ハートの一船員   作:葛篭藤

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第19話 反撃の狼煙

「……セ…………て、チトセ……」

 

 すぐ近くで俺を呼ぶ声がする。

 その声につられるようにして徐々に意識が浮上していく。すると、同時に体の痛みと頭痛も戻ってきた。

 気だるさを感じながらも気合いで瞼を持ち上げると、まばゆい光が割り込んできた。かと思うと、すぐさま俺の上に影が落ちる。逆光に目が慣れると、それが俺を覗き込むリーゼの影であることがわかった。

 黒い双眸が間近で俺を見下ろしており、唇はなにか言いたげに震えていた。

 

「リーゼ……」

 

 痛みでぼんやりする頭を抱えつつも彼女の名前を呼ぶと、彼女の表情が安堵で緩むのがわかった。それは少し、泣きそうな顔にも見えた。その様子を見て、俺がまたリーゼに心配をかけてしまったことを知った。

 リーゼはごすっと俺の胸目がけて頭突きを落とす(地味に結構痛い)と、そのままぐりぐりとおでこを押しつけてきた。えーと、これは「心配かけさせるな」っていう意味合いで解釈すればいいのか?

 とりあえず頭を撫でようとしたのだが、腕ごと胴体を締め上げる何かに阻まれてそれは叶わなかった。ぎしっと軋む固くて冷たい……鎖の感覚。

 

「おっ、チトセ、目ェ覚めたのか!」

 

 明るい声がリーゼの向こうから聞こえてくる。視線を向けると、にっこり笑顔のルフィがいた。鎖で縛られた姿で。

 ルフィだけじゃない、ロビンとフランキー、海軍G-5の人たち、そして船長までもがいる。もれなく鎖でぐるぐる巻き。

 そこで俺はようやく自分の置かれている状況を理解し始めた。

 上手く力の入らない体をなんとか起き上がらせると、俺たちを取り囲む金網が目に入った。その向こうに見覚えのある内装の部屋が見える。シーザーの研究室だ。

 ということは、みんな奴に捕まってしまったということなのだろう。

 

「シュロロロ……いい眺めだな」

 

 シーザーは上機嫌に檻の中を覗き見て言う。リーゼが鋭い目つきで睨み返しても、にやけた面はそのままだ。それどころか、シーザーはリーゼの目の前にしゃがみこんで直接笑みを返した。

 

「感謝してくれてもいいんだぞ? 一緒にあの世に行けるように、お前の大事なチトセをわざわざ連れてきてやったんだからな!」

 

 うわァ……。なんて鬱陶しい物言い、しかも子供相手に。

 その小物感溢れる言動に俺は辟易したが、リーゼは黙ってやり過ごすことができないくらいには頭に来たらしい。すっくと立ち上がると、目の前の金網を思い切り蹴りつけた。

 

「黙れ、クズ」

 

 そう言って、金網越しにシーザーに眼たれる。それはもう、歴戦のヤンキーも真っ青の迫力だ。リーゼはたまにワイルドすぎて……ちょっと心配です。年頃の女の子が”クズ”って……。

 だが、檻に捕まっているリーゼが凄もうがシーザーにはなんの脅威でもないようで、奴はそのリーゼの態度すら面白がるように笑みを深くした。

 

「そんな態度をとっていいのか? んー?」

 

 鬱陶しさを増すシーザーの態度だったが、リーゼは奴の言葉にぴたりと動きを止めた。だが、身に纏う空気はさっきよりもよっぽど物騒だ。

 事の成り行きを息をのんで見守っていると、不意にシーザーの背後から大きな人影が現れた。見たことのない男だった。左頬にティースプーンを付けている。……なんで? ていうか、どうやって……?

