IS IF もしも一夏があの守銭奴ステータスだったら【休載中】   作:縞瑪瑙

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 皆さん、お久しぶりです。
 何をトチ狂ったのか、かつてにじファンに投稿していた名(迷)作をここにも投稿することにしました。ある時、縞瑪瑙の脳味噌が受信した電波が生み出した、世にも奇妙な二次創作、始まります。


第一話 守銭奴の入学

 天災発明家である條ノ之束ISが開発・発表して十年がたち、世の中は以下略。とある出来事からIS適性があることが分かった織斑一夏は以下略。ここら辺はすでに天ぷら……いやテンプレなので略す。

 そして物語は始まった。

 

 

 

 

 

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 IS学園一年一組。そこに件の織斑一夏の姿はあった。今はクラス内で自己紹介を名簿順に行っている最中であった。世界中から集まった才女たちは肌の色やしゃべる言語、常識、信仰する宗教はもちろんさまざま。ISというくくりの中でのみ、彼女たちと彼は学びの場を共にする。

 そして入学式を終えた生徒たちが今やっているのは、各クラスへと別れてのホームルームだった。新しい学年に進級したり、これから新しく学園での生活を始める生徒たちは興奮が多々ある。

 特に一年一組の生徒たちは特にそうだ。なにしろ、先だって見つかったISが使える男子と同じクラスとなったのだから。しかも同い年であり、パッと見悪くはない容姿、優しさを感じる風貌。女子の興味と視線を集めるには十分な要素を持ち合わせていたのだ。

 そして、そんな彼は自己紹介のために立ち上がると咳払いをした。

 

「諸君、私は金が好きだ。諸君、私は金が好きだ。諸君、私は金が大好きだ。

 

 投資が好きだ。金融が好きだ。株式投資が好きだ。投資信託が好きだ。外国株を買うのが好きだ。金取引が好きだ。貿易が好きだ。為替取引が好きだ。セールストークが好きだ。宝くじが好きだ。賭け事が好きだ。スーパーの安売りが好きだ。

 

 金融取引所で、現実の株式市場で、ネット上の株式市場で、石油の取引所で、穀物の取引所で、金取引の場で、企業の会議室で、電話越しの会議で、カジノで、スーパーで、銀行で、商店街で、市場で、あるいはどこか遠くの名も知らぬ場所で。

 

 この地上で行われているすべての商業的取引が大好きだ。

 

 さて諸君。私はISを起動させることができたがゆえにこうしてIS学園へと入学した。これは非常に得難く、私にとって貴重な経験となるだろう。

 

 だが私はその前に聞いておきたいことがある。世界最強の兵器はISだとされている。では、世界で最も偉く、世界を動かしているのは何だろうか?国か?国連か?政治家か?女性か?どうだろうか?

 

 『金だ! 金だ! 金だ! 』

 

 よろしい、ならば金策(マネーゲーム)だ。私はたった一人の商売人に過ぎない。だがISが使える、そして金の力をよく知っている。さらには金を万物に通用しうる強力な武器だと信仰している。一騎当軍の強力な力だと信頼している。

 金とはすばらしい。以上だ」

「よく言い切ったな、しかし全く駄目に決まっているだろう愚弟が」

 

 一年一組担任である織斑千冬の手にした出席簿が、弟の後頭部をクリーンヒットした。

 

 

 

 

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 ISの世界大会“モンド・グロッソ”において、格闘部門及び総合部門での優勝経験を持つ織斑千冬は、ISを用いずとも、生身での近接戦闘能力に長けている。剣術を幼いころから学び、独自の近接戦闘メソッドを確立したセンスと努力には敬意を表するしかない。そういうわけで彼女は、たとえそれが出席簿であろうとも高い威力を持つ。

 そんなものを、生身の人間に後頭部からぶつけて、ただで済むはずがない。直撃をもらった一夏の体は前のめりになって机へと縫い付けられた。叩きつけられたでは済まない勢いだ。

 その威力を、同じ日本の国家代表を巡って争った副担任の山田真耶には簡単に想像できた。頭部が欠落していないが、中身が無事かは怪しい。ちゃんと中身はそろっているだろうか。

 

「のっけから守銭奴ステータス全開のあいさつとは、このクラスの人間のSAN値を下げるつもりか? あぁ? 」

 

