思い返せば長い二か月だったなぁ……
そういえば、大事なこと言い忘れてました。
私、ゼロの使い魔に対する原作知識がありません。
Wikiや二次小説、マンガ倉庫なんかで立ち読みした程度ならありますが、ほぼ皆無です。
よって原作をこれから読んだりするために投稿が止まることがありますので、ご了承ください。
「ほう、フーケから秘宝を取り戻し、あと一歩というところまで追いつめたが、逃げられてしまったと?」
トリステイン魔法学院の学院長室で、ドッピオ達はオスマンに一連の事件の顛末を報告した。
といっても、これからフーケを匿うということに決めたからには『フーケの正体はミス・ロングビルでした』などと正直に語るわけにもいかない。
当然ながら、嘘が多分に含まれた報告をすることとなっていた。
「はい。フーケは終始フードを被ったままであったので、顔の方も確認することはできませんでした。このような結果となってしまい、申し訳ありません」
報告をしているのはルイズで、他の者たちは皆口を閉じている。
下手なことを何かしゃべるよりかは、一人にずっと話してもらう方が安全である。それにルイズは頭がいいので、何かしらドジを踏むことさえなければ適任だった。
ルイズは帰り道の途中で考えていた無難な言い訳を口にしている。
「ほっほ。よいよい、むしろ上出来だと言ってもいいじゃろう。まんまとこの学院の宝物庫から秘宝を奪った盗賊相手に、まだ半人前の学生達が勇猛果敢に戦って見事秘宝を奪い返してみせたのじゃからな。褒められこそすれ、咎められるようなことは何一つしてはおらんよ」
「ありがとうございます、オールド・オスマン」
どうやらこの話をすべて信じてくれたようで、ルイズ達は内心ほっとしていた。
ルイズ達は、フーケの正体を知ったうえで、意図してそれを隠しているのである。こんなことがバレてしまえばこちらが裁かれてしまう。
オスマンの背後にはコルベールも控えていたが、こちらもルイズの報告になんら疑問を抱いていないようだ。
かなり危なっかしいことを自分は多くするようになったな、とルイズは自分の今までを振り返ってみて呆れてしまう。
オールド・オスマンはその場にいる全員を満面の笑みで褒め称えると、それから全員を驚かせてやろうと画策するイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「ここにいる三人全員、『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位があるので、精霊勲章の授与を申請しておいたぞ」
そう言うとオスマンの思惑通り、その場にいる全員が色めきだった。
ルイズとキュルケ、ギーシュの顔はパッと明るくなり、「本当ですか?」と三人が口々に問いかける。
「うむ、いいのじゃよ。君たちはそれほどの活躍をしてくれたのじゃ。然るべき結果には然るべき報酬を、じゃ」
ただ一人タバサだけを除いて、他の者達は喜びの表情を浮かべる。
だが、あることに気がついたルイズは次第にその喜びを萎めていく。
「……あの、ミス・ロングビルとドッピオは……私の使い魔には、何か報酬はないのですか?」
とう訊ねかけると、キュルケとギーシュもまた、喜色満面の笑みから一転して不安げな顔になる。
そう。人数を考えてみると、二人が報酬の対象から外れているのである。
まさか、と思ってルイズは質問を投げかけてみたのだが……オスマンの方はううむ、と難しげに唸ってしまった。
「ミスタ・ドッピオは平民であるからの……それに、ミス・ロングビルもすでに正式な貴族ではなくなってしまっているから……誠に申し訳ないのじゃが……」
返答を聞いた、本人たちを除くルイズ達はその瞬間、落胆したような表情を浮かべた。
ミス・ロングビルはともかく、ドッピオにも報酬がないというのはどういうことなのか。
あの場で一番の活躍をしてみせたのは、間違いなくドッピオであるというのに。
ただの平民であるというだけでこうも邪険に扱われてしまうという現実が、ルイズ達には歯がゆかった。
「私はいりませんよ」
「僕も別に、そういうものは必要ないですね」
だが、そんな彼女らの思いとは裏腹に本人たちは全くそういうことを気にしていないようだった。
フーケに関しては、自らを匿ってもらうというのに何も文句は言えないだろうし、ドッピオも自分のすべきことをやっただけだと考えている。
報酬などなくても、こちらが困ることは特にない。
