デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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筆が進みます。


第20話 鉄塔の魔女!ウィッチモン

 

 ミミ先輩が紋章を手に入れてから数時間が立ち、今はすっかり辺りは暗くなって満点の星空が操舵室の窓を通して見ることができた。

 もう先輩達と俺は夕食は食べ終わっていて、改めて船を操縦するためにハグルモンとドラコモンを連れて操舵室まで戻ってきた。

 今のところタグが反応することはなく、先輩達も船の中でゆっくりとしていた。

 

「何か異常はあるか?」

 

「イエ。後、コノエネルギーダト明日ノ昼頃ニ止マルカト」

 

「日が高いときにエネルギーがなくなるのか……明日も辛い旅路になりそうだ」

 

 明日はピッコロモンと接触することになるか……この船でコカトリモンみたいにクワガーモンを轢くってことはないよな?

 まぁピッコロモンはクワガーモンに会わなくても見かけてくれれば向こうから接触してくるか。

 

「あ、そうだ。今日はありがとうな信人」

 

「お?お前が素直にお礼を言うとはな……」

 

「ぐぅ……そんな嫌味返すなら言うんじゃなかったぜ」

 

「悪かったよ。そう拗ねるな」

 

「ったく……まぁいいか」

 

 今まで操舵室内を物珍しく見ていたドラコモンが思い出したように俺にお礼を言ってくれた。

 なんだか照れくさくなって少しいじわるをしてしまって、ドラコモンは少し拗ねてしまったが直ぐに謝ると許してくれた。

 

「それにしてもほんとに倒しちまうんだもんな~相手は成熟期なのに」

 

「でもあいつ弱かったぜ。少なくとも昨日戦ったグレイモンよりな」

 

 今回の相手は成熟期のコカトリモンだからドラコモンの一つ上の世代になるわけだが、ドラコモンはまったく苦戦もせず楽勝といった感じでコカトリモンを撃破をしてしまった。

 今の時点でこれなのだから進化したらどうなってしまうのだろうか?

 俺としてはもうあいつ一人でいいんじゃないか状態でも、事態が収束するならなら別にそれでもいいんだけど……でも世の中そう甘くないんだろうな。

 その後ドラコモンにコカトリモン戦での見どころを聞いている最中、船のスピードがガクンと落ちた。

 

「……ん?どうかしたか?」

 

「チョット障害物ガアルノデ減速シマシタ」

 

 窓の外を見ると、暗い夜の中に月明かりで照らされた金属光沢を見ることができた。

 目を凝らして見ると、その正体はこの豪華客船よりも高い鉄塔であった。

 本来なら電線などが鉄塔と鉄塔の間に張り巡らされているはずであるが、その類いのものは見当たらず、この鉄塔が何のために立っているのかは見当がつかない。

 船は鉄塔と鉄塔の間を通り抜けて進んでいく。

 

「おいおい、こんなとこ通って大丈夫なのか?」

 

「幅ハ問題ナイデス。ソレニコノ鉄塔群ハ円形ニ配置サレテイルノデ、ココトモウ一ツ鉄塔ノ間ヲ抜ケルダケデス」

 

 ドラコモンの懸念にハグルモンが答えた。

 レーダーを見てみると、たしかに鉄塔はきれいな円形で配置されていて、今はその円の一角を通り過ぎようとしているところだった。

 ここを悠々と通り過ぎれるのであればこの一帯を通過することに問題はないだろう。

 ただ、こんな風に配置しているなら円の中央に何かあってもいいような気がするのだが、レーダーには何も映ってない。

 

「……なぁ、レーダーの不調とかはないのか?」

 

「異常ナシデス」

 

「ならいいんだけどおおおおおお!!?」

「!!?」

「なんだなんだ!?」

 

 俺が本当に大丈夫かハグルモンに念を押した直後、ガラスの割れるような音と共に船が大きく揺さぶられたのだ。

 それはちょうど鉄塔の円の中央に船首が差し掛かった時のことで、外を見ると黒い電撃のようなものが飛び交っている。

 もちろんハグルモンが船を緊急停止させ、各種計器に異常がないか確かめはじめた。

 外を見るとまだ電撃がバチバチと言っているが、暫くするとそれも納まって外に出れるようになった。

 