 

「威勢が良いな、さすがはおれの姪だ」

「め……え? えっ!?」

 

 謎の男の発言に思わずテンパる俺。だってリーゼの家族の話なんて聞いたことないし! どういうことかと確認しようとリーゼを窺い見ると……驚くほど無反応にして無表情。

 なにかがおかしいぞ……。そう気づき始めた俺に答えをくれたのはモネさんだった。

 

「彼女はあなたの姪じゃないわよ。あなた、兄弟いないじゃない」

「そうだ、そいつはおれの姪ではなかった。だが、威勢が良いのもほどほどにしておかないと、ローが苦しむ羽目になるぞ?」

 

 ただのボケかよっ!! しかも何事もなかったかのように話続けるのかよ! 反応しちゃった自分が恥ずかしいわ……って、

 

「それは……!」

 

 男がポケットから取り出したものを見て、俺は目を見開いた。四角く切り出された心臓――船長の能力によって取り出されたまだ生きている心臓だ。この流れでそれが誰のものかなんて、問うまでもない。そもそも船長とリーゼが捕まっているとわかった時点である程度予測はできていた。

 冷たいものが背筋を伝う。瞬間、男は自らの掌の上の心臓を握りしめた。すると、船長が悲鳴を上げのたうった。

 

「ローの心臓はヴェルゴが持っている。おかげで、お前らは手も足も出なかっただろう? いいザマだ! シュロロロロ」

 

 モネさんの心臓はこちらが握っている(ことになっている)ことなど、やはりシーザーにとっては取るに足らぬことなのだろう。シーザーにとっては自分以外の人間は限りなく無価値――使い捨ての駒でしかない。

 今も奴はモネさんが能力を使って俺たちを尾行していたことをえらっそうに話している。

 モネさんがどうしてこんな奴の下についているのかわからなかった。自分の心臓を差し出してまでこいつに従う意味なんてあるのかよ。

 

「優秀な秘書に救われたな……。もっとモネを警戒しておくべきだった。マスターがあまりに間抜けなんで、なめきってたよ」

 

 苦しみに息を切らしながら、船長がシーザーを挑発する。すると、当然憤ったシーザーは船長の心臓に攻撃を加えた。また心臓の痛みで悶え苦しむ船長の元に俺は慌てて近寄った。

 

「ぐっ……」

「せ、船長! 煽ってどうするんですか! いや……やっぱなんも答えないでください! どうせまたシーザーを煽るようなこと言うだけでしょうし」

 

 「本当のことを言っただけだ」とか「間抜けを間抜けと言ってなにが悪い」とか。俺だってまったく同じ気持ちですが、今は時と場合を考えていただきたいのです……。

 

「お前すげェな!! 心臓とられて生きてんのか!?」

「テメェの能力を利用されてちゃ世話ねェな。――じゃあおれのはどこにある」

 

 ルフィが無邪気に感心している横で、女海兵さんが声を低くして尋ねる。ルフィ……できれば感心する前に心配したげて……。俺が切ない。

 ていうか、女海兵さん!! 捕まったこととか船長の心臓とかに気をとられてて気付かなかったけど、なんて格好してるんだこの人! ハレンチ!! そしてなんか妙な凄みが……。ばーんと開いた胸元のせいじゃないよ……。単純に威圧感がすごい。

 ん? というか、”おれの心臓”って……。

 

「あっ、ス」

 

 モーカーと当然続くはずだった俺の言葉はそこで途切れた。代わりに「ごふっ」とまた悲鳴が零れ出る。俺はまたしてもリーゼの頭突きを、今度は背中に食らった。そのまま船長の上に倒れ込み、彼に二段重ねになる俺とリーゼ。そんな俺たちに構わず”白猟のスモーカー”(のものと思い込んでいるモネ)の心臓を見せびらかすシーザー。

 いや、わかってるよ? 今奴が持っているのが、スモーカーのものと偽ったモネさんの心臓だってバレないかってハラハラしてしょうがない俺のフォローをリーゼはしてくれたんだ。うつぶせになってる分にはシーザーたちから俺の表情は見えないし。さっきなんか俺明らかにギクってなりそうだったしさ。わかってる……手が塞がれててあんまり選択肢がなかったってのもわかってる……。だけどできればもう少しソフトなフォローがよかったな、俺……。背骨痛ェ。

 まァ、しかし俺の懸念はなんとかギリギリ回避された。映像電伝虫の準備ができたとかで会話が中断されたことに俺はほっと息を吐く。

 

