ゼロの奇妙な腹心   作:Neverleave

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『約束のペンダント』へとたどり着いたドッピオ。
ボスがドッピオに残したそのペンダントは、なんとドッピオの世界にある『矢』だった。
いったいなぜこのようなものがここにあるのか?

ではゼロの奇妙な腹心16話、どうぞ


16話

 『弓と矢』。それは、ドッピオの世界において、人間をスタンド能力に目覚めさせるために使用する道具だ。

 エジプトの古代遺跡から発掘され、数本しか存在が確認されていないが……その『矢』で貫かれた人間、または矢尻で怪我をした人間は、『選別』される。

 選ばれた人間はどれだけの重傷を負ってもたちどころにそれは治り、スタンド能力が備わるようになる。

 だが、もし選ばれなければ……たとえちょっとしたかすり傷を負ったとしても、一瞬で死に至るのだ。

 

 その『矢』……いや、正確には『矢尻』が、異世界へとやってきたドッピオの手元にあった。

 なぜ、ボスはオスマンを介して自分にこんなものを贈ってきたのだ?

 たどり着いた『真実』に戸惑うドッピオだったが、不意に背後から自分に近寄ってくる気配を感じると振り向き、剣の柄に手をかけた。

 

「ま、待ちたまえ! 僕だ、ギーシュだよ!」

 

 ギーシュは手をあげて、ドッピオがこちらを攻撃してこないよう要請した。

 ドッピオも相手が敵でないと知ると、すぐに安心したようにため息を吐く。

 

「はぁ……脅かさないでくれよ」

「ああ……悪かったけど、中が暗いから近づくまで君だとわからなかったのさ。しょうがないじゃあないか」

 

 ギーシュもこちらへと近寄るが、まだ周囲を警戒してかワルキューレで周りを固めて慎重に移動してくる。

 ドッピオの隣まで来ると、ドッピオもワルキューレの輪の中へと入った。

 対峙したときにはかなりの脅威だったというのに、味方となればなんと頼もしいものだろうか。

 

「それにしても、いったいどうしたんだいドッピオ。急に奇妙な声を出したと思えば、今度はこちらの作戦も全部無視して特攻だなんて」

 

 ギーシュがドッピオに訊ねかけると、ドッピオは途端に申し訳なさそうな顔をする。

 やむを得ない事情があったとはいえ、彼の独断で仲間全員が被害を受けるかもしれないところだったのだ。

 もし罠でもあればドッピオは負傷するか、もしくは死んでいたかもしれない。そこへ仲間が自分を助けるために動けば、巻き込まれることだってあるのだ。

 あまりに熱くなってしまい、愚行に走ってしまった自分を不甲斐なく思うドッピオ。

 こんなものでは、到底ボスの側近など務まりはしない。

 

「……ごめん」

「いや、何もなかったんだ。それならいいんだ……それが、『約束のペンダント』かい?」

 

 ギーシュはドッピオが片手に持っている『矢』を指さして訊ねる。

 ドッピオは首を縦に振って肯定の意を示した。

 

「これが、君のボス……そして、オールド・オスマンの恩人が残した秘宝か……いったいどうやって使うものなんだ? 何かのマジックアイテムかい?」

 

 と、ギーシュがペンダントに手を伸ばそうとしてくるのを見てドッピオはギョッとし、素早くギーシュの手をはたいた。

 『矢』に触れてもしも手を切ったりすれば、『選別』が行われる。運よく生き残ればいいが、下手をすれば死んでしまうのだ。

 

「いたっ!?」

「あ……ご、ごめん。だけどこれは触れない方がいいんだ……もしかしたら、死ぬかもしれないから……」

 

 ギーシュはそれを聞いてゾッとしたように顔を青くした。

 とりあえずドッピオは、一部の説明を省いて『触れることは危険』だということだけ説明する。

 

「強力な毒か、呪術でも施されている物なのかい?」

「そう思ってもらえばいい。僕は大丈夫なんだが、下手に誰かが触れると危険だ。僕が持った方がいいだろう……そういえば、ルイズ達は?」

 

 ドッピオは『矢』のペンダントを首にかけ、ギーシュとともに出口を目指して移動しながらギーシュに問いかけた。

 

