デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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第23話 エテモン軍団強襲!

「ソウデス、ソノママ操縦桿ヲユックリ右ニ……」

 

「おーけーおーけー」

 

「コレデ空中デ曲ガレマス。機体ガ曲ガル瞬間ニエンジン出力ヲ大キク上ゲレバソノ場デ急速旋回、スピンターンガ出来マス」

 

「それは戦闘じゃあ必須技術になりそうだな……」

 

 現在俺はピッコロモンの結界内部にあるジャングルの上空で飛行訓練を行っていた。

 ……ここまで来るのにかなり時間が掛かってしまい、もうすでに空は赤く染まっているが、俺はまだ基本飛行の練習の最中だ。

 メカノリモンの操縦には色々ボタンを押さなければいけなかったり、計器の指す数字の把握が必要だったりとかなり複雑だった。

 何とかある程度把握はできたが、それでも俺は通常飛行がやっとの状態、これでは戦闘飛行などもっての外だ。

 単独行動の時に飛行訓練もしないとな~とか思っていると、階段を上っている先輩達の姿が見えた。

 

「お、先輩達が手を振ってくれてるな」

 

「コチラモライトヲ点滅サセテ応答シマスカ?」

 

「そうだな」

 

 こちらがメカノリモンのライトを点滅させて応答すると、これに気付いた先輩達はまた手を振ってくれた。

 ピッコロモンは静観していたが、暫くすると先輩達に進むように促して先輩達は歩くことを再開した。

 

「ん?ミケモンの家の方で煙が上がっているな」

 

 空中の様子を観察すると、ミケモンの家から細く白い煙が上がっているのが見えた。

 

「狼煙ノヨウデス」

 

「あぁ、そうえば飛び立つときに狼煙が上がったら戻ってこいとか言ってたな」

 

「戻リマショウ」

 

「あぁ……ところでさ、着陸の仕方って……」

 

「……説明シマス」

 

 結局俺がミケモンのところに戻るのは30分後ぐらいになった。

 

……………

………

……

 

「……遅い」

 

「う、すいません……」

 

 俺は何度も着陸にトライして、やっとの思いで着陸することができたが、ミケモンから告げられた言葉は辛辣だった。

 

「空陸両用なら、臨機応変に戦場を変えることも視野に入れるべき。着陸と離陸を敵は待ってくれない」

 

「あぁ、分かった。それと、ドラコモンはどこに?」

 

「……あれ」

 

「あれって……」

 

 ミケモンの指し示す方向を見ると、そこにはぼろ雑巾のような姿で倒れ伏しているドラコモンがいた。

 ミケモンにあれ呼ばわりされたドラコモンはどうやら今は眠っているみたいで、ミケモンに食って掛かることはなかった。

 

「ず、随分きつい指導をしたみたいで……」

 

「私は何もしていない、あれが突っ込んできただけ」

 

 ミケモンとドラコモンが戦っていたバトルフィールドに目を向けると、ドラコモンの足跡はそこかしこにあるのだが、ミケモンの足跡は一定の範囲内にしか見られない。

 ミケモンはほとんど動いていないという事なのだろう。

 しかもミケモンの体に傷はなく、それはドラコモンの攻撃を長時間の間完璧にいなしたということに他ならず、そのことからもミケモンの実力の高さが窺える。

 

「あなたを呼んだのは食事の用意ができたから。あれを起こして休憩に入って」

 

「ん?ミケモンは一緒に食べないのか?」

 

「私といるとあれがご飯をおいしく食べれない。私はもう食べたから、ごゆっくり」

 

 言うが否やミケモンはジャングルの中へと姿を消し、俺とメカノリモンはそれを見送ると地面に突っ伏して寝ているドラコモンを起こそうとした。

 

「お~い、ドラコモン。飯の時間だ」

 

「う、う~ん。あれ、俺は……!あいつはどこだ!?」

 

「ミケモンならもういないよ。それより疲れているだろ?」

 

「あぁ!?俺ならまだ戦え「ぐぅ~」……」

 

「……その状態でか?」

 

「~~~!」

 

「飯はこっちだ。ミケモンにやられたのが悔しかったら、とりあえず万全の状態になることだな」

 

 俺がご飯が用意されている場所を教えると、ドラコモンはすっ飛んで行ってしまった。

 あの状態のドラコモンはよく食べそうだし、俺の分の飯がなくなると困るので慌ててドラコモンの後を追ってミケモンの家に入った。

 

