デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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今回から新しいデジモンがぽんぽん登場します。
姿が想像しにくいなと思ったらそのデジモンの名前で画像検索することをお勧めします。

それと、前回の話で表現を少し修正した部分があります。
誤 今は七大魔王デジモンと呼ばれるデジモン達が~
修 当時は七大魔王デジモンと呼ばれるデジモン達が~


第29話 ウイルスの楽園

「…………う、うぅん?」

 

「……目ガ覚メマシタカ?」

「大丈夫か?」

 

「メカノリモンとストライクドラモンか……」

 

 俺が目を覚ますと、俺の顔を心配そうに覗きこむストライクドラモンとメカノリモンの姿があった。

 体の調子は楽になったが、まだ少しだるさがある。

 

「あぁー、どれくらい寝てた?」

 

「現時刻ハ夜8時、約6時間寝テイマシタ」

 

「結構寝たな……」

 

「それより、大丈夫なのか?」

 

「まだ少しだるい。今日はもう飯食って休もう」

 

 しかしあの頭痛はなんだ?

 ただの疲れによるものにしては症状が異常だし、特に心当たりは………あるな。

 

「やっぱりあれが原因か?」

 

「アレトハ?」

 

「ナノモンに押し売りされた知識だよ。頭に関係があるとするとあれしか思い浮かばない」

 

 あんなに強い痛みが発生してたんだから後遺症とかを心配していたが、まさにその心配通りになってしまったようだ。

 俺はその後遺症を把握するため、ストライクドラモン達が帰って来た時に俺がどのような状態だったかを食事しながら聞いた。

 ストライクドラモン達は帰って来た時に声をかけたらしいが、それに対して俺はまったくの無反応で、コンピュータに一心不乱に向かいあっていたらしい。

 少しイラっときたストライクドラモンは俺を小突いたりしたらしいが、それでも反応なし。

 視界に遮ってモニターを見えないようにしても、手を止めてボーッとした表情で何か考え事をし始めたのだという。

 頭にきたストライクドラモンは頭を引っ叩いて意識を向けさせようとしたが、メカノリモンがそれを止めたらしい。

 メカノリモンは俺が凄まじい集中力を発揮しているように見えて、何か重要なことをしているのだろうと考えて邪魔が入らないようにしたという。

 しかし、いくら思い返してもストライクドラモン達が言っていたことがあったとは記憶していなかった。

 

「……嘘だろ? まったく覚えてないんだが……」

 

「おい、結構やばいんじゃないか?」

 

 ここまでの証言をまとめてみる。

 俺はコンピュータと向かいあってから暫くして頭痛がし始め、それはだんだんと酷くなっていったが、お目当てのデータを見つけたのでそれを読むのを優先した。

 たしかそのあたりから頭痛や熱っぽさが気にならなくなり、なんかすごくいい感じに集中できたのは覚えている。

 ストライクドラモン達はその時に戻ってきていて、俺に話しかけてもまったく反応がなかった。

 そしてそれから暫くして、データが読み終わって集中力が切れた時に凄まじい頭痛が襲いかかってきたということになった。

 

「メカノリモン、そのときの俺って集中してるだけって感じだった?」

 

「……汗モ掻イテイマシタ。アノ時カラ熱ガアッタカモシレマセン」

 

 なるほど、作業が終わった途端に急激に熱が上がるのではなく、今まで辛かったはずなのに気に留めることができなかったという可能性も出てきた。

 しかし、あの集中力もそうだが、たかだか2時間程度パソコンに向かい合っただけであんなひどい状態になるのもおかしい。

 これもナノモンに頭を弄られた弊害として考えてもいいだろう。

 

「……実害が出たか。先輩達に隠し通せるかな?」

 

「ドウデショウ? デスクワークノ時ダケソノ症状ガ出ルナラ何トカナリソウデスガ……」

 

