デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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新大陸へ渡るための準備です


第15話 目標!サーバ大陸!

 

「やったぜ!!俺達、デビモンを倒したんだ!」

 

「すごいよトコモン!進化してすっごく強くなったね!」

 

「僕、進化できた……やったー!やっとタケルやみんなの役に立てたー!」

 

 デビモンが完全に消滅して辺り一帯の闇が晴れた後、先輩達は勝利を祝って騒ぎ始めた。

 原作ではエンジェモンが犠牲になってしまったのでしんみりとした雰囲気だったが、今はみんな笑顔で勝利を喜び合っていた。

 エンジェモンは原作のようにデジタマにはならなかったものの、聖なる力の負担が大きかったのか、トコモンまで退化してしまった。

 

「ふぅ~よかったなぁ……」

 

「あ~あ、俺あんまり活躍できなかったぜ。あいつらみたいにポンポン進化できたらな~」

 

「お前は役目を十分果たしたからそれでいいんだよ。進化に関しては、一度進化してしまえばずっとその姿でいられるんだから、悪いことばかりじゃない」

 

 俺は原作がいい方向に変わったことに対して安堵の息を吐いた。

 聖なる力を扱えるダルクモンが居てくれてよかったが、できれば俺とドラコモン達の力でなんとかしたかったな……

 毎回こんな幸運があるとは限らないし、俺の扱える戦力だけで原作を変えられるようにならないといけない。

 

「御無事でしたか信人さん……」

 

「ダルクモンお疲れ様……随分疲れているな」

 

 戦いを終えたダルクモンが俺の隣に下りたってきた。

 その顔にはワルシードラモンと戦った後の時のように疲労が色濃く出ていた。

 

「あれほどの力を扱えば流石に長年鍛錬を積んだ体でも疲れます……厳しい戦いになることは予想していたので、グリズモンに迎えを頼んでいますから帰るのには苦労しましせんが……」

 

 たしかにこれほどの疲労ではフリーズランドまで飛ぶことも難しいだろう。

 

「お~い!ダルクモン!」

 

 噂をすれば何とやら、森の向こう側からグリズモンが駆けてきた。

 

「おぉ!グリズモンだぜヤマト!」

 

「あぁ、この前は世話になったな」

 

 どうやらフリーズランドに漂着したヤマト先輩と太一先輩はグリズモンに面識があるようなので、グリズモンと親しげに話していた。

 あいさつが一段落したグリズモンは俺とダルクモンのとこに歩いてきた。

 

「元気だった、信人?」

 

「まぁ、何とかな」

 

「ちょうどよかったですグリズモン……私は眠るので、後はよろしくお願いします」

 

「え!?ちょ、ちょっとダルクモン!?」

 

 言うが早いかダルクモンはグリズモンの背中に縋り、瞬く間に眠りの中に落ちて行った。

 よほど疲れていたのか、ダルクモンはグリズモンの背中で体をだら~んとさせた少しはしたない姿をさらしていて、それを見たグリズモンは心なしか顔を赤くしていた。

 

「ご、ごめん信人に太一にヤマト……直ぐに戻らないといけなくなっちゃった」

 

「気にするなって。早くダルクモンを神殿で休ませてやってくれ」

 

「うん、じゃあまた!」

 

 グリズモンは俺達に別れを告げ、ダルクモンに負担にならないようなスピードで森の中を駆けて行った。

 

「さぁて、これからどうするか……」

 

「海の向こうにも、暗黒の力を持ったデジモンがいるって言ってたよな」

 

「はぁ、デビモンを倒せれば戻れると思ったんだけどな~……」

 

 勝利の余韻に十分に浸った先輩達は、次の行動を話し合うようだ。

 しかし、さぁ話し合いを始めようという雰囲気になったところで、地面の一か所が割れてそこから何かの機械が出てきた。

 それは俺がワイズモンの館で見たものと同じもの、つまりゲンナイさんの立体映像通信装置が姿を現した。

 

「な、何だぁ!?」

 

 俺とドラコモン達以外の人たちは当然これに驚いて警戒する。

 そして全員が見守る中で装置は起動し、光の中からゲンナイさんが姿を現した。

 

『おぉ……これが選ばれし子供達か。デビモンを倒したとは中々やるのぉ』

 

「お前は誰だ!」

 

「デビモンの仲間か?」

 

 いきなり現れたので、いくら相手が老人と言えども太一先輩とヤマト先輩は警戒を崩すことはなかった。

 

「待ってください。この人は敵じゃありません」

 

「信人君?このご老人を知っているのかい?」

 

「はい。数日ぶりですね、ゲンナイさん」

 

