デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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前回が好評で感想もたくさんもらったので、うれしくなってすぐに書き上げました。
おだてれれば木に登る作者です。



第19話 砂漠を進め!

 どこまでも続く青い空、適度に雲が散っていて非常に絵になる空が広がっていて、その空の下には生い茂るジャングル、遥か遠くでも見える巨大な峡谷地帯、地平線の彼方まで広がる海があった。

 そんな雄大な自然の中にも、鋼で構成された街があったり、森の中で突如出現する遊園地があったりと不自然な部分がところどころあるが、逆にそれが風景のアクセントとなっている気がする。

 さらにその自然や人工物のなかではデジモン達が悠々と生活していた。

 たまに縄張り争いをしている奴を見かけるが、この世界は概ね平和であった

 ここはどこだろうか?

 足元を見ると原っぱ、こんな緑豊かなところにいたはずではないが、このデジタルワールドの景色を見てるとそんな疑問はどうでもよくなり、まだまだこの風景を楽しんでいたかった。

 時折ちょうどいい温度の風が吹き、また太陽からの日差しもポカポカしていて非常に心地がいい。

 雄大な風景を一通り見回した後に、ふと空を見上げた。

 が、空の一角は初めに見たようなきれいな青空ではなかった。

 

 穴が、開いている。

 

 それは急激に広がり、あっという間に空全体を支配して邪悪な黒に染め上げてしまった。

 異変はこれだけでは終わらず、さらにその漆黒の空からは赤い何かが降り立ってきたのだ。

 この現象は紛れもなくスカルグレイモンが現れた時に起きた空の異変がひどくなったときのものだ。

 赤い影たちは穴の中で黒い波に揉まれたときとは違って、形をしっかりと保ちながら地上に降り立ち、平和に生活していたデジモン達を襲い始めた。

 低い姿勢で四つん這い、さらに巨大な羽のようなものをつけた竜の姿をした影はその顎でデジモンを食らい、槍のような鋭い尾を持つ影はデジモンを串刺しにし、8つの首を持つ影がそれぞれの頭でデジモン達を捕食していく。

 空を掛ける四足歩行の獣のような影が炎とも吐息ともとれるものを吐いてデジモン達を閉じ込め、卵形の体にアンバランスな四肢を持ち、体の中央に大きな口をつけた影がデジモンの体を食らい千切る。

 さらにやたら数が多いずんぐりむっくりとして何かを背負った人型の影と、悪魔のような姿をしてトライデントを持った影がデジモン達に群がることもあった。

 前者は人型ということもあって、あの時こちら側に来ようとしたアレを思い出させるが、あの影はアレじゃないと直感的に分かった。

 ただそんなことに安堵している場合ではなかった。

 先ほどまでのどかな風景とは一変し、海は荒れ、森には火が放たれて、鋼鉄の街からは時折爆炎が上がり、さらに辺りはデジモン達の悲鳴や怒号がこだまする阿鼻叫喚の地獄絵図となってしまっていた。

 俺はこの光景を目の当たりにして、あの影がデジモンなのかはたまた他の何かかは分からないがとにかく戦わないといけないと思った。

 ドラコモン!ハグルモンはどこにいる!?

 しかしどこを見回しても信頼するあいつらの姿は見えなかった。

 どうすることもできないのかと思いながら、今度は元凶となった空を睨み付けた。

 黒い空の中、ポツンと佇むアレがいた。

 他の影と異質で人間の姿をしたアレはこの光景を見てゲラゲラと笑いながら何かをしきりに叫んでいるように見えた。

 

「――シノ――ダ!」

 

 これまでデジモン達の悲鳴しか聞こえなかったこの世界に、また新たな音、というよりも声が追加された。

 

「―――、ワ―シノ――ダ!」

 

 間違いなく、アレの声だ。

 

「―ニモ――――イノママ!」

 

 声は思ったより普通であった。

 成人、いや、もう少し年を取った男性の声だろうか?

