ゼロの奇妙な腹心   作:Neverleave

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オスマンから衝撃の事実を知らされるドッピオ。
彼はボスが自分に残したものがなんなのかを知るため、フーケ討伐に乗り出す!

いったいどんな運命が彼を待ち受けているのか!?

それはCMのあと、明かされる! 60秒後をお楽し(キング・クリムゾンッ!!)……あれ? もう時間になったの?

あ、はい。すいませェん。どうぞ


15話

 フーケ討伐のために学院から出発したルイズ達。

 移動手段には馬車を使うことでフーケがいると思しき廃屋まで近づき、途中から徒歩で行くとのことだ。

 ルイズ達は馬車に揺られて各々時間を潰している。なにせ馬で片道4時間はかかる場所なのだし、あちらから道中攻撃を仕掛けてくるということもあまり考えられない。

 そのため、全員が暇を持て余していた。

 

 そんな中で、ドッピオは早く目的地に到達しないかと焦らずにはいられなかった。

 出発の直前。彼は、この世界で自分の世界……そして、彼のボスとの唯一のつながりを見つけたのだ。

 いや、『見つけた』というよりは、『その存在を知った』と言った方が正しいだろう。

 盗賊、土くれのフーケが盗み出した『約束のペンダント』……それは、ドッピオのボスがこの地へと訪れたとき、ボスがオスマンへと託したものだったのだ。

 

 

 ――約30年前。

 森を散策していた若き日のオスマンは、その日不運なことにワイバーンと遭遇してしまったのだという。

 まだその時は未熟だったオスマンはその最中に杖を落としてしまい絶体絶命の危機に陥ったという。

 彼の命運もここまでかと思われた、そのとき。どこからか突然人が現れた。

 その人物はフードを深くかぶっていたがため顔は確認できなかったが、杖を持たないことからメイジでないことはわかった。メイジでもないただの人間が、怒れるワイバーンと戦うなどというのは正気の沙汰ではない。

 オスマンは急いでその場から逃げろと叫んだが、相手は聞こえていないのかワイバーンと向き合ったまま身動き一つしない。

 するとその人物は急にワイバーンに向かって走り、何かの呪文を叫んだかと思うとワイバーンの頭が粉々に吹き飛んだという(ドッピオはここまで聞いて、それが『キング・クリムゾン』による破壊だと推測した)。

 頭がつぶれたワイバーンはそのまま力なく倒れ、危機が去ったと思ったオスマンはそのフードの人物に近寄ろうとした。

 しかし。

 

――こちらへ寄るな! まだ終わっていない!!――

 

フードの人物がそう叫ぶと、頭がなくなり死んだはずのワイバーンの死骸は突如として動き出したのだ。

ワイバーンは腕を大きくあげると、それをオスマンのところへと振り下ろそうとする。

今度こそ、オスマンは死を覚悟した。

だが、またも彼は救われた。直後にフードの人物はオスマンを押しのけ……オスマンの代わりに、ワイバーンの最後の一撃を受けたのだ。

もうワイバーンが動かないことを確認すると、オスマンはそのフードの人物の安否を確認すべくそこへ駆け寄った。

そのとき彼が見たのは……もはや人としての原型をとどめていなかった、恩人の姿だった。

あのとき軽率に動いてしまったことを、今でもオスマンは思い出して悔やむという。

恩人は息も絶え絶えだったが、まだ生きているということだけはわかった。だが、もはやその傷は深すぎて、もう治療しても助からないほどのものだったらしい。

せめて感謝の言葉を述べ、その恩人の最後を看取ろうとしたオスマンは、その人物にあるものを託したいと願い出た。

それが、『約束のペンダント』。これを、自分の一番の側近であった、『ヴィネガー・ドッピオ』という青年に渡してほしいとオスマンに懇願したのだ。

フードの人物によれば、その青年はこの世界の住人ではなく、どこか別の世界で生きる人間なのだという。突拍子もない話だったが、死にゆくその者の言葉が嘘だらけのものだとはどうしても思えなかった。

その話を信じるとともに、オスマンはその人物に訊ねかける。どうして異世界の住人である自分のようなものに、そんな大事なものを託すのか、と。

フードの人物は、その問いにこう答えた。

 