『うむ。元気そうでなによりじゃ』

 

「「「「「えー!!?」」」」」

 

 俺が先輩達にとって未知の人物と面識があることに、他の人たちは大いに驚いていた。

 

「信人君はこの人にあったことがあるんですか?」

 

「はい。と言っても、今と同じように立体映像ですけど」

 

『なんじゃお主、伝えていなかったのか?』

 

「合流した後が立て込んでて、話す時間がなかったり忘れていたりしてましたから……俺のことは後で話しますから、とりあえず話を聞きましょう」

 

『そうじゃ、儂の話を聞いてほしい。改めて言うが、儂の名はゲンナイ』

 

 先輩達は俺の言葉を信じ、ゲンナイさんに質問を始めた。

 いったい誰なのか?

 何時からここにいるか?

 自分たちをここに呼んだのか?

 現実世界への帰り方は?

 

 などの情報を聞きだそうとしたが、

 

 人間ではない。

 最初からここにいる。

 呼んだ人は分からない。

 帰り方も知らない。

 はっきりした回答をしていたが、その答えには謎が多かった。

 唯一分かったのがゲンナイさんのいる場所のみという結果に先輩達は不満を漏らした。

 

「なんだよ、頼りになんねぇ爺さんだなぁ!」

 

『すまん。じゃが儂はお主たちに期待しておるぞ』

 

 そう返されて先輩達は怪訝な顔をして疑問に満ちた声を上げた。

 

『サーバ大陸に来て敵を倒してくれ。選ばれし子供達ならできるはずじゃ』

 

「でも、来てくれと言われても場所が分かりません」

 

『それもそうじゃ。後でお主のパソコンにデータを送っておく』

 

「でも、そのデジモンってデビモンよりず~っと強いんでしょう?アタシ達が敵うはずないじゃない!」

 

『いいや、選ばれし子供たちのデジモンがもう一段階進化すれば、それも可能じゃ。そのためにはこれが必要じゃ』

 

 立体映像に映し出されたのは紋章の入ったネックレスタイプのタグだった。

 

『しかし、そこにいるお主には関係ないことに注意してくれ』

 

「信人君が関係ないってどいうこと?」

 

『それは詳しくは本人から聞いてくれ。で、これがどこにあるかじゃが……』

 

 しかし、紋章はゲンナイさんがいるサーバ大陸にあるということと、タグはデビモンがどこかに隠したという事を告げた瞬間、急激に立体映像が乱れ始めた。

 先輩達は何事かと驚いていたが、どうすることもできずに立体映像は途絶えてしまった。

 

「何だったんだろう今の?」

 

「地図は、無事に届いているみたいです」

 

「まぁ、とりあえず山を下りて飯にしようぜ。信人の話を聞くのだってそれからだ」

 

 太一先輩の提案に他の人たちは賛成し、俺達は山を下りることになった。

 

……………

………

……

 

 食事を終えると辺りはすっかり暗くなり、今は焚火を囲んで全員が座っている。

 

「さぁて、腹いっぱい食ったし。そろそろ話をするか」

 

「じゃあまず、俺の話から……」

 

 そう前置きをしてまずはワイズモンの館での事を話し始めた。

 

「俺がゲンナイさんにあったのは、先輩達に通信したときにいたワイズモンって奴の館でした」

 

「じゃあ、そこに行けば詳しい話が聞けるんですか?」

 

「いや、ワイズモンは立場上、選ばれし子供たちにあまり協力ができないんです。だから、館に行っても通信はできないと思います」

 

「ずっと気になっていたんだが、その選ばれし子供達ってのはなんだ?もっと詳しく聞いてないのか?」

 

「この世界、デジタルワールドを救うために選ばれた子供達らしいです。選考基準は知りませんけど、全部で8人いるみたいですよ」

 

「なら、信人君がその8人目?」

 

「それが違うんです。そのデジヴァイスを持っている人が選ばれし子供で、俺はたまたまあの場所に居て巻き込まれただけなんですよ」

 

 泉先輩、ヤマト先輩、空先輩の質問に順番に答えた後に、俺は一息つくために水筒の水を飲んだ。

 

「じゃあ僕たちのせいでここに来たってことかい?」

 

「結果的に言えばそうなるんですが、不幸な事故です。気にしないでください」

 

 厳密には不幸な事故じゃなくて俺が油断しただけなんだけど……

 

「それで、ゲンナイさんが俺は関係ないって言ったことに関してですけど、あれは俺が選ばれし子供じゃないのでデジモンを進化させる力を持っていないからなんです」

 

「このデジヴァイスを持っていないと、トコモンみたいに進化しないんじゃないの?」

 

