デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供 作:noppera
お気に入りの数ももうすぐ900を突破しそうで、ほんとうれしい限りです。
「マスター………進化デキルカモシレマセン」
「え!?本当か!」
ウィッチモンに対しての有効な攻撃方法が思いつかない時に、ライトアップされていた鉄塔を見たハグルモンが急にそう言ったのだ。
もしそれで本当に進化できるとしたら、今の手詰まりの状況を打開できるかもしれない。
「トリアエズ、アノ鉄塔マデ移動シマス」
「分かった。泉先輩は……」
「僕も行きます。無事に辿りつけるようにカブテリモンに援護してもらいましょう」
「ありがとうございます。行くぞドラコモン!」
「あ、あぁ分かった」
何故かハグルモンを見て呆けていたドラコモンに声を掛けて、俺達は結構距離のある鉄塔に向かって走って行った。
「あ~ら。どこに行くつもり?」
「くっ!カブテリモン!」
「光子郎はんの邪魔はさせまへん!」
「あら、鬱陶しい羽虫。まずはあなたから始末してあげるわ!」
行動を起こした俺達を不審に思ったウィッチモンは箒に座って追いかけてきたが、カブテリモンがウィッチモンの進路を遮って援護してくれた。
ガルルモンや他の先輩達も俺達が行動を起こしたのに気付いてこちらに来ようとしているのだが、一面に広がる炎のせいでなかなか進めないようだ
「そうはさせない!≪メテオウィング≫!」
「そんな攻撃じゃ当たらないって言ってるでしょう?これだから鳥頭は困るわ~」
「くぅ!」
さらにバードラモンも必殺技を放ちながら戦闘に加わってくれるが、ウィッチモンはこれも躱してしまい、さらには煽る余裕もあるみたいだ。
「いい?あたしはライバルに勝つために日夜飛行訓練を重ねて、最高のバランス感覚とスピード感覚を手に入れたの。進化してたまに飛ぶようなあなた達にあたしが負けるはずないの」
ウィッチモンは飛行技術は長年の訓練で身に着けたらしく、たしかに特別な訓練を受けていないカブテリモンとバードラモンでは太刀打ちできないだろう。
「そうだわ。あなた達があたしを撃墜することができたら、許してあげてもいいし、何でもいう事を聞いてあげてもいいわよ?ほら、だからもっと必死になりなさい?」
ん?今、何でもするって言ったか?
「あいつ、なめやがってぇ!」
「落ち着けドラコモン!今は鉄塔に向かうのが先決だ!」
ウィッチモンは自分の飛行技術に絶対の自信を持っているようで、まるで自分が負けることは絶対にないような条件を提案してきた。
……何でもするって言ったし、ここで勝てたら選ばれし子供達に協力してもらうように言ってみるか。
ウィッチモンがいれば相当な戦力になるし、これくらいは聞いてくれるだろう。
そうえばあいつウィザーモンがどうのこうの言ってたけど、もしかして原作に出てきたウィザーモンを知っているのだろうか?
だとしたら俺の知っているウィザーモンの情報も武器になるか?といってもヴァンデモンの城にいるってことしか知らないけど。
「あ~ら、よそ見してると危ないわよ!」
考えごとをしていたのがまずかったのか、危うく爆弾フラスコが直撃するところだった。
「うわっと!危なかった……」
「信人!お前こそ何やってんだ!」
ドラコモンの叱咤に対して手ですまないという事を伝えながら、俺達は鉄塔に行く道を急いだ。
そしてバードラモンとカブテリモンの援護の甲斐もあり、ウィッチモンからの攻撃は何とか爆弾フラスコ数発を投げられるだけに留まり、無事に鉄塔の側まで来ることができた。
「あら、よくできました。ここで何するかは知らないけど、まずはこのうるさい素人達を片付けてから遊んであげるわ」
ウィッチモンはこちらを馬鹿にする言葉をを言った後、空高くへと舞い上がって行き、カブテリモンとバードラモンもそれを追って急上昇していった。
鉄塔の根元には黒猫印がついた巨大なサーチライト4機が鉄塔をライトアップしており、サーチライトにはエネルギーを供給しているらしい配線が砂の下へと伸びていた。
「どうするんだハグルモン?」
「サーチライトニ繋ガッテイル配線ヲ切断シテクダサイ」
「分かった、ドラコモン!」
「おう!こいつを噛み千切ればばババババ!?」
「おい大丈夫か!?」
「は、はは……た、大したことねぇぜ……」