 案の定、疲れ果てていたドラコモンの食欲は凄まじかった。

 

「ガツガツガツッ!」

 

「……お前、どこにそんなに入るんだよ」

 

 ただドラコモンの食欲だけではなく用意された食事、いや食料の量も凄まじかった。

 俺に用意された分はきちんと料理された見事な和食であったが、ドラコモンのご飯は最低限の火を通した肉や魚が丸ごと置いてあるだけだった。

 しかし量だけは山になるほどあり、ドラコモンはその食料の山をみるみる消費していく。

 ちなみにメカノリモンの食事なのだが、メカノリモンに進化してからは口がないので食料によるエネルギーの補給ではなく、エネルギーデータをロードすることで補給するらしい。

 エネルギーデータとは石油や電力、天然ガスなど、とりあえず現実世界でエネルギーとして使われている物質についての情報を持つデータのことだ。

 そのデータはデジタルワールドでは現実世界と同じ物質で見えるらしく、メカノリモンの食事として大量の石炭が庭の一角に置いてあった。

 最初は面を食らったものだが、メカノリモンの説明を聞いて俺もようやく納得した。

 今メカノリモンは庭で石炭から取り出したエネルギーデータのロードを行っており、本人が言うにはこれだけあれば当分の間動くことができるという。

 

「んぐ、んぐ……よっしゃー!食い終わった!」

 

「全部食べやがったよ……」

 

 いつの間にかドラコモンは食べるペースを上げて、あの食料の山を完食していたようだ。

 

「さて、あいつを探しに行くか」

 

「待てドラコモン。組手の最中にミケモンが何か言ってなかったか?」

 

「ん?あぁ言ってたぜ!あいつ、もっと敵の動きをよく見ろとか、動かずに相手の出方を窺う戦い方を覚えろとか、戦ってる最中にごちゃごちゃうるせぇんだよ」

 

 なるほど、ミケモンはドラコモンをただ単にぼろ雑巾にするだけじゃなく、いろいろとアドバイスをしてくれていたらしい。

 ……あの惨状だとまったく活かされていないようだったが。

 

「なぁ、ドラコモン。戦い方を変えてみないか?」

 

「戦い方って、まさかあいつの言う通りにするってのか?」

 

「お前も薄々分かってるだろ?今の突っ込むだけの戦い方じゃミケモンに勝てないって」

 

「………」

 

 最初は俺の提案に嫌そうに答えたドラコモンだったが、俺が核心をついた発言をすると閉口してしまった。

 どうやらドラコモン自体もそのことは薄々感じていたらしい。

 

「お前は見かけによらず結構器用なところがあるから、ああいう戦い方もできると思うぞ」

 

「……信人が言うなら、考えとく」

 

 それだけ言うとドラコモンはミケモンを探すためにジャングルの中に走って行った。

 ドラコモンは別に突っ込むことだけしかできないというわけではなく、ライアモン戦の時は砂煙に隠れて後ろをとったり、グレイモン戦のときはハグルモンが打ち出した歯車を足場にして追撃を加えるなど、結構器用なことを戦闘中にやってのけている。

 ドラコモンの猪突猛進な戦い方は性格が色濃く出ているだけであり、意識すればいくらでも戦い方を変えられるはずだ。

 ミケモンは今回の修行でそれを指導してくれるようだ。

 

「さてと、ドラコモンはミケモンに任せるとして……そうだ、ウィッチモンと通信でもするか」

 

 俺はリュックの中に入れていた黒猫通信機を取り出し、裏面にあるスイッチを入れた。

 最初は画面は乱れて映らなかったが、暫くすると画面にはっきりとウィッチモンの顔を映し出した。

 

『あら、意外と連絡が遅かったわね』

 

「ちょっとこっちで色々あってな」

 

『そう?で、要件は何かしら?あまり無茶な要求は受け入れられないわよ』

 

「とりあえず1つだけ約束してほしいことがある。選ばれし子供達に協力してくれ」

 

『あら、やっぱりあの子たちが噂に聞く選ばれし子供たちなのね。エテモンが血眼になって探してたから気になっていたのよ』

 

「そうえばウィッチモンはエテモンの手下ってわけじゃないんだよな」

 

『あら心外。あんなサルに私が捕まるはずないじゃない』

 