「選ばれし子供のデジモン達の方が特別なんだ。普通のデジモンは環境や経験が影響して進化するらしい。実際にドラコモンとハグルモンは、普通のデジモンよりは早かったらしいけど、そうやって進化してきた」

 

 タケルは同学年なので普段の口調で質問に答えた。 

 俺の特別という言葉がうれしかったのか、先輩達のデジモンは笑顔を浮かべ、逆にドラコモンはちょっとだけ不機嫌になったようだ。

 ハグルモンは相変わらずの無表情である。

 

「でも信人君って選ばれし子供じゃないんでしょう?なんで館から出ようって思ったの?アタシなら隠れてるのに」

 

「前にも言いましたけど、現実世界じゃ絶対に体験できないことが体験できると思ったんですよ。それに、あの時の通信では言いませんでしたが、世界1つがかかっているなら動かないわけにはいきません」

 

 内心、そんなこと放っておいて安寧に暮らそうとしていた奴がどの口で……と思ってはいるが、あの時とは状況がガラリと変わってしまっている。

 俺が来たことで原作通りに進むという保障がまったくなくなってしまったからだ。

 思い返せばそれも根拠のないものだったけど、エンジェモンの進化のタイミングとかを考えればその話も現実味を帯びてきている。

 だが、それは俺がここに居なければの話である。

 ある意味俺のせいで世界が救われる保証がなくなってしまったのだから、俺が行動してきちんと事態を収束させないと安心できない。

 

「俺達が行動しないと、この世界が危ないってわけか……なぁ!やってやろうぜみんな!」

 

 俺の話が終わった時に、太一先輩がみんなに語りかけ始めた。

 

「俺達はこの世界を救うために呼ばれたんだろう?だったら、その役目を果たせば元の世界に戻れるかもしないだろう?」

 

「太一さんの言うとおりです。この世界でやるべきことがなくなれば、僕達を選んだ人が元の世界に帰してくれるかもしれません」

 

 太一先輩の意見に泉先輩が同調するが、他の人達は暗い雰囲気を纏ったまま反対意見を述べた。

 ゲンナイさんのいう事は本当なのか?

 敵のデジモンに勝てるのか?

 もう少しここで様子を見た方がいいのではないか?

 反対派の先輩達は慎重論を唱えていた。

 

「行こうよ」

 

「タケル?」

 

 太一先輩と泉先輩がやや劣勢となったところで、タケルが声を上げた。

 

「行ってみようよ。たぶん、悪いデジモンがいて困っている人が僕達を呼んだでしょう?だったら僕、その人助けてあげたい!」

 

「でも、悪いデジモンにアタシ達じゃ敵わないかもしれないのよ?」

 

「そんなことないよ!次の進化の方法だった分かったもん。絶対勝てるから、希望を持とうよ!」

 

 希望を持とうという言葉に対して、暗い顔をして反対意見を述べていた先輩達の顔は明るくなっていった。

 

「そうだよな……タケルの言うとおりだ。俺、なんで最初から勝てないって決めつけてたんだろうな。まだ何にも試しちゃいないのに……」

 

「ここでいつ来るかも分からない救助を待つより、悪いデジモンを倒せば帰れるっていうことのほうがよっぽど希望が持てるわ。行きましょう、サーバ大陸へ」

 

「たしかに、いつ分からない救助を待つには精神的に辛いものがある……大陸に行けばなにか手がかりが見つかるかもしれない」

 

「みんなが行くならアタシも行くー!」

 

 反対していた先輩達はタケルの言葉で希望を見出し、サーバ大陸に行くのに前向きな思考をし始めたようだ。

 

「よーし、決まったな!じゃあ、サーバ大陸に行こう!」

 

「「「「「おー!!」」」」」

 

 こうなればデジモン達も反対することはなく、サーバ大陸に行くことが満場一致で決まった。

 その方法として、明日イカダを作って海を渡るという事で結論が出て、明日に備えるためにその後すぐに眠ることになった。

 

……………

………

……

 

 翌日、俺達は朝早くからイカダの材料となる木を切っていた。

 

「≪ジ・シュルネン≫!」

「≪ダークネスギア≫!」

 

 ドラコモンのビーム弾が幹で弾けて木が倒れ、ハグルモンの方も歯車を回転させて木を丸鋸の要領で切り倒している。

 ドラコモンとハグルモンは木の伐採を担当することになったが、全体の作業スピードはお世辞にも早いとは言えなかった。

 

「木を切るだけでだいぶ時間がかかりそうですね……」

 

「焦っても仕方ないわ」

 