「……おい、お前らさっさとどけ。重ェ」

「すみません……」

 

 船長の言葉を受けて、リーゼが俺の上からのそのそと退き、俺も合わせて船長の上から退いた。

 そのとき、ぱっと部屋の電気が落ちた。そして、俺たちの前に垂れ下がったスクリーンに映像が映し出される。

 それは雪山に据え置かれた奇妙に大きいキャンディの映像だった。

 

「ここは氷の土地、中心部だ。そして今、散り散りに飛んできた”スマイリー”の分身、”スマイリーズ”が土地の中央に向けて集結しつつある」

 

 シーザーは朗々と、この映像の視聴者に向けて語り始めた。4年前の”実験”について、そしてそこからの研究成果について。新しい殺戮兵器“シノクニ”について――。

 それからスクリーンに映し出された光景は凄惨だった。トカゲのような形をした巨大なスライムっぽい生き物が現れキャンディを食べたかと思うと、その体がガスへと変化した。突如として噴出したガスから、その場の奴らは逃げ惑った。だが、やがてガスに追いつかれると彼らの体はみるみる固まっていった。逃げようともがく姿のまま固まった彼らの表情には恐怖と絶望の色が生々しいほど鮮明に残っていた。

 俺たちはみんな言葉を失ってその光景に見入っていた。 彼らの悲鳴と”マスター”に助けを求める声が室内に無惨に響く。

 そのとき、不意にルフィがスクリーンに向かって「あー!」と声を上げた。

 

「おい見ろ! ほらゾロたち! 煙に追われてるぞ!!」

 

 ルフィに言われて目を向けると、スクリーンには確かにゾロたちが映されていた。ゾロとナミ……じゃなくてサンジか、あとブルックと……侍? 彼らはなにやら不思議な走り方で迫り来る毒ガスから逃げていた。

 

「お前の仲間か? 麦わら。さすがにしぶといなァ。だが、やがて息も切れガスにやられる! 研究所の外にいる連中は誰一人生き残れやしねェのさ! お前らもなァ……!」

 

 シーザーの言葉と共に、ガコンと音がして俺たちの入れられている檻が大きく傾いた。後ろの壁が開き、檻はクレーンで吊され吹雪の中へと放り出される。

 研究室が遠ざかっていく。最後に見えたのはシーザーの不敵な笑みだった。

 

 クレーンは研究所の外周をぐるりと周り、檻は研究所の正面へと持ってこられた。眼下では海軍G-5が惑っている。そして、前方からはさきほどまでスクリーン越しに見ていた毒ガスがまさに迫ってきていた。

 海兵たちは研究所の中に入る術もなく、頼みの綱である彼らの中将と大佐も囚われの身。「もうおしまいだ」「死にたくない」という彼らの嘆きで、その場は阿鼻叫喚の巷と化していた。

 

「――で、お前はなにしてんだ? チトセ」

 

 冷ややかな船長の声が俺に問いかける。

 ”なに”とは、俺がフランキーの陰に身を隠すように小さく丸まっている行為を指し示している。まァ、隠すようにっていうか、実際隠れてるんだ。ので、そのまま答えることにした。

 

「隠れてます。これ映像電伝虫で撮られてるんですよ? 世界の闇ブローカーのお茶の間に流れちゃってるんですよ!? 俺みたいな無名の一船員が顔さらせるわけないじゃないですか……! おっそろしい!」

「ハァ」

 

 心底どうでもよさそうに船長が相槌を打つ。いや、溜め息だったのかもしれない。そりゃ名前も顔も売れてる船長からすればどーでもいい問題でしょうよ……。周りも名だたる賞金首ばっかりだし……俺肩身狭い。と思っていたら、いるではないか! 俺の他にもう一人、おそらく知名度の低い人が。

 

「アァ? テメェなに見てやがる」

「ヒィッ! そうだ、こっちが”白猟のスモーカー”だった!」

 

 女海兵さんことたしぎさん? に期待を込めて視線を送ったが、すごい目で睨み返された。それもそのはず、だって中身はスモーカーだ。その鋭い眼光にビビった俺はまたフランキーの陰に身を隠した。

