IS IF もしも一夏があの守銭奴ステータスだったら【休載中】 作:縞瑪瑙
まず最初に、何がどうしてこうなった……戦闘シーンは軽く書くはずだったのに、気が付けばこれまでの倍以上かいてしまった。
いや、読んで楽しめるものが書けた気はしましたがちょっと自分でもひどいなと思ったりしました。それもこれも境ホラのせいですね、うん。ネタも盛り込んでしまいましたし、ついに『アレ』をほうり込んでしまいました。反省は(ry。
というわけでセシリアとのクラス代表決定戦です。ごゆっくりお楽しみください。
IS学園の第三アリーナ。そこでは激しい光の奔流が飛び交っていた。それは地面の土をうがち、アリーナの内側に張られた指向性のエネルギーシールドによって霧散した。
それは本当の銃撃戦にも勝る、激しいものだというのは素人目にも分かる。一歩先は死地。ずるがしこく、大胆にして慎重に動かねば次の瞬間には自分の命が飛んでしまう。
その奔流の間を駆けるのは、二人分の鎧を着たような人間の姿だった。人の英知たる科学の結晶IS。それをまとう二人は激しいガンファイトを繰り広げながらも、互いの隙を猟犬の如く探り合い、互いに牽制を飛ばし合う――――――なんていう戦いはなかった。
「前置きしといてなんなのだー!」
箒はどこへともなくツッコミを入れた。
箒の姿は、アリーナのピットにあった。既に試合は開始され、一年一組のクラス代表をかけ一夏とセシリアが激突していた。そして、未完成状態のIS『白面稲荷金式』のサポートをするために、目の前では『銀髪盲目系ロリ守銭奴』という濃すぎるキャラのクロエ・クロニクルがいくつものモニターを展開して操作していた。一体一夏とはどういう関係なのか?
「箒様、ちょっと黙っていてください。無駄に酸素と水分が浪費されてしまって地球に申し訳ないです」
そして、これである。毒舌と二面性というジャンルまで加えてもいいのではないだろうか。至極丁寧な口調で馬鹿にされるのはこんなにも変な感じがするのかと妙な関心を得た。
「というか、なぜ私に敬語を?」
「私はいろいろありまして、束様に拾っていただいたのです。そこらへんはおいおい語りますが、要するに命の恩人で、束様のご家族である箒様に敬意を払うのは当然です」
しれっと答えるが、言葉に嘘はないと箒は察した。他人に興味を抱かない姉がどういう経緯を持ったにしろ、このクロエを助けたのなら良い変化と、素直に喜ぶべきだろう。一夏も言っていた、非常に気まぐれだが約束は守ると。
……姉さんに、良い変化が起きたと私は信じたいな。
性格はあれだ。天災で周囲を顧みない、破天荒が服を着てウサ耳カチューシャつけているような人間だが、やはり自分にとってはかけがえのない家族だ。
だが、と箒は意識をアリーナへと戻した。今は一夏の方が優先だ。今はあの駄兎は放置だ。姉も未来の弟(仮)のことなら喜んでくれるだろう。
・天災兎:『いやいやいやいや………さすがに箒ちゃんでもフラグ立てても追いつけないでしょ? いっくんてばクーちゃんへのフラグ建設に余念がなかったし』
……おや?
今どこからともなく姉の声が聞こえた気がした。気のせいだろうか? それともどこからか電波でも受信したのか? 首を傾げた箒の意識に何処からともなく姉の声が続いて届いてきた。
・天災兎:『んー、箒ちゃんも私も一応神社の娘だからさ、神様経由でなんだか会話できるっぽいよ? なんだかよくわからないけど』
・ほうき:『テレパシーですか?』
・天災兎:『似たものかもねー。今、何とか他の人も使えないか画策中だよ』
・ほうき:『というか、神様ってそんなに人のお願い聞いてくれるんですか? 仮にも神様ですよ?』
・天災兎:『ほら、神道って出てくる神様殆どがかなりアバウトだし? 供え物でもしたらいいかなぁーって』
・ほうき:『……まあ、日本神話って大体アバウトですけど……その場の勢いに任せてませんかね?』
・天災兎:『ノリがいいってことじゃない?』
なるほど、と納得した箒はあいさつを済ませて姉との通神を切った。
……待て!? 今私は超常的なことをえらく軽いノリでやっていなかったか!?
