この後は、安全を確認しレティーツィアを呼び戻し、とにかく現状把握です。
エーレンフェストが心配で手が付かないなどと言っていられる状況ではありません。
エーレンフェストからは、状況は分かった。こちらの心配はせずに任せておけという会話が魔術具に入ってそれっきりです。
仮にも私はアーレンスバッハの者なのに苦情一つ言わないどころか任せておけとはジルヴェスター様は男前ですね。
王族から説明要求が来ますが、最低限報告し現状が安定するまで待ってほしいとのことを伝えてあります。
「お姉様、ひどいお顔をしています。いい加減休んでくださいませ。」
薬を大量に飲んで頑張っているので、今気を緩めたらどうなるか。
「レティーツィアこそ休みなさい。あと少しで一息つけるのでそこまでやれば私も休みます。」
ここ毎日、村へ帰れなくなるという嫌な夢しか見ません。薬のせいだと思いたいですが、眠りたくありません。
幸い、残った者は一致団結して事態の収取に努めてくれています。
アーレンスバッハにいて、ここまで一致団結している状態は初めて見たかもしれません。
その後に、中央より騎士団が来てランツェナーヴェの責任者関係を連れて行かれます。
こちらも留める理由が出せないためお任せです。勝手に処分してしまうのが私にとってはいいことだとは分かってはいたのですができません。
エーレンフェストでも、戦いが終わったらしくほとんどの方が捕まったようです。
確認をしてもディートリンデ様はいないようなので捜索をお願いしています。
巻き込まれていないといいのですが。
その後、今回の経緯をできるだけまとめ、騎士団長を貴族院に送り説明しに行ってもらい、後でエーレンフェストと合わせて報告するという流れになりました。
祈念式に参加するのは不可能でした。
魔石で何とかなったというお礼の手紙が神殿一同から届きました。
孤児院の子達からの手紙もあり神殿にとても行きたくなりましたが城から離れられません。
その後、限界を迎えたのか何度か熱を出して倒れては復帰するということを繰り返しながらレティーツィアと何とかなるところまでには状況を戻せました。
ようやく状況が落ち着いたのでエーレンフェストと打ち合わせをして貴族院へ向かうことになりました。
ツェントに会う前にエーレンフェストとの最後の現状確認です。
一応連絡して、やり取りはしておりましたがやはり直接確認しないと齟齬が出てきます。
といっても、主なやり取りはレティーツィアがして、私は補足をしている状態ですが。
言い訳としてはレティーツィアの練習です。ジルヴェスター様は私達に同情的で立場を悪くする程酷いことはしないでしょう。
一応お姉様なのに頼りない...?もう今更ですね。
一通り確認が終わりお互い一息つきます。
「しかし、ローゼマインはすっかり、アーレンスバッハの者になったな。」
「あら、わたくしは元からアーレンスバッハの者ですわよ。変なことを言わないでくださいまし。」
まったく、レティーツィア達がいる場ではやめて欲しいものです。
「アウブエーレンフェスト、今お姉様にいなくなられてはアーレンスバッハは立ちいかなくなるので余計なことはしないでくださいね。」
いや、レティーツィアは...。まあ、もともとエーレンフェスト関連を疑っていたからね。
「どのみちわたくしのお姉様は他の領地には絶対に渡しませんけど...。」
え、もしかして逃げようとしている私に対する警告!?
ぼそりといい笑顔をジルヴェスター様に向けて言っているけど言っている内容が...。
「あの、レティーツィア。女性である以上アウブにならないとなれば他の領地へ行く場合もあるのですよ。」
「ええ、もちろん存じておりますよ。お姉様。」
お姉様もこれ以上余計なことを言わないでくださいねと言ったところでしょうか。私一応お姉様なのに...。
「ふ、姉妹の仲が良いようでいいではないか。では無駄話はこのくらいにして向かうとするか。」
「ええ、アウブエーレンフェスト。それでは向かいましょうか。」
レティーツィアが成長しすぎて怖いです。まだ貴族院にすら上がっていないのに、これだけ対応できるってて反則じゃない?
私が必要なくなる日も近そうだなと、義妹の成長に一抹の寂しさを覚えながらもうれしくも思います。
私は大したことをした記憶はないけど、一応教育係だったわけですからね。
さて、ツェントに連絡を入れ待っていると会議用の大フロアの方へ案内されます。
中に入ると、えっと、大中小ほとんどの領地の方が来ているようなのですがどういうこと?