 ただデジモン達の悲鳴の中でも聞こえる部分ははっきりと聞こえて、さらにぶつ切りで聞こえてくるアレの声はひどく不気味だ。

 

「ワ―――カミ―!―――セ、ワタシヲ―――シタ――――モ!」

 

 よくは聞き取れないが、アレが狂気に染まりながら叫んでいることはひどく醜い欲望なのではないかと感じた。

 

「―――イハ――イ!コンド――ワ―――テ――レル!」

 

 赤いアレは両腕を叩く突き上げ、なおもゲラゲラと笑い続けていた。

 が、その直後。突如笑うのをやめて、さらにアレは俺の方に顔を向けたような気がした。

 

「イ―イ―――!マ―ワタシ―――マヲ―――カ!?」

 

 向けられたのは身勝手な憎悪を凝縮したような感情であった。

 アレの表情は依然分からないが、恐らく顔があれば同じような感情で染め上げられているだろう。

 だんだんと大きくそして鮮明になっていき、さらには憎悪まで込められた声に対して、俺の足は流石に震えてきた。

 アレは一体何なのだ?

 そんな疑問が恐怖に支配された俺の頭の中を埋め尽くして行った。

 ふと、デジモン達の声が聞こえて来なくなったことに気が付き、まさかと思ってアレから視線を外して周りを見る。

 もうそこには逃げ回るデジモン達の姿はなかった。

 力なく横たわるもの、無気力に襲われるのを待つだけのもの、仲間の屍の側で泣き崩れるもの、さらには食い荒らされて元の形を留めていないもの……デジモン達の平和な営みは完全に破壊されてしまっていたのだ。

 俺はそのあまりに凄惨な光景に唖然、愕然として膝をつき、アレはそんな姿の俺を嘲笑うようにしてまたゲラゲラと笑い出した。

 そしてアレは俺を指さして勝ち誇ったように宣言した。

 

「デジタルワールドは、私のものだ!!」

 

……………

………

……

 

「!!!」

 

「ギ……ギ……」

 

「グオオゥ……グゴ……」

 

「………はぁ~~~……最悪だ…」

 

 時刻はまだ黎明、朝日が昇り始めてそう時間が経ってないときに俺は悪夢によって最悪の形で目を覚ました。

 さっきの夢……どう考えても昨日のアレを見たせいだろう。

 まったく中身はいい年してるのにこんな子供みたいなことをと思いながら、寝汗でびしょびしになった体をどうにかできないかと思ってリュックの中を漁っていた。

 

「……ぅん…ふぁあ……」

 

「あ、空先輩。おはようございます」

 

 その時に朝日がちょうど差し込むところで寝ていた空先輩があくびをして眠い目をこすりながら起きてきた。

 ピヨモンも空先輩が起きると同時に身じろぎしだしたので、すぐに起きて来るだろう。

 

「おはよう信人君……どうしたの、その汗?」

 

 あぁ~やっぱり突っ込まれるか。

 気付かれる前に何とかしたかったんだが……

 

「あ~何か夜中暑かったみたいですね。ほら、俺って先輩達と違って長そでじゃないですか」

 

「う~ん、そんなに暑かったかしら?でもそのままじゃ風邪ひくから、焚火にあたって乾かしましょう」

 

「はい」

 

 空先輩は起きたばかりのピヨモンと俺を連れて昨日焚火をした場所まで行き、予備の薪にピヨモンの≪マジカルファイアー≫で火をつけてくれた。

 その後空先輩は他の先輩達を起こしに向かい、俺は出発するまでには乾くかな~とか考えながら焚火にあたっていた。

 夢というのは結構簡単に忘れてしまうもので、もうほとんど昨日見た悪夢の内容を詳細には思い出せなくなっていた。

 ただ、アレの言葉だけははっきりと覚えていた。

 

「デジタルワールドは私のもの……とかふざけたこと抜かしてたな」

 

 あの時は不覚にも怖いと思ってしまったが、改めて冷静に考えてみると身勝手な奴だと思い腹が立ってきた。

 それに俺の安らかな睡眠を妨げたのもいただけない。

 

「それにしても……縁起が悪い夢、だったよな?」

 

 どうも最後のアレ以外の印象が薄くなっているようで、デジモン達が何かに襲われていたような気もするし、非常にのどかな風景の中でのんびりしていたような気もする。

 ……まぁ、所詮夢だし。深く気にする必要もないか。

 

