やはりたどり着いたのは、はじまりの庭です。
前回神のご加護を取得した時と同じように、この
「やっと来たわね。まったくあそこまで来て逃げるだなんて。あはは、いえ、いっその事最後まで逃げてもよかったのよ。」
「逃げられないような状況を作っておいてよく言うよ。ねえ、あなたは...。」
ウラノでいいの?
「正確には違うわ。自己紹介とかめんどくさいわね。
「さっきシュミル型の魔術具に時間が無いみたいなこと言われたけど。」
「シュバルツ達ね。当然時間を止めてあげるわ。」
やっぱりこの人はウラノではないね。私の記憶にあるウラノはこんな私を不快にさせるような笑顔はしません。
「さて、では改めて自己紹介してあげますか。貴方は既に分かっているだろうけどね。」
「私の名前は本須麗乃よ。一応本と物語の神って座についているわ。」
本と物語の神?
「まあ、本と物語の神と言っても読む専門ね。作るのは専門外。元々は地球って所の日本という国に住んでいたけど本に押しつぶされて死んじゃったのよね。」
本が好きだったんだね。
「それで、この世界の大元である世界のマインに魂の一部は転生したけど、当然五歳程度の子供では私の本を求めるこの心を受け止めることなんてとてもできずに2割程度しか入らなかったわけ。」
2割って、残り8割はどこへ行ったの?はるか高みに上ってしまったの?
「簡単よ。本須麗乃の残った8割が私。運よくあなたの世界の元となった世界に私と似た魂を持つ神がいて食らおうとしたんだけど、撃退されてその後一応眷属みたいな扱いで居座れることになったのよね。」
頭が追い付かないよ。なんでそうなるの。
「ほら、モトスウラノ、メスティオノーラ。語感がそっくりでしょう。魂の形まで似ているって奇跡が起きたから神になれたのよね。もちろん私の本に対する狂気があってのことだけど」
モトスウラノ。とりあえず私の知っているウラノとは違う世界での同一人物だということはわかりました。
「目を必死に逸らしても無駄よ。元の世界とかこの世界とかについて話してあげるわ。」
いやだ、聞きたくないよ!やめてよ。それって聞いたら間違いなく後戻りができない話だよね。
「はぁ、まあ聞きたくないならいいわ、元の世界の説明は省略するけど、つまりこの世界はもともと運命の神ドレッファングーアが運命の糸を切り落とした世界なのよ。」
やめてよ。そんな話聞きたくない!
「まあ、神って理不尽じゃない。本当にあいつら勝手だよね。たかだか
「神にとってはその程度のこと笑い事なのよ。そのせいでどれだけの世界で生きているものが運命を狂わせられているか。」
神にとっては些事ってことなのかな。これだけ必死に生きてきたのに。
「まあ、
新鮮って、世界の扱いがその程度なの!?
「その程度なのよ。切り落とされた世界なんて普通は存続する権利すら与えられずに捨てられるものなのよ。」
つまり、この世界は神々に見捨てられた世界でこのままいけば崩壊を待つしかないってことだよね。
「そうね、このままいけばね。この世界の神が薄いのは元の世界の残滓が残っているだけってこともわかってもらえたわね。」
つまり、物語の神を名乗る本須麗乃が神として引き取った世界で
「そういうことよ。私の神の能力として、この世界を自動で物語が作られる本と定義することでかろうじて存続している世界なのよ。」
それなら
「残念だけどそれは無理。既に百冊以上の
そんなのって、酷いよ。ならもう崩壊するだけじゃない。だったらせめて最後に村のみんなに会いに行こう。完全に詰んでるものね。
「もう、あなた分かってて言ってない。簡単な解決方法があるじゃない。」
簡単な解決方法って?そんなものがあるなら早く言ってよ。さすがウラノと同じ人。ただの意地悪な人、いえ神様じゃなかったんだね。
「本当に簡単よ。貴方が私の後を引き継いでこの世界の神になればいいのよ。」
えっと何を言っているのでしょうか。この神様は。やっぱりただの悪い神だったの?
