ハートの一船員   作:葛篭藤

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第15話 始動

 

 

「いやー、本当に来ましたね、麦わら」

 

 シーザーの研究室までの道を歩きながら、俺が言う。すると、半歩前を歩く船長がすかさず舌打ちをした。

 

「本当にお前のせいじゃないだろうな。面倒ごと引き寄せやがって……」

「こういうのも“口は災いの元”って言うんですかねェ。あ、俺にとっては幸いでもありますけど」

「…………」

「っていうのは冗談としてー、これからどうするんですか?」

 

 もちろん冗談ではなかったわけだが、船長の視線がものすごく痛かったのでそう言う他なかった。愛想笑いでごまかす俺を横目で見ながら、船長は盛大に溜め息を吐く。

 さっきから溜め息吐かれてばっかなんだが。これ以上俺のせいで船長が幸せを逃がしてしまうのも忍びないので、ちょっと真面目に振る舞おうかな。

 

「……おれに考えがある」

 

 と言うが、その後に言葉は続かない。どうやら「考え」の詳細は話してもらえないらしい。まァ、言うなればいつものことだ。

 「わかりました」と俺が軽く答えると、船長はなにか探るような視線を俺に寄越した。はて、なんだろう?

 

「麦わら屋の一味をここで始末すると言ったらどうする?」

「はあ、できるかどうかは別として、普通に指示に従いますけど」

 

 投げかけられた質問に、俺はきょとんとして答える。変な質問するなァと一瞬首を捻った俺だったが、すぐに船長の意図を察した。

 

「……もしかして船長、俺が麦わらたちには手が出せないんじゃないかって思ってます?」

「それ以前に、敵対する可能性に気付いていないんじゃないかと思ってな」

「それくらい考えてますよ……」

 

 ハートの海賊団の脳天気担当とか自分で言っといてアレだけど、船長の中で俺はどれだけお気楽キャラとして認識されているんだ。

 つまりこれ、「麦わらと戦うことになってもおれに付いてこれるか?」って確認されてるんだよな。はあ、こんなことを確認されるとは情けない……。

 俺は自分自身に溜め息を吐き、船長には苦笑を返した。

 

「あのですね、確かに俺は麦わら大好きですし、できるなら友好的な関係を築きたいと思ってますけど、俺は一個人である前に船長の部下です。それは俺自身が選んだことです。だから、船長が決めたことなら俺に迷いはありません。大丈夫ですよ、これでも海賊としての自覚くらいはあります」

「……そうだな。余計な質問だった。忘れろ」

 

 俺の返事を聞くと、船長はそう答えた。

 斜め後ろから見るその横顔は心なしか嬉しそうに見える。なにがお気に召したのかはわからないが……とにかく俺の心構えが伝わってくれたならそれでいい。

 

「それにしても、今日は随分と客人が多いですねェ。侍に、麦わらの一味に、海軍に……って、そういえば、どうして海軍がこの島にやってきたんですか?」

「あァ、それは……」

 

 船長が言うには、侍の侵入者に襲われた茶ひげさんの部下が発した緊急信号をルフィたちがキャッチし、さらにそれを海軍が盗聴してここに来たらしい。そういえばブルックが緊急信号がどうって言ってたな。こういうことだったのか。

 で、すべての引き金となった侍はどうなったかというと、とっくに船長によってバラされていたらしい。だがその頭も今はナミたちによって子供たちと一緒に逃亡中、と。

 

「……なんというか、あっぱれと言いたくなるほど見事に掻き回してくれますねー」

「まったくだ」

 

 昨日までの平穏な日々が嘘のよう。

 

「だが、奴らを利用しない手はない」

「利用、ですか」

「あァ。安心しろ、あいつらとここで事を構えるつもりはねェ」

「……そのわりにすげー悪い顔してますよ?」

 

 船長はなにも言わずに口の端を吊り上げる。うわあ、絶対なんか悪いこと企んでるよこの人。

 リーゼも同じことを思ったのか、「すごい、悪い顔」とぽつりと零す。その意見にこくこくと頷いて同意を示していると、不意に船長が立ち止まって俺たちを振り返った。シーザーの研究室はもう少し先だ。