 たしかにあの飛行技術だったら飛ぶすべを持たないエテモンに捕まらないだろうし、攻撃だって当たらないだろう。

 

『それでさっきの返答だけど、私に依存はないわ。約束してあげる』

 

「ありがとう、助かる」

 

『何でもするって言ったのは私の方だし、これくらいならお安い御用よ。それで、何か具体的にしてほしいことはあるかしら?』

 

「実は他にも協力してくれるデジモンがいるとうれしい。これから厳しい戦いになるだろうし、味方は多い方がいいからな。誰かいないか?」

 

 とりあえずウィッチモンには仲間を集めてのもらおう。

 ウィッチモンは箒で飛べるからかなり広い範囲を行動できるから、様々なデジモンに会うことができるはず、もしかしたら友人も多いのかもしれない。

 しかしこれを聞いたウィッチモンは気まずそうに目を逸らしていた。

 

『あぁ~、仲間ねぇ……』

 

「何かまずいことでもあるのか?」

 

『私って故郷から出てきて間もないから、交友関係が……』

 

「あぁそうなのか。故郷って遠いところにあるのか?」

 

『私の故郷は別次元のデジタルワールド、ウィッチェルニーというところなの。でもちょっと理由があって帰れなくなっちゃたのよ』

 

 別次元デジタルワールド……02で出てきたダゴモンの海みたいな感じか?

 たしかにそれだと簡単に帰れそうにないし、ウィッチモンの様子だと他にも帰れない理由があるみたいだ。

 

「故郷の知人も頼れない……なるほど、今はぼっちというわけか」

 

『ぼっ!?そ、そりゃあ故郷でも友達が多いほうじゃなかったけど、それでも本気になれば友達の二人や三人くらい直ぐにできるわよ!ただ研究以外に興味がちょっと持てないだけで……』

 

 その後も私の研究を理解しない奴は嫌だとか、私の興味を引かない話題をする方が悪いだのと色々言い訳はするのだが、それはウィッチモンに友達ができない原因は自分にあるという事を暴露しているのに他ならなかった。

 これは新しく仲間を集めてもらうことは期待できそうにないな……

 

「あー、お前の言い分は分かった。とりあえず今は何もしなくていいや」

 

『ちょっと何よ、その期待はずれでしたって顔は!?いいわ、やってあげる!見てなさいよ、友達百人作ってほえ面かかせてあげるんだから!』

 

「あ!おい!」

 

 むきになったウィッチモンは通信を一方的に切ってしまった。

 ウィザーモンの関係とかあの研究所のこととか色々聞きたいことはあったのだが……まぁ仲間を集めてくれるって言ってたし、期待せずに待っておくか。

 

「さてと、寝るまでに時間あるからもう少し飛行訓練と行きますか」

 

 その後庭で食事を終えていたメカノリモンと一緒に飛行訓練を再開した。

 予定していたよりも熱が入ってしまい、かなり夜遅くまで練習してしまったが、そのおかげで離陸と着陸の時間がか大幅に短縮でき、飛行スピードも中々速くなってきた。

 満足して戻った時に休息も大事だとミケモンに言われてしまったが、中々飛ぶのがうまくなってきたとお褒めの言葉ももらった。

 ちなみに先に屋敷で寝ていた(というより気絶していた)ドラコモンは夕方よりもボロボロだったが、ミケモンの体に土が付いていたり小さな傷があるところを見ると、ドラコモンの修行の成果はそれなりに出ているようだった。

 俺は帰ってきてから風呂に入り、その後に寝室となる和室に案内され、日本式寝具を使ってその日の疲れを取るために眠った。

 

……………

………

……

 

「………うぅん?朝か……」

 

 和室に敷かれた布団の中で目を覚ました俺は、まだ眠りたいという体に鞭を撃ってさっさと飛行訓練を始めるための準備をする。

 飛行スピードが速くなったとはいえ、スピンターンやループ軌道など戦闘に必要な技能はたくさんある。

 今日で全ては習得できないだろうが、とりあえずスピンターンだけは形だけでもできるようになりたい。

 準備が終わってあとは庭で待機しているはずのメカノリモンに乗るだけとなり、外に出るために縁側にでたところで、庭に誰かがいるのが見えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 それはドラコモンとミケモンだった。

 両者は距離をとってお互いの出方をジッと窺っていて、攻撃またはカウンターのチャンスを待っている。

 

「………ふっ!」

 

