IS IF もしも一夏があの守銭奴ステータスだったら【休載中】   作:縞瑪瑙

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 なんでだろうか、すいすいと書き上げてしまった。
 Fateの方を書いたほうがいいのにどうしてだろう?
 では第二話の投稿です。新規シーンを盛り込みまくりました。またカワカミンが増量し、中毒性が増していますのでご注意ください。


第二話 守銭奴の演説

 IS学園は、意外と時間割がいっぱいに詰め込まれている。

 これは、ISに関する座学や実習などの時間を確保しつつも、通常の高等学校としての教育も行う必要があるためである。予習復習などの時間も考慮に入れると授業は朝早くから夕方まで続くのが通常だ。そんなわけで、入学式初日であるが生徒たちは早速授業を受けていた。

 当然、一夏の姿もそこにはある。最前列の中央という目立つことこの上ない位置にありながらも、一夏は堂々と授業を受けている。

 彼にとって、ISの教本を覚えることは非常に楽な話だ。専門用語が多く幾度か専門書を調べる必要こそあったが、要所を先におぼえてしまえばあとは単純な作業として覚えていけばいい。

 

 ……この程度、としか言えんな。

 

 また、一夏はこれまでも分厚い広辞苑のような本を幾度も読んだ経験があった。それは経済に関するものであり、金融や貿易などに関するものでもある。これらは一夏にとっては非常に有意義な知識を与える一方で、膨大な時間を理解するために要した。だが経験の有無はかなり大きい。鈍器のようなライトノベルを読み慣れると、遥かに薄いライトノベルをすいすいと読み切ってしまえるのと同じだ。むしろ物足りなさを感じるのはご愛嬌である

 その様子を見ていた教壇に立つ真耶も、フォローしなくても大丈夫だと判断し、より熱を入れて授業を進めていく。

 

「……というわけで、ISを軍事目的で使用することはアラスカ条約に違反することになります」

 

 手振り身振りを入れていく真耶は、クラスの視線を、特に唯一の男子の一夏の視線を受けて緊張やら若干のときめきを感じながらも、教科書を読み上げていく。生徒が必至なのだから、教師である自分も頑張らなくてはと気合が入ったのだ。

 しかし、一夏の視線は全く違う意味を持っていた。

 

 ……見事だな。

 

 何が、といえば真耶のオパーイである。なにを言っているかはわからないかと思うがオパーイである。中学生と間違えてしまいそうな背丈と小学生のような童顔を持ちながらも、動きのたびにたゆんたゆんと揺れるのは見事である。

 ここで言っておくが、一夏は別段真耶の胸に劣情を抱いていない。どちらかといえば、揺れ具合に感心しているのである。大体、普段ずぼらな姉やその親友であるとある天災が割と無防備な姿をさらしているのに慣れっこになっているため、もはや達観の域である。むしろ劣情を抱くとしたら金をパッド代わりにしている方へと目を向けるだろう。

 だが単純な鑑賞物としての価値はあると一夏は判断していた。劣情云々を除いても、やはり男子にとっては眼福である。

 

「ISはいわゆるパートナーのようなものですね。一説によればISには自我意識のようなものがあるとされ、互いが互いを理解しあうことが重要だとされています」

 

 そんな目線に気が付くこともなく、授業内容はISとその操縦者の関係性に入っていた。

 だが、そこまで順調に授業を進めていた真耶は盛大にミスを犯してしまう。というか、自分で地雷を踏み抜いてしまったのだ。

 

「先生、パートナーって彼氏彼女みたいなものですか?」

 

 何気ない質問、おそらく悪意はないのだろうその質問はクリティカルヒットした。

 IS操縦者として大成すると、男が遠ざかる――――――まことしやかに囁かれるジンクスである。実際のところ、国家代表クラスになるとふさわしい相手を見つけることができないままに三十路を通り越し、慌てて相手探しにいそしむ操縦者が多いのだ。女性でも適性が高い状態が保たれるのは十代後半から二十代後半。まれに三十代前半まで操縦者を続ける者もいるが、ISの操縦とはかなりの負担であるためにたいていが引退してしまうのだ。実際、国家代表になると訓練やら大会やらに忙殺され、おまけに周囲が良かれと思って男を近寄らせないのである。男の方もアイドルのような国家代表にlikeの感情は抱いてもloveの感情を抱くことはなかった。結果、出来上がるのは男性と付き合うはおろか手をつないだこともないような男づきあいが下手くそな結婚適齢期ギリギリの女性である。

 そして、この副担任である山田真耶もまた、国家代表にはなれずとも、男の気配のけの字もない女性だった。割と本人も気にしているところに、この質問である。

 

「あ、あっははははっはは……たとえがすごいですね、相川さん。ええそうです、彼氏彼女です。ISと意思疎通出来たらIS操縦者としては合格ですけど、同時に女性としてはアウトなんですよー」

「せ、先生、落ち着いてください!?」

 

 出席番号一番 相川清香は盛大に地雷を踏んだとフォローしようとするが、すでに時は遅かった。虚ろな目をした副担任は、教団に突っ伏すとと顔だけを上げて一気にしゃべる。

 

