デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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今回もまた長くなりました。



第18話 暗黒進化!浸食される青空

 選ばれし子供達一行は今、行くあてもなく砂漠を歩いている。

 

「どこまで行くの~?」

 

「紋章が、あるところまで」

 

「しかし、よく考えればこの広い大陸の中を探し回れってのは無理があるな」

 

 原作ではエテモンから逃げるために歩いていたが、今は紋章を求めて歩いている。

 しかし先輩達はあてのない旅路にモチベーションが保てないのか、原作とはまた違った形で弱気になっていた。

 

「エテモンというデジモンだっていつ襲ってくるか分かりません」

 

「そのエテモンってどれくらい強いのかな?」

 

「情報がないので何とも言えませんが、もう一段上の進化が必要というなら相当強いのではないでしょうか?」

 

 旅路の目的は紋章であるが、エテモンの事を全く気にしていないというわけでもなく、これも悩みの種の一つだった。

 どうも先輩達は先の見えない不安にとらわれているようで、先輩達の雰囲気は暗いものであった。 

 

「なんだなんだ!そんな弱気でどうするんだよ!」

 

 暗い雰囲気の他の人たちに向かって大きな声で太一先輩が一喝を入れた。

 他の先輩達とは違って太一先輩は活き活きとしているが、その様子からは一人で突っ走っているような危うさを感じた。

 

「俺達には紋章があるじゃないか!」

 

「それはそうだけど、紋章があればほんとに進化できるのか?」

 

「できるさ、なぁアグモン?」

 

「ん~……」

 

「しゃきっとしろよな。今はお前だけが頼りなんだから!」

 

「頼りにしてまっせ~」

 

 太一先輩はヤマト先輩の問いに間髪入れずに答えてアグモンに同意を求めるが、当の本人は自信なさげな声を出すだけだった。

 太一先輩はそれをよしとせず、アグモンを叱咤した。

 

「それに紋章だってどこにあるか分からないのよ?」

 

「それは……まぁ俺の時みたいに何とかなるさ」

 

 空先輩に紋章のことも追及されたが、こっちは全く根拠のない楽観的な観測を太一先輩は返してきた。

 

「まぁないものより今あるものを考えようぜ。どうやってアグモンが進化できるかだけど……」

 

 太一先輩は何か言いたそうな空先輩の視線を強引に遮って話題を転換した。

 

「今まで進化で分かっていることは、進化には大量のエネルギーを消費することです。腹ペコの状態じゃ、進化できませんでした。それと、パートナーが危険になった時です」

 

「後者はあてにしない方がいいですね。危険すぎます」

 

 俺は一応、泉先輩が言ったもう一つの条件をとらないようにと発言しておく。

 まぁこの程度じゃ太一先輩は止まらないだろうけど……

 

「ふ~ん。それじゃあもう一段上に進化するためには、相当なエネルギーが必要なんだろうな?」

 

「うぅ……」

 

 太一先輩は何かを期待するような目でアグモンを見て、アグモンは太一先輩が何を考えてるか大体予想が付いているようで顔を引きつらせてる。

 

「そうだ、信人君の意見は参考になりませんか?」

 

「信人の意見だって?」

 

 泉先輩に急に意見を求められた俺は驚き、太一先輩も疑問に思っている。

 

「信人君はデジヴァイスがなくても進化させてますし、そこに何かヒントがあるんじゃないでしょうか?」

 

「なるほど……で、どうなんだ信人?」

 

 これはひょっとするとチャンスなのかもしれない。

 ここでうまく立ち回ればアグモンを原作のようにスカルグレイモンに進化させないようにできるかもしれない。

 

「……ドラコモン達の場合は、トレーニングとか戦うことで経験を積んで進化したって感じです。先輩達のデジモンはこいつらと違って特別らしいですけど、基本とまったく違うってわけじゃないと思うんですよ」

 

「トレーニングはしてないけどさ、戦いならだいぶやってきたぜ」

 

「そうですね。だから経験は十分だとして、エネルギーの事なんですが……太一先輩、まさか食べさせたら食べさせただけエネルギーが溜まると思ってないですよね?」

 

「え?違うのか?」

 

「自分に置き換えて考えてみてください。食べたら食べた分だけ体力がつくことがありますか?」

 

「……いや、食べ過ぎると動けなくなるってサッカーの監督が言ってたな」

 

「でしょ?デジモンだって同じはずです。それに、俺はエネルギーよりも経験が大事だと思うんですよ。何か心当たりはないですか?」

 

「そうえば……デビモンに騙された日だったかしら?あの日にいつの間にか一日に二回進化できたのよね」

 

「それは恐らく戦いの中で得られた経験によるものじゃないでしょうか?」

 

「たしかにそうとも考えられます」

 

「でも、経験ならさっき十分だっていったよな?」

 

「はい。だから俺は今のアグモンは進化する力を十分持っていると考えています。だからそんなに気負う必要なんてないんですよ。腹をすかせないように気をつけてればそれでいいと思うんです」

 

「う~ん、まぁとりあえず食べ過ぎはよくないってことは分かったよ」

 

 俺の特別なことをする必要はないとの結論に対して、太一先輩はどこか納得のいかない様子だったが、アグモンに限界を超えて食べさせることはやめてくれたようだ。

 

「それと、ワイズモンの館で通信したときにゲンナイさんは選ばれし子供達の気持ちや心に反応して進化するとも言ってました」

 

「じゃあ、進化しろー!ってお願いすれば、パルモン達は進化してくれるの?」

 

「う~ん、そういう直接的なことよりも動機が大事だと思うんですよね」

 

「誰かを助けたいとか、そういう事でしょうか?その言葉はパートナーが危険になったときに進化するということを示してるような気がします」

 