「!!」

 

 意外にも先に動いたのはミケモンの方で、持ち前の俊敏性を発揮してものすごいスピードでドラコモンに迫り、勢いのあるのパンチを繰り出した。

 

「…!もらったぁ!」

 

「!?、はぁ!」

 

「おわ!?チィ!」

 

「……今のは危なかった」

 

 しかしドラコモンはミケモンのスピードに対応し、ミケモンのパンチを身を捻って紙一重で躱し、その強靭な顎でミケモンの肩に噛みつこうとした。

 そのカウンターはきれいに入るかと思われたが、ミケモンはパンチを放った手をそのまま水平にドラコモンに振り、裏拳のような攻撃で反撃を行った。

 ドラコモンは慌てて顔を引いて攻撃を避けると、反撃が成功しなかったことに対して悔しげに舌打ちをした。

 

「……ここまで。食事の準備をしないといけない」

 

「……チィ、しゃぁねぇな」

 

「食事は一時間後になる。それまでには戻って」

 

 どうやらこの早朝鍛錬はここまでのようだ。

 ドラコモンは何かのトレーニングにするためのなのか、訓練が終わるとジャングルの中に走って行った。

 

「あなたも訓練するなら、一時間後までには戻って」

 

「分かった。ドラコモンの調子はどうだ?」

 

「……素晴らしいポテンシャルを持っている。もう少し修行の時間が取れれば……化ける」

 

「ベタ褒めだな」

 

「彼には言わないで。彼は調子に乗る性格」

 

「よ~く分かってるよ。一応パートナーなんだ」

 

「……いいパートナーを持った」

 

 それだけ言うとミケモンは食事を作るために台所に向かって行った。

 ミケモンから見てもドラコモンは良い成長をしているようで、ドラコモンへの呼称が「あれ」から「彼」に変わっているところをみると、ミケモンもドラコモンを認め始めているようだ。

 

 ミケモンと軽く会話をした後、俺は軽く飛行訓練をして、一時間後にミケモンの家に戻って朝食をとり、また直ぐに飛行訓練を再開した。

 当初の予定通り、今はスピンターンの練習をしている。

 詳しいやり方やコツは朝食前の訓練でメカノリモンから教えてもらったが、エンジンの出力を上げるタイミングが中々掴めず、直角に曲がるようになったりきちんと後ろを向かないなど、まだまだ失敗が多かった。

 

「難しいな……ん?あれは泉先輩とヤマト先輩か?」

 

「ソノヨウデス」

 

 飛行訓練中にふと下の様子を見ると、ジャングルの中を歩いている泉先輩とヤマト先輩が見えた。

 先輩達が歩いている位置は結界のだいぶ端のあたりになるので、もう直ぐティラノモン襲撃のイベントが起こるだろう。

 

「結界ノ外ニ出ルヨウデスガ……」

 

「紋章でも探し行くんじゃないのか?」

 

 メカノリモンと会話している内に泉先輩達は結界の外に出て行ってしまい、俺はそれを見届けると飛行訓練を戻った。

 そうえば原作ではピッコロモンはティラノモンをグレイモンに倒してもらいたかったはずだが、その時に俺はどうすればいいんだろうか?

 戦える状態なら戦うのが普通の考え方だと思うが……ピッコロモンから直々に頼まれるのだろうか?

 

「……レーダー探知、結界ノ外ニ複数ノデジモンノ反応デス」

 

「複数……?」

 

 暫く飛行訓練をしていると、メカノリモンから結界の外にデジモンがいるという警告を受けた。

 しかしメカノリモンが言うにはそのデジモンは複数だといい、レーダーをこちらの方で確認してみると、たしかに結界の外に複数の反応があった。

 原作ではたしかティラノモン一匹だったはずだが……

 

「うお!?爆発?」

 

「外カラノ攻撃デス。結界ガ破ラレマシタ」

 

 急に聞こえた爆発音のした方向を見ると、たしかに結界に大穴があき、その中から大慌てで泉先輩とヤマト先輩が走ってきた。

 そして先輩達を追うようにして、黒いケーブルに繋がれた赤い体の恐竜型デジモン、ティラノモンが結界の中に入ってきてしまった。

 しかし入って来たのはティラノモンだけではなかった。

 

「空中二反応2、地上ニ大キナ反応1、ソノ他比較的小サイ反応ガ多クアリマス」

 

「何か……多い!?」

 

 何とか喉元まで来ていた増えているという言葉は抑え込んだが、それでもこの予想外の事態に俺は驚愕を隠せなかった。

 この展開になる原因となるような行動は思い当たらないが……あれか?船の大炎上が目立ち過ぎて、警戒が強化されたのだろうか?