ツェントだけでも負担なのにアウブ達まで来るなんて、もちろん事前に伝えられていません。
「さて、では今回の経緯の説明をお願いする。」
今回はどう見ても理由なく攻め入ったアーレンスバッハのせいなので、私たちが中心になって説明をしなければなりません。
いきなりこのような事態となってレティーツィアに任せるのは、いくらなんでも身が重いでしょう。少し震えて顔色が悪いように見えます。
「レティーツィア、大丈夫です。ここは、ほぼ全体に関わった当事者であるわたくしから説明します。足りない所があれば捕捉をお願いしますね。」
「いえ、お姉様その...。」
「いいのです。どのみちわたくしも話さなければならなかったのですから。」
どうせ王族はレティーツィアが連絡役として残っていたことは知っていますし、私から聞きたいでしょう。
話すのは好きではありませんが業務報告と思えば話すのに問題ありません。
そうは言っても話す内容はあまりないのですが。
アウブが倒れた所から、ランツェナーヴェの対応について、その後勝手にゲオルギーネ様が動いたということやアーレンスバッハの現状がどういう状態か等をかいつまんで話します。
もちろん国境門については話しません。何とか回避できないかな。
その後、レティーツィアが少し捕捉し、ジルヴェスター様も顛末を説明してくれます。
今回のエーレンフェスト側の話をまとめますと、なんともまぬけな話になってしまうのですが、エーレンフェストに侵入したゲオルギーネ様一行は最初にエーレンフェスト内のゲオルギーネ様の支持者を利用し内部で暴れさせます。
本人はというと混乱に乗じて神殿に侵入し、何かを探していたのか分かりませんがそこで魔王様にあっさり捕まってしまったとのことです。
魔王様の居城に攻め入るとか、命知らずですね。ウラノの世界でいうラスボスのいる魔王城に一人で攻め入るようなものです。
もちろんそれは表の話で、実際は既にエーレンフェストの神殿の鍵と私が盗まれた神殿の偽物の鍵をすり替えており、それで礎に侵入するつもりだったようです。
恐らくは、ジルヴェスター様も神殿の礎の秘密は知らないのでしょう。
フェルディナンドより伝えておけと言われたが何のことだとか言ってましたから。
あえて私に伝えてきたということは、魔王様に何かお詫びの品を贈らないと報復しますよってことじゃないよね。アーレンスバッハにそんな余裕はないですし勘弁してほしいものです。
その対応では落第だ。そちらの都合など知らん甘えるな。という声が聞こえてきそうです...。
さて、いろいろ頑張って説明しましたが聞かれたくない質問が飛んできます。
「さて、それでローゼマインよ。ランツェナーヴェの者より国境門が閉じられたと聞いたが、アーレンスバッハはどのようにして国境門を閉じたのか話してもらおう。」
うん、ランツェナーヴェの方々を連れて行かれた時点でその質問が来るのは想像していましたが...。
論より証拠。直接見せるしかないよね。
いやだ、見せたくないよ。見せたら間違いなく村が遠のくよ。と心の中の私が悲鳴をあげています。
でも嘘は付けないし。たまたまなんて言い訳は通じません。
だって、すでにランツェナーヴェの方々にも見られてしまいましたし。
「ローゼマイン、黙っていてはわからん。答えてもらうぞ。」
「わかりました、ツェント。」
はぁ、これからどうなるのだろう。現状を見ればすぐには取り込まれないと思うけど王族に取り込まれかねないよね。
『グルトリスハイト』
なんだと!本物なのか?とか周りがざわざわしています。
「ローゼマインが今唱えてシュタープを変化させたその本は失われてたグルトリスハイトなのか。答えてもらうぞ。」
以前にあったグルトリスハイトを盗んだなんていわれたら、下手したら処刑コースですね。
「こちらは、以前に存在していた王族のグルトリスハイトの大本となった本でございます。メスティオノーラの書により近いものです。」
なんだと、グルトリスハイトは王族以外取得できないはずだという声が聞こえてきますが知りません。
「わかった。ここからはローゼマイン個人と王族で話す。皆の者一旦ここで話を終わりとする。」
と、ツェントが言い終わるか終わらないところで...。
貴族院が揺れ傾くような地響きが鳴って、何かが崩れるような大きな音が鳴ります。
「何事だ!」
何かとんでもないことが起こっているようです。会議どころではなく、会議は即座に中止となり全員で会議室の外へ出ます。
窓から外を見ると貴族院の庭があったところに大きな真っ黒な穴が開き、至る所に地割れが起きていました。
しばらく、ここにいる全員は固まっていたように思います。
「あるじ いた」
「はやく じじさまのいたところへ」
シュバルツ達は自分から図書館を出られないように設定されているはずなのですが、なぜここにいるのでしょうか。
「きんきゅうじたい」
「はやく はやく」
この子たちは主の思考を読む機能があるので、今思ったことへの回答ということかな。
現実逃避気味にそんなどうでもいいことを考え思考の渦に浸っていると...。
やめてよ。痛いよ。だから無理やり引っ張らないで。
まったくこの魔術具達は。前回酷い目に遭わされたからちゃんと対策を練ったのです。
さあ、レッサー君達、出番です!シュバルツ達を止めて。
あれ、動かない。どうして!ウラノの世界の『えらー』ってなんで!?
気が付けば引っ張るのはやめてくれましたが、シュバルツ達に足と肩を拘束されシュバルツ達の頭の上に持ち上げられ運ばれています。
皆様、呆けていないで助けて!
というかシュバルツ達が速すぎます。目的地は...言うまでもありませんよね。
図書館に異様な状態で運ばれてきた私にソランジュ先生が驚いて、挨拶もできずに二階のメスティオノーラの像の前に運ばれます。
「あるじ さっさとさわる」
「じじさまのいたところへいく」
もっと嫌なことが起きそうなので行きたくありません。
こういう時はろくなことが起こらないと、ウラノの世界で言う『そうばがきまっている』のです。
「シュバルツ、ヴァイス、やめてくださる。わたくしは行きたくありません。」
「あるじ わがままいうな」
「さっさといく」
最後に自分から行くか、無理やり行かせるか選ばせてやるってことなのでしょうか。
なんでこの子達は、こんなに酷いことをするの。仕方がないので諦めてメスティオノーラの像に触れます。
いつも通り魔力を吸われて、別の所へ強制的に移動させられました。
明日、本編最終話です。