「あぁ~もうややこしくて仕方ねぇや!ようするに、弱気になるな!腹を空かすな!ってことだろ?じゃあまず腹を満たすことにしようぜ!」

 

 太一先輩はこれ以上議論することを嫌ってか、強引に話を切り上げて昼食にしようと言い出した。

 ちょうど少し先には休むのにピッタリな水場が見えていた。

 

「やったー!これで休めるわー!」

 

「あぁ、ミミ待って!」

 

 それを見つけたミミ先輩は懲りずに昨日と同じ具合に一人で突っ込んで行ってしまった。

 ミミ先輩の行動には溜息を禁じ得なかった他の先輩達だが、疲れていることは事実なので話を切り上げてオアシスへと足早に向かって行った。

 太一先輩の危なっかしい雰囲気は若干やわらいだものの、それが完全になくなったわけではなかった。

 

 水場に着くと持ってきた食料やこの場で集めた食料を持ち寄って昼食となった。

 原作のように太一先輩が独り占めして、限界を超えてアグモンに食料を食べさせるということはなかったが……

 

「アグモーン!!もっと腰を入れて走れー!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

「たしか、俺の気持ちも大事だったよな……よっしゃー!絶対エテモンに勝って見せるぞ!」

 

「太一~もうだめ~」

 

「何言ってんだアグモン!お前の力ならできる!もっと熱くなるんだ!俺も一緒に熱くなるぞぉ!!」

 

「……どうしてこうなった」

 

 その代りに太一先輩はアグモンに対して無理なトレーニングを仕出し、太一先輩もどっかの元テニスプレイヤーのように熱血になってしまった。

 どうも俺の言った経験と気持ちというものをはき違えてしまったらしい。

 俺も先ほどやめるように言ったのだが、今のままじゃ駄目だとかもっと強くなれるはずだとか言って聞く耳持たず。

 エテモンと戦ってもいないのに何を言うかという感じなのだが……

 先の見えない不安のせいだろうか?

 太一先輩は居てもたってもいられなくなってこのような感じでトレーニングをしているようだ。

 このままじゃスカルグレイモンになる展開は避けられそうにないな……

 

「太一……何かいつもと様子が違う」

 

「一体どうしたんでしょう?」

 

「大方、紋章を自分しか持ってないから自分だけが頼りだと勝手に思ってるんでしょう。そんなに焦っても仕方ないと思うんですけどね~」

 

 俺は空先輩と泉先輩の話に辟易した声で割って入った。

 

「今更あんな付け焼刃なトレーニングしても意味がないのに、こういう時は焦らず自分の最大限の力を出すことだけを……?」

 

 そこまで言ったところで横を見ると、空先輩と泉先輩がぽかーんとした顔でこちらを見ていた。

 

「えっと……俺の顔に何か付いてますか?」

 

「ううん……なんか、私達よりも小さいのに随分大人っぽいこと言うな~と思って」

 

「何か、悟ってるって言う感じですよね」

 

「あ、いや!これ父さんからの受け売りですよ!ほら、覚えた言葉を直ぐ使いたがる一般的な子供の思考ですよ!あは、あははははは!」

 

「そうでしょうか?僕らの事も先輩って呼んでくれますし……」

 

「その年にしては、敬語だって完璧よね……」

 

 あぁまずい、つい子供らしくないことを口走ってしまった。

 一応言い訳は言ったものの、追及が止むことはなさそうだ……どうしよう。

 

「おいみんな見ろ!僕のタグが光ってるぞ!」

 

 ナイスタイミング丈先輩!

 空先輩達は丈先輩の言葉の方に気を取られ、もう俺に対してさっきの事を追求することはなくなったようだ。

 できればそのまま忘れてほしいものだが……

 何はともあれこの言葉は太一先輩でも流石に無視できるものではなく、アグモンのトレーニングをやめさせて単眼鏡で辺りを探し始めた。

 

「……ん?あっちに建物が見えるぞ!」

 

 俺も双眼鏡を持っているので、太一先輩の見ている方向を覗いてみた。

 そこには石造りの柱やアーチが砂の中で乱立していて、それらの中央に古代ローマを思わせるコロッセオが建っていた。

 よく見ると何故かオーロラビジョンのようなものまで設置されているのが見える。

 

「きっとそこに僕の紋章があるんだ!」

 

 そう言って丈先輩はいの一番に走っていこうとしたが、途中で何かに足を取られて派手に転んでしまった。

 あ~、できればあのケーブルに引っかからないようにしてほしかったんだけど……

 あれはエテモンがサーバ大陸に張り巡らせたダークネットワーク構成するケーブル、今丈先輩が躓いたことで俺達の居場所が知られてしまった。

 こうなるとあのコロッセオでエテモンの手先が襲ってくるはずだ。

 そうとも知らず、先輩達は丈先輩を追ってコロッセオに向かって走って行った。

 

 コロッセオに到着すると、案の上アグモンは先ほどのトレーニングの疲れが出てしまってへたり込んでしまった。

 太一先輩はそんなアグモンを叱咤するが、丈先輩がそれを諌めて、他の人は休んでおくようにと言った後に紋章を探し始めた。

 太一先輩もそれに続いて探し始めるが、他の先輩達はサッカーボールとサッカーゴールを見つけてそれに目を奪われてしまっている。

 まぁ丈先輩が休んでていいっていったしな……

 しかし太一先輩はそれをよしとせず、飛んできたボールを遠くに蹴っ飛ばしてみんなを叱り飛ばしてしまう。

 

「お前ら、こんな時によくサッカーなんてしてられるな!」

 