 まぁ何にせよ俺の先ほどの心配は杞憂に終わるようだ。

 逆に原作通りになる様に余計なデジモンを排除しなければならない。

 ティラノモンが通ってきた大穴を暫く眺めていると、ティラノモンに続いてわらわらとデジモン達が入って来た。

 地上にいる小さな反応というのはどうやらガジモン達のようで、10匹くらいが結界の外から入ってきていた。

 空中に目を向けると、青い蛇のような体に赤い翼をつけ、白い頭と角を持つデジモンがジャングルの上空を飛んでいた。

 あのデジモンはたしかエアドラモン、02でデジモンカイザーが移動手段にしていたデジモンだった。

 このエアドラモンも以前に戦ったグレイモンと同じように黒いケーブルが首に巻かれていて、エテモンに操られているようだ。

 

「飛行型デジモンガコチラニ向カッテ来マス」

 

「よし、あいつらの相手は俺達がしよう。下の小さい奴は……」

 

「ガジモン達ニハ異変ニ気付イタドラコモントミケモンガ向カッテイルヨウデス。レーダーニ反応ガアリマス」

 

「あいつらに任せておけば大丈夫だろう。あっちも待ってくれないだろうしな」

 

「「シャアアアア!!」」

 

「おっと、あぶねぇ!」

 

 下の様子見ている隙に2体のエアドラモンはかなり接近していて、文字通り牙を剥いてメカノリモンに襲いかかってきた。

 まずはエンジンの出力を大きく上げて急上昇することでこの攻撃を躱し、小回りしてエアドラモンの後ろを取ろうとした。

 

「うわ、あっちの旋回性能やばいな……」

 

 しかし俺が機体を反転させるころにはすでにエアドラモン達はこちらに向き直っていて、またこちらに向かって突っ込んできていた。

 

「≪トゥインクルビーム≫!」

 

 突っ込んでくるエアドラモンの内の1体に、メカノリモンがリニアレンズから発生させた赤いビームを放つが、エアドラモンは急上昇してこれを躱した。

 それでもその1体は攻撃を諦めて一旦距離をとるためにそのまま上昇していき、残りの1体はそのまま突っ込んできたが、これも難なく躱してエアドラモン側の攻勢は一旦終わりを迎えた。

 

「さっき上昇していった奴を狙うぞ!」

 

了解(ラジャー)!」

 

 俺は後方に飛んで行った奴はとりあえず置いておき、正面にいて狙いやすい位置にいるエアドラモンを追いかけることにした。

 こちらに気付いたターゲットにされたエアドラモンは距離を取るためにスピードを上げるが、付いていけないことはない。

 少しエンジンの出力を上げて逃げるエアドラモンを追いかけながら、後方にいるはずのエアドラモンの位置をレーダーで確認する。

 よし、もう一匹はだいぶ距離があるから、後背をつかれることはない。

 

「シャアアアアア!!」

 

 エアドラモンは逃げきれないと判断したようで、こちらに向き直って大きな翼を羽ばたかせて竜巻と風の刃を発生させた。

 

「ソノママ操縦桿ヲシッカリ握ッテ、機体ガ風ニ流サレナイヨウニシテクダサイ」

 

「わか…った!」

 

 機体がエアドラモンによって発生した風で流されそうになるが、メカノリモンの指示に従って機体を安定させるために操縦桿を握る手に力を込めた。

 鋼鉄のボディ越しに何かを激しく切りつけるような音が聞こえるが、機体ダメージを現すメーターを見ると、そこまでダメージは受けていないようなので、このまま突っ込んでも問題ないだろう。

 エアドラモンの作り出した嵐の中を突破すると、そこには技の膠着で動けないエアドラモンが目の前にいた。

 

「≪ジャイロブレイク≫!」

 

「ギシャアアアア!?」

 

 この隙を逃さずに放たれたメカノリモンの重量級パンチを頭部にまともに受けたエアドラモンは飛行姿勢を崩してジャングルの中に墜落した。

 とりあえず1匹は仕留めたが、まだ後ろにもう1匹いる。

 レーダーを確認してみると、1匹を仕留めている間にもう1匹のエアドラモンはかなり距離を詰めて来ていたが、この距離ならばスピンターンをするとエアドラモンを真正面に捉えることができて、≪トゥインクルビーム≫によるカウンターが狙えそうだった。

 ちらりとダメージメーターを確認すると、まだまだメカノリモンの体力には余裕があり、次の攻防で削りきられることはないことが分かった。

 もしスピンターンが失敗してエアドラモンの攻勢に晒されたとしても、まだ挽回のチャンスは取れそうだ。

 だったら多少のリスクは目を瞑ってでもチャレンジすべき!

