デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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第11話 崩壊する謀略 デビモンの怒り

 

 俺達は先輩達とエントランスで別れた後、ドラコモン達と食堂で食事をとっていた。

 一応、幻だとは分かっているけど、デビモンに怪しまれないように後で風呂には入ってこようと思ってる。

 先輩達と一緒に行かなかったのは、風呂に入っている間に食料が処分されるのを防ぐためだ。

 でも、俺が食料を持ってきたことに対してデビモンは何の行動もしてこなかったな……

 デビモンの計画は、消耗した選ばれし子供たちをこの館に誘い込み、偽りの食べ物を食べさせて回復した気にさせる。

 食べ物は幻だから、当然デジモン達に進化するためのエネルギーは残ってない。

 デビモンはそこを襲う気だったはずだ。

 だけど、俺がデジモン達に食料を食べさせることができれば、ある程度力は回復するはず。

 そうなればもちろんデビモンの計画はご破算、それを阻止するために俺が合流した時点で仕掛けてくるかと思ったけどな……

 

「もぐもぐ……どうした信人?」

 

「ん?あぁ、少し考え事をな……」

 

 デビモンの行動が読めないのは辛いが、判断材料が少なすぎるから今考えてもしょうがないか。

 とりあえず腹が減ってるし、食事を終わらせてしまおう。

 

「あの~……」

 

「ん?ガブモンか……どうしたんだ?」

 

 食堂の入り口から声が聞こえたのでそちらの方に顔を向けるとガブモンが立っていた。

 

「ちょっと事情があってお風呂に入れなくて……それでここに来たんだ」

 

 そうえばガブモンは毛皮を脱ぐのを嫌がってたな……原作でも一人だけ風呂に入ってなかった。

 

「そうか、じゃあ一足先にこれ食べるか?」

 

「うん!」

 

 ドラコモン達と一緒の食卓に着いたガブモンは、今までの先輩達の行動を事細かに話してくれた。

 話を聞いてみると、とりあえず今のところは原作に近い形で進んでいるらしい。

 だけど、原作にはなかったこともある。

 湖でのクワガーモンの再強襲、俺のワイズモンを通して通信、そして丈先輩の山登りの動機の若干の変化……俺がいたから起こったイベントだ。

 しかし、これらがあっても今のところは原作通りに進んでいる。

 これは些細なことでは原作には影響しないと考えてもいいかもしれないし、今回は偶然うまい方向に行っただけかもしれない。

 まぁこのあたりはデビモンが考えている事と同じで、今考えても仕方ないことだな。

 それに世界の修正力やらなんやらを考えるだけ無駄だし、あてにもできない。

 自分が正しいと思っている行動をするだけだ。

 ただ、その行動で起こることをしっかりと予測しておかないとな……これに関しては原作知識が役に立つ。

 

 いろいろなことを考えながら、次はガブモンの話すヤマト先輩の事を木の実を食べながら聞いていた。

 まだ五日しか過ごしていないはずだが、その話は途切れることを知らない。

 やっぱりパートナーデジモンは自分の主人への愛着はすごいんだな~。

 まぁ、現実時間で4年、デジタルワールド時間だと途方もない時間を待っていたわけだから当然っちゃ当然か……

 ドラコモンとハグルモンは俺のことをどう思っているんだろう?

 特にハグルモンは必要最低限のことしかしゃべらないから結構気になる。

 また別の機会に聞いてみることにするか。

 

 ガブモンからヤマト先輩の話を聞いてからしばらく経つと、女性陣を除いた風呂上りのデジモン達と先輩達が食堂に入ってきた。

 

「ガブモン、お前いないと思ってたらこんなところにいたのか」

 

「えーっと、ちょっと恥ずかしくて……」

 

「あぁ、毛皮を外すのがいやなのか……まぁそこまで汚れてもいないからいいか」

 

「いい湯だったぜ~。信人も早く入ってこいよ」

 

「じゃあそうしますね……ハグルモンは入らない方がいいか?」

 

「ハイ。水ハアマリ好キデハアリマセン」

 

 まぁ金属ボディだから錆びちゃいそうだもんな。

 