「悪い神って失礼ね。貴方は仮にも私と同じ魂を持っているのだからやれないことはないわよ。そうすればこの世界は救われて私も他の
嫌だよそんなの!だってそれって。
「ならみんな、あなたの家族も含めて一緒に死んじゃえって。神になれば貴方から見守ることはできるわよ。」
でも、仮になれたとしても会えなくなっちゃうんでしょう。二度と触れ合えないんでしょう。見ることができるだけでも今までよりは良いかもしれないけど。
「まあ、好きにしなさい。ほら選ぶ。どちらを選んでも私はいいわよ。みんな一緒に滅びるか、それとも家族を生かしてあなたが神となるか。選択肢を与えられただけでも私って慈悲深いと思わない?」
そんなの、酷いよ。わたしが何を選ぶか分かって言っているんだもん。
「まあね。あなたは私ではなくマインだもの。では始めましょうか。」
「ローゼマイン様!大丈夫ですか。おお、なんと恐れ多い。まるで本物の女神を見ているようです。」
あははは、最悪の気分だね。これは。世界に拒絶されているってこういう感じなんだろうね。
あれほど忌々しかった従属契約も当然無くなっています。当然です。いわば私自身がこの世界になってしまったのですから。
もともと私の体は神の加護を得る儀式のせいで
結局のところ従属契約が私をアーレンスバッハというこの世界の土地に縛り付け、存在を保てていた要因の1つだったようなのです。
あれほど忌々しく思っていた契約に守られていたなんて。まったく嫌になります。
会議室に急いで戻ると、まだ時間はほとんどたっていないようでツェントとアウブが全員が残っていました。
「突然ですが、わたくしに残された時間が無くなってしまいました。後で別の者にグルトリスハイトの得る方法と代理の魔術具を持たせますので受け取ってくださいまし。」
はぁ、きついねこれは。世界が私を引っ張り取り込もうとしているのがわかります。
でもまだやリ残したことがあるうちは抗わないと。
「もしわたくしの言うことを聞いてくださるのなら、今回の件はできるだけはるか高みに上らない方向でお願いしたいかと存じます。ただでさえ魔力が足りていないのですから言いたいことは分かってもらえますね。」
全員こんな私に跪いているなんて。余計気持ち悪くなるよね。
「あと、シュタープを奪い罪をかぶる者はできるだけ実行犯だけにしてくださいませ。あくまでお願いですけど。」
「お姉様...。その神々しいお姿はどうされたのですか」
レティーツィアも私の魔力に当てられているのか頭をあげるのも辛そうです。
「レティーツィア、残念なことにわたくしは、この崩壊を止めるためにこの世界の神の眷属の一人になってしまいました。もう長くここにはいられません。」
「そんな、お姉様!」
「ふがいないわたくしを許してね。では一旦アーレンスバッハに戻りましょうか。アウブも起こさないといけませんし。」
最後にアウブダンケルフェルガーの脇へ行きハンネローレ様に時間が取れたらでいいからすぐにエーレンフェストに来てもらえるように伝えて欲しいとお願いします。
全員、跪きレティーツィア以外に誰も発言できないままこの場を去ります。
きっちり言質を取りたいですが、時間がどれだけ残されているか分かりません。
アーレンスバッハに戻ると
ディートリンデ様はゲオルギーネ様の離宮の隠し部屋に魔力を遮る銀の布で囲まれた部屋に軟禁されていました。少しやつれたように見えますが気高さを感じさせる瞳の輝きや仕草や美しくゴージャスな髪、どこを見ても以前とお変わりありません。
「ディートリンデお姉様、ご無事でよかったです!」
「ローゼマイン!いったいどうしたのですか!?体が少し透けてましてよ!」
「ディートリンデお姉様、後で結構なのでこの箱をレティーツィアやアウブ達と一緒に王族に届けていただけますか。今回の件で私よりと言って頂ければ分かってもらえますので。」
「ローゼマイン、そんなことよりあなたどうしましたの...。私の方が美しいけど美しさが段違いになってましてよ!」
え、そこなの?この方は本当にお変わりなくうれしくなります。だって、この魔力の影響を受けていないはずはないのですから。
「まあ、いいわ。大切な妹の頼みですもの。これからすぐにどこかへ行くのでしょう。どこへ行くかは知らないけど必ず帰ってくるのですよ。お姉様との約束ですよ。」
「はい、ありがとう存じます。お姉様!」
