らき☆すた~if~ たとえばこんな物語   作:岡崎ひでき

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第四十一話 流れ行く時間の中で

<陵桜学園:昼休み>

 

 

 

「へ? チビッ子って今日が誕生日だったんか?」

「そだよ〜。わたしも大人の仲間入りなのだよみさきち〜♪」

「まだ未成年でしょ〜に」

「ふふふ。とにかく泉ちゃんおめでとう。明日何か用意してくるよ♪」

「いやいや、気持ちだけでも十分、お腹いっぱいだよあやのさん」

 

俺が一言ボソッと呟いても気にせずこなたさんは終始ご機嫌である。

そう、今日5月28日はこなたさんの誕生日。

去年は泉家でささやかなお祝いをしたのだが、今年は平日な上に受験生ということもあって控えようということになった。

まぁ主にかがみさんが主張したのだが。

そのため俺たちは朝の内にちょっとしたプレゼントを用意して渡したのだが、峰岸さんや日下部さんはその事を知らず、昼休みの会話中に初めて知ったという訳だ。

 

「でもさ、そろそろ誕生日って言われてもあんまり嬉しいとか、そういう感覚は無くなっちゃわね?」

「日下部の言う通りかもね。何年か経ったら誕生日が嫌になるって話も聞いたことあるし」

「でもお祝いしてくれるのは嬉しいと思うな〜」

 

ちなみにウチの母さんは嫌がる、というかウンザリするタイプである・・・どうでもいいか。

少なくともここにいる6人のうち、最低4人はあまり心配いらないような気がするぞ。

見た目と遺伝子的な意味で。

 

「いや〜、わたしは普通に嬉しいよ?」

「泉さんは、何か目標があるのですか?車の免許を取るとか・・・」

 

車の運転ねぇ・・・ペダルに足、届かないんじゃ?

しかも行くところは多分・・・。

 

「秋葉原にしょっちゅう行ってそうだね」

「それは否定はしないヨ、まさき・・・けどそれ以外にも嬉しい事があるからね〜♪」

「嬉しい事?」

 

否定はしないらしいが、他にも嬉しいことって・・・あ。

 

「これで堂々と18禁ギャルゲーが出来るのだよ!」

「今までも堂々とやってたでしょ・・・」

「てか学生がそんなもんやってていいのか・・・?」

「ぎゃるげー? チビッ子、なんだそりゃ?」

「それはだね、男の子や女の子がいr「普通の女子高生はまずやらんゲームだ」モゴモゴ・・・」

 

やっぱりそれかい(汗)。

他のみんなは苦笑気味・・・みゆきさんはおろか峰岸さんも一応どんなものか知ってるようだ。

しかし日下部さんは知らないらしく、こなたさんが普通に説明し始めたのでとりあえず口を塞いでおく。

てか普通は手に入らないがこなたさんの環境は色んな意味で特殊だからなぁ・・・。

 

「ぷはぁ! ハァ、ハァ・・・まさきって結構大胆だね・・・」

「は?」

「女の子の口を手でふs『スパァン!』あいたぁ!?」

「わかりたくないけど、わかったから言うな!」

 

とりあえずノートをハリセンの代わりにしてこなたさんの言いたい事を止めておく。

他のみんなはこんな光景を見て笑っていた。

・・・条件反射で体が動くことがあるんだが何とかならんかね?

 

 

 

<放課後:下校時>

 

 

 

昇降口で小早川さん、岩崎さんの2人と遭遇するも、

 

「ゴメンねおねえちゃん、先輩達もすいません! ちょっと急いでるので!」

 

と、めずらしく興奮した様子で帰っていった。

岩崎さんに尋ねるも、

 

「わたしも詳しい話は聞いていませんので何とも・・・」

 

と言ってペコリと頭を下げ、小早川さんの後を追って行った。

表情からは読みにくかったが、口止めされたのか空気を読んだのか・・・多分知ってるんだろう。

聞いてないのは『詳しい』話だし。

それに俺も大体の想像はつく。

しかし・・・。

 

「ゆーちゃん、どうしたんだろ?」

 

1番気付きそうなヤツが気付いていなかった!

今日の朝昼の事を考えれば解るだろうに・・・。

 

「今日の晩飯はパーティかもしれないよ?」

「晩め・・・・・・あ」

 

こなたさんがポン、と手を叩く。

俺の言葉でようやく気付いたらしい。

 

「同じ家に住んでるんなら察しなさいよ」

「ひょっとしたら泉さんに内緒で準備してるのかも知れませんね♪」

 

みゆきさん、何でそこまで言っちゃうかな・・・ておや?