「彼女たちには外で待ってもらっている。何かあれば、彼女たちのところにはヴェルダンデが待機している。異変があれば感覚共有ですぐにでも察知できるさ」

 

 それを聞いてドッピオは安堵したが、それと同時に疑問が浮上する。

 どうやらこの廃屋には罠もなく、そしてフーケが待ち伏せをしているというようなこともないようだ。しかし、だとしたらなぜフーケはここへ『矢』を置いたままどこかへ消えているのだろう。

 折角、最高の防御を誇る魔法学院の宝物庫から秘宝を奪ったというのに、こんなところで特に隠しもせずに放置するというのはおかしい。

 トリステイン王国中で貴族達から次々と宝物を奪ってみせているフーケ……プロの盗賊が、そんなマヌケなことをするとは思えない。

 秘宝だけを置いて自分は逃げ回り、ほとぼりが冷めるのを待つつもりなのかもしれないが、フーケは農民に森へ入っていくところまで目撃されているのだ。本人だって見られたことくらいわかるだろう。

 ここを調査し、廃屋に到達されれば秘宝も回収されてしまう。実行するにはリスクが高すぎるのだ。

 

(土くれのフーケ……いったい何を企んでやがる?)

 

 全く、相手の意図が理解できない。

 目撃されたというのならば、そこから少しでも遠くへと逃げるべきだ。

 実際、ここまでやってくるのに馬で4時間もかかる。ロングビルがその目撃情報を知ってから、ここへやってくるまでに少なくとも8時間はあったのだから、むしろ逃げた方が有意義だろう……

 

(…………ん? 8時間…………?)

 

 と、そこまで考えてドッピオはふと奇妙なことに気が付いた。

……待て。確か事件が発生したのは深夜。午前0時くらいってところだろう。そしてロングビルが今日の早朝に学院へと戻ってきたから……遅くても、午前8時ごろとすると……時間差は……8時間か?

 

…………。

……………………。

…………………………………………え?

 

 ドクン、と。

 ドッピオは、自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。

 

 ドッピオは、発見してしまった。

 ロングビルが持ち帰ってきた、目撃情報の致命的な矛盾に。

 そしてドッピオは、気づいてしまった。

 この事件の、全貌に。

 

(……まさか……フーケの、正体は……!!)

 

 ドッピオが、この事件の『真実』に到達しようとしていた、まさにその瞬間。

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 外から、ルイズの悲鳴が聞こえた。

 いったい何事かと思ってドッピオとギーシュは一気に外へ出ると……彼らの目には30メイルの大きさをほこるゴーレムが、自分たちのいた廃屋に向かって拳を振り下ろそうとしていることに気が付いた。

 急いでギーシュとドッピオが廃屋から離れると、一瞬遅れてゴーレムの拳が廃屋を粉々にする。

 あと少しあの中にいれば、押し潰されるところだった。

 

「土くれのフーケか!」

 

 ギーシュはそう叫ぶと、周囲に術者がいないか探した。

 だがどこにもそれらしき人影は見つからない。ここから離れた場所で操作をしているのだろうか。

 キュルケが呪文を唱え、ゴーレムに向かって『ファイアーボール』をぶつける。間髪入れずタバサも『ウィンディ・アイシクル』による氷の矢を放ち、ゴーレムへ叩き付けた。

 だが、巨大なゴーレムはそれを喰らってもビクともせず、キュルケは苛立たしげに舌打つ。

 

「ダメよ、やっぱり効かないわ!」

 

 おそらくこの中で、一番の攻撃力をもつ魔法が使えるのはキュルケとタバサだ。ギーシュのゴーレムでは歯が立たない。これではゴーレムを倒すすべはない。

 

「だったら……これはどう!?」

 

 するとルイズは、転がっていた小石をゴーレムに投げつける。

 突然のルイズの奇行に一同は驚いたが、どういう意味があるのかはすぐにわかった。

 ルイズは石に向かって素早く錬金の呪文を唱えると、石が大爆発を起こしてゴーレムが破壊される。

 ルイズの魔法は、どんな呪文でも爆発が起こるが基本的に狙いが定めづらい。

 だが錬金ならば話は別。的確に的を爆破させ、相手にダメージを与えることができるのだ。

 

「やった!」

「やるじゃない、ルイズ!」

 