 

「もう! こんな時にあなたたちは!」

 

 ルフィたちはルフィたちで「よくできた研究所だな」とか呑気に感想言ってるし、さすがにたしぎさんINスモーカーが怒った。が、ルフィは相変わらずマイペースで「よーし、とにかく困ったな!」とあまり困った様子もなく言った。”よーし”とか言ってる時点で()る気しか感じられない。

 そんなルフィに向かって船長は「おれたちはこんな所でつまずくわけにはいかねェ」と声をかけた。

 

「作戦は変わらず――今度はしくじるな。反撃に出るぞ」

「反撃?」

「ああ、さっさと片付けよう」

 

 ルフィは船長の言葉に不思議そうに首を傾げたが、船長は詳しくは説明しないままフランキーに右下の軍艦の残骸を燃やすよう指示した。

 フランキーが吐き出したファイヤーボールは見事命中し、軍艦はたちまち燃え上がった。その煙が俺たちの檻へと流れてくる。

 

「ゲホッ……め、目がああ」

「おいこらトラファルガー! 煙がこっち来たじゃねェか!!」

「お前がやったんだろう」

 

 しれっと言う船長に「おめェがやらせたんだよ!」とフランキーがつっこむ。その様子をルフィが遠慮なく笑うので、つられて俺もニヤニヤしてしまう。

 

「さて」

 

 と、船長が切り出すと同時に、船長を縛り上げていた鎖が解ける。何故と目を丸くするみんなに船長は俺たちが万が一のときのために普通の鎖を研究所内に用意していたことを説明した。そして、能力で鬼哭を手元に出現させると俺たちの鎖を解いていった。

 ようやく自由になった両腕にほっと胸を撫で下ろす。が、問題はまだ残っていた。

 

「さァ、お前らをどうしようか……」

 

 そう言って船長が向き合ったのは海軍の二人。俺たち海賊が海軍の人間を助ける義理はない。でも、俺は船長が二人を見捨てるとは思わなかった。敵も味方も利用できるものならなんでも利用する人だ。みすみす利用価値のありそうな二人を見殺しにしたりはしないだろう。

 その予想通り、船長は二人の精神を元通りにすると、ここで聞いた話を忘れるという条件付きで彼らを解放する話を持ちかけた。

 そのやり取りを見ていたリーゼが、不意にぽつりと呟いた。

 

「……あの人、女じゃないの?」

 

 それはスモーカーとたしぎさんの精神が元に戻ったとき、自分のとんでもない格好に悲鳴を上げたたしぎさんに向かってスモーカーが言った「なにを女みてェな声出しやがって」という言葉に対するコメントだった。

 普段もっぱら無表情なリーゼが困ったような顔で心許なさそうに聞いてくるのが面白くて、俺は思わず吹き出した。

 

「ぶはっ」

「?」

「チッ……海賊ってのはどいつもこいつも空気が読めねェのか」

「さァな。……リーゼ、白猟屋の心臓を出せ」

 

 一人ツボる俺とわけがわからず首を傾げるリーゼ。そんな俺たちを見て苛立ったようにぼやくスモーカーに、船長が適当な相槌を打ちつつリーゼを呼んだ。そういえばスモーカーの心臓は(俺が押しつけたから)リーゼが持ってたんだった。

 リーゼはコートのポケットからおもむろに心臓を取り出し、船長に手渡す。スモーカーは怪訝そうにその心臓を見ていた。そりゃそうだろう、だってスモーカーの心臓はついさっきシーザーが嬉しそうに見せびらかしていたんだから。

 からくりがわからず疑念をあらわに俺たちを睨み付けるスモーカーだったが、しばらくすると深く溜め息をついた。

 

「鎖を解け、ロー」

 

 それはこちらの条件を飲むという合図だった。

 それを受けて船長はスモーカーに心臓を戻し、彼らの鎖を解いた。なんとか決着したことに気を緩めたのもつかの間、「おーい、トラ男ー!」と我らが船長を呼ぶ元気溢れるルフィの声に俺はぎくりとした。だって、その声は明らかに檻の外から聞こえてきたから。