こなたさんが思案顔・・・まさかとは思うけど(汗)。

 

「こなたさん、今日はこれからバイトだっけ?」

「うん・・・」

「・・・バイト先のみんなって結構気さくな人達なんだよね?」

「・・・うん」

「こなたさんの誕生日も祝ってくれるとか・・・?」

「・・・・・・」

 

こなたさん、ノーコメント・・・ダメじゃん。

なんというダブルブッキング・・・どちらかをキャンセルするしかないだろう。

とりあえずバイト先に着いたら、キャンセルもしくは次のバイトの時に祝ってもらうようお願いして、今日はバイトが終わったら速めに帰るとの事。

向こうも向こうで準備してただろうに(汗)。

 

「こなちゃんも案外抜けてるトコ、あるんだね」

「つ、つかさにそんな事を言われるなんて・・・でも今回ばかりはさすがに何にもいえないよ」

「それに、18歳って主張してもこんなちんちくりんじゃ説得力のカケラも無いわよね〜」

「にゅお〜!? HA☆NA☆SE!」

 

かがみさんにならともかく、つかささんにまでそう言われた上にかがみさんに頭を掴まれて暴れるこなたさんの様子に、みゆきさんも苦笑している。

 

「まさきさんも、よくあそこまで気付きましたね?」

「まさかここまでお約束を地で行ってるヤツがいるとは思わなかったけどね・・・」

 

家族が本人に内緒でパーティの準備をしたにもかかわらず、本人は別の所でお祝いしてもらい帰りが遅くなることを後から、つまり家の方でパーティの準備が終わってから連絡が入る。

さすがにソレは・・・ねぇ(苦笑)。

 

「何はともあれ、今日からはわたしのほうが年上なのだよ!」

「・・・何言ってんだか」

 

遂に開き直ったらしい。

かがみさんもため息ついているが、本人の性格を知ってるためかそれ以上何も言うつもりは無いようだ。

 

「と、言うわけで私の事は『こなたお姉さま』とお呼び!」

「わかったよ、呼べば良いんでしょ? こなたお姉さま」←即答

 

『・・・・・・』

 

この場にいる俺以外の全員が、凍りついた。

 

「どしたのみんな。それにこなたお姉さまも?」←あくまで素の状態な俺

「・・・ごめんまさき、やっぱキャラじゃないからやめてお願いだから」←ある程度耐性があったため復活は速いがダメージは大きい

「わがままだなぁ、こなたの(あね)さん」

「ああもう! いつも通りでいいってば!」

「りょ〜かい」

 

ちなみにかがみさんを含め3人は未だに凍結中。

とりあえず俺は3人を正気に戻す作業に入るのであった・・・。

 

 

 

<それから数日後:泉家>

 

 

 

6月に入り衣替え・・・といっても6月に入ったらすぐ土日だから袖を通すのはもう少し先。

ちなみに俺は現在小早川さんが『男子に慣れるため』と言う理由で、泉家にお邪魔している。

話を聞く限りじゃもう必要ないような気がするが。

ちなみに泉父・・・そうじろうさんも俺に害は無いと判断したのかそれとも娘(こなたさん)に諭されたのか、最近ようやく普通に俺と話をするようになった・・・たまに殺気を感じるけど(汗)。

 

「そろそろ梅雨だね」

「雨が多くて嫌になっちゃいますよね。ジメジメするし」

「そろそろ洗濯物も乾きにくくなるんだよな〜。コインランドリーだってタダじゃないのに」

 

湿気が鬱陶しいったらありゃしない。

 

「やっぱり1人暮らしって大変なんですね」

「何でも1人でやらなきゃいけないからね。アレもコレも纏めてやろうとすると1日じゃとてもとても」

 

学生の本分である勉強、生活費のためのアルバイト、そして炊事などの家事。

やることが多く、受験勉強もあるため正直言ってかなり・・・とまでは言わないが負担は大きい。

だからどこかで必然的に力を抜かなければダウンしかねない。

でも1度『やる』と言った以上は最後までやらなければ意味が無い。

両親もその事にかけては心配してくれているが、月に1度は母さんが俺の顔を見に来て安堵してくれている。

 

「少なくともご飯の心配はいらないよね。イザとなればかがみんちに転がり込めばいいんだし♪」

「そんな事出来るかい!」

 

ちなみにこのことは早々につかささんの口から漏れてこなたさん達に追及されたのは余談である。

まぁ正直な話、柊家の食卓に招待されるのは非常にありがたいのだが。

 