「分かった、ならドラコモンと入るよ。デジモン達はそこにあるものを適当につまんでてくれ。ちゃんとパルモンとピヨモンの分も残しておくんだぞ」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

 デジモン達の元気な返事を聞きながら俺とドラコモンは風呂場に向かって行った。

 

 風呂場についてみるとまだ女風呂の方から楽しげな会話が聞こえてきていて、女性陣が風呂から上がるのはだいぶ後になる様子だった。

 とりあえず幻と分かりつつも服を脱いで豪華な浴槽に浸かった。

 ……ちゃんとした水の感触だし、暖かいと感じる。

 幻だと分かっていてもしっかりと感じるくらいの強力な幻なのだろう。

 これなら騙されるのも無理ないな。

 

「はぁ~これが風呂ってやつか~。いい気分だぜ~」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 できる限り自然に返事をしたつもりだが、やっぱりこれが幻だと分かっているから返事の中に多少の白々しさが混じってしまった。

 しかしドラコモンはそれに気付かず風呂を満喫している。

 この様子なら女性陣と同じく長い時間浸かることになりそうだな。

 風呂から上がって全員集合した時点でゲンナイさんから聞いた話をしたかったが……これは風呂から上がるころには小学生にとって遅い時間になりそうだ。

 まぁ、今の時点で選ばれし子供たちの使命を教えても教えなかったとしても、大して影響はないと思うから、寝るときに言わなくてもいいか。

 先輩達は疲れ切っているだろうし、無用な心配をさせたくない。

 壁の向こうから時折女性陣の楽しそうな声が聞こえてくる。

 久々の文明的な生活だから羽目を外しているんだろうな……小学生なんだから当たり前か。

 でも、その弾んだ声が急にトーンを落として静かになることが何回かあった。

 たぶん勢い余って現実世界のことにまで話が及んで、寂しくなって気を落としてしまったんだろう。

 これも小学生なんだから当たり前……いきなり未開の地に放りだされたらそりゃ家族や友達が恋しくなったりするだろう。

 ……俺も、母さんと父さんに会いたいなぁ。

 前世の知識を持っていたからヘマやって変な行動をとったこともあったけど、気味悪がらずに愛情もって育ててくれた……変なことしたときはきっちり怒られたけど。

 

「なんか辛気臭い顔してるぜ?」

 

「ちょっと現実世界のことを思い出してな……家族の事とか」

 

「ふーん、やっぱり寂しいのか?」

 

「まぁな。今までは当面のことを考えるのが精一杯だったからな……」

 

「ん~俺にはよくわからねぇな」

 

「一応、お前はまだ生まれて間もないからな……一応な」

 

「あぁ。それじゃあ、信人が俺の親代わりってことだな」

 

 俺がドラコモン達の親か……面と向かって言われるとちょっと照れくさい。

 原作の事も考えなくちゃいけないが、こいつらの事もしっかり考えないとな。

 ドラコモン達の成長は俺次第でどうにでもなる。

 これは無限の可能性があるということだが、選ばれし子供たちと違って間違った進化を止めるデジヴァイスなどはない。

 つまりスカルグレイモンみたいに暗黒進化する可能性だって十分ある。

 それもこれも俺の行動次第で決まる。

 親ってのは責任重大なものだと改めて認識させられるなぁ……母さんもこんな苦労を……これとはちょっと違うか。

 

 その後は他愛もない話を続け、ドラコモンが満足するまで風呂に浸かっていた。

 ちょうど女性陣も俺達とほぼ同時に風呂から上がったようだ。

 

「あら、信人君も上がったの?」

 

「ああー!!木の実のことすっかり忘れてたわ!」

 

「もう全部食べられちゃってるかも……」

 

「一応デジモン達には釘も刺しておいたし、ハグルモンも一緒にいるから大丈夫だと思うぞ」

 

「「く、釘を刺す!?」」

 

「本当に刺すわけじゃなくて、それをしないように念入りに注意するって意味よ。いいから早く行ってきなさい」

 