 ぐりぐりと、机に縫い付けられた弟の頭を手のひらで圧迫しながら、千冬は詰問する。額に青筋が浮かんでいるあたり、この姉、本気である。みしみしと机が悲鳴を上げるくらい、余裕で圧迫している。

 そんな担任の様子に、流石のクラスメイト達も一夏の守銭奴トークから復帰した。まあ、復帰した直後に守銭奴が机と一体化しているのだから、苦笑いするしかない。

 

「あの……織斑先生?さすがにそれ以上やると頭がぐしゃぐしゃになるっていうか、脳みそが変形するとか…そんな感じになると思いますが……」

「……ちっ、確かに死傷者が出てはめんど……いや困るな、うん」

 

 本音が漏れ出てますよ、と心中突っ込みつつも、圧縮されて机とドッキングしかけているこの学園唯一の男子生徒に、真耶は声をかけた。

 

「あの……織斑君? 大丈夫ですか? 」

 

 机と一体化した制服を着込んだ何かに動きはない。

 

「生きてるかしら? 」

「あっ、痙攣が始まった。かろうじて生きてると思うわ」

「でもあの一撃を受けたんだから……ひん死じゃないの? 」

 

 ひそひそと他の生徒の間でささやかれる声に冷や汗を流した真耶は、意を決して痙攣を始めた物体へと近づく。やがて痙攣が止まり、全身の筋肉が弛緩し始めたのか体は静かに動きを止めた。

 初日からいきなり死者が出るとは、しかもそれが世界でもっとも有名といっても過言ではない男子生徒なのだから、混乱が生じた。というか、実の姉である担任はどうしているのか?

 

「お、織斑先生!? 」

「安心しろ山田くん……なにしろこいつはまだ死んではいない」

 

 腕を組んだまま見下ろしているだけです。結構スパルタなんですね、と妙な納得を仕掛けた真耶は、しかし首を左右に振って正気度を保つ。そして放置をしている先輩に抗議の声を上げた。

 

「で、でも! 」

「安心してほしい、教師山田」

 

 しかしその声は途中で遮られた。むくりと起き上がったこの学園唯一の男子生徒の声だった。頭を数回振って蘇生した彼は、会釈を真耶へと送る。

 

「この程度などすでに慣れきっているのでな。金がある限り、私の耐久値は53万を超える」

 

 そうですか、と真耶はうなずくしかない。なんだ、耐久値が53万とは。ラスボスクラスじゃないのかと思うが、突っ込みを入れることにためらいを感じる。この空気に毒されると戻れないところまで染まってしまいそうな気がするのだ。教員になってまだ経験が浅いが、本能的に危機感を感じる。

 

「ところで、教師織斑。いきなりのツッコミはいかな物かと思う」

「先ほども言っただろう、このクラスの人間のSAN値が削りつくされてはたまらん。多少強引だがあれが手っ取り早い方法だ。あれでも私は焦っていたぞ? 」

「その割に腰の入ったイイ打撃だと思うが? 」

 

 その通りです、と真耶は心の中で賛同の声を上げた。はたから見れば、達人の居合切りのような鋭さのある打撃だったと思う。インパクトの時の音はどう考えても慌てて叩いた時の音ではない。

 

「せいぜい注意しろよ、織斑。いろいろとおまえは注目を集めやすいのだから、それを自覚しておけ」

「もちろんだ、騒ぎは派手にはしないように心掛ける。後始末や処理に金がかかるのでな」

 

 最後までやっぱ金なんですねと、真耶をはじめとした一年一組の面々の見解は一致した。それは以下のようなものであった。

 

織斑一夏≠憧れの男子

織斑一夏=守銭奴(迫真)

織斑千冬=ブリュンヒルデ≒ツッコミ役=ブリュンヒルデ()

 

 

 

 

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 屋上というのは、様々なイベントが発生する場所だ。

 例えば愛の告白が最もありがちなことだ。あとは弁当を用意して相手に渡す場としてもつかわれるし、発展して修羅場が展開されることもある。さらに発展すれば【自主規制】なイベントも発生する。…余談ではあるが、多くの人にトラウマを残した“良い船(NiceBoat)”な場面も起こりうるので注意が必要だ。

