ハートの一船員   作:葛篭藤

16 / 22
第14話 2年ぶりの再会

 角笛の音を聞きつけて湖の方へと駆けつけると、そこには水面に向かって銃を構えた茶ひげさんの一団がいた。

 

「茶ひげさん! さっき、角笛の音がこっちの方からしたんですけど、なにか……」

「おお、チトセ! いいところに来た。ちょうど侵入者どもを湖に沈めてやったところだ」

 

 慌てている俺とは対照的に、茶ひげさんは余裕の態度で「ウォッホッホ」と笑っている。なんだ、俺の取り越し苦労だったのか……?

 

「能力者がいたことには多少驚いたが、湖に沈めちまえばこっちのもんだ!」

「さすがだぜ、茶ひげのボスー!!」

 

 周りがはやし立てると、茶ひげさんはますます上機嫌になって胸を反らして笑う。あー、うん、さすがです。ちょっと侮っててすみませんでした。

 ていうか、能力者て。一体どういう侵入者なんだ? 侍は?

 いろんな疑問が湧いてきたので、とりあえず俺は湖に沈められたという哀れな侵入者たちを見てみることにした。

 ケンタウロスの列をすり抜けて湖の縁に出る。すると、湖の真ん中辺りに侵入者だという人物たちがぷかぷかと浮いているのが見えた。

 遠くて少し見えにくいが、三人いるよ、う……だ?

 

「え、あれって」

 

 あの特徴的な長い鼻は……。

 

「よく狙えェ! あいつらもうなにもできねェ!」

「ちょっと待って! あの人たちは……!」

 

 止めに入ろうとしたが一歩遅かった。茶ひげさんの号令と共に彼らは引き金を引き、そして――

 

ボボォン!!

 

 どういうわけか銃が暴発した。茶ひげさんの部下たちは爆発を受けて倒れる。

 「なにが起きた!?」とみんなが驚く中、気付けば一つ細長い影が雪煙の中に立っていた。

 

「ああ、忠告が遅れました。銃身を凍らせましたので、撃てば暴発いたしますよっ!!」

 

 そう言って振り返ったその姿は、ガイコツだった。でもアフロ。その姿には激しく覚えがある。

 

「おのれ、何者だこのガイコツマスク!!」

「あなたは!! かの有名なソウルキング!!」

 

 茶ひげさんと俺の声がかぶる。俺たちは「えっ」と互いに驚いて顔を見合った。

 

「チトセ、お前こいつを知ってるのか?!」

「し、知らないんですかっ?! 世界的なロックスターですよ!?」

 

 そして、どうやら麦わらの一味でもあるらしい。むしろ俺としてはこっちが本命だ。

 2年前のシャボンディ諸島でちらっと見かけたが、本当にガイコツが動いてしゃべってるんだな……。シュールっていうか、かなりホラーだけどそんなところが素敵だと思います!!

 ていうか、じゃあやっぱあれウソップだよな?! なんでルフィたちがこの島に……。そりゃ「来ないかな」とは言ったけども! ああいうのは来ないって確信があるからこその言葉なわけでありまして。

 

「ヨホホホ、どうやらお見知りおきいただいているようで、ありがとうございます!!」

「クソッ、ソウルキングだかなんだか知らねェが、よくもやってくれたな!!」

「あっ」

 

 暴発のダメージから回復した奴らが敵意をみなぎらせてソウルキングことブルックに襲いかかる。まずい、止めるタイミング逃した!

 だが、さすが“麦わらの一味”の一員だけあって、最初に襲いかかった三人はあっという間にブルックに返り討ちにされてしまう。

 目で追うのがやっとの速さ。そんなブルックの斬撃がついに俺の方へと向かってくる。宵月の柄を握る手がぶるりと震えた。

 正直勝てる気はしないし、勝ちたいとも思わない。が、おとなしく斬られるわけにもいかない。

 俺は最大限の集中力でブルックの剣の軌道を見切り、突きが繰り出されたタイミングを狙って宵月を下から打ち上げた。鈍い金属音が鳴り響き、ブルックの剣が弾かれる。弾き飛ばせればベストだったが、残念ながらブルックは後ろによろけただけで剣を手放しはしなかった。

 