――運命を、感じたからだ……私のかわいい側近が、ここへとやってくる、未来の運命を――

 

それを聞くと、オスマンはもはや何も言わずにそのペンダントを受け取った。

 涙があふれる目をぬぐい、再びフードの人物へと目をむけたとき……すでに、フードの人物はどこかへと消えてしまっていた。

 驚愕し、オスマンは辺り一帯を探し回ったが、人っ子一人見つからずついに断念したという。

 夢かとも思ったが、彼の目の前にあるワイバーンの首なし死体や、手元に置かれているペンダントの存在がそれを否定した。

 

 そして……彼はその後メイジとして大きく成長し、オールド・オスマンと呼ばれ周囲から尊敬されるほどの者にまでなった。

 30年もの月日が経った今でも、オスマンはその恩を忘れず、約束を守るためにそのペンダントを学院の宝物庫に納めていたのだ。

 

(――いったい、どういうことなんだ?)

 

 その話を聞いたとき、ドッピオは混乱してしまった。

 この世界にボスがやってきていたのだと聞いたときは驚愕したが、彼が瀕死の重傷を負ったということ自体を信じることができなかったのだ。

 一番の側近であったドッピオは、ブチャラティチームを除けばキング・クリムゾンの能力を知っている唯一の人間だ。

 キング・クリムゾンの能力、『時間を吹き飛ばす』というその絶大な力を使えば、ボスは自らが傷つくこともなくオスマンを助けることができたはずなのだ。

 現にワイバーンを迎撃する際にも、キング・クリムゾンのヴィジョンを行使して頭を叩きつぶしているのだから、スタンドが使えなくなったとは考えられない。

 それに、そんな重傷を負ったボスは忽然と姿を消したという。

 キング・クリムゾンを使えばそうすることもできなくはないが、それこそおかしな話だ。

どうしてもっと早く使わなかったのかという疑問もあるし、それよりも一刻も早く治療をしなければならないとわかる怪我だったのに、それすらしてもらわずに姿を消すというのも変だ。

 行動がちぐはぐすぎて、矛盾に満ちている。

 

 そして何よりも……『もう助かる見込みもないほどの怪我を負った30年前の人間』が、ドッピオに電話をかけてきたという事実こそが、最大の謎だった。

 ドッピオにかかってきた、あの電話。あれはまさしくボスからやってきた電話だ。

 なのにオスマンから話を聞けば、彼は30年前に死んでいるのだという。

 もはや彼には、わけがわからなかった。

 いったいボスに何が起こったのか。ボスは生きているのか、それとも――死んでいるのか。

 

 だが、どれだけ考えたところでドッピオは答えにたどり着くことはできない。それよりもまず、ドッピオはフーケに奪われたという『約束のペンダント』を回収すべきだという結論に達して、こうして行動しているのである。

 

(……ボス……)

 

 この世界へとやってきて、意図せぬところから見つかった、ボスとのつながり。

 ドッピオは未だかつてないほどに、燃えていた。

 そしてそんな彼を、主人であるルイズは心配そうに見つめている。

 

(ドッピオ……)

 

 ルイズは、あのときのドッピオの豹変ぶりが忘れられなかった。

 イタリア。ヴェネツィア。パッショーネ。

 ルイズを含め誰も聞いたことがない、これら三つの単語を続けざまに唱えただけで、ドッピオは激昂した。

 それほどまでにドッピオにとって重大な意味が、その単語にはあるのだ。

 そして……何という数奇な運命であることか、土くれのフーケによって盗まれてしまった秘宝は、ドッピオのかつてのボスがオスマンに託したものなのだという。

 それからのドッピオの任務への意気込みぶりは、尋常ではなかった。

 ギーシュに青銅の剣やら短剣やらを錬金してもらい、装備を確認すると誰とも何もしゃべらなくなり、一人黙々とフーケ討伐への準備をして真っ先に馬車へ乗り込んだ。

 今こそドッピオは静かに席に座って目的地に着くまで待っているが、当初の彼の全身からは恐ろしいほどの殺気が出ていて、思わず全員彼から距離を取ったものだ。

 ギーシュのときのドッピオも鬼気迫るものがあったが、今回はそんなものとは比べ物にならない。段違いだ。

 

