デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供 作:noppera
第1話 いきなり絶体絶命
参った……何が参ったて今の状況だ。
たしか俺はかなりスピードを出した車に思いっきり跳ね飛ばされたはずなんだが……。
「おぎゃー!」
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
なんで俺は赤ん坊になって看護婦さんに抱かれてるんだあああああぁぁぁ!!
………………
……………
………
……
…
あの衝撃から幾年、俺は立派な小学二年生になりました。
まぁ、あれだよくある転生ってやつだ。神様に会ってないからいわゆるチート能力ってのは持っていないはず。
最初は俺が生きていた世界の過去に転生したと思ってたけど、小学生になってからそれは間違いだとわかった。
俺と同じクラスに八神ヒカリという子がいたからだ。それにたしか両親が光が丘で爆弾事件があったとか言ってたような気がする。
つまりここはデジモンアドベンチャーの世界だということだ。
デジモンアドベンチャーのアニメは前の世界で好きなアニメの1つだったからよく覚えている。
たしか爆弾事件の真相は現実世界に現れたデジモン達の戦いのことだったはず。
そしてそのデジモン達を目撃した8人の子供が、選ばれし子供としてデジタルワールドを救うために冒険をするはずだ。ヒカリちゃんはその8人の内の一人だ。
だけど俺はその事件を目撃してないし、そもそも俺は生まれてからずっとお台場にいたんだ。事件とはまったく接点がない。
少なくとも無印の原作からは離れたと思っていいんじゃないかな。
ヴァンデモンのお台場襲撃はたしか死者とかは出なかったはずだから、下手なことをしなければ大丈夫なはず。
まぁあまり褒められたことではないかもしれないけど、すべて主人公たちに任せるというのが俺の行動指針だ。
俺は前世の経験を生かしてエリートロードに乗って、大きな企業に就職して親に楽をしてもらうという素朴な夢を実現するだけで満足だ。
世界を救うなんて大それたことを俺ができるはずがないし。
さて、俺の転生後の2度目の小学校生活だけど、俺はクラスのまとめ役という位置に落ち着いている。
精神年齢が高いからだろうか、どうも小学生くらいの小さな子供は放っておけなくてつい世話を焼いてしまうのだ。それがきっかけで友達になった子も多くて、ヒカリちゃんもその中の一人だ。
喧嘩の仲裁や勉強を教えているうちに子供たちに慕われてしまって、そのうちリーダー役をすることが多くなった。
まぁ、小学生と遊ぶのも結構楽しいし、俺の小学校生活は順調だった。
………………
……………
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……
…
そして今日の日付は1999年の8月1日。
『……世界では異常気象が続いています。各国の研究者達もこの急激な環境変化については原因がわからないという見解を………』
「信人ー、そろそろ出ないといけないんじゃないー?」
「はーい!」
母さんからの返事元気よく答えてテレビを消してバックを背負い出発の準備をする。
そう、今日は原作が本格的に動き始める日だ。
俺は選ばれし子供たちが参加するサマーキャンプに参加することになった。
どうせ中止になるし、原作に関わるかもしれないからあまり乗り気じゃなかったけど、周りの友達が一緒に行こうと騒ぐので渋々ついていくことにした。
まぁデジモン事件を俺は目撃してないからデジタルワールドに行くことにはならないはずだ。
友達と一緒にキャンプを楽しむとしよう。
「いってきまーす!」
そう言って俺は意気揚々と出発をした。
ところ変わってキャンプ場……
「先輩、こっちの準備終わりました。」
「おお、ありがとうな。あとは俺たちでやっとくから、景色でも楽しんで来いよ。」
「ありがとうございます。」
う~ん。ほかの班の友達はみんなまだ仕事に手間取ってて遊べる状態じゃないな。
仕方ないから先輩の言うとおり、もうちょっと上の方に行って景色を楽しむか。
………………
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……
…
「うおー……期待以上の景色だ。」
山の木々は青々しく茂っていて、空は適度に雲がかかっていて絵になっている。