「おや、先ほどのあなた! 私の剣をなぎ払うとは、なかなかやりますね!」

「ソウルキングにお褒めいただけてすごく光栄です。でもですね、俺としてはできれば対話による平和的な解決を提案したいんですけども……」

「謹んでお断りします!」

「ホワァア!?」

 

 お断りの言葉と同時にまた素早い突きが俺を襲う。なんとか体を反らして避けたが、冷気を纏った刀身が真横を走り抜けるのを感じて、肝が冷える。

 

「待って待って待って!! 俺はあなたと戦うつもりなんかないんです!」

「なにナメたこと言ってんだチトセ! そんなふざけたガイコツ野郎やっつけちまえ!!」

「おやおや、あなたのお仲間は戦う気満点のようですねェ」

 

 そして弁解する間もなくブルックの剣が振り下ろされる。それをなんとか宵月で受け止めて払い除け、一歩二歩と後ろに下がってブルックから距離をとる。その俺の隣に両手にダガーを構えたリーゼが並んだ。

 

「むむ! 二対一とは卑怯な! ところで、」

「もともと多対一だったと思うんですけど……」

 

 「ところで」?

 

「お嬢さん、パンツ見せてもらってよろしいですか?」

「ぅおい!! なに堂々とウチの子にセクハラ発言してくれてんですか!?」

「…………」

 

 リーゼから伝わってくる殺気はたぶん気のせいじゃない。目が完全に殺る気だ!

 気持ちはわからなくもないが、リーゼがブルックに飛びかかる前に俺はそれを制止した。

 別に“麦わらの一味”と争いたくないからとか、そういう理由からじゃない。そりゃできることなら戦いたくはないが、俺も海賊だ。船長のためとあれば、俺だって全力で迎え撃ってやるさ。

 だが、彼らがこの島に来た理由もわからないまま戦うのは、ちょっと不毛ではないだろうか。

 まずはそれをはっきりさせるのが先決のはずだ。

 俺は、なんでと目で問うてくる彼女に「ちょっとな」と返してから、ブルックに向き直った。

 

「えー、ひとつお尋ねしたいんですけど、この島になにしに来たんですか?」

「こちらの要求ははねのけておきながら自分の要求を通そうとするとは、とんだ身勝手さんですね!」

「パンツの要求を断ったことが身勝手だとは俺は認めませんよ?!」

「緊急信号を聞きつけてやってきました! ヨホホホホ!!」

「しかも普通に答えてくれるんですね!? ていうか、緊急信号って……?」

「ぬぁああ!? サメがやられてる!!」

 

 ブルックの言葉を聞き返そうとした俺の声に茶ひげさんの叫び声が重なった。

 その声につられて湖の方を見ると、水面には確かにサメがぷかーっと浮いていた。そして、そこにいたはずの人間たちの姿がない。

 ハッとなって辺りを見回していると、ふとひとつの氷塊の上に動く影があった。

 人影は全部で4つ……えっ、4つ? えーと、いるのは、ウソップとニコ・ロビンとルフィ! とゾロだ。

 

「やってくれたな、半人半獣ども!! こちとらサメごときに食い千切られるほどヤワな鍛え方してねェんだ!!」

 

 氷塊の上からゾロの声が降ってくる。なるほど、あなた様がサメに食われかけていたんですね。2年ぶりですどうも!!

 どういう鍛え方すればサメに食い千切られないほど強靱な肉体が手に入るのか、ぜひとも教えてもらいたいところではあるが……

 

「さっむそ……」

 

 思わず口に出してしまうほど、彼らは寒そうだった。湖に落ちてびしょ濡れになった後に極寒の風に晒されているのだから、当然なんだが。しかもコートもなにも着ていない。

 ていうか、みなさんなんか視線が……まるで獲物を狙う肉食獣のようなんですが……。

 

「あいつらコート狙ってねェか!?」

「タチ悪ィ!! 追いはぎか?!」

「……待て、思い出したぞあの帽子……! 2年前の“最悪の世代”のルーキーだ。そうだ、火拳の弟……! 4億の“麦わらのルフィ”だ!!」

 

 茶ひげさんの言葉に他の奴らは「4億!?」と驚きの声を上げる。

 思い出すのがおっそいわ!!! だから俺何度も止めようとしたのに……!