 ゴーレムが破壊されたことを手放しで喜ぶルイズと、珍しく彼女を褒めるキュルケ。

 だが、すぐにそれらは無意味であったことを彼女たちは思い知らされた。

 なんとすぐさま飛散した土が元に戻っていき、ゴーレムは復活したのだ。

 

「なっ!?」

「嘘!?」

「撤退」

 

 頑強な上に復活してしまうというのならば、もはやゴーレムは手に付けられない。そう判断すると、タバサは口笛を吹いて何かを呼んだ。

 それは空からやってきた。翼を羽ばたかせ、ルイズ達めがけて飛翔してくるそれは、ゴーレムよりは小さくとも巨大なものだった。

 

「ド、ドラゴン!?」

 

 まだ成長しきっていないようだが、紛れもなくそれはドラゴンだった。

 ルイズはその姿を見て驚愕するが、タバサとキュルケはそれに素早く乗り込むと残る三人に呼びかける。

 

「タバサの使い魔、シルフィードよ! 早く乗って!」

 

 キュルケに言われて、ルイズとギーシュは急いでシルフィードに乗る。ワルキューレは青銅であるため重いので、ギーシュは仕方なく地上に残すことにした。

 自分も乗ったところで、ルイズは全員がいるかどうか確認した。

 だが。

 

「ッ!? ドッピオ!?」

 

 彼女の使い魔だけが、シルフィードの上に乗っていないことが発覚した。

 慌ててルイズ達は周囲を見渡してドッピオを探すが、どこにも彼の姿が見つからない。

 いったいどこへ行ってしまったというのだ。あの使い魔は。

 

「ルイズ、感覚共有でドッピオを見つけられないの!?」

「ダメ、あいつと私は感覚共有ができてないの、わからない!!」

 

 もはやゴーレムは彼らの目前にまで迫っていた。

 これ以上ドッピオを待っていることは無理だと判断したタバサはシルフィードに命令して羽ばたかせた。

 

「待って! まだあいつがいない! ドッピオが!!」

「ダメ。もう待てない」

 

 シルフィードが飛び立ったその直後、彼女らがいた場所の地面にゴーレムの拳が深く突き刺さった。

 間一髪のタイミングで空中へと脱出することに成功するルイズ達。

 だが、空においてもルイズは自分の使い魔を見つけることができず……ルイズは、ただ彼の名を呼ぶことしかできなかった。

 

「ドッピオ……!!」

 

 

 

 

「フフ、始まったね」

 

 つい先ほどまで廃屋があったところから、少し離れた場所で。土くれのフーケは、自身のゴーレムを操っていた。

 土くれのフーケ。それはこのトリステイン王国にて出没する凄腕の盗賊。

 正体については一切わかっておらず、男か女かということすら判別していない。

 ただわかっていることと言えば、土系統のトライアングルメイジであること、そして珍しいものに目がないということである。

その手口は繊細に屋敷に忍び込んで盗み出したかと思えば、別荘を粉々に破壊して大胆に盗み出すこともあり。

白昼堂々王立銀行を襲ったと思えば、夜の闇にまぎれて邸宅に侵入する。

そして犯行現場の壁には必ず自らの名とともに秘宝を領収した旨を伝える文面を残して去っていく、まさに神出鬼没の怪盗。

その手段の多さから行動が全く読めず、トリステインの治安を守る役目を担う王立衛士たちすら手玉に取ってしまうのだ。

ただ一つ、盗む方法で共通することと言えば。貴族の館、銀行にある強固な壁を『錬金』で粘土や砂に変化させて穴をあけ、潜り込むことだ。

ゆえに『土くれ』。その二つ名は、強力な『固定化』の魔法をかけられた壁でさえあっさりと土くれに変えてしまう、その実力と手口からつけられたものなのである。

 

そのフーケは今、『約束のペンダント』を奪還にやってきた追手の生徒たちを待ち受け、己がゴーレムを振い戦っていた。

なぜフーケはここで追手を待ち受けていたのか? それは、『約束のペンダント』の利用方法を知るためである。

学院で入手した、秘宝である『約束のペンダント』。マジックアイテムの類であることはフーケも推測できたが、使い方がわからなかったのだ。

所持者であったオスマンですら、その使用方法については何もわかっていないという。それではただの飾り、骨董品だ。今、これを闇ルートで捌いたところで価値はない。

 