これで、ディートリンデ様がゲオルギーネ様と連座なんてことにはならないでしょう。
ディートリンデ様の件が終われば、後はアウブです。
私の魔力でお父様とお母様を癒します。
壊れかけていた魔力器官も完璧に修復します。
「ローゼマイン、いったいどうした。その姿は。」
「お父様、お母様。突然ですがお別れを言いに来ました。見ての通り神の眷属となった影響でこの世界に留まれる時間が残されていません。後はレティーツィアにお聞きください。」
「ローゼマイン。何が起こっているかは分かりませんが、帰ってくるのですよ。今は恐れ多いですがその時は娘として迎えられるよう頑張りますからね。」
ええ、お母様が私のためにいろいろ動いてくださっていたことは知っています。
ドレヴァンヒェルの婚約話が出てきたのだって私をアーレンスバッハから出すためだったってことは薄々気が付いていたのですよ。
「ありがとう存じます。今までお世話になりました。」
さてでは、エーレンフェストへ向かうために、転移陣のある国境門に移動します。
「ローゼマイン様!話はレティーツィア様より聞いております。ついていかれないのは残念ですが見送りだけでもさせて頂きます。」
「お姉様、そのわたくしもついていきたいのですがダメでしょうか。」
う、ついてきていいよって言いたいけどだめです。ここで連れて行ったら、村まで連れて行くことになってしまいます。
「レティーツィア、ごめんなさい。一人で行かせてもらえますか。私からの最後のお願いね。」
「お姉様...。そんな言い方は卑怯です。必ず帰ってきますよね。二度と会えないなんて嫌ですよ。」
レティーツィア...。
「ねえ、レティーツィア。でしたらわたくしが戻ってこられるように祈っていてくださる。祈りが届けば戻ってこられるかもしれません。」
「わかりました。毎日お祈りしますから...しますから必ず戻ってきてくださいよ。約束ですよ。」
「我々からも、ベルケシュトックの姫よ。」
「あら、あなたたちは私の出身のことを知っているはずですけど。」
この方たちは最初からエーレンフェストに言及されていたし、ここまで来て知らないなんてことはあり得ないよね。
「あなたのお母様は、ザウスガースの3代前の領主の系譜でその妻はベルケシュトックの領主一族出身なのです。ですのでベルケシュトックの姫と言えなくはありません。」
なにそれ、聞いていないよ。確かに平民にしてはマナーがどうとか結構詳しかった気もするけどそんなことがって...本当かなぁ。
まあ、お母さんはお母さんだし、出身がどことか関係ないよ。
「もう、呼び方はあなた方の好きにしてくださいませ。それでは、皆様、また会える日まで、時の女神ドレッファングーアの糸は交わりお目見えすることが叶いますように。」
「ええ、我々もお祈りいたします。ローゼマイン様との糸が切れずに戻ってこられるように。」
なんだか本当に戻ってこられそうな気がします。可能性はあるのかなぁ。
まだ他にもいろいろ話したい気もしますが時間がないので移動します。
「ケーシュルッセル エーレンフェスト」
エーレンフェストの国境門につくと、ヴィルフリート様とハンネローレ様、アウレーリアが来てくれていました。
「アウブエーレンフェストより、話は聞いている。ローゼマイン、いや、ローゼマイン様と言った方がいいのか。」
「ヴィルフリート様、ローゼマインで結構ですわ。余計な挨拶も省略してくださってありがとう存じます。」
「ローゼマイン様、お父様、アウブダンケルフェルガーより急いでいくように言われましたが、そのお姿は...話は本当だったのですね。」
「ハンネローレ様、急な呼び出しに応じて下さりありがとう存じます。お陰様で、あまりいい気分ではございませんわ。今もわたくしを最高神がおられるはるか高みへ引っ張られそうな状態です。」
「そんな、どうにかならないのですか!」
「ああ、私もハンネローネ様と同じ気持ちだ。まったくローゼマインは...。」
二人とも心配してくれるのはうれしいのですが、どうしようもありません。
刻一刻とタイムリミットが近づいているのがわかります。
「お二方のお気持ちを嬉しく思います。アウレーリアも来てくれてありがとう存じます。あなたの子を置いてきて大丈夫なのですか。」
世界と同化しかけているせいで知らない情報が見えるって気持ち悪いですね。アウレーリアからはもちろん知らされておりません。