 

「みなさん、今からでも遅くありません! ここは引きましょう!!」

「コート寄越せェエエ!!!」

「ギャー!! 来たー!!?」

 

 ……うん、訂正しよう。完全に手遅れだ。

 慌てふためく俺たちの元へルフィの手がぐいーんと伸びてくる。その手が一人の肩を掴んだかと思うと、ルフィ自身がこっちに向かって突っ込んできた。

 俺とリーゼはなんとか避けて事なきを得たが、他の奴らは派手に吹っ飛んだ。

 もうダメだろ、これ。俺の手には負えるような事態じゃない。つまり……助けて船長!!

 

「すみません、みなさん! 俺たちは一足先に逃げます……! って、うおーい!? リーゼ?!」

 

 戦線離脱を決意した俺は早急に逃げの体勢を取ったのだが、どういうわけだかリーゼがいない。と思って辺りを見回したら、彼女はルフィの方へと駆け出していた。俺は慌ててその後を追いかけて引き留めた。

 

「ちょちょちょ!! お待ちなさいよ、お嬢さん!! どうしたんだよ突然!?」

「……麦わらは、一発殴る」

「ええ?!」

 

 一体なんの恨みがあってそんな行動に出るんだ……と考えた俺の脳裏に蘇る台詞が一つ。

 

『次会ったら、殴る』

 

 2年前、女ヶ島でルフィが意識を取り戻した直後の話だ。暴れるルフィを止めようとした過程で俺が殴られて……。

 そういえばそんなこと言ってたな!! 律儀っていうか、もはや執念深い域だ。自分で言うのもアレだけど、リーゼって俺に関して本当無駄に過保護(?)だよな!

 

「いっ今はいいから! ていうか今後もいいから! とにかく逃げよう! 船長にこのこと報告しないと!」

「…………」

 

 必死に説得すると、なんとかリーゼは納得してくれたみたいだ。今のところは、だが。なんかまだ「後で絶対殴ってやる」みたいなこと考えてそうだよ、この子。

 と、そうこうしている間にも、残りのニコ・ロビンとゾロが陸地に降りてきた。さきほどと変わらず顔には恐ろしげな笑みが浮かんでいる。その横にすでにコートを奪ったルフィが駆け寄る。

 まずいまずいまずい、あの三人は本当まずい。並ぶだけで総合賞金額6億だぞ?! アホかっ!! ていうか、それ以前に顔見知りって時点でなんかいろいろダメな気がする!

 しかし、早く逃げねばと俺が三人から視線を外そうとした直前、運悪く彼らと目が合ってしまった。

 

「あ!!」

「お」

「あら?」

 

 三人の声が揃う。ルフィはぱあっと顔を輝かせ、ゾロとニコ・ロビンの二人は意外そうな顔をした。

 

「お前ー!!」

「なんだ、ルフィ。お前、あいつ知ってんのか?」

「ゾロも面識があるようね」

「そういうお前もだろ」

「ゾロとロビンもあいつ知ってんのか!」

「おや、みなさんお知り合いで?」

 

 うおお、俺のこと覚えててくれたんですね!! ゾロとニコ・ロビンにとっての俺なんて、ほとんど通行人Gとかそんなもんだったろうに。感謝感激雨あられ!!

 ルフィもすっかり元気になってるみたいで、喜ばしい限りだ。いろいろ話したいことっていうか、聞きたいこととかあるけど……ううっ、今はそんな場合ではないのだ!

 

「お……俺のことは見なかったことにしてくださああああい!!!」

 

 悔し涙混じりにそう叫んで、俺たちは脱兎のごとくその場から逃げ去った。

 

 ……はずだったのだが。

 

「おーい! 待てよ、チトセー! なんで逃げるんだよー!」

「ハッ……ハァ……ハァッ……」

 

 背後から徐々にルフィたちが追いついてくる。

 それもそのはず、彼らは茶ひげさんをやっつけた後、なんと彼をそのまま足にして研究所の方へとやってきたのだ。追い剥ぎの件でも思ったけど、意外と容赦ないな、ルフィたち。