だがそこで、フーケは新たな情報を入手した。

オスマンが、これを命の恩人である人物からもらい受けていたこと。そしてその人物は自分の側近であった人物へ、これをオスマンから渡してもらうよう託していたこと。

そして、その人物が……トリステイン魔法学院へと来訪していたこと。

オスマンでもわからなかったものでも、その側近とやらならば利用方法がわかるはず。

だからあえて、フーケはあんなにもわかりやすいところにその秘宝を放置していたのだ。

実力についてもすべて把握している。万に一つも相手に勝ち目はないだろう。

いつか、その側近は秘宝を使うはず。

それをフーケが今か今かと待っていた、そのときだった。

 

「……おや?」

 

 フーケは、その側近……今はルイズの使い魔となったドッピオがいなくなっていることに気が付いた。

 つい先ほど追手の生徒たちは、タバサの使い魔であるドラゴンに乗って空へと逃げた。

 その中に彼の姿はなかった。だがそれはフーケに限らず、追手の方もドッピオを探し回っているようだ。

 辺りを見渡しても、フーケは相手を見つけることができない。

 あいつがいなければ、今回の待ち伏せの意味はなくなるというのに。いったいどこに消えた?

 

(まさか秘宝をもって一人で逃げたってのかい? ……いや、それなら小娘らと一緒にドラゴンで逃げるはず。それにあいつはあの娘らを置いていくようなヤツじゃあない。どこかに隠れたのか? だとしたらどこに……)

 

 と、フーケがルイズの使い魔を見つけようと目を皿にして探していた、そのときだった。

 

 

 

「ここでなにしてるんですか? ミス・ロングビル」

 

 

 

 突然ロングビルの背後から、そのドッピオが姿を現した。

 ギョッとして後ろに振り返るロングビル。その瞬間ドッピオは剣で斬りかかり、彼女が手に持っていた杖は真っ二つにされた。

 そのままドッピオは剣先をロングビルの喉元に突きつける。ドッピオの眼光は鋭く、ほんの一瞬のわずかな動きであっても見抜かれるような気がした。

 少しでも変な動きをすれば、刺す。

 ドッピオの目が、威圧感とともにロングビルにそう訴えかける。

 

「……なにしてたんですか? ロングビル」

「え……あの、何って……ドッピオさんこそ、いったい――」

 

 なにをするんですか? とロングビルが言おうとしてその瞬間。彼女の頭のすぐ真横を、ナイフが通り抜けた。

 目にも止まらぬ速さで投げられたそのナイフは、ロングビルの頬をかすめた後彼方へと吹き飛び、どこかへと消えていった。

 驚愕で目を見開くロングビルに、ドッピオは眉ひとつ動かすことなく彼女へと語り掛ける。

 

「質問してんのは俺だ。答えろよ」

「――ッ!!」

 

 『答えなきゃ殺す』。有無を言わさぬプレッシャーが、そこにはあった。

 背中から冷水を浴びせかけられたように寒気が走り、ロングビルの額に汗が流れる。

 

「な、なにって……私は、生徒たちがフーケのゴーレムに襲われているから、助けようと……」

「ならとっととあそこに出てこればよかったじゃあないか。こんなにも見つかりにくい場所でコソコソ隠れている理由はなんだったんだよ……まぁ隠れると言っても、リゾットのメタリカほどじゃあなかったがな」

「は、はい? え、そ、その……フーケが近くにいたら、見える場所にいたら危ないと……」

「へェーッ、『フーケ』から隠れてたのか。僕には君が『ルイズ達』から隠れているように見えたんだけどなァ~~。そうかい」

 

 ロングビルはゾッとした。

 どれだけ嘘をついても、まるで自分のすべてを見透かしているかのように目の前の青年は話しかけてくるのだ。

 言葉からも、その態度からも見て取れる。間違いなく、この青年はロングビルに猜疑心を抱いていた。

 なんとかこの疑心を晴らそうと、ロングビルは次の言葉を考えながら話を続けた。

 

「その……それは、どういう……」

「いや? ただの独り言みたいなもんだから気にしなくていいよ。じゃあ次の質問。なんで君の杖を斬った途端にゴーレムが崩壊したの?」

 

