デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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第26話 エテモンとの決着!

「……お、やっと地図が出た」

 

 俺が生きているコンピュータを探し始めて暫くして、何とかコンピュータの一部を復旧させることに成功し、この部屋の隠し通路のある場所をフリーズしていない別モニターに映し出すことができた。

 しかし、メインコンソールに大穴が開いているというのにまだ動く部分があるとは……デジタルワールドのコンピュータの耐久性は化け物だな。

 俺が探している内に外の陽動も終わったらしく、ついさっき外からの物音が止まった。

 

「ストライクドラモン、地図が出た。陽動も終わったみたいだし、急ぎで行動する」

 

「……分かった」

 

 部屋の中央で体を動かしていたストライクドラモンに声を掛け、一見何の変哲もない石壁に向かって歩く。

 この壁は今まで通ってきた隠し通路と同じようにただの見かけ倒しであり、普通に通り抜けることができる。

 そこを通り抜けると、石造りの狭い通路があり、そこを早歩きでずっと進んで行くと行き止まりとなった。

 

「おい、行き止まりだぜ」

 

「いや、ここはコンピュータで操作すると開いて別の部屋に行けるはずなんだ」

 

「じゃあ、何でさっき開けなかったんだ?」

 

「そこのところが死んでてな。まぁあの破損状況じゃ仕方ないが……というわけで、ここをぶっ壊してくれ」

 

「分かった………」

 

 ストライクドラモンが少し腰を落としてどっしりと構え、少し息を整えた後……

 

「……おらぁ!!」

 

 石壁に向かって勢いよく腕を振りぬいた。

 ストライクドラモンの手は人間のそれと決定的に違っていて、手にあたる部分に3つの鋭い爪が正三角形の頂点にあたるように配置してあるだけであり、戦闘に特化した作りになっている。

 その鋭利な爪のついた腕は石壁を貫通し、そこを起点にして壁に無数の罅が入り、ガラガラと音を立てて崩壊した。

 

「きゃあ、何!?」

 

「新手か!?」

 

「ん?空先輩と太一先輩?」

 

 崩れた壁の向こう、ストライクドラモンの背中越しに聞き慣れた声が聞こえた。

 ストライクドラモンの前に出て崩れた壁の向こう側の様子を見てみると、そこは俺が先ほどの部屋のモニターで映し出された、空先輩が拘束されていた部屋だった。

 映像と見た時と異なることは、空先輩が拘束されていた位置に大穴が開いていて、そこから何とも言えない禍々しい雰囲気が漂って来ていた。

 そしてここには空先輩と太一先輩、その後ろにはバードラモンがいたので、まさしく脱出する直前らしかった。

 

「あ、先輩ちょうどいい「信人君無事なの!!?」ふぁ!?」

 

 先輩達に声を掛けようとしたところで、空先輩がすごい勢いで迫ってきて俺の肩を掴んで勢いよく揺さぶった。

 

「私が分かる?どこか変なところはない?」

 

「ちょ、ちょっと空先輩!な、何でそんなに……」

 

 まじかに見る空先輩の顔はだいぶ憔悴した様子であり、目の回りは泣きはらして赤くなっているようだった。

 

「馬鹿な!?第一段階は完了していると向こうのコンピュータからが応答が……」

 

 声のした方向を見ると、目に光のない空先輩の足元にナノモンがいた。

 ナノモンの横にいる空先輩はコピー体だろう。

 この空先輩の様子とナノモンの言ったことから考えるに、ナノモンは空先輩に俺がどんなことをされたのか話してしまったようだ。

 余計なことを……ここで今の俺の状態を素直に話せば、先輩達に心配されてしまうし、助けが遅れたことに責任を感じて余計な重石を背負わせてしまう可能性もある。

 だったらここは……

 

「ちょ、空先輩、ストップストップ!!」

 

「……信人君、大丈夫なの?」

 

「ふぅ……実験の直前に、ドラコモンがストライクドラモンに進化してくれたんですよ」

 

 俺が後ろに後ろにいるストライクドラモンを示しながら話をし始めると、空先輩はとりあえず落ち着いて話を聞く姿勢となった。

 

「そこから間一髪のところで助けてもらったので、ナノモンの言ってた実験は受けてません」

 

