ハートの一船員   作:葛篭藤

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パンクハザード編
第13話 招かれざる訪問者


 

 

 心地よい眠りの中、意識はふわりふわりとたゆたうように流れる。その意識がふと引き上げられるような感覚があったかと思うと、俺はぱちりと目を開けていた。

 体はまだ覚醒しきっていないように脱力していたが、意識ははっきりしており、すっきりとした目覚めであると言えた。

 ベッドサイドの置き時計を見ると、針は7時の少し前を示している。いつも通りの時間だ。海賊になってからの規則正しい生活のおかげで、今ではアラームなしの起床もお手の物となった。

 ベッドから身を起こし、ぐいーっと伸びをする。それから、真横にある窓から外を覗いた。見えるのは青い海……ではなく、白銀の風景。空には重たげな灰色の雲からは、絶え間なく雪が降っている。そんな風景も、今ではすっかり見慣れたものとなっていた。

 ――今日も寒そうだ。

 ふうと息を吐き出し、俺は今日一日の活動を始めるため、窓に背を向け歩き出した。

 

 ここはパンクハザード島、極寒の地。

 

 

 

 

 船長が「パンクハザード島へ行く」と言い出したのは、今となってはもう3ヶ月も前のことだ。

 計画の詳細を話さないまま行動に移すことは船長には珍しいことでもないので、当初は誰も疑問は挟まなかった。ただし、それは当然みんな揃って行くものだと思っていたからだ。別行動、しかもそれなりに長期間となると話は別だった。俺たちクルーの間からは不満、というよりは不安の声がちらほら上がった。

 とはいえ、やはり最終的には船長の指示に従うのが俺たちだ。仕方がない。あの人はこうと決めたことを俺たちの意見で変えたりはしないし、結局のところ俺たちもそんな船長の決定を信頼しているのだから。

 ただ、驚きだったのは俺とリーゼも一緒に連れて行くと船長が言ったことだった。これについてもいろいろ疑問や不安は多々あったわけなんだが、結局はなにも聞かないまま俺たちはその指示に従った。

 そうして、俺は船長とリーゼと、世界政府の元研究施設であり、現在はシーザー・クラウンが君臨するこのパンクハザード島にやってきた。

 島に来てから教えてもらったのだが、なにやら目的はSADという薬品? らしい。その製造場所もこの3ヶ月の間に掴んでいたが、それをどうするつもりなのかは未だ教えてもらっていない。あとは、世界政府の研究のデータだとかそんなものの調査を細々とこなしながら、この3ヶ月を過ごしてきた。

 島にやってきた当時は一体どんな危険が待ち受けているのかとびくびくしていたが、ログの取れないこの島に外敵なんてのは滅多に、というか一切なく、いっそ海を漂っているときよりも日々は安穏としていた。

 つまるところ、俺の役割ってのはなんだったのかっていうと、基本雑用だ。雑用と……

 

「船長、朝ですよー」

「…………」

「起きてくださーい」

 

 船長のお世話係だ。

 炊事洗濯掃除などの家事は全部俺の仕事。こんなん完全に予想外だったよ。なんだこれは。俺はこの島に主夫力を鍛えるためにやってきたのか? もしくはあれか? リーゼのおまけ? ……考えると虚しくなるからやめよう。きっと有事の際は戦力として活躍するんだよ……きっとそうに違いないさ……。いや、もちろんそんな機会は訪れないでくれて一向に構わないんだけどな。

 えー、そんなこんなで主夫をやっている俺の朝は、まず船長を起こすところから始まる。といっても、こんな風に軽く声かけるだけだけど。で、その間にリーゼが起きてくる。

 

「おはよー」

「おはよう……」

 

 ちなみに、部屋は三人一緒だ。広い一部屋をタンスや本棚で仕切ってそれぞれの固有スペースと共有スペースを作っている。三部屋用意してもらうことも可能だったのだが、いわば敵地みたいなもんだからな、万が一の場合に備えてって奴だ。

 で、船長に声をかけたら、俺は朝食を作りに調理室へ向かう。一応リーゼも手伝ってくれるのだが、なにせ戦闘以外のことはからきしなのだ。出来上がったものを運んでもらうくらいしかやってもらうことがない。ちょくちょく練習してるんだけどな……なかなか上達しないのだ。まァ、人には向き不向きってあるよな。

