9話 本編のはじまり
暗い暗い暗い、何かの液体。ひどく眠い。何も感じない。
周りから何か音が聞こえる。
「何で従属契約できないのですか。これ以上のものを用意しなさい。」
「ゲオルギーネさま、これ以上の品質を求められましてもアウブが直接行うもの以外無理でございます。」
キンキン声が聞こえる。
「まったく、どうしようもないやつらですわ。仕方ない、礎に運んで魔力供給させましょう。これだけ犠牲を出してこの体たらくまったく使えないやつらですわ。」
げおるぎーね...、なんだかきいたことあるなまえだけどおもいだせない。
「まったく、エーレンフェストの聖女。噂以上ですわ。従属させて奴隷として使えればどれほど私の計画が早められたか。まったくまったく!」
水が揺れ動いているのを感じる。また意識が落ちた。
暗い暗い暗い、何かに無理やり繋がれている。そう、ウラノの世界の充電ケーブル。
電池が私で魔力を一方的に吸い取られている。固まっていた魔力が流れ出す。
肌に感覚が戻っていく感じもするけどまったく動かない。
暗い暗い暗い、どれだけの長さを暗さとすごしただろうか。なにやらいろいろな情報が流れてくる。
これは戦争?人と人が争っていたり、偉そうな人が演説していたりウラノの世界のB級映画とはいえないけど様々な情報が流れてくる。
何世代もの人の映像が流れる。海があり魚があり、確実にエーレンフェストではないどこかの記憶だ。
「うーん、ここどこ。」
かろうじてまぶただけ動いたけど水の中のようだ。どす黒くうっすらとしか周りが見えない。
私どうしていたんだっけ?
へんな棒みたいな物が大きな魔石のようなものにつながっている。これは礎?
「ふむ、まさか仮死状態から戻るとはな。もう少し寝ていろ。」
だれだろう、シルエットからして男性?
次に起きたときはベットの上で目の前に知らない男がいて契約書が目の前においてありました。
「ゲオルギーネ、いったいこやつは誰だ。誰の許しを得て礎に持ち込んだ。」
「あらやだ、アウブ。もはやアーレンスバッハには礎にすら魔力が枯渇気味だったから魔力そのものを持ってきてあげたのですわよ。」
こやつ、まさか他領から拉致をしてきたのか。
「まったく、まあ、残念ながら私では使えないのでアウブの好きに使って頂戴な。汚いとお思い?でもおかげで礎の魔力は久しぶりに安定域に達しましたわ。このままではアーレンスバッハの崩壊は待ったなしだったのをわたくしが救ってあげただけですわ。」
悔しいが実際事実だ、われらアーレンスバッハには今領主候補生がディートリンデしか残っていない。加えて大領地に関わらず領主一族の魔力がまったく足りていない。
せめてベルケシュトックの件さえなければなどといっても詮無きことだ。
ゲオルギーネが動いたせいで、エーレンフェストより宣戦布告かどうかの確認まで来て頭の痛い問題ばかりだ。
もう動いてしまった以上、利用できるものは何でも利用するしかない。たとえ年端の行かぬ少女だとしても。
目の前の男は契約書を私に見えるように見せ朗々と読み上げた。
アウブアーレンスバッハに絶対服従。
主はアウブアーレンスバッハとする。
養女としてアウブアーレンスバッハの子となる
名前をローゼマインと改める。
アーレンスバッハに命をささげる。
など従属の契約に関する書類であった。
「私のことを恨んでくれてかまわん。これより契約を結ぶ。」
そういうと動かない私指先を切り契約書に押し当てようとしてきた。
そんなのいやだ、ふざけるな。こんな動けなくして従属契約させられるなんて冗談じゃない。
一度目はバチとはじかれた様になり、相手の男が驚愕した。
「なるほど、だからゲオルギーネは私に譲ってきたのか。」
そう言うと別の用紙を出してきてさっきと同じ内容を書いていきます。
いやだ、なんで、助けてお父さん、お母さん、トゥーリ。
だめだ、ここにはこの男しかいない。私一人で何とかしないと。
書類が完成したらしく改めて押してくる。今度ははじかれない。
ふざけるな、私の魔力血を解して動け、動け。
一番まずいのは命をささげるという部分だ。魔力の干渉をかけるにしても一番かけやすいように見えます。
お願いお父さん、お母さん、トゥーリ、カミル。私に力を貸して。
契約書が動き出します。血が噴出し『命をささげる』という文章が『ただし本人の命が関わる命令に関してはその命令を無効にする。』という文に変わります。
相当無理をしたせいか、意識がまた落ちました。
最低限は何とかなりそうだよ。私がんばったよ。ほめてよ、お父さん、お母さん、トゥーリ、カミル。
なんと言う娘だ、契約に対して強制的な契約変更をかけるなんて聞いたことがない。
魔力に余りに隔絶した差があると契約ができないという事態が起こりえるということは知っていたが、仮にも私はアウブだ。
さらに、魔力の粋を尽くした最高級の契約用の紙と契約インクを使ってまでそのまま契約ができないなど問題外だ。
だが、これでアーレンスバッハは救われる。命に関わらない限り絶対服従であり、従属契約している限り従属の指輪も使えるはずだ。
ようは使いようだ。
しかし、本当に従属の指輪をつけさせることができるのか。仕方がない、もはや使われることのなくなった特殊な領主一族用の従属の指輪を使うか。
果たして本当に従属契約がうまくいっているのか不安になりながらアウブたる男は領主一族用の従属の指輪を娘につけた。
アーレンスバッハ編始動しました。