 だからこそ、ルイズは今のドッピオが気にかかった。

 あれほどまでに殺意が立ち込めた自分の使い魔というものを、ルイズは見たことがない。

 彼女はその使い魔も恐ろしかったが……今の彼は、『約束のペンダント』を取り戻すという『結果』ばかり求めているというのが、もっと心配だ。

 気が急いて大変なことにならなければいいが……

 

「なんというか、こうも刺激がないと眠くなってきちゃうわね」

 

 と、ルイズがそんなことを考えている間、キュルケが退屈そうにふとそんなことをつぶやいた。

 ドッピオからすればこのように移動している最中に攻撃されることも日常茶飯事であったことから警戒を解きはしないのだが、一部を除いた他の者はどうやらそうでないらしい。

 ギーシュもキュルケと同じく景色を見てぼーっとしていたし、タバサは持参した本を読みふけっている。

 本当に、まったくすることがないのだ。

 何かしら退屈しのぎになりそうなことはないかと、キュルケは馬車の手綱を引いているロングビルに話しかけてみることにした。

 

「ミス・ロングビル。どうして手綱なんて自分で引いていらっしゃるのかしら? そんなもの御者に任せておけばよろしいのに」

「いえ、私は貴族の名を捨てた者なのですから、よいのですよ」

 

 そうした返答には、訊ねたキュルケはもちろんルイズ達も驚愕を隠せなかった。

 確か、彼女は学院の最高権力者たるオールド・オスマンの秘書を任されているはずだ。そのためここにいた全員は彼女が名門から出たメイジであるとばかり思っていたのだが、本人は貴族の名を捨てたと言っている。

 

「え、でも……それなら、オールド・オスマンの秘書など……」

「彼は、平民とか貴族とか、そういう身分をあまり気になさらない方なのです。街の居酒屋なんかで働いていた私が気にかかり、彼に魔法が使えるというとこの話を持ち掛けてくれたのですよ、あの方は……こんな私にも、高い給料を払ってくださいますし」

 

 ロングビルは、昔を顧みるように遠い目をしていた。

 目が希望の光で輝いていたことから、そのころの彼女にとってはとてもよい過去なのだろう。

 ルイズ達は、オスマンの寛大さに感服した。

 興味が出てきたキュルケは、身を乗り出してロングビルに話しかけた。

 

「もしよろしかったらいったい何があったのかを教えてくださらないかしら、ミス・ロングビル」

 

 一息でそこまで言うと、キュルケは好奇心にあふれた目でロングビルを見つめた。

 それを肩越しに見たロングビルはというと、苦々しげに微笑んで言葉を濁らせる。しかしキュルケはどうも気になってしまうようで、再度彼女に懇願した。

 

「気になってしょうがないじゃないですか。教えてくださいよ」

 

 本人に悪気はないのかもしれないが、どうにもそれがしつこい。

 その様子を見ていたルイズが、無礼なキュルケに向かって一言言ってやろうと思ったそのとき。

 ルイズよりも早く、キュルケを戒める者が現れた。

 

「キュルケ。本人が言いたくないと思っていることを無理やりに聞くのは、このトリステインにおいては恥ずべきことなんだ。控えた方がいいよ」

 

 なんと、それはギーシュだった。

 その場にいた全員が、意外そうな目でギーシュに注目する。

本人にしてみれば別段おかしなことを言ったつもりはなかったのだが、そうして視線を集めてしまうとどうにもギーシュは釈然としないところがあって、顔を逸らした。

 少しの間キョトンとしていたキュルケだったが、不服そうにギーシュに愚痴を漏らした。

 

「なによ、暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃない」

「それでも、礼儀というものは重んじるべきだよ。他者の尊厳を乏しめたり傷つけるようなことはお互いにしないようにするのがマナーというものだ。君の国でだって、そうだろう?」

 

 薔薇を口元にあてながら、ギーシュはキュルケに言って聞かせる。

 それでもなお、キュルケは気になってロングビルの方をチラチラと見ては、『でも……』とつぶやく。

 

「僕の元いた場所でも同じようなことをしたら、首が飛ぶよキュルケ」

 