 そう言う太一先輩の表情は苛立ちに満ちていて、とても冷静な判断が下せるとは思わなかった。

 そして太一先輩が怒鳴り終わったその時、コロシアムにあったオーロラビジョンが起動した。

 

『アッハッハッハッハ!あちきってグレート?』

 

 大音量の音楽とともにオーロラビジョンに映し出されたのは、マイクを持ったエテモンだった。

 原作ならここでびっくりしてみんな逃げるんだけど……

 

「「「「「…………」」」」」

 

『…………』

 

「「「「「………誰?」」」」」

 

『ええええぇぇぇ!?』

 

 先輩達はぽかーんとした表情でオーロラビジョンを見ていて、その後零した疑問に対してエテモンはひどく驚いてショックを受けたようだ。

 先輩達はサルの姿をしたデジモンってパグモンから聞いてたはずなんだが……

 

「なぁ、あれがエテモンじゃないのか?サルの姿って言ってたし……」

 

「えぇ~?どう見たってサルじゃなくてサルの服を着た変な人じゃない!」

 

「ちょっとミミちゃん!本人の前でそんなこと言っちゃダメ!」

 

 あぁなるほど。先輩達はエテモンの姿をもっと本物のサルの姿に近いものだと予想していたようで、実際には人間に近い姿をしていたエテモンとのギャップからこのようの反応をしてしまったようだ。

 

『そうえば初対面だったわね~、あちきとしたことがうかっりしていたわ』

 

 そう前置きするとエテモンを映しているカメラが後ろに下がったかと思うと、画面外から楽器を持ったガジモン達が出てきた。

 そしてアニメで何度か流れていた軽快な音楽、エテモンが歌うときにバックで流れている音楽を演奏しながら自己紹介を始めた。

 

「あちきはデジモンの中でも最強のデジモン、キングオブデジモンのエテモン様だよ!そして、選ばれし子供達に引導を渡すのもこのあちき!覚悟なさい、選ばれし子供達!」

 

「あいつがエテモンなのか!」

 

 エテモンが自らを敵だと宣言すると、先輩達とそのデジモン達は途端に臨戦態勢になる。

 もちろん俺とドラコモン達も例外じゃない。

 

『まったくスーパースターのあちきを知らないなんて……そんな罪深き子供達はあちきの手で直接始末したいところだけど、生憎今あちきは遠いところにいるのよね~。だ・か・ら、あなた達のために素敵なショーを用意したわ!』

 

 エテモンがそう宣言すると同時に、コロシアムの一角が破砕音とともに吹き飛んだ。

 

「うわ!みんな、一旦下がるんだ!」

 

 それが案外近いところで発生したため、太一先輩の指示と共に先輩達はその場所から避難しようとした。

 

「あ!そっちにはいかない方が……」

 

 先輩達の走っていく方向には謀ったようにサッカーゴールが置いてあり、慌てて後退した先輩達とそのデジモン達はゴールの中に入ってしまった。

 アグモンもこれに続こうとするが、無茶なトレーニングの疲れが祟って転んでしまい、合流することができなかった。

 俺とドラコモン達はその場所から数歩下がっただけで後退をやめていて、俺達がゴールに入ることはなかった。

 

「あ、信人!アグモン!うわぁ!?」

 

 先輩達が俺達に気が付いたところで、先輩達の入っていたサッカーゴールが前のめりに倒れ、そのまま先輩達を捉える檻と化してしまった。

 テントモンが脱出を試みるが、ネットにながされた高圧電流によって返り討ちにあってしまった。

 

『アッハッハッハッハ!つーかまえた、捕まえた!おとなしくしてなさい、そのネットには高圧電流が流れてるんだから出れるはずないの。さ~て、いよいよメインイベントのはじまりよ!』

 

「あ、あれは!グレイモン!?」

 

 エテモンの上機嫌な声とともに、コロシアムの崩れた場所でおこっている砂煙を割って出てきたのは、黒い首輪のようなものをつけたグレイモンだった。

 相手はすでにやる気まんまんで、手前にあったサッカーゴールを踏みつぶして咆哮を上げた。

 

「進化だ!アグモン!」

 

「分かった!アグモン進化!―――――グレイモン!」

 

「俺達もやるぜ!」

 

「ギギ!」

 

 アグモンはすぐにグレイモンに進化し、ドラコモン達も闘気を漲らせて戦闘態勢に移った。

 

「グオオオオ!」

 

 相手のグレイモンはドラコモン達の方を見向きもせず、一直線に太一先輩のグレイモンに向かって突進していった。

 これを真正面から受けて立った太一先輩のグレイモン、二体のグレイモンは組みついて力比べをする。

 数瞬の間組合は均衡していたが、太一先輩のグレイモンの頭突きによってお互いのグレイモンは怯んだ。

 先に怯みから立ち直ったのは相手側のグレイモンの方で、その隙をつき尻尾による一撃を太一先輩のグレイモンに見舞った。

 

「追撃させるな!」

 

「おう!≪ジ・シュルネン≫!」

 

「グオウ!?」

 

 敵側のグレイモンは突進する構えを見せたが、ドラコモンの放ったビーム弾を顎に受けて怯み、追撃を中断しなければならなかった。

 

「体格差の都合上、格闘戦はグレイモンに任せたほうがいいのかもしれない……俺達は追撃をさせないように牽制攻撃を撃っていくぞ!」

 

「また体格差かよ……はやく進化したいもんだぜ」

 

 成長期のドラコモン達には相手デジモンとの体格差の問題が付いて回っていて、ドラコモンにはそれが不満のようだ。

 俺はデジヴァイスを持ってないからこればっかりはどうしようも……まぁでもファイル島の頃からずっと戦ってきているからそう遠くない未来に進化するとは思うんだが……

 