「ギギ、オハヨウゴザイマス」

 

「ハグルモンか、昨日は眠れたか?」

 

「ハイ。……マスターハ……」

 

「これは夜中暑かったら寝汗をかいたんだ。別にアレが原因じゃない」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ソウイウコトニシテオキマス」

 

「……まぁもうアレはほんとに気にしないことにしたから安心してくれ」

 

 ハグルモンはその言葉を信じてくれたようで、後は何も言わずに俺の隣に寄り添うだけとなった。

 俺って分かりやすいのかな~、割と死活問題なんだけど……

 悪夢の事より俺の異変をハグルモンに看破されたことが気になり、俺は顔をペタペタと触りながらうんうんと唸っていた。

 暫くそうしていると朝ごはんの準備をするために先輩達に呼ばれ、体もだいぶ乾いていたのでハグルモンと共に先輩達の元へ向かっていった。

 

……………

………

……

 

 あの後朝ごはんを食べてすぐに出発し、俺達は砂漠の中を歩いてきた。

 最初の内は朝早くて涼しかったのでみんな元気だったのだが、日が高くなるにつれてどんどん口数が少なくなっていき、今は励まし合って何とか歩みを進めているような状態だ。

 しかし、その中でやたら元気に歩いているやつがいた。

 

「なぁ~あの話って本当だよな?」

 

「朝からそればっかりだな……先輩達もOK出してくれたし大丈夫だよ」

 

 ドラコモンだけは他のデジモン達とは違い、スキップするのではないかとぐらい上機嫌で元気に歩いていた。

 あの話というのは、昨日の夜に俺が先輩達に提案したことだった。

 俺はデビモンの時から戦いが不完全燃焼になり、不満が溜まっていたドラコモンに対して何とかしてやれないかと考えた。

 そして、次の敵はドラコモンに任してほしいと先輩達に提案したのだ。

 最初は先輩達の反応は芳しくなかったが、危なくなったらすぐに助力に入ってもらうことを条件に了承してもらった。

 太一先輩があまり強く反対できなかったのが勝因だな。

 ドラコモンが昨日の戦いで不完全燃焼だったのはまぎれもなく太一先輩が原因だったから……

 昨日の一件で太一先輩に対して厳しい態度だったドラコモンも、この提案が通ってからはとりあえずは怒りを収めたようだ。

 次の敵は俺の記憶が正しければ成熟期のコカトリモン、能力自体は結構強かったけど戦闘能力はトゲモンの一撃でノックアウトされるぐらいだからドラコモンでも勝てるだろう。

 ドラコモンははやく敵が来ないかな~などとのんきに言っていて、実は俺もはやく原作通りに砂漠を進む船が来ないかな~と思っていた。

 朝の寝汗に加えて、今はこの炎天下に晒されているせいで汗をかいてしまい、シャワーを浴びたり服を洗濯したいからだ。

 それに加えてもう一つ企みがあるのだが……と、そこまで考えたところで前方が何やら騒がしくなってきた。

 

「みんなー!あの巨大なサボテンの日陰に入るんだ!」

 

 ドラコモンから視線を外して先輩達の方を見ると、前方に見える巨大なサボテンに向かって走っていくところであった。

 しかしそんな先輩達を見た俺達の反応は……

 

「蜃気楼だな」

 

「蜃気楼デスネ」

 

「蜃気楼なのか?」

 

 かなり先輩達とは温度差があった。

 この距離ならあのサボテンが作る日陰がちゃんと見えるはずだし、こんな大きいのに今まで気づかないはずがないしな。

 ドラコモンは先輩達ほど疲れているわけではなく、というより元気がありあまっているので日陰に執着することないので蜃気楼であると気付かなくても走ることはしなかった。

 ハグルモンは持ち前の洞察力で看破したようだ。

 

「はぁ~、あれ?信人君は?」

 

「ここだよ。まったく不自然に思わなかったのか?」

 

「あー!信人君気付いてたの!?なんで教えてくよ無かったのよ!」

 

「あれは走りだす方がどうかしてる気がしますが……」

 

 俺が先輩達にゆっくりと歩いて追いつくと、ミミ先輩に文句を言われて他の先輩達が非難の目を向けてきた。

 