 すると今度は、ドッピオまでがキュルケを説得するように語り掛けてきたのだ。

 今まで一言もしゃべらなかったドッピオに目を丸くするキュルケだったが、ドッピオは話を続ける。

 

「言っとくけどこれは冗談じゃなくて、本当のことね。僕と同じ組織にいたヤツは、そのタブーを犯して輪切りにされた」

 

 ヤツとは、かつてパッショーネの暗殺チームに属していた人間、ソルベのことである。

ソルベは、決して触れてはならない『自分たちのボスの正体』について、同チームの親友であるジェラートとともに調査してしまった。

それを知られたソルベとジェラートはボスによって抹殺され、ソルベは輪切りにされた挙句ホルマリン漬けになって暗殺チームのアジトにご丁寧に郵送されたのだ。

ドッピオの……ギャングの世界でも、個人の知られたくないことを無理に知るということは、『反逆』の意味と判断される。

そんなことをした暁には、絶対に免れない死が訪れるのだ。ギャングの一員である彼にとって、これくらいのことは日常的に聞く話だった。

 

なんでもないことのようにドッピオはボソリとつぶやくが、これを聞いた途端にルイズとキュルケ、ギーシュはサッと顔を青ざめさせる。

彼と違って、この三人はそこまで残虐な行為というものに耐性がないらしい。

 ここまで正論、最後には脅しに近いことを言われてはぐうの音も出なくなり、キュルケはしぶしぶ自分の席に座りなおした。

 

「……」

 

 それを見ると、ドッピオはチラとロングビルの方を見る。

 ほっとため息をついていることから、知られたくないことを言わずに済んでよかったと安堵しているらしかった。

 それだけ確認すると次にドッピオはギーシュを見る。ギーシュも彼の視線に気が付いたようで、なんだろうと首をひねらせた。

 

「……なんだい?」

「いや、君が礼儀とかを言うのかって、少し意外だった」

「……君ってホントになんというか、人が傷つくようなことを平然と言うね」

「そりゃあ悪かったよ。でも以前なら、特に何も言わず放置するんじゃあないかなって思ったんだ。成長したな、って」

 

 何気なく、ドッピオはギーシュにそんなことを言った。

 以前の彼ならば礼儀を知っていながらも、もしかしたらキュルケに賛同するか、もしくはそのまま彼女を放置していたかもしれない。

 かつての自分を振り返ると、確かにそうだったかもしれないとギーシュは改めて思った。

 あの日……ギーシュはドッピオとの決闘の後に、成長したのだ。

 彼がなぜあの決闘で負けたのか。そして『侮辱』を受ける羽目になったのか。

 そのすべてが『侮辱』に値する行為を平然と行ってきたからだと、ギーシュは学習した。

 これからは、『敬意を払う』のだと。『侮辱』の正反対のことをすれば、すべてがうまくいくのだと、彼は学んだのだ。

 彼にとって先の行動は、彼が進むと決めた道の、たった一歩だ。

 彼の目指す栄光の道をわずかに進んだだけにすぎないのだが……こんな反応をされては、なんというか、懐がむずがゆい。

 褒められてるのか、けなされてるのかわからない。おそらく前者なのだろうが。

 

「君に褒められたって嬉しくないよ」

 

 いつぞや、話し相手から言われたその言葉を、ギーシュは微笑しながら言い返す。

 するとドッピオもフッと小さく笑った。

 ほんの少しだけ。その場の雰囲気が和んだような気がした。

 

 

 

「着きました。ここが、農民の話から聞いた場所です」

 

 一行は馬車から降りると、ロングビルに導かれるまま森へと入っていく。

 ドッピオは入口付近から背負っている剣に手をかけ、周囲を警戒した。

 このように見通しが悪く、隠れられるところが多い場所では奇襲と罠をまず疑わなければならない。

 エピタフがない今、ドッピオはいつそれらが襲い掛かってくるのかわからないのだ。注意はしすぎるに越したことはない。

 その様子を見た他の者もそれを見習い、それぞれが杖を手にかけていつでも迎撃ができるように準備をする。

 慎重な足取りで、森の奥へと進むルイズ達。

 そんな状態が続き、かなり前進したそのとき。彼らは、しばらく人に使われていないであろう廃屋を発見した。

 

