5月も残り約1週間。
その日は日直だったため、俺は珍しく1人で帰ろうとしていた。
(考えてみるといつも誰かと一緒だったな・・・)
具体的に言うとこなたさんとかかがみさんとかつかささんとかみゆきさんとか・・・全員女子じゃん(汗)。
そんなことを考えながら昇降口を出ると、後ろから声をかけられた。
「まさきさん、今お帰りですか?」
みゆきさんだ。
そういや委員会があるとか言ってたっけ。
「うん。委員会はもう終わったの?」
「はい。まさきさんを見つけたので帰るのであれば途中までご一緒にと」
「俺は別にかまわないけど・・・」
「じゃあ行きましょうか」
そんなわけでみゆきさんと2人並んで帰路につく。
今日も女の子と一緒なのがある意味悩みの種なのは秘密だ・・・贅沢な悩みではあるが。
他愛の無い話をしながら停留所まで歩いてバスに乗り込んだ。
「そういえばみゆきさんって何でワザワザ都内から陵桜に通ってるの?」
「ええ。陵桜は私の母の母校で、私も通いたかったからなんですよ」
「・・・自分以外にも似たような理由で高校を決める生徒がこんな身近にいるとは思わなかったな〜」
「ではまさきさんも?」
「俺の場合は両親共に陵桜でね、小さい頃から何回も話を聞いてたから通ってみたくて」
「そうだったんですか・・・ひょっとしたら親同士、同級生かもしれませんね♪」
本当にそうだったら凄い偶然だ。
そういや俺が1人暮らしをしてることは話してるけど、理由までは話したこと無かったっけ。
「話は変わりますが、まもなく泉さんのお誕生日なんですけど知ってましたか?」
「え、マジ?」
そういやみんなの誕生日知らないや。
女子相手とはいえ友達なんだし、なんかプレゼントでも買おうかね?
「28日ですから明々後日ですね」
「みゆきさんは何か用意したの?」
「ええ、大した物ではありませんが」
むう、ならば俺も友達として何か用意するか。
かがみさんやつかささんは知ってるのだろうか?
「そういやみゆきさんって誕生日いつなの?」
「私ですか? 10月25日です」
「因みにみゆきさんは何貰ったら嬉しい?」
「貰ったら嬉しいものですか・・・気持ちのこもったものなら何でも嬉しいですよ♪」
さすがみゆきさんは聖人君子!
でもそう言われるとこっちも悩むことになるが、まあこなたさんと違い時間はある。
たいしたものは送れないがプレゼントはじっくり考えるか。
ていうか今のはさりげなく探りを入れたつもりなんだが、素でかわしたのかそれとも気づかないのか・・・。
まあ誕生日を知っただけでも良しとしておこう。
5月28日。
土曜日の午後。
泉宅にてちょっとした誕生会が開かれることになった。
参加者はいつものメンバー・・・俺が誘われたのはこの際気にしない事にして。
柊姉妹と合流、2人の案内で初めてこなたさんの家に訪れることとなった。
「それにしてもこなたさんって他に友達いないの?」
「ま、ああいうヤツだしね」
「あはは・・・」
俺の言葉に2人は苦笑い。
あまり人のことは言えないが・・・。
2人の案内で泉家に到着する。
「こなちゃん、お誕生日おめでとう♪」
「私はつかさに言われるまで忘れてたんだけど・・・」
「ほいおめでとう。ささやかながらプレゼントだ」
「おお〜。ありがとうみんな〜♪」
玄関先で出迎えてくれたこなたさんにそれぞれプレゼントを渡した。
これだけ喜んでもらえると選んだ甲斐がある。
考える時間が無くてたいしたものを買えなかったが。
「ささ、上がってよ。あ、ウチにはあいかわらず獣より危険な人がいるから気をつけてね」
おいおいどんなヤツだよ。
普通に考えたら・・・てオイ。
「自分の父親相手にそこまで言える娘もこいつくらいだろうな」
予想通りっていうかその人くらいしか思い浮かばない・・・いったいどんな人だ?
