<海水浴場>
「まだこの時間は人が少ないみたいですね」
「お昼ごろには昨日みたいに凄い人数になってるんじゃない?」
午前9時30分。
時間が少し早かったからか単に今日は人が少ないのか・・・海水浴客はまだまばらだが、いい場所を取るチャンスでもある。
海の家の近くという絶好の場所にパラソルを立てた俺達は水着に着替える。
もっとも俺は旅館で既に海パンをはいていたからシャツとズボンを脱ぐだけだが。
水泳用の帽子をかぶり、水中眼鏡を身に付けて準備万端!
一方女子グループもやっぱり着替えてたみたいだが・・・。
「こなたさんってさ、一般人の予想を完全に上回ってるよね・・・悪い意味で」
「ていうかこの年こういう場であんなモン着てるのはあいつくらいよ・・・」
かがみさんはワンピースタイプ、つかささんはそれにフリルを付けた感じの水着、みゆきさんは大胆にもビキニ(非常に目のやり場に困ります)、とここまでは良かったのだが・・・いや何がいいって女子の水着姿がって自重しろ、俺の煩悩!
話を戻すとこなたさんが着てるのは何故かスクール水着に浮き輪を装備。
しかも胸元には「6−3」という文字が・・・何年前の水着だよ!
「おお! まさきは泳ぐ気満々だね♪」
「俺は何でこなたさんがスク水着てる上にご丁寧に浮き輪まで用意してるのかが激しく疑問なんだけど・・・実はカナヅチとか?」
「普通に泳げるよ。この装備がその手の人にとってはデフォなのだよ!」
ドヤ顔しながらこなたさんはそう言いきった。
「・・・・・・」
「あんたの言いたいことはよ〜くわかるわ・・・」
かがみさん、この中で多分一番まともなのは君だけだ、と内心エールを送った・・・。
「(ほほ〜、結構綺麗だなここの海水)」
ゴーグル付けて海の中を泳いでいた俺は素直に感心していた。
「(ゴミやらなんやらのせいで少し汚い海も結構あるけどここは・・・ん?)」
何だか見覚えのある浮き輪と水着姿の下半身が三つ・・・決して下心があるわけじゃないから誤解しないように。
相手が男子だったらいきなり足を引っ張ってやるとかいたずらが出来る。
が、あいにく女子にそんなことをやるつもりは無いってかやったら間違いなく警察行きだ。
っというわけで・・・。
ザバッ!
「おっす、楽しんでるか!?」
『きゃあ!?』
「あ、やっぱりまさきだ」
柊姉妹はいきなり登場した俺にびっくりしてたがこなたさんは気づいていたようだ。
「び、びっくりした〜。急に出てこないでよも〜」
「ほんとだよ〜。サメか何かかと思ったよ・・・」
「いやこんな所でサメはまず出ないから」
俺は足が届く場所だが目の前の3人はこなたさんの浮き輪でのんびり浮いてた。
そしてちょっとした雑談をしていた中であることに気付く。
「そういえばみゆきさんは? 黒井先生も成実さんもあっちである意味はっちゃけてるのに」
黒井先生はこんな所に来てもビールを飲んでたりする。
さすがに量と勢いは控えめだが・・・先生、わざわざ
せっかくだからひと泳ぎすればいいのに。
つき合わされてる成実さんがちょっとかわいそうな気がしてきた(汗)。
「あ〜・・・みゆきさんは泳げないらしいんだよ」
「え? そうなの?」
一見完璧そうに見えるみゆきさんにも意外な弱点があることが判明した!
「水の中で目を開けるのが怖いって言ってたわよね」
「コンタクトレンズも怖くて付けられないんだって」
「や、それ以前に海水が目に入ったら誰でも痛いししみるでしょ」
何しろ海水は塩分が豊富だからなぁ。
でもせっかく海に来たのに何もしないのはもったいない。
昨夜のノリでビーチボールで遊んでみるか、と提案してみたところ、3人ともOKしてくれた。
「こう言う時はやっぱり皆で楽しむのが1番だよネ♪」
「ゆきちゃ〜ん! 一緒に遊ぼうよ!」
「え、でも私は泳げませんし・・・」
「何も泳ぐだけが海水浴じゃないぞ〜?」
「ビーチボールも持ってきてるんだからみゆきも混ざんなさいよ♪」
こうして比較的浅いところで5人でビーチボールで遊ぶことになった。
たまに足を滑らせて盛大に顔から海に突っ込む
かなり目が痛そうだが。
そうしてるうちに・・・。
「お前ら〜、そろそろ昼飯の時間やで〜!」
楽しい時間ってホントに短く感じるもんだ。
俺たちは空いてそうな海の家で昼食を食べることにした。
<海の家件食堂>
こうやって1つのテーブルで皆でわいわい喋りながら食事をしてると、果たして周りからはどう見えるだろうか?