 空先輩がとんでもない勘違いをしていたピヨモン達の認識を改めたあと、食堂に行くように促した。

 ピヨモン達は安心してホッと息を吐くとすぐに気を取り直して食堂の方に行ってしまった。

 

「まったくあれだけ食べたのに……あれ?信人君、用意されてたガウン着ないの?」

 

「あぁ、あれですか……ちょっと着づらくて、こっちの方が楽なんですよ」

 

「そう?アタシは何度も着たことあるけど?」

 

「ミミちゃんの家はお金持ちだから、普通の人はそう着ることはないわよ。あたしも初めて着るわ」

 

 まぁ俺はこの服が幻だと気付いているからだけど。

 

「ふわぁ~アタシ眠くなってきちゃった」

 

「あたしも、もうすっかり遅くなっちゃったし……」

 

 外はもうとっくに暗くなっている。

 子供はもう寝る時間だろう。

 

「もう夜も遅いですし、デジモン達の食事が終わったらすぐに寝ましょうか」

 

「そうね、今後の話は明日にしましょうか」

 

 そう言って空先輩達は食堂に向かって歩き始めたので、俺もその後に続いて歩き食堂に向かって行った。

 それから食堂に戻り、食事の終わったデジモン達と駄弁っていた男性陣と一緒に寝室に向かった。

 寝室には8つのベッドがあり、先輩達はなんの疑いも持たずベッドに向かって行った。

 俺もとりあえずベッドの前まで来るけど……8つ?原作でもそうだったっけ?

 流石にベッドの数までは覚えてない。

 まさか俺がここに来ることが知られていた?

 ムゲンマウンテンの先輩達の方にかかりっきりだと勝手に思ってたけど、俺の方にも様子を見に来ていたのかもしれない。

 この時点でファイル島は闇の力で覆われているらしいし、俺の行動を察知することができたのかもな。

 

 ということは俺の一応の策もお見通しで、とっくに対策済みなんだろうか?

 

「信人君、大丈夫?」

 

「え!?あ、はい大丈夫です」

 

「無理しないで、辛いことがあったらすぐに言うのよ」

 

 俺がいろいろ考えて勝手に不安になっている間に話が進んでいたようで、先輩達はもう寝る準備に入っている。

 俺の隣のベッドで寝ている空先輩は、俺がベッドの側で立ち尽くしていたのを心配して声をかけて来てくれた。

 その顔は俺を心配させまいと笑顔をつくっているが、その笑顔には影が射している。

 やっぱり辛いんだろうな……

 

「空先輩こそ無理はしないでください」

 

「うふふ、心配してくれてありがとう。さぁ、もう寝ましょう」

 

 自分より小さな子供に心配されたのが少し可笑しかったのか、暗かった顔は少し明るくなり、すぐに空先輩は布団の中に潜った。

 ちなみにドラコモンは俺のベッドのスプリングで跳ねて遊んでいた。

 まったく人の気も知らないで……一緒に辛気臭い顔するよりはましか。

 ハグルモンは俺の斜め後ろで大人しく待機していた。

 ドラコモンも少しはハグルモンを見習って落ち着きを持ってほしい。

 とにかく俺は遊んでいるドラコモンを諌めて先輩達と同じようにベッドに潜った。

 

………………

……………

………

……

 

 ベッドに潜りこんでからしばらく、周りから静かな寝息が聞こえてきた。

 先輩達やデジモン達は眠りに落ちたようだが、俺はデビモンの襲撃に備えて起きていた。

 デビモンが俺の策に気付いているとしたら……俺の持ってきた食料をいつの間にか幻にすり替えておいたとか?

 あそこまでの幻を操るくらいだからやっていても不思議じゃない。

 となると俺のとった行動は水の泡なのだろうか?

 

 悶々と悩んでいたところで太一先輩が眠っているベッドから音がした。

 

「う~ん、トイレくらい一人で行けよ~」

 

「太一だって夜一人で行くの怖いくせに」

 

 そんな会話をしながら太一先輩とアグモンが出て行った。

 この後に太一先輩はトイレでオーガモンに鉢合わせしたんだ。

 さて、俺も太一先輩をこっそり追っていきたいところなんだが……

 

「グゴォ……」

 

 ……この寝坊助が俺に乗りかかって寝ているから出るに出られない。

 太一先輩について行けばフリーズランドに行けるかもしれないから、グリズモン達の助力が得られると思ったんだけどな……

 まぁここでデジモン達が進化してデビモンを撃退できれば一番なんだが……高望みしすぎかな?