思わず箒は頭を抱える。常識の外を散歩気分で行くのは姉の属性だったはずだ。いつから自分の属性は変わったのだろうか? 哲学的な思考をしたいところではあるが今は一夏の試合がある。
見れば、一夏の姿は空中にはなかった。
「お、おい、一夏は!? まさかやられてしまったのか!?」
「いいえ、ちゃんと見てください。まだエネルギー残量は十分です。一夏はわざと地表に降りています」
●
「おっと……危ない」
一夏は軽いステップで足元に突き刺さったレーザーを回避した。土が抉られ土くれが舞うが、一夏のISに直接のダメージはない。シールドに当たればエネルギーは持っていかれるが、逆に言えば当たらなければどうということもない。
一夏の動きはごく単純だった。右にスライドしたと思えば、体を縮めながらも後退し、軽く跳躍してさらに右へ飛ぶ。もしもここに熟練の操縦者がいれば素人の動きだとすぐに指摘しただろう。しかし、その素人の動きで一夏はセシリアのレーザーを悉く回避して見せている。
「くっ、逃げ足だけは、一人前ですわね!」
「褒め言葉はありがたいな、ただで貰っておこう」
その動きは素人ながらにキレがあり、見た目以上に回避を続けていた。
一夏の動き、それは商人ならではのものだった。セシリアの射撃に関しては目の動きや銃口の向きを鋭敏にとらえてそこから逃れれば回避ができた。取引先の相手の動向を目や素振りで理解してきた一夏には余裕の作業だった。また、実際の体の動かし方も、相手への礼やその他商人の必須動作を重ねて回避している。頭を狙われれば頭を下げつつ右か左へ退出動作をとる。手足の移動先を狙われれば名刺を差し出す動作で緊急回避。
皮肉にも、セシリアの射撃が正確であるために一夏も正確に動きを選択することができた。
「行きなさい、ティアーズ!」
セシリアは焦れて第三世代兵器『ブルー・ティアーズ』を射出した。本体と分離して移動するビットは一夏を狙ってその銃口からレーザーを放っていく。しかし、それもまた一夏は回避した。アリーナ外壁の地面すれすれを、滑るように移動しながら行く。
焦れたセシリアはビットを飛ばし一夏に向けてさらに射撃を加えていく。射角を本体の位置に縛られない分離砲塔はセシリアの持つスナイパーライフルと共に狙う。
「ふむ、まだ行けるな」
だが、一夏は焦らない。淡々と派手さこそないが回避を続けていく。
●
「なるほど、織斑も考えたな」
千冬は弟の狙いをきちんと理解した。管制室で洩らした声に真耶は疑問符を浮かべた。真耶からすれば搭乗経験皆無の素人がなぜか熟練者顔負けの動きをしているようにしか見えなかった。
「あの、織斑君があんなに回避できる理由ってあるんですか?」
「もちろん。通常ならオールレンジ攻撃は自分の背後や足元からくるので、織斑のような素人は的にしかならない。しかし織斑はそれを先に潰した」
「潰した?」
つまり、と千冬は自分の視界の枠をなぞるように手を動かして見せた。
「ああやって地面すれすれに浮かび、アリーナの壁を背後に戦うことで本来生じるはずの死角をカバーしているんだ。またオルコットのビット攻撃を自分の視覚内からしか放てないようにしている。そうすれば織斑はオルコットのいる上空と左右だけに意識をやるだけですむ」
「でも、ISには別にハイパーセンサーがあるのですから空中に飛び出しても……」
「素人には無理なことだ。よしんば飛び出たところで脳みそが情報の多さに混乱するしかない。山田先生もそうですがISは
だが、と千冬はわずかに微笑を浮かべた。
「操縦者の多くが空を飛ぶことばかり考えてしまい、地面があることを忘れてしまう。逆に織斑は空を飛ぶことを捨てて空を制している」
地摺が空を制する。空を飛べた女性が、空を飛べたがために気づかない点を一夏は突いていた。
「あ、織斑君が動きますよ」
●
一夏は動きを止めると、無表情を保ったまま息を入れた。
「ふう、すでに開始から十七分。よくやるではないか、セシリア・オルコット。逃げ回る私にぶれずに射撃を続ける技量は大したものだ。この賛辞はタダでくれてやろう」
「あ、貴方は私を馬鹿にしていますの!?」
「褒めている。それ以外何物でもない。素直に受け取らねば金を要求するぞ」