「そんなはずはない、向こうからの応答ではたしかに……」

 

「あー、向こうのコンピュータな。悪いけど大穴開けちまって使い物にならなくなってるぞ。その応答とやらもエラーじゃないのか?」

 

「何だと!?……たしかに応答がない」

 

 ナノモンが慌ててコンソールを操作して確認を行うが、大きなモニターに映されたのは応答なしの一文だけであった。

 

「じゃあほんとに、何も……よかったぁ~…」

 

「ちょ、ちょっと空先輩……」

 

 話を信じて安堵した空先輩は、俺に抱き着いて涙声で俺の無事を喜んでくれた。

 この様子だと相当気を揉んでいたと思うから、今の状態とそれまでの経緯を素直に話したら、オーバーデル墓地での丈先輩のように今後の展開に影響が出ていたかもしれない。

 

「そうか、無事だったのか……ってこんなことしてる場合じゃないぞ、空!エテモンが直ぐそこまで来てるんだ!」

 

「う、ぐすっ……って、えぇ!?エテモンが来てるの!?」

 

「そうだ!はやくここから脱出するんだ!」

 

 太一先輩の言葉は空先輩にとって寝耳に水だったらしく、バッと俺から飛び退くと途端に慌てだした。

 たしかに今はこうしている場合ではなく、壁一枚挟んだところにエテモンが迫ってきているはずだ。

 早く脱出しなければならない。

 

「分かりました。ストライクドラモン、こっちに……?」

 

 俺がストライクドラモンに声を掛けながら振り向くと、ストライクドラモンの様子がおかしかった。

 

「……ッ…」

 

 ストライクドラモンはナノモンの方に顔を向け、体を僅かに震わせている。

 どうも俺の声は届いていないようだ。

 

「おい、聞こえて……」

 

「……ォ」

 

「?」

 

「……ォォオオオオ!!」

 

「お、おい!?」

 

 ストライクドラモンが急に雄たけびを上げたかと思うと、ナノモンの方に一直線に向かって行き、先ほど壁を貫いた拳をナノモンに向けて放った。

 

「!、何をする!」

 

「キエロ、ウィルス!!」

 

 ナノモンはこの攻撃を間一髪で躱し、ストライクドラモンの爪は床に深く突き刺さった。

 

「ちょっと、今は戦ってる暇なんてないでしょ?」

 

「あぁ。信人、あいつを止めてくれ!」

 

「は、はい!ストライクドラモン、戻ってこい!!」

 

 俺はストライクドラモンに向かって強めの口調で命令してみたが、ストライクドラモンは敵意を収める気は全く無いようだ。

 というかそもそも聞こえているかどうかが怪しい。

 

「ストライクドラモンは普段は心優しいけど、ウィルス種のデジモンを見ると相手が塵になるまで戦うのをやめないって聞いたことがあるわ」

 

「何だって?じゃあ今のストライクドラモンは……」

 

「信人君の指示を受け付けないってこと?」

 

 バードラモンからストライクドラモンの特徴について俺達に説明してくれた。

 あのカンストした「正義」っていう数値は、このことを現していたようだ。

 ストライクドラモンはナノモンになおも猛攻を仕掛け、ナノモンは避けるのに精いっぱいであり、このままでは攻撃が当たるのも時間の問題だ。

 まったく厄介な展開に……!

 

「な、何か後ろから音が聞こえます」

 

「後ろ?後ろは俺達が通ってきた隠し通路があって、エテモンの足止めのために光子郎とグレイモン達が戦っているけど……」

 

 後ろからメリメリっという音がしたので、太一先輩と一緒に後ろの壁を見てみると、徐々にヒビが入って行く箇所があった。

 

「く、崩れるわよ!壁から離れて!」

 

 空先輩の声を聞いて俺達が壁から離れた途端、壁を何かが突き破ってこちらの部屋に土煙を巻き上げながらダイナミックに入って来た。

 突っ込んできた影は二つ、一つはナノモンとストライクドラモンの間に入る様に転がっていき、もう一つの影は俺の目の前で停止した。

 

「ゴホゴホッ……な、何だ?」

 

「ソノ声……マスター?」

 

「その声、メカノリモンか!」

 

 土煙の中から姿を現したのは、外で待っているはずのメカノリモンだった。

 