 そして、朝食が出来上がって部屋の食卓に並べられた頃になると、船長がのろのろと起き出してくる。それがパンクハザード島での俺たちの日常だ。

 

「おはようございます!」

「あァ……」

 

 顔を洗ったりして軽く身だしなみを整えた船長が気だるげに返事をして食卓に着く。

 献立は、白米、焼き魚、味噌汁、卵焼きとほうれん草のおひたしだ。純和食。いいよな。

 

「チトセ、機嫌いい」

 

 リーゼと俺も食卓に着くと、不意にリーゼが言った。

 

「あ、わかる? 実はさー、麦わらの夢を見てしまって」

 

 えへへーと笑いながら言うと、正面に座っている船長が何故かあからさまに顔を顰める。不思議に思いながらも、「夢の中で爽快に敵をぶっ飛ばしていく麦わらの一味、かっこよかったなァ」と感想を零す。そんな俺の脳裏に、ふと船長の不機嫌の理由が閃いた。

 

「あっ、でも船長が夢に出てきたときの方がテンション上がりますから! そこんとこはご心配なく!」

「気持ち悪ィこと言ってねェでさっさと食え」

「照れなくたっていいんですよ?」

「つくづくめでたい頭だな」

 

 淡々とただ事実を述べるように船長が言う。呆れも嘲りもないその声音には、泣きつく隙すらない。「バラされたいか」とかってすごんでくれた方がまだ愛がある気がする。船長のデレが絶賛供給不足だぜ……。

 心の中で嘆きつつ、俺は「いただきます」と手を合わせてからご飯に箸をつけた。

 

「麦わら、この島に来たりしませんかねェ」

「ログの取れねェこの島に訪問者はない。第一、来られたとしてもこっちは迷惑なだけだ」

「わかってますよう。ちょっと言ってみただけですって」

 

 そう無駄口を叩きながらご飯を食べていると、ふと船長が箸を止めた。

 

「今日の卵焼き……」

「ああ、リーゼが作りました」

「…………形は前より上達してる」

 

 形は、と限定する辺りは正直だが、ちゃんと全部食べるんだから船長はやっぱりリーゼには甘い。肝心の味はどんなかって? それは……苦酸っぱい感じだ。

 リーゼは船長の言葉に無表情に頷くと、「次、頑張る」と言った。褒められた点よりも至らない点を気に留めるなんて、健気だよな。俺も船長も、失敗作くらいいくらでも食べちゃうって話だよ。

 

「それで、今日はどうします? なんか予定あります?」

「いや」

「じゃあ、今日も自由行動ですか」

「あァ。適当に過ごせ」

 

 朝食を食べながら一日の予定を確認するのも、ここに来てからの日課だ。とはいえ、大体の調査が終わった最近は特に予定のない日が続いており、基本は自由行動だ。部屋でごろごろしたり、雪だるま作ったり、ケンタウロス巡回部隊に同行したりして、船長とは別々に過ごしている。

 

「今日は……んー、じゃあ茶ひげさんと一緒にパトロールに行こうかなァ」

 

 パトロールとはいっても、どうせ今日も“異常なし”なんだろうが。

 「どうする?」と隣のリーゼに聞いてみると、彼女はいつものように一つ頷いた。

 今日の予定はとりあえず決まったようだ。

 

 

 

 

 

「あら、おはよう、チトセ、リーゼ」

「おはようございます」

「…………はよう」

 

 朝食を済ませた後、茶ひげさんと合流するためにシーザーの研究室へ向かうと、そこにはモネさんとシーザーがいた。というか、まァ、いつもいるんだけどな。

 リーゼは、何故かは知らないがモネさんが苦手らしく、彼女の前だといつも以上に無口になる。最初は挨拶も口にしないほどだったのだが、さすがにそれはよろしくないということで注意した。それで今は、かろうじて聞こえるか聞こえないかくらいの声量でだが、挨拶はするようになった。

 

「ローは?」

「今日は、というか今日も別行動なので。どこか行っちゃいました」

「ふふ、相変わらず素っ気ないのね……。それで? なんのご用でここに来たのかしら?」

「あ、はい。今日は俺とリーゼは茶ひげさんと一緒に外回りしようかと思って」

「チッ、ローの奴、ガキどもをおれに押し付けやがって」

 

 俺の言葉に、シーザーが忌々しげに呟きを零す。ガキじゃないですよって訂正するのももはや面倒だ。諦めた気持ちで俺はその呟きを軽く聞き流したのだが、なんとリーゼがそれに反論を唱えた。

 

「私たちが一緒に行動するのは茶ひげ。あなたは関係ない」

 

 その通りだ!! 切り込みが鋭いっ! 容赦ないっ!