 実害が出た今の俺の状態を先輩達に知られるのは非常にまずい。

 なんか知らないうちにそうなってましたとかじゃ通らないし、元々そうだったんですよ~とか言ってもヒカリちゃんが普段の俺を知ってるはずだから、その場しのぎにはなるだろうがばれるのは時間の問題だ。

 そしてこのことがバレて、ナノモンの時の事まで話が及べば先輩達にとって大きな負い目となるだろう。

 それだけは何としても避けないと……少なくとも、先輩達が主軸となる無印が終わるまでは。

 

「はぁ~……知識だけくれればよかったのに。まぁ、世の中そんな甘くないか」

 

「今日はもう休むのか?」

 

「あぁ、まだ体がちょっとだるいし」

 

 俺は少し硬いベットに寝て布団に潜りこみ、厄介なことになったと辟易しながら目を閉じ、暫くして襲ってきた睡魔に身を委ねた。

 

……………

………

……

 

 翌朝、俺は昨日と同じようにコンピュータと向かい合っていた。

 昨日と違う事はストライクドラモン達が俺の近くにいるという事だ。

 こいつらには俺が昨日のような状態になった時に、どんなことをすれば正気に戻るのか調べてもらうことになっている。

 ……多少手荒いことをしても言いと言ってしまったのでいささか不安ではあるが。

 とりあえずそっちのことはあいつらに任せるとして、俺は昨日に引き続きストライクドラモンのウイルスアレルギーを直すために情報を漁っていた。

 昨日、俺が頭痛でダウンするまでに得られた情報によれば、やっぱりストライクドラモンに並みのウイルスが体内に入ってしまっても即座に排除されてしまうようだ。

 つまり、どこかでその免疫力に負けない飛び切りのウイルス属性を持つ代物を手に入れてくる必要がある。

 これはデジモンを捕まえて体内のウイルスを取り出すという方法があるらしいが、この研究所の設備を使わないとできないようで、今のストライクドラモンの近くにウイルスデジモンを置きたくないのでこれは却下する。

 そしておそらく必要となるウイルス属性を持った何らかのアイテムがある場所だが、期待できる場所としての有力候補は………

 

「起きろ!!」

 

「うぐ!?」

 

「強ク叩キスギデス!」

「いや、だってよぉ……」

 

 いきなり後頭部に強い衝撃を受け、何事かと後ろを振り向いて見るとすぐ後ろにストライクドラモン達が立っていた。

 

「いってぇ~……って俺はあの状態だったのか?」

 

 ……思い返してみると、少しあった眠気がスーッと消えていくようなタイミングが合ったような気がする。

 恐らくその時にスイッチが入ったのだろう。

 

「ハイ。声ヲカケタリ、体ヲ大キク揺タシタデスガ、反応ガ皆無デシタ」

 

「それで最終手段でストライクドラモンが殴ったわけか。でももう少し他の手段も試してからの方が……」

 

「……モウ一ツダケ試シタコトガアルノデスガ……」

 

 そう言いかけたメカノリモンは気まずそうにモノアイを俺からそらし、ストライクドラモンは何やらニヤニヤとしている。

 なんだと思っていたが、モニターに反射して映っていた俺の顔を見て理由が分かった。

 

「顔に落書きされてる!?」

 

「ククク、まさかここまでやって気付かないとはな」

 

「私ハ止メタノデスガ、マスターガ何デモシテヨイトオッシャッタノデ……」

 

 俺の両頬には渦巻印が掛かれていて、ちょび髭やそばかすが書かれていてかなり愉快な顔になっていた。

 恐らく俺の筆記用具の中にあったボールペンをストライクドラモンが勝手に使って書いたのだろう……あの手でボールペン持てるって結構器用だな。

 

「こんなことまでされても気付かないのか……」

 