「今そんなこと言ってもしょうがないだろ?まぁそう不貞腐れるな、お前の力だったすぐに進化できるよ」

 

「そうだな。今は戦いに集中するか」

 

 こちらからの攻撃を受けたグレイモンは怯みから立ち直ると、また直ぐに太一先輩のグレイモンに向かって行ってしまった。

 

「チッ!こっちは眼中にないってことかよ、気に入らねぇ!」

 

「そう怒るな。こっちのほうが好都合だ」

 

 ドラコモンが腹を立てるのを尻目に、敵側グレイモンは太一先輩のグレイモンの前に立ちふさがり、パンチやキック、または尻尾による攻撃を繰り出した。

 太一先輩のグレイモンはこれを防ぐのに精一杯であり、とてもカウンターなどを行える状態ではないことが直ぐに分かった。

 恐らくさっきの特訓の疲れが出ているのだろう。

 

「無茶な特訓の疲れが出てるな……だからやめてくださいって言ったのに……」

 

 先輩達もグレイモンの動きがおかしいことに気が付いたようで、サッカーゴールの檻の中でざわついている。

 グレイモンのラッシュは今だ止まらず、このままでは太一先輩のグレイモンのガードが崩れるのも時間の問題だ。

 

「進化するんだグレイモン!進化できる自分の力を信じるんだ!」

 

 そんなグレイモンに向かって太一先輩が進化するようにと叱咤と激励を送るものの、進化するそぶりは一切見せず、戦況も一向に好転しない。

 

「足を狙って体勢を崩す!ハグルモン!」

 

「了解!≪デリートプログラム≫!」

 

 このまま見ているだけではグレイモンが大きなダメージを負ってしまうので、俺はこの状況を打開するためにハグルモンに指示を出した。

 いつもように数字列がハグルモンから吐き出され、それらがグレイモンの足元へと飛んでいった。 

 

「グゥ!?」

 

 そしてグレイモンの足元を数字列で囲み、その中心で爆発が起こした。

 まったく注意を払っていないところからきた攻撃に対して敵側グレイモンは対応することができず、俺の狙い通り膝を折って大きく体勢を崩す。

 疲れている太一先輩のグレイモンでも、カウンターを決めるには十分すぎる隙を逃さずにタックルにて反撃を行った。

 

「いいぞ!グレイモン!≪メガフレイム≫だ!」

 

 吹き飛ばされた相手に対して太一先輩は必殺技で追撃するように指示を出したが、グレイモンが大きく口を開けて放った火球は何時ものよりもかなり小さく、敵のグレイモンに当たる前に空中で霧散してしまった。

 

「何よあれ、いつもの火力が全然ないじゃない!」

 

「それに、動きにいつものキレがないんじゃないか?」

 

「そうか、さっきの特訓で疲れてしまっていつもの力がだせないんだ!」

 

 ミミ先輩とヤマト先輩がグレイモンの戦いぶりに苦言を呈し、泉先輩がその原因を直ぐに指摘した。

 太一先輩もそれを聞こえているはずではあるが、ネットの方を見るとそこには先ほどと同じようにグレイモンに進化しろと叫んでいる太一先輩がいるから、この言葉にも耳に入っていないようだ。

 

『う~ん、さっきからちょこまかと鬱陶しい奴がいるみたいね。ショーの邪魔をするなんて無粋よ?大スターの演出の粋ってものが分かってないなんて、お子ちゃまね~』

 

「ヒーローの偽物を用意して対抗するっていう悪役の様式美は理解してる。偽物がヒーローに倒されて、悪役が地団駄を踏むところまで含めてな」

 

『何ですって!?キー!なんて可愛げのないガキなのかしら!本格的なショーの前に、まずあんたを叩き潰してあげるわ!』

 

「グオオオオオオ!!」

 

 エテモンの怒りの声に反応したグレイモンは、起き上がるなり太一先輩のグレイモンに尻尾による一撃を加えて退け、俺とドラコモン達の方に向き直おり威嚇の方向を上げた。

 

「やっとこっちを向きやがったな……腕が鳴るぜ!」

 

「……≪フルポテンシャル≫!」

 

「まったく頼りになる奴らだ」

 

 腹に響いてくる咆哮は中々の迫力であったが、こいつらはそんなことで怯むような奴じゃない。

 ドラコモンは逆にさらに闘気を漲らせ、ハグルモンはこれからの戦いに備え、自己判断で≪フルポテンシャル≫を発動させて自らの能力を上昇させた。

 

「体格差がなんだってんだ!スピードと身軽さならこっちの方が断然上だぜ!」

 

 ドラコモンはその小柄な体を一気に加速させ、猛スピードで敵グレイモンの足元に潜りこんで後ろに回り込み、なんと尻尾を伝って背中を駆けあがった。

 

「おらぁ!≪テイルスマッシュ≫!」

 

「グオウ!?」

 

 そのまま頭部まで到達してジャンプ、空中で1回転して勢いをつけた尻尾をグレイモンの脳天に叩きつけた。

 いくら体格差があろうとも脳天に強烈な一撃を受けたグレイモンはダメージを受けたようだ。

 しかしいち早くこの衝撃から立ち直ったグレイモンは、空中で身動きの取れないドラコモンに狙いを定めてパンチを繰り出そうとしていた。

 

「まずいな、フォローしてくれハグルモン!」

 

「ギギ、≪ダークネスギア≫!」

 

 ハグルモンから吐き出された黒い歯車はドラコモンに向かって飛翔していく。

 

「チッ……お、いいもん見っけ!」

 

 ドラコモンは飛来してきた歯車を確認すると、体をひねって体勢を整え、足元に来た歯車を足場にしてさらにジャンプし、グレイモンのパンチを間一髪のところで躱した。

 