『選ばれし子供達……選ばれし子供達よ』

 

 と、その時に辺りに老人の声が響き渡り、そしていつもの立体映像通信装置が地面から姿を現した。

 装置が起動して、光の柱から現れたのは案の定ゲンナイさんであった。

 

「やい爺ぃ!お前の言う通りタグに紋章を入れて敵と戦ったけど、ちゃんと進化しなかったじゃないか!それどころか、かわいそうにアグモンはコロモンにまで退化しちゃったんだぞ!」

 

「アタシ、紋章なんていらない!」

 

 太一先輩とミミ先輩は非難の声を上げ、あの光景を目の当たりにした他の先輩達も何か言いたげな目でゲンナイさんを見ている。

 

『落ち着け、選ばれし子供達。望むと望まざるに関わらず紋章はお前たちのものとなる。タグと紋章は互いに惹かれあう性質を持っておるかの~』

 

 間延びした声でゲンナイさんは答えて、先輩達はそんな~って言いたそうな顔でゲンナイさんの次の言葉を待った。

 

『アグモンがコロモンに退化した理由を話そう。たとえタグと紋章を手に入れても、正しい育て方をしなければならんのじゃ』

 

「正しい育て方?」

 

『そう。正しい育て方をしなければ正しい進化をすることはできん』

 

「正しい育て方ってなんだよ?」

 

『選ばれし子供達よ!正しい育て方を考えるのじゃ!それが……』

 

 ここまで言うとまた映像は乱れ、最後の言葉を聞くことができないまま通信は終了してしまった。

 

「あぁ~!あの爺、いっつもわけの分からないことばかり言いやがって!」

 

「正しい育て方だって~」

 

「俺達、正しい育てたされてるのかな?」

 

「ガブモン、ちょっと待て!」

 

 デジモン達の発言を皮切りに、先ほどゲンナイさんが言ったような正しい育て方はできているのかという話になった。

 しかし先輩達の発言はどれも弱気なことばかりで、自分が正しい育て方ができているのか自信が無いようだ。

 

「信人君はどう思う?」

 

 その話の中で空先輩が俺はどのように思っているかを聞いてきた。

 俺はハグルモンとドラコモンにそれぞれ目を向けて考える。

 俺の場合、先輩達のデジモンみたいに定められた進化先は存在せず、正しい進化先というのも存在しない。

 強いて言うならウィルスだとかワクチンとか属性の話になるのだろうが、たしかハグルモンってウィルス属性だからそのことも特に気にしてないんだよな。

 むしろコンピューターウィルスうんむんで非常に助かってる。

 あぁ~でもチコモンからベビドモンに進化したときみたいに性格が変わるのはちょっといやかもしれない。

 今更饒舌なハグルモンとか弱気なドラコモンとか想像できないし。

 

「なんだよ?」

 

「お前が進化したらどうなるか考えてただけだよ」

 

「信人君、進化させることが怖くないの?」

 

「ドラコモンが進化したいって言ってるんだから止める理由ないですよ。それに、どんな姿になってもこいつらはこいつらです」

 

「おう!あいつみたいに暴走なんて……むぐぅ!」

 

「余計なこと言うな」

 

 今の先輩達の状態であの話題を出すのはタブーなのでドラコモンの口を塞いだ。

 

「あと正しい育て方についてですけど、まぁそんなに気にする必要ないと思いますよ」

 

「どうして?」

 

「ピヨモン、おまえ空先輩のこと嫌いか?」

 

「そんなことない!空のこと大好きだよ!」

 

 ピヨモンはまぶしいくらいの満面の笑みで答え、空先輩にすり寄って「そ~ら~♪」などと言ってじゃれついていた。

 

「だろ?俺は正しい育て方ってのはパートナーとの信頼関係を構築しているかどうかだと思います。空先輩とピヨモンを見ている限りその心配はなさそうですね」

 

「そうかしら?でも、トレーニングとか食事とかに気を使うことは……」

 

「敵に追われてる状況でトレーニングなんてできないですし、栄養バランスなんて食料集めるだけで手一杯なんですから考えられないですよ」

 

「そうよね~……あら?」

 