 リーゼの反論を受けたシーザーは一瞬言葉に詰まった後、怒りに顔を歪めた。

 

「茶ひげはおれの部下だ! その世話になるってことは、すなわちおれの世話になるってことなんだよ!! わかったかクソガキィ!!」

 

 そう怒鳴り返したが、リーゼはすでに聞いていない。そんな彼女の反応にシーザーはキィーッといきり立つが、それもスルーだ。

 これまたどういうわけなのか、リーゼはシーザーがかなり癇に障るらしく、彼に対しては自ら毒を吐くことが結構ある。リーゼが自分から口を利く相手というのも珍しいので、(半分冗談だが)「嫌よ嫌よも好きのうちって奴か?」なんて言ってみたことがあるが……ものすごく悲しげな瞳を返されてしまった。

 ちなみに俺個人は、モネさんは近寄りがたいミステリアス美女、シーザーは面倒くさいゲス科学者と思っている。シーザーはともかくとして、モネさんは俺にとっても少し苦手なタイプだ。

 

「最近暇そうね。そろそろ調べ物も終わって島を出るのかしら?」

「どうなんですかね。船長気まぐれだから、俺にはなんとも」

 

 そんな風にモネさんと適当に言葉を交わしていると、やがて研究所のドアが音を立てて開いた。現れたのは、俺たちが待っていた茶ひげさんだった。

 

「マスター、おはようございます!!」

「おお、茶ひげ。今日も精が出るな」

「ウォッホ! 当然です。今日も周辺の警備は任せてください!」

「あァ、頼りにしているぞ」

 

 茶ひげさんとシーザーの会話を聞いていると、もやもやする。というか、むかむかする。シーザーの横っ面を無性に引っぱたきたくなる。

 堪えろー堪えろーと自分に言い聞かせながら、俺は二人の会話に割り込んだ。

 

「あの、茶ひげさん、今日は俺たちも同行してもいいですか?」

「ん? あァ、チトセとリーゼか。もちろん構わねェが」

「ありがとうございます」

「茶ひげ! このクソガキどもに誰がこの島で一番偉いのかを、よーく教え込んでおけ! いいな!!」

「はあ、よくわかりませんが……お任せください、マスター!! ウォッホッホ!」

「……チッ」

 

 誇らしげに笑う茶ひげさんとは対照的に、リーゼは疎ましそうに舌打ちをする。すると、シーザーは当然「テメェ今舌打ちしたか?!」と突っかかった。見てる分には面白いんだけどな。ほっとくといつまでも続くので、俺は二人の仲裁に入った。

 

「まあまあ、そう怒らないで」

「誰のせいだと思ってやがる!!」

「リーゼにはよく言い聞かせておきますので」

「そう言ってこいつの態度が改善されたためしがねェじゃねェか!!」

「いやァ、彼女の意志は固いようでしてね」

「それでフォローしてるつもりかっ!」

「あはは」

 

 へらへら笑いながらシーザーのツッコミを躱していると、リーゼが早く行こうと言うように俺の裾を引っ張った。シーザーいびりはもう気が済んだらしい。

 

「茶ひげさん、ぼちぼち出発しましょうか」

「あ、あァ。――ではマスター、行ってきます」

「チッ、さっさと行け」

「いってらっしゃい」

 

 シーザーとモネさんに見送られて、俺たちは研究所を発った。

 

 

 

 

 外に出ると、肌を刺すような極寒の風が容赦なく吹き付けてきた。

 

「ひぇええ、今日も寒ィ……!!」

 

 急速な温度の変化に体は勝手に縮み上がり、俺は宵月を抱きしめた。宵月ってのは俺の愛用武器で、剣状の穂先をした槍だ。極めて平和な島ではあるが、武器は肌身離さず、だ。そして当然だが、そんなものを抱きしめたところで暖かくもなんともない。

 そんな俺を、茶ひげさんが呆れた顔で見る。

 

「お前たちも物好きだな、わざわざ外回りに付いてくるなんて」

「一日室内ってのも、味気ないじゃないですか」

 