俺がハグルモンの指示に通りにするため、ドラコモンに頼んで配線を切ってもらおうとしたが、ドラコモンが配線に噛みついたところ、配線は噛み千切ることができたもののドラコモンは感電して目を回してしまった。
「ハグルモン、どうするつもり何ですか?」
「サーチライトニ供給サレテイルエネルギーヲスベテ吸収シマス」
「これって……黒くて体に悪そうな色してますよ」
「……大丈夫なのか?」
ドラコモンが目を回すほどのエネルギーなのだから、結構強力なものだと思うのでこれを吸収するとなると結構危険な気がするのだが……しかもこの配線から漏れ出るエネルギーは黒い色をしているからより一層心配になる。
「今ノ体ナラ……少々不安ハ残リマスガ進化スルタメノエネルギーガアレバ進化デキルハズデス。ソレニ、私ハコノエネルギートハ相性ガヨサソウナノデ成功スル確率ハ高イデス。ドウシマスカ?」
「……信じていいんだな?」
「モチロンデス」
ハグルモンは何時もの表情ではあるが、その目からはたしかな決意が感じられ、俺に判断を仰いできているものの、その目は頼むからやらせてくれと言っているように見えた。
ハグルモンはマシーン型デジモンで主の命令には忠実だから、俺がやめるように言えばやめてくれるだろう。でも……
「……分かった。ドラコモン、残りのケーブルは焼き切るんだ!」
「……アリガトウゴザイマス」
この状況を打破するにはこれに賭けるしかないし、何よりハグルモンの決意を無碍にしたくはなかった。
その決意が今まで俺に忠実に従ってくれたハグルモンのはじめてのわがままのような気がしてならず、初めて見せてくれたその心に応えたくなったから、ハグルモンの提案にGOを出した。
それにハグルモンは以前、今の自分は手に入らなかったものを手にいれているような気がすると言っていた。
今ハグルモンの提案を却下すれば、そのハグルモンが手にいれているものに傷がつく気がしてならなかった。
「ケーブル切ればいいんだろ?分かってるぜぜゼゼゼゼ!?」
「ドラコモン!?焼き切れっていっただろ!」
「こ、こんなこと大したことないって言っただろ!時間がねぇんだからこっちの方がいい!」
言うが早いかドラコモンは黒いエネルギーを浴びながらも、残り2機のサーチライトの配線を噛み千切っていった。
「アババババ!……よ、よっしゃー、これでいいんだろう、ハグルモン?」
「ドラコモン……」
「ほら、さっさと進化してあの胸糞わりぃ女を撃ち落とせ!」
「……アリガトウ、ゴザイマス」
本来、進化したいと強く願っていたのはドラコモンのはずだ。
ハグルモンが進化できるかもしれないと言ったときに呆けていたのも、先に進化されるのが悔しいと思っていたのかもしれない。
しかしその思いを押し殺して、ドラコモンはハグルモンのために自分の身を顧みずに準備を整えてくれた……まったく、俺はいいデジモンに恵まれたもんだ。
「少シ離レテクダサイ……デハ、ハジメマス!」
ハグルモンは切断された4つのケーブルをすべて口にくわえて、エネルギーの吸収を始めた。
「ギギギギギギギ!!」
「がんばれハグルモン!」
エネルギーの吸収を始めると、ハグルモンの歯車の回転速度は急速に加速し、さらにハグルモンの体に黒いオーラが漂い始めた。
泉先輩はほんとに大丈夫なのかといった表情で俺を見てくるが、俺はハグルモンならやってくれると信じていた。
「あらあら~。なんかおもしろいことしてるじゃない?」
「ウィッチモン!?カブテリモンは!?」
しかしまだハグルモンがエネルギーを吸収している途中なのに、ウィッチモンがカブテリモンとバードラモンの二匹を退けて戻ってきてしまったようだ。
「あの羽虫と鳥頭なら、あそこよ」
「光子郎は~ん。力になれなくてすんまへん……」
「ごめん……足止めできなかった」
ウィッチモンの指し示すのは俺達の真上の鉄骨で、そこには心底疲れ果てた言う様子でテントモンとピヨモンがへたり込んでいた。
「テントモン!?」
「それにしても、危ないわよそれ~。あたしでも電力ぐらいにしか使い道がなかったんだから」
「あんまり俺のパートナーを舐めるなよ。あいつは絶対やってくれるって信じてる!」
「あらそう。でも暴走されたりしたら困るから、ここで始末してあげるわ!」
ウィッチモンはハグルモンに手のひらを向けて、何かの技を放つようだ。
まだハグルモンのエネルギー充填は終わりそうにないし、ドラコモンも配線を切った時のダメージで動けない……どうする!?