「いいですか、みなさんはまだ十代で余裕があるとか思ってるかもしれませんけど出会いなんて国家代表候補生になるとなくなっちゃうんですよわかります? 周りには同年代の女性ばっかりだし男友達なんてできるはずもないですし、家事洗濯とかもできなくて嫁入り修行が国家代表の間じゃブームになったんですよ分かりますか? 私だって出会いは欲しいけど出会う相手自体居なくって、『料理のさしすせそ』も少し前までわからなくて、電子レンジ万能説を本気で信じてましたよ。IS操縦者だっていうだけで相手遠慮して逃げちゃうんですよ、悲しいですよ悔しいですよISに青春つぎ込んだらこんなになるなんて思ってもいなかったです。できるならもう一回やり直したいですよ、セーブポイントカムバックですよ。いったいどうすればフラグ建築ができたんですか!?」

「山田先生……」

 

 その時、肩を叩くものがいた。

 にっこりと笑っているのは、担任の、そして自分より年上の人物。千冬だった。

 

「授業を、しましょうか」

 

 直後に走った閃撃が、真耶の意識を一瞬で刈り取った。

 

 

 

 

 

 

     ●

 

 

 

 

 

 医務室ではなく治療室へと副担任が担ぎ込まれるのを見送った千冬はそのまま授業の続きを行った。流石にカリスマにあふれる千冬の授業で余計な質問が出るはずもなく、順調に授業は終了を告げた。というか、千冬の目がマジであったため、副担任よろしく治療室へと送り込まれるのは怖くなったのだ。これにはイギリスの代表候補生も黙るしかなかった。そして誰しも思うのだ、ちゃんと出会いを探そうと。

 次の授業はHR。まだ復帰のめどが見えない副担任の代わりに、千冬が進行を務めた。

 

「では次に、このクラスの代表を決定したいと思う。分かりやすく言えば委員長のようなものだ。基本的に一年間は変更しないのでそのつもりで立候補もしくは推薦してくれ」

 

 だが、そこまで言って千冬の声から覇気が消えた。

 大体予想ができるのである。弟はこの学園唯一の男子で、かなり有名で、あれほどのいい意味でも悪い意味でもアピールをしてしまい、実はカリスマ性が少しありそうな感じがする、何処に嫁にやっても恥ずかしくない弟のことだ。立候補しなくても必ず推薦されるだろう。

 

 ……ああ、胃が痛む。

 

 いかに一夏がISをつかえるとしても、クラス代表になることを良しとする女子は全員ではないだろう。少数は反発するだろうし、最悪の場合対抗してくるだろう。そうしたら一夏の守銭奴性が爆発して、結論から言うと後始末が増えて面倒だ。被害がどれ程になるか考えたくもない。

 だが、千冬は担任であり、その行動は強制されてしまう。だからというように、キリキリ痛む胃を抑えて千冬は口を開く。

 

「立候補推薦はいるか?」

 

 一斉に乱立する手、手、手、手、手。

 挙げている生徒の顔を見れば誰を推薦するのか一目瞭然だった。ため息を必死に殺し、千冬は手を下げるように合図する。

 

「織斑のほかにいないか?」

 

 おそらくいないはず、いやむしろ立候補とかするなと、千冬は念じた。冗談抜きで面倒事は回避したいのだから。

 だが、千冬の願いもむなしく手が挙がった。教室の後ろの方にある席に座る、金髪碧眼の生徒だった。千冬はそれを無視するという選択肢もあったが、公平を期するために発言を許さざるを得なかった。

 確か、セシリア・オルコットだったかと、千冬はクラスの名簿を思い出す。イギリスの代表候補生だったはずだと入学時に作られた名簿には書いてあった。専用機としてイギリスの第三世代型ISを預けられていたはずで、今年の入学試験においては主席入学だったはず。

 

「私も代表へ立候補いたしますわ!」

 

 しかしオルコット、と千冬は思う。

 今の時代にお嬢語尾とは希少を通り越してレッドリストだぞ、と。レッドデータ〇ールだな。

 

 

 

 

 

 

       ●

 

 

 

 

「宜しくて、みなさん? クラスの代表とはクラスの最高実力者が就任すべきものですの」

「おーそうかー」

 

 セシリア・オルコットは、大いに憤慨を抱いていた。それこそ、千冬がめんどくさそうに棒読みでセリフを言っても気にならないほどに。

 気に食わなかったと、そういっていい。何がと言われればあの守銭奴だ。そう認識する程度にはあの男子のことを知っている、というか知りたくもなくても知るだろうあれは。というか余計なことに思考を割いてしまいましたの、反省。

 さて、と息を入れ直すと、クラスを見渡して続きを言う。

 

「そもそも(略)」

 

 大変ありがたいお説教ではあるが、ここでは時間(話の展開)の都合割愛させていただく。

 どうしてですの!? とか叫んでいる希少種だが、優先されるのは話の展開だ。希少種の声を聞き流していた千冬は別の声を聴いた。

 それは咳払いであり、椅子から立ち上がる音だ。そして飛んできた内容でちふゆのテンションは急降下していく。

 