「お前、何でここまで来たんだ?」

 

「マスターガ心配ダッタノデ、独断ナガラ救出ニ参加シマシタ。ピラミッド内部ノ戦力ハ陽動ニヨリホボ外ニ出テイタノデ、正面突破デ問題ナカッタデス」

 

「いや、通路の狭さとか……」

 

「石造リダッタノデ、壊スノニハサホド困難デハアリマセンデシタ」

 

 結構無茶苦茶するなメカノリモンは……しかしちょうどいいところに来てくれた。

 メカノリモンが居ればストライクドラモンを止めることが……あれ?そうえばストライクドラモンの方に転がっていった影はなんだ?

 

「いったぁ~……まさか体当たりなんてしてくるとは思わなかったわ~」

 

「「エ、エテモン!?」」

 

 なんと突っ込んできたもう一つの影の正体はエテモンだった。

 どうやらメカノリモンはエテモンに体当たりをぶちかまして壁を突き破ってきたようだ。

 つまり、状況はさらに混沌としたものになったという事か。

 

「う~ん?見慣れない奴がいるわね。誰よあんた?」

 

「……オマエモ、ウィルス」

 

「はぁ?当たり前でしょ?あちきは悪の花道を行くキングオブデジモンのエテモン様だよ!ウィルスじゃなかったら、カッコつかないじゃない!」

 

「……ウィルスハ、コロス」

 

「ハッ!上等じゃない。あちきに敵うと本気で思ってるのかしら?でもいいわ、かかってらっしゃい!」

 

 ストライクドラモンは割って入って来たエテモンにターゲットを変えたようだ。

 ストライクドラモンがエテモンに向かって飛び掛かり、二体の戦いは格闘戦となった。

 まずはストライクドラモンの先制攻撃、鋭い爪を使った強烈な突きをエテモンの腹に向かって繰り出すが、エテモンはこれを腰を難なく躱し、ストライクドラモンの顔にカウンターパンチを放つ。

 

「甘いわ!」

 

「グルオォ!」

 

「ぐふ、何ですってぇ!?」

 

 エテモンのカウンターが当たると思われたとき、ストライクドラモンは突きを放っていた腕をそのまま横に振り、エテモンの横っ腹に叩きつけた。

 エテモンはこれで体勢を崩し、カウンターは失敗に終わった。

 

「グオオオ!!」

 

「いぃ!?」

 

 今度は体勢を崩したエテモンの顔に向かって鋭い3つの爪が迫る。

 エテモンはこれを首を少し傾けることで躱し、振りぬいた爪はエテモンの後ろにあったコンソールを貫いた。

 ストライクドラモンの腕はコンソールに深々と突き刺さっていて、あれを食らえばエテモンと言えどただでは済まなかっただろう。

 そこからはパンチと回避の押収であった。

 ストライクドラモンがパンチを繰り出せばエテモンはカウンターを狙い、そのカウンターをまたストライクドラモンが崩す。

 もちろんその逆もあり、お互いに一歩の退かない状況が数十秒続いたが、さきに打撃を与えたのは……ストライクドラモンだった。

 

「グオオオオ!」

 

「ふん!今度こそカウンターを……」

 

「ォォオオオオ!!」

 

「な!?足、ゲフゥ!!」

 

 ストライクドラモンが頭に放ったパンチをエテモンはしゃがむことで躱したが、そこにストライクドラモンの蹴りによる追撃がヒットした。

 エテモンは咄嗟に腕を体の前で交差させてガードしたが、足に付けてあるメタルパーツによって攻撃力が上昇した蹴りの衝撃を殺し切ることができず、壁のすぐ前まで吹き飛ばされた。

 

「ぐ、ぐふ…ふざけんじゃないわよ、≪ダークスピリッツ≫!」

 

 エテモンは距離が取れたことを利用して、暗黒エネルギーを球体上にして打ち出す遠距離攻撃を始めたが、ストライクドラモンはそれに構わず追撃を加えるために最高スピードで突っ込んでいく。

 結局エテモンが放った暗黒エネルギーがストライクドラモンに当たることはなく、戦いの最中に無防備に立っていた空先輩コピー体に流れ弾が当たって消滅させるだけに留まった。

 

「キエロ!!」

 

「な!?あっぶな!!」

 