 

「お前らは鎖の確認をしとけ。それが終わったら部屋で適当に荷物詰めてろ」

 

 ふむ、どうやら事を構える相手はシーザーの方になるようだ。

 いよいよか、と俺は気を引き締めて「わかりました」と答え、リーゼも頷く。

 

「船長は?」

「おれはシーザーに文句言いがてら表の報告をしてくる。それが終わったらすぐにそっちと合流する」

「了解です」

 

 それで別れるのかと思いきや、その前に船長はぽいっと俺になにかを投げて寄越した。

 

「うわっと!? なんですかこれー……って、人の心臓じゃないですか!?」

「海軍G-5中将“白猟のスモーカー”の心臓だ」

「そっそんなん投げて寄越さないでくださいよ! もし落としてたらどうするんですか!」

「お前が落とさなきゃいいだけの話だ」

 

 俺の文句をそう一蹴して、船長は「それ持ってろ」と言う。

 嫌だなとは思うものの、当然俺に拒否権などない。なにが嫌って、緊張するんだよな、人の心臓持ってるかと思うと。さっきもだが、万が一落としたりしたら、きっとこの人謂れのない痛みに苦しむんだろうなァとか考えるとさ……こう、手汗が。

 

「ちなみに、白猟屋は海賊を毛嫌いしてる強面のオッサンだ」

「そんな情報は要りませんっ! てか、俺がビビるってわかってて言ってるでしょう?! ほんとやめてくださいよ! マジで落としそうで怖い……!」

「お前のビビリはいつまで経っても治らねェな」

「治る類いのものじゃないので」

 

 俺が真顔で答えると、それを一笑に付した後で「なんならリーゼに持たせろ」とアドバイスをくださる。だったら初めからリーゼに渡してくれればいいのにさ。

 

 

 

 

 その後船長と別れた俺たちは、言いつけ通り鎖の確認をして回った後で部屋に戻った。俺たちが用意した普通の鎖はちゃんとそのままになっていて、シーザーがすり替えに気付いた様子はない。これで、万が一捕まったとしても脱出は容易だ。だが、一番の問題は別にある。

 部屋を片付けながら、俺は本棚に置物然として置かれているそれに目をやった。

 一定間隔でドクンと脈打つそれは、もちろん置物なんかではない。――モネさんの心臓だ。

 

『おれの大切な秘書、モネの心臓をお前に預かってほしい。その代わりに……お前の心臓をおれによこせ!! それで契約成立だっ!!』

 

 パンクハザードへの滞在を申し出たときにシーザーが言い出したことだ。

 なにが「大切な秘書」だ。「互いに首根っこを掴み合っていれば」なんてことも言っていたが、いざとなればモネさんのことなどお構いなしにこちらに攻撃を仕掛けてくることは目に見えている。

 つまり、そのときにこのモネさんの心臓と引き替えに差し出した船長の心臓を取り返さないことにはどうしようもない。まァ、船長のことだ。きっとすでになにか考えてあるんだろう。

 

「チトセ」

「あ、荷物詰め終わった?」

「うん」

 

 小さなリュックを一つ手に、リーゼが俺の方へとやってくる。

 元々大して物を持ち込んでいないので、荷造りはすぐに済んでしまうし、片付けたところで部屋の外観もあまり変わらない。

 3ヶ月お世話になったこの部屋ともお別れだ。とはいえ、特に名残惜しさはない。

 

「早くみんなに会いたいねェ」

「……うん」

 

 なんとなく返事は返ってこないかと思っていたが、リーゼは静かに相槌を打った。

 リーゼも寂しいのかな。このことみんなに話したら、シャチ辺りが調子に乗って「おれが恋しかったのか」とかなんとか言いそうだ。そしてその後確実にリーゼに絞められる。

 その様子がありありと想像できて、俺は思わず笑ってしまう。

 

「チトセ?」

「いや、なんでもない」

 

 と言いつつ笑いは治まらない。一人笑い続ける俺をリーゼが不思議そうに眺めていると、唐突に部屋のドアが開いた。

 入ってきたのは当然船長で、彼は一人でにやにやしている俺を見るなり怪訝そうに顔をしかめた。

 