 俺は決断するや否や、まず操縦桿を右に思いっきり傾け、そしてタイミングを計ってエンジンの出力を大きく上げた。

 

「くぅ!……よし!」

 

 僅かに遠心力を感じた後に正面カメラの映像を映すモニターを見ると、カメラはしっかりとエアドラモンの姿を捉えていた。

 どうやらスピンターンは成功したようだ。

 メカノリモンはきれいに180°回転し、画面の向こうのエアドラモンはいきなりこちらを向いたメカノリモンを見て驚いているようだった。

 

「≪トゥインクルビーム≫!」

 

「ギ、ギシャアアア!?」

 

 この隙をメカノリモンが逃すことはなく、驚愕して体を膠着させたエアドラモンにすかさずビームを命中させ、体の動きを止めたエアドラモンは先に落ちた1匹と同じようにジャングルの中へと姿を消した。

 

「ふぅ~」

 

「初メテノ空中戦ニシテハ、満点ダト思イマス」

 

「ありがとな。地上はどうなっている?」

 

「ティラノモンカラ逃ゲテイタ泉サント石田サンハ他ノ子供達ト合流シマシタ。ガジモン達ヲ相手ニシテイルミケモントドラコモンハ、敵ヲ圧倒シテイマス」

 

 なるほど……普通に考えればティラノモンの方に援護に向かうべきなのだが、それだと太一先輩とアグモンの成長の機会がなくなるな。

 とりあえず何かと理由をつけてドラコモンの方へ向かうか。

 

「ん?あれは……」

 

「黒イケーブルガ結界ノ外カラ入ッテキタヨウデス」

 

 ドラコモン達がどこにいるかレーダーで確認している最中に、黒いケーブルが地面から伸びて、ジャングルに咲いていた木よりも大きい巨大アサガオに巻き付いたのが見えた。

 その後すぐにかなり騒がしい感じの音楽が大音量で流れてきて、イントロが終わるとエテモンの歌声が辺り一帯に響き渡った。

 エテモンの≪ラブセレナーデ≫が始まったようだ。

 それと同時にメカノリモンのエンジンの出力がガクッ落ちてしまい、飛行を維持するのが困難になった。

 

「おい!?どうしたメカノリモン!?」

 

「音響ニヨルウィルス攻撃ヲ確認。エンジンノ出力ガ低下シマス!」

 

「ウィルス攻撃なら、ワルシードラモンが霧を吐いた時みたいに何とかならないか!?」

 

「メカノリモンニ進化シタ時ニ、ハグルモンガ持ッテイタコンピュータウィルス制御機構ヲ失ッタノデ対抗ガデキマセン」

 

「そうなのか!?だったら、着陸しないと駄目だな!」

 

 俺は重くなった操縦桿を力一杯操作して、何とか着陸態勢を作り出そうとした。

 割と高度があって体勢を整える時間が取れたので、着陸体勢をとることができたものの、エンジンが不調なので減速は不十分だった。

 

「うおおぉ、ぐぅ!?……いってぇ」

 

「大丈夫デスカ?」

 

「何とかな……」

 

 何とか着陸することはできたが、減速が不十分だったの結構な衝撃がコックピットに伝わってきた。

 周りを見てみると、どこかの植物の密集した場所に着陸したらしく、メカノリモンの体を背の高い草や木ががすっぽりと隠してしまっているみたいだ。

 

「前方ニガジモン達ニ囲マレタドラコモンガイマス」

 

「ほんとか?」

 

 正面カメラが草に塞がれてしまっているので、辛うじて草から頭を出しているドーム状の半透明ハッチから外の様子を伺うと、たしかにメカノリモンが言ったとおり、ミケモンとドラコモンがガジモン達に囲まれている姿が見えた。