「ど、どうしなはりました~?」

 

「いや、こっちにも何がなんやら。レーダーには何も映ってなかったんだが……とりあえず先輩達には荷物をまとめて警戒するように言ってくれ」

 

「まかしとき~!」

 

 ちょうどこちらの様子を飛んで見に来たテントモンに伝言を頼み、俺は何にぶつかったのかを確かめるためにドラコモンと一緒に操舵室から出た。

 

「ん~、何か壊しちまったみたいだな」

 

「あぁ。縄張りの類いじゃなきゃいいけど……」

 

 外を見回すと、船首は何やらドーム状の結界のようなものを突き破っているという事が分かった。

 もしかしたらピッコロモンの作った結界を突き破ったかと一瞬思ったが、たしか周りにこんな鉄塔はなかったはずだし、結界の中は森ではなく外と同じように砂漠になっていたのでここは別の場所だと判断した。

 そしてその砂漠の中には研究所という言葉がぴったりな白くて平べったい建物が見えた。

 

「おーい!どうしたんだよ!?」

 

「何か結界みたいなもの突き破っちゃったみたいです!後、前方に建物が見えます!」

 

 いつの間にか太一先輩達が甲板に出ていたので、とりあえず分かっていることを伝えた後にハグルモンに詳しい話を聞くため操舵室に戻った。

 

「申シ訳アリマセン。モット注意ヲ払ウベキデシタ」

 

「過ぎたことはいいよ。それより今分かってることは何かあるか?」

 

「誰カガ張ッタ結界ヲ突キ破ッタトイウコトシカ……船ニ異常ハナイノデ航行ハ再開デキマス」

 

「……このまま知らんぷりして逃げるか?」

 

「一ツノ手ダト思イマス」

 

「信人はん。太一はんが呼んでまっせ」

 

 俺がこのまま逃げようかなと思っていたところでまたテントモンが飛んできて連絡をくれた。

 俺は今度はハグルモンとも一緒に外に出て、甲板にいる先輩達に声を掛けた。

 

「何ですかー?」

 

「丈がさ、あの建物の中には人がいるかも知れないから探索しようっていうんだよ。俺達も気になるし、下りるためにタラップ降ろしてくれねぇか?」

 

 下では話が進んでいたらしく、前方の建物の中を探索することになったらしい。

 というか丈先輩はまだどこかに人間がいると思っているのか……

 かくいう俺もあの研究所の中は興味があり、なんでこんな砂漠の中にあんな研究所があるか気になるし、何の研究をしていたのかも気になる。

 

「分かりましたー!俺も直ぐ行くんで待っててくださーい!」

 

「頼んだぞー!」

 

 俺はハグルモンに頼んでコンソールを操作してもらってタラップを降ろすと、操舵室を施錠してからリュックを背負ってドラコモン達と一緒に船を下りた。

 

……………

………

……

 

 研究所の扉にはパスワードか何かが必要かと思ったが、自動ドアの入り口は案外すんなり開き、普通に中に入ることができた。

 白く塗られた殺風景な廊下を抜けると、司令室らしい場所にたどり着いた。

 部屋には社長が座るような椅子が置いてあり、その椅子を囲うようにしてコンソールやキーボードが配置、さらにモニター群に至っては部屋の天井にまで配置されている。

 どうもこの機械はコンピュータらしく、椅子に座った一人だけが操作しやすいようになっているみたいだ。

 コンソール群は時折明滅している部分がありエネルギーが通っているようだが、部屋の中は埃っぽくて長年使われていないことが分かる。

 

「何よここ、埃っぽ~い」

 

「丈、こんなところに丈みたいな人間なんていないって」

 

「そんな~」

 

 ミミ先輩はここの埃を嫌って半歩下がって部屋の外に出て、丈先輩はここに人がいないという事を認めたらしく落胆していた。

 しかしその後に泉先輩が声を上げた。

 