 残りの敵を蹴散らす時間を差し引いたとしても、人間の足と動物の足とではどう頑張っても研究所に辿り着くまでには追いつかれてしまう。

 必死に逃げている背後から明るく声をかけられる事態に心折れそうになっていると、ようやく研究所の建物が見えてきた。

 中に駆け込めばこっちのもんだ! と希望を見出した俺だったが、研究所前に広がる惨状を見た途端そんなものは頭から吹き飛んだ。

 氷山がバラバラになっていたり、元は軍艦だったと思われるものの残骸がそこら中に散らばっていたり、とにかく大惨事だ。

 その惨状の中をすたすたと優雅に歩く人影一つ。

 

「ハァ……ハァ……船長……?」

「お前ら、ここでなにしてる」

 

 駆け寄ってくる俺とリーゼに気付いた船長が怪訝そうな顔で振り向いた。

 船長のもとまで辿り着いた俺は、必死に息を整えながら「それはこっちの台詞です」と切れ切れに言い返した。

 

「な、んなんですか、この惨状……!! これって、海軍ですよね?! なにがあったら、こんなことに……」

「喚くな、うるせェ。それよりおれの質問に答えろ」

 

 船長を頼ってやっとの思いで逃げ帰ってきた俺たちにこの仕打ち……! 船長の暴君! そこに痺れる憧れるゥ!

 

「船長、麦わらがいた。殴っていい?」

「やっぱりまだ諦めてなかったか!」

「あァ、麦わら屋か……」

 

 リーゼの台詞の後半部分にはコメントせずに、船長は妙に納得したように呟いた。

 

「お、驚かないんですか?」

「おれもさっき他の奴らに会った」

「えェ?」

 

 もう一体なにがどうなってんだよ。“麦わらの一味”と関わると、俺はいつも混乱してばっかだ。

 とにかくわかったことは、ここパンクハザードが次の彼らのステージとして選ばれてしまったらしいということだ。俺は生きてこの島を出れるんだろうか……。

 

「おーい、チトセー!! ん!? あれ~!? お前はー!!」

「うわっ、来た!」

 

 茶ひげさんに乗ったルフィたちが追いついてきて、俺はとっさに船長を盾にするようにその背に隠れた。細くて隠れきれませんが。

 

「おーい! お前じゃんかー! おれだよおれ~! あんときゃありがとなー!!」

「どどど、どうすんすか、船長!!」

「お前はいい加減もう少し落ち着きを身につけたらどうなんだ」

 

 呆れたように船長が溜め息を吐いていると、いつの間にかルフィは茶ひげさんから降りてこっちに駆け寄ってきていた。

 

「久しぶりだなァ、トラ男、チトセ! こんなところで会えると思ってなかった、よかった! あんときゃ本当にありがとう!!」

「ト、トラ男?」

 

 あっ、トラファルガーでトラ男か! え、なにそれウケるんだが……。あ、でも今笑ったら確実にバラされる。声帯だけ切り取られて声出せなくされる。やだこわい。

 

「――よく生きてたもんだな、麦わら屋。だが、あのときのことを恩に感じる必要はねェ」

 

 船長がしゃべっている間、俺は黙ってリーゼの肩を押さえて待機する。ルフィとは俺も話したい気持ちもあったが、船長の話を邪魔するわけにはいかない。あ、ちなみにリーゼの肩を押さえてんのは、リーゼがルフィに飛びかからないようにだ。

 ああ、それにしてもルフィの笑顔はあれだな、純粋100パーセントっていうか、例えるなら太陽みたいだ。ウチの船長は悪い顔ばっかだから、こういうの新鮮だよなァ。

 

「(おい!! 助けてくれー! トラファルガー!!)」

 

 不意にルフィの背後から潜めた呼び声が聞こえてくる。茶ひげさんだ。

 目が合ったので、とりあえず俺お得意のへらへら笑顔を返してみたんだが……不評だったようだ。茶ひげさんは俺に怒りの眼差しを向ける。

 

「テメェ、一人でさっさと逃げやがって……!」

 

 もう声潜めてない! 俺の悪口がダダ漏れだ! でも事実なので言い返せんな……。

 茶ひげさんとそんなやりとりをしていると、彼の背に乗っていた面々がひょいと顔を覗かせた。ゾロとニコ・ロビンともばっちり目が合ってしまう。

 敵なのかなんなのか未だにはっきりしないこの状況で、俺は一体どういうスタンスで彼らと向き合えばいいんだ……なんて一瞬悩んだが、2年経ってますます美人になったニコ・ロビンが笑顔で手を振ってきたので、なんかもうどうでもよくなった。俺も笑顔で手を振り返す……と、突然鬼哭の柄が俺の側頭部を殴打した。