 暫くはこんな愉快なことをしてくれやがったストライクドラモンに対して怒りを感じていたが、少し冷静になって考えてみるとこれはかなり厄介な代物なのではないかと思った。

 ここまでされて気付かないほどの集中力はもはや病気と言ってもいいだろう。

 さらに、今はストライクドラモンに殴られたときの痛みがまだあるが、それとは別に内部からくる頭痛もしはじめたし、体を見ると少し汗ばんでいて、それでいて少し熱っぽい。

 ということは、その集中力を発揮しているときは何故か熱が出て、しかも異常な集中力のせいでそれが酷くなるのにも気づかないという、いかにも性質の悪い状態だという事だ。

 改めて状態が分かってくると、隠し通すのはかなり難しいような気がしてきた。

 

「はぁ~~~……とりあえず、顔を洗ってくるか」

 

 俺は深いため息をつきながら、顔を洗うために生活スペースである部屋に重い足取りで向かった。

 そしてトイレと一緒にされた洗面所で顔を洗いながら、殴られる前に試行していたことを思い返し、そしてそのまま言葉に出した。

 

「ダークエリアかぁ……望みどおりのものがあればいいけど……」

 

 ―――――ダークエリア

 デジタルワールドとは若干ずれた次元に存在し、当時の資料によればデジタルワールドの暗黒面、ウイルス属性の楽園などと呼ばれ、表の世界であるデジタルワールドから忌むべき場所とされてきた。

 もしこの資料のことが真実ならば、ウイルス属性の楽園である彼の地にストライクドラモンのウイルス耐性を中和できるウイルスデータが見つかる可能性は低くはないはずだ。

 そうなると資料にあった戦乱が絶えないという記述も誤りではなくなるはずだが、多少の危険は覚悟のうえだ。

 ストライクドラモンの治療法を確立するのとダークエリアの調査も並行して行わないといけないなと思いながら、顔の汚れを落とし終わった俺は作業を再開するためにメインコンピュータルームに戻っていった。

 

……………

………

……

 

 時間はかなり飛び、俺が後遺症を把握してから一週間後の早朝、俺とストライクドラモン達は研究所の入り口前にいた。

 この一週間、俺は研究所に缶詰め状態でストライクドラモンの治療法を確立を目指していて、その努力が実り、大体の具体的手法はなんとか確立することができた。

 まぁ、ナノモンからもらった知識があるから結構何とかなるのではないかと思っていた。

 実際、ナノモンの知識はデジモンが持つ体内データを把握したり、体に流れるデータの流れを把握することができ、そして資料内で頻繁に出てくる専門用語の意味を理解することができるなど、

治療においてこの知識が必須であると言えるほど役に立った。

 そのままであれば、もっと時間をかけずに手法が確立できたでのだろうが、それを邪魔をしたのもまたこの知識が原因という、なんとも言えない状況だった。

 まず極限集中状態になると作業効率は上がるが、後で痛いしっぺ返しがくるので、事前にその状態になりそうだったらストライクドラモンに元に戻してもらうように頼んだ。

 もちろん、元に戻す際には頭を強く叩かれるので俺は何とかその状態にならないように工夫は試みたのだが、やっぱりなるときはなってしまうので何回もストライクドラモンのお世話になってしまいる。

 そして途中で集中を途切れさせても、それまでに発熱した分は休息をとることでしか抜くことができないので、30分から1時間毎に俺の作業は中断させなければならない。

 そのような状態は決して作業効率がいいと言えるものではなく、研究は俺の思い描いたようなスケジュールにはいかなかった。

 しかし、そんな状態にもめげずに研究を続けた結果、昨日に手法の確立まで何とかこじつけ、後は必要なものを入手するだけとなった。

 もちろんその必要なものと言えば……

 

「ほんとに行くんだな? そのダークエリアってところに」

 

「あぁ。必ず必要なものを手に入れて戻ってくるよ」

 