 

「なんであいつ檻の外に!?」

「網破って出た。網は海楼石じゃねェし」

「勝手なマネを!!」

「おい、それよりおれはサニー号をなんとかしてェんだが」

「好きにしろ!」

 

 船長が振り回されている……。“麦わらの一味”ほんとすごいな……。

 

「ウチの船長は目を離すとすぐああなの」

「それは大変ですね……」

 

 ロビンはこちらに手を振るルフィに手を振り返しながら、うふふと楽しげに笑う。その笑顔を見て、ロビンは本当にルフィが好きなんだなァと、変な意味じゃなくて、ただ純粋にそう感じた。なんかほっこりするなァ、こんなときなのに。

 

「ところでチトセ、あなたシーザーに捕まったようだったけれど、ナミたちはどうなったのか知ってる?」

「あ……!」

 

 ロビンの質問に俺はハッとなった。目の前の出来事に気を取られてすっかり忘れていたが、ナミとウソップはあの研究所跡で……。いや、生きているはずだ。でも、毒ガスに追われている可能性は高い。

 船長の能力でルフィのところまで降りると、俺はすぐにルフィにそのことを伝えた。だが、ルフィは難しい顔をするどころかいつもの顔で笑うと「心配すんな!」と俺の肩を叩いた。

 

「あいつらなら大丈夫だ!」

 

 何の根拠もないのにルフィは断言した。その言葉を肯定するようにロビンもにこっと笑う。

 ”船長”っていう人種は……誰も彼もが人タラシっていうか。無条件で他人に自分を信じさせる力を持っている。大丈夫だと言われると本当にそんな気がして、安心してしまうんだ。ほんと敵わないなァ。

 

「おいそこ、チンタラするな」

「アイアイ!」

「ヘラヘラもするな」

「アイ……」

 

 船長に言われるまま、俺はなるだけキリッと表情を整えて船長の方へと駆け寄る。船長の傍にはスモーカーもいて、遅れ気味の俺を睨んでいた。「海賊風情がおれを待たせるんじゃねェよ」とその目が言っているようで(被害妄想)、俺は思わず船長を盾にして「すみません」と謝った。スモーカーINスモーカーこわっ!

 全員が船長の周りに集まると船長は研究所の壁に穴を空け、俺たちはそこから中へと侵入した。

 

「なっ!? むぎ……!?」

「しんにゅ……!?」

 

 中にいた連中は、海軍中将やら億越えやら王下七武海やらの攻撃によって瞬く間にノックダウンさせられた。まともな台詞ひとつ言い終わらないうちに……。

 あっという間にその場を制圧した船長たちはシャッターのレバーを上げた。ゴゴゴと大きな音を立てながらシャッターが開いていく。すると、外にいたG-5の海兵たちがわらわらと入ってきた。

 

「うおー! シャッターが開いたー!!」

「これでガスで死なねェで済む!! ヒャッホー!!」

 

 歓喜の声を上げる海兵たちとは逆に、シーザーの部下たちは突然の事態に完全にパニックになっていた。

 

「G-5の奴らが入ってくる!?」

「なんでシャッターが……!? 誰だレバー触った奴!?」

「し、侵入者だ! あそこ!!」

 

 誰かがこちらを指差し、いくつもの視線が俺たちを見上げた。

 

 心配事は山ほどある。

 船長の心臓はシーザーたちに握られたままだし、外は毒ガスで溢れてるし、子供たちだって取り返さなくちゃならない。ナミやウソップやゾロたちとの合流だってまだだ。

 だけど、このときの俺は珍しく不安以上に高揚感に満たされていた。

 ”死の外科医”トラファルガー・ローと”麦わらのルフィ”、この二人のタッグが一体なにを巻き起こすのか。

 世界が……時代が、また動き出す。その強い予感が俺の胸を高鳴らせる。

 

 戸惑いおののく群衆に俺は知らずと笑い返した。

 ――さァ、快進撃の始まりだ。

 


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