「やあ、いらっしゃい」
玄関でのやり取りが聞こえたのか男の人が出て来た。
無精ひげを生やし、作務衣姿で目元にナキボクロがある比較的背の高い男性だ。
彼がこなたさんの父親だろう。
「娘の誕生日に来てくれてあr・・・」
と、俺と眼が合う。何だか表情が段々歪んでるような・・・。
「え〜っとはじめm(ガシッ!)「君はこなたのなんだね?」ハイ?」
挨拶しようとしたらいきなり両肩を掴んで凄まじい形相で問いかけてきた。
ちなみに他の3人はこなたさんの親父さんの行動にあっけに取られている。
っていうか肩が痛いんですけど(汗)。
「いや私は
ツッコムところそこかいって言うかなんだろう、このやり取り・・・。
「まあこんな人ほっといてみんな上がってよ」
「娘にこう言われるとかえって快感だよな〜・・・」
「ね? 本格的にアブナイ人でしょ?」
柊姉妹は既に慣れてるのか「おじゃまします」とあっさり横を通り過ぎた。
あまりの常識を逸脱した光景なので俺も見なかったことにして、挨拶して2人に続くことにする。
「ああ!? 放置プレイなんて悲しいぞっていうかコラァッそこの男! お前はこなたといったいどういうk「もういいかげん仕事に戻ってよ! 締め切り近いんでしょ!?」うう・・・こなたが・・・こなたがぁ!」
後ろからなんか聞こえるけどキニシナイキコエナイ・・・。
<こなたさんの部屋>
「おおぅ・・・」
ある意味予想通りな部屋でこんな言葉しか出ない。
所々にフィギュアやポスターが飾られており本棚に入りきらない本や雑誌があちこちに積まれている。
それでもある程度整理はされているようだ。
泉家の2階にあるこなたさんの部屋はそんな女の子らしくない部屋・・・ぶっちゃけ典型的なオタクの部屋だった。
テレビやパソコンまであるのだから1人部屋としての環境は良いほうなんだろうが・・・。
「あ、このお人形かわいい〜。」
「相変わらずすごい部屋だな・・・」
普通ならドン引きしかねない部屋で、主の友人である双子はすでに
「いや〜、ごめんねおとーさんがうるさくて。それよりまさき、どうよ私の部屋は♪」
「環境がいいんだか悪いんだか・・・」
ある程度その手の趣味に理解があるからなんとも思わんが、一般人なら回れ右しそうだ。
「お邪魔します。こんにちは皆さん」
数分後。
何事も無くみゆきさん到着。
プレゼントはやはり玄関先で渡してあるらしくいつも通りの笑顔で部屋に入ってきた。
下でまた何か騒ぎがあったようだが・・・。
「あ、ゆきちゃん♪」
「おーっす」
「や、こんにちは」
それぞれ挨拶を交わす。そして・・・。
「みゆきさんも来て全員揃ったことだし、ケーキ食べよ♪」
友人同士のささやかな誕生会が始まった。
「あたしももう17歳か〜」
こなたさんが感慨深げにつぶやくが、
「全然そんな歳には見えないけどね」
「失礼な!? この中では一番上のおねーさんにむかって!!」
かがみさんの言葉にこなたさんも負けじと反論する。
・・・すまんこなたさん、全然そういう風に見えないってか思えないんだが。
「わたしとお姉ちゃんは七夕生まれだもんね♪」
「そういえばまさき君は何月生まれ?」
「9月13日。ちなみに小学生の頃だったか13日の金曜の日、母さんに誕生日をものの見事に忘れ去られてて泣いたことがあったっけな・・・」
「それは・・・お気の毒でしたね(汗)」
「13日の金曜日・・・それだけでフラグだよね」
姉貴たちが母さんに一斉にツッコミを入れたのは今となっちゃいい思い出だ。
「年齢にするとわたし、かがみとつかさ、まさき、みゆきさんの順だね」
「精神年齢にするとほとんど逆に思えるから不思議よね」
「同意するに一票」
「ちょ!? 2人とも酷いよ!!」
「ゆきちゃんはしっかりしてるし性格も大人びてるもんね♪」
「いえ、そんなことは・・・ただ、家には反面教師といいますか、お手本となる方がいますので・・・」
そんなことで会話が盛り上がってきたところでこなたさんが・・・。
「ねぇねぇ、コレみんなで遊ぼうよ♪」
取り出したのはファ○コンだった!