「お返しだぁ!≪テイルスマッシュ≫!」

 

「グゥ!?」

 

 ドラコモンは攻撃を躱すだけでは飽き足らず、躱したあとに目の前にあったグレイモンの首筋に強烈な一撃を加えた。

 グレイモンはこの攻撃に息を詰まらせて少々よろめくが、脳天に受けた攻撃ほどのダメージは与えられなかったようだ。

 しかしさっきのハグルモンとドラコモンの連携はいいものだったな……ドラコモンの言い方を考えると、お互いの意図を理解し合った連携ではなく、ハグルモンの的確なフォローが生んだ連携だろう。

 グレイモンにダメージを与えた後、持ち前のスピードで一旦離脱したドラコモンは俺の側まで後退してきた。

 

「くっそ~、やっぱり格闘戦は不利か?」

 

「いや、効いてないわけじゃない。どうも遠距離でも近距離でも与えるダメージは同じみたいだな……強いて言うなら体格差が影響する格闘戦の不利だが、ドラコモンはどっちをやりたい?」

 

「選ばせてくれるのか?」

 

「最初はグレイモンをあてにしてたけど、あれじゃあな……それにお前と、ハグルモンの力ならどっちでやっても勝てるって信じてる。なら、お前の好きな方を選ばせてやろうと思ったんだ」

 

 ドラコモンのスピードがあればまずグレイモンに捕まることはない。

 ハグルモンも≪フルポテンシャル≫でスピードが上がってるからこちらも攻撃を避けられるだろう。

 また、俺を狙おうものならドラコモンとハグルモンも黙っちゃいないし、今はダウンしている太一先輩のグレイモンだって直ぐに戦いに参加してくるはずだ。

 これだけ有利な状況があれば勝てる……別に油断してるわけじゃないぞ?

 それに、俺はドラコモンがベビドモンの時にあいつの持ってる力に気付くことができずに、敵を前にただ逃げろとしか言わなかった。

 その時にベビドモンは歯がゆい思いをして、それが原因でドラコモンに進化したときに決闘を俺に対して仕掛けてきた。

 あの時の気持ちをまた味あわせればドラコモンは俺に対しての信頼をなくすだろうし、俺だってパートナーにそんな気持ちを味あわせたくない。

 だからそうならないように、俺はドラコモンの実力を信じてどうのように戦いたいかを聞いたんだ。 

 

「……だったら、格闘戦がやりたい。あのデカブツを殴り倒せば気持ちいいだろうしな!」

 

「……≪デリートプログラム≫!」

 

 そういうとドラコモンは先ほどと同じようにグレイモンに猛スピードで突っ込んでいき、それを見たハグルモンはドラコモンをサポートするために≪デリートプログラム≫を使った。

 これは今までよく使った手と同じように数字列を一旦空中に滞空させて、後で爆発させる作戦だった。

 

「オラオラオラァ!」

 

 ドラコモンはグレイモンの周りを縦横無尽に駆け巡り、蹴り、頭突き、尻尾による叩きつけ、さらには噛みつきなど様々な攻撃を織り交ぜたラッシュを行ってグレイモンの体の各所にダメージを与えていく。

 

「……モウ少シ周辺ニ気ヲ配ルベキデス」

 

 ハグルモンはサポートに徹している。

 グレイモンも攻撃にさらされるだけではなくこれまでに幾度も反撃の姿勢をみせていたが、

ハグルモンが絶妙なタイミングで起こした爆発によって潰されている。

 ハグルモンに反撃の芽を尽く潰され、絶好調のドラコモンのラッシュに晒されたグレイモンはまさにタコ殴り状態。

 一つ一つの攻撃によるダメージは小さいものの、ドラコモンの手数の多さに圧倒されているグレイモンにはかなりのダメージが蓄積されているようで、時々苦しそうなうめき声をあげていた。

 

『ちょっと!なんでこんなチビ2匹に圧されてるのよ!?』

 

 エテモンもドラコモン達のスペックに驚きを隠せないようで、メインイベントの前座のつもりだったエテモンは今の状況にもどかしいと感じているようだった。

 このままいけば普通にドラコモン達だけで勝てそうだが、先輩達はどうしてるだろうか?

 

『……ってあれぇ!?選ばれし子供達が何時の間にか逃げてるじゃない!?しかも紋章まで手に入れちゃってる!?』

 

 たしかに最早サッカーゴールはもぬけの空、どうやらドラコモン達が大攻勢を行っている間に石畳の下にあった丈先輩の誠実の紋章を手に入れ、そしてその下にあった地下通路を通って脱出に成功したみたいだ。

 先輩達がいるのはちょうど俺が指示を出している場所からサッカーフィールドを挟んだ向こう側にいた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ったく、まだ倒れねぇのか?」

 

 これまで大攻勢を続けてきたドラコモンであったが、流石に息が上がってきたのか一旦下がって攻撃を避けることに徹した。

 

「戦え!グレイモン!」

 

 しかしここで反対側にいた太一先輩が飛び出してきて、様子見をしていたグレイモンに発破をかけた。

 これに答えた太一先輩のグレイモンは敵グレイモンに後ろから組みつくが、ひじ打ちを腹に受けてうずくまってしまった。

 

「おい!そんな体で何しようって言うんだよ!?」

 

「太一先輩、ここは俺達だけで十分です!グレイモンを休ませてください!」

 

「いや、ここは俺達に戦わせてくれ!グレイモンは進化できるはずなんだ!」

 

 太一先輩は俺の制止とドラコモンの怒声を無視してグレイモンの隣まで走ってきてしまう。

 