・・・知り合いやクラスメートに見られたら俺だけ殺意のオーラを受けそうな状況だが。
「何だかこうしてると家族みたいだよね♪」
男女比が凄いことになってるがな。
「こういうトコでメシ食うと何でも美味しく感じるのが不思議・・・あれ?」
「どうしました? まさきさん」
「ん~、このラーメン、何か懐かしい味がするから・・・」
「まあそれぞれ店ごとに個性はあるんでしょうけど、既視感ってヤツ?」
ん〜・・・どっかで絶対食ったことがある味なんだがな〜。
麺は生でしょうゆ味、とどこにでもありそうなラーメンだけど。
「多分アレじゃないかな」
そういって成実さんの指す先を見ると・・・。
『喜○方ラーメン醤油味』
と書かれた箱が何故か置いてある。
ああ、なるほど・・・。
「地元から大分離れているけどある意味地元の味か。いや、でも何でここで喜○方ラーメン?」
「まさきって東北出身なんだよね?」
「ああ。これもみやげ物としてあちこちに売られてるもんだが・・・」
「思わぬところで故郷の味ってワケやな」
こんな時でものんびりビールを飲んでる先生に言われるが・・・ああ言うのって結構店によって味に差があるんだよなぁ。
しかし先生、ペースを落としてるとは言え結構な量飲んでるけど大丈夫だろうか?
「ふ〜ん・・・この味がねぇ・・・」
「でも脂っこいチキンも美味しく感じるから不思議だよね」
「そだね〜。このカレーもあまり具が入ってないけど美味しいし」
「この焼きそばもほとんど具無しです♪」
「・・・あたしはイマイチかな? このラーメン」
まあ、味覚も人それぞれ。
俺はあまり気にしないでラーメンを平らげた。
午後からは「何とか泳げるようになりたいです!」というみゆきさんの強い要望により、何故か俺がコーチをすることになってしまった。
しかしプールならともかく海で泳ぐ練習をするとなるとゴーグルが必須なんだが・・・。
「あ、大丈夫です。ちゃんと持ってきましたから」
ということなのでさっそく教えることになった。
先程浅い場所で遊んでたから海に浸かること事態は大丈夫だろう。
みゆきさんがギリギリ立ってられる所まで誘導する。
「まずはきちんとゴーグルを付けて・・・あ、隙間が出来ないようにきっちりとね」
「はい!」
隙間から海水が入ってきたらシャレにならん。
「まずは海面に目を開けたまま潜る練習から始めようか」
「も、もう潜るんですか!?」
「それが出来なきゃいつまでたっても泳げないよ? 俺も一緒に潜るから、まずは思いっきり息を吸って俺がオッケーするまで潜り続けてみて?」
「・・・はい!」
こうして潜る練習から始めた。
この時間からだから・・・バタ足くらい出来ればちょうどいいかな?
まずは水の中に潜ることに慣れてもらって泳ぎ方はそれからだ。
でもバタ足をするんだったら何かにつかまらないといけない訳で、オマケに・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「みゆきさんもう少し! 頑張れ!(ついでに俺の理性も頑張ってくれ!)」
「は、はい!」
息継ぎしながらバタ足の練習に入ったのだが・・・。
海水が綺麗なのが災いして、みゆきさんの胸の谷間がちらちらと、さらに息使いまで・・・ええい落ち着かんか俺の煩悩!
しかし周囲の視線をもうあまり気にならない所、慣れって恐ろしいな(汗)。
でも泳ぎを教えるためとは言えナイスバディな女の子の手を握って・・・ってだから余計なこと考えるなっての!
しかしみゆきさんって苦手なだけで飲み込みはもの凄く速い。
この分だと夏休み中プールに毎日通えばあっさり25Mどころか50Mは泳げるんじゃないだろうか?