ちなみにセットされてるソフトは落ちゲー『でっていうのタマゴ』・・・なんで『でっていう』と呼ぶのかはニコニコしている動画サイトでも見てくれ。
「・・・ずいぶん懐かしい物を。何年前のゲームだっけそれ?」
「あ、この動物知ってる〜」
「私も知ってます。でもかなり昔の、いわゆるレトロゲームですよね?」
「私達が生まれるかどうかくらいの年代に出たんじゃないのこれ?」
「いや〜、こないだおとーさんとの共同倉庫を漁ってたらたまたま見つけてさ。まだ動くし皆とやってみようと思って」
とまあ経緯はどうあれとにかく2P対戦でやってみることになった。
『勝者2P!』
「・・・そ、そんな馬鹿な!」
「結構覚えてるもんだな〜」
俺は小さい頃結構やりこんだ事がある(ぶっちゃけハマってた)と言うことで、こなたさんと手本がてら対戦する事になったのだが・・・。
結果は0−3で俺の勝ち。
「・・・まさかこなたがストレート負けなんてね」
「まーくんのスピードすごかったね」
「そうですね・・・最後のあたりは特に・・・何だか目が回りそうでした」
ひげオヤジをあやつり皿を動かして皿の上に乗ってる同じキャラ同士を2つ重ねて消すといういたってシンプルな落ちゲー。
4種類のキャラのほかに上下の卵の殻を使って『でっていう』を生み、相手に落とすキャラの量を増やして妨害する。
すべてのキャラを先に消したほうが1本。先に3本先取した方が勝ちだ。
『でっていう』は殻の間にどれだけキャラを挟みこむかで大きさや相手に落ちてくるキャラの量を増やすことができるのだが・・・。
「あの大きいキャラはすごかったですね」
「あはは♪ 生まれる時に『でっていう』って叫ぶんだね」
「インパクト強いわよね、アレは」
「2つもいっぺんに生むとは思わなかったヨ・・・ええい、陵桜のまさきはバケモノか!?」
「や、あまりにもいいタイミングで来るもんだからつい・・・」
やはり華を持たせたほうが良かったかな?
「誰かやってみる?」
「あ〜!? 勝ち逃げズルイ!」
「別にそんなつもりじゃないっての」
見てるばかりじゃつまらないでしょ。
「私はもう少し見ています」
「私も〜」
つかささんとみゆきさんはもう少し様子を見るようだ。
「じゃあ私がやってみるか。まさきくんみたいには出来ないと思うけど」
「あんなのあっさり出来ることじゃないよ〜・・・」
「たまたま運が良かっただけなんだからあんまり気にしないで」
さすがのこなたさんも精神的にダメージを受けてるようだ。
運の要素もあるからさっきみたいな事はそうそうない・・・と思う。
「これなら私でも何とかなりそうね」
「そうは行かないよ・・・この恨み、かがみには悪いけど晴らさせてもらう!」
そうして2人のバトルが始まった。
結果・・・。
『勝者1P!』
「やった勝った〜!」
「あ〜もぅ! どうやったらまさきくんみたいに出来るのよ!!」
今回はこなたさんの方が運がよかったようだ。
かがみさんも頑張ったがこなたさんが3−1で勝利。
「次つかさ! やってみる?」
「え? お、お姉ちゃんと?」
「こういうのはやって見たほうが上手くなるし、楽しいわよ?」
「・・・じゃあやってみる!」
こなたさんがつかささんにバトンタッチして姉妹対決が始まった。
こういったゲームに不慣れなつかささんをこなたさんがサポートするようだ。
15分後・・・。
こなたさんのアドバイスもあって現在2−2。
最後の1本で決着というところまで来たがつかささんが疲れが出てしまったようだ。
という訳でみゆきさんが代わってコントローラーを取る。
「お手柔らかにお願いしますね?」
「お互い後が無いし、悪いけど本気で行くわよ?」
コツを掴んだのか、かがみさんは気合が入ってる。
「お〜お〜、熱くなってますな〜」
「それにしても段々速くなってくるしくるくる回って目が回りそうだったよ〜」
「ま、時間経過でのスピードアップは落ちゲーの基本だからね」
隣同士の皿と皿を文字道理回転させて横に移動させるから目が回りそうになるのも分かる。
2人の対戦をよそにそんな雑談をしていた。
が・・・。
『勝者1P!』
『・・・へ?』
「・・・・・・」
「えっと・・・」
かがみさんは硬直したまま画面を見ていてみゆきさんはオロオロしている。
開始からまだ1分くらいだが既に勝者が決まっていた。
雑談に気を取られていて何が起こったのかわからなかったが、かがみさんをあっさり・・・。
「えっと・・・泉さんやまさきさんのを参考にやってみたんですが・・・」
「いくらなんでも速すぎよ・・・」
俺たちのを参考にしただけで初心者相手とは言っても・・・。
「・・・ここはまさきがかがみの仇を!」
「仇って・・・まぁ良いけど」
「・・・まーくん?」
「まさきさん、目が笑ってないです(汗)」
「な、なんかまさきくんからオーラが見える・・・」
正直言ってすっごくやる気になっていたりする。
俺、こんなに負けず嫌いだったっけ・・・?