「皆さん!足跡がありますよ!」

 

 この部屋には左右にまた扉があり、その右側に何度もこちらを行き来したような足跡がある。

 今まで足元は気にしていなくて気が付かなかったが、後ろの廊下を見ると、俺達の足跡に踏み荒らされてしまっているが、俺達の足跡ではないものも混じっていた。

 俺達はその足跡をたどって右の自動ドアをくぐると、入って来た時と同じような廊下が続き、そしてもう一つドアが現れた。

 しかしそのドアは少し様子が違い、表面に何か魔方陣のようなものが浮き出ていた。

 

「なんだろうこれ?」

 

「恐らく、カギか何かがなければ入れないんだと思います」

 

 今まで自動ドアだったのにドアは開かず、太一先輩とヤマト先輩が2人がかりで無理やりドアを開けようとするが、やっぱりこれでも開かない。

 仕方ないので元の部屋に戻り、そしてもう一方の扉を探索するチームとこの部屋を探索するチームに分かれることになった。

 左のドアに行ったのは太一先輩、空先輩、丈先輩、ミミ先輩とそのデジモン達が行き、残った泉先輩、ヤマト先輩、タケルと俺はこの部屋を捜索することとなった。

 

「何とか、この装置を起動させることはできないでしょうか?」

 

「なら、ハグルモンに頼んでみましょう」

 

 俺はリュックの中から細くて黒いケーブルを取り出してからハグルモンを呼んだ。

 この黒いケーブルは客船の操舵室から拝借したもので、ハグルモンにあんな能力があるなら常備した方がいいかなと思ったのだ。

 

「……あれ?規格が合わないか」

 

 しかしいざ接続しようと思ったところで、このコンソール群やモニターに合う接続口が見当たらないことに気付いた。

 この部屋にその接続口に合うケーブルがないか探すが、そのようなものは見当たらなかった。

 ならば今コンソールに繋がっている配線を切って片方をハグルモンに咥えさせようとも思ったが、「誰か所有者がいるかもしれないから乱暴はやめてください」と泉先輩に止められた。

 

「……これって動いてないんだよな?だったらデタラメにボタンを押しても大丈夫なんじゃないか?」

 

「いえ、機器が明滅しているのでエネルギーが来ているはずです。今はモニターが消えているだけで、機器自体は動いているみたいですよ」

 

「ねぇ光子郎さん。これって電源スイッチじゃない?」

 

 タケルの指すところを見てみてるとトグルスイッチが設置されていて、横のところに上がON、下がOFF、さらに真ん中はスリープモードになると書かれていた。

 今はスイッチが真ん中で止まっているので、スリープモモードになっているのが分かった。

 

「ONにしてみましょう」

 

 泉先輩に反対する人はおらず、タケルがすぐにスイッチを上にあげた。

 電源が入った瞬間、モニターが一気に起動を始めた。

 

「やぱっりこれは大きなパソコンなんだ……あ、パスワードを要求されています」

 

 モニターにはそれぞれ様々なものを映し出しているが、まず前面に出ているのはパスワードを要求するウィンドウだった。

 もちろん俺達はパスワードなんて知らないので手詰まり、なのでそのウィンドウの後ろにあるウィンドウに注目した。

 

「……プログラムの実行中だったようです」

 

 パスワード要求ウィンドウの後ろにあったのはコマンドプロンプトのように黒の画面に緑色の文字が表示されているウィンドウだった。

 泉先輩によれば何らかのプログラムを実行していたようで、それぞれ途中まで違う文脈が書かれているので実行していたものが違うという事は分かるのだが、それらはすべてはERROR!の一文で締めくくられている。

 原因を読み取ろうとするが、その部分はログインウィンドウで一部が隠されてしまっている。

 かろうじてHOSTという一文は読み取れたので、こことは違う場所にあるホストコンピューターに異常がでたのかもしれない。

 

「皆さん、ここ見てください」

 