 空先輩は何か見つけたようで、会話を中断して前方に視線を向けた。

 前方からは普通ならまずこの砂漠でみることはないはずの船という乗り物が船首をこちらに向かって来ていた。

 

「軍艦だ!」

 

「いいえ!豪華客船よ!」

 

 この非常識な光景を目の当たりにした先輩達は困惑するが、あれが蜃気楼などではなく実物だと分かると大慌てで船の航路から退避した。

 すると豪華客船は俺達の目の前でピタリと止まり、船の上から水兵服を着たヌメモンが姿を現した。

 コロモンの体力を心配した太一先輩がヌメモンに休ませてくれるように頼むが、ヌメモンの反応は芳しくなかった。

 

「よし!ここは俺が一発ガツンと……」

 

「大人しくしてろ」

 

「ヌメモンのことならアタシに任せて!ヌメモーン!アタシ達疲れてるから、この船でちょっと休ませてくれない?お・ね・が・い♡」

 

 強硬手段に出ようとするドラコモンも抑えている間に、ミミ先輩がヌメモンに対してお色気?攻撃を仕掛け、ミミ先輩のウィンクに悩殺されたヌメモンはへたりこんでしまう。

 その後暫くしてから船の上からタラップが下りてきた。

 先輩達は喜び勇んでタラップを駆けあがり、俺もその後に続いてタラップを上がった。

 船内に入るとまさに豪華客船と言った内装をしていて、先輩達はエントランスで別れて思い思いの行動をしはじめた。

 

「マスター……」

 

「不自然だって言いたいんだろ?まぁでも先輩達疲れてるし、俺だってシャワーとか浴びたいからな……」

 

「気付イテイルナライイデス」

 

「ドラコモンはどうする?」

 

「俺は飯が食いたい!」

 

「じゃあヤマト先輩に付いていけ。あの人飯を探しに行ったはずだから。俺はシャワー浴びに行ってくる」

 

「おう!」

 

 ドラコモンは威勢のいい返事と同じくらいの勢いでヤマト先輩の後を付いていった。

 俺もハグルモンと一緒に適当な客室に入り、バスルームでシャワーを浴びることにした。

 

……………

………

……

 

「あぁ~やっとすっきりした。あれ?俺の服は?」

 

「洗濯ニ出シマシタ。代ワリニコレヲドウゾ」

 

「ほんとお前は気が利くよな。ありがとな」

 

「ギギ♪」

 

 ハグルモンから渡されたのはヌメモンが着ていたであろう水兵服で、何故かズボンまであった。

 ヌメモンが着ていたということで少々着るのに抵抗があったが、ハグルモンによると洗濯して干されていたのを拝借してきたということなので安心して着ることができた。

 ……ヌメモンって洗濯するんだな。

 まぁでも腐っても豪華客船の船員なんだからマナーとかは教えられてるのかもしれない。

 

「よし、これからどうするか……」

 

「敵ヲ探シマスカ?」

 

 ハグルモンはどうやらこの船が敵のものであると確信しているようだ。

 普通に考えれば、エテモンが支配している地域でこんな巨大な乗り物が無許可で運航しているはずがないからな。

 

「……ハグルモン、この船って操縦できそう?」

 

「調ベテミナイコトニハ何トモ……シカシ相当目立ツカト」

 

「エテモンに分からないように乗っ取ればいい。察知されたら逃げるだけだ。とりあず目指すのは操舵室か」

 

 俺が考えていたもう一つ企みというのは、ずばりシージャック……いや砂漠でやるからデザートジャック?いやいや、船を乗っ取るわけだからそれは違うような……まぁようするにこの船を乗っ取って移動しようという魂胆だ。

 ハグルモンも俺の提案には特に反対意見はなく、俺と一緒に船の上部にあるであろう操舵室を目指して行った。

 コカトリモンがいるかもしれないが、その時はドラコモンに押し付けてからもう一度そこへ行くことにしよう

 

 この船はかなり大きいので時間は掛かったが、何とか船の上部にあった操舵室にたどり着くことができた。

 

「……中には誰もいないな」

 

「屋外ノコンソールニモ誰モイマセン」

 

 あれ?コカトリモンがここにいないってことはもう戦闘は始まっているのだろうか?

