デキマス」

 

 レーダーで確認すると、たしかに謎のデジモンが警告した通り、出口の先が瓦礫で埋もれてしまっているのが分かった。

 しかしそうなると、ここから脱出するにはウィッチモンと戦った時のように、降り注ぐ瓦礫を避けながら天井を抜けるしかない。

 俺は操縦をマニュアルからオートへと切り替える。

 瓦礫を避けながらの曲芸飛行なんて俺にはまだできないので、ここはメカノリモンに操縦を任せる。

 

「ちょっと揺れるぞ!」

 

「はいぃ!」

「手加減してよね!」

 

「善処シマス」

 

 部屋の崩壊の勢いが強まり、メカノリモンの体と同じ面積の巨大な瓦礫が降り注ぐようになってきた。

 ギンカクモンはアスタモンの部下達を庇い、四つん這いの姿勢でデジモン達の盾になっている。

 しかし、まだギンカクモンの下に入れないデジモンもいて、そのデジモン達に降り注ぐ瓦礫はアスタモンとその側近と見られる黒いガルルモンが技を繰り出して瓦礫を除去している。

 

 一方、謎のデジモンの方は軽い身のこなしで瓦礫を華麗に避けていて、あの様子だと押しつぶされると言ったことはなさそうだ。

 俺達もメカノリモンのおかげで瓦礫を避けることができ、今のとこ誰もが順調であった。

 そう思ったのもつかの間……

 

「う、うわあああああ!!?」

 

「チィ、どこだ!?」

 

 まだ避難の終わっていないゴブリモンから悲鳴が上がった。

 そのゴブリモンは目の前に大きな瓦礫が落ちたことに驚いてしりもちをついたようで、しかもその瓦礫のせいでアスタモンの視界から外れてしまった。

 これではアスタモンの助けを受けることができない。

 そしてそのゴブリモンの頭上に、無情にも瓦礫が落ちてきた。

 俺はその一連の流れを空中から目撃していて、落ちてくる瓦礫を絶望に満ちた表情で見上げるゴブリモンの顔もばっちりと見えてしまった。

 

「頼む、メカノリモン!」

 

了解(ラジャー)!」

 

 それを見てしまった俺の判断は1つしかなかった。

 メカノリモンも俺の考えを正確に理解し、ブースターの出力を上げて一気にゴブリモンへと近づいていく。

 

「≪ジャイロブレイク≫!」

 

 メカノリモンの拳が打ち付けられた瓦礫は二つに割れ、二つの瓦礫の間にいる形になったゴブリモンは難を逃れた。

 

「え!?」

 

「こっちだ、はやく!」

 

「あ、あぁ……」

 

 ゴブリモンは戸惑いながらも差し出されたメカノリモンの腕に掴まった。

 メカノリモンはそのまま飛び立ち、ギンカクモンのいる場所へとゴブリモンを連れて行く。

 

「!? てめぇ、この期に及んで……」

 

「ボス違うんです!こいつら、俺を助けたんです!」

 

「!」

 

 アスタモンはゴブリモンを連れたメカノリモンに一瞬銃を向けたが、ゴブリモンの放った言葉に驚き体を膠着させた。

 そのまま数瞬こちらを睨んだ後、

 

「……はやくこっちにこい!」

 

「へ、へぇ!」

 

 銃を下ろし、メカノリモンの腕から降りたゴブリモンと一緒にギンカクモンの下へと入って行った。

 どうやら避難できていなかったのはあのゴブリモンで最後のようだ。

 

「ちょっと、どういう風の吹き回し?」

 

「そんなことより、今は脱出が先決だろ。 ……って、これまずくないか?」

 

 上を見てみると、今までとは比べ物にならないほどの大きさと量の瓦礫が降り注いできた。

 どうやら残りの天井が一編に全部崩壊したらしい。

 

「逃ゲ場ガ……」

 

「無いです!?」

 

「やばい、アスタモン様! あの量はギンカクでもたぶん無理だ!」

 

「クソッ! 来いガルルモン!」

 

「イエスボス! ≪フォックスファイアー≫!」

 

「≪ヘルファイア≫!」

 

 ギンカクモンの体の下からアスタモンとガルルモンが飛び出し、大量の瓦礫に向けて必殺技を放った。

 瓦礫はすごい勢いで粉砕されていくが、それでもこの大量の瓦礫を捌ききれそうにない。

 

「≪ジャイロブレイク≫! ……キリガナイデス!」

 

 メカノリモンも瓦礫の排除を試みるが、一向に瓦礫が減ることはこのままでは全員生き埋めになってしまう。

 ……そうえば、あの謎のデジモンはどうなったんだ?

 

「……仕方がない、手を貸してやろう」

 

 そう思った矢先、何時の間にやらギンカクモンの背中に乗っていた謎のデジモンが瓦礫を見ながらため息交じり呟いた。

 そしてマントの中から何かを取り出す。

 

「え……あ、あれってまさか……ベレンヘーナ!?」

 

「何だそれ?」

 

「ベルゼブモン様が使ってた2丁拳銃よ! なんでそれがここに……あれ、でもよく見ると何か違うような……」

 

 謎のデジモンがマントの中から取り出したのは2丁の拳銃だった。

 ノワールが言うには、あの銃はベルゼブモンの使っていた銃に似てるらしい。

 

「撃ち漏らしはない。安心してそこで見ていろ」

 

 謎のデジモンは降り注ぐ瓦礫に2丁の拳銃を向け、引き金を引いた。

 その瞬間、部屋に響く崩壊音に負けないほどの炸裂音が連続して響いた。

 

「な、何よあの連射速度!?」

 

「威力もすごい……ガンクゥモン様の攻撃と同じくらいかも」

 

 ノワールとブランが驚くのも当然で、謎のデジモンの攻撃は凄まじかった。

 連射速度はノワールとアスタモンを遥かに超え、攻撃の当たった瓦礫は一撃で粉々に粉砕されてしまった。

 謎のデジモンは俺達に圧倒的な力の差を見せつけながら、凄まじい火力で瓦礫を次々と処理していった。

 慌しかったさっきの状況とは打って変わって、俺達はその様子をただ茫然と見ているだけでよかった。

 

「ほんとに何者なの、あのデジモンは……」

 

 ノワールの呟きが、この場にいる全員の心の内を代弁していた。

 

 





急いで書き上げたので誤字があるかも。
感想批評をお待ちしてます。

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