「あれが、話で聞いた場所です」

 

 ロングビルは廃屋を指さす。

 確かにあそこなら人もやってこないだろうし、姿を隠すにはうってつけだろう。

 目的地までようやく到着したところで……ドッピオたちは、次にどうすべきか額を合わせて話し合った。

 

「十中八九、あそこにはフーケがいるでしょう。そして秘宝も」

「奇襲をこちらから仕掛けてはどうかしら?」

「いや、こういう時こそヤツは襲撃を警戒しているはず。罠を仕掛けているか、もしくはどこかに隠れて僕らを一網打尽にするかもしれない。巨大なゴーレムをつくるフーケだ、廃屋ごと僕らを粉々にするくらいワケないだろう」

「じゃあどうするの? このまま何もしないってわけにもいかないし……ぼやぼやしてたら逃げちゃうわ」

 

 ああでもないこうでもないと、頭をひねって策を練る6人。

 そのうち、今まで沈黙を貫いていたタバサが口を開いた。

 

「一人が偵察。一人が罠の詮索。残りは待機」

 

 その提案に、全員が賛同した。

 では、誰が偵察、詮索に向かうかということでロングビルは希望を訊ねる。するとギーシュは率先して名乗り出た。

 

「では、僕が偵察をいたしましょう……ヴェルダンデ!」

 

 ギーシュはどこかへと向かって、何かの名前を呼ぶ。

 すると何かが地面を掘り進んでいるような音が聞こえてきて、次第にそれは大きくなる。

 やがて、ルイズ達のいる場所の近くで土が盛り上がり、そこから巨大なモグラのようなものが顔を覗かせた。

 

「ああ、僕の愛しいヴェルダンデ! 相変わらず君はとてもかわいらしいよ!」

 

 それを見るとギーシュはそのモグラへと近寄り、慈しむように頭をそっと撫でた。

 ルイズは納得がいったように何度も頷く。

 

「なるほど。それがあんたの使い魔ってわけね」

「そう、これが僕の使い魔……ジャイアントモールのヴェルダンデさ。僕がある程度あの廃屋に近づくとともに、ヴェルダンデは地下からあの中の様子を見る。それに僕にはワルキューレがあるんだ、扉を開けたり詮索をするならうってつけだよ」

 

 フーケはあらゆる方向からの攻撃に注意しているかもしれないが、もしかしたら床からの襲撃というものは意識から外れているかもしれない。

 ギーシュのヴェルダンデならばそこからの侵入も可能であるし、中の様子を見ることもできるだろう。

 さらに、ワルキューレを先行させればたとえ罠や奇襲にあったとしてもそれらが身代りになってくれる。偵察をさせるには一番の適任だ。

 

「では偵察は彼に任せるとして……付近の詮索は、私が行きましょう」

 

 と、ロングビルは立候補して詮索の役目を買って出る。それについては誰も反対をする者はなく、残るルイズ、キュルケ、タバサ、ドッピオは待機することが自動的に決まった。

 こうして作戦は決定し、あとは決行をするだけとなった。

 ギーシュはワルキューレをつくり、ヴェルダンデに命令をする。

 ロングビルもそれとともに詮索へと向かい、これから作戦が開始するという、そのときだった。

 

 

 

 

「とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん」

 

 

 

 

 再び、ドッピオが奇声を発したのである。

 ルイズとキュルケがハッとしたように彼に注意を向け、何も知らないギーシュとタバサは驚愕の目でドッピオを見る。

 だが、誰よりも一番驚いているのはドッピオ本人だった。

 

(こんなときに……電話、だと……!?)