「…………首尾はどうだった」

「も、問題なかったです」

 

 「なにこいつ一人でにやにやしてんだ」みたいな船長の視線が痛い痛い。いっそ口に出して言ってくれれば弁解できるのに……。

 船長は室内に踏み込むと、つかつかと一直線に本棚の方へと向かう。そして、先ほど俺が見ていたモネさんの心臓を手に取り、すかさず「行くぞ」と俺たちに声をかけた。

 

「あのー、それ、モネさんの心臓ですよ?」

「わかってる」

 

 むき出しの心臓を手に、船長はまた悪い顔で笑う。

 

 

 

 

 

「――海軍G-5中将スモーカーの心臓……。気の利いた土産だ」

 

 船長が手渡した心臓をにたにたと笑いながら眺め、シーザーが言う。

 ソファにスタイリッシュに腰掛けている船長は、その様子を無言で見つめる。俺とリーゼもなんでもないような顔をして、船長の背後に立った。リーゼがどう思っているかはわからないが、俺は内心「えげつなー」と思っていた。

 シーザーが今手にしているのは、もちろんスモーカーの心臓ではない。モネさんの心臓だ。

もしシーザーがスモーカーを害そうとその心臓に危害を加えたならば、それはモネさんを傷付けることになる。我が船長ながら、本当えげつないこと考える。

 だが、それなりに危険な賭けでもある。シーザーがもしその心臓がスモーカーのものでないと気付いたら、向こうはノーリスクで船長の心臓を好き勝手できることになる。

 うーん、なにやら不安だ……。

 

「麦わら屋の方はどうした?」

「まァ、ガキどもは放っといてもここへ帰ってきたくなるんだが……モネが十分注意しろと言うんでな。やりすぎかとは思ったが、あの二人組を行かせた」

 

 「ガキどもは」のくだりに疑問を覚えるが、後半の台詞に気を取られてその疑問はすぐに消え去る。シーザーの言う二人組とは“イエティ COOL BROTHERS”のことだ。なんでも、誰もその姿を見たことがないとか。かくいう俺も彼らの存在は知っているが会ったことはない。

 だけど、それがなんだ。ルフィたちがそんなんにやられるか。

 と思っていると、テーブルの上の電伝虫が鳴き出した。通信の内容は……“海賊狩りのゾロ”、“泥棒猫”、“ソウルキング”の三人を“COOL BROTHERS”が始末したというものだった。

 んなアホな。

 

「あァ、聞いたか? 早速だ、死んじまったぞ、モネ!」

「そう、うふふ……それは期待はずれ」

 

 バカにしたように笑うシーザーにモネさんが静かに答える。

 なにを馬鹿げたことを! あの人たちがこんなんで死ぬわけあるか! と怒りに打ち震える俺をリーゼがちょいちょいと軽くつつく。ハッ! いかんいかん、ポーカーフェイスを保たねば……。

 

「もっと骨のある奴らかと……――ね? ロー。よく知ってるんじゃない?」

 

 モネさんは相変わらず勤勉ですね! やっぱり俺たちとルフィが2年前に関わり合ったことは調べ済みらしい。

 そのことを聞いたシーザーは、俺たちに疑いの眼差しを向けると共に銃を構えた。

 

「お前が呼び込んだってことはねェよな」

「バカ言わないでください!! いつそんな暇があったって言うんですか! シャボンディのときは俺なんか会話すらしてなくて、頂上戦争のときも麦わらが目を覚ました途端出航しちゃうし! 電伝虫の番号を交換する暇だってなかったんですよ? いえ、じゃあ仮に俺たちが麦わらをここに呼び込んだとしましょう。だったら俺は、この島に間違いなくカメラを持ってきていた……!!」

 

 堪えきれず拳を握っての力説をかます俺にその場の全員の視線が集まる。そして我に返る俺。

 あ、あらら? もしかして俺は今とても空気の読めない発言をしてしまったんだろうか。

 

「……玄関で鉢合わせるまで、あいつらが研究所に捕らえられてたなんて知らなかったと言ったろう」

 

 あっれー?! シカト?!