 

「マスター、ドウカイタシマシタカ?」

 

「起きてたのかハグルモン?」

 

「ハイ、マスターガ眠ラレテイナイノガ気ニナリマシテ」

 

 俺がまごまごしているとドラコモンの反対側で寝ているはずだったハグルモンが小声で話しかけてきた。

 

「いや、どうにも妙な胸騒ぎがして眠れなくてな……」

 

「私モ、コノ館ハ不自然ナノデ警戒シテイマシタ」

 

「やっぱりそう思うか?」

 

 まぁ、冷静に考えればこんなに都合よく館が建っているなんて思わないしな。

 

「オーガモンだ!!」

 

 ハグルモンと話してすぐに太一先輩の声が聞こえてきた。

 いよいよイベント開始か……

 

「チッ!仕方ない、こうなったら先にこちらを……」

 

 布団とドラコモンを跳ね除けて太一先輩のところに向かおうとしたところで、入り口から不穏な言葉が聞こえてきた。

 まさかと思って布団に潜りこみながら視線を入り口を向けると、全身真っ黒で穴だらけの禍々しい羽を持つ悪魔型デジモン、デビモンがこちらに手を向けて何かをしようとしているところだった。

 

「なっ!?ハグルモン≪デリートプログラム≫!!」

 

「ギギ!≪デリートプログラム≫!」

 

「何!?」

 

 ハグルモンが放った数字列がデビモンに向かって飛んでいく。

 不意を打たれたデビモンは数字列に囲まれてしまい、それによって起こされた爆発を避けらず怯んでしまう。

 危なかった……常に警戒してたハグルモンが居てくれてよかった。

 

「なんだ!?」

 

 爆発音に気付いたヤマト先輩が真っ先に飛び起きて声を荒げた。

 それにつられて他の先輩達も次々に目を覚ました。

 

「またしても私の邪魔を……大人しく寝ていればいいものを」

 

 デビモンが俺を見ながら忌々しそうに吐き捨てた。

 この様子だと俺のやった対策は効果があって、デジモン達はある程度の力を持っていることになる。

 それに焦ったデビモンは俺達が眠っているところを確実に仕留めようと思ったわけだ。

 他にも動き出すチャンスはあったと思うが、デビモンは俺達が寝静まった時が安全だと考えたようだ。

 ここに留まっていて正解だった。

 太一先輩に付いていったら誰かやられていたかもしれない。

 これだけの大騒ぎの中でいまだ寝ぼけ眼のドラコモンに少しだけ感謝した。

 

「お前は一体……」

 

「デ、デビモンだ……」

 

「デビモンとは?」

 

「恐ろしいデジモンでっせ……冷徹で残酷なんや」

 

 ガブモンが出した名前に泉先輩が疑問を持ち、テントモンが怯えながら答えた。

 

「愚かな子供達よ、夢はもう失われた……」

 

 デビモンがそう言うと、ガラスの割れたような音とともに周りの風景が崩れていく。

 姿を現したのはもはや雨を凌ぐこともできない廃墟だった。

 

「ここにあった服も、風呂も、食べ物もすべては幻だったのだ……さて、こちらよりもあちらで一人でいる方を先に始末するか」

 

 デビモンは数の多いこちらよりも太一先輩に標的にしたようだ。

 

「待て!先輩達、進化を……」

 

「ふん、貴様らは空のお散歩でも楽しんでいるがいい」

 

「う、うわ!?」

 

 デビモンがこちらに手を向けて黒い波動を放つと、ベッドが急に浮き上がり滅茶苦茶に動き出した。

 

「どわあああああ!?」

「うお!?なんだなんだ!?」

「ギギ!シッカリ掴マッテクダサイ!」

 