 だが、もうすでにダメだということがこの瞬間に判明した。

 先ほどまでルイズ達に猛威をふるっていたゴーレムは、彼女の杖が壊れたそのときにただの土くれに戻っていた。

 もはや言い訳は通用しない。そう考えたロングビルはため息を吐くと、その途端に目つきを鋭くした。

 

「なんであたしがフーケだとわかったんだい?」

 

 土くれのフーケ。その正体は、オールド・オスマンの秘書を務めるロングビルだったのだ。

 表の顔こそ優しく親しげで、穏やかそうな印象を受ける女性。しかしその裏は、狙った秘宝は必ず奪う、神出鬼没の怪盗。

 その顔が現れても、ドッピオは表情一つ変えはしない。そんな彼を見てフーケは妖しく笑った。

 

「……俺も見逃してた。だけどよくよく考えてみるとおかしかったんだよ、それも最初から」

「最初から?」

 

 ああ。とドッピオはフーケの言葉に頷き、言葉を続ける。

 

「あんた、現場へやってきたときに言ったよな? 『農民から目撃証言を得た。フーケは学院から馬で4時間かかる森の奥、廃屋に隠れている』って」

「ああ、そうだよ。それのどこが変だっていうんだい?」

「オメー、マヌケかよ。全部が全部おかしいに決まってるじゃねぇか」

 

 ドッピオの発言にフーケは眉をひそめたが、ここで下手に何かしゃべったり動いたりしてもいけないと思い、次のドッピオの言葉を待った。

 

「事件が起こったのは、深夜。今日のちょうど、0時ごろくらいかな? そしてあのとき俺たちやオスマン、あんたが現場へとやってきたのは8時ごろ。この間にある時間は8時間……ちょうど、ここから学院を往復すればギリギリ間に合うってとこだな」

「…………そうだね」

 

 小さな子供でもわかる、算数の問題だ。

 だが、ドッピオはそこに疑問を抱いたのだ。事件が発生してから、ロングビルが宝物庫にまでやってくるまでの時間に。

 

「でもよォ、これっておかしくないか? 往復してギリギリ間に合うんだぞ? 通りすがった農民や一般人なんかに目撃証言を求めるなら、ここに最低でも1時間は加算されるだろ。なのにあんたは往復するだけでここまでやってきたっていう。どう考えても矛盾してるだろーが」

 

 そう、あまりにも短すぎたのだ。

 彼女が持ち帰ってきた目撃証言を得るためには、フーケが潜む森付近までやってくるだけでなく、その道中でも聞き込みをしていなかければならない。なのにそのための時間がスッポリと抜け落ちているのだ。

 これではまるで『最初からフーケを視界に入れたまま追跡していた』としか考えられない。

 だが前者であるというのなら、また矛盾が発生する。相手はプロの盗賊だ、追跡にはすぐに気が付くだろうし、それを自分が潜伏する場所に着くまで放置するとは考えにくい。

 それになにより、ロングビルは『目撃証言を持ち帰ってきた』のであって、『フーケを追跡していた』のではないのだ。

 

 そこから、ドッピオはある考えにたどり着いた。

 ロングビルはフーケを追跡していたのではなく……彼女がフーケの協力者であるか、もしくは……彼女そのものが、フーケなのではないか? と。

 その考えに至った彼は、あえてルイズ達から離れてずっとロングビルを探していたのだ。

 そして、発見した。彼女がゴーレムに向かって杖を振い、ゴーレムを操っていたところを。

 そのときドッピオの疑心は、確信へと変わった。

 

「へぇ。貴族と決闘して勝ったっていうから相当腕が立つとはわかっていたけど、頭もキれるらしいね」

「こんなもんガキでもわかるってんだ。むしろ今まで気づかなかった俺のアホさ加減に、自分でもうんざりしてるよ」

「そんなガキでもわかることに、あんた以外の全員が今の今まで気づかなかったんだ。いいんじゃあないかい、別に」

 

 ニィ、と口を大きく横に広げるフーケ。その表情は邪悪で、まさしく貴族から秘宝を次々と奪う盗賊にふさわしいものだった。

 