 ストライクドラモンはトップスピードのままエテモンに懐に突っ込み、それぞれの爪の先端を合わせた渾身のパンチを繰り出したが、エテモンはそれをギリギリで躱し、ストライクドラモンのパンチはエテモンの後ろの壁に打ち付けられた。

 

「グルゥ!?」

 

「ちょっと、こんなもんが当たったら洒落にならないじゃない!」

 

 ストライクドラモンの放った腕は三分の二程度が壁の中に埋まっていて、しかもその周りにヒビがほとんどないことから、先ほど放ったパンチの貫通力が凄まじいことを物語っていた。

 しかしその威力が災いし、壁に埋まった片腕が使えないストライクドラモンはエテモンに大きな隙を見せてしまうことになった。

 

「ふぅん!お返しよ!」

 

 エテモンは腕を抜こうとしているストライクドラモンの背中に回り込んで尻尾を掴んだ。

 そして力強く引っ張り、それによって腕を解放されたストライクドラモンを振り回し始めた。

 所謂ジャイアントスイングと言う技だ。

 

「そぉれい!!さらに、≪ダークスピリッツ≫!」

 

 そしてエテモンはストライクドラモンを自分の反対側の壁に投げ飛ばし、そして落下地点に向けて暗黒エネルギーを放った。

 しかしストライクドラモンもこのままでは終わらない。

 飛ばされている最中、ストライクドラモンは足や尻尾を床に何度か打ち付けて体勢を立て直し、最後にはバク天のような動きをしてエテモンの暗黒エネルギーを躱した。

 そして体勢を立て直した後、先ほどと同じように突っ込んでいく。

 

「グオオオオオ!!」

 

「上等だわ!!」

 

 エテモンも同じように駆け出し、部屋の中央で激突した。

 

「ぬぅん!!」

 

「オオオオ……!!」

 

 二体はお互いの手を掴みあい、戦いは正面からの力比べという様相を呈した。

 そして驚くことに、お互いの力は拮抗していた。

 ちょうどこの時に、崩れた壁の向こう側から先ほどエテモンと戦っていた泉先輩が追いついてきた。

 

「太一さん、これはどういう状況ですか?」

 

「光子郎か!ドラコモンから進化したストライクドラモンが信人の言う事を聞かなくなっちまったんだよ」

 

「何だって!?進化して言う事を聞かなくなるなんて……でも、すごい。あのエテモンと力は互角だ」

 

「だけど、今のストライクドラモン……すごく恐いわ。まるでスカルグレイモンみたい」

 

 今のストライクドラモンはエテモンに対して殺気や敵意を剥き出しにしていて、とても好感がもてるような状態ではない。

 ストライクドラモンとエテモンの力比べは数十秒の間続いたが、それは外部からの乱入で終わりを迎えた。

 

「隙ありだエテモン!≪プラグボム≫!」

 

「ハッ!あんたの考えてる事なんてお見通しなのよ!」

 

「グウゥ!」

 

 今まで戦いから離れていたナノモンがエテモンの背中に向かって必殺技を放ったが、エテモンはこれを予測しており、サッとその場から飛び退いてこの攻撃を躱した。

 外れた攻撃はエテモンと相対していたストライクドラモンに向けて飛んだが、ストライクドラモンは四つん這いの姿勢をとってこの攻撃をやり過ごし、結局ナノモンの攻撃は壁にあたって少し壁を崩すだけであった。

 そしてナノモンの横やりによりエテモンとストライクドラモンの間に距離が空き、戦いの間に一拍の休息ができた。

 

「!、今しかない!メカノリモン!」

 

了解(ラジャー)

 

 俺はメカノリモンの操縦席にアームを伝って滑り込むように乗り込み、操縦をオートからマニュアルに切り替えて素早く操縦に移った。

 狙うのは……ストライクドラモンだ。

 こちらに背を向けていたストライクドラモンに急接近し、メカノリモンのアームで羽交い絞めにして動きを止めた。

 後ろからの攻撃を全く予想していなかったのか、ストライクドラモンをあっさりと捕えることができた。

 

「!?、ハナセ!!」

 

「誰が放すか!先輩達、脱出しましょう!」

 

「あ、あぁ!みんな逃げるぞ!」

 