 泉先輩が指す場所は時刻が表示されているモニターだったが、それはもう時を告げるという役割を放棄していた。

 

「カンストしてますね……」

 

 そのモニターには9999/12/31/23:59と表示されていて、どこからを時刻表示の起点としたのかは分からないが、システムが起動してから相当長い時間が経っていることは予想できた。

 

「でも不自然です」 

 

「そうだよな。もし時刻がほんとだとしたら1万年以上前なんだよな。そんな時代にコンピュータなんて……」

 

「それもありますが、あのプログラムです」

 

 ヤマト先輩の言葉を遮って泉先輩が指す画面にはプログラムのソースコードのようなものが書かれていて、これまたログインウィンドウで見せられないよ!状態なので大部分が隠れてしまっている。

 しかしそのコードはデジタルワールド語ではなくアルファベットで書かれていた。

 

「前にソーサリモンにこの世界でのコンピュータプログラムのソースコードを見せてもらったのですが、それはデジタルワールドの言語で書かれていて、人間の使っている文字ではなかったんです。でもあれは見て分かる通り、人間の使っているアルファベットで記述されています」

 

「プログラム?ソースコード?何かよくわからないけど変だってことだよねお兄ちゃん?」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

 泉先輩の解説をヤマト先輩とタケルはあまり分かっていないようだが、ソーサリモンのプログラムを泉先輩と一緒に見せてもらった俺は泉先輩の言っていることが分かった。

 たしかにここに人間のプログラミング言語があるのだとしたら、この研究所には人間がいた可能性が出てくる。

 そして俺はそれが現実世界時間においてそんなに昔ではないのではないかと考えてた。

 デジタルワールドの1日は現実世界の1分、現実世界で1日経つだけで1440日、デジタルワールドの1年を365日だとすると約4年がデジタルワールドで経過する。

 これが現実世界で1年経つと4年*365日で1460年、つまり現実世界で7年ほど経てば1万年という時間がデジタルワールドでも経過する。

 たしか原作では過去にもデジタルワールドに行った人間はいたはずだから、その人物がこの研究所を作ったのだろうか?

 でも原作で言及されていたデジタルワールドに来た人間は過去にデジタルワールドを救ったという選ばれし子供達だけ……子供がこんな研究所をこしらえるか?

 泉先輩以上の超パソコンマニアがいてもやらないだろう。

 

「おーい、そっちはどうだった?」

 

 このほかにも何か読み取れないかと思って画面とにらめっこをしていたところで、左のドアの向こうを探索していた太一先輩達が帰ってきた。

 泉先輩はまずこちらが分かったことを伝えた。

 人間がいたかもしれないという話に丈先輩が飛びつくと思ったが、何故か聞いた途端に青い顔をして、もうここにはいないだろうと説明されると心底安堵した様子だった。

 そして太一先輩が何があったのかを説明した。

 左のドアの向こう側にはエレベータがあったが、これは動かなかったので脇にあった階段を使って地下に降りたそうだ。

 地下の部屋はまるでマッドサイエンティストが生物の研究をしているような部屋だったらしい。

 何に使うか分からない器具や何も入ってない巨大な試験官があったりとまさに映画で見たような危ない研究を行っていそうな部屋だったとのこと。

 女性陣はここで気味悪がってエレベータのあるところまで戻って待ってたらしい。

 さらにその下にも部屋があったらしいが、そこはごく普通の鉄格子で仕切られた牢屋だったとのこと。

 この二つの部屋にはエレベータの乗り降り口はなく、上にあったエレベータはまた違った場所に繋がっているのではないかという見解になった。

 ますます子供が作った施設とは思えなくなってきた。

 この世界で研究する生き物と言ったらデジモンしか思い浮かばないし、選ばれし子供がデジモンを牢屋に入れるということをするはずがない。

 

「ねぇ。ここって気味悪いし、何もなさそうだからもう船に戻りましょう?」

 

「アタシ、ここにはあんまり居たくない」

 

「それもそうだな」

 