聞き流したほうがよかったと、セシリアは後悔した。こういう性格であることは分かっていたはずなのだが、どうしても反応してしまう。
「ではこちらも行くぞ。白面稲荷金式(仮)の力を味わうといい」
一夏は地面へと足をつくと、腰を軽く落とした。両の手には壺型の金庫から出した貨幣弾丸が握られており、機体各所に展開した投影ディスプレイでは数字が表示され、激しく変化している。腰に接続されたテールバインダーのようなものが展開し、同じように投影ディスプレイを表示していく。そこに並んだ数字を見て頷いた一夏は、手にした硬貨を振りかぶった。
投じられたのは鈍く光を反射する硬貨弾。
当然の判断としてセシリアは回避を選択し、そのように動いた。だが、余裕があった。いかに硬貨を早く投げつけたところで限界がある。暗器の一種に似たようなものはあるが、ハイパーセンサーにかかれば目視してからでも回避できるとセシリアは理解していたのだ。
だが、その判断は間違っていたというしかなかった。
「……!?」
激しい擦過音。続けて体を走る衝撃とダメージを受けたことをしますモニター。さらには衝撃で揺らぐ姿勢。それらがセシリアに実際以上の衝撃を与えていた。
『腹部装甲版 ダメージランク:B 被弾には注意』
……一撃で、こんなにも受けるものですか!?
驚愕の表情をあらわにセシリアが視線を向けると、一夏が無表情に次の硬貨弾を手に持ったところだった。センサーの計測で相手との距離がおよそ百五十メートルほど離れていると分かった。あの一瞬で着弾したのだから、その速度は光学兵器に勝る速度だというしかない。
「そら、もう一発行くぞ」
「くっ!」
予告の声に反応し、セシリアはとっさに上昇をかける。その直後に足元を威力の塊が通過した。思わず足がとられてしまいそうな風圧を伴った硬貨弾は、背後の壁面へと激突し甲高い音を立てた。
冷や汗が噴き出ることを感じながらもセシリアは動きを止めなかった。止まっていればあの硬貨弾を喰らうと理解したからだ。
そして、同時に相手の硬貨弾への対応法も理解していた。
……動けばいいのですわ!
投じられた直後に目標へと着弾するほど速い硬貨弾は、逆に言えば狙いをつけた方向にしか向かうことはない。ならば、自分は動き回って狙いを絞らせないことで被弾の確率を下げる行動をとるべきだった。
そして投げる方向を大まかにとらえれば、あとはそこから逃れるだけで良い。
再び硬貨弾が投じられた。その狙いはどこにあるのか?
……私の体の中心!
一夏の狙いを正確に言えばセシリアの体の正中線だ。上下左右何処に動こうとも当てることができる部分を狙う一撃を、セシリアは見切った。
通常の動きではかわせない。どのように回避すればいいかをセシリアの経験はすぐさまはじき出した。
「――――ふ」
硬貨弾が発射された直後、セシリアの体はふっと浮いたように見えた。しかしその直後に体は一気に下に落ち、硬貨弾はその上空を通過して、アリーナのシールドへと着弾した。
その間にライフルを構え、トリガーを引くのは簡単なことだ。そして、そのようにした。
「ほう」
感嘆の声を上げた一夏はすぐにステップしてレーザーを回避した。
「伊達に代表候補生ではないな。そこは称賛しようか」
「PICを一瞬だけ解除して自由落下によって回避する……何とかなりましたわね」
セシリアがとったのは、反重力翼をそのままにPICを解除するという荒業だった。通常機体にかかる重力は反重力翼が相殺し、PICによって機体に生まれる慣性を解除することでISは飛行する。そこにスラスターやエンジンの出力を加えてISは高速飛行する。
だが、もしもその状態からPICだけを解除すればどうなるか。反重力翼の慣性が一瞬機体を上昇させ、しかし機体が重力にひかれて落下する。そこにセシリアは下方移動を加えることで弾丸を回避した。それによってセシリアは十メートル単位で下方へと降下していた。普通であれば反重力翼の出力制御を誤ってあらぬ方向へと吹っ飛んでしまうかもしれない。
「さて、私が手の内を明かしたのですから、そちらも明かすのが礼儀ではなくて?」
「正論だな。では明かしてやろうか、一体私のISはどういった代物なのかを」
それは、と前置きした一夏は告げた。
「単純な、金の力だ」
いいか、と前置きした一夏は体の各所に浮かぶ投影ディスプレイを操作しながら言う。