 そう言いつつ、俺は「お邪魔します」と茶ひげさんの背によじ登った。続けてリーゼも引っ張り上げて乗せる。茶ひげさんの背中は便利だ。乗り心地は安定してるし、上体の方に寄っていれば風も避けられる。

 

「そうは言ってもお前ら、おれの背に乗るだけで自分で歩かねェじゃねェか。運動量で考えりゃ、大して変わらねェだろう」

「外に出るっていうことが大事なんですよ! それに、動物の足を持ったみんなに合わせて歩いてたら、あっという間にへばっちゃうでしょう?」

「そりゃそうだが……」

 

 茶ひげさんは納得しきらないように首を捻ったが、それ以上は追求せずに今日のパトロールのため雪の中を歩き出した。しかし、視界を覆うのは白一色で、景色に代わり映えはない。

 その白い景色をぼんやりと眺めていると、ふと今朝夢の中で見たルフィの姿を思い出した。元気に奔放に飛び回る、()()()のルフィの姿を。

 

 そう、あの頂上戦争から丸々2年の月日が過ぎた。

 白ひげ亡き後の海は大きく荒れ、前以上に無法者がばっこするようになった。中でも“最悪の世代”の連中は、そりゃもうはばかることなく暴れ回り、事件を起こしては海に混乱をもたらした。もちろん、ウチの船長もその中の一人だ。

 かと思えば、突然七武海に入るとか言い出したりするし。普通、入るって言って入れるもんでもないと思うのだが、そこはそれ、船長ですから。海賊の心臓100コ集めて本部に届けるという、もはや嫌がらせに近い方法で以て見事加入した。まァ、それもこれも、全部このパンクハザードに辿り着くためだったらしいのだが。きっとまたとんでもないことをしでかすつもりなんだろう。

 そんな感じで俺の2年は波乱に満ちていたわけだが、“麦わらの一味”に関する音沙汰は一切なかった。巷で出回ってた死亡説なんてまったく信じてはいなかったが、焦れったい日々ではあった。しかし、それももう終わりだ。

 「麦わらの一味、完全復活」、その文字が躍る記事が届いたのは今日から数日前のことだ。2年の時を経て、彼らはシャボンディ諸島に再び現れた。そこでまた随分と派手に暴れ回った彼らは、ここ“新世界”に向けて出航したらしい。

 これからまた時代が大きく動き出す。怖いような、楽しみなような、そんな複雑な気持ちだ。

 

 ルフィたちが動き出したことと関係あるのかはわからないが、俺たちのこの島での仕事もそろそろ大詰めを迎えようとしているようだった。船長はなにも言わないのでさっきのモネさんの質問は適当にかわしておいたが、おそらくここを出る日はそう遠くないだろう。

 なので、今日外回りに付いてきたのは雪景色の見納めって奴だ。

 

「あっ、そうだ。湖の辺りに着いたらみんなで雪像作りません?」

「お前な……。おれたちは遊びに行ってるわけじゃねェんだぞ」

「でも、どうせ異常なんてないでしょうし、ちょっとくらいいいじゃないですか」

「あんた、あのトラファルガーの部下とは思えねェほど脳天気だな」

「ハートの海賊団の脳天気担当ですから!」

「そんなドヤ顔で言われてもよ……」

 

 茶ひげさんの部下が呆れ顔で溜め息をついた。そのとき、不意に茶ひげさんの懐にある電伝虫が「プルプルプル」と鳴き出した。おや珍しい、と思いながら茶ひげさんが応答するのを見守っていると、受話器を取った途端相手の切羽詰まった声が電伝虫の口から飛び出した。

 

『ボス!! 侵入者ですっ!!』

「なに、侵入者だと?!」

「えっ?! 侵入者!?」

 

 突然の報に俺たちはみんな息を呑み、電伝虫の声に聞き入った。

 相手の声は、寒さのせいか恐怖のせいか、ガタガタと震えていた。

 

『さ、侍が……ダメだ、全然歯が立たねェ……!! ヒィっ、こ、こっちに来る!! ボス、た、助けてェー!!』

「おい! そこはどこだ?! おい!!」

『ここは……Cの……ぎゃああああ!!!』

 

 その悲鳴を最後に通信はぶつりと途絶えてしまった。

 ただ事ではないことを誰もが悟り、のんびりとした雰囲気から一転、俺たちの間には緊張が走る。俺は無意識に宵月の柄を握る手に力を込めた。

 

「……あったじゃねェか、異常」

「ありましたね……」

 

 苦々しそうにぼやく茶ひげさんに、俺も気まずい思いで返事を返す。って、こんな悠長なこと言ってる場合じゃない!