「しかし、平民だからというだけで何もないというのは確かに不公平じゃ。何かしらの褒美を後々にわしから授けようと思う。ささやかなものしかないが、受け取ってくれるかの?」
「ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
フーケは若干戸惑っていたものの、ドッピオが礼をしたことから自分もそれに倣う。
本人にしてみれば、まあ複雑な心境になってしまうというのも仕方がないだろう。
「さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。『約束のペンダント』もこうしてフーケの手から戻ってきたことじゃし、予定通り執り行う。主役はフーケから秘宝を奪還してみせた君達じゃ。せいぜい、着飾るのじゃぞ?」
オスマンが手をポンポン、と叩いてそう告げると、キュルケとギーシュがうっかりしていたとでも言うように叫ぶ。
「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりましたわ、急がないと!」
「そうだったね、早く着替えてモンモランシーとともに踊る準備をしなくては!」
そう言いながら礼をすると、すぐさまその部屋を後にする二人。
タバサも無言のままペコリと頭を下げると、そのまま二人に続いて退室する。
ルイズとドッピオもそこから出ようと踵を返すが、不意にドッピオがオスマンに呼び止められた。
「ミスタ・ドッピオ。すまないが話があるため、ここに残ってはくれないかの?」
ドッピオは部屋を出る途中で足を止める。
少し不安げな表情をしたルイズだったが、そんな彼女を見てドッピオが言葉をかける。
「大丈夫。すぐに行くから」
そう言うとルイズはそのまま部屋を後にして、学院長室にはドッピオ、フーケ、オスマン、コルベールの四人だけが残された。
「話って、いったいなんなんです?」
ドッピオが話を切り出して、オスマンに訊ねかける。
オスマンはまじまじとドッピオを見つめ、不思議そうに首をかしげる。
「……なんというか、変わったのう君は。最初に会った時から……まるで、青年から大人の男へと成長したような……」
「…………何が言いたいんです?」
「いやいや、なんということはない……大人同士の、とでも言うべきか……そういう話をしたいと思っただけじゃよ」
意味深長な発言をするオスマンに、フーケとドッピオはともに首をかしげた。
「彼に会ったかね?」
突然の、しかし核心をついたオスマンの言及にドッピオは動揺を禁じ得なかった。
そんな彼の様子にオスマンは納得したように何度も頷くが、ドッピオが自分を睨みつけてきているのを見てあわてて制止した。
「魔法など使っておらんよ。しいて言えば、長年生きてきた年寄りの勘ってとこかの? それに考えてみれば、君に成長を促してやれる者など、そうそうおらんからのう」
「……なかなか恐ろしいもんだな、あんた」
「ほっほ。君のような者からそう言ってもらえるとは感激じゃの……して、彼は……どうじゃった?」
オスマンはドッピオの言葉を受け取って嬉しそうに笑っていたが、ボスのことを訊ねると真面目な表情に変わる。あまりの変わりように、コルベールやフーケが目を点にした。
きっとそれは、この30年間ずっと彼が心の片隅で思い続けてきたことなのだろう。
自らの死の運命を救ってくれた、恩人の無事を思うのは、当然と言えば当然かもしれない。
ドッピオはオスマンの目を見据え、
「もう、どこにもいない」
そう、はっきりと告げた。
その言葉を聞いたオスマンはそのことを予想していたのか、「そうか……」とつぶやいて顔をあげる。
「やはり、彼はもう死んでしまっていたのか?」
「いや……多くは言えないけど、もうどこにもいません。そうとしか言えません」
「わかった、なら何も聞くまい。それで、彼からなんと言われた?」
詳しいことを言おうとしないドッピオだったが、オスマンは特にそれを気にすることはなかった。
年を取れば、誰にでもあまり言いたくない事情、言えない事情というものはあるのだとわかるものだ。
むしろそれよりも彼は、恩人が部下に何を言い残していったのか……それを知りたかった。
「お前はお前の道を行け。光り輝く栄光の道を……と」
「……そうか」
にっこりと、オスマンは微笑んで見せる。
それはまるで子供を見守る父親のように寛大で、温かな笑みだった。
ボスの……ディアボロの最後の言葉を聞いたオスマンは、いったい何を思ったのか。
それは、彼のみぞ知ることだった。