「戦闘行為とは、戦闘に関わる能力の消費行為であり、しいて言えば経済活動の一環でしかない。つまりそこへ私は商人としての力で介入ができる。白面稲荷金式(仮)はそういう特性を持つのだ」
表示されるのは金額を示すメーターであり、金銭の取引によって一夏が得た力だった。
「そう、つまり金こそ力なのだ!」
もう突っ込まない。セシリアは心に誓って相手の動きを注視した。
●
一夏の乗るISが第五世代ということは、観客席にいた生徒たちに少なくない動揺や興奮をもたらしていた。特に、専用機こそ持たないが代表候補生としてこの学園に来ている生徒たちの驚きは大きいものだった。
しかし、その興奮などはピットにいる箒たちのところには伝わって来なかった。逆にあまりISに詳しくない箒は疑問を覚えて、目の前にいる詳しそうな人間に聞いてみることにした。
「すまないが一つ聞いていいか? そもそも第五世代のISとは何なのだ?」
「簡単に説明しましょう。ですが、今は実際に見た方が早いです」
まずは、とクロエはキーボードを打つ片手間で別なモニターを表示しながら説明する。
「第一世代は世界へと公表されたISを解析し、これを量産・運用ができるようにした世代です。続いて登場した第二世代は性能の向上と量子格納領域を搭載している世代。そして、第三世代はいまイギリスの淑女(笑)の使っているような、イメージ・インターフェイスシステムを利用した特殊兵装の装備した世代となっています」
そして、と息を入れ直したクロエはタイピングの手を止めずに言う。
「束様が世界に先駆けて開発したのが第四世代、そして第五世代型ISです。まだ概念すら世界中の技術者がたどり着いていないでしょうね」
「そんなのをどうやって……あ……」
箒の疑問の声は尻すぼみに消えた。世代を飛び越えたものを開発できるのは一人しかいないことを理解したのだ。
「束様は開発者なのですから、世代の一つや二つを先んじていても不思議ではありません。第四世代は今は端折りますが、第五世代の特徴は『事象・概念への干渉』作用を持つ兵装の導入です。
そして、白面稲荷金式は金銭という概念を用いて、ほかの概念に対し干渉し、その能力をやり取りできます」
なるほど、と頷いた箒は一夏の特性……というか性癖に似合ったISだと感想を得た。傍から見ると守銭奴な性格は一歩離れておきたいものだが、まさかこういう形で役立てて来るとは思わなかった。
「ですが、まだ調整等が済んでいないところもあって、外部から主導で情報処理の手助けをしなくてはならないのです。そこで私が手助けするわけですね」
そしてモニターの中、一夏は次なる動きをとっていた。
「さあ、お金が動きますよ」
●
「一つ疑問がありますわ」
「何だろうか?」
射撃と回避の動きを止めたセシリアは眼下にいる一夏に問う。
「仕組みは大体聞きましたが、身体強化のために消費する資金は一体どこから? それに身体強化にはすぐに限界が来るのでは?」
「まったくその通りだ、セシリア・オルコット。いくら身体強化を資金を通じて行ったところで、身体的な限界を超えることは不可能だ。あくまでも私の身体的な範疇でのみ強化可能なのだ。伊達に訓練を積んでいるわけではなさそうで結構」
ふ、と息を入れた一夏は硬貨弾を持っていた手をいったん止めた。そして、腕の装甲に付けられていた排気口から熱が漏れた。まとめて吐き出されたとはいえ、相当な熱だ。無表情な一夏の顔にはわずかに疲労の色が見える。
「身体冷却の機構がなければとっくに壊れてもおかしくない。まだ試作段階であるのが欠点であるな。
さて、もう一つの問いについても答えてやろうではないか。私がどうやって消費する資金を得ているのかを」
それは、と一息入れた一夏は管制室の方を指さして言う。
「現在、この試合はあらゆるメディアを通じて実況中継されている。その中継に関する料金や広告料、さらにはDVDやその他媒体への映像化などに関わる権利を公売にかけた。諸経費を差し引きしてざっと6億ほどの資金が手に入り、これからさらに税を差し引きすればおよそ三億ほどの儲けとなった。どうだ、日本最大の宝くじ一等に匹敵するほどの金、私一人がしばらく戦うには十分だ」
ぽかんとしたセシリアが、何かに気が付いて言いかけたが、それを一夏は手で制した。