そんなことを考えつつ目標地点・・・相変わらず水面にぷかぷか浮いてるこなたさんの浮き輪まで到達した。
「おお〜、みゆきさんいらっしゃ〜い♪」
「ちょっと指導されただけでここまでこれるなんてさすがみゆきね」
「ゆきちゃん凄〜い。苦手な水泳を克服できたんだ〜♪」
「はぁ、はぁ・・・まだまだですが、まさきさんのおかげですよ♪」
ちなみにみゆきさんはまだ浅いところでしか1人では泳げない状態である。
ついでに言うと俺の精神力も少し鍛えられてるかな・・・。
「俺はちょっと後押ししてやっただけ。みゆきさんの努力とやる気があったからだって」
俺は少し恥ずかしくなってそっぽ向いた。
「あれ〜? まさき、ひょっとして照れてる?」
「そういえばみゆきがここまで来れたのってまさきくんが手を引っ張ってやったからよね」
「・・・やかまし」
「ゆきちゃんいいな〜」
つかささんがボソッと何か呟いてよく聞こえなかったけど多分みゆきさんに感心してるんだろう。
「ねぇこなた、まさきくんって・・・」
「う〜ん。私もそう思ったところだよ」
何かワケの分からない会話が聞こえるが・・・。
そうこうしてるうちに陽もだいぶ傾いてきた。
そろそろ戻ったほうがいいだろう。
久しぶりの海水浴も十分楽しめた。
シャワー室でシャワーを浴びて体中についた海水を落とす。
簡易更衣室で着替えを済ませた俺たちは旅館に戻った。
ちなみに夕食の席で先生がまたアルコールを仕込もうと企んでいたのを皆で阻止したのは別の話である。
<客室>
「・・・・・・」
「まーくんどうしたの?」
仏頂面していたのに気づいたのかつかささんに尋ねられた。
夕食も入浴も済ませて後は寝るだけのはずなんだが・・・。
「どうして俺、今日もここに居るの?」
昨日に引き続き男女比1:4という普通に考えればやっぱりありえない状態の中にいた。
既に布団も5人分用意済み。
さすがに二日連続ってか二徹は勘弁したいんだが(汗)
「・・・何か問題ある?」
「特に無いわよね」
いや、ちっとは気にしろよ・・・。
そして定位置も(強制的に)決まってたりする。
「(ふぅ・・・)まぁいいや。さっさと寝る」
心の中でため息をついた俺は抵抗は無意味と判断、さっさと寝ようとしたが・・・。
「何言ってんの、今日もまだまだ寝かさないよ〜?」
「思いっきり誤解を招きそうな発言しないでくれ!」
その後、こなたさんの「夏と言ったらこれは外せないよ!」との一言で怪談大会が始まってしまった。
・・・この場合、外せないのは花火じゃなかろーかと思ったのは別の話である。
1番手はこなたさん。
結構本格的な内容で話し方も静かに、語りかけるように話すから雰囲気も出てる。
つかささんもみゆきさんもお互い身を寄せ合うほど怖がってたにも拘らず・・・しっかりとオチを付けてくれました(笑)。
で、2番手はこなたさんの指名を受けて俺が語ることに・・・。
怪談なんてまともに聞いたことあってもほとんど覚えてないんだが。
・・・そう言えば。
某ゲームで結構本格的な七不思議をやってたことを思い出す。
うん、これで何とか凌ごう。
「それじゃあ・・・これはある学校に伝わる七不思議の1つです・・・」
少し声を低くして話し始めた。
「そして、その事件にかかわった生徒達は全員卒業することはなく、皆同じ場所で死んでしまったそうだ・・・」
「あうあうあうあうあう・・・」
「つかさ、ウチの学校のことじゃないんだから大丈夫よ」
「それにしても、まさきさんって
みゆきさんも少々怯え気味だったりする。
「いや、某ゲームのモロパクリ」
「どっかで聞いたことあると思ったら枯れない桜があるアレのことか」
さすがにこなたさんは元ネタに気づいたらしい。
本気でつかささんがおびえ始めたので今日は(昨日よりだいぶ早い時間だが)寝ることにした。
ちなみに夜中につかささんがトイレに行った所、こなたさんのいたずらが祟って俺の布団にもぐりこんで来るというある意味嬉しいアクシデントがあった。
精神的にはかなり削られたが。
そして翌朝、つかささんを除く3人からの質問攻めにあったのは言うまでも無い。
短い小旅行を終えて後は帰るだけだが・・・。
「どっちに乗ればいいんだろ・・・?」
皆で―あのみゆきさんまで―かなり悩んでる。
なにせ
黒井車=迷走
成実車=暴走
というスキルがあるため、果たして無事に帰れるのか・・・?
「お前らもう少し大人を信用せんかい」←少し呆れ顔
「そうそう、私の車を追い抜く不届き者がいなけりゃ大丈夫だって♪」←能天気
先生はともかく成実さんの一言は(汗)。
「どっちも死亡フラグのような気がするよ・・・」
「・・・今回ばかりは否定しない」
で、結局。
来るときとはそれぞれ別な車に乗って帰ることにした。
「あの〜、黒井先生?」
「何や赤井?」
「どうして市街地走ってたのにいつの間にか山の中に来てるんですか!?」
「まぁ細かいこと気にすんなや♪」
ちなみに現在位置はどこかの山のてっぺん(汗)。
やはりお約束というか、順調には帰れない俺達だった・・・。
つづく・・・