そんな俺に皆が若干引き気味だったのはここだけの話。
そして結果は・・・。
『勝者2P!』
「か、勝った・・・」
「やはりまさきさんは強いですね」
「結構ギリギリだったんだけどね・・・」
お互い一歩も譲らず皿の上が増えたり減ったりと、一進一退の攻防が続いた。
3−2で俺の勝ちだったけど全戦かなり微妙な差でどっちが勝ってもおかしくなかった。
「みゆきさんってやっぱり何でも上手だよね」
まったくだ。
しかも俺はかなり死に掛けてるのにみゆきさんは涼しい顔をしている。
試合に勝って勝負に負けたような気がする、というのはこんな時だろうか?
「まさき君、生きてる?」
「何とか・・・」
「ゆきちゃんすご〜い♪」
「い、いえ、そんなことは・・・」
世の中にはいるんだな・・・何をやっても万能な人って・・・。
「お、もうこんな時間か」
時間は既に6時になろうとしている。
あの後、格ゲーやらアクションゲームやらで存分に遊んでいた俺たちは時間を忘れていたようだ。
ちなみに何回かこなたさんが部屋を出て行って何かしていたようだが・・・。
「気にしないでいいよ。単なる害虫退治だから」
その一言でこなたさんが部屋を出て行った理由は大体想像がつく(汗)。
「そろそろお開きですね」
「今日は楽しかったけどおとーさんを抑えるのに疲れたよ・・・」
娘が見知らぬ男を誕生日に招待したからか、父親としてはやはり心配なんだろうか?
さすがにそろそろ失礼しないとややこしいことになるかもしれない。
<帰り道>
「あの落ちゲーまさき君ずいぶん上手かったわよね」
そんなにやりこんでたのかと、帰る途中の雑談の中でかがみさんが聞いてきた。
「小さい頃にね。シングルプレイで『でっていう』を100匹以上生んだことがあるよ」
その時のキャラの落下スピードは既に尋常じゃなかったのを覚えている(汗)。
「100匹って・・・どんだけ〜」
「みゆきさんなら慣れれば200匹くらいはいけるんじゃない?」
「えっとさすがにそれは・・・自宅には家庭用のゲーム機はありませんし」
照れたようにみゆきさんは答える。
それであの実力なんだから不思議なもんだ。
その後みゆきさんと別れ、柊姉妹を送り届けて(通り道なんだが)帰宅した。
もうすぐ6月。
梅雨の時期だ。
洗濯物が乾きにくくなるのが主婦の悩みだろうがそういう時はコインランドリーにでも持ち込めばいい。
「(メシの準備でもするか・・・)」
さっきまでのにぎやかな時間を思い出すと何だか1人でいるのが物足りなく感じてるのに気づく。
あのメンバーの中にいるのが当たり前のように思えてきたからかもしれない。
「こんなに寂しがりやだったかね俺・・・1人暮らし始めてもう1年以上も経つのに」
そんなことをボヤキながら俺は夕飯の準備に取り掛かった。
つづく・・・