ゼロの奇妙な腹心   作:Neverleave

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オスマンと、コルベールの会話です。



10話

「ふむぅ……これは、どうしたものかの」

「まさか、こんなことになってしまうとは……私も、予想外でした」

 トリステイン魔法学院の学院長室。ここで一人の老人とコルベールが、互いを見やりながら嘆息をついていた。

「ドットとはいえ、ミスタ・グラモンの魔法は侮れんものじゃったというのに……あの使い魔の少年、見事に勝ちよったわ」

「しかもかなり追いつめられた状況であったというのに、逆転してしまいました……彼の身体能力は、私も驚かされるばかりです」

 老人の名は、オールド・オスマン。

 このトリステイン魔法学院の長にして、何百年もの年月を生きたと言われている、偉大なるメイジだ。

 

 

 そんな人物の元へと、一介の教師であるコルベールが数刻前に訪れていたのは、ある重大なことが発生したことを報告するためだった。

 このときのコルベールは、まるで自らの研究で新しい発見でもしたときのように興奮しきっていて、オスマンもいったい何事かと首をかしげたほどだ。

 だが……話を聞けば、それがどれほどまでに大きなことであるか、オスマンもすぐに理解できた。

 

「さて、まずは話を一から戻ってまとめてみるとしよう……君は、この新学期に2年生となった生徒……ミス・ヴァリエールの使い魔に記されたルーンのことについて調べていた。しかしどの文献を調べてみても一向にそれはわからなかった」

「ええ、そうです」

 

 オスマンがコルベールに訊ねかけると、コルベールは頷いて肯定する。

「そして、君は図書室で調べものをしている最中、ふと何気なく開いてみた始祖ブリミルの使い魔についての文献に……その使い魔に刻まれたルーンと全く同じものを見つけた、と」

「まったくその通りです。これが、彼のルーン。そしてこれが、その始祖ブリミルのルーンです」

 

 と、コルベールはスケッチしていたドッピオのルーンと、ずいぶんと古びた本のあるページに記されたルーンとを並べた。

「……なんということよのぅ……ガンダールヴ、か」

「そうです! 彼の左手に刻まれたルーンは、あの始祖ブリミルが召喚したとされる伝説の戦士、ガンダールヴのルーンと全く同じものだったのです!!」

 

 熱のこもった声で、まるで演説でもしているかのようにコルベールはオスマンに訴えかけた。

 普段の温和な雰囲気のコルベールらしからぬ行動であるが、これほどまでに熱くなってしまうというのも無理はなかった。

 ガンダールヴ。それは、虚無の系統の使い手だったという始祖ブリミルの使い魔が一人であり、ありとあらゆる武器を使いこなす戦士だったという。

 その容姿など、詳しいことについてはよくわかっていないのだが……主人が呪文を詠唱するとき、彼女を守る存在だったという言い伝えがあった。

 始祖ブリミルの魔法は強大な効果を発揮する反面、詠唱が長いという欠点があった。

呪文を詠唱しているときのメイジは、みな無力と化す。その主人をあらゆる危険から守る存在……それこそが、ガンダールヴだったという。

その強さはまさに鬼神の如し。一人で千人の軍隊を蹴散らし、並のメイジでは全く歯が立たないほどの力を持っていたという。

 

 そんな伝説と呼ばれる存在が。彼らの目の前に、再び姿を現したというのだ。

 そんなことがあれば、驚愕しない方がおかしいだろう。

 

「……伝説の存在が、まさかこの現代に復活するとはのぅ……しかし、あんなものを見てしまっては、信じるしかないじゃろうな……」

 オスマンは、難しそうな顔をして唸った。

 彼とてコルベールの言うことを信じていないというわけではない。こんなにも大きな証拠があるうえ……オスマンは見てしまったのだ。

 彼らの行う決闘の、一部始終を。

 

「まさか決闘などを行うことになるとはの。しかも聞けば、かなり無茶なことをしよったらしいし……血の気が多いというか、なんというべきか……しかもあのあと、ミス・ヴァリエールの使い魔はグラモンの息子をタコ殴りにしよったし」