 俺が着陸したことになぜ気付かないのかと思ったが、辺りにはエテモンの歌声が大音響で響き渡っているので、俺達が立てた物音が聞こえなかったようだ。

 

「観念しろ!俺達はエテモン様の歌を聞き慣れてるからへっちゃらだが、お前らはそうじゃないだろう?」

 

 ガジモンがエテモンの歌声に負けない大声でドラコモン達に言った。

 ドラコモン達の様子を見ると、脂汗をかいてジッとしているのでガジモンの言う事は本当だという事が分かった。

 

「よし、援護をす……?」

 

「ドウシマシタ?」

 

「ミケモンから、手を出すなって合図が来た」

 

 ミケモンは俺達に気付いていて、構えをとるフリをしてこちら側に手のひらを向けて制止するようなジェスチャーを行った。

 

「へへ、さっきやられた分のお返しだ!」

 

 ガジモンの大声を皮切りに、ミケモンとドラコモンそれぞれに3体のガジモンが飛び掛かかり、それと同時に背中合わせだったドラコモンとミケモンが動き出して、お互いの背中にある程度空間をあけた。

 ドラコモンはまず一番前に来ていたガジモンをビーム弾で迎撃、次に目の前に来たガジモンのひっかき攻撃を横に移動することで躱し、ガジモンの横っ腹に尻尾を叩きつけてダウンさせた。

 最後のガジモンは、繰り出した突きをドラコモンに上体を逸らすことで躱され、そのまま繰り出された腕を噛みつかれてしまう。

 そしてドラコモンは咥えたガジモンの腕をさらに引っ張り、バックドロップ気味にしてガジモンを地面に叩きつけた。

 対するミケモンだが、まず最初に来ていたガジモンを着地の膠着を狙って放ったパンチで一撃でKOし、真横で仲間が崩れ落ちるのを驚愕しながら見ていたガジモンに、体を一回転させて勢いをつけた裏拳を顔面に食らわせて沈めた。

 最後に怒りにまかせて大振りで爪を振り下ろしてきたガジモンの腕をとり、一本背負いの形でミケモンの後ろに叩きつけようとした。

 そこには先ほどドラコモンが投げたガジモンがダメージから立ち直ろうとしているところであり、ミケモンは一本背負いしたガジモンをそのガジモンの上に叩きつけた。

 これで投げられた二匹のガジモンは完全に気を失って戦線から離脱し、それまでに迎撃した4匹のガジモンもダメージが大きくて動けないようだ。

 

「何だかんだで息が合ってるな……ドラコモンもむやみに動かずに相手の出方を窺ってる」

 

 仲間を一瞬で6匹も無力化されたガジモン達も慎重になり、またミケモンとドラコモンも辺りに響きわたっているエテモンの≪ラブセレナーデ≫がうるさくて攻勢に出られず、両者は膠着状態に陥った。

 この間にガジモンの数を数えてみると、倒れていた奴も合わせて15匹いるようだ。

 残り9匹のガジモンはドラコモン達を取り囲んでジッとしている。

 このままの状態が長く続くと思われたその時、辺りに大きな爆発音が響き渡り、それと同時にエテモンの歌声が止まった。

 どうやらグレイモンが来てくれたようだ。

 

「な!?エテモン様の≪ラブセレナーデ≫が……」

 

「……これでようやく暴れられるぜ」

 

「「「へ?」」」

 

「覚悟しろやああぁぁ!!」

 

「「「ひぃ!?」」」

 

 歌が止み終わった途端、ドラコモンはガジモンの包囲網の中に突っ込んでいき、そこからはドラコモンの大立ち回りが始まった。

 それは以前の戦い方と全く同じであり、今朝や先ほど見せた静かな戦い方はかけらもなかった。

 

「……何のための修行だったんだよ」

 

「いや、あれでいい」

 

「おう!?……何時の間にこっち来たんだよ、ミケモン」

 

 もっと戦いをよく見ようと思ってハッチを開けて戦いを眺めていたところ、いつの間にかガジモンの包囲網から抜け出していたミケモンがメカノリモンの肩に立ちながら声を掛けてきた。

 

「彼の性格を考えると、ああやって力で押す戦い方が最適。修行で覚えた私みたいなカウンターを狙う戦い方は、苦手な相手と当たった時にやればいい」

 

「そういうものか?」

 

「そう。それに、今の戦い方にも影響が出ている」

 