 チラリと下にあるプールを見ると、そこで羽休めをしているはずの太一先輩と丈先輩の姿はなかった。

 どうやらもう戦闘は始まっているようだが、まぁ大事にはならないはずだからこっちの都合を優先させよう。

 ちなみに石になったデジモン達は物陰に入っているのか見えなかった。

 中に入ると舵輪や何かの機械があり、監視カメラのモニターらしきものもあったが今は起動していなかった。

 

「どうやったら操縦できるか分かるか?」

 

「……何所カニケーブルノヨウナモノガナイデスカ?」

 

「え~っと……あ、これでいいか?」

 

 部屋の中を見回してみると、段ボールの中に詰め込まれた黒いケーブルを発見した。

 それをハグルモンに渡すと、一方の端子をコンソールに差し込み、もう一方の端子を口にくわえてそのまま動かなくなった。

 

「……中枢コンピュータ掌握……全情報ヲ開示……ナルホド」

 

「どうなんだ?」

 

「中枢コンピュータヲ掌握シタノデ、操縦ハ問題ナイデス。コノ船ハダークネットワークトイウトコロカラエネルギーヲ供給サレテイテ、ソノネットワークハエテモンガ掌握シテイルヨウデス」

 

「となると、この船を使うのはまずいか?」

 

「イエ、先ホドエテモント通信ヲ試ミタヨウデスガ、ネットワーク不調ノタメ繋ガラナカッタヨウデス。ソレニエネルギーハアル程度備蓄デキルヨウナノデ、ケーブルヲ切ッテ残リノエネルギーガ切レルマデ航行スル選択モデキマス………!マスター、コレヲ見テクダサイ」

 

 ハグルモンがそう言った途端、今まで機能していなかったモニターが起動して監視カメラの映像だと思われる映像が映し出された。

 そして食堂とプールに石化しているデジモン達の姿が映し出され、さらに空先輩とミミ先輩が必死な様子で廊下を走っているのが映し出されていた。

 

「もう敵が動いたか?」

 

「ソノヨウデス。アレガ敵ノヨウデス」

 

 ハグルモンの示した画面を見ると、今しがた客室から出てきたコカトリモンが走り去っていくところだった。

 

「情報ニヨレバアレハコカトリモンデス。デジモンガ石化シテイルノモアノコカトリモンノ能力デス」

 

「そうか……あれ?」

 

 ここで俺はドラコモンはどこに行ったのだろうかと思った。

 たしかヤマト先輩と一緒に食堂に向かったはずだが、食堂には3体のデジモンの石像しかないし、ヤマト先輩達の姿もない。

 

「ハグルモン、ドラコモンはどこにいるか分かるか?」

 

「少々オ待チヲ……コチラデス」

 

 画面の一つが切り替わると、そこには大勢のヌメモン相手に大立ち回りをしているドラコモンの姿が映っていた。

 たぶん、ヌメモンに襲われた時点で敵の親玉がいると考えたドラコモンは、そいつを探しにヤマト先輩達を置いて食堂から飛び出したのだろう。

 

『こんな雑魚じゃ相手にならねぇぜ!親玉出てこいやぁ!』

 

 ドラコモンはそんなことを叫びながらヌメモンを千切っては投げ千切っては投げといった具合に数の不利をものともせずヌメモン達を圧倒していた。

 

「マスター、コレハマズイノデハ?」

 

 ハグルモンの指す画面は先ほど空先輩達が映っていた画面であり、そこにはコカトリモンが追加されていた。

 たしかにあの狭い空間では進化することはできないのでまずいだろう。

 

「ハグルモン、ドラコモンはどの位置にいる?」

 

「チョウドオ二人ノ廊下ノ真上デス。床ノ中ニハ特ニ重要ナモノハアリマセン」

 

「だったら……マイクはこれか」

 

 俺はマイクを見つけるとハグルモンに艦内すべてに放送が聞こえるように調整してもらった後にドラコモンに指示を出した。

 

「ドラコモン!足元の床をぶち抜けば親玉がいるぞ!」

 

『信人か?気が利くじゃねぇか、≪ジ・シュルネン≫!≪ジ・シュルネン≫!』

 