 そう、ダークエリアにあると思われる強力なウイルスデータを持つアイテムだ。

 今日、俺とメカノリモンはそれを得るためにメカノリモンと一緒にダークエリアへと向かう事になっった。

 食料もそれなりに持っていき、メカノリモンのエネルギーも補給して向こうで何日も活動できるように準備をした。

 残念ながらストライクドラモンは連れて行くことができないので、この研究所で留守番という事になる。

 ウイルス属性の楽園である場所にストライクドラモンを連れて行ったらどのようなことになるかは容易に想像できる。

 まぁ、戦乱が続く場所ならそれでいいのかもしれないが……

 しかし、いくらウイルス耐性があると言っても、ウイルスデータが空気中に含まれるダークエリアはワクチン種のデジモンにとっては不快な場所であるのには変わりはない。

 もしかしたら向こうに何日も滞在するかもしれないので、ストライクドラモンをそこへ連れて行くのはやめておいた方がいいだろう。

 

「でもこっちは退屈だな。信人の頭もぶったたけねぇし……」

 

「それを暇つぶしにするんじゃねぇよ……」

 

 ストライクドラモンをここに置いておくとなると、たしかに暇を持て余してしまうし、この状態でウイルスデジモンに出会うと止める役がいなくなるが、そのために手は打ってある。

 

「さっきウィッチモンから連絡が来た。無事ミケモンと合流して、こっちに向かってきているようだ」

 

「ミケモンが来るのか?」

 

「あぁ、事情を話したら承諾してくれた」

 

「そうか、じゃあ退屈はしなさそうだな」

 

 一昨日の夜、俺は通信機を使ってウィッチモンに連絡を入れ、ミケモンを連れて研究所まで来れないか相談してみた。

 ミケモンのいるピッコロモンのジャングルには景色を誤魔化す結界が張られているので連れてくるのは困難だと思ったが、ウィッチモンは逆に目印になると得意げに話していた。

 ……その得意げな顔も友達はできたかという話になると固まってしまったけど。

 そして今朝にウィッチモンから連絡があり、通信機越しにミケモンに事情を説明してここに来てくれないかと頼んだところ心よく了承してくれた。

 門下生のガジモン達を一旦ピッコロモンの元に預け、ウィッチモンの箒に乗ってここに向かってくるようだ。

 修行相手がいればストライクドラモンが退屈することはないだろう。

 

「よし、それじゃあ行ってくる」

 

「あぁ、面倒かけちまってすまねぇな」

 

「お前の面倒なんてドラコモンの時から茶飯事だから、今更気にすんな。留守番しっかり頼んだからな」

 

「行ッテマイリマス」

 

 出発の挨拶もほどほどにして、俺はメカノリモンに乗ってダークエリアへの入り口がある方向に飛び立った。

 

……………

………

……

 

 メカノリモンで飛行してから30分後、俺は砂漠の中にある岩場に到着した。

 たしかこの岩場に以前研究所にいた人間が使っていたゲートがあるはずなのだけど……

 

「岩が塞いでるな……」

 

「オ任セヲ、≪ジャイロブレイク≫!」

 

 メカノリモンの放った鋼鉄の拳が乾燥した岩を打ち砕くと、その下に若干砂に埋もれた上に開く鉄製の扉が姿を現した。

 扉を開けて中を見てみると、奈落に通じているのではないかと思うくらいの深い闇があった。

 

「ここに入るのか……よし!」

 

 その闇に少し腰が引けてしまったが、それを振り払うために気合いを一発入れた後に、メカノリモンを操作して扉の中へと飛び込んだ。

 穴に入ってから視界はまったく効かずカメラからの映像は闇しか映っていない。

 透明ハッチからは扉から差し込む地上の光が差し込んできていたが、それもだんだんと遠くなってくる。

 そして地上の光が完全に見えなくなったころに、メカノリモンは地面に着陸した。

 

「着いたのか?」

 

「ライトヲ点ケマス」

 

