デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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第2話 夜の恐怖!ブラックテイルモン強襲!

嘆いていても仕方ない。とにかく行動しないとどうしようもない。

……いや待てよ。ここでじっとしていたら先輩たちが迎えに来てくれるかもしれない。

あ、でも先輩たち俺が一緒にこっちの世界に来てること気が付いてるのかな?

泉先輩と太一先輩以外俺がいたこと知らないと思う。祠の中は暗かったし、会話もしてない。外に出た時も俺はあの人たちの後ろにいたから視界に入っていなかったかもしれない。

泉先輩は俺がいたことは気づいているだろうけど、巻き込まれてこっちに来てるとは思わないんじゃないか?俺デジヴァイス持ってなかったし。

 

……うーんやっぱり動いたほうがいい気がする。

このジャングルの中じゃどこからデジモンが出てくるかわからないしな。

たしか太一先輩たちは崖から落ちて海の方に行ったはず。とりあえず崖の方に行ってみるか。

 

………………

……………

………

……

 

さて、崖に来たはいいけど、凄まじいことになってるな。

この木の切り口を見るだけでクワガーモンのアゴがどれだけ危険かがわかる。

 

「早いとこ合流しないとまずいな……とりあえずこの木に登ってみるとするか。」

 

いざ、木に足をかけようとした時、崖下から羽音が聞こえてきた。

嫌な予感をビシビシと感じながら俺は後ろを振り返った。

 

「嘘だろおい……」

 

「コアアアアア!!」

 

俺の後ろにいたのは、ずぶ濡れの状態のクワガーモンだった。

クワガーモンは雄たけびをあげたかと思うと俺に向かって一直線に突っ込んできた。

間一髪で横に跳んで攻撃をかわしたが、すぐに反転してこちらに向かってくる。

さっきの仕返しだと言わんばかりの猛攻だ。

おそらく先輩たちと同じ姿をしている俺を同一人物だと判断して襲ってきたんだろう。

 

「とにかく身を隠さないと……」

 

たしか原作では中が空洞の見かけ倒しの木が近くにあったはずだ。そこに入ってやり過ごそう。

 

「うお!あぶね!?」

 

もう少し頭を上にあげていれば首と胴が泣き別れするところだった。

しかしどこだ!?早くしないと体力が持たない!

森の中を注視しながら走っていると、クワガーモンが弾き飛ばした残骸が木をすり抜けるのが見えた。

俺は頭から突っ込むようにして幻の木に突っ込んだ。

……俺を見失ったクワガーモンは突っ込むのをやめて上空を旋回し始めたようだ。

とりあえずここにいれば安全そうだ。クワガーモンがどこかに行くまでここでやり過ごすしかない。

 

 

……………

………

……

 

……ようやくいなくなったか?

羽音が聞こえなくなったので外を覗いてみた。

 

「嘘だろ?……もう日が暮れてるじゃん。」

 

どれだけしつこいんだあのクワガタ野郎。

 

「はぁ、愚痴っても仕方ないか。今日はここで野宿だな。」

 

とりあえず野宿の準備のついでにバックの中身を確認するか。

えーと、財布、双眼鏡、カメラ、メモ帳、筆記用具、水筒、携帯電話、雨具、おやつが少々……。

いくつか役に立ちそうなものはある。水筒は非常に役に立ちそうだ。

とりあえず菓子食ってとっとと寝るかな。夜は何もできないだろうし。

 

ガサガサ……

 

「……外に何かいるのか?」

 

一難去ってまた一難か……

俺にデジモンに対抗できる力はない。息を殺してやりすごすしかない。

 

ガサガサ……ガサガサ……

 

なにか探してるのか?このあたり一帯から音が離れない。

 

「うーん?おいしそうな匂いがしたんだけどな~。」

 

鼻が利くデジモンが菓子の匂いを嗅ぎつけたのか!

だけど、音の規模からそこまで大きなデジモンじゃなさそうだ。

これなら対抗できるか……?