「さようなら。≪アクエリー……「≪ハープーンバルカン≫!」あら?」
ウィッチモンが技を放とうとした瞬間、ウィッチモンの後方から飛んできたミサイルにより中断せざるおえなかったようだ。
そのまま攻撃が当たればよかったのだが、ウィッチモンは箒を急上昇させてその攻撃も避けた。
「信人、光子郎!大丈夫か!」
「あら、うるさいのが増えちゃったわね」
ウィッチモンの後方からやってきたのはイッカクモンに乗った丈先輩と太一先輩、ガルルモンに乗ったヤマト先輩にタケル、そしてトゲモンに運ばれた空先輩とミミ先輩だった。
どうやら炎が収まったのでこちらに来ることができたようだ。
「皆さん、少し時間を稼いでください!ハグルモンが進化しようとしています!」
「進化って……それで大丈夫なの?」
「それは……」
「大丈夫です!!」
口ごもる泉先輩と空先輩の恐れるような声を俺が大声で遮った。
先輩達は昨日のスカルグレイモンに進化しているのを見ているから、今のハグルモンの進化状況を心配しているのだろう。
たしかに黒いオーラで包まれているハグルモンの姿は俺も心配だが、いつもきちんと仕事をこなしてくれたハグルモンなら今回もきっちりやってくれるはずだ。
「……とりあえずハグルモンに賭けるしかない!ガルルモン、援護してやってくれ!」
「分かった!≪フォックスファイアー≫!」
「イッカクモンも頼む!」
「オッケー!≪ハープーンバルカン≫!」
「丈先輩にヤマト先輩……ありがとうございます!」
今までハグルモンを見て動かなかった先輩達だったが、俺の声をにいち早く応えてくれたヤマト先輩を筆頭に援護射撃をしてくれた。
「こんな攻撃、いくらしたって無駄だって言ったでしょ?」
ウィッチモンへ攻撃は当たらないものの、今はこれだけで十分だ。
ウィッチモンは回避するだけで攻撃には移れない、これならハグルモンが進化する時間を……
「ふふ、回避しかできないと思ってる?」
「!?」
ウィッチモンは意味ありげな言葉を言った後、ハグルモンの上を指で示し、俺がハッとなりながらハグルモンの頭上に顔を向けると、あの爆発するフラスコが浮いていた。
今は進化の途中で不安定の状態だから攻撃を受けたらどうなるか分からない。
それを認識した瞬間、俺は弾かれたようにハグルモンに向かって走り出した。
「!!、ハグルモン!!」
「おい信人!?待てよ!」
「あ!?待ってください信人君!」
「だから攻撃しても無駄って言ったの。今度こそさよならね」
フラスコが浮力を失ってゆっくりと落ちてくる。
しかし、これなら間に合うと俺は思った。
これならハグルモンを突き飛ばして守ってやれる!
「ぐぅ!?」
しかしもう少しと言ったところで、俺の足は漏れ出したエネルギーから走る電撃を受けて勢いが削がれてしまう。
これでは一緒に攻撃圏外に脱出するのは無理……しかもたどり着けるかも怪しい。
だがもう俺はフラスコの爆発圏内に入ってしまっている。
……こうなればやることは一つだけ、ハグルモンに覆いかぶさって守ってやるしかない!
「ハグルモオオン!!」
「この馬鹿野郎!!」
俺がハグルモンに覆いかぶさると同時に、背中から聞きなれた罵声が聞こえて来た。
ドラコモンまで付いてきてしまったらしい。
パートナーを危険に晒すなんて俺も駄目な奴だと思いながら、電撃の痛みよりも強烈な爆炎から来る痛みを歯を食いしばりながら待っていたその時……
「!?」
「な、何だ!?」
ハグルモンから滲み出ていた黒いオーラが、これまで進化するときに発せられていた白い輝きに変わり、闇夜を切り裂いて光り輝いた。
「ハグルモン、進化―――――!」
白い輝きがどんどん大きくなり、何と俺とドラコモンを包み込むまでになってしまった。
そこで俺は困惑する。
本人が進化だと言っていたのだから、進化には間違いないのだがなぜ俺達まで取り込まれるのだろうか?