 メカノリモンが機体中央にあるリニアレンズを光らせて辺りを照らしてみると、そこはどこかの洞窟のようだった。

 その場から上を見るとぽっかりと縦穴が開いており、どうやらそこを通って俺達はここへと降りてきたようだ。

 メカノリモンの照明を頼りにして洞窟を進んで行くと、それほど時間をかけずに洞窟の外へと出ることができた。

 

「ここがダークエリアか……」

 

 メカノリモンのハッチを開けて操縦席から身を乗り出し、眼前に広がるダークエリアの景色を眺める。

 黒と灰色の固い岩の大地が広がり、植物は枯れ果てている木しかなく、そこはまさしく不毛の大地と言うにふさわしい場所であった。

 空には月も星もなく、吸い込まれそうな漆黒に染まっているが、不思議なことに辺りは薄暗いと感じるくらいの明るさであり、視界はそれなりに確保されている。

 あたりはシンと静まり返っており、このまま思考を放棄して音を立てずに佇んでいれば、この静かな闇の中に同化してしまいそうな空模様と景色だった。

 このような景色を見たことがなかったからだろうか? 俺はこの風景に嫌悪感は感じず、むしろ幻想的に感じ、疲れた時はこの静かな場所に来て休むのもいいかもなと考えていた。

 

「……思ったより悪くない場所だな。もっとおどろおどろしい場所かと思ってたけど」

 

「同ジヨウナ景色バカリデ位置ノ把握ガ困難デスネ。私ノホウデシッカリトマッピングシテオキマス」

 

「そこは同意だ。頼んだメカノリモン」

 

了解(ラジャー)

 

 景色を楽しむのもほどほどに、俺はメカノリモンの背中のブースターを点火させて飛び立ち、とりあえずデジモンを探し始めた。

 しかし行けども行けども荒野ばかりで、デジモンが生活しているような場所はどこにもなかった。

 

「う~ん、何もないな……ん?」

 

「右前方ノ地上ニデジモンノ生態反応ガ3ツアリマス」

 

「ようやくか……」

 

 飛び立ってから15分くらいしたころにレーダーにようやく反応が出た。

 俺はまずゆっくりとメカノリモンを着陸させ、反応があった地点まで徒歩でいって様子を見ることにした。

 反応があった地点に近づくつれて、そのデジモン達の会話が聞こえて来た。

 

「……嬢ちゃん、きれいな身なりしてるよな~。金とかいっぱい持ってんじゃねぇのか?」

 

「ちょっと俺達に恵んでくんねぇかな~? 最近妙な奴らのせいで稼ぎがねぇんだよ」

 

「ひぃ……あ、あ、あの、私……」

 

 会話を聞いてみると、2体が1体のデジモンに脅しをかけているようだった。

 岩場に隠れて様子を見ると、脅しているのはそれぞれ青と赤の体表を持ったオーガモンの亜種と思われるデジモンだった。

 青い体表のオーガモンには見覚えがある。

 たしかフリーズランドで出会ったヒョーガモンと言う名前のデジモンだったはずだが、恐らくあいつとは別個体になるだろう。

 一方脅されているデジモンの身なりは、このダークエリアには似つかわしくないものであった。

 純白の修道服とドレスを足し合わせたような服を着ていて、白ウサギをモチーフにしたであろう被り物をしている。

 声からして女の子のデジモンようだ。

 

「私、そんなにお金もってなくて……」

 

「安心しな。お前を売れば結構な足しになるはずだぜぇ」

 

「たしか俺達の棲家の北の方にでっけぇ館があったよなぁ。使用人とか雇ってそうだからそこに売れそうだよな」

 

「まぁ、このダークエリアにいる奴なんてどいつもこいつも碌な奴じゃねぇから、引き取られてからはタダ働きになるだろうがな。ギャハハハハ!」

 

「ひぃい!」

 