 画面の向こう側のドラコモンはこの言葉を聞いた途端に真下の床に向かってビーム弾を打ち出し始めた。

 空先輩達の方は突如聞こえた俺の声に対してコカトリモンと一緒に困惑している。

 そしてちょっとするとどこからともなく聞こえてきた破砕音が聞こえたようで、まさかと言った顔で天井を見始めた。

 そして次の瞬間、

 

『おっしゃー!開通!お前が親玉か?』

 

 コカトリモンの真上の天井が突然崩れて、その中からドラコモンが堂々と姿を現した。

 

『な、何モンガヤー!?』

 

『通りすがりのドラコモン様だー!!≪テイルスマッシュ≫!』

 

 ドラコモンは啖呵を切るとそのままコカトリモンとの戦闘に入った。

 まずはドラコモンの先制攻撃をコカトリモンは自らの羽で打ち払ってそれを迎撃、ドラコモンはとりあえずバックステップで距離をとった。

 

「そいつが放つ光線は当たると石化するから気をつけろ」

 

『じゃあ当たるわけにはいかねぇな。当たっちまったら戦えなくなっちまう!』

 

 ドラコモンを俺の忠告を聞くとスピードを上げて走ったり廊下の壁を使って飛んだりして的を絞らせないように動き回った。

 しかし俺は少々その動きに不安を感じる。

 

『チョロチョロ鬱陶しいがや!≪ぺトラファイヤー≫!』

 

『おっとあぶねぇ!』

 

 コカトリモンが必殺技の怪光線を放ち、ドラコモンはそれを間一髪のところで躱した。。

 やっぱり廊下が狭くてドラコモンのスピードが生かし切れていないようだ。

 

「ドラコモン、そこじゃ戦いにくいだろうから外まで行け!空先輩達もとりあえず避難を!俺が誘導します!」

 

『分かったわ!行きましょうミミちゃん!』

 

『たしかにここじゃ戦いにくくて仕方ねぇや!』

 

 空先輩達とドラコモンは俺の指示に従って外の甲板を目指す。

 コカトリモンももちろん追ってくるが、俺の指示でドラコモンが牽制攻撃を放っていたので、かなり余裕を持って逃げることができた。

 

「ここなら思いっきり戦えるぜ!」

 

 ドラコモンが甲板に出ると同時に俺とハグルモンも操舵室から出て、屋外にあったコンソールのある場所から甲板を見下ろしたところ、ドラコモンの声が下から聞こえてきた。

 ちょうどドラコモンがコカトリモンと対峙しているところで、空先輩は俺が昨日提案した約束を守っているようで、二人の戦いを静観してくれるようだった。

 

「よし、ぶちのめしてやれドラコモン!」

 

「言われるまでもねぇ!」

 

 勢いよく答えたドラコモンは持ち前のスピードを最大限に発揮し、コカトリモンの周りを縦横無尽に駆け巡った。

 

「コカ?コ、コカ?ココカ!?」

 

 コカトリモンはドラコモンのスピードにまったく対応することができず、一瞬遅れでドラコモンがいた場所を追うだけで精一杯だった。

 

「≪テイルスマッシュ≫!」

 

「ゴケェ!?」

 

 ドラコモンの尻尾による一撃がコカトリモンの首筋にヒット。

 

「≪ベビーブレス≫!」

 

「あち!あちちち!羽がぁ!?」

 

 さらにドラコモンの吐いた高温の息がコカトリモンの羽を焦がす。

 その後もドラコモンのスピードにまったくついていけないコカトリモンは反撃する暇もないまま頭突きやら噛みつき攻撃など、最近鬱憤のたまっていたドラコモンの様々な攻撃に晒される。

 コカトリモンは反撃もできないようで、昨日のグレイモンよりひどいタコ殴り状態、哀れコカトリモンはどんどんぼろ雑巾のようになっていく。

 ドラコモンって強いよな~と他人事のように思いながら戦いを眺めていると、もう直ぐドラコモンはフィニッシュに移るようだった。

 

「これでどうだぁ!≪ジ・シュルネン≫!」

 

「コ、コカーーー!………」

 