 俺と太一先輩の声を合図にして、俺達は当初の予定通り、脱出するために一斉に踵を返して出口へと向かって行った。

 

「ってえぇ!?ここで逃げんの!?」

 

 エテモンはこちらの行動が予想外だったらしく、初動が遅れてしまい驚きの声を上げるだけで追ってくることはなかった。

 帰りはこのピラミッド内部の壁や天井をぶち壊しまくって、道を作りながら外を目指した。

 ストライクドラモンは最初は暴れていたものの、出口に近づくにつれて冷静さを取り戻して行ったらしく、今は抵抗を全くしていない。

 

「いけぇ―!グレイモン!」

 

「≪メガフレイム≫!」

 

「やった!外に出ましたよ!」

 

「みんなもいるわ!心配かけてごめーん!」

 

 何枚か天井や壁を破ると、外の景色を見ることができた。

 陽動を行っていた先輩達もこちらに向かって来ていて、俺と空先輩の無事を喜んでくれているようだ。

 合流を果たした俺達は進化しているデジモン達に乗って逆ピラミッドから離れ始めたが、暫くしてピラミッドから大きな引力が発生した。

 

「な、何が起こっているんだ?」

 

「こちらが逃げるには、好都合です」

 

「グオオオウ!」

 

「こら、暴れるな!」

 

 俺達はなんとかこの引力に逆らって進むことができたが、黒いケーブルを繋がれてピラミッドの周囲を守らされていたティラノモンやモノクロモン、そしてガジモン達は逆らうことができず、ピラミッドの中へと吸い込まれていく。

 できれば何とかしてやりたかったが、引力が発生した時点でストライクドラモンがまた暴れだしたのでそれどころではなかった。

 俺達がピラミッドから離れてから暫く経つと、ピラミッドがどす黒い光を放って崩壊する。

 しかしそれだけでは終わらなかった。

 

「アッハッハッハッハ!あちきがこれくらいの事でやられると思ってるの?」

 

「エ、エテモン……」

 

 ピラミッドの瓦礫の中から姿を現したのは、黒いケーブルが球体上にまとまったモノであった。

 その上にはエテモンが居て、下半身はその球体と融合してしまっている。

 あの黒いケーブルはダークネットワークを形作る暗黒の力の中心部であり、さっきの引力もあれによって発生したものだ。

 たしかそれに触れればデータとして分解され暗黒の力の糧となったはずだ。

 ナノモンがあれを暴走させてエテモンを道ずれにしようとしたが、エテモンは逆に暗黒エネルギーを吸収してあのような姿になった。

 

「グオオオオオオオオ!!ハナセ、アレヲコロス!」

 

「だから暴れるな!あの状態だと近づくだけでやばそうだから!」

 

 その邪悪な姿を見たストライクドラモンはまた暴れだして戦おうとするが、さっきも言ったとおりあれは触れた物を吸収する性質があったはずだから、接近戦特化のストライクドラモンじゃ分が悪すぎる。

 

「≪メテオウィング≫!」

「≪メガブラスター≫!」

 

「あ~ら、肩こりにはちょうどいいわ。これが代金よ!≪ダークスピリッツ≫!」

 

「「うわあ!?」」

 

 カブテリモンとバードラモンは果敢に攻撃を仕掛けたが、その攻撃は暗黒エネルギーの根源によって吸収されてしまい、そのお返しとして放たれた暗黒エネルギーにより弾き飛ばされてしまう。

 後方に飛んで行った暗黒エネルギーが着弾すると、その空間が渦を巻くようにして歪みはじめた。

 エテモンはその攻撃を乱発し、俺達が通ってきたスフィンクス像に着弾して逃げ場までもなくなってしまった。

 

「このままだとこの世界が滅茶苦茶になるわ!」

 

「でも、僕らじゃ敵いっこない」

 

 先輩達はエテモンの強大な力を前にして弱気になりつつあった。

 しかし、太一先輩だけは違った。

 

「いや、まだ一つだけ方法がある……行くぞグレイモン!」

 

「分かった!」

 

 太一先輩だけは弱気にならず、力強い声でグレイモンに呼びかけると、そのままエテモンに向かって突っ込んで行った。

 

「見て!太一さんの紋章が光ってるわ!」

 