「進化って、ドラコモン達で十分なんですから今やる必要ないじゃないですか!」

 

「せっかくのチャンスなんだから、今後のためにも進化した実力を把握しておいた方がいいだろう!それにドラコモンだって息が上がってるし、ここは俺に任せてくれ!」

 

 そう言って今度は敵グレイモンの顔に石をぶつけてグレイモンの気をひきはじめた。

 太一先輩は紋章を持っている自分が戦うしかないという思い込みからくる焦りからか、グレイモンを進化させることに執着してしまっているようだ。

 

『もう演出なんか知ったこっちゃないわ!潰しやすい奴から潰しておしまい!』

 

 グレイモンはエテモンの言葉に反応し、ドラコモンに背を向けて太一先輩の方に向かって行く。

 

「あ!待ちやがれ!」

 

「危ない!ピヨモン、太一を助けて!」

 

「ガブモンも頼む!」

 

「分かったわ!ピヨモン進化!―――――バードラモン!」

 

「ガブモン進化!―――――ガルルモン!」

 

 ドラコモンはこれをよしとせずに背を向けたグレイモンの後を追い、太一先輩を見かねた空先輩とヤマト先輩も援軍を出した。

 

「グレイモン!俺はお前を信じてる!だから進化してくれ、グレイモン!!」

 

 バードラモンとガルルモンが敵側のグレイモンに立ちふさがっているその後ろで、太一先輩がグレイモンに向かってまた叱咤している。

 これはまずいと俺が思った直後、太一先輩の叱咤に応えたグレイモンは力を絞り出すように咆哮し、それに呼応して太一先輩の胸元が光り輝くのが見えた。

 最初はこそきれいに輝いていた紋章だったが、次の瞬間には突然黒に染まり、さらには禍々しい光を空に向かって放った。

 空には赤黒さと暗い青で配色された渦が現れ、その中から降り注いだ禍々しい赤に染まったエネルギーが太一先輩のグレイモンに流れ込んだ。

 直後にグレイモンは全身がその赤い光に包まれ、その体躯を徐々に巨大化させていく。

 巨大化が終わり赤黒い光の中から現れたのは、骨のみで構成されたおぞましい体をもつデジモン、スカルグレイモンであった。

 結局こうなってしまったか……

 

「シャアウ……グカカカ」

 

「嘘やろ!?あれ、スカルグレイモンでっせ!?」

 

「大変だ、間違った進化をしてしまったみたいだ!」

 

「ガルルモン!太一を連れて一旦距離を置くんだ!」

 

 向こう側の先輩達も異常事態に気付いたようで、バードラモンとガルルモンは一旦距離を置くことにして、太一先輩もガルルモンに連れられてスカルグレイモンの視界から外れた。

 これでスカルグレイモンの視界に移っているのは、敵のグレイモンとそのグレイモンを追ってきてグレイモンの後ろの位置にいたドラコモンだけ。

 しかしスカルグレイモンに恐れをなしたグレイモンは、くるりと踵を返して逃げ出してしまう。

 これに反応したスカルグレイモンは、比較的小さいドラコモンを無視してグレイモンを追いかけた。

 

「嘘だろ!?なんでこっちくるだよおおおお!!」

 

 先ほどグレイモンが踵を返して逃げたといったが、そちらの方向は元々俺達が戦っていた場所があり、そこから少し離れたところで俺が指示をだしていた。

 そして恐怖心にかられたグレイモンは全速力でこちらに向かって来ていて、スカルグレイモンもそれを追ってこちらに向かってくる。

 その逃走劇には意外とスピードが出ていて、両者はもう俺とハグルモンの目の前まで来ていた。

 

「うおおおおお!!」

 

「ッギギ!」

 

 俺はハグルモンと一緒に横に飛ぶことでグレイモンの逃走経路から離れることに成功した。

 その時に俺の背中のすぐ後ろでスカルグレイモンの足が振り下ろされるのが分かり、間一髪であったことに冷や汗を流した。

 そしてコロシアムの客席にまで及んだ逃走劇は遂に終わりを迎え、スカルグレイモンの巨大な腕でグレイモンは掴まれてしまう。

 そしてそれをエテモンが映っているオーロラビジョンに投げつけ、背中に付けたミサイルによって追撃を加えられた。

 グレイモンの断末魔の代わりに予想外の展開になったことに驚愕したエテモンの声が辺りに響き、その直後に着弾したミサイルの爆発によってグレイモンはオーロラビジョン共々跡形もなく吹き飛んでしまった。

 エテモンに攻撃を加える行動から見るに、元のグレイモンの意思はまだ残っているんじゃないだろうか。

 

「スカルグレイモン、お前本当にグレイモンから進化したやつだよな?」

 

 俺とハグルモンが起き上がってスカルグレイモンから十分な距離をとった時、いつの間にか近くまで来ていた太一先輩の問いに対して、スカルグレイモンは太一先輩を踏みつぶそうとしてしまう。

 

「シャアアアア!」

 

「危ない太一!」

 

 ヤマト先輩の声を受けて太一先輩はすぐに退避して事なきをえたが、スカルグレイモンは標的をバードラモンとガルルモンに定めた。

 ガルルモンとバードラモンは果敢にも何倍の体躯もあるスカルグレイモンに向かって飛び掛かるも、ガルルモンはスカルグレイモンの手で簡単に払いのけ、後ろからのバードラモンの奇襲も尻尾による一撃で退けてしまう。

 

「≪テイルスマッシュ≫!≪ジ・シュルネン≫!……気にした様子もねぇ、腹立つぜ」

 

