年末は殺人的に忙しくなるので最悪年明けまで更新が遅れるかもしれないです。
更新を楽しみにしている方には本当に申し訳ない……<(_ _)>
腕をたたみゴルフスイングでボールを振り上げたバットは、低めのチェンジアップを捉え、掬いあげた。
「サード!」
「くぅぅっっ! 届けえっ!」
誰かが叫ぶ。
サードは条件反射で腕を伸ばし飛ぶが――――
――届かない。
「ファールだ!」
「いや入るっ! 入ってっ!」
重力に従い落ちる打球。
夕陽はフェアだと信じて1塁へとダッシュする。
5回裏の大チャンス。
4点差ビハインドのこの状況で夕陽が塁に出ることは重要な意味がある。
次の4番大鳳が打席に入ることもそうだが、打撃の苦手な乙姫の後続は咲夜、音猫、そして本日大活躍中の雪那。
夕陽が出ればノーアウトバッター大鳳。
150cmの小学生には見えない恵まれた体格から繰り出すパワーは計り知れない。
雪那まで繋がれば試合は一気にひっくり返すことも可能。
だからこそ塁に出たい。
夕陽は走る。
そして執念の打球は3塁線を――
「フェア!」
――切らないッ!!
球は3塁線を切らず抉るように白線を走る。
「くっ!? 中継頼む!」
レフトはフェンスに直撃した球を急いで拾い送球する。
2塁ランナーの走力が高いのはすでに察している。
5年生の
それを理解しているからこそ、ある意味信頼しているからこそ彼女は即送球油断せず送球を行う。
「急いで送球?
そんなんで――――
追い……つけるかぁぁぁ!!」
芽留は夕陽が吠えながら打球に喰らいつく瞬間――すでに2塁ベースをスタートを開始していた。
数年間野球をし続けた彼女は、この打球は入る! と半ば見切り発車で走り出していたのだ。
秘めた想いを胸に芽留は爆走する。いつも背中ばかり見続けた。
蒼い髪のスカした少女が瞼に映る。
ぎゅっと力強く拳を握り芽留は3塁ベースを超えて走り続ける。
「ちょ!? 芽留っストップですわっ。レフトはもう送球態勢に入ってますわっ」
3塁ベース横で音猫は芽留に止まるよう指示する。
しかし止まらない。
芽留は突き進む。
(暴走? 上等! 自分は走ることしかできないッ)
小柄な自分。非力な自分。野球の才能など元々ない。
中学に入ったら陸上でもやった方がいいのではないか?
そう思えるくらい……足の速さしか武器がない。
(届けェェェっ!!)
ヘッドスライディングでホームベースに突っ込む。
キャッチャーもボールを受け取ったのかグラブを突きだし芽留襲いかかる。
ドンっっ!!
土煙りが辺りを打だよう。
審判の判定はゆっくり両手を広げ、
「セーフセーフ!!」
「いよっしゃあぁぁ!!」
「やった、やった(ぶんぶんぶんぶん!!)」
「うわ!? アンタ腕振りまわさないでよっ」
雪那はいつもの無表情顔で腕を振り回しながら歓喜する。
喜びは一緒に味わう、だって仲間だから。
彼女なりのコミュニケーションのとりかたと言ってもいい。
そんな雪那に芽留も笑いながら、
「いえーい!!」
「いえーい」
パンッ!
ハイタッチで掌を交わす。
それが彼女たちのやり方。
そして次のバッターボックスに入るのはノーヒットながらも、2回の犠飛で2打点を挙げている――
「そしてようやく俺様の出番ってわけだ……」
――大鳳。
力強く地面を踏みしめ歩く。
3点差の場面――ノーアウトランナー2塁。
彼女はただぎらつく目つきでバッターボックスに入る。
ここまできたら連打連打! の勢いで仲間達の声援にも熱が入る。
「犠飛の神様~~~どうか打点お願いにゃー♪」
「かっとばせー犠牲フライ♪」
「輝も芽留もなにいってんのよランナー2塁じゃ犠牲フライ成立しないじゃない」
「「いや~ここはお約束ということで~~~」」
「てめぇらっ!! 応援する気あるのかないのかどっちだ!」
がるると吠える大鳳とにやにや顔の咲夜たち。
どうやら彼女らのいじり要員に彼女は入ってしまったようだ。
「御三方ここは普通に応援した方が宜しいかと……」
「まあまあ龍宮さん、あの子達なりのコミュニケーション方法でございますわよ」
「そ、そーなの?」
お淑やかお嬢様タイプの乙姫とツインテをふるふるしてる兎は音猫の言動に疑問譜を浮かべる。
どのみち今日顔を合わしたばかりなのでそれ以上突っ込んだ話もできず、心配そうな顔でとりあえず応援を続ける。
そして雪那といえば、
「打席♪ 振って♪ ほ~~~むらん♪」「投球♪ 直球♪ 三三振♪」「鉄下駄♪ アンクル♪ 根性♪」
なにやら不思議な歌を口ずさむ。
長く喋れないので区切り区切り歌い続ける。
「「「…………(なんか凄く気になる……)」」」
最初はスルーしていた周囲だが、あまりにも突っ込みどころがある内容。
次第に我慢できなくなったのでチーム一の突っ込み職人咲夜が結局問う事に。
「ねぇ……雪那、アンタなに言ってるの……?」
「応援歌(キリ!)」
「お、応援歌?」
「応援歌(キリリ!!)」
「あーうん判った」
ちょっとだけ変な空気が流れた。
そんな彼女たちを遠目で見つめている1人の女性がいた。
「編集に小突かれてそこらにきたけど…………これはいいネタが入るかも♪」
幾つもある日本の小学校。
そこで見つめる1人の女性。
雪那と長く付き合う事になる彼女はまだなにも知らずただ試合を見つめるのだった――