 まるで俺の存在なんてないかのように普通に会話を続行する船長。シーザーは少し戸惑ったような態度を見せたが、船長につられるようにして俺をスルーする。モネさんだけがくすくすと笑っている。

 

「まァ、仲間を呼び込むならもっと上手くやるよな……。わざわざ政府に媚びて王下七武海にまでなりこの島に来た男が、話のこじれるようなマネするはずもねェ」

 

 別に、納得してくれるならなんでもいいけどさ……。

 場違いな発言をしてしまったことに対する気まずさと羞恥心がじわじわとこみ上げてきて、この場から逃げたいような心境に俺がなりかけていると、船長が「さっき」となにか話を切り出した。

 

「ガキどもが放っておいても帰ってくると言ったが?」

「あァ……」

 

 シーザーはそう相槌を打つと、懐からなにかを取り出した。赤いビー玉のようなものだ。

 それを親指と人差し指でつまみながら俺たちに見せつけて、シーザーはにんまりと笑みを浮かべる。

 

「あいつらには毎日このドラッグキャンディを与えている。甘くてシュワシュワ、覚醒ガスが発生する。ウチへ帰っちゃもらえねェからなァ!」

「趣味の悪ィ男だ……。誰かを思い出す」

 

 船長の言葉を聞きながら、俺は拳を強く握りしめた。

 この施設に誘拐された子供たちがいることは知っていた。巨人化の“実験”を施されていることも。だけど、まさかドラッグまで使っていたなんて……。

 毎日そのドラッグキャンディとやらを食べ続けているとしたら、彼らはもうとっくに慢性中毒になっているはずだ。

 すべてはこの研究所から逃さないためか。

 シーザーの所業に吐き気がした。憤りで体の中がぐらぐらと煮立つようだ。

 しかし、2年の間に少しは嘘が得意になった俺はなんでもないような振りを続けた。怒りを抑え込むために握った拳はソファの背に隠れて、シーザーたちからは見えていないだろう。

 掌に爪が食い込む。その痛みを感じていないと、逆に平静が保てなさそうだった。

 その手に不意に温かいものが触れた。リーゼの手だ。

 俺と同じように表情は平静を保ったまま、手だけが気遣わしげにそっと触れてくる。その温もりのおかげで俺はようやく少し冷静さを取り戻し、拳をほどいた。

 ちょうどそのとき、船長がソファから腰を上げた。付いてこいと俺たちに目で合図をして、出口に向かって歩き出す。

 俺とリーゼが後に続くと、モネさんが「戦闘は?」と声をかけてくる。

 

「必要なら呼べ。誰の首でも獲ってやるよ」

 

 船長は振り返りもせずに答えた。

 

 

 

 

 

「――で、これはどこに向かってんですかね」

 

 研究所の裏口から出て、そこで出くわしたシーザーの部下を船長がバラした後でようやく俺は尋ねた。

 

「研究所跡だ。奴らはそこにいるはずだ」

 

 ここで言う「奴ら」ってのは、十中八九ルフィたちのことだろう。大丈夫、俺の願望は入っていない。

 船長の言動から鑑みて、もうそろそろ……これ期待しちゃっていいんじゃないですかね……? 船長とルフィの共闘が見られるって、思っちゃってもいいんじゃないですかね?!

 でもなんか確認するのは怖いなァ~なんて考えていると、ちょうど俺たちが目指している研究所跡の方から爆撃音が聞こえてきた。ああ、そういえば“イエティ COOL BROTHERS”を差し向けたとか言ってたもんな。

 どうやら現在進行形で戦いが繰り広げられているようだ。

 

「少し急ぐか……」

 

 爆撃音の響く山の方を見て、船長が呟く。それと同時に“ROOM”が展開され、一瞬のうちに周囲の景色がぱっと変わる。(といっても一面の雪のせいであまり代わり映えはしないのだが。)

 そのままぱっぱっと移動し、戦闘の音はどんどんと近くなっていく。本当便利だよなァ、船長の能力。

 

「船長、待って」

 