 この時にドラコモンもビーム弾や尻尾を叩きつけてスカルグレイモンに攻撃を試みるも、スカルグレイモンにはまったく聞いておらず、それどろかドラコモンの存在に気付いた様子も見せなかった。

 あれでは戦力にはならないな……

 

「戻ってこいドラコモン!」

 

「……ッチ!さすがに引くしかねぇか!」

 

 さっきの攻撃で絶望的な力の差を感じ取ったドラコモンは素直に俺の言う事を聞いて俺の側まで直ぐに戻ってきてくれた。

 

「わても加勢しまっせ!テントモン進化!―――――カブテリモン!」

 

 その間にテントモンもガルルモン達に加勢するためにカブテリモンに進化して戦列に加わった。

 しかしその時にはスカルグレイモンは石畳を引っぺがしたり先輩達が捕まっていたサッカーゴールをぺちゃんこにしたりと大暴れしていて、とても攻撃を加えられる状況ではなかった。

 

「滅茶苦茶じゃねぇか……」

 

「あぁ……それに空も嫌な色をしてる」

 

 ドラコモンはスカルグレイモンの暴れっぷりに注目していたようだったが、俺は今の空模様の方が気になっていた。

 紋章の光が空に届いた時から、先ほどのきれいな青空は邪悪な黒に染まっており、特に光が当たって渦ができた場所にはぽっかりと穴のようなものが開いているのは気味が悪かった。

 穴の中は黒い液状のものが波を打っていて、その波間にグレイモンに降り注いだエネルギーと同じ赤色をした何かが見え隠れしている。

 それは竜の頭のようであったり、何かの生き物の手足のようであったり、さらには人間の上半身のように見えたり、さらにはそれらがひどく苦しむように形を変えて崩れていくのがすごく不気味だった。

 穴の中を観察していると、さらに恐るべき事実に気付いた。

 

「……出てこようとしているのか?」

 

 俺は少々震えた声でつぶやいた。

 はじめは黒い波間に漂うだけであった赤い影たちだったが、今は形を崩しながらも穴に近づいてきていた。

 大半の影は近づく前に姿を崩して黒い波間に消えてしまったが、中には巨大な腕が穴まで到達することもあった。

 しかしそれ以上はこちらに入って来れないようで、穴の淵でもがくようにうごめいた後に他の影と同じように黒い波間へと消えた。

 が、それらはまだいい。

 俺が一番恐怖を抱いたのは、人間に近い姿をした影だった。

 その影は何度も黒い波間に溶けて消えているのだが、数瞬後にまた波間の中から姿を現し、こちらに向かって波をかき分けるようにして必死にこちらに近づいて来ている。

 さらに顔のある部分における口があるはずの場所が開閉しているのが、あれは人間なのではないかという疑念に真実味が帯びてくる。

 目や鼻はなく、あちらからの音は聞こえないので口がパクパクと開くだけの不気味なアレを見て直観的に感じたことが一つあった。

 

――――アレは越えてくる。

 

 なんでそう思ったのかは分からない。

 しかしアレは他の影と違って何度も同じ姿で出現していて、他の影と違うという事がその直感的に感じた懸念に現実味が出てきた。

 

「……ター…マスター!!」

 

「!!」

 

 俺はハグルモンの呼ぶ声で我に返りハグルモンの方に顔を向けた。

 

「アレヲアマリ見ナイ方ガイイデス」

 

 ハグルモンの言うアレとは空に開いている穴の事であることは明らかで、ハグルモンの表情も珍しく強張っているように見える。

 たしかにアレをこれ以上見ていたら気が狂いそうだ。

 一体どれくらい見ていたかは分からないが、まだスカルグレイモンが暴れているところ見ると、そこまで時間は経っていないようだ。

 サッカーフィールド上の石畳はところどころが無残にもはがされ、露出した黒いケーブルもところどころ切断されていて、とても役目を果たせるような状態ではなかった。

 

「≪フォックスファイヤー≫!」

「≪メテオウィング≫!」

「≪メガブラスター≫!」

 

 ガルルモン、バードラモン、そしてカブテリモンが必殺技を一斉にスカルグレイモンに放った。

 しかしスカルグレイモンはこの攻撃にもビクともせず、手でガルルモン達を払いのけて壁際まで吹き飛ばされてしまう。

 その後スカルグレイモンは潰したサッカーゴールを投げたりしてまた暴れたのだが、コロシアムの中央でその動きを止めた。

 

「あん?どうしたんだ?」

 

「……エネルギーが切れたんじゃないか?」

 

 たしか原作ではもう少し暴れていたような気もするが、今回はアグモンが疲れていたからはやくエネルギーが消費されたのだろう。

 直ぐにスカルグレイモンから黒い瘴気のようなものが噴出し、そして進化するときに包まれた赤い光とは違う、いつものように進化するときのきれいな光に全身を包まれた。

 巨大な体躯はみるみる小さくなっていき、光の中から姿を現したのはコロモンだった。

 先輩達は安全が確認できると太一先輩を先頭にしてコロモンに向かって走って行き、俺もその動きに合わせてコロモンにドラコモン達と一緒に駆け寄った。

 

「大丈夫か!?」

 

「うん……でも、みんなにひどいことしたみたい」

 

「気にしないで」

 

「わてらも、よう分かっとるさかい」

 

 コロモンはひどく落ち込んだ様子であり、他のデジモン達はコロモンを励ますように次々に言葉を掛けた。

 

「みんなの、太一の期待に応えられなくてごめん……」

 

「ちがう!お前のせいじゃない!」

 

 慰めの言葉を掛けられても依然落ち込んでいるコロモンは謝罪の言葉を述べたが、ヤマト先輩がそれを否定して声を荒げた。

 

「悪いのは……」

 

「分かってる……悪いのは俺なんだろ?」

 