そしてそう疑問に思った直後だった。
「!!、爆発か!?」
「で、でも何ともねぇぜ?」
俺の頭上で爆発音が聞こえたが、視界は進化の光で覆い尽くされていてどうなっているのか全然わからない。
とりあえず俺とドラコモンは無事なようだが……
そして爆発音が収まると、徐々に光が収まって視界が戻ってくる。
「……え?どこ、ここ?」
「知らねぇよ」
視界が戻って顔をめぐらせると、俺がいる場所は屋外ではなく、俺とドラコモンが入って少し余裕が出るくらいの狭さくらいの空間だった。
周りはコンソールやら小さなモニター、さらに操縦桿らしきものがある……どうやら何かのコックピットのようだった。
上を向くと、ドーム状になっている窓らしきものを通してそびえ立つ鉄塔が見える。
どうやら他の場所に移動したというわけではなさそうだ。
「全システム起動……全ク無茶シマスネ」
「ハグルモン!?どこにいるんだ?」
ハグルモンはこの空間の内部から声を掛けてきているようだが、この狭い空間にもう一匹デジモンがいるなら気が付かないはずがないので俺はどういうことかと思って首を捻った。
「マスタートドラコモンハ今、私ノ操縦席ニイマス」
「お前の……操縦席?」
「ソウデス。今ノ私ハ―――――メカノリモン、デス」
メカノリモン……その名前は聞いたことがある。
たしか原作でダークマスターズの手下のデジモンの1体として登場したデジモンだ。
メカノリモンの中にはバケモンが入っていて、そのバケモンに操縦されて動くというかなり特殊なデジモンだったはずだ。
原作では若いころのゲンナイさんがバケモンを操縦席から追い出して乗っ取って操縦したり、02でもデジモンカイザーが乗って操縦しているから人間にも操縦できるはずだ。
それがハグルモンの進化したデジモン、メカノリモンの俺が覚えている限りの概要だった。
そして俺はメカノリモンの操縦席にいて、ここにいたから俺とドラコモンもあの爆発から逃れることができたようだ。
「無事に進化できてよかった……けどさ、状況的に俺が操縦しないと駄目なの?」
メカノリモンは誰かが操縦して動くはずであるが、いきなり俺に操縦しろと言われても……俺の気持ちとしてはしっかりと操縦してやりたいのだが、まだ自転車にしか乗ったことのない俺にとっては荷が重すぎる。
前世だって車は免許取ったばかりだったのに……
「御心配ナク。ドコカニ「オートモード」ト書カレタボタンガナイデスカ?」
「え、えーっと……ドラコモン、そっちにないか?」
「う~ん……お、こいつか?」
ドラコモンがメカノリモンに指示されたボタンを押すと、一斉に周りのメーターやらコンソールが動きだし、俺の正面にあったモニターも映った。
「あらあら、また一段と無骨な姿になったじゃない。生意気にも飛行ユニットまでつけちゃって……可愛い可愛い雛鳥ちゃん?」
そこにはウィッチモンが余裕しゃくしゃくと言った様子で箒に座っている姿が映し出されていた。
「このくそ女……おいハグル、いやメカノリモンか。さっさとこいつを倒しちまおうぜ!」
「ハイ。ソレモウィッチモンガ絶対ノ自信ヲ持ッテイル空中戦デ……」
ドラコモンがそう言うと背中から何かに点火するような音がして、さらにエンジン音がどんどん大きくなっていくのが分かった。
そして暫くすると、だんだん画面に写る視界が高くなっていった。
どうやらメカノリモンが垂直に飛び始めたようだ。
「……雛鳥ちゃんが大きく出たものね。だったら付いてきなさい!その根拠のない自信、叩き潰してあげるわ」
画面の向こう側のウィッチモンはかなり不機嫌な表情をしながら箒を急上昇させて画面からあっという間に消えていった。
たしかにウィッチモンの気持ちは分かる。
今まで地面で生活していて、そして進化して飛べるようになったメカノリモンは、長年飛行訓練を積んできたウィッチモンから見ればまさに雛鳥だ。
そんなメカノリモンが空中戦でウィッチモンを倒すと言ったのだから、ウィッチモンが機嫌を損ねるのは当然だ。