 「早く助けに行かないと」と言うと、茶ひげさんが「あァ」と相槌を打った。

 

「C区域と言っていたな」

「えーと、Cっていうと、確か湖の方でしたよね」

「そうだ。と言っても、だいぶ広い。二手に分かれよう」

 

 茶ひげさんの指示に従って、部隊は二つに分けられた。俺とリーゼは茶ひげさんとは別の方の部隊と一緒に行くことになる。ついに戦力として活躍するときがやってきたわけだが、シーザーのためかと思うと少し癪だ。

 

「……いやいや、そうじゃないだろ。これは茶ひげさんの部下を助けに行くんであって、別にシーザーのためになにかするわけじゃ……」

「? なにブツブツ言ってるんだ?」

「あ、いえ! なんでもないです!」

 

 俺は慌ててごまかしたが、俺の呟きが聞こえていたらしいリーゼはこくこくと頷いて同意を示す。周りはそんなリーゼを不思議そうに見た。

 そんなやりとりの後、俺たちは指示通り二手に分かれた。

 俺とリーゼは今度もまた人の背に乗っけてもらって、C区域の一端を見て回った。

 

「――いませんね」

「あァ……もしかしたらボスの方だったのかもしれねェな」

 

 小高い丘に登って辺りを見回すが、侍も、斬られた味方も見当たらない。どうやらこっちはハズレだったようだ。

 

「茶ひげさん、大丈夫ですかね……。早く向こうに合流したほうがいいかも」

「あんた随分と心配性だなァ」

「でも、だって侍ってすごく強いんでしょう? なんならウチの船長に助力を申し出ても……」

「茶ひげのボスは強ェから心配いらねェよ」

 

 心配する俺の言葉を一人が鼻で笑い飛ばしたが、いまいち安心できない。未だ不安げな顔をする俺を見て、別の奴が「つーかよ」と口を挟む。

 

「仮にもトラファルガーの部下だっつーのに、頼もしさの欠片もねェな」

「うぐっ……。お、俺は……凡人なんですよ!! 自分の分をわきまえてるんです!」

「はあ」

「確かに船長は七武海で、元懸賞金4億4千万で、”最悪の世代”ですけど? そんな船長に鼻高々ですけど! でも一瞬でもその船長の威光を自分のものだと勘違いしたら、俺みたいな凡人はその瞬間に即・殺! ですよ!」

「わ、わかったから穂先を突きつけんな!」

「いいですか、人間謙虚が一番です……。ハートの海賊団の謙虚担当が言うんです、覚えておいて損はありません」

「脳天気担当じゃなかったのかよ」

 

 真顔で切々と語りかける俺。を、引き気味に見る茶ひげさん部下一同。くっ……、いつか俺の言葉の正しさを思い知るときがくるんだからな!

 

「ていうか、こんなことで問答してる場合じゃないですよ」

「あんたが一方的にまくし立ててただけだけどな」

「どうするんですか? もう少し見て回るか、それとも茶ひげさんたちと合流するか」

 

 俺がそう言ったとき、別の奴の背に乗っていたリーゼが不意にその背の上に立った。彼女は耳に手を当てて、なにかの音を拾おうとしているようだった。

 

「リーゼ?」

「……角笛の音」

 

 リーゼがぽつりと答える。角笛? と思って俺も耳を澄ませてみると、吹雪に乗って、微かにだが確かにそれらしき音が聞こえてきた。

 

「これ、茶ひげさんたちの方からだよな?」

「うん」

「なにっ!?」

「侍、やっぱり向こうだったのかも! 急ぎましょう!!」

 

 俺が声をかけると同時に、ケンタウロスたちは勢いよく走り出した。耳元を風がびゅうびゅうと吹き抜けていくのを聞きながら、雪で霞む視界の先を見つめた。この先に、一体なにが俺たちを待ち受けているんだろう。なんにせよ大事にならないことを祈るばかりだ、とそっと溜め息を吐く。

残念なことに、俺のこの祈りは聞き入れてもらえなかったのだが。

 

 




ワンピースの世界では米は鍋で炊くんだろうかと考えていたら、興味が湧いたのでやってみた。
おいしかった。
(2014.9.15 改訂)

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