「い、いや、まぁそれは……あったとき、むしろ温和な人物だと思ったのですが……」

 

 オスマンの秘書、ミス・ロングビルから『生徒が決闘を行っている』ということと、『戦うのはギーシュと、ルイズの使い魔である』という報告を受けた時は、それこそ月までぶっ飛ぶかというほどの衝撃を受けたものだ。

 オスマンとコルベールは、壁にかかった鏡を一瞥する。

 そこにある鏡から、二人はギーシュとドッピオの決闘の様子を見ていたわけだが……それで、彼らは目撃することとなったのである。

 ルイズの使い魔、ドッピオの驚異的な身体能力を……もとい、ドッピオの常識を逸した凶暴性を。

 

 もう戦う意思すらなくしていたギーシュを、容赦なくドッピオが殴りつけたのを見たときはさすがのオスマンも肝を冷やしたものだ。

 もっとも、彼の大人しい一面を目撃しているコルベールはもっと驚愕したようだったが。

 

 会話が途切れ、重い沈黙が学院長室に漂う。

 しばらくその部屋は静かなままだったが、コルベールが口を開くことでその静寂は終わることとなる。

 

「……これは王室に報告した方がよろしいのでしょうか? あれほどの戦いをやってのけた彼がガンダールヴであるということは間違いありません。ならば……」

「ならぬ」

 

 コルベールの言葉を聞くや否や、オスマンはすぐにその提案を頭から否定した。

 コルベールは目を見開き、何かをオスマンに言いたげに口を動かした。だがそれよりも早く、オスマンが言葉を放った。

 

「今のこのご時世、腕の立つ存在というものはすぐに戦場へと駆り出されるものじゃ。王室にこのことが知られてみぃ、ヤツらは喜んで彼を戦線へ送り込むぞ。ミス・ヴァリエールとともに」

「……!!」

 

 コルベールは、息を呑んだ。

まだ成人にすらなっていない生徒が、戦へと赴くように命令される。

それがいかに残酷なことか。コルベールは、容易に想像できる。

……あんなにも残酷で無慈悲な場所に……生徒が勅命を受けて、放り込まれる?

考えただけで、胸がムカムカとした。

 

「それだけではない。もしこれがアカデミーの連中に知られれば、問答無用で彼らはミス・ヴァリエールから彼を奪うぞ。そうなれば彼は身体のあちこちを調べつくされる。それこそ解体でもされてのぅ……二度と彼女の元へは戻れん……」

「……わかりました。このことは、二人の秘密、ということですね?」

「うむ。しっかり頼むぞ、ミスタ・コルベール」

 

 はい、とコルベールは返事をしながら頷くと、一礼をして学院長室をあとにした。

 再びオスマンの部屋に静寂が訪れる。

 疲れたようにオスマンは椅子の背もたれに体を預け、物思いにふける。

 

「…………」

 

 オスマンは、ふと気になることあった。

 鏡から覗いてみた、あのルイズの使い魔。あの顔には、どこか見おぼえがあった。

 なぜだろう。あんな青年と、自分は会った記憶がない。

 だいぶ記憶がボケてきているという可能性もあるかもしれないが、それでもあんなにもインパクトがデカい人物ならばそうそう忘れることはないだろう。

 なのになぜ……こんなにも懐かしい気分になるのだ?

 

(いや……『会ったことがことがある』というよりは……なんというか、『似てる人物がいる』といった方がいいのかのぅ、この感覚は……?)

 

 

 ――この、ペンダントを……私の一番の側近に、渡してくれないか……?――

 

 

(……まさか、のう)

 

 オスマンは、ばかばかしいと思って自分の思いついた人物を否定した。

 その違和感の正体はわからないまま……考えてもしょうがないと思ったオスマンは、溜まっている仕事に手を付け始めることにした。

 




こいつはくせェ―――――――ッ!! 『駄作』の臭いがプンプンするぜッ!!

やめてくださいホントストレートにそんなこと言わないでください。

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