 もうすぐそこだってときに、不意にリーゼが待ったをかけた。

 「どうした」と船長が聞くと、「なにかあった」とやや遠くを指差す。なにかってなんだ? とは思うものの、こんなときにどうでもいいことで引き留めるような子ではないことはわかっている。

 

「船長は先に行ってください。俺たちはそれ確認してから後追います」

「わかった」

 

 そう返事をするなり、船長の姿がぱっと消える。俺とリーゼも、さきほど彼女が指差した方へと走り出した。

 

「なにかって?」

 

 と聞いてみるが、リーゼは首を傾げるだけだ。

 俺にもわかるものだろうかと考えて前方に目を凝らすと、一面の白の中にちらりと別の色が見えた気がした。んん? なんだあれ。

 一応警戒しつつ近付いていくと、雪の上にぽてっと横たわっていたのは……

 

「わっ……わたあめ大好きチョッパー……!!」

 

 手配書を通して見知っている彼(?)だった。あ、愛くるしい……! 思わず抱き締めたくなるこのサイズ! もふもふ感! 堪らん……。

 危うくトリップしかけた俺だったが、そのチョッパーが何故こんなところに横たわっていたんだろうと疑問を抱いて、なんとか我に返った。

 よく見るとチョッパーの体はぼろぼろだし、意識もない。もしかしてイエティ兄弟にやられたのか?

 そう思い至ったとき、近くで低いうなり声がした。見ると、兄弟の片割れが氷の瓦礫の下敷きになっている状態でわりと近くにいた。麦わらの一味の誰かにやられたのかな。

 

「ウウ……」

「あれ、えーと、スコッチさん?」

「……ロックだ……」

 

 ふらふらとしながら、ロックが瓦礫の下から這い出る。

 

「お前は……確か、トラファルガーの……」

「部下その1です」

「その2」

 

 俺たちが答えると、ロックは俺の手の中にいるチョッパーに目を止めた。

 

「そいつは麦わらの! 麦わらは仕留め損ねたが、そいつだけでも……」

「えっと、それはちょっとお断りします」

「なに? どういう意味だ」

 

 言いながら、ロックが銃を構える。といっても、ロックの銃は俺たちからすれば大砲並みの大きさだ。あんなもの食らったら堪ったもんじゃない。

 

「まさか、裏切りか……!」

「たぶん、そんな感じです……えへへ」

「ぬけぬけと!」

 

 俺がへらへら顔というのはよくよく人を怒らせるらしい。

 逆上したロックが引き金に指をかけた。

 

「死ねェ!!」

 

 爆撃音と共に銃口から大砲並みの弾丸が撃ち出される。手の中でくるりと宵月を回転させて構えた俺は、迫り来る弾丸を真っ二つに両断した。続いて発射される二弾目、三弾目も同じように叩き切る。切り裂かれた弾丸は俺には当たらず、左右に分かれて爆ぜた。

 

「フゥ……」

「テメェ!!」

 

 弾丸が当たらないとわかると、ロックは懐からナイフを取り出し俺に斬りかかってきた。ナイフと言っても、それも当然巨人サイズのものだ。まともに食らえば今度一刀両断されるのは俺自身。

 だが、俺に焦りはなく、避ける構えもとらなかった。

 

「俺にばっか気をとられてると危ないですよ」

「なに……」

 

 俺が忠告したときにはすでに時遅く(わかってて言ってるんだけどな)、いつの間にか駆け出していたリーゼの鋭い跳び蹴りが直撃するところだった。ちなみに、足は武装色硬化されている。

 

「ガッ……!!」

 

 それをこめかみの辺りにもろに食らったロックは短く呻いて、再び倒れた。まァ、元々かなりダメージ負ってたみたいだし。とはいえ、巨人サイズを倒しちゃう蹴りってのは本当すごいやね。

 

「お疲れさん。んじゃ、船長のとこ行くか」

 

 俺の方へと戻ってきたリーゼにそう声をかける。リーゼは首肯でそれに答えたあと、ちらりと俺を上目遣いに見上げた。

 

「……チョッパー、私持っていい?」

 

 ぐうかわってのはこういうときに使うのかね、なんて思いながら、俺はリーゼにチョッパーを差し出した。

 

 




(2014.9.15 改訂)

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