しばらく沈黙して何か物思いにふけるオスマンだったが、やがてドッピオの方へと向き直ると、再び口を開く。
「だから君は、ミス・ロングビルを……土くれのフーケを救ってくれたのかね?」
「……え?」
フーケとドッピオは、同時に目を見開いた。
いきなりの問いかけにドッピオはどう答えればいいのかわからなくなり、フーケも冷汗がダラダラと流れる。
これから隠していこうとしていた事実を、目の前のこの老人はあっさりと見抜いたというのだから。
驚きの止まぬ中、オスマンはそんな彼女の表情を見てほっほと愉快そうに笑う。
「おそらくドッピオ君は感づいたじゃろう? ミス・ロングビルの報告にあった矛盾について……全く、気づいたコルベール君はともかく他の教員も気づかなかったというのはいかんな。職員を選びなおす必要があるじゃろうか……っとと、話が逸れかけたのう」
と、教職員たちに対する愚痴を漏らそうとしていたオスマンだが、話を戻す。
相変わらずフーケは口をあんぐりと開けたまま何も言えないでいたが、ドッピオはすぐに冷静さを取り戻してオスマンとの会話を再開させる。
「つくづく喰えない爺さんだな。どうもこっちは相手がかなり悪かったみたいだね」
「いやいや、ミス・ヴァリエールも君も何食わぬ顔で嘘まみれの報告をするもんじゃからの、どっこいどっこいと言ったもんじゃわい。最近の若いもんは吹っ切れたことをするもんじゃから末恐ろしいのう」
「……まぁいいです。それにしても、出る必要のない危ない賭けにでたもんですね。こちらが負けてしまうことだってあったかもしれないのに」
「いやいや、わしは信じとったぞ? あのとき言うたように、立候補した者は皆いい表情をしておった。それに、ミス・ヴァリエールの使い魔として君がついておったしのう。きっと彼女を止めてくれると思っとったわい……それに、出る必要はあったぞ?」
そこまで言うとオスマンは一呼吸を置いて、言葉を続ける。
「最初こそ、わしも自力で止めようかと考えた。しかしミス・ヴァリエールと君の気高き精神を見て、ふと思った。この子達ならきっと彼女の心を動かしてくれるに違いないと……」
「……あたしの……心を?」
今まで上の空だったフーケもようやく現実に意識が戻ってきたようだが、それでもあまり多く言葉を紡ぐことができていない。
そんなフーケが聞き返してきたことに、オスマンはうむ、と大きく頷いた。
「きっとフーケは、貴族を心から憎んでいるからこのような盗賊稼業をしているのではないかと思っていた。なにせ貴族ばかり狙う犯行に、わざわざ書置きまで残すんじゃからの、執念は相当なもんじゃろう……」
「…………」
「わしのような年寄りが諭そうとしたところで、そんなものは戯言だと言うて君は聞かんかったじゃろう。どうせ都合が悪くなれば簡単に自分の言葉すら裏切る、そういうもんじゃと……だからわしは、彼らの思いに触れてほしかった。夢を信じて進む、彼らの思いに……」
オスマンは、切実な思いをそのまま口にしているのだと、ドッピオは感じた。
それは、彼や彼の組織の人間が使う、嘘を判別する方法などで確信したのではない。
彼の魂が……ヴィネガー・ドッピオの魂が、そうだと断言した。
オスマンは一通りのことを言い終えると、今度はフーケの目を見て彼女に問いかける。
「のう、ミス・ロングビル。ものは相談じゃが、君の給料を三倍にするが、また今までのように秘書としてやっていってくれんか?」
「……え?」
フーケは、耳を疑った。
いったいオスマンが自分に何を言っているのか、全くわからなかった。
自分はこの学院から、秘宝を盗み出したというのに。
そのために彼らを今までずっとだまし続け、彼らが宝物のように大切にする生徒にすら手をかけたというのに。
「それでは足りんか? いったいいくら必要かね? それだけの金額はこちらでも出そう。君はかなり優秀なメイジじゃし、こちらとしても手元に置いておきたいのじゃが」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待っておくれ! いったい何を言ってるんだい!? あたしみたいなお尋ね者を、なんで……」
「はて? お尋ね者? わしがこれから雇うのはミス・ロングビルという女性であって、お尋ね者だとは聞いておらんぞ? のうコルベール君」
「そうですね。私も全くそんなことは耳にしておりませんな」
フーケから投げかけられた質問を、オスマンはコルベールと共同してさらりと受け流す。
ますますフーケはわけがわからなくなった。どうして自分のような者を匿ってくれるというのか。