 ミケモンに促されてドラコモンの大立ち回りに目を向ける。

 ガジモン達はドラコモンに圧倒されてはいるが、それでも反撃をしないわけではなく、隙を見て攻撃をするガジモンもいた。

 しかしドラコモンはそれが死角からの攻撃であろうとも、きっちりと尻尾で対応して迎撃する。

 

「あれは敵の動きをしっかりと把握して、次の行動を予測してるからできた迎撃。私との組手の成果はきっちりでてる」

 

「なるほどね……また一段と強くなったってわけか」

 

「そう。今の状態でこれなのだから、進化した後が楽しみ」

 

「そうだな。で、ミケモンの見立てではあとどれくらいで進化しそうなんだ?」

 

「何かきっかけがあればすぐにでも進化する」

 

「きっかけ?あいつは何時も進化したいって言ってるけど、それじゃ駄目なのか?」

 

「ドラコモンはすべてのドラモン系デジモンの祖であると聞く。それは全てのドラモン系デジモンに進化できる可能性を秘めていると同時に、明確なイメージか指向性がなければ体がどの種に対応して進化したらいいか分からなくなる」

 

「明確なイメージ……?」

 

「ドラコモンにハグルモンがメカノリモンに進化したときのことを聞いた。あれはたぶん、あなたを守りたいというイメージが具現化した進化」

 

 なるほど、ハグルモンは危なくなった俺を守りたいと思ったから、俺を操縦席に入れることで守れるメカノリモンに進化したというわけか。

 あの時はウィッチモンに対抗するために飛行技術も必要だったし、俺を守れるという条件もクリアできるメカノリモンは最適の進化だったというわけか。

 

「そうなのか?」

 

「ハイ」

 

「……相変わらずストレートだな……でもうれしいよ」

 

 眼下にいたメカノリモンに真意を聞いてみると、何時かと同じようにストレートに返してきて、何だか照れくさくなってきた。

 

「えっと……ドラコモンにはそのイメージがないってことだな?」

 

「そう。そのことに関しては、私は何も言っていない。進化は戦い方よりもずっと重要なことだから、彼が自分で決めるべき」

 

「これでラストオオオォォォ!!」

 

「いやああああぁぁぁぁぁ………」

 

 ミケモンと進化の話をしていたところで、話のタネになっていた当の本人が暴れ終わったらしい。

 最後のガジモンは横っ腹を思いっきり噛みつかれた後、そのまま空の彼方に投げ飛ばされてしまった。

 残りのガジモン達も白目をむいてダウン、これでは当分起きそうにない。

 

「あぁ~、すっきりした。お、そっちも終わったのか?」

 

「あぁ、こっちはだいぶ前にな。それにしても、修行をした甲斐があったじゃないか」

 

「……癪だけどな」

 

 ドラコモンはミケモンを見て苦々しそうに呟くが、一応修行で力が付いていることは認めているらしい。

 と、ここでミケモンがメカノリモンの肩から飛び降りてドラコモンと向き合った。

 

「な、何だよ?」

 

「いい成長をした」

 

「はぁ!?」

 

「攻勢に移れない中でのカウンター狙いの戦い方、そして最後の乱戦での敵の位置を把握した立ち回り……短い間でよくものにしてくれた」

 

「な、な、な………」

 

 どうもこのミケモンもメカノリモンと同じようにストレートな物言いを好むようだ。

 予想外のミケモンの賛辞にドラコモンはタジタジ、若干照れてしまって顔も赤くしている。

 

「でもあなたは調子に乗る性格」

 

「………は?」

 

「これに浮かれて努力を怠らず、戦いで慢心しないように。あなたの性格を考えるとそれが心配」

 

「…………」

 

 しかしストレートなもの言いは賛辞だけではないことは、今までの会話から分かっていた。

 ミケモンに直すべきところをこれまたストレートに指摘されたドラコモンは、上げてから落とされたこともあって照れて赤くした顔を今度は怒りでさらに赤くしていく。

 

「あと、投げ技が甘い。歌が聞こえて来た後に投げたあの1匹はまだ立ち上がれた。私が追撃していなかったら余計な手間が掛かってた。反省するように」

 

「………俺」

 

「何?」

 

「やっぱりお前のこと嫌いだああああああ!!」

 

「……知ってる」

 

 

 

 




ドラコモンの進化がやっと近づいてきた。
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