「あなたの騎士として当然のことです。もう既に生まれてから半年以上経っておりますし仮に無理であっても駆けつける所存です。」
「アウレーリア、それはだめですよ。せっかくの生まれた命を、わたくしと違ってその子を無条件で守れるのはあなただけなのですから。」
「ええ、ローゼマイン様はそうおっしゃるのはわかっておりましたが、わたくしの気持ちは変わりません。」
アウレーリアってこんなに自分の意見を貫き通す人だったかな。エーレンフェストに来て変わったのかな。いいことだとは思うけど。
「ローゼマイン、いや、マイン。最後になるかもしれないから言いたいことを言わせてもらうぞ。」
ヴィルフリート様は、なぜか怒りを抱えた表情をしています。
何か怒らせるようなことをしたのかな。まあ、いろいろ無礼を働いているしね。そんな前置きなんかしなくても言いたいこと言っていいのですよ。
「マイン、ふざけるな!また一人で何でもやる気か。何様のつもりだ。其方はいつもそうだ。私にもらったものを返すことすら許してくれないのか。」
「でもこの世界が崩壊したら皆様困るでしょう。私にしか止められないのなら私がするしかないではないですか。」
誰かが代わってくれるのなら、代わってほしいです。私だって断腸の思いで引き受けたんだよ。
「わかっている。わかってはいるのだ。せめて我々、いや私に何かできることはないか。何か私からマインへお返しをさせてくれ。」
この方に私って何かあげたっけ。記憶にないのですが。魔術具を贈った記憶もありませんし。むしろ仕方がなかったとはいえ無礼な事ばかりしていた記憶しかありません。
「それでしたら私がここに戻ってこられるように祈っていてくださる。昔の神への祈りが強いときは神様も地上に降りてきて交流していたそうですし、祈りが届けばレッファングーアの糸が交わり帰ってこられるかもしれません。」
まあ、仮にできるようになったとしても、今現在、この世界を管理できる神として、たった一人になってしまった私が降りられるのかは不明ですが。
「わかった。全力で祈るから必ず帰って来い。」
「ローゼマイン様がそれで戻ってこられるというのなら、わたくしも...わたくしも毎日お祈りしますね。」
「わたくしは、エーレンフェストに来てから、ローゼマイン様のご無事をお祈りしなかった日はございませんが、今度は糸が交わり帰ってこられるようにお祈りいたします。」
ハンネローネ様も、アウレーリアも涙目になりながら祈ってくれるとのことです。
声が掠れていましたが私を思っていてくれる気持ちは痛いほど伝わってきます。
こんなに思われるというのも悪くは...、いえ、ものすごくうれしいものですね。
さて、本当に残された時間がなくなってきました。最後は
あの慣れ親しんだ小神殿を使えばこちらに戻って来やすくなるかもしれませんし。
最後にヴィルフリート様より魔王様の手紙ということで移動中に読めとのことで受け取ります。
読みましたが、うん、相変わらずお小言ばかりですね。
最後まで手紙ですら褒めてくれないとは...。激励の言葉として受け取っておきます。
最後に小神殿で昇ることって、魔王様が小神殿に何かをしたのでしょうか。
まあ、言われなくてもそのつもりだったのでいいでしょう。あの方に今だに行動を読まれている気がして複雑な気持ちになりますね。
レッサー君で移動します。以前よりもすごい速さで移動できます。他の方がついてくるという話もありましたが断わらせてもらいましたが、これではどのみちついては来られなかったでしょう。
あらためて下を見ると、本当にエーレンフェストです。ここしばらく夢でしか見られなかった光景です。
村へは想像以上に早く着きましたが、魔力をたくさん使ったせい世界に引き込まれることに対する抵抗力が下がってきている気がします。
村へ近づいてくると、懐かしさのためか自然とほほに流れだしたもののせいか見る世界すべてが輝き美しく感じます。
ああ、本当に懐かしいです。懐かしの小神殿も輝いて見えますし、街道が整備されていたり、新しい家が建ったりいろいろ景観は変わっていますが間違いなく私がいた村です。
これなら、村なんて呼ばずに町というべきかもしれませんが、私にとっては村のままです。
レッサー君が虹色に輝いていたせいか、注目を集めましたが既に仕事も終わりで