 白いデジモンの方は完全に怯えてしまっていて、一応武器とみられる三又の槍は持っているが、戦える状態ではなさそうだ。

 これを見捨てるわけにはいかないし、メカノリモンを動かして介入しよう。

 一応、俺の素性をダークエリアの住人に知られないように俺は喋らないようにしておく。

 もしかしたら選ばれし子供達のことがここにも伝わっていて、それが原因で突っかかってくるデジモンもしれない。

 ダークエリアには悪のデジモンが多く存在しているし、用心に越したことはないだろう。

 

「へっへっへ……ん? なんだぁ、お前は?」

 

「え?」

 

 ヒョーガモンが岩陰から姿を現したメカノリモンに対して怪訝な声を上げ、白いデジモンは新たに現れた俺達に対して驚いていた。

 俺はメカノリモンを白いデジモンとヒョーガモンの間に割って入るように動かした。

 

「あ、あの……」

 

「ヒーローきどりかぁ? うざってぇな……そうだろう、フーガモン!」

 

「あぁそうだヒョーガモン。中身がどこのどいつかは知らねぇが、たまたま拾ったメカノリモンを動かしたくらいで調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

 どうやらあの赤い体表で童話の鬼がはいているような虎柄パンツをはいているデジモンはフーガモンというようだ。

 その二体は俺とメカノリモンの行動が非常に気に入らないらしく、肩を回して戦闘の準備運動をしている。

 

「俺は青鬼、ヒョーガモン!」

「俺は赤鬼、フーガモン!」

 

「「覚悟しやがれぇ!!」」

 

 そして準備が終わるとこちらに飛び掛かり、ヒョーガモンは氷柱を、フーガモンは骨棍棒を振り抜いてきた。

 これは予測できた攻撃なので、慌てずに操縦をしてメカノリモンのアームで2体の攻撃をガードした。

 

「か、かてぇ!?」

 

 2体の攻撃はメカノリモンのアームに打ち付けられたが、鋼鉄の体を持つメカノリモンに傷をつけるには威力が足りなかったようだ。

 ヒョーガモンに至っては武器になっている氷柱にヒビが入り、それを見て呆然としている。

 こいつらが怯んだ隙に、こっちも攻撃をさせてもらおう。

 

「……≪ジャイロブレイク≫!」

 

「ゲェッハァ!?」

 

「ヒョ、ヒョーガモン!?」

 

 メカノリモンが放った鋼鉄の重量級パンチはヒョーガモンの体を打ち据え、そのまま体を浮かせて吹き飛び、地面に叩きつけられて動かなくなった。

 こいつら思ったより弱いな。

 

「て、てめぇ……ふざけやがって! 食らえ、≪イビルハリケーン≫!!」

 

 相棒をやられて激高したフーガモンは、骨棍棒を両手で持ってジャイアントスイングをするように回転し、コマのみたいに周りながら移動してきた。

 

「オラオラオラオラァ!!」

 

「きゃあ!!」

 

「!…っと危ない」

 

 フーガモンが体を張ることで威力が増幅された骨棍棒の威力は凄まじく、こん棒が近くの岩に当たるとその岩は砕け散り、その破片が勢いよく飛んできた。

 白いデジモンの方にも飛んできたので、メカノリモンの体を盾にして守る。

 石の破片を受けるくらいならメカノリモンの鋼鉄の体はビクともしない。

 しかし、今のフーガモンの状態で接近するのは危険だ。

 だけど、接近するのが危険なら近づかなければいい。

 

「≪デリートプログラム≫!」

 

「ギャハァ!?」

 

 メカノリモンのリニアレンズから数字列が出現し、それらがフーガモンを囲むと爆発を引き起こした。

 メカノリモンはハグルモンの頃から使えていた技を継承していて、≪フルポテンシャル≫も扱うことができる。

 爆発を受けたフーガモンはその破壊力満点の回転を止め、ふらついて大きな隙を晒してしまう。

 この隙を逃すほど俺は甘くない!