 

 つい昨晩、電話がかかってきたばかりだというのに、予期せぬタイミングで電話がなるとは当のドッピオも考えていなかったのだ。

 今までなかったはずの電話が、こうして頻繁にかかってきているのはどういうことなのだ、とドッピオは混乱する。

 

 

「とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん」

 

 

 二度目のコールを、ドッピオは発した。

 いったい何事かと、事情を知らぬギーシュとタバサは目をあわせ、ルイズとキュルケは再び発生したドッピオの奇行にギョッとする。

 いったいなぜ今なのか。どうしてこうも電話がかかってくるのか。

 ドッピオは高速で頭を回転させ、ある考えにたどり着く。

 

 そして、ドッピオは呆気にとられる4人を置いて、一目散に廃屋へと向かって駆けた。

 

「ド、ドッピオ!?」

「ちょっと、危ないわよ!?」

「危険」

「待ちたまえ、ドッピオ!!」

 

 制止しようとするルイズたちだったが、それよりも早くドッピオは廃屋へとたどり着き、扉を蹴破って中へと侵入する。

 彼は、焦っていた。

 もし彼の考えが正しいのならば、一歩間違えばとんでもないことになりかねないからだ。

 

(まさか……ボスが残したものってーのは、ケータイ電話か!?)

 

 ドッピオは『約束のペンダント』という名前だけを聞いているが、実際はどのような形をしているのか全く知らない。

 だが、もし彼の考えが正しかったとしたら?

 ケータイのストラップには、首にかけて持ち歩くことができるようにする種類のものだって存在する。ここの世界の者にとってケータイというものは様々な種類の金属で構成された未知の物質であるし、そうならばペンダントと間違えてもおかしくない。

 

(だから……だから、フーケがペンダントを奪ってから、電話がこうしてやってきてんのか!?)

 

 そういえば、最初の電話がやってきたときもフーケが秘宝を持ち出して、ドッピオの近くに秘宝があるときだった。

 今も、秘宝を所持したフーケの付近に、ドッピオはいる。

 そう考えると、何もかもつじつまが合うのだ。

 ……ただ一点、『30年前のケータイならばバッテリー切れでもう使えないはず』という疑問だけには、このときドッピオは気づかなかったが。

 状況を推理して納得がいくドッピオだったが……それとともに、彼の心の中には憔悴の念が込み上げてきた。

 

 彼の仮説が正しいとするならば。

 今、フーケは電話のかかってきたケータイを所持しているということになる。

 操作方法こそフーケは全くわからないだろうが、何かのはずみで電話がつながってしまうことだってあり得るのだ。

 そうなってしまえば、どうなる?

 正体が知られてしまうような危険に、ボスを晒してしまうのだ。

 それだけは絶対に避けなければならないッ!!

 

 ドッピオが入ってみると、やはり中は荒れていて、とても人が使ったようには見えなかった。

 歩くだけでもほこりが立ち込めるし、蜘蛛の巣やら気味の悪い虫やらがあちこちにいて、普段の彼なら入ることすら躊躇するような場所だ。

 それでも今の彼は、迷うことなく足を踏み入れフーケを探す。

 

「どこだフーケ!? どこにいやがる!?」

 

 ドッピオは辺り一面を見渡すが、人影一つ見当たらない。

 焦るドッピオは中をやたらめったらに詮索する。するとチェストの中に黒い箱を見つけた。

 それはこんな廃屋の中でもほこりをかぶっておらず、まるでつい最近になってここに置かれましたって感じのものだった。

 それが罠であるとも考えず、ドッピオは急いでその箱を開ける。

 

 そして……ドッピオは中に入っていたものを見て、ド肝を抜かれた。

 

 それはケータイではなかったが、ドッピオ自身もよく知るものだった。

 存在自体は、世間一般には知られているものではない。だが、スタンド使いであるものならば誰もが知るものだ。

 形状こそ異なるものの、それは間違いなくドッピオの思い浮かべている物と同じだった。

 ゆっくりと手に取り、ドッピオはそれを見つめる。

 

 

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …………

 

 

 ……どういうことだ。『約束のペンダント』はケータイじゃあなかったのか。

 いや、ケータイでなかったとしても、どうしてこんなものがここにある。

 どうしてボスは……こんなものを、自分によこそうとしていたんだ?

 

「……なんで……」

 

 ドッピオは、思わずそんな言葉をつぶやいた。

 つぶやかずには、いられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで、こんなとこに……『矢』があるんだ……!?」

 

 

 

 

 

 

 




な、なんだようみんな!
前回あとがきにアンケート載せたのに、返事とかくれよぅ!

もう勝手に決めちゃうぞ! 作者の判断で決めちゃうん『あんたはだぁーっとれい!』タコスッ!!

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