「むろん、映像として出して良い部分と悪い部分は選別したうえで編集してもらうつもりであるし、実際編集してもらっている。そちらの所属であるイギリスの許可も取ってあるし、生徒会を通じて学園長にも許可をとってある。機密云々は気にしなくても構わん」
「なら、安心ですわね」
セシリアはこの一週間で準備を周到に整えてきた相手に素直に感心した。一切手を抜かないといったのは間違いがなかったようだった。
「では試合続行だ。私も次の手を打っていこうか」
一夏は新しくウィンドウを開いた。それはいくつも数字や図を表示しており、表示された『承認』のキーをなめらかに押していく。
「今度は私が得た資金の直接運用だ。甘く見ると大損するぞ?」
身構えたセシリアは、一夏の周囲に生じた光に目を見開く。それはIS操縦者にとってはすでに見慣れたものであり、自分も生じさせたことがある光だった。
「私は得た資金をIS学園の整備課の口座へと投資した。その対価として、学園に配備された現在整備中及び使用予約がなされているISの力を私へと『レンタル』している。これには武装なども含まれる形となる」
さあ、と一夏が手を広げた先には、巨大なライフルが生じた。
「アサルトライフル『ヴェント』。学園のラファール・リヴァイブに装備されている物だな」
さらに人を数人まとめて串刺しにできそうな重厚な近接ブレードが生じた。
「打鉄に装備されている近接ブレード『正宗二型丙』。第二世代の武装としてポピュラーモデルだな」
「そ、それは分かります……ですが……!」
展開されていくのは一つや二つではない。その数は三十をはるかに超えてなお増えていく。銃火器や刀剣類、楯。到底一機のISが運用する数を超えている。
「多過ぎますのよ!?」
「問題ない、金によって私の支配下にあるから私の自由にできる。
さらにISのパワーアシスト機能も私のものとなっている。むろんすべて借りるわけにもいかないが、大体三割ほどの力を私へと供与している。一機当たりの力が五百キロほどとすれば、その三割で百五十キロ。これが三十機分あるので4.5tほどになる。これを硬貨弾への出力とすれば十分な砲撃が可能だ」
引き攣った笑みを浮かべてライフルを握りしめたセシリアに、一夏は笑みを浮かべた。その背後で、尻尾型のテールバインダーが変形し、二本で一組となり四門の砲塔となる。そこへ肩に出現した増量円柱金庫からの給弾ベルトがセットされた。その硬貨弾発射砲に対して一夏は名前を付けていた。
「
「い、良い名前ですわねー」
超棒読みのセシリアに一礼した一夏は、そのまま照準を合わせた。
「さ、金の洗礼を受けるといい」
「い、要りませんのよー!」
叫んだセシリアの声をかき消すかのように、銃撃の音がアリーナに響いた。
●
銃撃は壁となり、波となって襲い掛かる。
銃弾を吐き出す鋼鉄の銃は薬莢を外へと排出しながらも、弾丸を吐き出し、弾倉が空になれば即座に次の弾倉をセットして射撃を開始した。また、ラファールに装備されていたミサイルポッドやグレネードランチャーは速度こそ劣るがその分一撃の威力が高い射撃を放っていく。
第二世代型ISが標準装備するライフルくらいであればISにとっては大して問題はなかっただろう。だが、それが複数となり襲い掛かってきた場合どうなるだろうか? 小さなアリも群れならば巨大な象を食い殺すように、弱い射撃は集団でセシリアへと襲い掛かった。
「イヤァァァァァッ!」
半ば悲鳴を上げながらも、セシリアは回避を諦めていなかった。反撃することを捨て、背中と腰のスラスターを全開にしてブルーティアーズはアリーナいっぱいを使って逃げ出した。反撃を即座に捨てたことでセシリアは初撃で銃撃の嵐に飲み込まれることは回避できた。
文字通りの意味での弾幕の嵐。軽く涙を流しながらもセシリアは必死に逃げ回る。遮蔽物が全くないこのアリーナにおいては自分の機動力で回避するしかない。また、ブルーティアーズは第三世代ISであるがどちらかといえば実験機的な意味合いが強い。そのため、格納領域にある装備はBT兵器の『ブルーティアーズ』とその他オプションのみに限定され、打鉄のように身を守るシールドなどはなかったのだ。
……本国の整備担当の方! 恨みますわよー!