 地下に行った組は太一先輩以外はすぐにでもここから出たいようで、もうちょっとコンピュータを調べたいと言った泉先輩を強引に押し切って船に帰ることになった。

 

「じゃあこのコンピュータの電源を……」

 

「ん?電源はこれだな。OFFっと……」

 

「あ!?電源切っちゃったんですか!?」

 

「え?駄目だったか?」

 

 泉先輩はこの部屋にあったコンピュータをスリープモードにしたかったようだが、たまたま電源の近くにいた太一先輩が勘違いしてスイッチをOFFにしてしまったので画面は一斉に暗くなり、機器が点滅することもなくなった。

 泉先輩が慌ててスイッチをONにするが、すでにコンピュータはシャットダウン動作を終えてしまっていて、椅子の正面にあった画面だけが起動してパスワードを要求してきた。

 

「お前さっき持ち主はもういないって言ったじゃないか」

 

「でもまだ何か分かったかもしれないし……それにコンピュータの電源をいきなり切ってはいけません!ちゃんとシャットダウンしないとデータが破損する危険が……!」

 

「おい、何か外から聞こえるぞ」

 

 泉先輩が太一先輩にコンピュータの扱い方について説教が始まろうとしたときに、何やら外の方が騒がしくなってきたことに気付いた。

 太一先輩を先頭にして廊下を急いで戻り、外に出てみると何故か少し明るかった。

 そしてその理由は直ぐに分かった。

 

「おい!船が燃えてるぞ!」

 

 なんと俺達の乗ってきた客船の上部が燃えていたのだ。

 火災はまだ上部にしか起きていないが、あれでは完全に操舵室は丸焦げ、火災が鎮火しても操縦に支障が出ること間違いなしだ。

 しかもあたりには強い風が吹いていて、炎をはより一層激しくなっていく。

 

「一体誰がこんなことを……」

 

「あら奇遇ね。あたしもあの結界を壊したのが誰か知りたかったのよ」

 

「「「「!!」」」」

 

 空先輩の疑問に答えた謎の声は上から聞こえて来ていた。

 驚きながらも上を見ると、そこには赤い服と黒いマントを身に着け、いかにも魔女いった風貌の女性が箒に座って浮いていた。

 頭にはもちろん魔女帽子を被っていて、その帽子のつばのあたりには黒猫のような影が飛び回っている。

 左の肩あたりには黒猫を模したマークが書かれ、肘まで覆う赤い手袋は手の部分がかぎ爪のように鋭く、全体的に獰猛な印象を覚えた。

 

「ウィッチモンだ!」

 

「頭のいいデジモンだ!」

 

 ガブモンによればあのデジモンはウィッチモンと言い、ゴマモンによると賢いデジモンのようだ。

 知性が高いという事は話せば分かってくれそうなものだが、当のウィッチモンは非常に険しい目つきで箒の上からこちらを見下ろしていた。

 

「さぁ退路は断ったわ。おとなしくあたしに倒されてちょうだいね?」

 

「ちょ、ちょっと待て!あれをお前が張った結界だったのなら謝る!だから……」

 

「いいえ許さないわ!あの結界がどれくらい貴重なものか分かってるの!?しかもあなた達はあたしの研究成果まで狙ってる!」

 

「は?研究成果?」

 

「あら、とぼけたって無駄よ!そんなに大勢連れて研究所の中に入って、しかも無理やり開けようとしたってことも分かってるんだから!」

 

 俺が何とか説得しようとしたが、ウィッチモンは怒り心頭といった感じでこっちの話は聞いてくれなさそうだった。

 俺達が無理やり開けようとしたのは右側にあった扉の先にある魔方陣の書かれた扉だ。

 どうもあの奥にウィッチモンの言う研究成果というものがあり、防犯装置的な機能のあった魔方陣によって俺達があの扉を無理やり開けようとしたことが知れたらしい。

 しかも船で結界をぶち破ったこともまずかったようだ。

 ちなみにそのドーム型の結界であるが、船から下りた時には船が突き破っていたところ以外は残っていたはずの結界は、今は全て消えてしまっていた。

 