家の前に立ちノックしようとしますが...。なんで私は緊張しているのでしょうか。時間がないのに...。
なんだか家族に会うのが怖いのです。何を話していいか分からなくなりそうです。
私の気配を感じたのか、家の扉がいきなり勢いよく開きます。
「お父さんのわからずや!あいて」
勢いよく子供がぶつかって来ました。私の気配とか関係なかったようです。えっと、あはは、たぶんカミルだ。おっきくなったねぇ。
「まて、カミルまだ話が...。」
お父さんが出てきて私を見ると固まっています。
「えっとごめんなさい。どなたですか。こんな時間にお客様?」
やっぱりカミルなんだ。うわぁ。体が勝手に動いて抱きしめてしまいます。
「え、え、なに。ちょっと苦しいんだけど。」
カミルが何か文句を言っていますが私だって自分の体がいうことを聞かないんだから仕方がないよね。
「マインなのか。マインなんだな!」
「うん、ただいまお父さん。」
懐かしい声です。ええ、とっても。全てを包み込んで守ってくれるような聞くだけで安心できる声です。
「おおマイン!マイン!夢じゃないんだな。」
「お父さん、く、くるしい。」
お父さんは私にカミルごと抱きしめてきます。ああ、懐かしいな。昔は良く私が不安になるとこうして抱きしめてくれていたな。
「え、今マインって聞こえたけど。ってマイン!マインなの。戻ってきたの!」
「マイン、本当に無事でよかったわ。行方不明になったって聞いていたから。」
トゥーリ、お母さん。あはは、懐かしい。うれしいな。例え最後だとしても。
「みんなただいま!マインは帰ってきました。」
お父さんの大声を聞きつけたのか、村のみんなが集まってきました。
「おお、巫女姫様じゃ。何とも神々しいお姿になられて。」
長老衆の方々も懐かしいです。今でも作っている薬の原点はここですし、ここでの知識はとっても役に立ちました。
「そうだ、なんか体が透けてきているように見えるけど大丈夫なのか。」
ルッツ...意外と冷静だね。残念だけど大丈夫じゃないんだよ。
「ええ、皆様がせっかくお集まりいただいたのですがお伝えしないといけないことがあります。」
私が少し体に力を込めて丁寧に言うとあれだけ騒がしかった周りのみんなが静かになります。やっぱり神の魔力が影響してしまっているのかな。
「実はあまり時間が残されてないの。今でも気を抜けば、天からお呼びが来そうな状態なの。」
「なんだと、せっかく帰ってこれたというのに、どういうことだ!」
お父さん、怒ってくれてありがとう。でもね。無理なものは無理なんだよ。
「実は神様の眷属になっちゃってね。村のみんな、小神殿で私のこと見送ってくれる。心配しなくても大丈夫。いつかまた戻ってこられると思うから。」
「皆の者、巫女姫様の希望通りにするのじゃ。」
その後、当初は家族にだけお願いしようと思っていたけど、ずいぶんたくさんの人が小神殿に来てくれました。
この小神殿は相変わらずです。地下の隠し部屋に行ってみたい気もしますが、もうそんな力も時間も残されていません。
「みんなありがとう。こんなに思ってくれてマインは幸せでした。」
「ふざけるな!また帰ってくるんだろう。お父さんは許さんぞ。帰ってくるといいなさい!」
あはは、お父さんは相変わらずだ。
「ありがとう。みんなが戻ってこられると信じてくれればきっとまた戻ってこられるよ。だから信じてくれる。私のことを。」
「うん、戻ってくるって信じているよマイン。神様のことはよくわからないけど、行方不明から戻って来たんだから今回だって何とかなるよ。」
トゥーリありがとう。お母さんもお父さんを必死に止めながらも言ってくれます。
「信じているわよ。マイン。」
他のみんなも信じてくれるといってくれます。うれしいなぁ。まるで昔に戻ったみたいに落ち着きます。さっきまでわいていた胸の痛みがまるで溶けるように消えていきました。
胸の痛みが消えたせいで、気が抜けてしまったのか体が一気に世界に引き込まれていきます。
「マイン、信じるからな、必ず帰ってくると信じているからな!」
お父さん、ありがとう。
「また必ず帰ってくるからね。みんな私が戻ってこられることを信じて待っていてね!」
これにて本編は終了です。約3か月の長い間のお付き合い頂きありがとうございました。
作品のあとがきは、同日割烹にて更新する予定です。