空気もおいしいし、やっぱり来てよかった。
「……でもちょっと遠くに行きすぎたかな。急いで戻らないと。」
そう思って早足で帰路についた途端、雲行きが怪しくなってきた。
「やばい!吹雪が来るか!?」
かなり風が強くなってきた。これに雪まで加わるとなると外にいるのは危険かもしれない。
「おーい!こっちだー!」
声のした方を見るとゴーグルをつけた少年が祠の前で手を振っている。
……あれは十中八九八神太一先輩さんだろう。
まぁ別にあそこに行っても俺が原作に巻き込まれることはないはずだ。
吹雪のなかを一人で突っ走るのもごめんだし、素直にあの祠の中に入るか。
俺は祠に向かって走って行った。
「ふぅ~助かった。ありがとうございます。え~と……」
「5年の八神太一だ。よろしくな。」
「2年の高倉信人です。」
まだ会話をつづけようかと思ったところで外の風の音が凄まじいことになってきた。
祠の中では何人かの人の気配は感じるが、暗いし、風の音が強くて会話どころではなかった。
俺たちは祠でおとなしく吹雪がやむのを待つことにした。
………………
……………
………
……
…
吹雪がやむとほとんどの人は外の様子を見に出て行ってしまった。
俺は祠から出ずに戸の前に立って外を眺めていた。
「うわ~信じられねぇ。この真夏に雪だなんて。」
「あ、君は……。」
「あ、泉先輩。この班にいたんですね。……先輩、キャンプにパソコンはないでしょ。」
「持ってくるなとは書いてなかったですから、つい……。」
俺と同じく祠の中に残っていたのは選ばれし子供たちの一人、泉光子郎先輩だった。
実は泉先輩とは前々から面識がある。
俺は放課後にはいろいろな習い事をしていて、コンピューター教室にも通っている。
そこで俺と泉先輩と知り合ったのだ。
2、3言葉を交わしていると、外の人たちが騒がしくなった。
外に出て空を見るとオーロラがかかっている。
「すげぇ……」
思わず声が漏れる。
このキャンプでオーロラが見れることをすっかり忘れていた。
やっぱり時間がたつと前世の記憶でも曖昧になってくるようだ。
最初は原作に関わりそうだからと思って行きたくなかったこのキャンプだったけど、やっぱり来てよかった。
……でも、たしかこのすぐ後には……
オーロラを眺めていると
そして次の瞬間
「うおぅ!」
光が俺たちの周りに落ちて、周りが雪煙に包まれた。
大丈夫だとはわかっていてもこれは怖い。俺はとっさに伏せて身を固くした。
「……ったく、今度はなんだ?」
白々しいセリフを吐きながら起き上る。
回りを見てみるとすでにほかの人はみんなデジヴァイスを持っていた。
「泉先輩、なんですかそれ?」
「わかりません。ポケベルでもないようですし……」
首を捻る泉先輩を横目で見ながら、俺の周りを見る。そして自分のデジヴァイスがないことを確認して、小さく安堵の溜息を吐いた。
もしかして何かの手違いがあって自分にデジヴァイスがあったらどうしようかと内心不安だったのだ。
まぁでもここで俺のデジヴァイスがないといことは決定的なことだ。俺は原作に関わることはないはずだ。
あとはここで太一先輩たちの旅たちを驚愕しながら見送ればいい。
そう考えていた次の瞬間、俺たちの目の前に巨大な津波が出現した。
「(……あれ?デジタルワールドに行くときってこんなんだったっけ?え?たしか光の柱に吸い込まれるんじゃなかったっけ?)」
俺の頭に最悪の予測がよぎる。
……これは少しまずいかもしれない。
焦る俺をしり目に津波は二つに割れ、そこから強力な吸引力が生まれる。
やばいと思った時にはもう遅かった。俺の脚は地を離れ、体は津波に飲み込まれる直前だった。
「嘘だろおおおおおぉぉぉぉぉ.....」
………………
……………
………
……
…
「うーん……げ。」
目を覚ますと頭痛がする光景が広がっていた。
まったく見たことのない植物が生い茂っている。絶対にキャンプ場の近くではない。
「来ちゃったってことだよな……デジタルワールドに。」
ほんとに頭が痛くなってくる。
デジヴァイスがないということはおそらくパートナーデジモンもいないはずだ。
そしてここは野生デジモンの巣窟。一人でここにいるのは危険極まりない。
「急いで先輩たちと合流しないと……ん?」
耳を澄ますと虫の羽音のようなものが聞こえてきた。
もしかすると太一先輩たちを襲っているクワガーモンの羽音かもしれない。木に登って様子を見ることにした。