 

「≪ジャイロブレイク≫!」

 

「ゴ!?……ハァ」

 

 メカノリモンの拳はフーガモンの顔面に入り、フーガモンもヒョーガモンのように吹き飛ばされて気を失ってしまった。

 こいつらはオーガモンの亜種だからメカノリモンと同じ成熟期のはずだが、かなりあっさりと勝ってしまった。

 まぁ、体当たりといった方法ではあるが完全体のエテモンに力で押しかったから、普通の成熟期と違ってかなり強力なのだろう。

 

「あ、あの~……」

 

 2体の鬼型デジモンを無力化した後、メカノリモンの後ろにいた白いデジモンが恐る恐るといった具合に話しかけてきた。

 

「えっと、えっと……あぅ」

 

 話をするためにメカノリモンを振り向かせたのだが、白い少女デジモンは自分よりもかなり大きい体躯を持つメカノリモンに委縮してしまっているようだ。

 

「マスター、コノデジモンハワクチン種デス」

 

「ワクチン? なんでダークエリアに……」

 

「私達ノヨウニ事情ガアッテココニイルノカモシレマセン」

 

 メカノリモンが操縦席にいる俺だけに聞こえるように声を出し、目の前の白いデジモンを観察した結果を伝えてくれた。

 メカノリモンの言う通り、このデジモンは俺達と同じように地上から来たデジモンかもしれない。

 だったら俺の正体を明かしても問題ないな。

 俺はメカノリモンのハッチを開け、操縦席から身を乗り出して白いデジモンと相対した。

 

「よっと」

 

「え? あ、あなたがメカノリモンを操縦していた方ですか?」

 

「そう、名前は高倉信人だ。そっちの名前は?」

 

「わ、私はシスタモン ブランです。ブランと呼んでください」

 

 白いデジモン、シスタモン ブランは操縦席から出てきた俺を見て驚いたようだったが、こっちが自己紹介をすると普通に応じてくれた。

 

「あの、もしかして選ばれし子供達の方ですか?」

 

「選ばれし子供達のこと知ってるの?」

 

「はい、選ばれし子供達の事はロイヤルナイツのガンクゥモン様に聞きました。あ、今は「ナイツ」じゃないですね……」

 

 ブランは最初は誇らしい表情で語っていたが、何かに気が付くと気落ちして少し俯いてしまった。

 ガンクゥモン……たしか研究所のデータの中にあったな。

 デジタルワールドの平和を守る正義の騎士団、ロイヤルナイツの一員であり、デジタルワールド各地の異変や混沌の兆候を探して潰していたらしい。

 しかし1万年前の資料だから、ブランの言ったガンクゥモンと資料の個体が同一という事はないだろう。

 それにしてもロイヤルナイツか……そんな集団があるならどうしてこのデジタルワールドの危機に出てこないのか疑問に思っていた。

 ロイヤルナイツはデジタルワールドに必要な組織だと思うし、ワイズモンのように脈々と受け継がれていてもいいはずだ。

 その謎については、ブランの言った「ナイツ」ではないという言葉がカギになるかもしれない。

 

「聞きたいことが結構あるし、どこかゆっくり話せる場所はないか?」

 

「それでしたら、私が拠点にしている洞窟が近くにあります」

 

「問題がなければそこで話がしたいんだけど……」

 

「もちろん大丈夫です。でも、狭くてメカノリモンは中に入れませんけど……」

 

「ドウゾオ構イナク」

 

「わ!? このメカノリモンは自分の意思を持ってるのですね! さすが選ばれし子供のパートナーデジモンです」

 

「いや、俺は選ばれし子供じゃないんだけど……まぁ、そのあたりも含めて話をするか」

 

「? とりあえず案内しますね」

 

 俺はメカノリモンの操縦席に戻り、ブランの先導に従って不毛な大地を進み始めた。

 

 

 

 




信人君の後遺症発症とダークエリアに降りる話でした。
今のところデスクワークの時にしか出ませんが、戦闘の時にも影響が出る予定です。

感想批評お待ちしております。

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