「後は体調管理かな。そろそろ寒暖の差が出てくる時期だし・・・実家よりはまだマシだけど」

「そんなに違うんですか?」

「冬はこっちのほうがまだ暖かいからね」

「へぇ〜」

 

東北の南部とはいえ、関東との環境の差を肌で感じる時期でもある。

体調を崩しやすい小早川さんはあまり遠出をしないらしく、この手の話になると結構面白そうに聞いてくれる。

と、そこに、

 

「やほ〜、最近ジメジメしてきたね〜。元気にしてるか若人(わこうど)達よ!」

「あ、ゆいお姉ちゃん♪」

「お〜、ゆいねーさんいらっしゃ〜い」

「お邪魔してま〜す」

 

成実さんが現れた!

まぁそんな大げさに言うことじゃないけど。

旦那さんが単身赴任中で時間があるためか、非番の時はしょっちゅう妹の様子を見に来るそうだ。

・・・寂しさをまぎらわしているのか単に暇なのか。

 

「いや〜、最近曇りがちだし、これから本格的に梅雨の時期かと思うと気が滅入って来るよね〜」

「じゃあ明るい話題ということで。ねーさんもうすぐ結婚1周年だね〜」

「・・・そういえばそうですね。紙婚式、一足先におめでとうございます♪」

「あ、1周年だと紙婚式っていうんでしたっけ。2周年からは・・・えっと?」

「俺もあんまり詳しくはないから・・・」

「ネットで見てみる?」

 

そんな事で俺たちは盛り上がったのだが当の本人は会話に入ってこない。

・・・なんか悪いこと、言ったっけ?

 

「え~、梅雨の空模様とかけて、もうすぐ結婚記念日なのに旦那が単身赴任中なゆいねーさんの心ととく・・・」

「え〜っと(汗)」

 

何となく成実さんの言いたいことはわかった。

 

「その・・・ココロは?」

 

そこまで言って成実さんは落ち込んでしまった(汗)。

その背景には『ズ~ン・・・』と沈んでるような何かが見える。

 

「ふぇ〜ん、きよたかさ〜ん! あいたいよ〜ぅおぅおぅおぅ・・・!」

「ゴメンナサイゆいねーさん、わたしが悪かったよ・・・」

 

さすがにこれは、なぁ・・・。

 

「ハイ、お姉ちゃん。これ飲んで元気出して!」

「うぅぅ~、ありがと〜ゆたか」

 

暖かいココアを飲んで少し落ち着いたようである。

ていうかそこまで落ち込むならついて行けば良かったのでは・・・?

まぁ成実さんなりの事情や理由があるんだろうけど。

 

「このままじゃわたしの愛も錆び付いちゃうよ〜・・・」

 

ソレはないけどさ、と呟くあたりまだまだ余裕がありそうだ。

 

「どっかの修理工場に頼めば45分くらいで直りそうだネ」

「車の整備じゃあるまいし、傷口に塩どころか海水をぶっかけてどうすんの・・・成実さんも、電話で話すくらい出来るんじゃないんですか?」

「うっうっう・・・ありがとう少年よ。君のその言葉だけで十分だよ〜」

 

と、そこに携帯電話の着信音が鳴り響く。

何やら成実さんの携帯電話がなってるようだが・・・着信を確認した後、凄い勢いで電話に出た。

 

「もしもし!・・・うん、わたしは元気だよ〜! きよたかさんの声を聞けば元気100倍だよ!・・・・・・え?・・・じゃあ帰ってこれるんだ〜♪」

 

おいおい・・・。

 

「45分もかからないですね。お姉ちゃん嬉しそう♪」

「ホントに、愛の力は偉大だね〜。一瞬だったヨ」

「・・・・・・」

 

嬉しそうな成実さんを見て、離れ離れでも本当に幸せなんだなと思う。

相次いで離婚を発表する多くの有名人達にこの場面を見せてやりたいと思うほど。

 

「・・・どうしたんですか、先輩?」

「ん? いや、成実さんは幸せなんだな〜って思ってさ」

「そうですよね。距離が離れてるけど、お互いを想いあえるのってすごくいいですよね♪」

 

無邪気に微笑む小早川さん、電話を終えた成実さんをつっつくこなたさんに嬉しそうに頬を緩める成実さん。

将来、成実さんのような恋をして、家族を創っていきたい・・・。

そう思った6月の初頭だった。

 

 

 

つづく・・・


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