木に登りバックから双眼鏡を取りだし、音のした方角を覗いてみる。
「見つけた!けど……。」
見えたのはクワガーモンの体が炎上して倒れているところだった。
あそこでは太一先輩たちがクワガーモンと戦っているはずだ。
原作ではデジモンたちが力を合わせて強敵を倒す熱い場面であったが、今の俺にはそんなことを感じる余裕はなく、焦りに焦っていた。
「やばい、合流が完全に遅れた!このままだとまずい!!」
そう、今俺は危機的状況に陥っている。この後すぐに太一先輩たちはクワガーモンと一緒に崖から落ちてこの森から遠ざかってしまう。
そうなれば俺は孤立する。危険なんてものじゃない、詰みだ。
「あぁ!!」
だが無情にも場面は進み、太一先輩達がクワガーモンと一緒に崖下に落ちていくのを見てしまった。
……詰んだ。
デジヴァイスはないしパートナーデジモンもいない。
まわりは野生デジモンの巣窟。地理もよくわからない。
しかも一人という絶望的な状況。
「……嘘だろおおおおお!!!?」
俺の絶叫がむなしくジャングルに木霊した。
………………
……………
………
……
…
太一side
「おいみんな、大丈夫か!?」
「ええ、なんとかね。」
よかった。あの激流ではぐれた人はいないみたいだ。
しかし吃驚したな、あのクワガーモンって奴。
なんにしてもあの魚のおかげで助かった。たしかあれよんだのは……。
「ゴマモンだよ。」
あれ?丈と一緒にいたのってたしかプカモンとか言ってなかったか?
「僕たち進化したんだよ。だから僕は今アグモンだよ、太一。」
進化?まぁよくわかんないけどとにかく強くなったってことか。
それから進化したデジモンの自己紹介の後に、みんなで行動の方針を決めようとしたけど……。
「あの!ちょっといいですか?」
「なんだ?光子郎。」
「高倉君がいませんよ!」
高倉って……あ!吹雪が来る直前に祠に駆け込んできた奴だ!
「誰?その高倉って子?」
「吹雪が来る直前に、誰かが走っているのが見えたから、危ないから中にいれてやったんだよ。たしか名前が高倉信人。二年生だって言ってたぞ。」
そう説明したけどみんなピンとこないみたいだ。たしかにあいつ、祠から出てたっけか?
「なぁお前ら、タケルよりちょっと背が高いくらいの黒髪の男の子見なかったか。」
聞いてみたけどヤマト達はもちろんデジモンたちはみんな首を横に振った。ということは……
「まだ崖の上に一人で残っているんじゃないか!?」
「そうですよ!急いで戻らないと!」
丈と光子郎が慌てていうけど、この崖をまた上るってなると相当大変だぞ。
「あいつってほんとにここにきてるのか?クワガーモンが来る前にあの辺りは探してまわったけど……」
「彼は僕の隣いて、一緒に吸い込まれたのを僕は見ました。一緒に来てるはずです。」
「でもピヨモン達みたいなデジモンと一緒だったんでしょ?合流に遅れることはないと思うけど。」
「え?空達みたいな人もう一人いるの?」
「ええ、そうみたい。」
「それはおかしいわよ。私たち七匹しかいないんだもん。」
「どうゆうこと?パルモン。」
「わてらは七匹で一緒に光子郎はん達が来るの待ってたんや。その高倉はんとやらを待っていたデジモンはいてません。」
ちょっと待てよ、ということは。
「おい、その高倉って奴、崖の上の森で一人きりなんじゃないのか!?」
「大変だよ!僕くらいの子が一人ぼっちだなんて!」
さっきの丈達みたいにヤマトとタケルが焦っている。
そうだ、ここはどんなことが起こるかわからない未開の地だ。一人で残しておくのは危険だ!
「でも……ここを上る道がない。あの崖を上るのは無理だぞ。」
「そうですね……。一度開けた場所に出て、道を探すのはどうでしょう?」
「そうしたほうがいいかもしれないな。よし、みんな行こう。」
「おい!そっちは崖とは真逆だぞ。何考えてんだ。」
「さっきこっちに海が見えたんだ。崖の上から見えたってことは高倉にも見えると思うんだ。そんでもってその砂浜にメッセージを書くんだ。それに結構開けた場所だったしな。」
「そうか!そうすれば高倉君にも何か伝えられるかもしれないし、大人たちが見つけてくれる可能性も高まる!」
そのあと丈の後押しもあってこの案は採用されて、俺たちは急ぎ足で海岸に向かうことになった。
ご意見・ご感想お待ちしております。
デジモンはデジモン図鑑を中心にして登場時期などを無視して登場させようと思います。