 俺のベッドだけ他の人たちと動きがかなり激しいから、どうもデビモンは俺のことを結構恨んでいるらしい。

 先輩達やデジモンはベッドが急に飛んで動きだしたベッドに驚いてパニックになり、進化どころではないようだ。

 俺は目まぐるしく変わる風景に翻弄されながらも、地上にいる太一先輩に向けた。

 太一先輩はデビモンと対面して何やら話しているようだ。

 そして話が一区切りついたところで、ファイル島の分裂がはじまった。

 上空から見ると島全体が震えて、亀裂が入っていくのがよく見えた

 亀裂が全体に広がり、島が分裂し始めたすぐ後に、アグモンの攻撃をレオモンが振り払って太一先輩に掴みかかった。

 しかしアグモンの攻撃はちゃんと発動していた……これは期待できるだろう。

 さらに、太一先輩の寝ていたベッドがレオモンの側に落ちて、そこからデジヴァイスが転がり落ちて光を放った。

 レオモンが光を浴びるのと同時にアグモンの体が光に包まれ……

 

「アグモン進化!―――グレイモン!」

 

 よし!狙い通りに進化した!

 レオモンもデジヴァイスの光を浴びて、原作通りにデビモンの呪縛から解き放たれたようだ。

 デビモンの方に目を向けると、相当焦っている。

 そしてこちらに手を向けた瞬間、

 

「ちょ!?ぎゃあああああ!?」

 

 ベッドが恐ろしい速さだ急降下を始めた。

 うわぁ!他の子供達よりずっとはやーい!ってふざけている場合じゃない!

 こちらを先に始末しようとしたようだが、明らかに俺ベッドの速度が一番速かった。

 どんだけ俺を恨んできているんだよデビモンは!

 

「≪メガフレイム≫!」

「≪獣王拳≫!」

 

 俺が地面にぶつかるかどうかというところでようやく牽制攻撃を放ったグレイモン達のおかげで、地面に激突という事態は避けられた。

 

「おわぁ!?」

 

 しかしベッドの方向転換に対応できなかった俺達は荷物ごとベッドから放り出されてしまった。

 ベッドが十分減速していたから大した衝撃はなかったものの、これでベッドに乗ってここから離脱することはできなくなってしまった。

 瓦礫の中から飛んでいるデビモンの様子を伺う。

 デビモンはグレイモンとレオモンに集中していてこちらに気付いていないようだ。

 

「おい、何が起こったんだ?」

 

「あいつがお前の睡眠を妨害した」

 

「じゃあ敵だな」

 

「あぁその通りだ」

 

 ドラコモンもようやく目が覚めたようで、デビモンを警戒しながら俺と一緒に瓦礫に身を潜めた。

 

「くそ!もっと楽に始末できる予定が……!」

 

「残念だったな。私を利用した事を後悔するがいい!」

 

「たった2体で何ができる!」

 

 デビモンが手の平から黒い波動を放ち、レオモン達は各々の必殺技でそれを迎撃する。

 二つの力は拮抗しており、数秒後に弾けてしまった。

 オーガモンも何とか戦いに参加しようとしたが、技が相殺された余波を受けて吹き飛ばされてしまった。

 

「チッ、≪デスクロウ≫!」

 

「太一危ない!」

 

「グレイモン!?」

 

 業を煮やしたデビモンは太一先輩を狙って技を放ち、グレイモンが太一先輩を身を挺して守った。

 太一先輩はおかげで無事だったが、デビモンの腕に捕まれたグレイモンは大ダメージを受けてアグモンに退化してしまった。

 これはチャンスを逃したか?

 俺がいいタイミングで攻撃を放って隙を作り、グレイモン達の攻撃を直撃させるつもりだったんだが……

 

「大丈夫か!?アグモン」

 

「う、うん……なんとか」

 

「ふふ、では始末させてもらおう」

 

「させるか!≪獣王拳≫!」

 

「ふん、そんな攻撃……」

 

 デビモンはグレイモンを退化させてかなり油断している……もうタイミングはここしかない!