 走っていく太一先輩の手には紋章が握られていて、その紋章から以前とは違って綺麗な光を放っている。

 

「ハッ!無駄だって言ってるでしょ!」

 

 エテモンは走ってくるグレイモンに対して暗黒エネルギーを放ち、それを受けたグレイモンは仰向けになって倒れる。

 

「最後まで諦めるなグレイモン!」

 

 しかし太一先輩の戦意が衰えることはなく、力強い声でグレイモンに絶対に諦めないようにと言った。

 その太一先輩の戦意に応えるようにして、紋章の光が強くなっていき、さらにデジヴァイスも輝き始めた。

 

「太一の勇気がボクの体に……力が漲ってくる!」

 

 そしてその二つの光がさらに強くなり、グレイモンの体も進化の光に包まれた。

 

「グレイモン、超進化!!―――――メタル、グレイモン!!」

 

 グレイモンの左腕と頭、そして胴体の一部が鋼鉄でコーティングされ、背中には6枚の細い羽が生えて、グレイモンは完全体のメタルグレイモンへと進化した。

 

「すごい、あれが……」

 

「グレイモンの正しい進化なのか?」

 

 ヤマト先輩と丈先輩は力を漲らせるメタルグレイモンの姿を見て驚きの声を上げた。

 

「ちょっとぐらい進化したからって、あちきに敵うはずないでしょう?」

 

 エテモンは進化したばかりのメタルグレイモンに向かって暗黒エネルギー弾を放ったが、メタルグレイモンは機械化した左腕を縦に一閃してそのエネルギー弾を両断して防いだ。

 

「何ですって?」

 

「今度はこっちから行くぞぉ!」

 

 攻撃を防いだメタルグレイモンはエテモンに向かって突進し、そのままエテモン下部のダークネットワークの塊に体当たりをぶちかました。

 エテモンはその体当たりによって大きく後ろに飛ばされて怯んだ。

 

「ぬぅ!?よくもよくもぉ!!踏みつぶしてくれるわぁ!!」

 

 飛ばされたエテモンはその巨体をゆっくりとメタルグレイモンへ向けて移動させる。

 激高するエテモンに応えるようにして、ピラミッドから脱出するときに発生した引力が強くなっていった。

 それまで空中にいた俺とメカノリモン達だったが、操縦に影響が出始めたので着陸し、先輩達も伏せてその場から動かないようにしている。

 しかしここでメタルグレイモンの体が光を放ち始めた。

 

「何あれ……メタルグレイモンが光ってる!」

 

「あれは光のエネルギー、聖なる力だよ!」

 

 トコモンが言うにはメタルグレイモンに宿った光は聖なる力によるものらしい。

 メカノリモンのモニター越しからでもメタルグレイモンのパワーが高まっていくのが分かった。

 

「≪ギガ・デストロイヤー≫!!」

 

 その状態のメタルグレイモンの胸部から二つのミサイルが発射され、エテモンのダークネットワーク部分に着弾し、エテモンの巨体を覆い隠すほどの大きな爆発が巻き起こる。

 その爆発は空間にも歪みを引き起こし、ダークネットワークを中心にして歪みの渦が発生し、これに融合しているエテモンも渦に引き込まれていく。

 

「消えたくない…!あちきは大スターなのよ!?なんでこんなところでええええぇぇぇ!!?」

 

 エテモンは空間に引き込まれる際に辺り一帯に響く断末魔を上げ、空間の歪みの中に引きずり込まれていった。

 そしてそれはエテモンにだいぶ近づいていた太一先輩とメタルグレイモンも例外ではなかった。

 爆発後に発生した空間の歪みからくつ引力に太一先輩とメタルグレイモンは堪えることができずに、空間の歪みの中に吸い込まれていってしまった。

 先輩達は太一先輩の名を呼びながら呆然とした様子でその場で立ちつくしている。

 俺はその中で、メカノリモンのアームに捕えられているストライクドラモンに目を向けた。

 ストライクドラモンはエテモン消滅と同時に大人しくなり、今は消沈したように俯いている。

 そして消え入るような声で、

 

「……すまない」

 

 と呟いた。

 

 

 




これでエテモン編は完結となります。
次からは太一が帰った後のデジタルワールドの話になります。
とは言ったのの、信人君はかなり早い段階で単独行動する予定です。

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