 

「お!ここか~!」

 

そんな気の抜けた声とともに一匹のデジモンが木の中に入ってきた。

中に入ってきたデジモンは黒猫の姿をしたデジモン、ブラックテイルモンだった。

テイルモンの亜種で、姿はほとんど同じ。違うところはホーリーリングの有無と色くらいだ。

小柄ではあるが、たしかテイルモンと同じで成熟期のデジモンだったはず……。

生身で追い払うにはちょっと厳しいか?ウィルス属性デジモンだし交渉も難しいかもしれない。

 

「お前、いい匂いのするもの持ってる?」

 

「あ、あぁ持ってはいるが、渡したら帰ってくれるか?」

 

俺がそういうとブラックテイルモンはこちらを嘲るように笑い出した。

 

「アハハハ!知ってる?そんなこと言うデジモンはみんなぁ~」

 

そしてその笑顔を獰猛に歪ませた。その顔は獲物を狩るハンターの顔だった。

 

「弱いんだよ~」

「!?」

 

次の瞬間ブラックテイルモンが俺に向かって飛びかかってきた。

このやろう力ずくで奪いにきやがった!

 

「なんでよけるの~?僕にいい匂いの食べ物くれるんじゃなかったの~?」

 

「お前が帰るならって話だよ!都合のいい風に解釈するな!」

 

「弱い奴の言い分なんて知~らない。」

 

くそ!なにか武器になるものは……木の中にはないか……

外にはクワガーモンが大暴れしたときの残骸がある。それを使えばどうにかなるか?

だけど外は真っ暗闇。ブラックテイルモンの体は黒く、猫の目を持ってるから闇夜では断然あっちの方が有利。

 

「えい!《ネコキック》!」

 

くっ!武器がなければどうしようもない!一旦外に出る!

俺は転がるように外に出て、手近にあった木の棒を手に取った。

見かけ倒しの木の場所はしっかり覚えとかないと。

俺に続いてブラックテイルモンが木の中から飛び出してきた。

……予想以上にカモフラージュ率が高い。爛々と光る眼しか見えない。

 

「馬鹿だな~ここは僕の無敵のフィールドだよ?ゆっくり料理してあげる。」

 

そう簡単にはいくか。何とか隙を見つけて木の中に戻らないと……。

 

「木の中に逃げられたら厄介だからね~、《キャッツアイ》!」

 

「な!?」

 

ブラックテイルモンの目が怪しく光った。隙を逃さまいと目を注視していたのが仇になり、俺はもろにその光を直視してしまった。

まずい!風景が歪んで見えて、前後左右がわからない。せっかく闇夜になじみかけていた目も戻ってしまった。

見かけ倒しの木の場所もわからなくなってしまった。

 

「隙あり!《ネコキック》!」

 

「ぐぅ!」

 

ブラックテイルモンのドロップキックがもろに腹に入った。さっき食べたものを戻しそうになる。

やばい、こんな攻撃連続で繰り出されたらもたないぞ。

 

「楽しい~!ほ~らもっとあがいてあがいて!」

 

くそ、調子に乗りやがって!わざと手加減して攻撃して遊んでやがる。

でもだめだ。あいつがどこにいるかまったくわからないから反撃ができない。

どうすれば……ん?

 

「嘘だろ?あのクワガタ野郎の羽音まで聞こえてきやがった。」

 

挟み撃ちにされたらひとたまりもないけど、クワガーモンにそんなことができる知能が備わってるとは思えないな。

そうえばあのブラックテイルモンの技、結構な光量出てたよな……。

一か八かやってみるか。

 

「おら!」

 

「おっと?目が慣れてきちゃったかな?じゃあもう一回《キャッツアイ》!」

 

俺の攻撃を避けたブラックテイルモンがもう一度強烈な光を放つ。

俺は光を受ける寸前に体を翻し、光を直接見ないようにした。

 

「むっ、避けるなんて生意気~《キャッツアイ》!《キャッツアイ》!《キャッツアイ》!」

 

俺がよけたのがよほど気に入らなかったのか、ブラックテイルモンは同じ技を連打してきた。

よし、そうしてもらった方が好都合だ。

 

「《キャッツアイ》、《キャッツアイ》!……ああ!もういいや、僕のスピードならこんな子細工しなくても大丈夫だ。もう遊びはおしまい!」

 

くっ、まだか!まだなのか?