「ふふふ……罰としてあなた達にはあたしの研究材料になってもらおうかしら?」

 

「ひぃ!研究材料だなんてイヤー!!パルモン、進化してあいつ追っ払って!」

 

「分かったわ!パルモン進化!―――――トゲモン!」

 

 ウィッチモンの言った一言は地下の部屋を見たミミ先輩にとってはしゃれになっていないようで、若干パニックになりながらパルモンに進化を促し、それに応えたパルモンは直ぐにトゲモンに進化した。

 

「あら?デジモンを進化させる道具なんて珍しいもの持ってるわね。ますます研究材料として有望ね」

 

「ミミは渡さない!≪チクチクバンバン≫!」

 

「効かないわ!≪バルルーナゲイル≫!」

 

「そんな!?うわぁ!?」

 

 まずはトゲモンが先制攻撃で全身の棘をウィッチモンに放ったが、ウィッチモンが手を振ると強烈な突風が発生して棘をすべて吹き飛ばしてしまう。

 そして残った風がトゲモンに直撃し、トゲモンは仰向けにに倒れてしまった。

 

「トゲモン!?大丈夫?」

 

「うぅ……あの風、なんか痛い」

 

 何とか起き上がったトゲモンの体を見ると切り傷がいくつもできていて、ウィッチモンの放った風がただの風ではないという事を物語っていた。

 

「今度はこっちから行くわ!」

 

 そう言ったウィッチモンは高く浮き上がり、そして懐から取り出した何かの液体が入ったフラスコを取り出した。

 

「あなた達があたしの研究成果を見たいっていうなら見せてあげるわ。ウィザーモンに見せるびらかすためのとっておきなんだから光栄に思いなさい!」

 

 そしてそのフラスコを勢いよく俺の方に向かって投げつけた。

 

「嫌な予感しかしねぇ!」

 

 知っている名前が出てきたものの、ただのフラスコに入った薬品ではないと危機感を感じた俺は、ドラコモン達と一緒にそのフラスコを避けるために走り出した。

 そしてフラスコの割れるパリンという音がしたかと思うと……

 

「どわああああ!?嘘だろ、爆発しやがった!」

 

 その後に聞こえてきたのは大きな爆発音だった。

 どうやらあのフラスコは割れると爆発を起こすようで、あれを使って船の火災も起こしたらしい。

 しかも爆発させるだけでなく可燃性の液体もまき散らしているのか、爆発があった場所は砂の上にも関わらず、爆発で発生した炎が収まる気配はまったくなかった。

 

「うふふふふ!水と風を専攻している私でもこのレベルの火の魔術が使えると知ったらあいつはどんな顔をするかしら?さぁ、まだまだ行くわよ!」

 

「げ!?あれ全部落とすつもりか!」

 

 難を逃れてもう一度ウィッチモンの方を見ると、一体どこから出したのかウィッチモンは両手いっぱいに丸フラスコを抱え込んでいた。

 

「みんなー!とりあえず逃げろー!」

 

 太一先輩の声とともに先輩達はいくつかのグループに分かれてウィッチモンの猛爆撃から避難を始めた。

 太一先輩は丈先輩と同じ方向に逃げ、空先輩とミミ先輩の女性グループはトゲモンに抱えられながら逃げていて、ヤマト先輩はもちろんタケルと一緒にいつの間にか進化していたガルルモンに乗って避難している。

 逃げている最中にもウィッチモンは爆弾フラスコを次々と投げて来て辺りは一面火の海となったが、幸い被弾した人はいなかった。

 

「信人君!無事ですか?」

 

「はい。泉先輩のほうこそ大丈夫ですか?」

 

「僕も大丈夫です」

 

「あのウィッチモンってデジモン、ほんま滅茶苦茶ですわ~」

 

 そして俺と同じ方向に逃げてきたのは泉先輩とテントモンだった。

 

「≪フォックスファイアー≫!」

 

「あら、そんなノロマな攻撃当たらないわ~」

 