そして当のメカノリモンもまだウィッチモンを追いかけずに空中に制止しているようだ。
「……飛行記録ロード……ロード完了。バランスデータロード……ロード完了」
「おい、大丈夫なのかメカノリモン」
「飛行ニ必要ナデータノロードニ時間ガ掛カッタダケデス。間モナク戦闘飛行ニ移リマス……デハ、Scramble!」
「うお!?」
メカノリモンの掛け声と共に俺の体を軽いGがかかり、そして外の景色が目まぐるしく変わっていくのが見えた。
どうやらかなりのスピードで上昇しているようだ。
そして先ほど急上昇したウィッチモンに直ぐに追いつき、またその姿をモニターに映し出すことになった。
「あら、スピードだけはいいわね。でもスピードだけじゃあたしには付いて来れないわ!」
ウィッチモンが弾かれたように動き出すと同時に、メカノリモンもスピードを上げてウィッチモンの後を追った。
前を行くウィッチモンはゆらりゆらりと左右に箒を振るかと思ったら、次の瞬間には急激に曲がったりしてメカノリモンを撒こうとするが、メカノリモンは離されるどころかウィッチモンの飛行コースを先読みして最短距離で迫り、逆にその差は縮まった。
正面のモニターにウィッチモンが少し驚く顔が映し出された。
「あら。雛鳥のくせに少しはやるじゃない。じゃあこれはどう?」
言うが否や画面のウィッチモンは急上昇して画面から消えてしまった。
と、思いきや……
「な!?うわあぁあ!?」
「おおう!?」
メカノリモンもまた急上昇し、その後で天地が引っくり返るような感覚に陥った。
そんな中でも画面を何とか確認すると、画面外に出たはずのウィッチモンの後姿を捉えていた。
ようやく妙な感覚が解け、冷静になって考えるとウィッチモンとメカノリモンは宙返りをしたという事が分かった。
しかし俺はシートベルトも何もしていないはずなのに頭上にあるドーム状の窓に頭を打つことはなかった。
それに猛スピードで飛んでいるはずなのにGも感じない……もしかしたらこのコックピットは搭乗者の負担を減らすような機構があるのかもしれない。
「な、なんで!?で、でもこれなら!」
画面の中で余裕が崩れて驚愕するウィッチモンは急旋回してメカノリモンが飛び立ったサーチライトの切れている鉄塔に向かった。
そしてウィッチモンはカブテリモンとバードラモンを嘲笑った時と同じように鉄塔内部で曲芸飛行を始めた。
闇夜の視界が効かない状態でこの曲芸飛行ができるのには流石に舌をまくが、それ以上に驚いたのはメカノリモンがウィッチモンにぴったりと付いていっていることだ。
メカノリモンは狭くて通れないところ以外はウィッチモンのとったコースをなぞるように飛び、たまに視界から外れてもすぐさま追いついた。
ウィッチモンはまだまだこれから!と言った具合にスピードを上げた。
「!、フラスコか!」
メカノリモンもウィッチモンを追うが、前方が突然紅蓮の炎のに包まれた。
どうやら前方のウィッチモンがあの爆弾フラスコをばら撒いているようだ。
今まで闇の中に溶け込んでいた鉄塔は自らが大炎上することでまたライトアップされることとなり、画面から見える外はどんどん赤く染まって行った。
しかしメカノリモンはこれにも怯まない。
こちらに投げつけられるフラスコは身を捻って躱しているようだし、時折横から噴き出る炎もものともせずに突っ切ってウィッチモンの後を追った。
画面の向こうのウィッチモンは信じられないといった表情でこちらを見ている。
「な、何でよ!?たった今進化して飛べるようになったデジモンが、何でこのあたしに付いて来れるのよ!落ちなさい、≪バルルーナゲイル≫!」
ウィッチモンが放った突風により周りの炎は一層激しく燃え上がり、そしてその風はメカノリモンの飛行にも影響が出そうなほどだった。
メカノリモンのボディ越しに何かを激しく切りつけるような音が聞こえてくる。
「くぅ!大丈夫かメカノリモン!?」