 そして、入学初日から休み時間に、有名すぎる男子を引っ張っていった女子には必然的に野次馬やスニーキングを行う集団が生まれ、屋上の出入り口からのぞき見をしていた。

 それが一体どれほどの賠償を要求すればいいかを頭の中で計算しながらも、織斑一夏は目の前の幼馴染である篠ノ之箒に意識を向けた。

 彼女とは、いわゆる幼馴染だ。お互いの姉が仲が良く、その関係上仲良くなった。その後転校をして会えなくなり、手紙のやり取りもふっつりと途絶えてしまった。

 ではどういう会話が順当かと、一夏は思考する。何しろ七年近く顔を合わせていなかった相手だ。どういう話題を振るべきかは慎重に選ぶべきだろう。何しろあちらは巫女で剣士で天災の妹、こちらは普通に金が大好きで商人で元世界最強の弟。なんかいろいろ違うが、まあ今は前向きにだ。

 

「久しぶりだな箒」

「ああ、七年ぶりになるのか? 」

 

 七年が経つと、まさに見違えるように成長している。子供の体系から大人への階段を駆け上がっていく思春期なだけあって、体は女性らしくなり、まさに大和撫子そのものだった。胸部装甲だけでなく臀部装甲も耐衝撃性能は高そうだった。

 

「早速だがな一夏……いったい何があったのだ? 」

「何、とは? 」

「あの自己紹介は何だと聞いているのだ! 」

 

 一夏は箒の言葉にしまった、という認識を持った。つまり、自分はあの自己紹介で何か大きなミスを犯してしまったのではと考えたのだ。しかし、もう自己紹介の機会などもうないだろうし、自分の印象も広まっているころだろう。

 

「何ということだ……あの自己紹介に不備があったのか! これはいかん、金で解決できないことは面倒だな! 」

「ちっがーーーーーーう! 」

 

 頭を抱えた一夏の頭に神速の勢いで振り下ろされたのは、箒がどこからともなく取り出したハリセンだ。快音とともに直撃し頭を押さえた一夏をしり目に、箒は先ほどまでにためていたツッコミを全面開放した。

 

「内容の不備について言っているのではない! なんだあの自己紹介は! 自分は守銭奴ですと言っているようなものじゃないか! 」

「否定はしないぞ、むしろ事実だ」

 

 うっ、と的確な口撃を受けた箒はすぐさま頭を振って意識をアジャスト、反撃に転じた。

 

「そうだとしても七年前とはキャラが違うでは済まないぞ!? キャラ崩壊がまだかわいく見えるわ! 守銭奴キャラ大☆暴☆走!とでも言いたいのか!? 」

「だいぶコミュ症が改善したな箒、良いことだ。何しろ金で解決できんからな」

 

 自分のキャラでもないことを無意識にやってのけた箒に、一夏は親指を上げてイイ笑顔を浮かべるが、箒には全く嬉しくないものだ。完璧に営業スマイルだった。

 

「まあ聞け。私が伊達に七年を無駄に過ごすわけがない。金は戻って来るが時間は戻ってこない、つまり有限に使えば金が稼げるということだ。分かるな? さて……」

「思わず納得しかけたが、最後の部分で台無しだ」

 

 箒は半目で言うが意を貸す一夏ではなかった。

 

「箒が引っ越してからは、姉の千冬はIS操縦者として超多忙で金を稼いで、しかし家にいる時間は少なかったわけだ。もはや珍しくもなんともないがかぎっ子になっていたわけだな、うん」

「死語だぞその言葉……私には縁のない状況だが」

 

 平成の序盤の時代の香りが漂う言葉を言う一夏は一息入れた。

 

「まあ半ば一人暮らしに近い生活はなかなか大変だったが、徐々に慣れていった。家事洗濯掃除買い物、おおむね近所の人からの助けもあって無事に乗り越えた」

 

 だが、

 

「だが、生活するうえで欠かせないうえに、おいそれと他者に任せるわけもないことがあったのだ」

 

 それは、と一夏は前置きをして告げた。

 

「家計だ」

「……………は?」

「家計だ。ローマ字での綴りはKAKEI。つまり、私には織斑家の金を管理する必要が生まれたのだ」

 

 いいか、と一夏は両の手を広げて言う。

 