わからない。彼女には、わからない。
「のう、ミス・ロングビル。わしはただ、お金が必要で困っているメイジを助けようというだけじゃ、別におかしなことは何一つしとる気はないよ」
「だからって……あたしみたいなのを信じるなんて……!」
どいつもこいつもいったいなんだというのか。
こいつらは、自分のことなんかまるで信じもせずに、ただ好きなだけ自分を罵ってきたあの大人たちと同じではないのか。
プライドと口先だけはいっぱしで、いざとなったら逃げだすだけのクソ野郎どもと同じではないのか。
どうして信じてくれるというのか。どうして。
「信じて何が悪いんじゃ?」
フーケは、頭の中がまっしろになった。
何の疑問も持たず、オスマンはそう言い切った。
「信じて君が困るならやめよう。だがわしにはどうにもそんなことを君が思っているようには思えん。わしは自分が信じたいと思うから君を信じるわけじゃし、何かあればそんなものは自分でなんとかするわい」
「ご冗談を。そのときは私もなんとかいたしますよ」
「おお、こんな年寄りには有難い言葉じゃの。いかんせん身体が最近言うことを聞かんでな、誰かの助けがあるというのは助かるわい」
「何を言っているのですかオールド・オスマン。私は彼女を信じるのですから、それくらい当然でしょう」
「およ? じゃあなに、わしのこととかってもしかして特にどうでもよかったりする?」
「さあ? ご想像におまかせします」
むきーっ! とオスマンは大げさに怒ってみせる。
コルベールはそんな彼の様子を見てもはいはい、となだめるように言い聞かせるだけだった。
どうにもオスマンは本気で怒っているように見えないし、コルベールも冗談で言ったようにしか聞こえなかった。明らかに茶番劇だ。
そんな彼らを見て、フーケは激昂した。
「ふざけてんのかいあんたたちは!」
フーケの怒声が、学院長室に響く。
するとオスマンとコルベールもふざけ合うのをやめて、彼女の方へと視線を移す。
「どいつもこいつもわけのわからない理屈を出すのはやめとくれ! あたしはそんなものを信じるほど子供じゃあないよ、いったい何が目的であたしをここへ誘うんだ! 暗殺でもしてほしいのか? それとも裏ルートから所持禁止されてるマジックアイテムでも入手してほしいのか?」
「目的なら話したはずじゃよミス・ロングビル。わしはただ、困っとるメイジを……人を助けたいのじゃ。それで十分なんじゃよ、わしにとって。誰かの人生を助けられたらと、おこがましくも思ってしまう。ただのしがない老人の自己満足じゃ」
「信じられるわけがないじゃないか! 貴族なんて……貴族なんてみんな自分のことしか考えてない、人の皮を被った鬼じゃないか! 貴族なんて……貴族なんて!!」
ヒステリックな叫び声をあげるフーケ。
彼女がどれほどの悲しい経験をしてきたかなど、この場にいる誰も想像することは出来ない。
裏社会に身を置いていたドッピオも、彼女がそこで何をされたかの大まかは予想は出来ても、彼女がどんな思いをしてきたかなど、わかるはずもなかった。
だが、オスマンは静かにそこに立っていた。
彼女がどれだけ声をあげても。
彼女がどれだけ彼を罵倒しても。
決して、彼は動揺などしなかった。
「……ミス・ロングビル。君は、ご両親を覚えているかね?」
「……?」
「わしにはあるよ。わしの父親と母親は、優れたメイジじゃった。力も強く、そして誰からも信頼され、誰にでも優しく接してくれる人じゃったよ。そんな彼らは、わしにいろんなことを教えてくれた。その中でも、最も大切なものがなんだったか、わかるかね?」
突然の、オスマンからの問いかけ。
フーケはその真意を理解できず戸惑っていたが、オスマンはそれも構わず言葉を続ける。
「愛じゃよ、ミス・ロングビル。魔法なんかではない。わしは彼らに人を愛する尊さを教えてもらった。どれほどそれが素晴らしく、清らかで美しいことか! 平民も貴族も関係ない。人は等しく人で何も変わりはせん。その身体も、心も。おかげでわしは優しい人は誰でも大好きになった」
昔を思い返しながら語るオスマンは懐かしそうに顔をほころばせていた。
どこか誇らしげに語るオスマンを見て、ドッピオはふと思った。
これが、彼にとっての原点なのだろうと。
彼という人間を形作る、彼が最も大切とする信念なのだと。
「そして君も、優しい人じゃよ。誰かのために努力できる人はみなそうじゃ。だからこそわしは君に、自分と他人の人生を壊してほしくない。優しいその心のままに、優しく生きてほしいのじゃ。憎しみなんてものに振り回されずに、まっすぐに」