今日この試合が無事に終わったら防御用の装備も入れる、とさりげなく死亡フラグを立てながらもセシリアは動き続けた。時折アーマーの端を喰われるが大した問題ではない。とにかく動きを止めればその瞬間に負けてしまう。
五分もすれば、セシリアは一夏の動きを見切りをつけ始めた。
……やはり素人なのは間違いありませんわね。
訓練を積んでいるセシリアは射撃についてのセンスがあった。その目を通して見れば一夏の射撃は数に任せたものだと理解できた。
逆に言えば、何処を狙っているかさえわかれば多少被弾するだろうが、致命的な攻撃は受けないのだ。
……だとするなら、どうするかですわね。
この状況で自分は火力で劣る。しかも相手のエネルギー残量はほとんど消費されていない。時間制限が設けられていないとはいえ、ジリ貧であるのは間違いない。こちらにはビットくらいしか火器が残されていない。チャンスがあるとすればミサイルビットを至近距離で当てることくらいだが、あの弾幕に飛び込むのはさすがに気が引ける。
だが、と冷静に判断する。弾も無尽蔵にあるわけではないはずとセシリアは睨んでいた。いくら金を払うことで武器を得ているとはいえ、その弾などは消耗品で持ち主も無限に使うことを是としないはずだ。
……一か八か、ですわね!
腹を括るしかない。
タイミングを計る。それは致命傷となるような一撃を放つグレネードランチャーやミサイルポッドのリロードの瞬間だ。幸い、その装備の種類については学んでいたので装弾数やその口径について理解している。
そして、そのタイミングは訪れた。
「……!」
セシリアは一気にそこへと飛び込んだ。
●
一夏はセシリアの動きを注視していた。そして、セシリアの目も見ていた。
良い目だと、素直に一夏は称賛した。諦めていないのだ。武器の差、世代の差、エネルギー残量の差。加えて言えば観客からの評価の差もある状況。並の人間なら心が折れてもおかしくはない相手だった。
だが、セシリアは違う。ここに来てもまだ逆転できると信じている。それが
……金の相手をするにはちょうど良いな!
クロエからのバックアップがあるとはいえ、こちらも油断はできない。資金に物を言わせてレンタルしているとはいえ、その使用には限度があり武装が切れる頃だった。そのことを相手も悟ったようだった。
金とは万能のツールであるが、それには限界もあった。一夏は守銭奴で金を信仰するが、完全に盲目的になるほどではない。盲目的になっても戻って来れるくらいにまで加減はしている。つまり、ずるいことしてもばれなきゃ犯罪ではないのである。とある這いよる混沌もそう言っていた。
……しかし、金を使うのも素晴らしいな!