「異常ナシ」
かなり強烈な攻撃を受けているようだが、俺の心配する声に答えるメカノリモンの声は何時もの冷静さを微塵も崩していなかった。
「このスピードへの慣れ……そのバランス感覚……あなたはマシーン型だから、経験というよりデータね。その飛行データをなんでハグルモンだったあなたが持っているのよ!?」
ようやく鉄塔からでて直線飛行に戻ったウィッチモンは困惑した様子でこちらに問いかけた。
「それがなければ宙返りした時点で……」
「宙返り……!」
思い出した……メカノリモンは以前飛んでいた。
「メカノリモン、お前の飛行データはミサイモンの時にとったのか?」
「ハイ」
「あなた、ハグルモンの前はミサイモンだったの!?」
俺の声はマイクか何かを通してウィッチモンに聞こえていたようで、ウィッチモンはまさかといった表情で驚いている。
俺は宙返りという単語で思い出した。
メカノリモンはミサイモンだった時に、俺とまだ幼年期のベビドモンだったドラコモンを襲っていた巨大フライモンと戦い、宙返りでフライモンの背中に突撃し、穴をあけることで撃破したことがあった。
あの時はたしか飛行に不慣れだったミサイモンを追ってフライモンの森に入ったんだ。
「あぁそうだ。ミサイモンの時のスピードは今のお前よりずっと速かったし、そのスピードでバランスを取るのだって難しかったはずだ。お前の言うデータって奴はその時にとったんだ」
はじめはどこかにぶつかりそうになりながらの拙い飛行だったが、フライモン戦に駆けつけてきたくれた時は完璧に自分のスピードを制御して戦闘飛行を行っていた。
メカノリモンの飛行慣れはその時に身に着けた物だろう。
その時の飛行時間はウィッチモンに比べれば微々たるものだろうが、次に進化するまで飛び続けなければならないミサイモンは、生きるために必死でその飛行データを集めたはずだ。
生存本能に突き動かされて集められたデータが、ウィッチモンの積み重ねた経験に匹敵したのだ。
「……いいわ、認めてあげる。あなたは雛鳥なんかじゃないってことはね……でもね、あたしの本領は妨害、謀略、何でもありの障害物競走なのよ!」
言うが否やウィッチモンは今だ燃え盛る豪華客船に向けて進路をとり、メカノリモンもウィッチモンを追っていく。
「うわ!何やってんだあいつ!?」
そしてウィッチモンはなんとそのまま窓を突き破って燃え盛る客船上部に突っ込んで行ってしまった。
「ドウシマスカ?」
「……空中戦で叩くって言ったのはメカノリモンだろ?だったら答えは一つ、突撃だ!」
「
今まで俺を気遣ってスピードを落としていたメカノリモンだったが、俺がGOサインを出すと先行したウィッチモンのように壁を突き破って大炎上する豪華客船の中に突っ込んだ。
メカノリモンの体は結構大きいので、時折通路の壁や焼け落ちて倒れてきた柱などにぶつかるが、鋼鉄の体はそんなことではビクともしないようだ。
「遅かったじゃない。≪バルルーナゲイル≫!」
いくつかの通路をまがった先にウィッチモンが箒に座って飛んでいくのが見えた。
そしてウィッチモンはこちらを視界に入れるや否や、鉄塔内部でやったように爆弾フラスコを投げつけてたり、突風を起こしてこちらを妨害してくる。
しかもウィッチモンは攻撃をしながらも前方の障害物や吹き出す炎を完璧に躱して飛行を続けている。
障害物競争が本領だという事は本当らしい。
「流石に暑いな……」
「これくらい何ともないぜ!メカノリモン、あのむかつく野郎を火達磨だ!」
船内は長い間火災で熱せられていたし、ウィッチモンの放った突風で空気が供給されてさらに燃え上がるので艦内の温度はうなぎ上りだ。
メカノリモンのコックピットがいくら搭乗者を守れるようになっていてもさすがに全ての熱を遮断することはできないようだ。
しかしウィッチモンがこの灼熱の艦内を涼しい顔して飛んでいるのには驚きだ。
何か魔法でも使っているんだろうか?
