黒い烏が羽ばたく魔世に   作:月代 唯

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3月4日、グレンの杖についての説明をわずかに追加しました。


4話 The wand made by Ollivander.

四話「オリバンダーの杖」

 

 

 

辿りついた「オリバンダーの店」は言われなくてもすぐに分かるグリンゴッツとは真逆で、これだと言われるまで気付けないような、グレンの思った以上に小さくみすぼらしい店だった。

店内に入ると奥でチリンチリンとベルが鳴る。その瞬間、グレンはゾクリと背筋が凍りついた。まるで、舞台の中心に突然立たされて大観衆に自分の心の中まで覗き視られようとしているような、気味の悪い感覚がしたのだ。

 

「いらっしゃいませ」

 

店の奥から、杖の入っているであろう箱を抱えてオリバンダー老人は現れた。

 

「こんにちは。グレン・ポッターです」

 

僅かに緊張しながらも、グレンは頭を下げて挨拶をした。オリバンダー老人はそれを聞いて目を輝かせた。

 

「おぉ、ジェームズ・ポッターの息子さんですな。お父さんと良く似てらっしゃる・・・しかし、中身はあまり似ておらんようですな?」

 

中身とはつまり性格のことだろうか。グレンは、今知ったばかりといった素振りで訊いた。

 

「父もこのお店で杖を買ったんですね」

「その通り。私はこの店で買われていった杖とその持ち主を一人残らず覚えておる。

君のお父さんは二十八センチのマホガニーの杖を買っていったのじゃ。優秀でよくしなり、特に変身術には最高の杖じゃった」

 

そしてオリバンダーはグレンの隣にいるモラルドをちらりと見た。

 

「そして、君のお母さんは一人でこの店にやってきた。気に入ったのは27センチのトウヒの杖で、繊細で気まぐれだが強い力を秘めた杖じゃった。どうやら母上と波長が合っていたようじゃ」

 

モラルドはオリバンダーの話に興味なさそうにふんと鼻を鳴らした。だがしっかり反応する辺り、実はこっそり自分の娘の話を一字一句逃さずしっかりと聴いているんだろうなとグレンは思った。

 

そしてオリバンダーはポケットから銀色の巻尺を取り出し、グレンに向かって訊ねた。

 

「さてポッターさん、杖腕を拝見してもよろしいですかな?」

 

そう言われて、グレンは左腕を差し出した。オリバンダーはグレンの腕の長さから杖を使うには全く関係ないと思われるような所まで、巻尺で至る所を測り始めた。

 

「これから杖を見せるのじゃが、オリバンダーの杖には様々な特性の力を持つ木材とそれに強力な魔力を持ったもの―一角獣の毛、不死鳥の羽根、ドラゴンの心臓の琴線のいずれか―を芯に使っておりまする。木も芯を提供する生物も皆それぞれに違う個性があるゆえに、ここの杖には一つとして同じものはないと予め言っておきたい。

そして、先ほどはあなたの父上や母上が気に入ったと言っていたが・・・実は本当は杖が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃよ。だから、他の魔法使いの杖を使うことがあっても、決して自分の杖と同じような力を出すことは出来ないのじゃ」

 

そしてオリバンダーは店内の棚を周りいろんな場所から箱を取り出して、グレンの前にいくつかを持ってきた。銀色の巻尺はグレンの体で測れる場所はもうほとんど測り尽くしたのか、すでにグレンの枝毛の長さを一本ずつ測っていた。

 

「もうよい」

 

オリバンダーの合図で巻尺はようやく止まった。

 

「ではまずはこれから見てみようかの。ブナの木にドラゴンの心臓の琴線。二十三センチ、良質でしなりが良い。ポッターさん、手に取って振ってごらんなさい」

 

グレンは言われた通り杖を手にとり、あまり期待せずに振ってみた。違和感はなかったが、それ以上に感じるような物もなかった。オリバンダーはしばらく杖の様子を見ていたが、やがてそれを止めて杖をグレンの手からもぎ取った。

 

「これではない・・・では、ポッターさん。楓に不死鳥の羽根。十八センチ、振り応えがある。次にこれを試してくだされ」

 

グレンは試したが、最初の杖の時とあまり変わらないような印象を受けた。今度はすぐに、オリバンダーは杖をグレンからひったくった。

 

「ふむ・・・・では、これは如何でしょう。アカシアに一角獣のたてがみ。二十五センチ、驚くほどしなる」

 

オリバンダーは最初に持ってきたいくつかの箱がまだ残っているにも関わらず、棚から新しい箱を取り出して持ってきた。

今度のはグレンにもわずかに違いが解った。今までの物よりもどこか力を秘めているように感じたのだ。だが、それと同時に今までのものよりもしっくり来ない違和感も感じた。これは自分の杖ではないだろう。

 

「ほほう・・・ポッターさん。大体解ってきましたぞ?あなたは非常に優秀な人のようじゃな」

 

オリバンダーは、杖が合わなかったというのに逆に意気揚揚としていた。

 

「では、これで如何ですかな?黒檀に不死鳥の羽根。二十八センチ、良質で堅い。さぁ、どうぞ」

 

グレンは受け取った瞬間、何故かオリバンダーから渡されたその漆黒の杖が、今までのどの杖よりもずっと美しい杖だと思った。形状が滑らかで漆塗りのような光沢の輝きがあるのもそうだが、それ以上に何か魅かれる物があったのだ。そしてグレンは今、この店にある他のどの杖よりもこの杖が欲しいと思った。

そのグレンの期待に応えるかのように漆黒の杖は、杖先から白と金の火花を流し、店内を明るく照らした。

 

「美しい・・・すばらしい輝きじゃった。杖作りとしての生涯で私は、杖と持ち主が出会うこの瞬間を見れることが一番の喜びじゃ。

 

この杖に使われている黒檀は、他の木よりも厳しい環境で育ったにも関わらず非常に逞しく、なおかつ、一際美しく育った黒檀じゃった。そして、芯になっている羽根の持ち主は、とても気性の荒い不死鳥じゃった。羽根を1枚提供してもらうのでさえとても苦労したのを覚えておるよ」

 

そしてオリバンダーはグレンの物となった杖を箱に戻し、紙で包みながら言った。

 

「どうやらこの杖はあなたの内に秘めた強き決意を見たようじゃ。この杖は非常に優秀で特に戦闘術と変身術に向いているが、しかしとても頑固な杖じゃ。だからこそじゃが、たとえどんな困難な道であろうともこの杖は、あなたの信念を貫くための良き助けとなってくれるじゃろう」

 

黒檀の杖はかなり高価だった。杖の代金を払った後、グレン達は店を後にして帰路についた。空はもう夕暮れ近くになっていた。

オリバンダーの店から出た後のモラルドの機嫌は幾何かは良くなっていたようだったが、今度はグレンがずっと考え込んでいたため結局会話はほとんどなされなかった。

 

 

あと1ヶ月すれば、ホグワーツへ入学だ。

 

 

 

 

 

 

 




今回登場した非公式の杖の材質は、Pottermoreでのオリバンダーさんが説明してくださった杖用の木材の性質を参考に決めさせてもらいました。

他の杖ももちろん素晴らしいですが、黒檀の木の素晴らしさを知った時は一際感動しました。黒檀が私の杖となることは永遠に無いでしょうが・・・。

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