「それにどれくらいで着くか分からないんですから、しっかり作らないとまずいです」

 

 俺と泉先輩と空先輩が会話をしていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 後ろを振り返って確認すると、原作通りやっぱりレオモンがこちらに向かって歩いてきているところだった。

 声を上げて驚いている先輩達に向かってレオモンが話しかけてきた。

 

「サーバ大陸に行くそうだな?」

 

「何でそれを?」

 

「噂好きのデジモンが居てな、もう島全体に知れ渡っているだろう。何か手伝えることはないかと思ってな」

 

「ほんとに手伝ってくれるの!」

 

「あぁ、頭数だけはたくさんいる」

 

 レオモンが来た方向を見てみると、エレキモン、ケンタルモン、モジャモンの3体がこちらに向かって歩いてきていた。

 別の方向に目を向ければ、もんざえモン、ユキダルモン、メラモン、さらにピョコモンの大群もこちらに向かって来ていた。

 ここまでは原作通りだったが、その後ろからさらにデジモンが歩いてきた。

 

「ん?ダルクモン達まで来たのか」

 

「はい、噂を聞いて駆けつけてきました」

 

「木を切るなら任せてよ。進化してから一段と得意になったんだ」

 

 歩いてきたのはダルクモンとグリズモン、さらにもう一匹見慣れないデジモンが居た。

 しかし、その姿に見覚えがあるかと言われれば、俺はあると答えるしかない。

 なぜならそのデジモンの姿は原作に登場したウィザーモンとほぼ瓜二つだったからだ。

 姿や服装はウィザーモンそっくりだが、服とマントの外側の色は白で統一されていて、杖の先端には雪の結晶が付いている。

 いかにも氷を使った攻撃が得意だという格好をしている。

 

「見慣れないデジモンがいるけど……」

 

「この方は、アイスサンクチュアリの自警団をまとめているソーサリモン様です。今回はファイル島の危機を救ってくれた選ばれし子供たちにぜひお礼がしたいという事でここまで来たんですよ」

 

「ソーサリモンだ……この度の事は本当に感謝している」

 

「これはどうもご丁寧に」

 

 ソーサリモンの握手に泉先輩が応じた。

 ユキダルモンのように体から冷気を放っているということはないらしく、普通に握手していた。

 

「君たちのことは聞いている。サーバ大陸に渡るようなら、イカダよりも船を作った方がいいだろう」

 

 え?船作るの?

 ソーサリモンの言葉に俺は内心驚いていた。

 このままソーサリモンの意見に乗って、その後原作通りに進むとしたらホエーモンの黒い歯車を取り除けなくなるのではないだろうか?

 

「でも、誰が設計するんだ?」

 

「私だ。昔、パンジャモンがこの島を出るときに私が船を作ったことがある。その後パンジャモンから便りが来たから、信頼してもらって大丈夫だ」

 

 あ、完全に反対する理由がなくなった。

 これはもうなるようになれとしか言いようがない。

 まぁ、この人数ならそこまで大きなものは作れないだろうから、ちゃんとホエーモンが呑み込んでくれるだろう。

 

「ソーサリモン様は自警団の中で唯一パンジャモン様に面識があるんですよ。信人さんが持ってきてくださった毛皮を本物であると証明したのもこの方です」

 

 ソーサリモンは青年の姿をしているが、伝説となっているパンジャモンと面識があるという事は結構長い間生きているらしい。

 

「おぉ!久しいではないか、ソーサリモンよ!」

 

 俺がアイスサンクチュアリ組と話していると、また別の方向から声をかけられた。

 そちらに顔を向けると、俺が丘陵地帯で黒い歯車から解放し、そしてそのお礼としてはお釣りがくるほどの助力をしてくれたライアモンがいた。

 

「む!その声はライアモンか……お前も助けられた口か?」

 

「情けないことに、ここにいる小さき勇者達に助けられてしまった。あのような邪な力に屈するとは……まったく歳だけは取りたくないものだ」

 

「あぁ、そうだ。だが若い世代を導くことができるのは年長者の楽しみだ」

 

 両者ともパンジャモンが面識があるほど長い間生きているので積もる話もあるようだ。

 しかし、ソーサリモンの姿が青年のものだからソーサリモンがなんだか枯れて見える。

 

「そうえば小さき勇者よ、私としたことが君の名を聞くことを忘れていた。ほんとに歳だけは取りたくないものだな」

 

「気にするな。歳をとれば若いときに分からないことが分かったりするもんだ。俺は高倉信人、信人って呼んでくれ」

 

「くっ、ははははは!!若いを通り越して幼い君ではあるが、何故か話が合いそうだ!君の名前は確かに覚えたぞ!」

 