「で、あんたはこれからあたしをどうしようってんだい? 殺すのかい? それとも動けなくして捕まえるかい?」

「……さあな。でもお前が『もうどこにも向かうことがない』ようにはするさ。どこにも、な」

「あら、あんたなら普通に殺すとか言いそうなもんなんだけど。話を聞けば、あんたが属してた組織ってかなり過激みたいだしねぇ」

「『ぶっ殺す』なんて言葉はな……ナンパストリートやキャバクラで、殺す気もないのに互いにそうしゃべって慰め合う負け犬どもが使う言葉だ。そんなもんはギャングなら使わねー……といってもまあ……」

 

 ドッピオは剣を握る手に力を込め、さらに切っ先をフーケの喉元に近づける。

 するとフーケも緊張して表情をこわばらせた。

 

「『ぶっ殺した』なら、使ってもいいんだけど、な」

 

 ドッピオの目はまるで感情がなく、どこまでも深い闇が広がっていた。

 その目が、言っている。下手に動かれる前に、始末すると。

 剣を振ることに、フーケの前にいるこの男は、一切躊躇いを見せないだろう。

 今のドッピオの構えには、まるで隙がない。どうやっても反撃をする前に、フーケは首を撥ね飛ばされるだろう。

 逃げるのは論外。後ろを振り向いた途端に背中を斬られて終わりだ。

 百歩譲って距離を取ることができたところで、投げナイフによる追撃が待っている。万事休すだ。

 

「…………そう、かい…………今回はたくさん仕送り、できると思ったんだけどね…………」

 

 もはやフーケに、この場を凌ぐ方法はなかった。

 このときフーケは観念していた。これで自分の未来は、もうなくなったと。

 脳裏に浮かぶのは、自分のたった一人の肉親。

 人とは少し違う上に、ドジで天然。住んでいるところから外へ出たこともないから世間知らずの、でも優しく暖かい心をした少女の姿。

 それが最後の自分の想像になるのだと、フーケは覚悟していた。

 

 

 だが運命は。彼女を窮地から救った。

 これは偶然だった。誰にもこんなことが起こるとは予想もできなかった。

 ドッピオは、凄腕の盗賊であるフーケを相手に、確実に『勝利への過程』を歩んでいた。その歩む先は一寸も狂っておらず、間違いなく彼は光り輝く黄金の道を突き進んでいたのだ。

 彼は何も悪くはない。彼は何も間違ってはいない。

 あるとするならそれは……『時間』としか言いようがない……

 それだけが……彼のすべてを、変えてしまった。

 ドッピオは再び……自らの運命を、呪った。

 

 

 

 

 

「とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん」

 

 

 

 

 

「――ッ!?」

「ッ!!」

 

 ドッピオがまさに彼女を斬り捨てようとしたその瞬間。電話が、鳴った。

 二人の表情が、驚愕に染まる。

 今まで一瞬たりともフーケから目を離さなかったドッピオはこのとき、わずかに注意を逸らしてしまった。

 

 

 ズ ド ォ ッ !!

 

 

 ドッピオの身体に、衝撃が走る。

 ドッピオは目を点にして、フーケの顔を見た。

 本人ですら何が起こったのかわからないって言いたげな表情を浮かべている……その手には、ドッピオが斬ったものとは違う杖が、しっかりと握られていた。

 ……フーケが持っている杖は、一本だけではなかったのだ。

 

 杖の指し示す場所へと、ドッピオは視線をうつす。

 そこには、地面から飛び出るような形で生えた、ゴーレムの腕があった。

 大きさは、人と同じほど。それも、一本だけ。

 

 それはドッピオの方へと伸びていて……その先端は……彼の胸を、貫いていた。

 

「……………………………………………………」

 

 ゆっくりと、土くれの腕は崩れていく。

 外側からはがれていくようにその腕は細くなっていき……やがてすべてがなくなると……ドッピオは、倒れた。

 

 警戒してフーケは近づき、相手が動かないことを確認するとドッピオから『矢』のペンダントを奪い、そこから走り去っていく。

 

 残されたドッピオを中心に……土は赤黒い色に染め上げられていった。

 




ようこそ……『二次創作の世界』へ……

これ、序盤に入れればよかったと今では後悔してる。クソッ
修正すればいいじゃんと思ったそこのあなた! それはなんか私のプライドが許さんからいかんのだ!!

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