「…………」
「確かに現実はつらいじゃろう。ほんのちょっとしたことで誰もが不幸になってしまう。じゃが、そんな中でも優しさを振りまく人は素晴らしく、そして愛おしい。わしはそんな人に憧れて今まで生きてきた。これからもそうしていくつもりじゃよ」
「……また、『夢』かい?」
フーケがそんなことを言ってきたが、オスマンは一瞬何のことかわからず首をかしげる。
「お嬢ちゃ……ミス・ヴァリエールも言っていたよ。自分の夢のために助けるんだって。『助けるべき人に手を差し伸べ、その人たちのために敵と立ち向かう貴族になる』なんて……夢物語もいいとこだよ、ホント」
フーケは馬鹿にしたように乾いた笑いを浮かべるが、オスマンとコルベールはそれを聞いて感嘆したように声を上げる。
「ミス・ヴァリエールも成長したのう……そうじゃな。わしの夢じゃ。現実が不幸をまき散らす災いとなるのなら、わしは幸福を与える理想となりたい。子供の頃から思い描いた、大抵の人が聞けば鼻で笑う絵空事じゃよ。で、何かそれで不満があるのかね?」
オスマンは何が悪いのか全くわからないとでも言うようにとぼけた顔をして訊ねる。
ああ、と。フーケは思う。
こいつも……この人も、ルイズと同じだ。
自分の夢を信じて疑わない、滅多に見ない阿呆だ。
バカバカしくて……本当にもう、泣きたくなってくる。
「……ないよ……な゛い゛よ、何も……別に……」
再び、フーケは涙を流した。
子供の時に、散々流したはずなのに。
もう流すことはないと思っていた、二度目の涙は、なかなか止まってくれそうになかった。
全くイライラしてしまう。
堂々と無茶苦茶なことを言い張る、こいつらも。
こんな言葉で心動かされてしまう、自分も。
「クソ……クソ……クソ……」
悔しげに、何度も悪態をつくフーケ。
そんな彼女にオスマンは温かい笑みを浮かべながらそばへと寄り、
彼女の尻を、いらやしい手つきで撫でまわした。
「なにしてんだい!!」
ド ゴ ォ ッ !!
「あああああーッ!!!???」
フーケは一切の容赦なく、オスマンの股間へと鋭い蹴りを放った。
狙いをはずさず命中したそれは恩人であり老人である相手を労わる優しさの欠片もなく、悲鳴を上げてオスマンはその場にうずくまる。
「ミ、ミス・ロングビル……な、なにをォ……!!」
「この場でいきなりまた尻をなで回すヤツがいるか! あんたあたしを雇った時だってやたらと尻を触ってきたし、許してやればつけあがりやがって!!」
「だ、だって見事な尻だもん! それに笑って許してくれたり、その御髭素敵ですねとか言われたら期待するじゃん、舞い上がるじゃん! ねぇコルベール君!」
「ええ。見事なほどの外道の極みですなオールド・オスマン。感動すら覚えましたよ、ご子息ともども一度お亡くなりになればよろしいのでは?」
「コルベールくぅぅぅぅぅん! まずいよ、かなり物騒で下品で危険なことつぶやいちゃったよこの人!」
「ここに侵入するための演技だそんなの! これからは二度と触ったりするんじゃないよ、そしたらまたぶちかましてやる!」
「その時はぜひ私にもお知らせください、ともに制裁を下しますので」
「わかった、わかった! あと一度だけ撫でさせて、後生じゃから……」
「させてたまるかァ――――――ッ!!」
ズ バ ン ッ !!
情けもなにもない第二撃の鉄槌がオスマンの股間に下され、言葉にならない悲鳴が学院で響く。
「……僕もう帰っていいです?」
一部始終を見ていたドッピオの小さな言葉は、悲鳴にのまれて誰にも聞こえることなく消えていった。
・ミス・ロングビル(フーケ)
学院内の数名に自分の正体を知られるも、依然と同じく秘書として働くことが決まった。
再起可能。
・オールド・オスマン(もといその息子)
再起不能?
To be continued…
キングクリムゾン(本体名:ヴィネガー・ドッピオ)
パワー-A スピード-A 射程距離-E
持続力-E 精密動作性-A 成長性-B
ドッピオのボス、ディアボロから受け継いだスタンド能力。基本能力がとてつもなく優れている上に、数十秒ほどの完璧な未来予知、そして時間を吹き飛ばすという凄まじい能力を持っている。
吹き飛ばせる時間は5秒ほどとディアボロと比べて短く、まだドッピオは十全にその能力を使いきれていない。しかし今後この時間は伸びていく可能性がある。
ヒィーッ、このドッピオ、果てしなく強くなるぞォーッ!!