先ほどから金庫を兼ねた壺から硬貨弾を取り出しているが、手指が硬貨をつかむ感触はたまらない。金をため込むだけの阿呆はこれを知らないのだ。人生の約三割は損しているに違いない。
『一夏、淑女()が動くっぽいよ!?』
「了解だ。どれほどのものか、試させてもらおうか」
その瞬間だ、一夏は動きが止まってしまった。しまった、と一夏が思ったときには目の前に蒼が肉薄していた。
「……もらいましてよ!」
セシリアが、顔を歪めながらもそこにはいた。
●
セシリアは、自分が苦手としていた技能を使用していた。それは
だが、相手に高速で近づいて一矢報いるにはこれしかなかった。正直に言えば、怖かった。自分から相手に近づくのである。銃撃の嵐の中へ、自ら飛び込んで身を曝すのである。自殺行為だ。
だが、セシリアはそれを行った。
やることはすでに決まっている。自分でも驚くほどに冷静に動けた。
まずはミサイルビットの射出口を跳ね上げ、眼前へと向けてトリガーを引いた。当然のように直撃をするが、高性能の爆薬が積まれたミサイルビットの誘爆は自分にも及んだ。
「ッ……!」
だが、その衝撃をあえて体で受けることで瞬時加速の勢いを相殺した。当然反動は自分に来るがこの程度なら堪えることはできる。
そして、自分と相手の間に割って入ろうとする打鉄のシールドを右手のライフルで強引に止めた。相手に銃口を突きつけながらその長い銃身を使ったのだ。さらに、まだ相手が煙に飲まれている間に、セシリアは超至近距離でビットを展開した。
「この距離なら外しませんわよ!」
その言葉通り、四機のビットはBTレーザーをほぼ零距離で照射した。フルオートにしているため威力は低いが今はダメージを与えてなんぼだ、今は関係ない。そしてビットとライフルのすべてが一斉に射撃を開始した。
一方の一夏はといえば、最初のミサイルで姿勢を崩し、また大量の火器を展開していたためにセシリアの動きを追い切れなかったのかされるがままだった。かろうじて身を腕に装備するシールドでガードしているが、その程度ではまだ足りない。
そしてスターライトMk.Ⅲのマガジンが空になると、セシリアはそれを投げ捨てながら武装をコールした。
「インターセプター!」
手には近接用のナイフが呼び出された。現状のセシリアの装備の中では、この近距離で最も使える武器だ。逆手に持ち、一気に前進して一撃を狙う。
……もらいましてよ!
狙いすました一撃を放とうとセシリアが相手との距離を一メートルほどにしたとき、不意に煙が沸き上がった。
「!?」
足元へ転がったのはスモークグレネード。投擲後しばらくしてから煙を噴き出す物で、ハイパーセンサーにもある程度の効力がある。何より、集中していたセシリアの気を逸らすには十分すぎた。
一瞬動きが止まったそこに、白煙をかき分けて接近するものがあった。
鋭利な刃。エネルギーによって構築されているそれは白い輝きを放ちながら、華麗な軌道を描きセシリアに迫る。
その刃に、セシリアは見覚えがあった。かつて、ISの世界大会モンド・グロッソにおいて、同じ第一世代の機体を駆り、近接ブレード一本で二連覇を成し遂げたとあるIS操縦者が、武器としていた刀と同じ輝き。
「雪片!?」
その言葉通りのものが、一気にこちらのエネルギーシールドに食らいついた。
かつて、モンド・グロッソでそのIS操縦者と対戦した人間は口をそろえて言った。『エネルギーシールドの意味が無いだなんてふざけてるじゃないか。あんな奴の相手はごめんだ』と。即ち、エネルギーシールドを強引に突破し、絶対防御を強制発動させることでエネルギーを一気に消費させる刀。
なぜここに、とセシリアが思う間もなく、その白い刃は存分にエネルギーシールドを喰らい尽くして、持ち主の動きに合わせて振り抜かれた。
●
そして、アリーナに電子音が響いた。試合の終了を告げるブザーだ。試合の結果が巨大なモニターへと表示され、管制室からのアナウンスが観客席へともたらされた。
『試合終了! ブルーティアーズ、エネルギーエンプティーにより織斑一夏の勝利となります!』
『織斑一夏:白面稲荷金式(仮):エネルギー残量 122/500』
『セシリア・オルコット:ブルーティアーズ :エネルギー残量 000/500』
そのアナウンスを、一夏は手に白い輝きを放つ近接ブレードを持って残心の形で聞き、セシリアは呆然とした表情でモニターの数字を見た。
「負けた……?」
セシリアの口から無意識に漏れた声がアリーナの空間へと消える頃、ようやく決着がついたことに気が付いた観客席から大きな歓声が上がった。
決着が、ついたのだった。
徹夜のテンションはおかしい(迫真)。自己最長(?)のこの話を一気にまとめあげ、さらに投稿するという、狂気の所業です。
他の作品も書きながら書いているのでかなりペースが落ちてますね。これはちょっと反省点です。話の流れはできていても実際に執筆すると違うものだと、改めて実感しました。しかし、これをやってのける川上稔氏には敬服します。
今回の話で登場した用語などを提案してくれた方々にここでお礼申し上げます。では次回もお楽しみに。ゆっくり更新するつもりなので、気長に待ってくれるとありがたいです。