暫く灼熱の通路を進んだ後、ウィッチモンとメカノリモンによる猛火の障害物レースはエントランスに差し掛かった。
このエントランスも炎に占領されていて、この船に乗った時に感じた優雅さはみじんも感じられなかった。
「これでどうかしら?≪アクエリープレッシャー≫!」
前方のウィッチモンは手のひらを天井にかざし、その手のひらから勢いよく水を噴出させた。
ウィッチモンの手のひらから迸る水流は天上の隅をなぞり、そして水流を受けた天井は水流をうけたところから崩壊を始めた。
「うわ、やりやがった!?」
一角が崩れた天井は直ぐに全体の崩壊が始まり、燃え盛る資材やら鉄骨、鉄パイプやら何やらがエントランスに雨となって降り注いだ。
ウィッチモンとメカノリモンはこの凶悪な雨を凌ぐためにそれぞれ行動に移った。
ウィッチモンは先ほどのような余裕の表情はなりを潜め、真剣な表情で瓦礫の雨を見極めているのが画面越しにかろうじて見えた。
避けきれないと判断したものは風を起こして吹き飛ばしたり、手のひらから噴出させた水流によって真っ二つにして瓦礫の雨を凌いでいた。
どうやらあの水流は高圧水流のようで、鉄骨をスパッと真っ二つにしているところを見ると相当切れ味があるようだ。
それと同時にウィッチモンがこの灼熱の中で平然としている理由に大体見当がついた。
あれほどの水の魔法を扱えるなら、自分の回りを涼しくできるようにできるだろう。
火の粉の中で燃え盛る瓦礫の襲撃を華麗に捌くウィッチモンの姿は、まるで炎を完全に格下として扱い、赤い服を着ていることも相まって炎を征服して屈服させているようだった。
風を起こして炎を燃え上がらせたり、水を使って熱を奪う姿を見てるとその言葉がぴったりなのではないかと思えてくる。
そして降り注ぐ瓦礫を睨み付ける真剣な表情と合わせると、ウィッチモンの姿は非常に魅力的に感じ、故郷での障害物レースではこのような姿が人気だったのではないかと思った。
対するメカノリモンは見せ方など関係なく堅実な捌き方をしているようだった。
メカノリモンは降り注ぐ瓦礫の中で自分にダメージを与えられないようなものは無視しているようで、ボディ越しに何かがぶつかる音が聞こえる。
そしてダメージを受けそうな大きな瓦礫は天窓越しにアームで振り払っているのが見えた。
「あら、そんな躱し方じゃ人気が……!」
「!!」
暫く瓦礫を躱し続けていると天井だけでなく壁も崩れてきて、このエントランスという空間自体が崩壊を始めた。
どうやらウィッチモンがエントランスの天井を壊したのがきっかけで、この客船上部の全体的な崩壊が始まったようだ。
上からは先ほどとは比べ物にならないほどの量の瓦礫と炎が降り注いできた。
「……あら、故郷での障害物レース決勝以上に絶望的ね……やってやるわ!」
しかしそれを見たウィッチモンは心の中の何かに火がついたようで、水流と突風をまき散らしながら瓦礫の嵐の中に向かって飛んで行ってしまった。
「……シッカリ掴マッテクダサイ。上部ニシカ脱出ルートハアリマセン」
「分かった。頼りにしてるからな、メカノリモン」
「さっさとあの女に恥かかせてやれ」
「デハ、イキマス!」
メカノリモンのエンジン音はうなり上げ、そしてウィッチモンと同様に瓦礫と炎の豪雨の中に突っ込んだ。
メカノリモンのボディ越しから聞こえる何かがぶつかる音はエントランスの崩壊前とは比べ物にならないほど多くなっていた。
ふと天窓を見ると、客船についていた煙突が、与えられた役割を放棄し、瓦礫となって落ちて来ているのが見えた。
「うおおお!?」
「≪ジャイロブレイク≫!」
絶体絶命のピンチと思われたが、メカノリモンが放った渾身のパンチによって天窓から見えていた煙突に大穴があいた。
「≪ジャイロブレイク≫!」
メカノリモンはその大穴の中に入り、さらにもう一発パンチを放って煙突に開いた大穴を貫通させて難を逃れた。
その後も切断された鉄骨や客室にあったであろう燃えるクローゼットなどが落ちてきたが、メカノリモンはそれらを難なく手で払いのけて、ついにこの崩れ落ちる客船から脱出することができた。
そして船を脱出して上空に出ると、先に脱出を終えていたウィッチモンが息を整えている姿を見ることができた。