「あ、あぁ……それは何よりだ。は、ははははは……」

 

 俺は二回目の人生だから、爺さんには届かないけどそれなりに歳をとっている。

 さすがにそれは言えないので俺は乾いた笑いで誤魔化した。

 

「まぁ、それは良いとして……さっそく私達は作業に入りたいのだが」

 

「すまないが指揮権を私に預けてくれないだろうか?船の材料を加工するのに細かい指示をしたいのだが……」

 

「ちょっと待ってくれ。太一せんぱーい!!」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

 ちょっと俺達とは離れた場所にいた太一先輩を呼んで、ソーサリモンの提案を伝えた。

 太一先輩はさらに他の人たちを呼んで意見を募り、最終的に船を作るという判断に至った。

 まぁ誰でもイカダよりも船を作った方がいいと思うはずだ。

 

「海岸にペンモン達が道具を持って来ているから、選ばれし子供たちはそれを使って作業をしてほしい」

 

「ペンモンまで来てくれたのか?どれくらい?」

 

「集落全体です」

 

「え?」

 

 俺はダルクモンの言葉に面を食らった。

 え、あれ全員?だとしたら相当な数になるぞ……

 

「前にも言ったではないですか。フリーズランド全体が力になる、と。残念ながら島分裂の時に起きた被害の復興もあるので、全員は連れてくることができませんでした」

 

「来れないデジモン達は残念がってたよ」

 

 あれって、本気で全員俺達に助力するつもりだったのか……てっきり例えか何かだと思っていた。

 心強いことは心強いんだが……

 

「信人君!海岸の方を見てみたんだけど、ペンモン達と一緒にバケモン達もいたよ!」

 

 丈先輩が海岸の方の様子を見たようだ。

 自分の助けたデジモンが助力に来てくれたのがうれしいのか、ちょっと興奮した様子で俺に話しかけてきた。

 

「丈先輩、どれくらいいるか分かりますか?」

 

「僕が見た時はバケモン様形態をちょうど解いた時だから……」

 

「つまり全員ってことですね……」

 

 やべぇ……これだけの頭数がいればほんとに遠洋航海できるほどの船が出来上がってしまいそうだ。

 止めた方がいいのだろうか?

 いや、他の人に納得させるほどの理由が一切見当たらない。

 

「お~い信人~!」

 

 まだ集まってくるのか……

 上から声が聞こえたので顔を上げると、フライモンの森で俺の窮地を救ってくれたデジモン、ファンビーモン達が数匹飛んでいた。

 

「おお!数日ぶりだな、ファンビーモン!」

 

「あぁ!噂を聞いたぜ、俺達にも手伝わせろよ!」

 

 ファンビーモンとの再会に一瞬喜んだが、また船が大型化する可能性が高まると思うと少し気が滅入った。

 

「うん?どうした?浮かない顔して」

 

「あ、いや……そうだ!お前たち、デビモンが何かを隠したのを見たことはないか?それが見つからなくて困ってるんだよ」

 

「そうなのか?ちょっと待ってろ」

 

 ファンビーモン達は仲間内で相談を始めた。

 つい表情に出してしまったが、なんとか誤魔化せたようだ……

 

「すまねぇ、ここにいる仲間は見てないみたいだ」

 

「じゃあ悪いけど、島を回って情報を集めてくれないか?タグってやつなんだけど、それがどうしても必要なんだ。もう作業の手は十分だろう、ソーサリモン」

 

「あぁ、これだけいれば十分過ぎるほどだ」

 

「そうか、十分過ぎるほどか……」

 

「分かったぜ!行くぜみんなぁ!!」

 

 俺に話しかけていたファンビーモンの号令とともに、ファンビーモン達は四方八方に飛び去って行った。

 しかし、十分すぎるほど人手がいるのか……船の大型化は避けられないか?

 

「ソーサリモン、今回しか使わない可能性もあるからそんなに立派な船じゃなくてもいいんだけど……」

 

「何を言う、選ばれし子供達を乗せる船ならそれ相応のものにするべきだ。それに、私は船造りに関しては少し凝っていてな、どんな船でも妥協するつもりもない。それにこれだけ人手が集まるのもそうないからな、今回は張り切らせてもらうぞ!」

 

「どんな船ができるか期待してるぜ!さぁ、信人も一緒に仕事しようぜ!」

 

「そ、そうですねぇ~。あは、あははははは……」

 

 俺は乾いた笑いをしながら太一先輩に首根っこを掴まれて海岸の方に引っ張られていく。

 もうどうにでもなれとしか言いようがない……





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