 

「ドラコモン!ハグルモン!」

 

「≪ジ・シュルネン≫!」

「≪デリートプログラム≫!」

 

「何だと!?ぐおっ!!」

 

 デビモンは予想外の場所から飛んできた攻撃に対応することが全くできず、こちらの攻撃を受けて体勢を崩した。

 さらにレオモンが放った必殺技がデビモンの肩に直撃した。

 

「おのれぇ!!また貴様らか!」

 

 デビモンが凄まじい剣幕でこちらを睨みつけた。

 デビモンに手傷を負わせたのはいいけど、これはちょっとまずいかもしれない……

 レオモンの方は……オーガモンと戦っていてそれどころでは無いようだ。

 すでに太一先輩の姿はなく、もうレオモンによって離脱させられたらしい。

 レオモンもこちらを見て、目で逃げろと必死に訴えかけているが、近くを見回しても乗り移れるような島はなかった。

 周りを見回している間にデビモンは距離を詰めてきており、俺のすぐ目の前ですごい形相でこちらを見下ろしていた。

 

「何度も私の計画の邪魔をしおって……だがここで終わりだ」

 

「冗談じゃない。こんなところで終わってたまるか」

 

「減らず口を」

 

 強がりを言ってみるが勝てる見込みはかなり少ない。

 いつも軽口をたたいているドラコモンですら無口になるほどの強敵だ。

 もうこうなったらとりあえず足掻いて時間を稼ぐしかない。

 厳しい戦いになるだろうが……

 

「死ねぇ!≪デス「≪メテオウィング≫!」ぐはぁ!?」

 

 デビモンが必殺技を放とうとしたまさにその時、空から炎の雨が降り注ぎ、それらすべてがデビモンの背中に直撃した。

 背後からの奇襲を受けたデビモンは片膝をついてしまい、大きな隙を見せることになった。

 

「空先輩!」

 

「信人君!バードラモンの足に掴まって!」

 

 空先輩がバードラモンに乗って助けに来てくれたのだ。

 俺達は怯んでいるデビモンを尻目に、バードラモンの足に飛びついてデビモンのいる島から離脱することに成功した。

 島の上空を見るとカブテリモンもいた。

 カブテリモンはレオモンの方に加勢に入りオーガモンを撃退するが、結局レオモンを乗せずにどこかに飛んで行ってしまった。

 たぶん自分のことはいいから逃げろみたいなことを言ったんだと思う。

 

「助かりました空先輩」

 

「無事でよかったわ。隣のベッドが空だって気が付いた時にはほんとに驚いたわよ」

 

 今戻ってきた空先輩と泉先輩はパニックから立ち直った時に進化できることに気付いて援護しに来たらしい。

 そして各々手近にいた方の援護に入ったというわけだ。

 空先輩が来てくれて本当に助かった、あのままだとデビモンにやられてしまっていただろう。

 まさか俺が持ってきた食料がこんなところでも役に立つとは……持ってきておいてよかった。

 

「これからどうしようかしら……他の人と合流したほうがいいのかも」

 

「あ、いや……空先輩のベッドを追いかけた方がいいんじゃないですか?」

 

「えぇ?……あ!あたしの服!!」

 

 空先輩は慌てていたのか服を着る暇がなかったのかわからないが、幻だったガウンはなくなり、下着のワンピース1枚のみの恰好だ。

 あの様子だと前者だと思う。

 

「バードラモン!あたしの寝ていたベッドを追って!」

 

「わかったわ空」

 

「信人君もこっち見ないでよ!」

 

「当たり前です」

 

 俺は目を逸らすついでにデビモンのいた島のほうを見た。

 そうえばレオモンの悲鳴が聞こえなかったな……デビモンが手傷を負っているからまだ戦いが長引いているんだろうか?

 できれば無事に逃げてくれればいいけど……

 バードラモンの飛ぶ速度は速く、あっという間にデビモンのいた島は小さくなっていってしまった。

 今回は割といい方向に事態が動いたな……これからもこの調子でがんばっていこう。

 次に俺が向かうのはオーバーデル墓地、原作通りに進めば特に問題なく終わるイベントだが、どんなふうに動くか一応考えておくか。





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