「ハァ、ハァ、やってやったわ……!?」
「ヨウヤク隙ヲ見セマシタネ」
「くぅ!!」
脱出したメカノリモンに気付いたウィッチモンは弾かれたようにまた飛行を始めるが、流石に疲れたのかスピードはだいぶ落ちていた。
そしてその隙をメカノリモンは逃がさなかった。
「≪トゥインクルビーム≫!」
「きゃあああああ!?」
メカノリモンから放たれた赤いビームは動きの鈍くなったウィッチモンを捉え、ビームが直撃したウィッチモンは錐もみ状態で落ちて行った。
「「よっしゃー!!」」
俺とドラコモンはメカノリモンの初陣での勝利を祝い、コックピットの中で抱き合ってこの壮絶な空中戦での勝利の余韻に浸った
……………
………
……
…
ウィッチモンが落ちて行ったのは研究所の入り口近くだった。
戦闘が始まった当初火の海となっていたこの場所は、今は炎が鎮火されて焼け焦げた砂が広がるだけだった。
メカノリモンはウィッチモンの目の前に着陸し、俺とドラコモンもメカノリモンのコックピットから降りて倒れているウィッチモンの前に立った。
ウィッチモンはところどころ細かい傷は負っているものの、意識は保っているようで話をすることはできそうだった。
しかし、ウィッチモンはそうでも俺は話をできそうになかった。
「…………」
「…………」
「うぅ…いったぁ…!な、何よ……」
「…………」
「…………」
「……な、何とか言いなさいよ……」
「…………」
「…………」
「わ、わかってるわよ、勝負の前に言ったことでしょ!?あなた達を許すわよ……」
「…………」
「…………」
「……う、それで、え~っと……」
「…………」
「…………」
「~~~!な、何でもいう事聞くって言ったことも……お、覚えてるわ」
「…………」
「…………」
「で、でもあれはほら!言葉のあやというかなんというか……」
「…………」
「…………」
「うぅ……わ、分かったわよ……その約束も守るわよ」
「…………」
「…………」
「ほんと、まさかあたしの飛行技術を破るなんてねぇ。中々やるじゃない」
「…………」
「…………」
「まぁ、あの約束もあたしの飛行技術に賭けてやったものだし、ちゃんと約束守らないとあたしの箒乗りとしてのプライドが……」
「…………」
「…………」
「……ちょっとどうしたのよ?さっきからずーっと黙って……ってあなた達顔色悪くない?」
「……限……界……」
「お、俺も……」
「?あなた達ほんとにだいじょう……」
「「オロロロロロロロ!!」」
「きゃあああああああああ!!??ちょっとあなた達、何で吐いてるのよ!?」
もはや限界だった。
いくら搭乗者に負担にならないようにしたってあの超変則飛行の負担を完全に殺し切れるはずがなかったのだ。
飛行中はまだアドレナリンとか出てたし興奮してたから乗り物酔いは気にならなかったようだが、胃の中のものがシェイクされていたのは事実であり、こうして地上に降り立った瞬間にそれが一気に押し寄せてきた。
それはドラコモンも同様だったようで、今までお互い我慢していたようだが、結局やってしまった。
何とか服を汚さずに済んだものの、今度は意識が朦朧としてきた。
実は燃え上がる船に入った直後はさほど気にならなかったコックピット内部の温度も、脱出する直前はかなり上がっていたのでそれで頭がやられてしまったらしい。
目の前の地面はお見せできない有様になっているはずなので、最後の力を振り絞って仰向けに倒れようとした。
そして何とか体が後ろ向きに倒れようとしたときに、メカノリモンの姿が視界に写った。
メカノリモンはどこかバツが悪そうにこちらから顔をそむけていて、それが俺の見た最後の光景となった。
というわけで、ハグルモンの進化先はメカノリモンになりました。
サイボーグおよびマシーン型デジモンは作者が一番好きなデジモン達です。
とりわけこのメカノリモンは子供の頃にかっこいい!と思って以来のお気に入りのデジモンだったりします。
思い出されるのはあのメタルエンパイア軍団の出撃シーン……個人的にあのシーンはアドベンチャーの中でかなりお気に入りです。
最後は締まらない感じになっちゃいましたが、まぁあんなことすればこうなりますよね。
感想批評お待ちしております。