 

「これでとどめぇ!《ネコパン「コアアアアア!!」うわぁ!」

 

ブラックテイルモンが俺にとどめをさそうと大振りになったその瞬間、クワガーモンがブラックテイルモンに向かって突っ込んだのだ。

クワガーモンが乱入したのはブラックテイルモンの《キャッツアイ》の光に引き寄せられたからだろう。

クワガタは光に引き寄せられる習性をもっているから、もしかしたらクワガーモンも同じ習性を持っているかもしれないと思ったのだ。

 

「なんだよお前!あっちいけよぅ!」

 

しかもあのクワガーモンは太一先輩たちと俺と、二回も敵を取り逃がしているから、今のあいつは相当イラついている。

もう誰でもいいからサンドバックにしてやりたいと思っているはずだ。

……外の破砕音が昼間よりもかなり激しい。クワガーモンは俺の想像以上に怒ってるらしい。

ブラックテイルモンを取り逃がせばさらに怒りのボルテージが上がるはず。

そうなるとあのクワガーモンは次の日も一日中暴れまわるんじゃないか?

 

「くそぅ!あれ?あいつどこ行った!?」

 

そしてもう一つ、奴の《キャッツアイ》で意外なことが分かった。

光が当たった部分をよく見ていると、不自然に光が反射した木があった。

ブラックテイルモンがクワガーモンに気を取られている間にその木を調べると、その木が俺が隠れていた見かけ倒しの木だったのだ。

 

「たしかその木だったはず。逃がさない~!」

 

いいぞ、飛び込んで来い。こっちの準備は万端だ。

 

「おりゃ~!《ネコパンチ》!」

 

「調子に乗んな!」

 

「ギニャー!?」

 

俺はブラックテイルモンの声から突入位置を予測して、タイミング図り奴の顔面に向かって木の棒をフルスイングした。

俺の会心の攻撃でブラックテイルモンは悲鳴を上げて外に転がって行った。

 

「このぉ!「コアアアア!!」え?う、うわぁ!」

 

さすが成熟期デジモン、あれをもろに食らってすぐに体制を立て直した。

しかし外に出たことによりブラックテイルモンは再びクワガーモンの猛攻にさらされる。

 

「お、覚えてろよ~!」

 

そんな捨て台詞を吐いてブラックテイルモンはクワガーモンの羽音と一緒に遠ざかって行った。

 

「……はぁ、はぁ。」

 

滅茶苦茶疲れた。もういいや。戦闘の反省とかは明日にしてしまおう。

それからすぐに俺は深い眠りについた。

こうして俺の大波乱のデジタルワールド一日目は終わった。

 

………………

……………

………

……

 

太一side

 

俺たちは砂浜にメッセージを残した後、どこかもっと拠点に相応しい場所はないかを探した。

そして湖を見つけてそこでキャンプをして夜を明かしたんだ。

ちょっとトラブルがあったけどな……

 

「さぁ、出発しよう。」

 

「そうですね、一晩立ってしまいましたし、急いで道を探さないと。」

 

信人がほんとに俺たちと一緒に来たなら、一人で夜を明かしたんだろうな。

まだ小学二年だし、相当不安だったに違いない。早く見つけてやらないと。

だけど、みんなの準備が整い、さぁ出発だということで聞き覚えのある嫌な羽音が聞こえてきた。

 

「ねぇ、この音って……」

 

「ま、まさか…!?」

 

「コアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「「「「「クワガーモン!?」」」」」

 

あのクワガーモンまだ生きていたのか!?

 

「焦るな、みんなであいつを追い払うんだ!」

 

前はアグモン達の一斉攻撃で追い払えたはずだ。今回も大丈夫なはずだ!

 

「《ベビーフレイムー》!」

「《プチファイヤー》!」

「《マジカルファイヤー》!」

「《プチサンダー》!」

「《エアーショット》!」

「《マーチングフィッシーズ》!」

「《ポイズンアイビー》!」

 

「よし、これで……あ!」

 

みんなの攻撃が当たる直前にクワガーモンは体を勢いよく回転させて攻撃をはじいた。

あいつ昨日よりも賢くなってやがる!

 

「おい、アグモン、進化だ!」

 

「ガブモン行けるか?」

 

「さっきからやってるけど……無理みたい。」

 

「俺もさっき進化して力使っちゃったから。」

 

となると残る手は……

 

「みんな逃げろー!!」

 

俺たちはクワガーモンが来た逆方向に向かって走りだした。

ごめん!信人。迎えに行くのはもう少し後になりそうだ!

 

 

 




「嘘だろ?」は主人公の口癖です。

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