黒い烏が羽ばたく魔世に   作:月代 唯

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今回、視点が主人公ではなくなります。


4話 The boy who lived.

四話 「生き残った男の子」

 

 

 

シリウスがゴドリックの谷に着いたころには、ポッター家は屋根まで炎上し始めていた。我を忘れ、家の前まで駆けつけたシリウスはオートバイを乗り捨て、手に杖を握りしめて一目散に燃え上がる家に飛び込んだ。

 

 

「ミリー!いるのかミリー!」

 

 

シリウスは、親友のジェームズの妻の名を呼びながら家中の部屋を探し回った。そしてついに寝室へたどり着き、そこでで焼け焦げて仰向けに倒れた2人の死喰い人と、ミリア・ポッターの遺体を発見してしまった。

 

 

「そんな―」

 

 

手遅れだった事実に、シリウスは膝から崩れ落ちた。幸い、死喰い人と比べてミリアの体にはあまり火はかかっていないようだった。シリウスは力無く杖を持ち上げ、ミリアの周りにある火を水であらかた消火させた。

 

―そうだ。グレンはどこだ?

 

シリウスは顔を上げて寝室の中を見渡した。部屋の家具のほとんどが、魔法で手当たり次第に壊されていた。恐らく、ミリアがグレンをどこかに隠したのだろう。だが、ミリアは一体どこにグレンを隠したのだろうか。

そうやって辺りを探しているうちに、シリウスは部屋の隅のクローゼットの方から赤ん坊の泣き声を聞いた。

 

シリウスはすぐに声の聞こえたクローゼットの前に向かった。クローゼットの扉は壊されていたが、そこから覗き込むとその中にグレンは居た。どうやら無傷のようだった。

 

 

「グレン!無事だったのか!」

 

 

ほっと安堵してグレンを抱きかかえようとしたシリウスだったが、ふと違和感を感じて手を止めた。

部屋が炎上し、死喰い人が焼け死んでいる中でグレンはどうやって無傷で無事だったのだろう。1歳になったばかりの赤ん坊が、大人の魔法使い―それも死喰い人二人―を出し抜けられるとは到底考えられないことだ。一体、この部屋で何が起こったのだろか。

だがシリウスのそんな疑問も、より一層泣き声を大きくしたグレンによって一瞬にして掻き消された。シリウスは、グレンを抱きかかえると、すぐさまこの場から離れた。

 

 

 

 

 

外に出ると待ち構えていたのは、シリウスを憎き敵のように睨みながら杖を構えるセブルス・スネイプだった。スネイプがジェームズやシリウスを憎しみの籠った目で睨むのはいつものことだが、今はそれ以上に目の中で炎が燃え上がっているようだった。しかしスネイプは、その感情を声色には出さず冷たく言った。

 

「グレン・ポッターを連れてどこへいくつもりだ?」

「俺はグレンの名付け親だ!ジェームズとミリアが居なくなった今、グレンを育てる責任が俺にはある!」

 

叫んだシリウスは腕の中にいるグレンをより一層強く抱きしめた。グレンはシリウスの腕の中ですでに泣き止んでいた。

スネイプはそれを面白がるように嘲笑した。

 

「責任だと?ここに来て未だに名付け親気取りか?裏切り者め―」

「―裏切り者だと?」

 

シリウスが吠えた。スネイプはついに感情を露わにして叫んだ。

 

「裏切り者だ!この家が襲撃されたのは何故だ?『秘密の守人』であるお前が寝返って闇の帝王に秘密を明かしたからだ!お前は無二の親友だったジェームズを裏切ったわけだな?あいつもさぞ天国で苦虫を噛んで悔しがっているに違いない!いい気味だ!」

「……なん、だと―」

 

スネイプがまるで復讐を遂げた瞬間のように高笑いしていたが、シリウスはそんなことを気にする余裕もなく茫然となった。

シリウスの頭に浮かんだのはピーター・ペティグリューの姿だ。シリウスは数日前、『秘密の守人』をピーターにするようにジェームズに勧めた。しかし、ピーターはヴォルデモートのスパイだった。結果的にジェームズとミリアが死んだのは、自分の所為だったのだ。

そして、同時にピーターに対する怒りがふつふつと湧き上がった。

 

 

「さぁ、グレン・ポッターを渡してもらおうか」

 

気を取り直したスネイプが杖を構えてシリウスに迫った。シリウスは一瞬躊躇したが、何かを決意したかのように溜め息を吐いた。

 

「…あぁ、分かった」

「―何?」

 

シリウスが以外にもあっさり承諾したことに呆気に取られ、スネイプは怪訝な顔で疑わしげにシリウスの顔を覗き込んだ。

 

「一体、どういうつもりだ?」

「どういうつもりも、ダンブルドアの元に連れて行くんだろう?必ずグレンを守れ。たとえお前が嫌いなジェームズの子供であってもだ。…良いか?もしグレンに何かあったら――ただじゃ済まさないぞ」

 

シリウスは低く唸りながら強く念押しして、グレンを慎重にスネイプに預けた。シリウスは自分のしたことの責任を取るためにこれからピーター・ペティグリューを探しに行くつもりだった。おそらく戦闘になるだろう。そこにグレンを連れて行くわけにはいかなかった。

シリウスはスネイプを信用しているわけではなかったが、それでもセブルス・スネイプは『不死鳥の騎士団』のメンバーだ。たとえグレンを嫌悪していても、守ってくれるだろう。

 

そして、その場から立ち去ろうとしたシリウスに、スネイプは叫んだ。スネイプに抱きかかえられたグレンは早くも愚図り始めていた。

 

「まて!どこに行くつもりだ!?」

 

「俺は――自分のしたことの始末をつける」

 

 

ピーター・ペティグリューは許せない。あいつの裏切りさえなければジェームズとミリアは死ななかった。そしてシリウスは自分に対しても同じぐらい怒っていた。だが、それでもまだグレンは生きている。ならば次は死んでもグレンを護るのが名付け親である自分の使命だ。ヴォルデモートはきっと次もグレンを狙うに違いない。それを許さないためにも、シリウスはピーター・ペティグリューを探しにいくのだ。

そして、シリウスはオートバイに乗って飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

その日の同時刻、ほとんどすべての魔法使いに恐れられた闇の帝王はロングボトム家を単身で襲撃した。そしてこの瞬間、ネビル・ロングボトムは1才にして闇の帝王を打ち滅ぼし、生き残った男の子として有名になった。

 

 

 




原作と状況が多少異なるのは、検討した結果こちらの方が書きやすかったからです。

また、オリジナルキャラクターであるグレンの母の名前を3話までになかなか出す機会がありませんでした。
名前はミリア・ポッター。純血の魔女です。

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