 このままやられっぱなしを良しとしなかったガルルモンが青い炎を放ったが、ウィッチモンはその攻撃をひらりと躱してしまった。

 これは地上からの攻撃は全く当たらないかもしれない……

 

「進化して空中戦に持ち込みましょう。テントモン!」

 

「まかしなはれ!テントモン、進化!―――――カブテリモン!」

 

 泉先輩の指示を受けたテントモンは直ぐにカブテリモンに進化して、ウィッチモンの方に飛んで行った。

 さらにトゲモンのいる場所からはバードラモンが姿を現して飛んできた。

 どうやら空先輩も泉先輩と同じことを考えていたようだ。

 

「あら、あたしに空中戦を挑むのね。久しぶりだから楽しませて頂戴ね!」

 

 周りの炎の明かりのおかげで夜にも関わらず空は明るくなっていて、ウィッチモン対バードラモンとカブテリモンの戦いがよく見えた。

 だが、二体一にも関わらず戦況は芳しくなかった。

 

「≪メテオウィング≫!」

 

「≪メガブラスター≫!」

 

「あ~ら、そんなんじゃ駄目よ。本当の空中戦ってものを教えてあげるわ!ライトアップ!」

 

 二体の放った必殺技はあっさりと躱されてしまい、その後ウィッチモンが手の振ると円形に配置されていた鉄塔がライトアップされ、ウィッチモンは鉄塔の方へと飛んで行った。

 もちろんカブテリモンとバードラモンはウィッチモンを追うが、かなりスピードに差があることが分かった。

 ウィッチモンは鉄塔に到達すると、その内部を縫うようにして飛行した。

 驚異的なのはそのスピードと旋回性能、ウィッチモンの飛行スピードは鉄塔の内部に侵入したときから一切スピードが落ちていないし、鉄塔内部の鉄骨の間をいとも簡単にスルスルと抜けて行ってしまう。

 ウィッチモンを追っていたカブテリモンとバードラモンはこの曲芸飛行の前にたじたじで、鉄塔内部に入ることもできずに鉄塔の周りをうろうろするばかりであった。

 そしてウィッチモンは暫くすると鉄塔を出てこちらに戻ってきた。

 それに気づいたカブテリモンとバードラモンは鉄塔から離れてウィッチモンを追うが、スピードが足りずに引き離されてしまう。

 

「全然駄目ね!≪バルルーナゲイル≫!」

 

「「ぐああぁ!」」

 

「カブテリモン!」

 

 ウィッチモンがスピードを緩めてどうにか追いついたカブテリモンとバードラモンだったが、追いついた瞬間に放たれたウィッチモンの突風によって撃墜されてしまった。

 

「ふふふ、あたしは故郷ではそれなりに名の通った箒乗りだったのよ?その程度の飛行技術であたしに空中戦で勝とうだなんて、あたしを舐めてるのかしら?」

 

 ウィッチモンは撃墜したカブテリモンとバードラモンに向かって吐き捨てるように言った。

 たしかにウィッチモンの飛行技術は飛びぬけていて、それのせいでこちらの攻撃がまったく当たる気がしない。

 

「……ハグルモン、≪フルポテンシャル≫後の≪デリートプログラム≫であいつを囲めるか?」

 

「……非常ニ困難デス」

 

「俺もあのスピードじゃあな……」

 

 ハグルモンとドラコモンにも有効な攻撃手段が無いようだし、先輩達にも攻撃手段がない。

 これはまずいなと思ってるところで、ハグルモンがウィッチモンの方を向いていないことに気付いた。

 いつもは敵をじっと見つめて冷静に隙を窺っているはずなんだが……

 

「どうした?」

 

 そしてハグルモンはライトアップされている鉄塔の方を見ながら俺に驚くべき発言をした。

 

 

 

 

 

 

「マスター……進化デキルカモシレマセン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





経過年の計算間違ってないよね?
60分*24時間=1440分=1440日
1440日/365日=約4年(小数点切り上げ)
4年*365日=1460年
1460年*7年=10320年

八日から部活の合宿に行くので、それまでには次の話を上げたいと思います。

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