「言っては悪いが千冬姉さんはISに打ち込んでいたが、そのバックアップをこなしていたのは私だ。適材適所というやつでな、家事労働などは私がやっていた」

「そ、そうか……」

「そしてだ、家計をやりくりするなど当然学校で教えるはずもない。そして私の両親もまた蒸発している以上、頼るのは近くにいる信頼のおける人物ということになる」

 

 惚れた弱みか、箒はおとなしく一夏の話を聞く方向にシフトする。割と真剣に話すその様子は、外野から見れば非常に興味をそそられるのか身を乗り出して他の生徒は少しでも聞き取ろうとしている。油断しているのだろう、あとで一夏から請求書が送りつけられるだろうに、無防備な。

 

 

 

 

     ●

 

 

 

 

 一夏と箒が屋上で話している時と同じくして、千冬もまた山田先生へと一夏の過去を話していた。どちらかといえば、愚痴っているだけなのだがここは聞くしかない。

 

「私が知らぬうちに、近所に住む貿易商の夫婦のところに弟子入りしてな、私に変わってやりくりを始めた。そこまではよかったんだが……」

「どうなったんですか?」

 

 しばらく迷ったあと、千冬は慎重に言葉を選ぶ。

 

「何と言うべきか……真面目に習いに行ったのはいいが、その夫婦から影響を受け過ぎてああなってしまって……」

「お金だのなんだのって……あの思考って」

「間違いなくあの夫婦が原因だ。いや、私が見過ごしていたのも悪いんだがな……気が付けばああなってしまったのさ」

 

 千冬は遠い目のままお茶の入った湯呑を傾けた。自然とお茶請けを追加し、急須にお湯を注ぎ足してくる。

 

「モンド・グロッソに招待しようとした時も、あっさり蹴られてな。私がISにかまけていたのが悪かったかと、その時に身に染みて理解したよ」

 

 大変ですねぇ、とは思うが、あまりにも目の前でうなだれる元世界最強が不憫だ。出来ることはあるかと思うので、念のために聞いてみた。

 

「あの性格、直せないんですか?」

「無理だ」

 

 即答であった。もはや机に突っ伏すようにして千冬は声を絞り出す。

 

「直せるなら、直してしまいたいがもう固まってしまったらしく抜けないんだ……」

 

 ですよねぇ。と思う程度には教員生活をしている。あそこまでひどいのは見たことはないが、仕方がないだろう。

 

「織斑先生、できるだけフォローしますよ」

「ありがとう……」

 

 そう仕方がない。目の前の世界最強だった人物が、“たれちふゆ”の如くだらけているとしても。

 

 

 

 

 




《実況通神:浅間神社経由:ハーメルン 様専用通神帯接続:確認》

――――縞瑪瑙 様が入場しました。
――――未熟者 様が入場しました。

・縞瑪瑙:『はい皆様、お久しぶりです。初めての方はこんにちは。作者の縞瑪瑙です。そして今日はゲストを呼んでいます』
・未熟者:『ゲストのネシンバラだよ。よろしく』
・縞瑪瑙:『はい、よろしくお願いします。またみなさんのご想像の通り、ネシンバラの発言はすべてイギリスの彼女へと流していますのでよろしくお願いします』
・未熟者:『いきなりすごいカミングアウトだね!? なんて危険なことを!』
・縞瑪瑙:『まあまあ、落ち着いて。この小説をいきなり出したのはですね執筆が行き詰ったので息抜きがてらに昔書いていたモノを読み漁っていたら、今回投稿した話が出てきましたので、改訂してみたわけです』
・未熟者:『Jud.二次創作ではよくある主人公強化・改造モノだね』
・縞瑪瑙:『ホニメをみて、原作も読みふけってしばらくしたら、不意に脳裏に現れたのが守銭奴一夏君です』
・未熟者:『ベルトーニ君がそのまま皮をかぶっているみたいだね』
・縞瑪瑙:『その通りですね。脳内で声を再生するときは中の人を一角獣のパイロットではなく、“月の御大将”か“不可能を可能にする男”で一つお願いします。では今回はここまで、次回を投稿するのはいつになるかはわからないですが、お楽しみに!』

――――縞瑪瑙 様が退場しました。
――――未熟者 様が退場しました。

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