 ドラコモンのビーム弾攻撃をまともに食らったコカトリモンは吹き飛び、船首にあった柵を飛び越えて船の下の砂漠へと落ちていった。

 

……………

………

……

 

「満足したか?」

 

「う~ん、弱かったけど最後まで暴れられたからいいや」

 

「ならよかった」

 

 戦いの終わったドラコモンはすっきりした顔をしていて、俺は提案した甲斐があったと思って満足していた。

 コカトリモンを撃破すると同時にデジモン達の石化は解け、日干しという謎の処刑方法を選択された先輩達も空先輩達に救出された。

 その後すぐにタラップが下りてヌメモン達が水兵服を脱ぎ棄てて船から出て行った。

 

「この船は危険ですから、僕達も出発しましょう」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「なんだよ信人……ってなんだその服?」

 

「服を洗濯しちゃったんで代わりにこれを着てるんです。それよりも……」

 

 俺は泉先輩の懸念を遮り、そして太一先輩達にこの船を使って移動しないかという提案をした。

 今ならエテモンに見つかる危険性が低いことを説明すると、これまでの徒歩の移動に疲れていた先輩達は俺の提案に嬉々として乗ってきた。

 一応この船に繋がっているケーブルは切断することにして、出発前にガルルモンにケーブルを噛み切ってもらうことにした。

 目的地は特に決めておらず、タグに反応があったら止まるということぐらいしか決めずに砂漠を航行することになった。

 俺は操縦を任されたのでハグルモンと一緒に操舵室に行って、ガルルモンが仕事を終えて帰ってくるのを待った。

 

「……よし、合図が来た。出発させてくれハグルモン」

 

「了解!」

 

 ガルルモンが船に乗るのを確認し、操舵室にいた俺はハグルモンに船を出すように指示をした。

 船はゆっくりと動き出し、特に問題なく航行できるな~と思ったところで……

 

――――コケーーー…………

 

「………」

 

「………」

 

「……異常なしだろ?」

 

「異常ナシデス」

 

 なんか轢いたような気もするが、きっと気のせいだ。

 

 暫く航行していると、ハグルモンがコントロールが効かないと言ってきた。

 

「どこに向かってるか分かるか?」

 

「アノ巨大サボテンデス」

 

 操舵室の窓から外を覗くと、たしかに昼ごろに見た蜃気楼のように大きなサボテンが見える。

 俺は異常事態なので甲板に出て警戒してほしいと艦内放送で先輩達に言って、さりげなくサボテンと接触するように誘導した。

 艦内で休んでいた先輩達が甲板に出て来るころには、船はサボテンに横づけするように停泊した。

 操舵室から先輩達の様子を見るとみんな巨大サボテンを仰ぎ見ている。

 俺も釣られてサボテンの上部を見ると、そこにはピンク色のきれいな花が咲いていて、その中から紋章のついた石板が出てくるところだった。

 その石板は正面が先輩達に見えるように向きを変えると、光り輝いて小さくなりながら徐々に下降してきた。

 そしてその石板はミミ先輩の元に降り立ったように見えた。

 

「紋章デスカネ?」

 

「みたいだな。これがタグと紋章が惹かれあう性質ってやつか」

 

 こんな大きな船を引き寄せるほどの力に驚きながら、心配そうにミミ先輩を見つめる先輩達を操舵室から見守った。




夢ってあまり覚えてられないですよね。
でも作者はひとつだけ怖い夢を覚えています。
自分がおばあちゃんの家に二階にいて、そこにバイオのタイラントみたいな顔をした人間がたってたんですよ。
しかも瞳孔が開いた目を持ってる。
慌てて階段駆け下りて外に出たんですけど、外に出るとカターン、カターンって瓦を踏みながら屋根の上を飛んで追ってきてるみたいなんですよ。
で、その音がかなり近くに来た時に目が覚めました。
目を覚ました時は心臓バクバクで、しかも屋根の上を歩く音がまだ聞こえていたような気がするんですよね。
もちろん汗びっしょりでした。

笑えた夢と言えば、なぜか友達が書初めで「退職届」って書いている夢でした。
まだ学生なのになぜ?

次の話は久しく書かなかった原作には登場しないデジモンを登場させる話にしたいと思います。

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