 

「ごふっ! な、なんすかっ! なんで俺今殴られたんすか!?」

 

 患部を押さえながら涙目で抗議するが、船長は飄々とした様子で俺を華麗に無視した。かと思いきや、俺の横で船長に咎めるような視線を送っていたリーゼには微笑みを向けた。

 

「安心しろ、リーゼ。今のはこいつがアホみてェな面してたから矯正してやっただけだ。見ろ、さっきより少しマシな面になってるだろう?」

「どういうごまかし方ですか……。明らかにただの理不尽だったでしょう。なァ、リーゼ」

「…………」

「あ、あれ? なんで沈黙? え? 俺そんな酷い顔してた?!」

「だから言ったろ」

 

 えええ、そりゃ、多少はデレッとしたかもしれないけど……そんなに?

 やや納得がいかず俺が首を傾げていると、俺たちのやりとりを見ていたルフィが楽しそうに笑う。

 

「お前ら仲良いなァ」

「はあ、仲が良いと言っていただけるのは嬉しいですが、今のやりとりでそう思われるのは、ちょっと……」

 

 なんかまるで俺の不憫キャラがデフォルトみたいな見方されてそうで不安だ。俺は決して不憫キャラなどではない! 船長の理不尽な暴力には屈しない!

 心の中で熱い決意を固めていると、そこへ「スモーカーさんっ!!」と女の人が駆けつけてきた。

 

「わっ、海軍!?」

「えぇっ、海軍!?」

 

 あっ、でも船長七武海だし、俺は逃げる必要ないかァー。

 ふうと一息吐いて、少し落ち着いた気持ちで女海兵さんの行動を見守る。

 彼女は慌てた様子で地面に倒れている海兵に駆け寄った。あ、あの人心臓が……船長に取られたのか。ん? 船長が海兵の心臓を? あれ? 七武海なのに、海軍と戦った、のか? うわ、なんか嫌な予感。

 女海兵さんもそれを確認すると、目に涙を浮かべて俺たちを睨み付けてきた。

 

「よくも!!!」

 

 鬼気迫る勢いで彼女は刀を手に俺たち、というか船長に斬りかかってくる。ぎゃっ、やっぱ敵かよ!

 一瞬俺とリーゼが構えたが、船長は俺たちを手で制して彼女と倒れている海兵の精神をシャンブルズさせた。すると、女海兵さんはどさりと地面に倒れ込む。

 

「懲りねェ女だ。そう深刻になるな」

「まあまあ、普通仲間が心臓切り取られたら取り乱して当たり前じゃないですか。でも、目が覚めたときの彼らの反応、ちょっと楽しみですねェ」

「お前はもう少し深刻になれ」

 

 もう一度鬼哭が俺の頭を目掛けて軽く振り下ろされたが、今度はすんでのところでそれを回避する。2年前なら確実にこれも食らっていただろう。こういうときにちょっと己の成長具合を感じるよな!

 なんてやっている間にも、他の海兵たちが大勢駆けつけてくる。げっ、あれG-5じゃねーか。

 

「ルフィ! 急げ、ここはヤベェ!!」

「うん!」

 

 仲間の言葉に頷くと、ルフィが茶ひげさんの方へと戻っていく。ていうか、後ろ姿で初めて気付いたんだが、あの人背中になにくっつけてんだ? どう見ても人間の下半身だぞあれ……。

 

「そうだ、トラ男! ちょっと聞きてェんだけど!」

「研究所の裏へ回れ。お前らの探し物ならそこにある」

 

 よくわからない二人の会話を聞きながら、研究所へと歩き出す船長に従う。

 

「また後で会うだろう。……互いに取り返すべきものがある」

 

 研究所内へと入る前に船長はそう言い残す。そして、俺たちが中に入るとすぐに背後で扉が閉まった。

 隔絶された外の喧噪を聞きながら、俺はなんとも意味深長な船長の台詞について自分なりに数秒考えてみた。結果。

 

「……茶ひげさんのことですか?」

「…………ハァ」

 

 「ダメだこいつ」みたいな溜め息吐かないで!

 せめて言葉で返してください、船長!!

 

 

 




(2014.9.15 改訂)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。