「そんなつもりじゃ……」

 

 ヤマト先輩の言葉をコロモンと同じように落ち込んだ様子の太一先輩が遮って、自分の責任であると言った。

 

「いいんだ……そうだよな、空、信人」

 

「うん…あ、いや」

 

「………」

 

 太一先輩は空先輩と俺にも確認するように言ってきて、空先輩は少し取り繕おうとしたけど俺は無言で返した。

 俺の言い方が悪かったのかもしれないが、正直あれだけ警告したのに聞く耳持たなかったことには少々腹を立てていたからだ。

 まぁ太一先輩は反省してるみたいだし俺もそこまで引きずるつもりはないけどね。

 

「俺、知らず知らずのうちに焦ってたんだ……先が見えなかったし、紋章を手に入れてから自分一人で戦っているような気になってたんだ……みんなごめん!コロモンも、ごめん……」

 

 太一先輩は心底公開した様子で今までのどのような気持ちで行動していたかを語り、そして他の先輩達とコロモンに向かって謝った。

 その顔は憑き物が取れたような顔をしていて、いつもの太一先輩に戻っていたことに他の先輩達とコロモンは安堵していた。

 しかし進化失敗を目の当たりにした選ばれし子供達の雰囲気は依然として重く、今日はとりあえず休もうという丈先輩の提案に従って、コロシアムの屋内へと向かって歩いて行った。

 その途中、俺はたまたま近くにいた泉先輩にスカルグレイモンが現れた時の空模様について聞いてみた。

 

「……泉先輩、スカルグレイモンが暴れているときの空ってどうなったか覚えてます?」

 

「空、ですか?たしか暗くなっていたような気がしますが……」

 

「みなはんスカルグレイモンに手一杯で、空なんか見てる余裕ありまへんがな~」

 

 テントモンも俺の問いを聞いていたらしく、他の人も見ていないのではないかという答えを出してくれた。

 ドラコモンはあの時スカルグレイモンをずっと見ていたはず……ということはあの穴の中を見たのは俺とハグルモンだけということか。

 

「たしかに異常な空でしたが……何か気になることでも?」

 

「あ、いやいいんです。いきなり空が暗くなっておかしいな~って思っただけですよ」

 

 あの穴、ひいてはその中で蠢いていた得体のしれないモノについては言わない方がいいだろうと考え、泉先輩の追求にお茶を濁した。

 泉先輩が「そうですか」と返してテントモンと一緒に先に屋内に入った後、俺は穴が開いていたであろう場所をもう一度見た。

 もちろん穴はきれいに塞がっていて、そこには夕焼けで赤く染まり始めた空が映っていた。

 実はその赤があの穴の中のモノと重なってちょっとビビったのは内緒だ。

 スカルグレイモンが退化したときに空の異変は納まったはずだが、穴は視界に映していなかったのでどのように閉じたのかは見ていない。

 原作では起こりえなかったあの異変……あのモノ達は一体なんだったのであろうか?

 たしかアドベンチャーの続編にあたる02では、ダゴモンの海と呼ばれる闇のデジタルワールドが存在し、またその他にもそういう世界はいくつもあるんじゃなかったか?

 あれもその類いのものでなのか?

 

「……マスター、アマリ気ニシナイ方ガ良イカト。私ハアレヲ直グニ忘レテシマイタイデス」

 

 俺があの現象について空を睨みながらあれこれ考えていると、ハグルモンが横から声を掛けて俺を思考の海から浮上させた。

 

「珍しいな、そんなに感情を出すなんて」

 

 ハグルモンは普段あまり感情を表には出さず、何を考えているかわからない無表情でいつも俺の隣にいることが多い。

 だが今回のハグルモンは穴を見て怯えていたり、今も何かに恐れてあの穴の事を忘れようとしている姿は珍しかった。

 

「……原因ハ不明デスガ、私ハアノ人型ヲ極端ニ恐レテイマス」

 

「アレ、か……たしかにアレは俺もやばいと思った」

 

 生き物や怪獣の一部のような赤い影の中に混じっていた人型の影……何故かあれだけは他の奴とは違うとはっきりと認識していた。

 ……アレは穴が閉じた時、こちら側にどれだけ近づいていたんだろうか?

 

「……今日は眠れるか?」

 

「………」

 

「……近くで一緒に寝るか」

 

「ソウシマショウ」

 

「……クク」

 

「ギギ……」

 

 先ほどの暗い話から一転、俺は中身がいい年なのに怖い話を聞いて夜眠れなくなるような子供じみた発言をし、さらにハグルモンが直ぐにその話に乗ったことが可笑しくて笑いあった。

 

「おーい!なにやってんだ!飯の支度するってよ!」

 

「あぁ、今行く!」

 

 先に屋内に入っていたドラコモンから少々苛立った声が飛んできた。

 そうえばあいつ、今回もまた戦闘が不完全燃焼だったから苛立ってるな……あとでフォローしないとな。

 次は確かコカトリモン戦……別に俺達が倒しても問題なさそうだし、何とかドラコモンが活躍できるように動いてみようかな~

 そんなことを考えながら俺はハグルモンと一緒に屋内に入り、とりあえず今回は原作通りに収束したから良しと考え、飯の支度に参加するため早歩きで先輩達のもとへと向かった。

 

 

 




というわけで偶然にも謎の空間を目撃した信人君、SUN値チェックはしませんが赤が苦手になりました。
アニメで見たときは紋章の力かな~と思ったのですが、空まで暗くなったのは不自然だなと思ってこんな設定を加えてみました。
こんな話にする予定じゃなかったんだけどな~
オカルト話を見ながら執筆した影響か?

感想批評お待ちしております。

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