「セシリア・オルコット……貴様は私とそれ以外の二つに喧嘩を売った。買う気も起きないような超不人気株の如しだが、買ってやろうか」

 

 一夏だ。久しぶりに一夏の名前が出たがそれをともかくとして、一夏は言い放つ。

 

「よろしい、ならば戦争だ!」

 

 おー、という程度に千冬は正気を保っていた。もはやたれちふゆ化は止まる気配が見えない。

 

 

 

 

 

       ●

 

 

 

 

 まったく、と一夏は嘆息する。金を余計ないことに使うことになるときはたいていこういうことが起きるのだ。以前も、街でいちゃもんをつけてきた女性がいて、なんやかんやと騒ぎ立てたので、その女性の勤める会社を-からから+まで……一から十まで調べて、それを証拠に株などを買いたたいて十倍返しにしたことがあった。あの時はかなり労力を使ってしまった。

 あの時と同じような感じがするが、まあ構わないだろう。一夏は自己完結すると、セシリア・オルコットの方へと向き直った。

 

「いいだろうか?」

 

 身じろぎした相手を無視し、一夏は咳ばらいをした。

 

「大いに演説してくれたな、結構。今時の女尊男卑に染まった、金の損得勘定がわからない女性らしい演説をどうもありがとう。代わりに私はこの世の心理について語ってやろうではないか」

 

 若干引き気味のイギリス代表候補生をよそに、一夏のテンションはひどく上昇していく。

 

「私が貶されるなど、大した問題ではあるまいよ。世の中は男性に対する女性の罵倒であふれている。その程度など大して問題になるまい。問題にしたところで私は裁判に放り込まれて金をとられるだけ、つまり損だ。だからやることはない、感謝しておくといい」

「訳が分かりませんのよ……」

「わかる必要など、無い。だが貴様は喧嘩を売ってはいけないもののうち三つに売ったのだ」

 

 まず一つ、と一夏は指を立てる。

 

「言うまでもないことだがな、貴様はこの日本という国に対して喧嘩を売った。極東だのサルだの言っていたが、私から言わせてもらえばイギリスも悪いところに限りはないな。

 だが日本人は、というか篠ノ之束はISを作り上げたのだ。貴様が馬鹿にする極東のサルがいなくては、貴様はこの場にはいない……いや、今の地位にいることすら危ういだろうな」

 

 一夏は一瞬黒い笑みを浮かべた。それにはさすがのセシリアも冷や汗を浮かべるしかない。いつ調べたかはわからないが自分の事情を知っているのだと、セシリアは直感した。

 

「そして、このクラスだけでなくこの学園の生徒のうち日本人すべてを敵に回した。否、貴様が一番恐ろしい相手すらも敵に回した。あろうことか目の前にいるというのに」

 

 それは、と言葉を切った一夏はほかのクラスメイトの視線を追いかけた。その視線は教壇に立つ千冬の方に向いていた。たれ状態から復帰した千冬はキリッと表情も姿勢も改めていた。

 

「そう、私の姉 織斑千冬だ。引退しているとはいえ間違いなく世界トップクラスの操縦者だな。もしもバカにしたいのであればISを用いて勝利して証明してみるがいい」

 

 そして、と一夏は付け加える。

 

「姉まで馬鹿にされて、私が黙っているわけにはいかん。これでも世界最強の弟という自負はある。もしも貴様が前言を翻しこの場で謝るのであれば私はこれ以上追及はしない……だが、そうでないならば、私と決闘でも何でもするがいい」

 

 胸を張り、堂々と格上と思える女性と張り合う男性。

 守銭奴だ、珍しい男子だと言いながらも、クラスメイトは決して見ていなかった面を目撃した。

 それは男性としての姿。誇りのある姿。今は欠片ほど、いや、IS学園に入学できるようなお嬢様のごときクラスメイト達は目にすることができない、まさにヒーローのような姿だった。

 

「くっ……なら、決闘ですわ!」

「威勢がいいな。よろしい、受けて立とうか」

 

 一夏の応対には余裕がある。しかしその一夏に決闘を申し込んだセシリア・オルコットには全く余裕がなく、まるで悪役のように映った。しかもそれはRPGの序盤に現れる、手ごわそうに見えて意外と弱点だらけなボスキャラのようにも見えたのも事実であった。

 

「まあ、一番喧嘩を売ってはいけないのは、金なのだがな。いいぞ金は、何でも解決できるからな」

「「「「「「お前、ぶち壊しだよ!」」」」」」

 

 しかし直後にほかならぬ一夏によって、真剣な空気は吹き飛んでしまった。

 こうして一夏とセシリアの決闘が一週間後に行われることが決定した。

 

 

 

 

 

 




 はい、というわけで第二話です。いかがでしたでしょうか?カワカミンが多いので、考えるよりも感じましょう。ええ、不慣れな方、アレルギーの方は回れ右をしてください。
 なろうで読んでくださった方々もこちらで読んでいただけているようなのでうれしい限りです。
 では次回もお楽しみに。感想とかあると、うれしかったりしますよ(チラッ

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